八咫烏は勘違う(旧版)   作:マスクドライダー

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本篇を進ませなければですが、日曜日の更新はこれだけにさせてください。
大型連休中に沢山更新したから許してや……(レ)

今回のお話はリクエストシリーズ第2弾です。
お題はすでに誰かと恋人同士な展開……です。
此処だけでお察しですが、モロにイチャラブ要素を含みます。
苦手な方はこの時点でブラウザバックをお願いします。

それでお相手はですね、これもタイトルでお察しかと思われますが……。
鷹×黒となっております。鷹×黒になっております。
鷹丸を生理的に受け付けないという方もここでブラウザバックをオススメします。
リクエストをくれた方が明らかに鷹丸推しだったので優先させてもらいました。
需要があれば一夏ルートや弾ルートも書きます。
何かありましたら、また活動報告の方にて一言よろしくおねがいします。

さて、説明すべき事が多くて長々と話してしまいました。
それでは、何でも受け入れられるよという方はここから先をお楽しみください。


鷹と烏は共に羽ばたく

「あの~……織斑先生?」

「はい、どうかしましたか山田先生。」

「なんと言いますか、コレをどう解釈して良いのだか解からなくて……。」

 

 IS学園は昼休みに入り、職員室にもゆるりとした空気が流れていた。かくいう千冬ものんびりしていたのだが、困った様子の真耶に話しかけられ眉をひそめる。その手に持っているのは小テストだった。昼休みの間に採点をしようと思っていた真耶だが、どうしたら良い物かと思わされる事でもあったのかも知れない。

 

「藤堂……さん?というか、黒乃さんのプリントなんですけれど……。」

「藤堂?何か藤堂の回答に不都合でも―――」

 

 真耶とて、この件に関して千冬に相談すべきかどうかは迷いに迷ったのだ。だが、紛い成りにもクラスの事でもある。意を決してプリントを渡した真耶だったが、やはり後悔しているようだ。何故なら、千冬が石のように固まっているから。ではどうして固まっているかと言うと―――

 

「……山田先生。これは私の見間違えでしょうか?」

「げ、現実です!だからどうしようかと織斑先生にご相談を―――」

「どうして名前欄に……近江 黒乃と書かれているんだああああっ!」

「ひゃああああっ!?ど、どどどど……どうして私に怒るんですかああああ!」

 

 そう……黒乃の苗字はと質問すれば、当たり前のように藤堂だと返ってくるだろう。しかし、名前の欄には丁寧な字で近江 黒乃と書かれているのだ。混乱の境地にある千冬は、つい目の前に居る真耶へと怒りをぶつける。そしてその怒り冷めやらぬまま、ハウリングを起こさせつつ校内放送で叫んだ。

 

「藤堂 黒乃と近江 鷹丸の両名!今すぐ第1生徒指導室に来い!今すぐにだ!」

「あ、あの~……織斑先生……。あぁ……行っちゃいました。」

 

 とりあえずは落ち着くよう促そうとした真耶だったが、まるで稲妻のような速度で千冬は職員室を去って行った。やはりまずい事をしてしまっただろうかと真耶はオロオロ……。よくよく考えれば、遅かれ早かれ発覚する事だったろう。真耶が気にする必要はない……と言える余裕がある者は職員室に存在しなかった。

 

 そして件の第1生徒指導室。千冬はまるで修羅のようなオーラを放ちながらパイプ椅子に腰かけていた。昼休みという時分もあってか、そうすぐ2人はやって来ない。至急だと思っているだけになおさら遅く感じられる。それからしばらく、それぞれ無表情とニヤけ面の男女が顔を見せた。

 

「良く来たなお前達。」

「うわぁ良い笑顔ですねぇ。声とギャップがあって2割増しで恐ろしいですよ。」

「ハッハッハ。私が笑っている内に座るんだな。」

(こ、怖っ……!?)

