銀魂 SF時代劇の彼方者   作:時杜 境

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親父

「えいりあんVSやくざ」、という映画をご存知だろうか。

 タイトル通り、えいりあんとやくざが戦う話なのだが、その内容は至ってシンプル。

 「もの凄い数のえいりあんともの凄い数の丈アニキが戦う」――それだけだ。

 

 えいりあんとやくざで地球の存亡をかけた戦い。

 ……前世の世界では元ネタがあったりしたが、銀魂の世界では完全なるオリジナル作品扱い。

 主演俳優はアニメ通り「音南寺丈(おとなのじじょう)」。先述した丈アニキである。

 

 この映画公開と共に連想するイベントは、一つしかない。

 

 星海(うみ)坊主。

 第一級危険生物を追い、駆除する宇宙の掃除人であり最強のえいりあんばすたー。

 ……さらに銀魂のヒロイン、神楽ちゃんの実の父親でもある人物だ。

 

 

 *

 

 

 腹筋崩壊、目からジャスタウェイ。

 なにこれカオス、な映画であった。前世じゃ到底見られない。

 見ましたとも。ええ、最初から最後まできちんと見ましたとも。

 

 後ろからグスグス聞こえるのは鬼の副長と真選組十番隊隊長・原田右之助のものだろう。

 分かる、映画を見た今なら分かりますよその気持ち……!

 

 

 チケットもパンフも買ったおかげで財布の中も小銭のみになってしまい、仕方なく銀行へ向かうことにした。一定額を財布に入れてないとなんだか落ち着かない。

 

 ――しかし、建物内に入った瞬間、私の耳に入ったのは銀行員の悲鳴。

 

 視界に映ったのは目の周囲にクマのような黒いアザがある坊さんらしき人と人質として掴まった銀行員。それを見るや否や一斉に出口から逃げ出す客達。

 

「うわ……ととっ」

 

 人混みに紛れて室内の隅へ移動する。丁度、私と神楽ちゃんで犯人を挟み撃ちにできる形だが、未だ神楽ちゃんは私に気付いていないのか坊さんの方を凝視したまま。

 ……よくよく見るとそこら中に米が散らかっている。詐欺の振り込めを「振り米」と勘違い……だったか。あの子らしいっちゃらしいがどんな勘違いだよ。

 

 店の奥には怯えた銀行員さん達。

 犯人のすぐ手元には人質。

 当の犯人は入り口の方へ向かい、扉に手をつけ外の様子を伺っている……ように見えるが意識はないのかもしれない。

 

 外へ目を向けると大勢の人影が見えた。

 警察、メディア、野次馬……いずれ銀さんと新八も来るだろう。

 さて、それまでどうするか。

 

「ほあちゃァァァ!!」

 

 そのとき、神楽ちゃんが犯人を蹴り飛ばし、人質が解放される。

 が、その瞬間に犯人の口から何やらでろでろとしたものが吐き出された――否、出てきている(・・・・・・)のか。

 

 第一級危険生物・寄生型えいりあん。確かそんな名称で呼ばれていた気がする。

 

 でろでろとしたモノ、というかえいりあんの本体に掴まり、もがく神楽ちゃん。

 流石に目の前にいる化物と苦しむ知人を放っておけるほど私は第三者を演じるつもりはない――ので。

 

「えいりあんがなんぼのもんじゃーい!」

 

 腰にあった妖刀を抜くと、神楽ちゃんに巻きついているえいりあんを映画の台詞と共にばっさりいく。割となんでも斬れるこの妖刀、とても使い心地がいい。

 

「ソラ!? なんでここに――グハッ!?」

 

 えいりあんから解放され、床に尻餅をついていた神楽ちゃんを入り口方面へと蹴り飛ばす。

 するとそのとき、丁度自動ドアが開いた。

 

「どぅわ!?」

 

「うぇっ!?」

 

