八咫烏は勘違う(旧版)   作:マスクドライダー

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こちらは主人公視点でのお話になります。
何を考えて、何を周囲が考え過ぎているか。
表と裏で、照らし合わせてみてください。





第17話・裏

『黒乃、選考会に出てみる気はないか。』

 

 遥か遠くのドイツの地から日本へいる俺へ、ちー姉からのテレビ電話が届いた。誘拐事件に際して、俺とイッチーの居場所を提供する見返りとしてドイツでの教官を果たしているのである。ドイツと日本の時差は8時間……向こうは深夜だろうに、こっちの都合に合わせてくれたのかな。

 

『強制はしないが、出るつもりがあるなら私から推薦しよう。私が言えば通じるはずだ。』

 

 おお、凄まじい程の自信だな。まぁ……この世界におけるちー姉の地位といったら、それはもう絶対的とも表現できる。だとすると、せっかくだから出るだけ出てみようかなぁ。選考会となると、何かしらISで戦う事になるのだろうけど……。

 

 いわゆる先行投資って奴だ。出るだけ出ておけば、何かしら今後有利に働いてくれるかも知れない。例えば、IS学園の受験とかね。いくら試験が模擬戦のみとはいえ、履歴書にそういうのが載れば印象も違うはず。俺は、ちー姉の言葉に強く頷いた。

 

『そうか、解った。細かい事は私と昴に任せろ。黒乃は何の心配もしなくていい。』

「…………。」

『それではな。一夏の世話は頼んだぞ。』

 

 そう言うと、ちー姉は携帯の通話を切った。イッチーの世話ねぇ……心配する事はないと思うけど。だって、イッチーってばもはや主夫だもん。至れり尽くせりって言うか、大概の事はできてしまう中学生男子ってハイスペックですわ。

 

 ところで話は変わるけど……センコウカイってなんの選考会……?いや、ISに関係あるってのは解るが……。いったい何を考えて選ぶ会なかが、皆目見当がつかない。ちー姉の口ぶりからするに、知っていて当たり前みたいな感じだったけど……俺には常識は通じんぞ!……威張って言う事じゃぁないね。真剣に考えてみるとすれば、そうだな……国同士の対抗戦に出るメンバーを決めるとか?

 

 サッカーとかでもあるよね、アンダー18とか23とか……。実際のところ、ISの団体戦とかも普通にテレビで放映される世界観ですし。じゃああれかな、候補生未満のIS乗りが対象か。そうすると、まさに俺はビンゴなわけじゃん。……嫌だなぁ……メンバーにはされたくないものだ。

 

 まぁ、そんなに心配しなくても大丈夫か。どうせ俺が全力でやったって合格の札が上がるはずも無し。そもそも選考会自体に出るのも本当は乗り気じゃないけど、せっかくちー姉が誘ってくれたってのもある。やっぱり出るだけ出て、とっとと不合格の通知をもらうとしよう。

 

 そうして数日後、選考会当日がやってきた。送迎に関しては、今回も昴姐さんがしてくれた。そして昴姐さんに連れて来られたのは、単なる訓練施設って感じでは無く……それこそ試験用みたいな作りの建物だ。もしかして、ここが後のIS学園の試験会場だったりして。

 

「係員に事情は通してあるから、安心して良いわよ。んじゃ、頑張りな。アタシは連れの席で応援してるから。」

 

 そう言いながら姐さんは、俺の背中を少し強めに叩いた。姐さんのお言葉は有難いが、頑張る気がさらさらないせいか罪悪感が……。はぁ……一応は真剣にやってみよう。さて、係員の人に参加願いを渡せばいいんだっけ。昴姐さんが書いておいてくれたのか、中身をろくに確認しちゃいないけどね。

 

「…………。」

「あら、藤堂さん……貴女がそうなんですね。とりあえず、あちらの更衣室へどうぞ。順番が来ましたらアナウンスいたしますので、それまで待機していて下さい。」

 

 え~っと、更衣室更衣室……。矢印の書いてある看板に従って、更衣室の方まで歩いてゆく。しばらく入り組んだ場所を進むと、更衣室とハッキリ書かれた部屋の扉を見つけた。ゆっくり静かに足を踏み入れると、既に中に居た数人がこちらを見てくる。……この時点で、もの凄く帰りたい。

 

