「おはよう……うぅ~ん……朝……ん~」
朝8時2分。
眠る簪の名前を呼びながら軽く揺すること3回。ようやく目を覚ました。
しかし、意識が起きただけで目は閉じたまま。このまま二度寝してしまいそうだ。起きてくれ。簪が楽しみにしてる日曜朝の時間がやってくる。
「分かってる……んー……」
簪がふらふらと手を伸ばしてきてた。
抱き上げろのポーズ。
用意した朝ごはんのこともある。仕方ない。どっこいしょの勢いで抱き上げた。
「洗面台までお願いします……あ、眼鏡忘れないで」
枕元の眼鏡をかけてやり、タクシーの如く運んでやる。
寝室と洗面所までの道は若干冷える。
大分前から起きている俺でこうなのだから、起きて布団を抜け出したばかりは尚更だろう。
「冷えるね……あなたの体温高くてよかった」
人の身体で暖を取る始末。
身体を預けるように密着してきた分、腕に感じる体重が増したような。
「失礼な……っと、着いた。ありがとう」
洗面所に着いて簪を降ろす。
ここも冷える。
サクッと身支度済ませて、リビングに来るように。
「ん~……」
背中で簪の生返事を聞きながら、一足先にリビングへ。
簪が来るまでの間に用意した朝食を食卓。今日からはこたつの上に並べる。
これでよし。
「さむ……こたつこたつ」
丁度簪がリビングに入ってきた。
やってくるなり、こたつへと駆けこむ。
簪も来たことだし、食べるか。
「ん……いただきます。今日はピザトースだ」
時間に余裕のある日曜の朝は少し手間のかかったものになることが多い。
今日のも結構、自信作だ。今自分で食べても美味い。
「美味しい……でも、これ少しって手間じゃないよね。早起きもいいけど、お休みなんだからゆっくり寝てればいいのに。身体壊さないでね」
それは肝に銘じている。
かく言う簪は日曜日の朝でこそ、見たいテレビがあるから早めに起きるがそうでない休日は予定がないと朝遅くまで寝ている。
「眠いんだもん……はむはむ」
のそのそとパンをかじる簪。確かに今も眠そうだ。
身支度した程度では眠気を完全に拭うことはできなかったらしい。
朝ごはんの片手間では8時30分過ぎて変身ヒロインものの女児向けアニメがやっていた。
「ふぅふぅ……」
パンを3口ほど小さく食べたところで簪は飲み物を手に取った。
ホットココアはまだ湯気立ち、簪は冷ましてから口をつける。
「あちゅ……ん、ん、はぁ……」
まだまだ熱かったようだが、飲めない熱さではないようで飲むと一息ついてほっこり顔の簪。
また目が眠そうに蕩けてきた。けれど、視線はテレビに釘付け。それにお楽しみへと近づくにつれて簪はシャッキリしてくる。
「あ……っと、そろそろ……ごちそうさまでしたっ」
最後、一口サイズになったパンを口の中へと放り込むと簪は完全に見る体勢に入る。
『スーパーヒーロータイム!』
「始まった」
9時、2作品連続で特撮番組が始まる時間。
毎週この為に簪は起きる。
前日どれだけ大変でもリアルタイム視聴。まあ、俺が起こすのだけど。
「……!」
タブレット、スマホ完備。
今日もSNSで実況しながら見るようだ。
視線は画面に向いているが、手元では高速入力が行われてる。
これで誤入力が基本ないのだから、いつ見ても凄い器用だ。
まるで別々の生き物のよう。
そんな簪の様子を横目に一緒になって見る。
簪ほど真剣に見るわけではないが、変身ヒロインものの女児向けアニメもだけどさっきの何だかんだ毎週欠かさず見ている。
もうすっかり日曜朝のルーティンと化しているな。
「終わった……んー……あぁぁ……っ」
10時になって一連の番組が終わり、一時間ものの映画を見終えた後のように簪はぐっと硬くなった身体を伸ばす。
出た声がちょっと色っぽかった。
「さてと……」
二人一緒にこたつから出た。
番組が終わった後は見るものはなく、次のルーティンへと移る。
俺は台所へ皿洗いに、簪は洗い場からベランダの方へ洗濯物を干しに行った。
何か合図があるわけでもなく、各々の役割を果たす。
俺は簡単なものだ。軽く流したり洗ったりして、食器洗い機に入れる。
その後はこたつの上や台所を綺麗にしつつ、自分の部屋からモノを取ってきたり、ココアを入れながら簪が戻ってくるのを待つ。
「さむ……こたつこたつ」
聞き覚えのある言葉と共に簪が登場。
