八咫烏は勘違う(旧版)   作:マスクドライダー

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今回も話はあまり動かず。
まぁ……気長にお付き合いいただければ助かります。





第26話

「なぁ2人とも、いい加減に機嫌直せって。」

「馬鹿を言うな、すぐ許せる方がどうかしている。なぁ?黒乃。」

「…………。」

「ほら、黒乃は許してくれてるぞ。」

「肯定も否定もしていないではないか。自分に都合良い解釈をするんじゃないっ。」

 

 原作最初のラッキースケベイベントが発生した翌日の朝、俺達原初の幼馴染3人組は揃って朝食をとっていた。目の前で繰り広げられる問答を長い事見届けてるけど、長年連れ添ったオシドリ・フーフめいたアトモスフィアを感じる。顔を合わせてから何回か同じような会話をループさせてるからね、オジサンお腹いっぱいです。

 

 ってか、それこそ別に俺は怒ってないんだけど。こんな時に限って、モッピーの言った通りに反応を示せない。ずっと黙ってるからか、些細な事で怒ってるのか?ってイッチーや弾くんにはよく聞かれたもんだよ。まぁ、良いけどね……時間が解決してくれるって。

 

 そうと決まれば、2人の会話をほぼスルーして朝ご飯に集中しよう。鷹兄と一緒に行ったレストランのも美味の一言に尽きるけど、IS学園の食堂も落ち着く美味しさがあるなぁ……。でもなんだろ、厳じっちゃんの料理の方が美味しく感じるや。あ~……そういや、最近顔出してなかったな。元気かな、弾くん達。

 

「ね~ね~、少しい~い?」

「ん……俺達に用事か?」

「えっとね~、この席座ってもだいじょぶかな~?」

 

 その時ふいに間延びした声が響いた。……はっ!?俺としたことが、この子の存在が頭から抜けてしまっていた。のほほんさんこと、布仏 本音ちゃんじゃないか!?俺が前世で聞いた都市伝説によれば、かつては単なるモブだった……が!あまりの可愛さに名前と特徴が着いて完璧なサブキャラになったとかなんとか……。

 

 いや、だって可愛いもん。その可愛さは、単なる可愛さじゃなくてマスコット的な要素も含んでいる。もうほら……のほほんちゃんの萌え袖とか卑怯だわ。天然で醸し出すあざとさとか大量虐殺兵器に等しいよ。そんなのほほんちゃんの問いかけに、イッチーとモッピーはこう答えた。

 

「……黒乃が構わないなら構わないぜ。」

「同じく。」

「…………。」

「わ~ありがと~。2人とも~だいじょぶだって~。」

 

 そんな俺に委ねるみたいな言い方しないでよ……。もちろんオッケーだけどさ、もし否定したら完全に俺が悪者じゃん。首は……よしっ縦に振れた。俺が首を頷かせたのを見てか、のほほんちゃんは少し離れた場所に呼びかけた。すると遠くに見えたのは、どこかオズオズとした様子の2人組……。

 

 あっ、これはアレだ……俺がいるから遠慮してたパターンだ。で、のほほんちゃんに頼んで大丈夫かどうか聞いてもらった的な。う~ん……やっぱり何処へ行っても敬遠されるかぁ……。敬遠され過ぎて、もはや全打席フォアボールで出塁するレベルじゃないだろうか。

 

「うわ、織斑くん朝なのにたくさん食べるねー。」

「お、男の子だね。」

 

 ……どうやら、俺は居ない物として扱っているみたいだ。解るよそれくらい……。だってもう友達とかマジで片手で数えられる人数しか居ないもの。はぁ……なんか、流石にやるせないってか、悲しいってか……。こう露骨にそういう態度をとられると……ショック……かな。

 

「…………。」

「じ~っ……。」

「…………。」

「じ~っ……。」

 

 俺が無言で食事を進めていると、のほほんちゃんの方から凄い視線を感じる。ってか、この子口でじ~って言ってるからね、あざと過ぎるよね。あんまり可愛いことしてるとお菓子を餌にお持ち帰りしちゃうゾ☆……いや、したくても出来ないんだったか。

 

「くろっちってさ~……。」

「…………。」

「おっぱい大きいね~。」

「ゴフッ!?」

 