 

 一夏だろうが黒乃だろうが、絶対にお目にかかれない笑顔で2人を出迎えた。修羅のオーラはそのままに……。鷹丸はいつも通りに余裕綽々。黒乃は戦々恐々といった感じで同じくパイプ椅子に着席。その数瞬後の事だろうか。千冬は机に小テストをバァン!と叩きつけ、ズイッと顔を黒乃に近づける。

 

「これはどういう事か説明して貰おうか?書き間違えました……なんて言わせんぞ。」

(…………あ。あ~……書き間違えました。)

「何故首を縦に振った!?まさか本当に書き間違えましたとでも言うのか!」

(だ、だって……本当に近江 黒乃だし。プライベートで最近ずっとそっちしか書いてなかったから……。)

「嫌だなぁ、何も書き間違えてないじゃないですか。だって僕達―――」

「言うなああああっ!何で黒乃が近江と書いたか察しがついてるんだよ私はっ!だからこそ認めてたまるかそんな事おおおお!」

「夫婦ですから。」

「」

 

 黒乃が本気で書き間違えた事を肯定し、鷹丸がだって僕達と言いかけた時点で……千冬はそれまであったある考えに確信がついた。解ったからこそこの話を早々に打ち切ろうとしたのだが、あくまで鷹丸は我を通す。そして、いけしゃあしゃあと自分達は夫婦だと言い切った。

 

「いやぁ、本当は隠しておくつもりだったんですけどねぇ。こうなっちゃったものは仕方ないですよね。」

(ご、ごめんね鷹兄……。私ってばついうっかり……。)

「フフッ、大丈夫だよ。僕らが夫と妻って事実は誰にも変えられないんだから。」

(鷹兄……。えへへっ、鷹兄大好き!)

「おやおや困ったなぁ。甘えん坊な奥さんにはお仕置き―――」

「イチャつくな貴様らああああっ!ええい……とりあえずソイツの腕から離れろこの馬鹿!」

 

 黒乃は自分のおっちょこちょいで面倒になってしまったと、不安な様子で鷹丸の右腕に抱き着いた。それを謝罪と感じた鷹丸は、安心してくれと黒乃の頭を撫でてみせる。すると今度は鷹丸の腕に愛おしそうに身体を擦り付けた。更に鷹丸は撫でていた手を頬に添えるとお仕置きと称してキスを……する前に千冬に止められる。

 

 脳の処理機能がフリーズしていたらしく、しばらくジッとしていた千冬はようやく動き出した。鷹丸の腕から引っぺがされた黒乃は、それが僅かながらもそれが表情に出るほど不服そうだ。それを見た千冬は、コレはマジな奴だと激しい頭痛に見舞われる。

 

「確かにこの9月で黒乃も16になった。……法律上結婚できる年齢だ。だが、籍を入れるには未成年の場合は保護者の許可が要る。……まさか権力で通したなどと言うまいな。」

「嫌だなぁ、そんな事しませんよ。ただちょっと束さんに―――」

「もっと性質が悪いだろうが!あの駄兎がぁ……!というか、私の許可なしに入れるか普通!?」

「僕らに普通は通じませ―――」

「ああそうだろうな!その結果がこれだクソッタレ!」

 

 少しは冷静さを取り戻した千冬だったが、鷹丸と話していると徐々にヒートアップしてしまう。特に束の名が出てきてしまえば無理もない。よほど機嫌が悪いのか、口の悪い方である千冬でも使わないような暴言が出てきた。黒乃は珍しいちー姉を見たなぁ……なんて呑気な事を考えている。

 

「それより、そんな大声で騒いじゃって良いんですか?」

「誰のせいだと思っている!?だいたいな、お前らいつの間にそんな関係に―――」

「外、騒がしいですけど。」

『スクウウウウプ!新聞部、号外を作るわよ!見出しは近江夫妻 IS学園に爆誕で!ハリイイイイっ!』

『5時限目に間に合わない?ほっとけそんなもん!』

「…………。待て貴様らああああっ!1人残らず記憶障害にしてやる!」

 

 あんな怒号で黒乃と鷹丸が呼び出された時点で、黛 薫子は絶対に何かあると察していたのだ。密かに新聞部総出で生徒指導室の前に張っていると、聞こえてくるのは鷹丸と黒乃が結婚したと言う確かな事実。とんでもないスクープに思わず騒ぎ出すと、千冬はようやくその存在に気が付いた。

 

 まぁ……鷹丸がそうなるように仕組んだのだが。思惑通りに千冬は散って行った新聞部の撲滅に向かってしまう。これでこの場は有耶無耶になったと思ったのか、鷹丸は黒乃の手を取りながら立ち上がった。そして、こんな事を言い出す。