こたつへと駆けこむさまは見覚えがあった。
「あっ、と……ありがとう。ふぅ……落ち着く」
差し出したココアを飲んで一息。
さて、これからどうするか。この後、これといった予定はない。
「お買い物も昨日のうちに済ませちゃったからね……」
昨日のうちに食材関係の買い物は済ませてしまった。
わざわざ買い物に出かける必要はない。
「出かけなくていい……洗濯物干してる時に外見たけど、風強めだった」
この時期の風は冷たい。
尚且つ風が強いとのことだから、外出は大変そうだ。
「お休みなんだからゆっくりしてくのが賢い」
それはそうだ。
かく言う簪は、もうすっかりゆっくりする体勢。
寝転がって深くまでこたつに籠って、座布団を二つ折りにして枕代わりにしながらタブレットを弄ってる。
これはどう見ても出る気は……。
「ない……今日はこのままこたつと一緒になる……むしろ、一生一緒がいい……」
とんでも発言だな。
まあ、言いたくなる気持ちは分かる。
「でしょ……あなただってこたつから出ないわけだしね」
折角、昨日こたつを出したのだから使わないのは勿体ないだろ。
「ふふっ……そういうことにしといてあげる」
そういうことにしといてほしい。
自分の部屋から持ってきたノートPCのこたつの上で開いて、共に同じ時間を過ごす。
こたつの吸引力というか、魔力は凄い。
立ち上がったりはするもののその度にこたつへと引き寄せられて、こたつに戻る。こたつは恐ろしい。
そうしていると11時、12時、昼の1時と時間は過ぎいった。
「ん~……」
呻きだす簪。
身体を伸ばして、腹が空きでもしたか。
「んー……何か食べておきたいけど、こたつから出たくない」
相変わらずのようだ。
俺も腹が空いた。
しかし、よくないことではあるが今から何か作るのはちょっと面倒だ。食べに出かけるのも右に同じ。
「でしょ……だったら」
簪の言いたいことは分かった。
こたつから出て、湯を入れたあるものを持ってきた。
「面倒な時はこれこれ」
これとは3分で出来るカップ麺のこと。
これなら作る手間もないし、カップ麺も捨てるだけだから後片付けは簡単だ。
面倒な時はつい頼りがちになってしまう。
「いいの……楽できるところは楽しないと。3分経ったよね……いただきます」
カップ麺を食べ始める簪。
美味しそうに食べてはいるが、これといったリアクションはない。
簪が初めてカップ麺を食べた頃は最早遠い過去。
「や、実際遠い過去でしょ……おじいちゃんみたい」
懐かしんでいたら茶化されてしまった。
印象的な思い出だったから懐かしみたくもなる。
おじいちゃんには優しくしてほしい。
「してる。というか、おじいちゃんでいいんだ。ファンキーなおじいちゃん……そんな濃いの食べて。ワカメの好きだね」
食べているのはわかめとゴマの醤油ラーメン。
カップ麺を食べるは大体これ。
そう言う簪だっていつもと同じのを食べている。カップ麺のヌードルタイプ、その塩味。
麺のタイプこそは変われど、味はいつも大体これ。あの時のまま。
「ふぅふぅ……はふ、はふ……」
ずるずる、つるつると麺をすすり、静かにカップ麺を食べる。
思ったよりも腹が空いていたようだ。俺は一足先に食べ終えた。
簪はまだ食べている。もう半分ぐらいか。
ゆっくりと減っていく麺が穏やかな時間の流れのようで何というか。
「わっ……大きな欠伸……食べてすぐ眠くなるなんておじいちゃんの次はあかんちゃん、かな」
いい感じに腹が満たされ、時間は昼の2時4分。
眠くなる時間だろ。
窓から入るぽかぽか陽気が眠気に拍車をかけてきてる。
「じゃあ、ご飯の後はお昼寝だね……ごちそうさまでした」
ぽんと手を合わせながら簪はそう言う。
昼寝……選択肢としてはありだろう。だが、いいのか。食べてすぐ寝るなんて。
「いいの……よいしょ、じゃあ」
俺の食べたのまで台所で捨ててきてくれた簪がこたつに入るとまた横になる。
本当に寝る気か。待ってほしい。
こたつで寝たら風邪をひきかねない。小言臭くなるが、そういうところから気をつけなければ。
「それはそうだね……」
納得してくれた。
かと思ったが、身体を起こしてこちらの腕を掴んで立ち上がろうとする。
一体何を。
「何って……お昼寝に。一人だと人肌恋しいでしょ……はい、立って立って」