 あっ、じっと見てたの俺のおっぱいっすか。何かと思ったけど、のほほんちゃんらしいと言えばらしいのかも。のほほんちゃんの言葉が嫌でも耳に入ったのか、イッチーは味噌汁を吹きかけた。そうすると、少し不機嫌そうな様子でモッピーがイッチーを小突く。

 

「ちょっ、のほほんさん……いきなり何を!?」

「そ、そうだよ、八咫がら……じゃなくて、藤堂さんになんて事を……!?」

「え~だって~。私もおっきい方なんだよ~?でも~絶対私よりおっきいも~ん。ボインボイ~ン。」

「い、いや……ちょっと待て、朝っぱらからそんな……。」

 

 おっふ、タイムタイム……!いきなり何をしでかすかと思えば、のほほんちゃんは俺のおっぱいを弄び始めた。だ、だから……胸はダメなんだって……!あっ……!う~……心の中でとは言え、変な声が出るのが恥ずかしい……。ってかイッチー、見てはいけないみたいな顔してないで助けてよ!

 

「……一夏、私は先に行くぞ。」

「待てって、こんな状況に俺1人を置いて行こうとするな!」

 

 そうだぞモッピー、同じ日本人離れした巨乳の持ち主じゃないか!君と俺は解りあえる……だからこそ俺の救い主はモッピーだけなんだ。でももうダメかなぁ……?モッピー立ち上がっちゃってるし。……あ、左手の親指に焼魚の油が着いてる。でもこの状況じゃハンカチも取り出せないし……。

 

 そう思って困っていると、ふと立ち上がっているモッピーのスカートが見えた。……バレへんバレへん。悪く思わないでよモッピー……俺を助けてくれないのなら、ここは御相子って事で……。俺は立ち去ろうとしているモッピーのスカートの端を、バレないようにそっと撮む。そして親指を擦るようにして、魚の油を拭きと―――

 

「黒乃……。」

 

 ほわぁああああ!?お、思いっきりばれてやがる!俺がこんな行動に出たのが予想外なのか、モッピーは驚いたような表情で俺を見ている。お、怒られる……こってり絞られる……が、ご褒美寄りなら大歓迎です!……とかこんな状況で考えちゃう俺がときどき嫌になるね。

 

「……解かった、黒乃がそう言うのであればそうしよう。」

「なんだよ箒、行くんじゃなかったのか?」

「お、置いて行くなと言ったのは一夏だ。」

 

 あれ……?怒られない。なんでだろ、むしろ表情は穏やかそのものに変わった。座り直したモッピーを見て、イッチーは悪戯っぽい笑みを浮かべた。それに対してモッピーは、顔を赤らめながら反論してみせる。そのついで……かは解からないけど、のほほんちゃんの魔の手(物理)からも助けてくれた。

 

「……3人って、仲がいいんだね。」

「ああ、そりゃま幼馴染だからな。黒乃に限っては家族みたいなもんだし。」

「え、それって―――」

「お前達、いつまで食事をしているつもりだ!手を休めずにとっとと食え!遅刻者はグラウンド10週だ!」

 

 俺達のやり取りを見てか、原作で聞いたことあるような質問が投げかけられる。それに対してイッチーは、幼馴染だから当たり前だと答える。……が、俺の事はベラベラ喋らんといてよ。イッチーってば、放っておいたら俺と10年近く同居だって言っていたに違いない。そしたらまた俺が嫉妬の対象にされてハブを喰らうよ……。

 

 ま、ちー姉の怒号のおかげで未遂で済んだから良いけどね……。この怒号を聞いてか、俺達含む食堂に居る全員が慌てて食事を再開させた。俺はほぼなくなりかけだけど。それ言うと、モッピーは食べるのが早いのだろうか?今度は注目してみる事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、一夏と箒の部屋を訪ねる者が居た。その長い黒髪からするに、藤堂 黒乃に他ない。その手には1冊のノートを携えていて、それを2人の内どちらかに渡すつもりなのかも知れない。黒乃が1025室の扉を叩くと、顔を出したのは一夏だった。

 

「よう、黒乃。何か用事か?」

「…………。」

「中に入りたい?そっか、解った。」

 

 黒乃は少し開いた扉の隙間から、室内を指差す。すると一夏には、とりあえず室内に入れてくれという意思表示に見える。それは一夏の大正解で、黒乃はすぐに伝わって安堵していた。部屋の主たる一夏に招き入れられ、黒乃は1025室に侵入。入った途端に、キョロキョロと周囲を見渡すような仕草を見せた。