 

「まぁこの程度は大した事じゃ無いよ。まだまだ僕ら2人の道は長いんだから……ね。これにめげずに、僕を信じて着いて来てくれたら嬉しいな。」

(……私の人生はもう鷹兄に捧げたもん。後悔なんてない……。例え私達の道が地獄に通じてるとしても、鷹兄と一緒なら怖くないよ。)

「黒乃ちゃん……。目、閉じてみようか?」

(…………うん。)

 

 この2人がどういった経緯で好き合ったのかは解からない。だが、この2人は既に止められないところまできているようだ。間違いなく伴侶に対してであろう台詞に反応した黒乃は、同じく伴侶に対しての言葉を内心で呟きながら鷹丸に抱き着く。それで鷹丸には何か伝わったらしく、生徒指導室にて2人は静かに唇を重ねた……。

 

 

 

 

 

 

(鷹兄っ!)

「うん……?おう……じゃなくて、藤堂さん。僕に何か用事かな?」

(鷹兄の為にお弁当作って来たから、屋上で一緒に食べようよ!)

「おっとっと……。ハハハ、参ったなぁ。」

 

 昨日の騒動から1夜明け、時間は同じく昼休み。購買へと向かっている鷹丸の服を撮む者が居た。振り返ってみると、そこには愛しの妻が大きな包みを抱えているではないか。それで弁当だと察した鷹丸だったが、有無も言わさず黒乃へ連行されてしまう。参ったと口では言っているが、表情はとてつもなく嬉しそうだ。

 

 それで、結局この2人の処遇はと言うと……大したことはなかった。とにかく不必要にくっつかない事と、黒乃を近江と呼ばない事で落ち着いた。2人は前者に関して守る気はさらさらないようだが、鷹丸は一応だが藤堂と呼ぶよう気を付けているらしい。

 

「此処の屋上は、いつ来ても良いところだよねぇ。」

(うんうん、お弁当食べるには丁度良い感じのシチュエーションって言うか。)

 

 ほとんど全力疾走に近かった為か、あっという間に屋上へと辿り着いた。天気は快晴。太陽は天高い位置で2人を出迎える。さて、のんびりお弁当タイム……といきたい所だったが、何やら柵のあたりが騒がしい。何事かと黒乃が注視してみると……。

 

「身投げなど止めんかこの馬鹿!1度の失恋がなんだと―――」

「うるせぇええええ!昨日まで好きだった子が、実は結婚してましたなんて事になった俺の気持ちが解るかよおおおおっ!」

「だからって飛び降り自殺は短絡的過ぎるでしょうが!だいたいね、ア……アンタには私だって―――」

「鈴、貴様!どさくさに紛れて抜け駆けをしようとするんじゃない!」

 

 黒乃の目には、屋上から飛び降りようとしている一夏と、その制服を掴んで阻止しようとする箒と鈴音の姿が映った。あ~……と、何やら黒乃は一抹の申し訳なさを覚える。まさか一夏が自分を好きだとは思ってもみなかったのだろう。知ったのは昨晩事の顛末を一夏に問い詰められての事だが……。

 

「……彼は彼女達に任せようよ。」

(え、いや……でも……。)

「……ごめん、普通に止めるべきだよね。……キミが僕以外の男を心配するのは、その……あまり気分が良くなくて……。」

(私を身も心も女にした人が今更何言ってんのさ……。大丈夫、だって私は鷹兄の奥さんなんだから。ね?ちょっと行って来るだけだよ。)

 

 すぐさま一夏の暴走を止めようと近づこうとした黒乃だったが、鷹丸に手を掴まれて阻まれた。どうかしたのか様子を見ると、凄まじくバツの悪そうな鷹丸が……。そんな鷹丸を安心させる為か、背伸びして頭を優しく両手で包むと……その頬にキスを落す。鷹丸がチュッと鳴った水音を理解するよりも前に、黒乃は騒ぐ幼馴染組に迫っていた。

 

 そして一夏をどう止めたのかと言うと、首を腕でグッと引き込むように持ったかと思ったら……容赦なく捻って気絶をさせた。そのまま制服を掴んで安全そうな場所までズルズル引きずると、じゃあ後よろしく……とでも言いたげな敬礼を箒と鈴音に送る。あまりの早業に、2人はポカンとするばかり……。