言われるがまま、立つと手を引かれてリビングから連れ出される。
で、連れて行かれた先は言うまでもなく寝室。
理由もまた言わずもがな。
「ほら」
先にベッドへと上がった簪が空いた隣をポンポンと叩く。
ここまできたら、選ぶべき選択は一つ。
何も予定のない休日なんだ。少しぐらいならいいか。
「布団の中、冷たい」
簪の隣に入ると足元がひんやり。
こたつが温かかった余計に冷たく感じる。
昼寝していれば温かくはなるだろうが、昼でこの冷たさ。夜はもっと寒くなりそうな感じがする。
「湯たんぽとかあるといい感じになりそう……」
むにゃむにゃとした声で言う簪は目を閉じて後は寝るのみといった状態。
目覚ましは……いいか。
今は2時15分。15分ほど昼寝して、2時半には起きれるはず。遅くてもその10分後には。
「そんなの気にせず寝たいだけ寝ればいいのに……私はそうする」
それでいいのか、日本代表。
この時、俺はいろいろと甘く見ていた。
満腹から来る満たされた感じ、昼の眠気と空気、布団の気持ちよさ、そして簪と昼寝するという人肌の温かさ。
1時間、2時間、3時間、と眠ってしまい起きた時は5時47分。途中起きた記憶がないから見事なまでの爆睡だった。
昼寝する前明るかった部屋はすっかり真っ暗。寒い。
それに簪の姿もない。これだけ爆睡してたら、先に起きているのが当たり前か。
スマホを持ってベッドから抜け出し、リビングへと向かう。
「あっ……起きたんだ、おはよう」
挨拶を返しながら、状況を把握する。
エプロンをつけた簪はもう夜ご飯の準備を始めていた。
この様子なら随分前から起きているか。起こしてくれればよかったものを。
「あんな気持ちよさそうに寝てたら起こすの気が引ける。起きたのは5時頃だけど寝顔眺めてたら時間潰しちゃってリビング来たの今さっきだから気にしないで。それにより、洗濯物直すのとお風呂洗って沸かしてきて」
途中、凄いことを言われたような。
とりあえず、言われたことを済ませる。
まず先に風呂を洗い沸かしている間に朝に簪が部屋干した洗濯物を取り込み、それぞれの場所になおす。
時間がかかるものではないから、済ませてリビングに戻る。
「ふんふんふ~ん、ふふふ~ん」
簪が鼻歌歌いながら料理をしている。
楽しそうだな。ちなみに鼻歌は今日の朝やってた特撮ライダーの主題歌。
手伝えることはなさそうだ。こたつの上綺麗にして、出来るまで大人しく待つか。
「ふふ~ん、ふんふふ~ん」
熱唱。機嫌いい。
うちのキッチンは対面式だから、いろいろと通る。
簪の鼻歌、トントンとリズミカルな包丁とまな板が当たる音、出来上がる料理の匂い、そして料理する簪の姿。これはお味噌汁の匂い……いい匂いず食欲をそそる。
休日毎週日曜の夜、簪が晩御飯を作ってくれている姿をぼんやり見てると一緒に生活している実感が無性に湧く。いいな。
「ん……? どうしたの、そんなじっと見て。出来たから、運んで」
呼ばれて出来た料理を運ぶ。
今日は……焼き鮭、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、豆腐と玉ねぎの味噌汁、そして白ご飯。
the日本食。簪が作るのは大体、日本食が多い。今日も美味しそうだ。
「お茶をここ置いとくね。よし……じゃあ、手を合わせて。いただきます」
二人一緒に手を合わせて言うと食べ始める。
焼き鮭におひたし。今夜も簪の飯は美味い。月並みの感想だがこれに尽きる。
「よかった。いい食べっぷりで嬉しい。だし巻き卵綺麗に巻けてるでしょう」
ドヤ顔で言うのに頷けるぐらい綺麗に巻けてる。
プロみたいだ。
「プロって……ふふっ、変な例え。でも、プロになるぐらい鍛えられてたからね。あれだけたくさんリクエストされたら」
簪手作りのだし巻き卵はよくリエクストする。
これだけ美味いものを用意されたらそりゃ何度も食べたくなる。
そういうものだろう。控えた方がいいなら控えるが。
「そこまでじゃないよ。そこまで好きでいてくれるのは嬉しい。これからも旦那様の為にプロの一品作らさせていただきます」
冗談めかしに言って簪は味噌汁をすする。
俺も一口。温かい汁で身体が温まって、ほっこり落ち着く。
