八咫烏は勘違う(旧版)   作:マスクドライダー

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何の事かと申しますと、今回の話の内容ですね。
進行具合としては、白騎士事件が発生します。
まぁ……その流れが、ゴリ押しの一言ですわ。
早くもネタ切れ気味ですが、とりあえず更新だけは頑張らせていただきます。


第6話

「驚いたな、まさか地下がこんなになっているとは……。」

「フフン♪本邦初公開って奴?箒ちゃんにも見せてないんだよ。」

 

 とある休日に、千冬は束に呼び出されていた。明朝にいつも通りのハイテンションで電話がかかって来て、千冬はとてもじゃないが乗り気では無かった。しかし、こうしてしっかり束の元へ来ている。それは千冬が律儀というのもあるが、束を無視した場合は更に面倒な目に会う。そのため、来ざるを得なかった……が正しいかもしれない。

 

 一夏と黒乃を起こさないように配慮して、千冬はこっそりと篠ノ之家へと向かった。そこで束が待ち受けていた訳だが、通されたのはなんと地下だった。まるで映画の世界よろしく、束は篠ノ之神社の真下にラボを作っていたのだ。そこへ通された千冬は、人目につかない時間帯を選んだのにも納得がいった。

 

「それで、見せたい物とはなんだ?なるべく手短にしてくれ……。」

「やだなぁ、ちーちゃん!ココにあからさまなブルーシートをかぶせた何かがあるじゃな~い!」

「……下らんものならば、本気で許さんからな。」

「だいじょぶだいじょぶ!確実に下らないものでは無いよ。それじゃ、レッツご開帳~。」

 

 千冬がラボへと呼び出された理由は、何でも見せたい物があるとかだ。快眠を邪魔されたせいか、千冬は眠たそうな顔で欠伸をしてみせる。普段の束ならば、締まりのない顔のちーちゃんも可愛い……なんて言って跳び付きそうなものだ。だが珍しい事に、束はすぐさま本題へと入った。

 

 そこには束の言う通りに、ブルーシートをかけた何かが置いてあった。束はブルーシートを引っ掴むと、グイッと引っ張って中身を外へと晒す。すると中から出てきたのは、一言で言い表すならば純白のロボットだ。人型でなおかつメカメカしい風貌のソレは、どこか騎士を思わせる。

 

「なんだこれは……。」

「これはねぇ、インフィニット・ストラトス!束さんの最高傑作!長いから、略称はそのままISってとこかな?」

「そこはどうでも良い……。単刀直入に聞くぞ、束……お前はこれで、何をするつもりだ?」

「う~ん……早い話が、世界でも変えちゃおうかなって。私やくろちゃんが、少しでも自分らしくいられるようにね。」

「……黒乃だと?束、詳しく説明しろ。なぜここで黒乃が話題に挙がる?」

 

 千冬に質問されて、束は順を追って説明を始めた。とりあえず束は、黒乃が普段は本気を抑えているという事から話す。束が初めて黒乃の本気を見てから、2年近くが経過する。その後も黒乃の監視を続けていた束は、何度も黒乃の本気の力を目撃していた。もちろん千冬は、そんな事は全く身に覚えがない。

 

「聞いてよちーちゃん。あの子ね、普通の木刀なら振っただけでポッキリ折っちゃうんだよ。」

「そんな話をどうやって信じたら良いんだ。」

「折った時のじゃないけど、映像なら撮ってあるから……。よしっと、映し出すね。」

 

 束はノートPCを弄ると、映像を出せる状態にして画面を千冬の方へ向けた。その映像は、束が作成したステルス機能付きのドローンで撮影したものだ。映像に映っている黒乃は、確かに千冬の見た事も無いような様子だ。どうやら黒乃は、木刀で木を叩いているらしい。叩かれている方の木は、なんとも大きな傷跡が残っている。

 