 見慣れた銀髪の侍と眼鏡の助手にクリーンヒット。うまくクッションになってくれてなによりだ。

 しかし建物内の状況を見た瞬間、外の人影達は一斉に走り去っていく。当たり前か。

 だがえいりあんがまだでろでろしているところからすると、まだ完全に倒せたわけじゃないらしい。やっぱりここは専門家さんに任せる他ないか……

 

「ソラッ!」

 

 思い切り蹴飛ばし、戦線から離脱させてやったのにも関わらず、神楽ちゃんが加勢しようとこちらに近寄る。人の親切を無駄にするもんじゃないってーのに。

 

 

「おっ、いたいた」

 

 

 声のした入り口付近には、いつの間にいたのか茶色いマントを身にまとった人影。

 すると次の瞬間、持っていた傘が剛速で投擲される。

 一瞬にして奥の方まで吹っ飛ばされるえいりあん。轟音と共に壁へ突き刺され、ピクリとも動かないところから完全に仕留めたことが分かる。

 

「さがしたぞ、神楽」

 

 しばしの間の後。

 

「……パピー?」

 

『ぱ、』

 

 ぱぴィィィィ!? という銀さんと新八の驚愕した声が銀行内に響き渡った。

 

 

 *

 

 

「ウスラー、紹介するネ。このダメそうで全然ダメじゃない大人はソラっていうアル。お前も見習えヨー」

 

 ひとまず銀行から出て、さらに外で待ち構えていた真選組をもスルーし、ファミレスへと来た次第である。

 私の席のテーブルには星海坊主さん奢りのチョコレートパフェ。

 銀行から引き出しそびれたので未だ財布には小銭しかない。後でもう一度行かなくては。

 

「ほー、神楽ちゃんの友達か? なかなかカワイイじゃねーの」

 

「カワイイというよりカッコイイアル。クールな上に金もあるカッケー大人ネ」

 

 結局金なのか。

 褒められるのは嫌いじゃないが、基準がお金である点が何ともいえない。

 

「随分稼いでるらしいですねェ。ご職業は一体何を?」

 

「ただの用心棒ですよ。報酬さえ払ってくれれば仕事は引き受けます。客はこっちで選ぶことの方が多いですが」

 

「この時世に用心棒ォ? 若いのに無茶するもんじゃねーよ?」

 

 ……それ、さっちゃんにも言われたな。

 生憎と始めたきっかけは覚えていないのでこれに関しては返しようがないのだけど。

 

「元々は万事屋にとって都合のいい金ヅルだったアル。けど今はもうすっかり友達――」

 

「誰が友達だ。ふざけたこと抜かしてんじゃねーぞクソガキ」

 

「まぁまぁ照れんじゃねーヨ。素直になれ素直にィー」

 

 にやにやしてくる神楽ちゃん。軽く殴りたい。

 しかし子供相手に、さらに実の親と保護者が揃っているので、その場は思い切り深い溜め息で気を紛らわせておいた。

 

「あの……神楽ちゃん、そろそろ僕達も紹介してほしいんだけど……」

 

 おそるおそる、というか慎重な風に手を挙げ、意見したのは私の隣に座っている新八。

 そういや私が最初に紹介されたんだっけ。会話の区切りもついたし、そろそろ筋書き(げんさく)通りに事を進めるとしよう。

 

「こっちのダメな眼鏡が新八で、こっちのダメなモジャモジャが銀ちゃんアル。私が地球で面倒見てやってる連中ネ。ウスラー、挨拶するヨロシ」

 

 ダメって何? と呟く男二人の言葉は無視。

 一方、星海坊主さんの反応は私のときと違い、なぜか喧嘩腰になっていた。相手が男か女かで変わるモンだったのか。

 

 ――夜兎の力を悪用しようとする者はごまんといる。星海坊主さんが心配しているのはその点だ。

 しかし言い方が癪に障ったのか、銀さんも挑発的である。

 ま、筋書き通りの展開なのて別に深くは追求しない。

 

「――とにかく、テメーのような奴にウチの娘は任せてられねェ。神楽ちゃんは俺がつれて帰るからな!!」

 

「な――に、勝手に決めてんだァァ!!」

 