傍らでは無人島を開拓したり、0円で食堂を開くバラエティー番組が簪との食卓を賑やかしてくれていた。
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、二人でそう言うと晩御飯は終わった。
米粒一つないほど綺麗に完食。
7時前からに食べ始めて、今は8時に近づこうとしている頃。
大体いつもこの時間になる。
この後は風呂だ。簪が先に入って、その間に洗い物とかをするのがいつもの流れ。
「今日お風呂、一緒に入らない?」
だが今夜は簪の提案もあって、二人で洗い物を済ませた後一緒に入ることに。
洗い合いっ子をしてから、向かい合いながら湯舟へと浸かる。
温かい湯が身体に浸透するようで、心地よさから濁音だらけの情けない声が出た。
「ふふ、凄い声。ふぅ……気持ちいい……」
ここでもまったりしてしまう。
間違ってはないが、何だか今日はまったりしてばかり。
朝起きてご飯を食べてゴロゴロして昼ご飯を食べて昼寝をして夕方起きて夜ご飯を食べて、今こうして二人でお風呂。
これはまったりと言っていいものか。思い返すと我ながら見事までにだらだらした一日を過ごした。
本当食べてばっかりだ。しかも、何もしてない時の方がおなかの空きがいい。
「分かる……不思議。逆に疲れてるとお腹は空く時は空くんだけど妙にお腹の空いた感じが鈍いがするというか」
分かる。その気持ちが強い。深く頷く。
全然お腹が空いてないは別として、その他はいつもと似たような時間に食べたほうがいい。体内リズムが崩れる。
「後々の時間に食べると時間が押した分、お腹めちゃくちゃ空いていつもより食べたくなっちゃうからね。そこでセーブするとその後また変にお腹空くし嫌な悪循環」
その通りだ。
そう思えば食べてばっかりではあるけど、いつもと似たような時間には食べていた。
「癖だよね、最早。普段からあなたがきっちり生活リズム整えてくれてるから 癖づいた」
俺だって簪に癖づけられたようなものだ。
「二人で暮らし始めて出来た癖だ。って……何の話してたんだったけ?」
今日一日のこと。ご飯の時間についてだが中身があるようでない話になってしまった。
まあ、たまにはこんな日もいいだろう。こんな話でも何だか楽しい。
「私も。ね……たまにはいいよね、こういうのも。これはこれで充実してるというか……ふふん」
それはそうだ。
時に簪は何故、仕切りに何度も繋いだ手を握る。
握られる度に湯舟が静かに波紋を描いた。
風呂の中でまた何とも不思議なことをする。
「いいでしょ……減るものでもないんだし。うん……ちゃんと暖まってる」
体温を確認されている。
合わさった手のひらは暖かく、簪もしっかり暖まっているのがこちらにも伝わってきた。身も心もあった。と言うことはこういう物なんだな。
「うん……」
そうして、まったり時間を過ごして風呂から上がったのは夜9時を過ぎた頃だった。
「いつもより長風呂になっちゃったね」
新しいパジャマに着替えた後、リビングでドライアーと櫛で髪を梳かしながらそう言う。
手を繋いだまま、とりとめのない話、今朝やっていた特撮番組について盛り上がったのが原因なのは明らか。
「いや、仕方ないでしょう。冬映画の予告来たんだから。突然あれは反則」
あれは突然だった。
1分半の間にあれこれ気になる映像を見せられたら、ついいろいろ考察してしまう。
「だよね。あの四人ってどのエンド後からなんだろう。やっぱり、テレビシリーズ……ワンチャン、どのエンドにも関係ないまったく別のパラレルという線も……」
風呂の熱気が冷めていくのに対して、簪の特撮熱は冷めることを知らない。
髪を梳かし終え頭にタオルを巻くと、考えを巡らせながら風呂上りのスキンケアまで始めている。
慣れた手つきで手は動いていて見慣れた光景だが。
「ん……どうかしたの? あなたもする?」
遠慮気味に断った。
そういうことで見ていたわけではない。
ただ相変わらず器用さに見とれていた。
「ほぼ毎日やってるから慣れかな、慣れ。後今は疲れてないから丁寧にやってるけどいつも結構、簡単にやっちゃってるし」
言われてみれば、いつもより丁寧にやってるような感じはする。
正直、いつもより時間かけてるなぐらいしか思えなかったけども。
こたつ机の上に並んだ化粧品達。
