豆まきと言えば、鬼である。
鬼と言えば、伊吹萃香である
酔いどれ幼女である。
さて、日本の2月3日と言えば何を思い浮かべるだろうか。
そろそろ正月気分が抜けて、連日のように行われていた宴会も控えめになった頃。お茶を飲みながら、ふと思い出した。そうだ。今日は節分じゃないか。ここには鬼もいるから、丁度いいかもしれない。いや、相手からしたら非常に迷惑かもしれないがいいんじゃないだろうか。おぉ!いいじゃないか。人里のど真ん中に萃めて置いたらいい気分で酒が飲めそうだ。思い立ったら吉日である。さっそく準備しなくては。
△△△△△△
うむ。やっぱり幻想郷では、自然体でいられる。いや、向こうの世界でも自分の部屋でなら自然体でいられるけど、やっぱり外じゃ無理だ。まず、人が多すぎる。あぁ、あれは駄目だ。よくこの歳まで耐えたと自画自賛したいくらいだ。いやぁ、今でも向こうには行ってるんだけど今じゃ、幻想郷が故郷って感じ。和服だって、向こうじゃ注目を集めてしまう。それが幻想郷じゃ普通のおことで、むしろ洋風の方が注目を集めてしまう。幽香がいい例……ではないな。幽香は違う意味で注目されるから。というか、幽香って里に入れたっけ?
「あ、大和さん」
「お、慧音じゃないか」
そんな下らない事を考えていると、見知った声に呼び止められた。
上白沢慧音。外見は案外のほほんとしてるが、里の守護者として人間からは非常に好印象を受けている半人半妖の女性だ。普段は寺子屋で未来ある子供たちに勉強を教えている。それが人間の時の彼女。が、満月の夜には妖怪の姿になり歴史を編集している。まぁ、その満月の夜に運悪く里に侵入した妖怪は慧音に屠られたり。だけど、基本的には良心的な女性である。
「今日はどうしたんですか?」
「慧音なら、2月3日と言えば何を思い浮かべる?」
少し考えた後に、気づいた様に手を合わせた。
「節分、ですか?」
「そう。節分だよ節分。幻想郷には鬼がいるからね」
「はぁ」
納得のいった慧音だけど、そこか困惑している様子。これは、もしかして……。
「まさか、里ではしてない?」
「はい。していませんし、鬼なんているんですか?それに、もし出来たとしても、里でそんなことを出来る様な人間は大和さんと巫女以外にはいませんよ」
「なん……だと……!?」
「あああああ、そこまで落ち込まないでください!」
思わず地面に膝を着き手を着いてしまった。だって、節分だぜ?外の世界じゃ父や兄がドMと化して子供や弟、つまるところ家族に豆を投げられて喜ぶ様な奇妙な絵が生まれるというのに。まぁ、それが嫌だから外で節分はやらないと決めて幻想郷に来たと言うのに。それが、出来ないだと!?
「慧音よ、今日はすまなかったな」
「え、あ、はい」
「ぬぐぐ」
「あ、けど夜になったら男たちが香霖堂から買ってきた鬼の仮面を被って軽い祭りをしますよ」
「それはどうでもいい」
「ど、どうでも」
別れる際に、苦笑いしながら手を振ってくれた慧音に次に会ったら甘味処に誘おうと決めて人里から出る。あれだ、ここは地底に行くべきか?いやいや、それでは豆が足りない。100個入りの炒った豆を10袋ほど買ってきたが、地底の鬼の数を考えれば圧倒的に足りないし、それが終われば戦闘に入るのは間違いない。そこら辺の鬼なら問題ないが、ふはっ。勇義と萃香の二人の相手をするのは嫌だ。2度と三途の川になんて逝きたくないし説教なんて受けたくないし。
「お、大和じゃないか。どこに行くんだ?」
「おぉ、ルーミアか。これから博霊神社に行くんだ」
おい、ルーミア。その口の周りに付いている赤い液体はなんだ?ずいぶんと粘りがよろしいようだが。
「ん?あぁ。人間じゃないよ。私にちょっかいかけてきた妖怪がいてさー」
「ははは。そいつバカだな」
ルーミアに喧嘩を売るなんて、バカじゃないか。うん。バカだ。今、目の前にいるルーミアからは想像できないくらいに怖いし強い。幻想郷トップ3には入っているんじゃないかな。夜と言えばルーミアだし、夜が無くならない限り死なないし。
「んで、そのちょっかい出してきた妖怪って?」
「ん、ちょっと冷たかった」
チルノー!?