「ね?映像でも伝わる気迫でしょ~。」

「これは、本当に黒乃なのか……?」

「まーねー、普段を知ってるちーちゃんの方がよっぽどびっくらこいちゃうよねぇ。あっ、ちなみにだけど……くろちゃんの木刀、束さんのプレゼントなんだよ!」

 

 黒乃の握っている木刀は、束手製の物だ。見た目は単なる木刀だが、中身はぎっしりと鉄が詰まっている。そんな代物を、黒乃は難なく振り回しているのだから……千冬の覚える衝撃は増すばかりだ。しかし束としては、驚くべきはもう少し映像が進んだ後だが。すると突然に、黒乃がドローンへ向かって木刀を投げてくるではないか。

 

 木刀を投げたタイミングと言い方向と言い、確実にドローンを狙った投擲だろう。またしても小学生が投げたとは思えない威力で、簡単にドローンを撃ち落とした。木刀がぶつかった際の衝撃のせいか、映像はそこで途切れてしまう。しかし、一部始終としては十分すぎるほどだ。

 

「いや~……まさか、ステルスしてるドローンに気付かれるなんてね~。」

「…………。」

「ちーちゃん、これで解ってくれたかな?くろちゃんが、ぜ~んっぜんっ!本気じゃないって事。」

「……解かった。そこは、認める事にしよう。だが束。このISとやらと黒乃に、何の関連性がある。」

 

 束が言うには、ISは宇宙開発が主目的という『体』らしい。つまりは、安全性はお墨付きという訳だ。それを用いた競技でも行われるようになれば、黒乃も気兼ねなく本気を出せるという物だ。そこは解ったが、千冬はまだ合点がいっていない部分がある。それは束の言った『世界を変える』と言う点についてだ。

 

「束。確かにコレは、世界を震撼させるだろう。しかし、それだけで世界は……。」

「あ~そこ?そこの意味はねぇ。実はこのIS女性限定しか動かせないんだよ。」

「なっ……!?そんな物を、世に送り出したら……!」

「うん。間違いなく女が偉くて、男はダメって世界になるよね。世界を変えるって、そこも含めての話だもん。」

 

 千冬は驚愕した様子だが、束はあっけらかんとした表情だ。むしろ千冬には、当たり前の事を言わないでくれ……とでも言いたそうな表情に見える。束が根本的に抱えている問題を、千冬はこれほどまでに恐ろしいと感じた事は無かった。恐らく束は、その他大勢の事など初めからどうなったって構わないのだ。

 

「この話は終わりだ。世界のバランスを変えてまで、黒乃が本気を出したいなんて思う訳が……。」

「そんなの、ちーちゃんの思い込みかもよ?今解ったばっかりっていうのを、忘れちゃダメだよ。ちーちゃんの知ってるくろちゃんだけが、本当のくろちゃんでは無いんだからさ。」

「しかし……!」

「まぁ、すぐに決めろなんて束さんも言わないよ。だからさ、動かす練習だけしてみない?それで、ちーちゃんが動かせるようになったら……面と向かってくろちゃんに聞いちゃえば良いじゃない。」

 

 自分の知っている黒乃が、黒乃の全てでは無い。その言葉に、千冬は言い返す事が出来なかった。本当のところで千冬は、さっき見た映像も信じたくは無いのだ。黒乃が日頃は力をセーブしていて、ひっそりと持て余した力を発散しているなどと……。それでいて千冬は、黒乃の為ならばと思っている自分にも気が付く。

 

 それで黒乃が、本気を出せる世界が訪れるのかもしれない。しかし男が動かせないとなれば、世の男性はいったいどうなると言うのか。千冬が葛藤している最中に出てきた束の提案は、揺らいでいた心に深く馴染む。こういう時にそう言えば、練習くらいならと思うのが人間の心理である。

 

「……良いだろう。ただし、黒乃が拒否した時は。」

「解ってるって!その時は、大人しく引き下がるよ。」

 

 千冬は迷った末に、とにかく練習をしてみる事は了承した。しかし、千冬はあくまで練習で終わると思っての事だ。一方の束は、黒乃が肯定を示す自信があるらしい。ここまでくれば、こっちの勝ちだ。そのような事を考えているが、決してそれは表には出さない。