 

(ただいま、あ・な・た。……なんてね、フフッ♪)

「……思ったよりも手荒だったけど、もしかして僕が嫉妬したからとかじゃ……。」

(いや、そういう事では無いよ?ただ、鷹兄との貴重な夫婦の時間を潰されるのは嫌かなって。)

「そう……?そういう事じゃないなら良……くはないけど。……まぁ、ご飯にする?」

 

 本当に……あまり暴力に頼らない黒乃が一夏をかなり雑に扱ったせいか、鷹丸は自分のせいではないかと思ってしまう。黒乃からすると全然そんな事は関係なく、夫婦の時間を少しでも邪魔した時点で運命は決していたらしい。好きだった女子に締め落されるわ嫌かなと言われるわ……一夏もかなり散々だ。

 

「よいしょっと……。」

(出た……。鷹兄ってば相変わらず爺臭いなぁ~。)

「……また笑ったね。僕が座るときはいつもそうだ。聞き分けのないキミはこうだよ。」

(わっ、わっ……!?ハ……アハハハハ!ごめ……ごめんってば鷹兄、くすぐったいよ!)

 

 鷹丸の癖の1つに、立ち座りの際『どっこいせ』とか『よっこいしょ』とか言ってしまうという物がある。それに関して黒乃は凄まじく爺臭く感じており、聞くたびにクスリと少し馬鹿にするような笑みを内心で浮かべていた。だが、鷹丸にはなんとなく馬鹿にされていると言うのが解るらしい。

 

 気に障りはしているが、互いに軽い冗談のような物だ。証拠に鷹丸は座ったまま後ろから黒乃に抱き着くと、両脇腹に指を滑り込ませてくすぐり攻撃を仕掛ける。黒乃は笑い声は出ないが、下を俯きながらジタバタと小さく暴れてみせた。それが効いている裏付けであり、天邪鬼な鷹丸を調子に乗らせてしまう。

 

「おや、此処が弱いのかい?」

(ちょっ……降参だって……!フフフフッ……!息苦しいから……!)

「だーめ、止めてあげない。くすぐられて困ってるキミをもう少し見てたいかな。」

(そ、そんなぁ……。ヒ、ヒーっ!もう無理……!ギブギブ!)

 

 拘束した相手をくすぐる拷問が実在したりするほどだ。それを考慮すると、冗談交じりでも黒乃は結構苦しいのだろう。必死に鷹丸の腕をタップするが、それも更に調子に乗らせる結果になった。その光景は夫婦と言うよりは恋人同士のそれで……。そんな時、2人の背後からまたしても騒がしい声が聞こえた。

 

「あま……甘いですわ!なんですのコレ……無糖のストレートティーのはずですわよ!?」

「僕の卵焼きもだよ……。むしろ塩味にしたのに何で!?」

「うぇぇぇぇ……。菓子パンが……菓子パンがぁ……甘くて食べられた物ではない……!」

 

 そこではヨーロッパ3人娘が阿鼻叫喚の様で喧々としていた。一夏達が既に姿を消し、それぞれ手作り弁当だったり購買のパンを所持しているところを見るに、きっと入れ違いで屋上へと食事に来たのだろう。ラウラなんか酷い物で、胸やけを起こしながらOTLの状態でえずくのをこらえる。

 

「……あ~……キミ達?」

「くっ、こんな場所に居ては糖分過多でやっていられん……。総員退避……退避ーっ!」

「ここは仕方がありませんわね……。戦略的撤退ですわ!」

「ちょっ、ちょっとそのノリは着いて行けないかな……。あ、その~2人とも?気持ちは解るけど、TPOはわきまえてね。それじゃ……僕も行くから。」

「「…………。」」

 

 その存在に気が付いた鷹丸は、弁明をしようと話しかけようとしたのだが……する前に逃亡されてしまった。ラウラに釣られたのか、セシリアも早々に軍人っぽいノリで屋上を去る。だが、去り際のシャルロットの言葉に鷹丸ですらバツの悪そうな表情を浮かべた。優しくやんわりと諭すような言い方のせいか、余計に深く突き刺さる。