「んで、なんで紫がいるわけ?」
「あら、私がいたらいけないのかしら。この男は本当に酷いことを言うは。ねぇ?」
「私に振らないでくれ」
たまたま居合わせた紫と、神社でのんびりお茶を飲んでいた博霊椿。「胡散臭い」が第一声目に来る八雲紫。幻想郷の生みの親でありなが、その殆どを寝て過ごす残念美人と言ったところか。椿は、まぁ、その、素敵な巫女服ですね。色々と溢れています。主に胸とか。
「大和もお茶、飲むでしょ?」
「頂く」
「私が出したのは飲まないくせに」
「なに入ってるかわからんし」
「私ってそんなに信用なかった!?」
「何を今更」
「紫は胡散臭いから」
「あんたら夫婦じゃないの!?」
「え」
「え」
「え?」
白けた目を向けると、紫は机に項垂れた。って、こら。足を伸ばすんじゃない。炬燵なんだぞ。伸ばしたら当たるじゃないか。紫の足に俺の足を乗せ、椿が淹れてくれたお茶を飲む。うむ。美味い。やっぱり、長年お茶を淹れているだけあって非常に美味い。
「あ、これお茶菓子」
「わぁ、これ何てお菓子?」
「カステラってお菓子。外国のお菓子だな」
「あ、美味しい」
影から取り出したカステラは、少し苦みのあるお茶と非常にマッチしていて、これまた美味しい。紫ももそもそと口を動かしているから、どうせスキマから食べているのだろう。いや、羨ましい。紫の持つ能力は非常に常識に喧嘩を売っている。境界を弄れる?なにそれチート状態だ。
「あ、そういえば紫」
「何よ?」
「萃香はどこにる?勇義でもいいぞ」
「どうせ地底でしょ。そもそも、なんでアンタが鬼を知ってるのよ」
「いやぁ、照れる」
「意味が解らない!」
「鬼ってなに?」
平和だ。スゴク平和だ。紫を弄りながら椿と世間話。うん。平和。それに、二人は美人だから余計にいい。スゴクいい。
「ん?」
「む?」
「あ?」
部屋の外に目を向ける。そこから気配がしたのだ。膨大な力を内に秘めた、その外見からは想像も出来ない最強の一角の気配を。案の定、そこには紫の瓢箪を片手に持った、小さな女の子。だが、その二本の角は雄々しく見る者を、対峙するモノを圧倒する力を持っている。人間とはかけ離れた、妖怪とも一線を引く種族。「鬼」その鬼の四天王が一人、伊吹萃香が、顔を赤くして博霊神社に入ってきた。
「うー、まだ地上は寒いね」
「そんな恰好してるからだろ」
「貴女、鬼でしょうに」
「これが、鬼?」
萃香が炬燵に入り、瓢箪をテーブルに置いた。そして、俺、紫、椿の目の前に立派な酒器が萃っていた。
「こんな日は!飲もう!!」
「珍しいわね。貴女がこんな所で飲もうだなんて」
「(きたーーーーー!)」
「頂きます」
「おっ、いいね博霊の。じゃんじゃん飲むよー!」
酒で酒器を満たしていたのにもかかわらず、椿はソレを一息で飲み干した。いやぁ、萃香の持ってる酒って滅茶苦茶に強いんだ。なんせ鬼を酔わせるくらいの代物だ。それを一気に飲み干したのにもかかわらず、椿は萃香と一緒に飲んでいる。俺と紫は、ちびちびといった感じ。枝豆とか、何か食べる物があればそれなりに飲むんだけど、今は無理。いや、いけないことはないけど本来の目的を忘れそうで怖い。
「紫、節分って知ってる?」
「何よ藪から……。知ってるけど、それが何?」
ちびちびと飲みながら、全部飲んだと思ったら勝手に増えている酒。これは二日酔い確定だなと後悔しながら、椿と肩を組みながら飲む萃香を見やる。それでわかったのか、紫はため息を吐いた。
「私は知らないわよ?鬼を怒らせるなんてしたくないわ」
「いや、節分じゃん?そういうもんだろ?むしろ伝統行事」
「それで地底と全面戦争になても私、助けてあげない」
「それは嫌。だから紫も同罪な」
「ちょっ、なにするのよ!」
陰から取り出した炒り豆を紫に持たせる。これで準備は整った。椿には悪いが、肩を組んでるから仕方がない。さて、やろうぜ?