 

 それぞれ正反対の思いだが、それら全て幼い少女1人に関わる。藤堂 黒乃とは、2人にとっては様々な意味で大きな存在なのだろう。こうして世界が変わる1歩が、本人の知らぬところで、本人のために動き出そうとしていた。そんな事を知るよしもない黒乃は、今日もスヤスヤと寝息をたてる……。

 

 

 

 

 

 

「剣道って、バランスが大事って柳韻さん言ってたよな。」

「まぁ、基礎的な事だと思うが……。それが、どうかしたのか?」

「これ、なんか束さんが作ってくれたんだ。せっかくだから皆で練習してみようぜ。」

 

 今日は休日で、特に稽古もない。そんな日に、イッチーに引っ張られてモッピーのお家までやってきた。遊ぶ約束はしていたらしく、モッピーも防寒対策をきちんとしていた。何をして遊ぶか、そんな相談が始まるかと思いきや、イッチーが唐突にそんな事を言いだす。

 

 更にイッチーは、神社の床下の隙間から竹馬のような物を取り出した。まぁ、どこからどう見ても竹馬ですけど。その竹馬は竹製ではなく、鉄製のものだ。懐かしいなぁ、俺が小学校にも似たようなのが置いてあった。イッチーの言う通りに、竹馬はバランス感覚を鍛えるにはもってこいかも。

 

「姉さんが作ったのか……。」

「そんなに心配しなくても大丈夫だって。じゃ、まずは俺からな。」

 

 モッピーの呟き通りに、俺もなかなかに心配ではある。レッテルって言えばいいのだろうか。とにかくたば姉が作ったってだけで、警戒に値すると俺は思う。そんなのは気にしないと言わんばかりに、イッチーは竹馬へと乗った。そうするとモッピーは、俺の手を引いて後ろへ下がる。

 

「念のためだが、巻き込まれないようにな。」

「…………。」

「それより一夏、上手じゃないか。乗るのは初めてだろう?」

「ああ、そうだけど……。この竹馬、何か変だぞ。」

 

 初めて乗るのなら、多少はぎこちなさを感じるものだ。しかしイッチーは、危なげなく……どころか直立不動で竹馬に乗れている。確かに、何かがおかしい。俺はイッチーに近寄って、竹馬を掴んでみる。いきなりの行動に慌てたのか、イッチーは竹馬から降りた。

 

「な、なにするんだよ黒乃!危ないだろ……って、なんだこれ?」

「…………。竹馬が、自力で立っているな。」

 

 やっぱりか、妙にふらつかないかと思ったら。多分だけど、たば姉が俺達が転んで怪我をしないように配慮してくれたのだろう。どういう原理化は知らんが……重力関係かな?とにかく、ごめんね……たば姉。俺は、とても失礼な事を考えていたよ。しかしこれだと、目的であるバランス感覚を鍛えるのは無理そうだ。

 

「おっ、よく見たらボタンがたくさんあるぞ。」

「待て待て、無闇に触らない方が良い……。それこそ、何が起きるか解ったものではないぞ。」

「それもそうだな……。じゃあ、束さんを捜そう。この竹馬の機能を、しっかり説明してもらえばいいんだよ。」

 

 イッチーの言う通りに、グリップから少し下へと位置する場所には、いくつかのボタンがついている。どちらかと言えば、こちらが本命か……。押せば何か起こるのは明白だけど、それには少々リスクを伴う。そこで俺達は、別れてたば姉を捜索する事になった。

 

 モッピー曰く、今日は姿を見ていないが、恐らく家の敷地内には居るんじゃないかとの事。そうなると、イッチーが一番に見つけられた奴が勝ちなどと言う。なるほどね、これもついでに遊びにしてしまおうという魂胆か。まぁ……俺はゆっくり捜す事にしておこう。

 