 

「……肝に銘じておこうね。」

(そうだね……。)

「……食べようか。」

(そうだね……。)

 

 シャルロットも屋上から姿を消すと、2人の間にはしばらく静寂が流れた。鷹丸が呟くようにそう言うと、黒乃も静かに首を頷かせる。この辺りはやはり息の合った夫婦なのかも知れないが、今回はそれが仇となったのだろう。気を取り直してといった感じで、鷹丸は黒乃の手料理に舌鼓を打った。

 

「御馳走様。ふぅ……やっぱり、いつ食べても黒乃ちゃんの手料理は美味しいなぁ。」

(本当に?フフ、嬉しいな……。鷹兄の為に頑張った甲斐があるよ。)

「それにしても……僕は幸せだね。だって、そのうち毎日こんな美味しい手料理が食べられるようになるんだから。」

「ティッ……TPO。」

「さっきのデュノアさんの言葉?だって今はキミと僕の2人きりじゃない。十分守られてると僕は思うけど……どうかな。」

 

 あっという間に完食し、鷹丸はしっかりと両手を合わせて感謝の意を述べる。そしてすぐさま先の未来にて、黒乃がキチンと鷹丸の妻として生活している風景を想像しながらそう言った。対して黒乃は、先ほど注意されたばかりだとTPOと言葉に出して呟く。しかし……鷹丸にそんなのは通じない。

 

 確かに今は完全に2人きりだ。ここはIS学園で、2人は教師と生徒であるという問題は残るが……確かに他者の目に留まる事はないだろう。残念な事に、黒乃に深く考える脳ミソなんて持ち合わせていない。なら良いか~……と妙に納得した様子だ。

 

「じゃ……リクエストして良い?」

(リクエスト……?)

「膝枕してほしいな。お腹が膨れたらなんだか眠くなっちゃって。」

(なんだそんな事か。勿論、私の全部は鷹兄の為にあるんだからね。)

 

 黒乃は鷹丸の背後に回り女の子座りの状態になると、肩を掴んで後方へと引っ張る。鷹丸はゴロンと横になり、頭の着地地点はきっかり黒乃の膝の上だ。ふと……視線を感じる。何かと思ったら、黒乃がジッと顔を見つめてくるではないか。目が合ったせいか、黒乃はバッと姿勢を正して誤魔化しにかかる。

 

「良いよ、気にしないで。僕も黒乃ちゃんを見つめていたいな。」

(鷹兄……。)

 

 2人はしばらく、互いを愛おしそうに見つめ合う。無言にも関わらず、2人の周囲には甘い雰囲気が漂った。何か空間がピンク色に染まる幻覚すら見えるほどに。黒乃の方は一応満足したらしく、目を閉じ鷹丸のフワフワな髪を弄ぶように頭を撫でる。満腹感や陽気な気候が相まってか、なんだか鷹丸はウトウトとしてしまう。

 

「黒乃ちゃんの膝……温かくて柔らかくて……。ふわぁ……。」

(えへへ……。鷹兄にそう言われるのは嬉しいな……。)

「……黒乃ちゃん。僕ね……少し不安になる事があるんだ……。キミがさ……僕を嫌いになっちゃうんじゃないかって。」

(え……?)

 

 眠いついでか、ボーッとしてまともな思考がままならないのか……。判断は着きづらいが、鷹丸はそんな事を言い出した。こんな場合だからこそ、それが紛れも無い本心からの言葉である事が伝わる。黒乃は……しばらく鷹丸の真意を探る事に舌らしい。

 

「僕……自分でも思うけど、性格とか良くないかららさ……。つい子供じみた意地悪をしちゃうし……さっきみたく嫉妬だって……。キミを妻にしたのだって、僕に縛り付けておきたかったからさ……。」

(…………。)

「……ダメだよね、こんなのじゃ……。キミの夫として……男として……。」

(ああ、ダメだね。全然ダメ。)

 

 鷹丸は余裕あり気であるが、それこそが余裕が無い事の表れとも言える。鷹丸は、近江 鷹丸を演じている節があるのかも知れない……。必死に自分を取り繕って、崩れ落ちてしまいそうな自分を保っている……のかも。黒乃はこの告白を妻として受け取り、とりあえずは膝枕を解除する事に。

