八咫烏は勘違う(旧版)   作:マスクドライダー

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それ故、完全に勘違い要素0ですがご了承ください。


第13.5話

「昴、黒乃は今どうしている?」

「ん……?ああ、ちょっち自主勉してもらってる。」

 

 黒乃が大迫との模擬戦を終えて、早くも数日が経過した。多くの者にとっては、ごく当たり前に過ぎ去った数日だろう。しかし、対馬 昴にとってはそうもいかなかった。口では説明のし辛いゴチャゴチャとした事情はあるが、大半の要因としては自身の心の問題であると本人は認識している。

 

「しかし……わざわざミーティングルームで見せる事も無いだろう。これではまるで映画鑑賞だ。」

「あ~……それはなんつーか、まぁ……うん……。」

 

 千冬が昴の元を訪ねているのは、模擬戦の記録映像を見せてもらう為だ。千冬としては、まずこの場に呼び出された事も解せない。昴の事だろうから、記録映像をデータにして送り付けて終わりだろうと思っていたからだ。それにもっとも不可解なのは、昴がこうも歯切れの悪い態度をとっている部分であろう。

 

「アタシもさぁ、何から言えば良いのか解かんなくて。だから何をするにもまず……コレを千冬に見てほしいの。」

「……解かった。」

 

 千冬の認識として、適当、ズボラ、グータラ……そんな言葉を体現したのが昴だ。しかし、千冬は昴が単にそれだけで無い事も理解している。理解しているからこそ、今回の真剣な表情をした昴は余計に思い詰めた様子にみえるのだ。それだけに、千冬は余計な口出しはせずただ短く解ったと答える。

 

 いつもと変わらぬ千冬の様子に、昴は何処か安心感を覚えた。すると、まるで覚悟が決まったかのように記録映像の再生を始めた。空間投影型のディスプレイに現れたのは、打鉄を装着した黒乃とラファールを装着した大迫だ。これを見てほしいと言う時点で、模擬戦時に何かあったのは明白。千冬は、穴が開くほど記録映像を見つめる。

 

 初めの内は特に反応を示さなかった千冬だが、黒乃が葵でスナイパーライフルの弾丸を弾き始めた辺りでピクリと片眉が動いた。そのうちに映像に映る黒乃が大迫を圧倒し始めるが、そこから先は全く動じなかった。いや、内心では思う所があるのかも知れない。特に……最後のシーンなんかは。

 

 録画だけに確認はできないが、黒乃は既にシールドエネルギーの尽きたに等しいラファールに追撃を仕掛けたのだ。しかも足で踏みつけ逃げられないようにした後、葵を用いて大迫の首へと一太刀を浴びせようとした。ギリギリのところで昴が呼びかけると、黒乃はピタリと動きを止めた。しかし、昴が止めなければどうなっていた事か……。

 

「…………。」

「…………。」

 

 録画の再生は止まり、既に画面は暗転している。だが、千冬も昴も口を開こうとしなかった。昴は先ほども言ったように、まず何から切り出すべきか定まっていない。だからこそ千冬の発言を待っているのだが……。考え込むような様子を見せ、なかなか声を発さない。ようやくして口を開いた千冬には、まず確認すべき事があった。

 

「何故……審判は止めなかった?」

「……黒乃が圧倒的過ぎて、あの場の全員は呑まれちゃってた。それで対応が遅れたのよ。私も、もう少し早く止められてたかもね。」

 

 昴の言葉にも頷ける部分が千冬にはあった。録画ですらなかなかに迫力満点だったにだから。もし自分があの場に居ると想定すれば、取り乱していた可能性が大きいと自己完結させる。なにしろ、黒乃の幼少期に似たような事はあった。忘れもしない大車輪を目撃した現場だ。

 

「……黒乃は何も悪くない。」

「…………。」

「あの子は、責められたろう?……昴、お前もだな。断っておくが、非難するつもりは毛頭ないぞ。」

「……ええ、そうよ。言い訳にしかなんないけど、混乱した拍子にすっげー酷い事を言ったわ。」

 

 ポツリと呟かれた千冬の言葉に、思わず昴の眉間には深い皺が寄った。そして、続いて千冬が語った予測もドンピシャで的中……。千冬としては、昴の様子がおかしかった理由に合点がついた。昴はきっと悔いている。何を言ったかは知らないが、感情に任せて頭ごなしな言葉を送った事を。

 

「昴が悪ければ、私も同罪だ。やはり私が先に模擬戦をするべきだった。他のもあるぞ。昴に黒乃の事を丸投げしたのだってそうだ。……なんとも至らん姉貴分な事だ。」

 

 昴と同じく千冬も悔やむべき事が多かった。表面ではいつものクールな様相だが、内心ではとてつもない悔恨の念が渦巻いている。特に黒乃が責められた場面なんてのを想像すると、悔しくて仕方が無い。それでも千冬が気丈に振る舞うのは、誰よりも辛かったであろう黒乃の事を想ってだろう。

 