 だがそれも一瞬の事で、各々イメージトレーニング等をして自分の世界へと入り込む。真剣であればあるほど、緊張も増していくよね……解かる解かる。解るけど、やっぱり俺はそうなれないなぁ。とっととISスーツに着替えて、俺の番までボーッとしておくか……。

 

 着替え終わって、ベンチに座って待っているんだが……視線を感じるな。もしかして、余裕ぶってるとか思われてるかも。今から誰かと戦うって意味なら、余裕なんて全くないですぜい。不合格でもいいやって思ってるのは、余裕があるのとは違いますからね。ま、気にしない気にしない……。

 

『藤堂 黒乃さん、藤堂 黒乃さん。準備が整いましたので、第1ピットまでお越しください。』

 

 ……ハッ!?何、俺の番……?いやぁ、待たされた待たされた。って言うかもう……最後の1人じゃん。ほんのわずかだけど、転寝する間があったじゃないか。俺は背伸びをして体をほぐすと、立ち上がって指示された場所を目指した。迷子にならないように注意してっと……。

 

 第1ピットとやらに辿り着いてみれば、数人のスタッフが忙しそうに動いていた。打鉄とラファールを選べと聞かれるが、当然ながら打鉄を選択。その後は機体の調整とかを大急ぎでさせられて、そのまま出撃させられる。最後の1人なのに、何でこんなに急かされんとアカンのや……。

 

 若干心の中で文句を言いつつ、カタパルトから飛び出た。すると相手は……大人?え、マジ……?俺はてっきり、同じく選考会の参加者との模擬戦かと思ったのに……。打鉄を装着した女性の年齢は、見た限りでは完全に20代だ。つまり、それだけ経験豊富なわけで……。マジかぁ……ヤだなぁ……。

 

「それでは、ルールの説明をします。試合開始から制限時間5分で、私と模擬戦をしてもらいます。勝敗は特に関係ありません、5分間どれだけ戦えるかを見ますので。……よろしいですか?」

「…………。」

「それでは、所定の位置にお願いします。」

 

 よろしいも何も、やらなきゃなんないならしょうがないじゃないですか(半ギレ)。とりあえず頷いて応答してから、開始位置へと移動を開始した。憂鬱な気分が増しているせいか、反比例するかのようにやる気が削がれてゆく。それじゃ、開始の合図を待ちましょうか……。

 

『試合開始!』

 

 待ちましょうかっつってんでしょ!(全ギレ)。心の準備も出来ていないのに、開始位置に着いた時点で即ブザーとか……何の嫌がらせだよ。お姉さんも葵を構えて向かって来てるし……でぇい!やってやるぜ!俺も葵を構えると、お姉さんに向けて真っ直ぐ向かう。そして、葵と葵の刃が触れ合った。

 

「…………っ!」

「これは、やりますね……!」

 

 ひ、ひぃぃぃぃ……刀の刃が、こんな目の前にぃ……。い、いや……生身で銃を乱射されたよりは怖くない。ドイツでの経験は、ちょっぴり俺を強くしてくれた……気がする!とにかく、いつまでも鍔迫り合いをしていたって仕方が無い。剣道経験者である利点を生かして、反撃に転じ――――。

 

「動きが遅いですよ!」

 

 ――――ようと思っていたら、お姉さんの方が先出しだった。腕を前に押し出すようにして、少し後ろへ後退させられる。その間を逃さずに、お姉さんは柄の底で俺の顔面を殴ってきた。痛い!……いや、落ち着け!痛くは無いでしょうが。顔面を背けてる間にも、お姉さんの追撃が……。

 

「そこっ!」

「…………!」

「なるほど、これは躱されましたか……。」

 

 あ、危なかった……。お姉さんが更に突きを放ってくるもんだから、慌てて真横にスラスターを吹かして緊急離脱を図る。おかげで、葵の刃は腕の装甲を削る程度で終わった。まぁ……当たっちゃってはいるけれど、細かい事を気にしてたら長生きしない。となれば……反撃じゃコラァ!

 

「くっ!」

 

 我が奥義・とにかく滅多切りを味わうが良い!だが太刀筋は綺麗ゆえ、一概に適当な攻撃とは言い難いな。事実お姉さんは、防戦一方なのか反撃してこない。よしっ、このまま押し切って……その胴体をバッサリ斬らせていただく!重い一振りをお姉さんの葵目がけて喰らわせ、完全に無防備な状態に出来た。そこを狙って……斬る!