「はぁ、藍を連れてくればよかった」
「以外に乗り気な紫マジ大好き」
「貴方、酔ってるわね?」
「ちょっとだけ」
「はぁ、そういうのは素面で言ってちょうだい」
袋を開けて碗に豆を移す。くは。そう、これこれ。これがやりたかった。いくぞ酔いどれ幼女。酒の貯蔵は充分か。
「鬼はー外ー!」
「鬼はー、外ー」
投げた豆は必中する。それが決められた運命。
「はっはっは、はがぁッ!?」
「はっはっは……豆ですか。いいですね。ちょうどいい当てが出来ました」
「ちょ、紫!?大和!?って、痛い痛い!」
「あらあら、なかなか楽しいわねコレ」
「そうだろそうだろ」
成人した女性と言えども、一回に掴める量は成人男性となんら変わりない。むしろ、妖怪であるその圧倒的握力を持って一回にごっそりと掴んで投げている。なんだ、紫も乗り気なんじゃないか。ふは。これはまだまだ豆を追加する必要があるな。
「まだまだ行くぜ!」
「ちょまっ!?の、能力が使えってないーー!!?」
「副はー内ー!」
「む、塩味が効いてない……塩はどこにあったか」
既に萃香は俺と紫とスキマと影に包囲されて十字砲火を受けている。勿論、銃弾は炒り豆。だが、侮ること無かれ。この弾丸は何よりも速く鬼には絶対的な力を発揮する弾丸だ。例え鬼神であろうと、逃れる事は出来ない。
「っ、この!いい加減にィブッ?!」
「ふふ、二百年前の恨みを晴らせたわ!あーっはっはっはっは!」
「うわぁ、流石にエグイ」
「あ、そんなに食べて私の分が無くなったらどうするんですか、小さな鬼」
十字砲火を受けていた萃香は鬼の圧倒的な違いを見せて防いでいたのだが、紫が口の目の前に隙スキマを開いて口に入れた途端に目を回してぶっ倒れた。そこまでしなくてもいいのに。これは、後にフォローを入れるべきか?いやいや、言い出しっぺは俺なんだし暫くは幻想郷に来ない方がいいのではないだろうか。
「あら、一人だけ逃げるんて許しませんわよ」
「げぇっ、バレてる」
「もし逃げようとしたら地底に送ってあげてさしあげます」
「無理無理。あの集団は絶対に無理!」
「どうかしら。大和なら萃香と勇義の二人と殺りあっても大丈夫でしょう?」
「俺に死ねと言っているのか……」
勇義なんて腕を振れば大気が震え、一歩踏み込めば大地が砕ける。萃香なんて、能力がチート過ぎる。俺が繰り出した攻撃は効かないのに、萃香のパンチが当たるってどういうことだよ。しかも一撃が必殺になる一撃。
「む、無理だ」
「能力を全開にして、4割って所かしら?」
「因みに、それどっちの意味?」
「敗率に決まってるじゃない」
「おいバカやめろ」
そんな事は迂闊に言わないでくれ。戦闘狂の多い幻想郷じゃ命が危ない。滅茶苦茶、危ない。幽香とか魂魄親子とか……あぁ、鬼連中も駄目だ。
「……ふぁ?」
「あ、起きた」
「私、帰るわね」
「おい!?」
「あれ、紫帰るの?まだ飲みましょうよ」
萃香が起きた途端にスキマの中に入ろうとしたが、椿が腕を絡め抱き着き動きが止まった。妖怪と人間には圧倒的な差があるというのに、だ。
「ちょっと、離して下さらない?」
「ふはは、俺は逃げるぜー!」
「逃がさないよ」
「!?」
自分の影に、後ろに倒れ込む様にして逃げようとしたが萃香が首に抱き着いて止まった。人間と妖怪には圧倒的な差があると(ry
後日、紫と大和は地底に何故か行きつき、鬼の軍勢と死闘を繰り広げる事になった。
「あれ、紫?大和?どこいったのー?」
「あいつ等なら今は地底さ。所で、飲むかい?」
「あ、小さい鬼」
「私には伊吹萃香って名前があるんだよ。萃香って呼んでくれ」
「わかりました」
「そんじゃ、飲もうか。全く、数百年続いた酔いが醒めちまったじゃないか」
「ひゃくっ!?」
「のっむぜー!」
萃香と飲んでみたい