「……アタシがやんちゃしてたの、千冬は知ってたわよね。」

「……ああ、それがどうかしたか?」

「そん時の親とか先公とか、アタシの事も解んねぇのに頭ごなしな説教ばっかでウゼェウゼェとか思ってたのにさ……。それをよく解かってるアタシが、頭ごなしに黒乃を否定とか……笑える話だわ。」

 

 昴はそこらの椅子へと乱暴に腰掛けると、そんな事を語りだした。様子がおかしかったのは、どうやら自己嫌悪も起因していたらしい。周囲の大人に反発していた時期の昴は、やんちゃな青春時代を送った。しかし、今となってはどうだ?いつの間にか、自分が反発していた大人達と同じ事をしてしまっているではないか。

 

「最初に会って2年くらいか……。アタシもさ、あの子は好きだよ。始めの内は厄介な子だとか思ってたけど、あの子……見た事無いくらいに良い子だもんね。」

「私の……自慢の妹だ。」

「うん、千冬ほどじゃないだろうけど……妹だって確かにアタシも思ってたのに……!それが何で……何で、あんな酷い事を言っちまったかなぁ……。」

 

 昴は片手で顔を覆い隠しながら、とてつもなく悲痛な表情を浮かべていた。普段の昴を知っているだけに、千冬としては見ていられない程のものだ。いや、今の昴は見るべきでは無い……。そう判断した千冬は、腕を組みながら静かに背を向けた。そして考える……大人として、黒乃にしてやれる事をせねばと。

 

「自覚があるならまずは謝るところからだろう。黒乃に甘えていると言われればそれまでだが、謝れば……それで無かった事にしてくれるような優しい子だ。」

「だけど、そんなんで……。」

「それに……黒乃もきっと、昴の事は姉だと思っているはずだ。だからあの子の為にも、姉として振る舞ってやってくれ。あの子も、そんな姿の昴は見たくないだろうからな。」

 

 紛れもない本心から、千冬は昴へと言葉を紡いだ。自分が言ったように、自分も黒乃に甘えている。それだけに、他人だけ責める事なんてできなかった。それで許されていいはずがない。そう思っている昴だったが、千冬の言葉にいくらか救われた気分になった。今までは後ろめたさから面と向かえないでいたが、どうやらもう平気らしい。

 

「……解ったわ、あの子にはきちんとケジメをつけとく。でも今は、もう少し話さなきゃなんない。」

「あの件は、捨て置けんな……。」

「ええ、黒乃にとっての最良はなんなのか……アタシらがキチンと相談しとかないと。」

 

 千冬があの件と称したのは、黒乃が大迫を殺害しかけたという部分ではない。そこも勿論重要ではあるが、単に事故である可能性を千冬は配慮したのだ。では、あの件とは……?それは簡単な話である。試合の一部分を切り取った事はせず、黒乃の試合全体を通して相談すべきなのだ。千冬にとっては、不可解な点が多すぎる。

 

「あ、1つ言わないとなんだけど……。相手の子、黒乃との試合でPTSDを患っちゃって。多分だけど、もうISには乗れないと思う……。」

「……そうか。」

「黒乃はきっと、今後沢山のIS乗りを潰すわ。議題とするべきはまずそこのはずよ。」

 

 昴は、自らの勘は良く当たると言った。過程はどうあれ、結果的には確かに的中していると言っていい。そうなれば、黒乃1人の問題ではなくなってしまう。それこそ前回の時のように、人というのは責任のありどころを求める。2人は黒乃の盾となるつもりだが、ずっと張り付いているのは到底無理だ。

 

「私の友人は、黒乃は抑制された世界で生きていると言った。」

「…………。」

「だからこそ、黒乃が本気を出せるISには乗せてやりたい。」

「……だけど、黒乃がIS操縦者を潰すのも見過ごせない……。う〜ん、なかなか難しい話しだわね。」

 

 流石に、黒乃と戦って100%ISに乗れなくなるという事はないだろう。それでもわずかながらもその可能性があるのならば、対策をしておかなくては。しかし2人は、ある種の板挟み……ジレンマに襲われる。優先すべきは黒乃だとは思っているが、他のIS操縦者がどうでもいいなんて事もあり得ない。

 

「アタシ達の他に、もっと黒乃に着いていられる盾があればねぇ……。」

「代表候補生……。」

「あん?」

「黒乃が代表候補生になれば、何処なりと味方してくれる場があるやも知れん。」

 

 昴もIS業界においては、それなりの有名人ではある。が、盾としては弱いのだ。日頃の態度しか知らない人間にとっては、昴は信頼に値しない人物にしか映らないのだ。一方の千冬は、絶対的な地位を確立しているし周囲からの信頼も厚い。ただそれだけに、黒乃の盾になる事が逆に周囲の顰蹙(ひんしゅく)を買う事態になりかねない。

 

 しかし、千冬の提案ならば全てとはいかなくても問題は解決される。代表候補生ともなれば、専用機を得る事になるだろう。専用機を渡す側からすれば、開発した機体の技術力をアピールしてほしいはず。それならば、黒乃を悪いようには扱わない。そう思って、千冬はそんな提案をしたのだ。

 