 

「キャアッ!?接近戦では、こちらが不利ですか……なら!」

 

 お姉さんの身体に葵を深く斬り入れられたのは良い。けれどお姉さんは、不利と判断するや否や猛スピードで後退していった。うわーっ!?遠距離は……銃撃は勘弁してぇ!なんていう俺の思惑とは裏腹に、お姉さんはとっくの昔にロングレンジ以外の何物でもない場所に居る。

 

「これでっ……!」

 

 遠くからでも五月蠅いくらいの発砲音が、お姉さんの持ってる打鉄のアサルトライフル……ええと、焔備から放たれる。同時に弾丸も迫ってくる訳ですが、そんなのハイパーセンサーがあったって視認できんよ!距離が開いているだけ威力は落ちるものの、バンバン絶対防御が発動する場所に当たる。

 

「足を止めるようではまだまだですね!」

 

 だって怖いんだもの!でも、そう言われたら流石の俺でも悔しいぞ。銃が使えないんだから、とにかく無理やりにでも接近するしかない。俺はショルダータックルを繰り出すような体勢をとって、打鉄の防御シールドを前面に出す。そのまま……突っ込む!

 

「玉砕覚悟ですか……?それも評価には値しませんよ!」

 

 もちろんだが、お姉さんは俺に銃撃を続ける。くぅっ……シールドに弾がガンガン当たる音が怖い!だけれど運がいいぞ……お姉さんは比較的にゆっくりと移動しながら射撃を続けている。この分だったら、いつか追いつける。まぁそれも、近づけば離れられるんだろう……けど。

 

 おぉ……ここまで狙い通りに行動してもらえると、なんだか怖くなってくるな……。けれど、コレを逃しちゃ本末転倒だ。俺の正面から横へ回り込むタイミングを見計らって、俺は急激に方向転換をした。そう……今までは距離を取られる逃げ方をされたけど、回り込む動きはそう距離は変わらない!

 

「しまっ……くっ!」

(まだまだぁ!)

「キャアアアア!?」

 

 そのままシールドを使ってチャージタックルを喰らわせると、お姉さんは派手に吹き飛んだ。お姉さんの体勢が整わない内を狙って、絶対防御の発動する箇所へと連続斬りを浴びせる。そこは経験豊富なお姉さんなだけあって、体勢が整い次第に離脱を開始した。その際に射撃を行う所を見るに、このまま止めを刺すつもりですな……。

 

「お返しです……って、えぇ!?」

 

 もうそんなん関係ないもんねーっ!だって、SE残量的に俺の方が優勢だし!そっちが止めのつもりなら、こっちだってそうですよお姉さん!弾丸が生身に当たりまくって、小便ちびりそうだけど……。驚いている今がチャンス!トップスピードで接近して葵を……は……ふぁ……ハァックショイ!

 

 うぇい……思いきりクシャミが出た……気を取り直して。このまま接近して、葵で斬りかか……あり?さっきまでしっかり握っていたのに、葵が俺の手元から消え失せている。う~んと、何処に……ってどああああ!?ブンブンと空を斬り裂きながら……お姉さんに飛んで行ってるぅぅぅぅ!アレか、クシャミか!?クシャミの勢いで変な操作をしちゃったか!?

 

「なっ、このタイミングで投擲……!?」

 

 そりゃ驚くよね、俺が驚いてるんだからお姉さんは数倍ビックリだよ!だ、だが……なんとか意表を突く事には成功した。い、いや……むしろ最初からこれが目的だったのだ!アッハッハ!……さて、銃は苦手だけど……焔備に頼るしかない。俺はパススロットから焔備を呼び出すと、お姉さんを狙って乱射した。

 

「…………へ!?」

 

 ば、馬鹿なぁああああ!?どんだけ射撃下手くそだよ……俺!俺が放った弾丸は、吸い込まれるように飛んで行った葵に命中した。当然お姉さんにはダメージがゼロで、葵が天高く舞い上がっただけだ。い、いや……まだだ!予想外な事が連続して、更にお姉さんは困惑している。

 

 俺は怒りと共に焔備を投げ捨てると、進路を葵の方へと切り替えた。舞い上がっている葵を引っ掴むと、そのまま高度を下げてお姉さんに振り下ろす!最高な事に、お姉さんは困惑の影響で対処が遅れているのが見て取れる。よっしゃぁ!その首……もろたで工藤!

