土器については、なにも知らない。
土器については、なにも知らない。
おれは土器掘りの達人だと自認している。
二年前に発掘され、いまや教科書にすら載っている、縄文時代の人びとが使っていたとされている現代のぷっちんプリンと酷似した仕組みをもつ、あの、奇妙な茶碗型の土器は、おれが発掘したのではないが、おれは近いうちにそのような画期的な土器を掘り出せるような予感がしてならない。
なにせ、おれは土器掘りの達人なんだから、きっと成し遂げられるに違いないのだ。
ああ、実は、おれは土器掘りの達人なんかじゃなかったんだ!!
おれは現実に土器を掘りあてたことは、一度もなかった。というのは、おれが土器を掘りあてたという記録がまるでなかったからだ。おれは、一度も土器を掘りあてていない!すべては夢だったのだ!だから、おれは土器掘り達人の看板を下ろさなくてはならないわけだ!
いや、なにもそれだけではない。
おれがこれまで土器掘りにおもむくと、いつのまにやら、おれの横には謎の女の子がいた。
そうだ、この女の子がわるいのだ!!
女の子は、いつもおれの横に体育座りをして、おれとの距離は三十センチもなかったはずだから、よく女の子の体に、おれが掻き出す土やら、たまにはスコップの刃の鋭角の部分やらがぶちあたったりしたものだ。
女の子はニヤニヤして、口もとをおさえながら、えっさこら頑張るおれを見上げていたのだが、おれは、それはずっとおれの体臭がくさいからそうしているんだと思っていて、実のところおれは多汗症で、またワキガときたものだから、女の子のそういう所作はうなづけたのだったが、じゃあ何故くさいおれの横、しかも彼我の距離が三十センチたらずの位置にいるんだ、ということが腑に落ちなかったが、おれは土器掘りに一意専心していたので問いただしはしなかった。
今日、女の子はどうやら風邪気味のようで、ひんぱんに咳をしていた。おれは、例のようにこの野郎はやく消えてくれないかなァ、と思いながら、でも土器掘りに専念していたから、女の子のことは路傍の空き缶のように無視していた。
おれは、今日は土器を掘り当てられるだろうという、予感があった。
ちなみにいい忘れていたが、この女の子にもいちおう役目はあるのだった。役目は、おれが掘りあてた土器を土のなかから引きあげ、役所に持っていき、土器発見の報告をして記録を書いて、役所の地下に持っていくといった完璧な雑用である。まあそれでも女の子はその雑用をいままで嬉々としてこなしており、褒美におれはチュッパチャップス二個と、セブンイレブンのチーズケーキをあげたりしていた。
だから、おれは、おれが掘り出した土器をお目にかけたことはないのだ。
スコップが土器を突いた感触、というよりは音が鳴れば、土器の全容はまだ分からないのだが、おれはそそくさと帰途についていたのだ。
「おい、じゃあ、土器をたのんだぞ、壊したりしたら、二度と体育座りをできなくしてやるぞ。もう、体育の授業を見学できない体になったらてめえもたまらんだろ、じゃあな!」
土器はだいたいスコップが突くと、これまで同じような音がしていたものだが、今日にかぎって音はなにやらかすれていたので、おれは、おや?と思った。しかも死にかけのキツネの鳴き声も入っているから、いよいよおれの疑念はつのるのだ。
女の子はたまに、おれが掘った土器は土器じゃなくヤカンとかコイルとかだったと言ってきて、おれは落胆したものだったが、今回はそういうゴミともなんだか違うようだ。なにより土器的な感じがしないのだ。
で、おれは、さして疲れていなかったが、疲れているのだと思い、しばらく休憩することにして、車に戻ろうとした。そのとき、女の子の姿が目にはいった。で、おれは愕然としたんだ。
女の子はいつもは口もとをおさえているのだったが、このときは口もとから数センチのところに拳があり、いわゆる咳き込む準備をしていた。その証拠に顔もしかめている。しかし、おれが目を見張ったのは、そんなことじゃないんだ。
女の子はこころもち唇をすぼめて、カキーン、カキーン、と言っていた。
カキーンカキーンカキーンカっこッホキィーン……
あの音だ……。
女の子はこちらを見た。常ならず、その表情は凍りついていた。
おれは悲鳴をあげて、スコップで自殺しようとした。
『エピローグ』
おれはいま思い返せば、女の子があらわれる以前は、ぜんぜん収穫がなかった。そのことにおれは気がつかなくて、さらには、おれは土器のスコップが突いて鳴る音だけに気をうばわれ、肝心の土器自体の感触にはいっさい気をくばらなかったのだ。
そういえば、おれは土器自体の感触は知らない。だから硬い土を土器だと誤認してもなんらおかしくはないというわけだ……
…………………
女の子はあれからもおれの横にあらわれる。
おれは、今度は昆虫採集をはじめたのだ。
今度はだまされないぞ。
いや、それより、あっちに、いけ。
虫取アミが、眼をつらぬいても知らないぞ。