簡単にとは言え、ほぼ毎晩やってるの改めてすごいよな。
こうやって簪の綺麗なもちもち肌は保たれている。頑張りを感じる瞬間だ。
「ふふん、褒めても何も出ないよ。そういうあなたは明日の確認?」
ドヤ顔していた簪に頷く。
簪の傍で明日の予定を確認していた。
明日は月曜日。また一週間が始まる。国家代表選手である簪の日々は忙しく、それを支える俺もまた多忙の日々。
「明日って午前に倉持立ち合いで稼働データの簡易蒐集で午後から織斑コーチといつもの訓練だったけ」
あっている。間違ってない。
今週は数件ほど雑誌取材があり、戦術勉強会も数件、それ以外は訓練の予定。
「今週も大体、いつも通りだね。あ、私も明日の確認しよ」
朝、バタバタしたくないから時間に余裕のある今のうちに明日の確認や用意をしに自分の部屋に行こうとすると簪は続いて確認し始めた。
荷物の確認、必要な書類のチェックは簡単に済む。
用意はバッチリ。これで明日の朝、バタバタすることはないはずだ。
リビングに戻ると先に終えた簪はまたこたつに籠っていた。
「お帰りなさい……何かいつもより時間かかってたね」
こたつに籠ってタブレットを弄りながら疑問に思ったことを口に出す。
数分ほどで戻ってこれるのをいつもより少しオーバーして俺は戻ってきた。
寝室に湯たんぽの用意してから遅くなった。
「湯たんぽ……? ああ……お昼寝の時言ってたの覚えてくれてたんだ」
覚えているとも。
また体温奪われたらかなわないからな。
「そんなことしてたっけ……? まあ、外冷えたでしょう……早く身体温めて。冷たいの嫌」
とぼけているが、これはまた湯たんぽにするつもりだな。
まったく。
まあ、確かにリビングの外は冷えた。簪と左斜めのところに座ってこたつへと入った。
「そうそう、ツイスタ見てたら見かけたんだけど……ほら、ロランの投稿。篠ノ之さん写ってる。めっちゃいい顔してケーキ食べてる……ふふっ」
本当にいい顔してる。篠ノ之もこんな顔するんだな。
なんて簪とSNSを一緒に見たり。
「その理屈で言うと、変わった味するウニできそう。チョコ味とか……ん~あ、あのゲーム発売1週間で全世界600万本だって。凄い……」
ネットニュースについて話したりする寝るまでの時間。
日曜の夜に限らずいつもこんな感じ。
ちなみに簪は御三家選ぶなら3属性どれ選ぶんだろう。
「御三家って言うと炎、水、草の3タイプだよね……今作、どんなのだろ……あった、これか……う~ん、ビジュアルなら水タイプ……いやでも、序盤で積みたくないしから出てくる野生のモンスターとの兼ね合い……?」
簪らしいな。
時間はまったりと流れていき、近づいてくる寝る時間。
それを知らせるように。
「ふぁぁ~……んん。あ……ふふ、フフフッ、被った……ふふっ」
大きな欠伸が二つリビングに舞った。
それがツボに入ったようで簪はくすくす堪え笑う。
欠伸が出たことだしそろそろ寝るか。丁度、寝る時間だ。
「この時間に眠くなるのも習慣だね……じゃあ、歯磨いて寝よ」
こたつから出て、電源を切ると二人で洗面所へと向かった。
二つ並んだ歯ブラシを自分の分、取って。
「ん、はい……歯磨き粉」
簪から歯磨き粉を取って歯を磨く。
鏡には二人して並びながら歯磨きする姿が映っている。
やはり、リビングの外は冷える。寒さの程度は肌寒さぐらいではあるが、この感じだと明日の朝はもっと冷えそうだ。
「やだな……寒いと気が滅入る。ただでさえ月曜なのに」
隣で歯を磨きながら簪がぼやく。
言ってることは分かる。
寒さ対策もう少しだけして乗り切るしかないだろうな。後は昼の弁当好きなもの多めにするとか。
「エビシュウマイがいい……ほら、昨日買ってきた。冷凍の高い奴」
じゃあ、それを中心に弁当を作るか。
「やった。お弁当楽しみに頑張る」
歯磨きを終えると、寝室へ。
布団の中は湯たんぽのおかげで温かい。
これならぐっすり眠れそうだ。
「うん、温かい……もっとこっち寄って」
目覚ましのセットに問題がないことを確認して布団をかぶると簪に呼ばれた。
やはり、湯たんぽにするのか。これでは最早、抱き枕ではあるが。
「ふふんっ」
笑ってる。気持ちよさそうというか幸せそうと言うか。
まあ、簪がいいならいいか。
おやすみ簪。
「おやすみ」
…