 

『制限時間5分が経過しました。模擬戦を終了して下さい。』

 

 な、何ぃ!?とてつもなく良い所で試合終了の合図が鳴って、俺はギリギリのところで刃を止める。葵の切っ先は、お姉さんの頭に触れるか触れないかの所だ。絶対防御があるから平気とは言え、人の頭を斬りかけて……うぉえ!お姉さん斬ったのを思い出して、吐き気が……うっぷ!喉の奥が酸っぱい……。

 

「お、お疲れ様でした……。結果は後日に通達されるので、楽しみにしておいて下さいね。」

 

 あ……ど、どもっす……。お姉さんが握手を求めて来たので、それにはしっかり答えておいた。結果は……負けみたいなもんだな。突っ込み始めた時は優勢だったけど、避けずに当たりまくったのが祟って逆転されてしまっている。でも、全力を出したうえに負けるって理想的じゃん。うんうん、悔しがる必要はあーりません!

 

 そうと決まればとっとと帰ろう。俺はお姉さんに一礼してから、第1ピットを目指してゆっくりと飛ぶ。打鉄を解除して着替えを済ますと、待ち受けていたのは昴姐さんだ。姐さんは無言で俺の頭をガシガシ撫でるけど、別に悔しかないですよ?まぁ……姐さんに撫でられるとか貴重だから、大人しく受け取っておこう。

 

 

 

 

 

 

「おっす、来たね黒乃。ホラ、これは選考会の結果だよ。まぁ見るまでも無いけど、アンタが自分の眼で確かめなさい。」

 

 選考会から数日後、養成所へと向かうと昴姐さんに茶封筒を渡された。そこには確かに、藤堂 黒乃様と俺宛てである事を主張する文字が書かれている。しかし、とんでもない皮肉を昴姐さんに言われたな……。見るまでも無いって、そりゃ確かに落ちる気満々だったけどさぁ……。

 

 まぁ良いか、昴姐さんの言葉も間違ってないんだから。俺は茶封筒を丁寧に開けて、中から3つ折りにしてある紙を取り出す。え~っと、なになに……拝啓、時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます……って、別にこの辺りは読まなくても良いか……。飛ばして飛ばして……この辺かな?

 

 えっと、貴女は大変に素晴らしい戦いを見せていただきました。審査の結果、合格と相成りました事をここに記します。つきましては、貴女に専用機を与えると共に日本国代表候補生とする事が決定いたしましたぁ!?選考会って……代表候補生の選考会いいいい!?

 

 そ、そんな馬鹿な……!?どうして……俺、負けたじゃん!あ、そうか……だから勝ち負けの関係じゃ無くて、あくまで力量を計るタイプの試験内容で……。俺が1人で戦慄していると、昴姐さんが俺の読んでる通知を奪い取った。すると昴姐さんは、何故だか納得の表情を見せる。

 

「やっぱりこうなったかー……。いやぁ、なんだかアタシも嬉しくなるな!この話、もちろん受けるでしょ?」

「…………。」

「ハハッ、ごめん……聞くまでもなかったわよね。返事はアタシがしておくから、安心しな。あっ、それと千冬にも知らせといたげる。」

 

 なんだってんだ!こんな時に限って、否定も肯定もできやしねぇ!違うから昴姐さん、言葉は不要か……的な事ではないですから。そんな嬉々としないで!俺の良心()がガリガリとすり減ってゆくぅぅぅぅ……!ど、どうやら俺は……代表候補生になってしまう運命から、逃れられないみたいだ……。

 

 

 

 

 

 

「…………。」

「社長、少しよろしいですか……って、またその映像を……仕事中は控えてくださいと何度言わせるつもりです。」

「そっちこそ、僕はあくまで代理だって何度言わせるのさ。」

 

 某日、とあるビルの一室でそんなやり取りが行われていた。社長と呼ばれたのは男で、社長を注意したのは女性だ。関係性を見るに、社長とその秘書といったところだろう。男は言葉こそ反論的な内容を呟いたが、その表情はニコニコ……というよりニヤニヤしていて、何を考えているのかが読み取り辛い。

 

