繋ぎ的な回と思ってください。
【世界移動】
無人世界カルナージ、一年を通して温暖な大自然の恵み豊かな世界。
そこが毎回合宿として行っている場所だ。
そしてカルナージへ行くには首都であるクラナガンから臨行次元船で約4時間を要する。
4時間というところから遠いイメージを持つかもしれない。
だが、これでも距離としてはかなり近い方であり、遠いところでは24時間を越える世界もあるのだ。
――――が、しかし……
それでも4時間というのも長い時間であるのに違いはないわけである。
まぁ、つまり何が言いたいかというと……
「暇だ……」
次元船が出てから1時間、既にデッキを弄るのも終わって何もやることがないのだ。
これなら本でも持ってくるべきだったと今更ながらに後悔している。
「遊砂さんもやります?デュエルモンスターズしりとり」
「いや、いい……」
前の席に座るヴィヴィオが誘ってきたが、俺は首を横に振って断る。
デュエルモンスターズでしりとりは確かにできるだろうが、カード名に詳しくないとかなり厳しいものがあるんじゃないだろうか……
「ん……?」
不意に思考にモヤがかかったように頭が働かなくなってくる。
それに合わせて意識も徐々に遠退いていき、俺の意識はなくなった。
「キュルルルルゥゥ……」
「う……」
小さな鳴き声と共に俺の顔を何か湿ったものが触れる。
ゆっくりと目を開くと目の前には紫が広がっていた。
「…………スターヴ?」
「キュルンッ♪」
目の前の紫、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》は俺の呼び掛けに嬉しそうに体を擦り寄せてきた。
見た目は少々怖いかもしれないが、スターヴはかなりの甘えん坊で、実体化させたりすると必ず擦り寄ってくるのだ。
「スターヴがいるってことは……」
周囲の景色を確認しながらスターヴの体を撫でる。
いま俺がいるのはデュエルモンスターズの精霊達の住んでいる世界で、その中でも悪魔族たちが特に多く住んでいる魔界と呼ばれるエリアだ。
「おお、主様よ。来てくれたか」
振り向くと一人の少女、《邪神アバター》が嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「アバターか。何かあったのか?」
「むー……。まぁ、あったと言えばあったのう」
俺の問いにアバターは視線を反らしながら答える。
アバターの視線を辿ると、そこには何体かのモンスターの姿があった。
どのモンスターも見覚えは一切ない。
「あれは?」
「主様を呼んだのはその事なんじゃよ」
言いながらアバターはモンスター達の元へと歩き始めた。
「ん?あの翼は……」
「気づいたかの……」
近づくにつれて最初に目についたのは、悪魔族とは違ったその翼。
更に目につくのは頭上に光る赤い輪だ。
「天使族……?」
天使族、彼らは常に天界と呼ばれる光の溢れる空中の都市に住んでおり、その姿は彼らに選ばれた人間にしか見ることはできない。
そんな存在であるはずの彼らが何故かこの場にいた。
「そうなんじゃ。まぁ、厳密に言うなら堕ちた天使、【堕天使】じゃな」
俺の疑問にアバターはため息を吐きながら答える。
「どうやら何か禁忌を犯したらしく、天界から追放されたようなんじゃ」
「それで拾ってきた、と?」
音のならない口笛を吹きながらアバターは目を反らす。
どうやら彼らを連れてきたのはアバターで間違いないらしい。
「はぁ……。まぁ、いい。で?」
「うむ。何かを企んではいるようじゃが気にするほどではないと思うぞ。全員の力を合わせても
頷きながらアバターは腕を組む。
しかし、やはり彼らは何かを企んでいたらしい。
過去にも天使族が来て、攻撃などを計画していたことがあったために俺たちは警戒を決して怠らない。
とは言っても、アバター、ドレッド・ルート、イレイザーの3人が自発的に動いてくれるので、俺は何もやることはないのだが。
「なら俺から言うことはないな。あいつらはお前らのデッキに組み込むことにしよう」
「それなら溶撃は抜いてもよいのではないかのう。あ奴等は特殊召喚が容易な者たちじゃからな」
アバターの言う溶撃とは《帝王の溶撃》のことであり、アドバンス召喚以外の方法で召喚されたモンスターの効果を無効にするカードのことだ。
確かに天使族には特殊召喚がしやすいカードが多く存在している。
特殊召喚がしやすいのであれば溶撃の効果はむしろ邪魔になるし、抜くのであれば溶撃の発動条件であるエクストラデッキ0枚も気にしなくてよい。
堕天使たちのレベルがいくつかはまだ分からないが、同じレベルがいるならエクシーズを入れてもいいだろう。
「あとでカードを送ってくれ。そろそろ向こうはカルナージに着くだろうし」
「分かったのじゃ。まぁ、調整のためにまた会うしの」
「クリー」という鳴き声と共に複数回の爆発音が辺りに響き渡る。
この音はクリボー時計と言って、魔界における時間を知る唯一のものである。
仕組みは至ってシンプルで、1時間毎に《クリボー》が1匹増えていき、最大12匹爆発するというものだ。
ちなみに午前の場合は「クリー」と鳴き、午後の場合は「クリクリー」と鳴く。
なお、このクリボー時計は《クリボー》達が自発的に行っているものであり、虐待などではないことを記しておく。
空で爆発する《クリボー》達の時計を聞きながら俺は意識を戻していった。
読了ありがとうございました。
やっぱり短いですよね。
次は遊砂の身の上話に持って……行けたらいいなぁ。