八咫烏は勘違う(旧版)   作:マスクドライダー

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番外篇パート2。
今回はリクエストをいただいた内容になります。
リクエストしてくれた方、本当にありがとうございます。


今回のお話は、あくまで「もしも」なお話です。
本篇とは全くと言っていいほど関係は無かったり。
ですから、本篇とは切り離してお楽しみください。


番外篇 IFストーリー
もしも黒乃が喋っていたなら


 日は沈みまた昇る。今日も今日とて、IS学園に朝がやって来た。人それぞれ個人差はあれど、生徒達はどこか慌ただしい様子でそれぞれのすべきことをこなす。例えば朝食など……。大和撫子な侍ガールこと、篠ノ之 箒もまたその1人である。いざ箒が食堂に向かおうと廊下を歩いていると、その背後に忍び寄る影が……。

 

「グッモーニン!」

「ひぃっ!?こ、この……毎朝のように胸を揉みながら挨拶するのは止せと言っている!」

「え~良いじゃん、減るもんじゃないんだしさぁ。」

「だ、だいたい……大きさはお前も同じような物だろうが!」

「自分の揉んだって楽しいはずがないでしょう?と、いうわけで~……ここか?ここがええのんか!?」

 

 まるでニンジャの如く箒の背後に接近し、後ろから豊満な胸を鷲掴みにする者が。どこからどう見たって完璧美少女なのに、色々と残念なことに定評がある。そんな少女の名は、藤堂 黒乃。女性に対するセクハラにかけては命を賭けていると言っても過言ではない。

 

 その要因には、実のところ中身がオッサンという事もあったりするのだが……ここでは割愛しておこう。胸を触られ……と言うよりは割と本気で揉まれている箒は、妙に手つきがいやらしい為に頬を紅くしながら抵抗を見せた。すると一瞬の間に黒乃を振りほどくと、見事な合気で投げ飛ばす。

 

「ええい……致し方なし。成敗!」

「うぇぇぇぇい!?」

 

 黒乃はかなり豪快に投げ飛ばされた。廊下に到達したのに勢いは死なず、しばらくズザザーっとスライド移動した。やり過ぎたかと思ってしまう箒だが、そんな考えは次の瞬間に消え失せる。何故ならば、黒乃が恍惚の表情を浮かべて身をくねらせているから。

 

「おぉおふ……キタコレ!背中打ってむせる感覚……堪らん、ナイスブン投げモッピー!」

「そうか、そうだったな……黒乃にとっては褒美にしかならんのだった。それと、その呼び方は止めろと言っている。」

 

 この少女……というよりオッサンは、生粋のマゾヒストである。美少女及び美女から受ける物理的痛み、精神的痛みは総じて悦びへと変える性質をもつ。黒乃と友人関係が保てている自分を不思議に思いながら、箒は頭が痛そうな仕草を見せる。

 

「朝っぱらからなにやってんだよ……クロ。」

「おう、お早うイッチー!今しがたノルマ達成したとこ。イエーイ。」

「はいはい、イエーイ……。」

 

 痛みと言う名の快感……その余韻に黒乃が浸っていると、覗き込むようにして難しい表情を見せる男子が1人。この学園での唯一の男子、織斑 一夏だ。家族同然である一夏にとっては、妹分ないし姉貴分の奇行が悩みの種らしい。しかし、半ばあきらめかけているのか、倒れっぱなしの黒乃が求めたハイタッチに答えた。

 

「ってかさイッチー。クロって呼ぶの犬とか猫っぽいから止めてって言ってるじゃん。」

「クロこそ、俺をイッチーって呼ぶのとか箒をモッピーって呼ぶの止めないだろ。だからお互い様だ、なぁ?モッピー。」

「お前はケンカを売ってるのか!?」

 

 ハイタッチの後に一夏がさりげなく手を差し出すと、黒乃はその手を取って引き起こしてもらう。立ち上がりながら長年言い続けた抗議をしてみると、お互い様だと言われて反論の余地がない。黒乃がぐぬぬと歯噛みしていると、一夏が箒をモッピーと呼んだ事でクスッと笑ってしまう。