「良く飽きない事ですね。」

「飽きないよぉ。だって、こんな面白い戦い方をする子を始めて見たし。」

 

 男がそうやってパソコンを秘書の方へ向けると、そこには数日前に行われた選考会の記録映像が映し出されていた。面白い戦いと評価しているのは、時間ギリギリの攻防だろう。防御を捨て突っ込んで来たかと思えば、予想外の近接武器を投擲。更にはそれを狙って射撃をしてみせ、連続で意表を突いてきたのだから……。

 

「彼女、欲しいなぁ……。」

「……藤堂氏ですが、どうやら代表候補生に選出されたようです。」

「本当かい?というか、情報を得るのが早いねぇ。」

「そう何度も彼女が欲しいと聞かされれば、嫌でもそうなります。」

「ごもっともだね。それじゃ、彼女に与える専用機は僕らのアレになるよう根回しもお願いするよ。」

「……お言葉ですが、それは貴方のするべき事です。」

「だから僕は代理だって言ったろ?お飾りみたいなものだってのは、君が良く知ってるじゃない。」

 

 男の口ぶりからして、どうやらISを所持しているらしい。そして一秘書にかなり無茶なお願いをするが、悪びれる様子もなく反論が帰って来る。秘書は、藪を突いて蛇を出してしまったらしい。盛大な溜息をわざとらしくついて見せれば、黒縁眼鏡の端をクイッと押し上げた。

 

「かしこまりました。」

「いやぁ、いつもごめんね。でもこれで、ようやく彼女を手に入れる算段が付いたよ。」

「……はい?し、失礼ですが、彼女が欲しいというお言葉……まさかそういった意味ではありませんよね?」

「うん?彼女はウチの物じゃ無くて、僕の物にしようって意味だけど。」

 

 男の言うウチの物……と言うのは、企業に所属させると言う意味。だとすると後者は、男として黒乃が欲しいと言う意味である事は明白だった。男はまるで、何か問題でも?とでも言いたそうな視線を秘書にぶつけた。盛大に困惑した様子を見せた秘書は、ここぞと言わんばかりに声を荒げる。

 

「貴方は……馬鹿ですか!?」

「いや、だって僕まだ今年で21だし……5歳差くらいなら問題ないよね?」

「そういう問題じゃ……。というか、何故よりによって藤堂氏で……。」

「言い方が悪いなぁ。う~ん……何か彼女からは運命的な物を感じるんだよねぇ。」

「ですから……そういう事を聞いているんじゃなくて……。」

 

 そもそも手中にしたいと言う目的で、専用機を与えようとしている事が問題なのである。秘書は男にそう指摘するが、もちろんそんな事は最初から解っていた。先ほど述べた言葉にも偽りはないが、それとはまた別に目的もあるみたいだ。男は表情を崩さずに、秘書に向かって語りかける。

 

「あくまでついでだけど、あの子ならなんとなくアレも乗りこなせると思ってるんだ。」

「……根拠は?」

「そうだね、なんとなく……かな。早い話が勘だね。」

「……解りました。今は納得しておきましょう。ですが、彼女がアレに乗れないようであれば……。」

「うん。その時は、気のせいだったと思って諦める事にするよ。」

 

 ニヤニヤしながらそう言う男に、絶対諦める気はないなコイツ……と秘書は思う。それでも自分のプロ意識が働くのか、男にかしこまりましたと了承の言葉を伝えた。それはそれとして、自分の要件をさっさと済ます事にしたらしい。秘書は男に資料を渡して退出していった。

 

「……さて、会えるのが楽しみだよ……黒乃ちゃん♪」

(おおう、なんか寒気が……風邪かな?)

 

 モニターの中の黒乃に男がそう告げると同時に、黒乃……の中身のオッサンは、とんでもない寒気を背中に感じた。寒気の正体など知る由もなく、とにかく厚着をしておこうなどと無駄な努力をし始める。どちらにせよ黒乃の中身のオッサンは、自分が狙われている事など露にも思わないだろう……。

 

 

 

 




黒乃→まさか代表候補生の選考会とは……。
丹波→代表候補生入り確実の実力です!

というわけで、代表候補生となります。
専用機等々は、次回で登場させようかと。
それと、最後にチラッと登場した2人も同じくです。
昴と同じで1回きりの出番のキャラではないので、プロフィールも次回のあとがきにて。



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