 

「あ、もしかして箒に用事だったか。入れ違いだな、箒もさっき出かけたばっかりだ。」

(マジか〜。コレ、モッピーにやらせようと思ったんだけど……。)

 

 黒乃は箒に用事がある。これもまた一夏の正解。単純に仕草だけを言わせれば、理解力が最も高いのは一夏なのかも知れない。会いたかった人物が不在なだけに、黒乃は部屋で立ち往生。急ぐ用事でもあるし、かといって緊急なほどでもない。しかも、別に箒が絶対に必要という事もなかった。

 

(う〜ん……しょうがないか。モッピーには悪いけど、コレは俺がやっておく事にしよう。)

「黒乃、箒が帰って来たら俺が知らせ……。っと、どうかしたのか?」

「…………。」

「ベッド……座れ?あ、ああ……解った。」

 

 黒乃を出直させようとした一夏だったが、それは本人の意思によって遮られた。ベッドに座らされたのを見るに、一夏は箒が来るまで相手をしてくれ……という事かと考える。しかし、黒乃はベッドへと座った一夏に、持っていたノートを見せつけた。ノートの表紙には、IS基本操作図解と書かれている。

 

「IS……?もしかして、貸してくれるのか?」

「…………。」

「ち、違うのか……。じゃ、それをどうする気なんだよ。」

 

 一夏は、ISの勉強に苦戦している。そのため、代表候補生である黒乃が使っているノートを貸してくれるのかも。そう問いかけたが、黒乃は首をゆっくりと横へ振った。次に何の為に持ってきたのかと聞けば、黒乃はノートを開いて一夏の膝へと置く。すると黒乃は、ノートにある図をピッと指差した。

 

「丁寧に書かれてるな。」

 

 黒乃は自分の考えは書けないが、模写ならしっかりできる。一夏の言う通りに、操縦桿を動かせばISがどういう動作をするかが解りやすく書かれていた。一夏が図を理解していると確認が取れた黒乃は、自分もベッドへと座り一夏の後ろ側へ回り込んだ。すると……。

 

(ちょっち失礼な、イッチー。)

「く、黒乃……?」

 

 一夏の肩に顔を乗せるようにして、両腕はピッタリ重なる。手の平がいまいち届かないのか、一夏の背中には黒乃の胸がグイグイと押し当てられる。一夏が少しばかり混乱している間に、黒乃は指先へと力を入れた。注意深くその動きを観察すると、一夏はある事に気がつく。

 

「ん?もしかして、この図の通りに動かしてる……のか?」

(そうそう、察しが早くて助かるよ〜……。)

 

 そう、黒乃の指の動きは、ノートに書かれている図になぞらえたものだ。これは黒乃がISの事を学ぶにあたり、初めて昴に指導された方法である。なんにせよ、まずは何をどうすればISがどう動くか。それを学ぶ為に、文字通り手取り足取り教えるのである。それが解った一夏は、意識を集中させようと務める……が。

 

(……落ち着かない。)

 

 それもそのはず……。いくら一夏が朴念仁とは言え、この状態で落ち着くはずもなかった。耳元では黒乃の息づかいが聞こえ、鼻には黒乃の醸し出す芳香が漂ってくる。とどめと言わんばかりに、そのワガママなバストが思い切り背中に押し付けられているのだから。

 

 何か一夏は、黒乃に包まれている気分になっていた。一方の黒乃は、全くと言っていいほどに気にしてはいない。そもそもこれは、できれば箒にやらせようと思っていたくらいなのだから。何故なら、それが箒にとって役得であろうから。しかし、この場に都合悪く箒が不在だったのだ。

 

 そうなると、一夏の事情を考慮して黒乃は自分がやる事を選んだ。黒乃は、それなりに長い時間ISに触れてきた。だからこそ解るのだ……一夏がこれからやろうとしている事が、どれほどに無謀に等しいかを。代表候補生と、たった1週間だけISの勉強だけして戦えなんてのは馬鹿げている。

 

 別に代表候補生になりたかったわけではない黒乃だが、それでも中学に入学してからというもの血の滲むような努力をしてきた。指導者が千冬と昴ゆえ、時には心が折れそうな事だって。きっと今自分と同じ肩書きである面子は、同じよう……もしくは、それ以上の努力をしてきたと黒乃は考える。

 