 

「笑い事ではない!近頃は他クラスまで広まっているんだぞ……どうしてくれる!?」

「良いんじゃないのか、そのくらいで。箒の場合は近寄りがた過ぎるんだよ。」

「フフフ、何を隠そう……モッピーに親しみをもってもらう為の作せ―――」

「はい、ダウト。」

「てへへ、バレちった!」

 

 箒はズビシと黒乃を指差しながら怒鳴るが、一夏は親近感が沸いて良いと言う。すかさず黒乃が妙に格好をつけながら作戦だと主張しようとするが、言い切る前に嘘だと指摘されてしまった。認めるのも何か負けた気分になるのか、黒乃は舌を出しながらテヘッとおどけてみせる。

 

「フンッ……付き合ってられん。」

「とは言いつつ最後まで付き合ってくれるモッピーってばマジツンデレ。」

「クロ、いい加減にしとかないと俺は知らないからな。」

 

 それまで足を止めていた一同だったが、箒がそっぽを向きながら歩き出す。黒乃の態度に機嫌が悪くなったのではなく、一夏と黒乃の息の合ったやり取りを見たせいだろう。そんな事を考えもしない2人は、相も変わらずな様子で箒の後を追いかけた。

 

 途中に一夏にこれ以上は手助けしないと言われた黒乃は、至って普通な態度で世間話を始めた。そこでようやく箒の気分も落ち着いたのか、原初の幼馴染組は和やかムードで廊下を歩く。このまま調子よく食堂へ……とはいかなかった。黒乃が何かに反応を示して歩を止めたのだ。

 

「これは……セシリーの尻!」

「……なんだって?」

「前方数メートル先にセシリーの尻の反応を感知!尻、撫でまわさずにはいられない!」

「一夏、時々思うのだが……。」

「思っても何も言わないでくれ、頼むから……。」

 

 目視はできない距離だと言うのに、確かに廊下の先にはセシリアの桃尻があった。どういう原理でそれを感知したのかは知らないが、黒乃はダッシュでセシリアの尻へと迫る。そんな残念美少女の幼馴染を前にして、2人はやはり頭が痛そうだ。家族同然の一夏からすればなおの事らしい。

 

(セシリーの尻、セシリーの尻、セシリーの尻!)

「藤堂おおおお!」

「うおおおっ、ビックリした!?何さちー姉!」

「何さじゃないこの馬鹿!朝から嫌な予感がするかと思ったらやはりお前か!あと、織斑先生だ!」

スパァン!

「ありがとうございます!」

 

 猛然とセシリアの尻目がけて走っていると、後方から鬼の形相で千冬がやって来た。驚きから思わず足を止めると、向こうも向こうで黒乃の奇行に対してセンサーが働くようだ。憤りからか思わず出席簿で黒乃の頬をひっぱたくが、感謝をされて自らの過ちに気が付いた。

 

「はぁ……お前と言う奴は、いったいいつから道を違えた……。」

「違えた……?違えてなんかいやしない!私にとってセクハラとは……生命維持活動に等しい!」

「最低な事を堂々と言うな馬鹿が……。」

 

 幼いころから黒乃の保護者をしていた千冬の言葉には、どこで教育の仕方を間違えたのか……と言う意味も込められていた。しかし、黒乃はあくまで必要な事だと言い張る。それに対してゴミを見るような目、かつドスの効いた声色だったせいか……黒乃は息を荒げて身を震わす。

 

「悦ぶな!この変態めが!」

「アザース!」

「褒めてない!なんでまた少し照れながら感謝するんだ貴様はああああっ!」

「放っておいて良いのか?」

「放っとけ放っとけ。どうせ朝ご飯食べ損ねたって半ベソかくのがオチだろうから。」

 

 天然で繰り広げられる2人の漫才を余所目に、追いついた一夏と箒は横を通り過ぎていく。俺は黒乃の事を良く解ってます。そんなニュアンスの発言を一夏がするせいか、箒は少しだけムッとした様子だ。そして、だんだんと離れていく黒乃の姿を見た一夏は思う。