 

「黒乃ちゃん……?」

「わたし……鷹……の無邪気……好き……。嫉……嬉し……。わたし……大切だっ……。ふさわしい……ふさわしくない……重……要……違っ……。いっしょ……居たい……気持ち……。わたし……鷹……の妻でありたい……ら……。鷹……は……?」

「……ああ、そうだね。黒乃ちゃんの言う通りだ。僕もキミと同じだよ。これからも永遠に、キミの夫であり続けたい。」

 

 黒乃は鷹丸の上にまたがると、息も絶え絶えな様子で必死に言葉を紡ぐ。鷹丸からは、かなり無理をしているのが見て取れた。苦しいのか、目からは涙が流れている。それでも黒乃は、怒っていたから……言葉にして伝えずにはいられない。黒乃が言いたかった事はこう……。

 

 私は鷹兄の無邪気な所が好きだよ。嫉妬されるのも純粋に嬉しい。私の事、それだけ大事にしてくれるんだって感じれる。ふさわしいとかふさわしくないとか、そんなのは重要な事とは違う。大事なのは、互いが一緒に居たいって気持ちなんじゃないかな。私は鷹兄の妻でありたいから。鷹兄は……どう思ってる?

 

 途切れ途切れの言葉だろうと、鷹丸には黒乃が何を言いたいのか解った。それで思い知らされる。自分がいかほどに、愚かな発言をしたのかを。そして黒乃は嬉しかった。自分が何を言いたいのか、それをしっかり理解してくれて……。鷹丸は勢いよく上半身だけ体を起こすと、黒乃を膝立ちの状態にさせた。

 

「黒乃ちゃん……。いや、黒乃。愛してるよ。キミは僕だけの物だ。」

(鷹兄……。んっ……!鷹兄……好き……好きだよ鷹兄っ……!)

 

 

 鷹丸には珍しく、相手に対して『ちゃん』だとか『さん』だとかを着けずに黒乃の名を呼ぶ。更には間髪入れず、惜しみない愛の言葉を送った。黒乃をその気にさせるには十分すぎる。両腕をキツく鷹丸の首に回すと、自分から唇を重ねた。それも触れるだけの物ではなく、貪るようなキスだ。

 

 2人の舌は、ただ求めあうかのように絡み合う。クチャクチャという艶めかしい水音と、熱い吐息のような息継ぎだけが屋上に響き渡る。やがて2人は満足したのか、どちらともなく離れていった。その際に2人の舌には、深く愛しあった証拠である銀色の橋がかかる。

 

「……なんだか目が覚めちゃったよ。色んな意味で。」

(あ、あはは……それは言えてるのかも。)

「じゃ……せめてもう少し……このままでも良いかな?」

(うん……鷹兄の思いのままに……。だって私は近江 黒乃……。あなたの奥さんなんだから。)

 

 口の周りにべったりと着いた唾液を拭い取りながら、鷹丸はそう呟いた。確かに……ここから膝枕を仕切り直す気にはならないだろう。そう思った鷹丸は、固く黒乃を抱き寄せる。黒乃もあえて自分の体重をかけながら鷹丸にもたれ掛った。共に幸せそうな2人……。

 

 恐らくこの2人を別つ事が出来るのは、死くらいしか存在しないだろう。いや、もしかすると……死した後もまた出会うのかも知れない。この2人には、永遠を感じさせる何かがある。永遠に隣を羽ばたき続ける鷹と烏。本来は天敵である2種だが、何と……何と……絵になる事だろうか……。

 

 

 




私ではこれが限界……限界なんや……!
どうでしょうか?しっかりイチャラブさせることが出来たか、そこだけが心配でなりません。

あ、そうだ(唐突)
番外篇の形式が変わっている事に気がついた方もいらっしゃる方がいるかもです。
本篇とかかわりのある話、裏話にあたる物はサイドストーリー
本篇とほぼ全く関わりの無いパラレルの話にあたる物はIFストーリーに該当します。
今回の場合は文句なしのIFストーリーですね。
どれが更新されたか解り辛ぇんだよ!……なんて言われるかも知れません。
でもこうしないと何だか私が気持ち悪くてですね……。
はい……ご理解いただけると幸いです。

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