「確かに、黒乃が自分で地位を築けば早い話よね。」

「これから1番近い選考会はいつだ?」

「ん〜……と、モンド・グロッソでたて込むとかだから……。確か、黒乃が中3に上がるときの春休みくらいだと思うわよ。」

「モンド・グロッソか……。」

「そっか、千冬は今年も日本代表だもんねー。頑張りなよ、応援してっから。」

 

 昴がなんの気なしにモンド・グロッソと言うと、思わず千冬は反応を示してしまった。すると朗らかな様子で、昴は千冬へエールを送った。千冬はそれが照れくさいのか、そっけない態度で短くああとだけ答える。素直ではない千冬の様子に、昴はニヤニヤとイタズラっぽい笑みを見せた。すると千冬は、咳払いしながら話題を戻した。

 

「で、この話は終わりで良いだろう。」

「まぁね、あの子が通らないって事はないだろうし。」

 

 この絶大な信頼感は、黒乃の確かな実力がそうさせるのだろう。千冬としても、黒乃はいずれ自身の立っている座に着く存在であると認識している。黒乃の本気とは、すぐさま自分の喉元に届くであろうと千冬は考える。だが、まだその時ではない。黒乃が自分と同じ舞台に立ち、黒乃が千冬から奪い取ってこそのものだ。

 

「じゃ、後は……黒乃に謝ってくるわ!」

「それは良いが、事は建設的に運べよ。」

 

 いつもの調子を取り戻したであろう昴は、元気な様子でミーティングルームを飛び出た。若干の空回りっぷりを察知した千冬は、やれやれといった風な感じて昴を追いかける。ドタバタと駆けて行く背中を追いかけると、やはり自分の方が年上な気がしてならない。そして昴は、黒乃が自主勉強中の講義室へ騒がしく入室した。

 

「黒乃ぉ!」

「…………?」

「この間は……本当にスマンかった!アタシはさも黒乃が悪いみたいな言い方して、そのうえに酷い事も言った。都合が良いってこたぁ解ってる……けど、アタシは黒乃に許してほしくて……。」

「…………。」

「く、黒乃ぉ……!」

 

 講義室に入るや否や、黒乃に土下座して謝罪した。それだけ悪いと思っている証拠だろうが、謝られている本人は困惑した様子だ。そもそも黒乃はそこまで気にしてはいないのだが、それを第三者が知る由もない。とりあえず黒乃は、場を落ち着けさせるためか優しく昴の頭を撫でた。それが許すという意思表示が、昴にはキチンと伝わったようだ。

 

「アンタもう本当……いい子だわぁ……。こんないい子にあんな事言ったとかアタシは馬鹿だ!アレだ黒乃、この際だからアタシの妹とになりな!ほら、お姉ちゃんって言ってみ!」

「何故そうなる……。それに冗談を言うな。事故以来は私ですら呼ばれた事が……。」

「姉さん……。」

「馬鹿な!?ま、待て待て待て!ずるいぞ昴……貴様だけ!」

「ほぉ〜ん?千冬もずるいとか言うんだねぇ。嫉妬とかするんだねぇ。」

 

 さり気なく姉発言をする昴に、長年姉貴分として黒乃を育ててきた千冬のプライドが傷ついたらしい。少しばかり口調を恐ろしいものに変えながら、昴を制しようとすると……予想外の事が起きた。なんと、黒乃が声を出して昴を姉と呼んだのだ。これには千冬も黙っていられずに、自分も呼んでくれと眼差しで訴える。

 

 しかし黒乃は、黙りこくったまま千冬を見詰めるだけだ。それを見た昴は、何か勝ち誇った様子で黒乃と肩を組んだ。盛大にニヤニヤとした昴の視線が、千冬の何かをプッツンさせた。目にも止まらぬアイアンクローで昴の頭を掴むと、とんでもない握力でこめかみを圧迫する。心なしか、メキメキといった効果音が聞こえてくる気さえする。

 

「私はからかわれるのが嫌いだ。」

「ぐおおおお!こ、この感じも久々……。で、でも今回はアタシの勝ちだから耐えれるしーっ!アッハッハ!ざまーみろ!」

「貴様……!いいだろう、その空っぽの頭……握り潰してくれる!」

 

 拷問とすらとれる千冬のアイアンクローにすら、昴は黒乃が姉と呼んでくれたという理由だけで耐える。むしろ高笑いをして見せる昴に、千冬もムキになったのか更に力が腕に入る。それでも勝ち誇るのを止めない昴に、もはや千冬は頭を握る理由を失いかける。

 

 そんな2人の様子を、黒乃は変わらぬ無表情で見守り続けた。内心では、オロオロとし放題なのだが……やはりそれも察して貰えるはずも無い。いい加減に諦めた黒乃は、謎の光景が繰り広げられる空間でただ無心で居続けた。それからしばらくは、キレ気味でアイアンクローをする千冬と、アイアンクローを喰らって高笑いをする昴が繰り広げるカオス空間を静観し続ける……。

 

 

 





……こんな感じでどうでしょう。
とりあえず、情けない大人達に描写する予定ではなかった事はご理解ください。

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