 そこで、星海坊主さんを銀さんごと蹴飛ばす神楽ちゃん。

 隣に座っていた新八は慌てて銀さんの元へ駆け寄るが、私はひたすら、黙々とチョコパフェを食す。他人の金で食うものほど美味いものはない。

 

『ほぁちゃああああ!!』

 

 ……と、口論の末に神楽ちゃんと星海坊主さんがファミレスの窓をブチ破って外に飛び出した。

 喧嘩すんならせめて周りを見てだな……あーあ、一体誰が修理費出すのやら。

 

「暴れてんなー、夜兎親子」

 

「言ってる場合ですか! 銀さん、ちょ、どうすんですかアレ!!」

 

「どうするっつったって……」

 

 面倒くさそうに頭をガリガリとかく銀さん。

 しかし一つ溜め息をつくと新八に「俺がなんとかしとくから先に帰ってろ」という内容の言葉を告げる。

 

「テメーはまだチョコパフェ食ってるつもりか?」

 

 尋ねる銀さんに「いいや」と返し、最後の一口を食べ終わる。

 おかわりをしようにも、今の財布に入っているのは小銭だけ。星海坊主さんが払ってくれた分はパフェ一つ。

 

「私は帰るよ。親子喧嘩に首突っ込むなんざ野暮だろ」

 

 席を立つ。

 新八の前を通り過ぎ、銀さんの横を通り過ぎ、何事もなかったかのようにファミレスを後にする。

 

 

 銀行強盗、星海坊主さんとの顔合わせ。

 介入はしたが、明日の「VS第一級危険生物」なんて生き抜けられる気がしない。

 もっとヤバイなのは「松っちゃん砲」だ。守りが傘一本とか現実的に考えて怖すぎる。

 

 いや、そもそもにおいて本来この問題に関わるべきなのは万事屋チームだけ。

 神楽ちゃんに友達呼ばわりされようと、部外者である私にできることは何一つとしてないだろう。

 

 

 *

 

 

 戦線離脱を決めた翌日、私は現金の引き出しに向かっていた。

 もちろん昨日の銀行は修繕工事が行われていたので、コンビニに設置されていたATMから引き出すことになったのだが。

 

 本題はここから。

 無事に何事もなく一定額を財布に入れ、町をぶらぶらしていたときのことだ。

 

 

「ソラさん! 丁度良かった、神楽ちゃんがお父さんと帰っちゃうらしいんです!!」

 

 

 ダメガネこと、新八が現れた。

 

 ちょっと待て。なんでここで会う?

 まさか今、万事屋抜け出してきたところか!?

 

「そ、そうなんだ。それは……残念だったね」

 

 心にも思っていない励ましの言葉をかける。

 どうせ明日になれば普通に万事屋の一員としているだろう。私の介入なんて必要ない。

 

「神楽ちゃんのトコ行きますよ! 早く!!」

 

「え? 何で!?」

 

「何でじゃありませんよ、貴方神楽ちゃんがいなくなってもいいってんですか!?」

 

「いや、あの……」

 

 ――心の内にて、私は叫ぶ。

 神楽ちゃんはちゃんとこれからも銀魂のヒロインやってくよ!

 別に私が行かなくても神楽ちゃん地球(こっち)に残るし!

 ターミナルに行ったとしても砲撃くらいたくないし、えいりあんと戦うとかまず面倒だし、何より死にたくないしィィ!!

 

 などという、結果だけ知る全能もどきの心境なぞ知るわけもなく。

 ほら早く! とぐいぐい腕を引っ張る新八。この男、一回キレるとすごい行動力を発揮する。シリアスな話の局面において、彼のような存在は欠かせないだろう。

 

 ……ということは、今はその存在の特性が私に向けられてるってことか。

 こりゃもう戦線離脱は諦める他ないかぁ……

 

 

 かくして私は「この世界のキャラはホントに人の話聞かねーな!」と心の内で絶叫しながら、引きずられるような形でターミナルへ行くことになったのだった。

 ……やはり、彼はあのお妙さんの弟だ。

 

 

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