 無難なのは、たば姉の部屋からかな。それを言うと、イッチーとモッピーは何故にそこから捜さないのだろう。う~ん、気持ちは解らなくもないか。やっぱりたば姉を警戒しておく方が良いもんね。もしや、部屋にトラップが仕掛けてあるとかじゃないよな?それなら、モッピーが何か忠告をくれるか……。

 

 なら、とっとと見ておくだけ見ておこう。居ないとは思うんだけど、ニアミスになるかもしれないし。そんなわけで、俺はモッピー宅へとお邪魔してたば姉の部屋を目指した。実際に入った事はないけど、確か……2階の方だったかな?ギシギシとなる階段を上ると、数室の入口が見える。

 

 その中の1つは、どこか異様な雰囲気を放っていた。……本能的に、危機でも察知してるのかな?なんだろうね、あそこがたば姉の部屋だって解る俺が居るよ。とにかく、様子を伺ってみよう。俺はたば姉の部屋の扉を何度か叩くが、反応らしきものはない。悪いとは思いつつも、中に入って確かめてみよう。

 

 ゆっくり扉を開くと……そこには世紀末な光景が広がっていたぁ~……。ち、ちー姉よりひでぇ!?まだちー姉は、服とかが散乱している程度だ。しかしたば姉の部屋は、形容しがたい機械のパーツ等で溢れかえっていた。ま、まさか……この中に埋まってるとかじゃ……?もしそうだとすれば一大事だ!

 

 こんなのに埋もれたら、間違いなく圧死してしまう。俺はとにかく必死でパーツの山をかき分けて、たば姉の安否を確認する。最終的に一帯をそのままひっくり返してみたけど、特にたば姉が居る様子も無い。ふう……杞憂で済んだか、良かった良かった。いやぁ……しかし、前より荒らしてしまったかもな。

 

 さっきみたいに平らになっていれば、そちらの方がある意味で秩序が保たれていたかも。だけど元に戻す意味も無ければ、そんな重労働も勘弁願いたい。たば姉なら、笑って許してくれるだろう。それならこの部屋から速やかに脱出を……って、あれ?ノートPCかな。あ~……そういや、部屋の隅に置いてあるのが視界の端にチラチラ映ってたな。

 

 ……開きっぱなしだし起動状態だ。ここからでも画面は見えるけど、ちんぷんかんぷんな数式の羅列が映し出されていた。データの算出でもしてたのかな?それにしても、随分と長い式だ。著名な数学者でも、見ていたら頭痛を起こすかもしれない。きっと俺は、数秒でオーバーヒートにだろうな。

 

 とにかく、起動しっぱなしってのもアレだからスリープモードくらいにはしておこう。俺がそう思って、PCへ近づこうとしたその時だ。室内を荒らしたせいで、何かコード状の物に足を引っかけてしまう。手を突くのも間に合わず、両手を伸ばしてビターン!と、盛大なズッコケ方をしてしまう。

 

 そしてそれと同時に、指先へ何かを叩いたような感覚が……。大変に嫌な予感がするが、俺は恐る恐る顔を上げてみる。すると俺の人差し指と中指は、ピンポイントでエンターキーを押していた。つまりは、何かしらのシステムを実行したという事になる。どっ、どどどどどどどど……どないしよう!?

 

 えっ、何……何?結局のところたば姉は、直前まで何をしてたんだ!?俺のエンターキー誤爆1つで、たば姉の努力が全部台無しとかじゃないよね!?最悪だ……本当に、どうすれば良い。俺が事情を説明できないうえにたば姉本人も見つからないなんて、状況が悪いにも程がある。

 

 今からまた触っても余計な事にしかならないだろうし……。ああっ!もうなんか、画面がプログラムを開始している雰囲気に移行しているじゃないか!PC操作の諸々はからっきしって事ではないけど、たば姉レベルのを俺がどうこう出来る訳もない。…………オワタ。い、いや……まだ手はある!隠蔽工作だ……。

 