 

(どうして俺は、あんなの好きになってんだろ……。)

 

 

 

 

 

 

「朝ご飯食べ損ねた……。」

「やっぱりな。」

 

 ほら見ろ、やっぱり想像通りだ。俺達と少し遅れて教室に入ったとするなら、クロはずっと千冬姉と漫才をしていたんだろう。そしてホームルームが終わるや否や、こうしてメソメソしながら机に突っ伏す。今日は昼までに実戦訓練があるし、何も腹に入ってないのは力が出ないはず。

 

「やっぱりって……オチが読めてたなら止めてよイッチー。」

「クロの自業自得。俺はいつもそう言ってるぞ?クロが反省しないのがわるい。」

「……クロって呼ばんといて。」

「露骨に話をそらすなよ。」

 

 俺に向かって、クロは可愛らしく頬を膨らませながらブーブーと文句をたれた。残念ながら、暴走特急のストッパー的役割を果たしている俺の方が強い。至極真っ当な正論をぶつけると、反論の余地がないのは自覚があるのか目を逸らしながら話題を変えてきた。もはや何100回と繰り返してきたやりとりだ。

 

「犬っぽくて嫌って言ってるけど、もう犬だろ。俺の言う事はキチンと聞くし首輪してるし。」

「チョーカーって言いなさい。なんか危ないから。」

「……クロ、お手。」

「ワンワン!」

「……おかわり。」

「ワンワワン!」

 

 なんというか、相変わらずクロはノリの良い事だ。犬であるというのを否定した直後にこれだ。俺がお手と掌を見せれば、瞬時に右手を乗せる。すかさず反対の掌を見せれば、同じようにして反対の手を乗せてきた。あまりの可愛さのせいか、少し硬直していまう。可愛い。なんだこの可愛い生物は。

 

「……自分でやらせといて黙らんでよ!?」

「あ、ああ……悪い。」

「ったく、優しい私に感謝しなよ……イッチー?これがモッピーならぶっ飛ばされてるかんね。」

 

 俺が黙ったのが不服なのか、手をバッと退けながらクロはそう言う。これは確かに俺が悪かったろう。素直に謝ると、クロはよほど恥ずかしいかったのか頬を紅くしながら呟く。まぁ……箒ないしその他もろもろなら確実に怒られているはず。そんな事よりは、やはりクロが俺をイッチーと呼ぶのが気になった。

 

「何……?そんなにイッチーって呼ばれんの嫌ですかい。」

「……俺は、クロにちゃんと名前で呼ばれたいんだ。ずっと昔からな。」

「そ、そうなん?それならそれで言ってくれれば良いのに……その、なんかゴメン。」

 

 意を決して俺がそう告げると、クロはいきなり慌てだした。思いやりのある奴だから、多分だけど俺が昔から嫌がっていたとでも思ったのだろう。普通ならここでフォローを入れるのだろうが、クロがこんなのは珍しい。……俺の中の悪魔が囁く。クロに意地悪してやれってな。

 

「俺がお前をなんでクロって呼ぶと思う?」

「え……なんでだろ。見当つかないや。」

「仕返しだよ、仕返し。俺の事をイッチーって呼ぶからだ。」

「マジでそんなに嫌だった!?あ〜……あの、その〜……。」

 

 俺が割と真剣な顔つきでそう言ってやればあら不思議。クロは更に本気で信じ込む。アホの子可愛いとかポンコツ可愛いとか言う奴なのだろうか。オロオロとして見ていられない感じがとてつもなく可愛い。さて、これ以上は可哀想だからもうそろそろ止めにしておいてやろう。

 

「冗談だよ、クロ。別に呼びたければ好きに―――」

「は?意味解らん事言うなよ。いきなりそんな嘘ついて。」

「いや、別に俺は本気で―――」

「言ってたよね?本気で。私がキミの嘘を見抜けないと思うかね。何年家族やってると思ってんの。」

 

 ……確かに意地悪だけのつもりではなかった。できれば、クロには名前で呼んでほしい。そんな思いが膨れ上がって一連の流れが出来たわけだが……。クロは卑怯だ。時々そうやって、キチンと俺がどういうつもりなのかを見透かす。その割に、核心的な部分は変な受け取り方をしやがって。

