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古風な街並み――石畳の街路に、乱立する石造りと木造とのコラボレーションが豊かな建物群。目の保養、ではあまりに言葉が足りない。
香り漂うパンの芳醇に混じる甘い匂いのアクセントは焼き菓子の、砂糖の焦げた匂いかもしれない。それとも道行く洒落た人々の醸す、この街の特色という名の薫りか。
そんな具合に一々と、二つの紅い瞳に煌めく星々を携え、細身な首を捻じり回して見渡す、赤いトランクケースを両手で膝の前にぶら下げる少女が一人。
モカ。少女が十五年間の人生を共にした名前である。
「綺麗な街並み……うん、素敵な学生ライフが送れそう!」
ルンルン、と、自身の口から今の気分に沿うであろう擬音を発してしまう辺り、モカの頭の内が如何様なものなのかを察せられるというもの。
というのも、幼い時分からそうだった。
凛とした目つき、整いながらもハッキリとした鼻立ちの所為か、男の子と間違われることも暫しあった。宝塚の道へ進めば立派な男形になり得たであろう、そんな顔である。
だが。見た目の凛々しさに反してか、心の内は物心が付くに連れてより乙女チックに。可愛いモノを見れば即座にエサを前にして尻尾を振る犬が如く、と。
そんなモカの転機は中学へ進学してから二年後に訪れた。
――お姉様と呼ばせて下さい。
同性からの告白だった。愛の、ではなく。憧れの対象としての。
それまでは自身の内で育みに育んだ乙女心を遺憾無く発散させていた彼女だったのだが、この告白を機に、周りの自身を見る目が思い違えていたことを知ったのだった。
女の子らしい――否。
素敵なお姉様――是。
当然、彼女自身が周囲に合わせる必要性は皆無であり、義理も義務もなかった。しかしモカは、妙なところで持ち前の生真面目さを発揮してしまったのだった。
――慕ってくれる後輩の前ではクールで居よう。
その時から彼女は二面性の持ち主となった。
と、そう懐かしくもない思いに耽っていたモカは不意に、街を横断する川に架かった小さな石造りの橋を渡った少し先で、とある店を見付けた。
外観は周囲に溶け込んでいるのだが、その代わり映えない中にあっても彼女の心を強引に引き寄せたのはやはり、店先に下がったウサギを模った木板だろう。
ウサギがコーヒーカップを抱きかかえているように見える木板の下部にはアルファベットの表記で、『RABITTO―HOUSE』と記されている。恐らく、ここの店名に違いない。
「ラビットハウス……うん、いいじゃん。いいね、可愛らしい雰囲気が入る前から感じられる。ちょっと入ってみようか――」
ここに至るまでにも多分に高揚しきっていたモカの気分は、それこそ有頂天へ――なろうとしていたが、
『きゃああぁぁぁ――!』
木目のシックなデザインの扉を開けようとした彼女の手は刹那――その先から聞こえて来た甲高い悲鳴によって滞ったのだった。
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