 かなりクズな発想だけど、もうそれしかないもんね!それにホラ、たば姉だって部屋に放置してたんだし……途中で飽きた可能性だって十分にありうる!そうと決まれば、俺はまたしてもたば姉の部屋を荒らす。PCを隠せそうなスペースを確保して、そこにPCを埋める形でパーツを被せた。

 

 これで良し……。いや、全然よくは無いんだけど。見なかった事にしよう……忘れる事にしよう。俺だってわざとじゃないんだけど、説明が出来ないんだから解ってもらえるわけもないのだし。うん……イッチーとモッピーと合流して、その時にたば姉が居たら無理にでもここに連れて来よう。居なかったら……もう知らん。

 

 俺は何事も無かったかのように、たば姉の部屋を後にした。最初遊んでいた場所まで戻ってみると、既に2人も戻って来ていた。どうやら、どうしてもたば姉は見つからないみたいだ。今回は仕方がないと言う事で、竹馬は諦める事に。そうして俺達は、イッチーを筆頭に遊び場を求めて篠ノ之家から移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

「おっけー、今日はこのくらいにしておこうか。」

「了解した。」

 

 千冬がISの訓練を始めて、まだ1ヶ月もたたない。しかし、もはや完璧に動かせるほどにまで達していた。束としては、完全に想定の範囲内だ。だいたい束の予定通りに事は進み、そろそろ次なる段階へと動き出そうとしていた。束は白騎士の装着を解除した千冬へと、楽しそうな様子で声をかけた。

 

「ねぇねぇ、ちーちゃん。そろそろさ、くろちゃんに見せても良いんじゃない?」

「それはつまり、例の質問をするためか?」

「もっちろん!今日は、くろちゃんも遊びに来てるしね。」

 

 例の質問とは、世界の変化を望むか否か。それを黒乃に聞いても良い段階だと、束は千冬へと同意を求める。確かに、ISの操縦に関しては本人も納得の出来映えだ。だがそんな事は関係なしに、やはり千冬は迷いに迷っていた。このISというものは、闘争を呼ぶ。

 

 それでなくとも、男女平等を壊す代物だ。それに加えて平和を乱す要因になるとすれば、誰しもが迷って当然だろう。その他に世界を変革させる責任や、様々なものが千冬にブレーキをかけさせていた。しかし、束はいかんせんアクセル全開なうえに、ブレーキはとうに壊れている。

 

 やるならやる、やらないならやらない的な発想故か、どっちつかずの千冬にうむむと唸って困った様子だ。もっとも、真の意味で困っているのは千冬の方だが。どうしようもないジレンマに、千冬の眉間の皺は深くなる一方だ。とにかく、まだ時期は先伸ばしにできる。まだ早いと、千冬はそう告げようとした。

 

「束。黒乃にはまだ……。」

「…………。ちょっと待って、これは……!」

「……?おい、どうかしたのか。」

 

 束は何かに気がついたらしく、いつになく真剣な表情でPCのキーボードを叩く。しばらくは千冬が話しかけても、返事すらしてもらえない。その事が千冬にもよほどの一大事だと感じさせた。やがて束は、ブツブツと聞こえるほどの声で呟き始めた。

 

「まさか……くろちゃん?いや、でもくろちゃんに限ってそんな……。ああっ、でもでも……あの子ならやりかねない可能性だってあるし……。」

「なんだ……何があった?」

「あ~……そのね、怒らないで聞いて欲しいんだけど……。」

 

 束の放った前フリからして、ロクな話では無い事は確定した。千冬はいつもの事だと早々に諦めて、少し溜息を吐いてから聞く体制に入る。束が言うには、ISを世間に出す際に学会に提出する以外の方法を目論んでいたらしい。その方法とは、ISの有用性を世界に知らしめるのにはうってつけではある。

 

「遠まわしに言うな。結局、お前は何をするつもりだったんだ。」

「日本を攻撃可能なミサイル基地をハッキングして~、それをちーちゃんが叩き落とす……って、いたたたた!?ち、ちーちゃん……割れる!束さんの天才的脳ミソが詰まった頭が割れちゃうよ!」