 

「もし本当に嘘じゃないってんなら、私の目を見ながら言ってみな?」

「…………。」

「ほら、目ぇそらした。」

「ち、違う!顔が近いんだよ!」

「あ、マジか……。でも照れなくても良いのに。」

 

 椅子に座ったまま話していたが、クロは腰を浮かせて俺の肩を掴みながら目線を合わせる。クロの瞳は、いつ見ても吸い込まれそうな黒色で……。照れからかふいっと顔を横に向けてしまうと、クロには嘘を見抜かれてバツが悪いからだと思われた。その後に照れるななんて言うが……無理を言うんじゃないよ。

 

「と・に・か・く。名前をちゃんと呼ばれたいってのは本心でしょう?」

「……ああ、まぁな。」

「じゃ、これからは一夏って呼ぶよ。で、今までゴメン。私は一夏の気持ちなんて考えた事なかった……。」

「謝るなよ。単に……俺のワガママなんだから。」

 

 黒乃の口から『いちか』と発音されるのは随分と久しぶりだ。ちゃんと呼ばれた試しがないだけに、俺は心躍る気持ちになっている。しかし、すぐさま黒乃に謝られてハッとなってしまう。別に……黒乃が謝る事じゃないんだ。俺が……もっと素直でいられれば、何の問題もなかったはずだから。

 

「……何悩んでんのか知らないけどさ、考えるだけ無駄だと思うよ?だってバカじゃん。」

「黒乃だけには言われたくない!」

「あ?あぁ……違う違う。バカっつっても貶してるわけじゃ無くてだね、俺の馬鹿とはまたベクトルが違うっていうかなんというか……。」

 

 俺が難しい顔をしていたせいか、バカなんだから悩むだけ無駄だと言ってきた。確かに俺はバカだ……そこは認めよう。しかし、俺の中では黒乃に言われたくない台詞ナンバーワンである。だけど、どうやら黒乃は単純に俺をバカだから悩むなと元気づけようとしたわけじゃないらしい。

 

「ほら、欠点だって裏を返せば美点だと思うし……。一夏のバカさってのは特にさ。」

「どういう意味だよ?」

「愚直で真っ直ぐでひたむきに前へ……みたいな姿勢かな。それ、私はすげぇ事だって思うけどね。だって間違いなく私にはそんな生き方出来ないもん。だからなんつーの?突っ走ってる一夏の背中見てるとさぁ……なんか安心する。あぁ……今日も前に居てくれるんだなって。」

「…………。」

 

 これも……卑怯なんだよ。黒乃は何も考えていないようで、時たまだが賢い発言が飛び出てくる。何が卑怯って、他人を褒める際には高確率でこんな感じだ。自分の事を良く見てくれているんだなって、そういう気にさせられてしまう……。何の恥ずかしげもなく言うからまた卑怯だ。

 

「そんな一夏を見て、私も頑張んないとな~……なんて思うときだってあるんだよ?だからさ、背中丸めたり後ろ気にしながら突っ走るのは止めよう?下手すると転んじゃうから。」

「……俺にだって悩みたいときくらいあるっての。」

「ん~……それも言えてる。あ、じゃあさ……一夏の背中は私が見張るよ。んでもって、転んじゃったら助け起こしてあげる。もし立ち止まっちゃうような事があるんなら……私が背中を押してあげる。」

(……そうか、簡単な事だったな。)

 

 何で俺がこんなの好きになったかって、こういうところがそうなんだ。黒乃はいつだって俺の隣に居てくれて、こうやって欲しい言葉をくれる。こうやって手放しに……愛を与えてくれる。黒乃の場合は深く考えても無く出てくる言葉だろう。でも、だからこそ……そこには表裏なんて無く、純度100%本心からの言葉って証。

 

 俺にとってそれが、どれだけ救いになってるかも知らないで……。違うんだよ黒乃。もし仮に俺が自分の道を突っ走っているのだとして、それは……意識しなくたってお前が居てくれたからなんだ。お前が居るから頑張れる。お前が居るから前に進める。お前が居るから……笑っていられる。

 

 けど、黒乃が自分の口からそう言ったって事は……これからはより一層そうなると思っても良い。それは嬉しい限りだが、このままではダメだ。黒乃がそうしてくれたように、俺も黒乃を支えたい。だから……いずれか一方が引っ張ったり背中を推したりでなく……俺は、黒乃と一緒の歩幅で、黒乃の隣を歩いていきたい。

 

「じゃあ、悩むの止めるな。」

「おう、そうしなさい。時間の浪費でしかないよ~っと。」

「悩むの止めるから……言うな。黒乃、好きだぞ。」

「うん……?うん、私も一夏の事好きだよ?何当たり前の事言ってんのさ。というか、そんなんで悩んでたんだ。」

 

 ……これはアレだ、恐らく家族として受け取られているパターンの奴や。なんだこの……なんだこのあっけらかんとした様子は、凄い腹立つ。いや……確かにサラッと言った俺も悪かったかも知れん。だが、もう少し何かあっても良いんじゃなかろうか。……この後の黒乃の台詞は―――

 

「なんで私が一夏の事嫌いになると思ったかが不思議でならんよ。安心しなって、これからも私はずっと一夏のお姉ちゃん兼、妹兼、幼馴染だからさ!」

「やっぱりな……。違う……そうじゃないんだよ……。」

「あり、悩まないんじゃなかったの?」

 

 悩みの種はお前だよ、お前。なんか……気力を削がれた気分だ。何かやる気が出て来ない。はぁ……もっと時と場所を選んでから、再度想いを告げる事にしよう。だが、黒乃の場合はそれでも伝わら無さそうで怖い。いや……いつしか必ず黒乃と添い遂げてやる……!

 

「というか、黒乃ってホントにたまにまともな事を言うよな。なんか同い年な気がしない時がある。」

「ああ、だって私は精神年齢だけで言うと40近いからね。伊達に人生1回やり直してないよ。」

「はいはい。」

「はぁ~その態度は信じてございませんな?何回か言ったじゃん。私はとある日に神様に殺されちった哀れな大学生で―――」

 

 出たよ、黒乃の自分はオジサン発言。交通事故以来なんだが、やっぱりコレって後遺症の一種なんだろうか。今までは適当に流していたが、なんだか心配になって来たぞ……。でもなぁ……脳に異常がないのは割れているんだし、いったいどういうつもりでこんな発言をしてるんだか。

 

「一夏、聞いてないっしょ。人の話を聞かない子には制裁です!」

「いたたたた!止めろ馬鹿!頬が千切れるっての!」

「一夏ってば相変わらず大げさなんだから。とりあえず後10秒耐えてみようZE☆」

「この……なんで自分の怪力にそんな無自覚で……!」

 

 俺が考えを巡らせていると、いきなり頬へと痛みが走る。何事かと思っていると、黒乃が不満気に俺の頬を抓っているではないか。それを理解した瞬間に、痛みが更に倍増した。このお馬鹿さんってば、何故だか自分が大した力のない非力な奴だと思っている。そのおかげで、俺は頬を万力にでも挟まれているよう錯覚してしまう。

 

「イチャつくなら余所でやれバカップル。」

「あだっ!?」

「ありがとうございます!」

 

 頬の痛みに意識が向いていたせいか、時間が差し迫っている事に気が付かなかった。ふいに現れた千冬姉は、もの凄く余計なお世話な発言をしながら俺と黒乃の頭を出席簿で叩く。黒乃にとっては相変わらずご褒美か……。はぁ……なんで本当。

 

(こんなの好きになったんだろ……?)

 

 

 




本当はもっとカオスだったんですけどね、収拾がつかなくなったので。
本篇ではなかなか良いとこナシの一夏に出張って貰って無理矢理にでも丸く収めました。
ちなみに黒乃が自分の事を「私」と言っていますが、コレは千冬に矯正されただけです。
なので、この次元の黒乃もまだ精神的には男性寄りだとお考えください。

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