「そうか、それは良かった。」

「あれれ、話が噛み合ってないんだけど!?」

 

 ぶっ飛んだ方法を言い出した束の頭をガッチリと掴んで、アイアンクローをくらわす。こめかみ辺りからミシミシと音が鳴っているような気もするが、千冬は右手に万力が如く力を込める。女性らしからぬ握力に掴まれて、束は説明の続きが出来ない。ここからがもっと大事な話なのだ。

 

「ちーちゃん、タイムタイム!こんな事をしてる場合じゃないんだってば!」

「なんだ?まさか、お前の知らない所でミサイルの発射が開始されたとでも言うんじゃないだろうな。」

「そう、ビンゴ!流石はちーちゃん!」

「何!?それはいったいどういう事だ!」

「や、だからそれは……う~ん……。不確定要素だけどね、くろちゃんが関係してると思うんだよねぇ。」

 

 千冬は最も最悪であろう状況を、冗談めかして束に告げた。しかし、それこそが束が焦っている理由そのものだ。しかも黒乃が関わっていると言うのだから、千冬の関心はさらに増した。束が言うには、ハッキングはエンターキーを押せば良い状態にして自室へ放置しておいたらしい。

 

「な・ん・で……そんな状態で放置する!?」

「だ、だって……誰も私の部屋に入らないし、大丈夫かなって。」

「それに、黒乃が実行したというのはどういう事だ!」

「あの子の事だから、解ってやってるよね……多分だけど。」

「何……?黒乃が、そんな事できるはず……。」

「それこそ、くろちゃんだよ?何があってもおかしくは無いよ。それこそ、あの子はイタズラ半分で人の物を弄ったりするはずないってば。そこは、ちーちゃんの方が良く知ってるでしょ?」

 

 短い会話の中で、千冬には聞きたい事が山ほどあった。1番に出てくるのは、言った通りにワンタッチでハッキング完了の状態になるPCを、なにゆえ自室なんかに置きっぱなしにしておいたかだろう。そんな誰でも触れる状態にあるのに、束が黒乃だと断言しているのが千冬は解せなかった。

 

 しかし、思った以上に理由は単純だ。それは、黒乃だから。そう言われてしまえば、なんとなく納得してしまっている千冬が居た。黒乃は、無暗やたらに人の物を触らないだろう。だが現にハッキングが成功しているとなると、それが危険極まりないものだと解ってやっている裏付けとなるのだ。

 

「う~んでもそれだと、ミサイルを撃ち落とせる要因を知らないとだし……。もしかして、ISのデータも見られたかなぁ?」

「そんな事はどうでも良い!ISに乗って、ミサイルは撃ち落とせるのだな?」

「それはちーちゃん次第だけど、まぁ問題ないと思うよ。というか、行くの?ちーちゃん。」

「馬鹿を言うな、私が行かねば……日本は終わる。これは既に、黒乃がどうこうの話しではない!」

「ま、当たり前だよね。おっけー、それじゃぁちーちゃん……変革を始めよっか?」

 

 この日から世界は、大きな変化をもたらした。2000発超のミサイルを撃ち落とし、1人の犠牲者も出さずに事態を収拾させてみせた『インフィニット・ストラトス』という産物によって。主犯は後に歴史へと名を連ねるであろう篠ノ乃 束。しかしその裏で、1人の少女が関与していた事実は、闇へと葬り去られる。

 

 そして世界が変わるきっかけとなったこの事件は、白騎士事件と名付けられた。この白騎士事件は、本当にちょっとしたきっかけでしかないのだ。1人の少女が織り成していく、八咫烏伝説のほんの始まりに過ぎない。

 

 

 




黒乃→何かのプログラムを実行しちゃった!?
千冬→黒乃が、ISを動かねばならん状況を作ったのか……?

直接的?間接的?どちらか微妙な所ですが、白騎士事件に関与しちゃった感じで。
相も変わらず、本人は呑気なモンですが。

次回は、箒が転校してゆく際のエピソードになります。

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