 原作の展開としては勝ち寸前までいくわけだが、そんなのは現実である現在では役に立つとは限らない。だから黒乃は、自分が一夏にしてやれる事をやろうと今に至る。やらないよりはマシ、程度の事しかしてあげられない。だが黒乃は、家族として一夏を助けてやりたい一心なのだ。

 

(それこそ、イッチーはいつも俺の事で必死になってくれた……。だから、IS学園で少しずつ返していきたいわけよ。)

 

 若干の空回りはあるものの、それでも兄兼、弟兼、親友が自分の為に一生懸命になってくれているのは痛いほど伝わる。ISに関しては、圧倒的に自分の方が経験豊富だ。恩に報いるのならば、きっとここであろう。IS学園に入学すると共に、黒乃はそんな事を考えるようになっていた。

 

(だからほぅれ、君も集中シタマエ!)

「いっ!?いたたたた……!く、黒乃!手の甲の皮を引っ張るのは痛いって……!」

(美少女に抱き着かれて嬉しいのは解るけどさ〜……顔に出過ぎ。)

 

 先ほどから黒乃の手も止まってはいたが、それに輪をかけて一夏は集中できていない。自分がせっかく教えているのにと思うと、なんだか黒乃としては面白くない。軽めながらも手の甲の皮を抓ると、強制的に一夏の意識は覚醒した。すると一夏は、大きく数回深呼吸してみせる。

 

「わ、悪い……。えっと、もう1回最初から頼む。」

(そうかい?ほいじゃ……あらよっと。)

「速いっ……!なんだよ、今どこからどこまで操作したんだ!?」

(おっと、いけね……。刹那を動かしてる感覚で指動かしてたや。)

 

 一夏も気を取り直し、さてこれからと意気込む。気合を入れて最初からと頼むと、一夏の手に重なっている黒乃の手が超速で動いた。あまりの速さに、一夏はツッコミを入れられずにはいられない。複雑な操作を要する刹那に長い事乗り続けた弊害だろう……。

 

「…………。」

「あ〜……そうだな、そのくらいのスピードで頼む。それじゃよろしくな、黒乃先生。」

(おうよ、任せとき。んじゃまずは〜……っと。)

 

 黒乃は一夏にこれは失敬と会釈してから、初心に帰ってゆっくりと指を動かしていく。すると一夏もご満悦なのか、納得したような表情で何度も頷いてみせる。相互の意思疎通が図れたところで、本格的に基本操作の勉強が開始した。一方その頃、1025室の扉の前では……。

 

 

 

 

 

 

(剣道場の使用許可、思ったよりも簡単に出たな……。こちらとしては都合がいいが。)

 

 放課後、私はとある用事で少し剣道部まで顔を出した。それは、ほんの少しで良いから剣道場を使わせてほしいというもの。私も無論剣道部へ入部するつもりだが、入部もしていない内に勝手に使う訳にもいかんだろう。では何故剣道場が必要か。それは、一夏にISの事を教えてくれと頼まれたからだ。

 

 正直なところ、私も他の女子に比べればISに関する知識は乏しい。しかも千冬さんが言うには、訓練機の用意もできんときた。そうなれば、私にしてやれる事とすれば勘という奴を忘れん為にも剣道をする……くらいしか思いつかん。座学の方は……あまりボサッとしていると、一夏に追いつかれてしまいそうだ。

 

 あいつは、黒乃の事となれば途端に人が変わるからな。オルコットとか言うのが黒乃を馬鹿にしたとなると、あいつは死ぬ物狂いで努力するはずだ。……そう……黒乃の事となれば、死ぬ物狂いで……。そこまで考えると、私の歩みは止まってしまう。

 

 やはり、何と言うか……羨ましい限りだ。子供の時はさほど感じなかったが、私と黒乃の間にハッキリと差というものがあるのを思い知らされる。それはきっと、子供の私が子供だったから。一夏に近い位置に居る黒乃に対して、素直に嫉妬をさらけ出していたから感じない差なのだろう。

 

 ……一夏は、友と思う者の為に必死になれる男だ。しかし、それが黒乃だった場合の一夏は……少し毛色が違う。何か、狂気すら垣間見えるような……そんな印象を受ける。それが恋慕からくるものなのか、そうでないのか……私には解からん。だが、それでも……あんなに必死になられるのは、やはり羨ましい。

 

(解からんと言えば……。)

 

 そう、もう1つ解からない事がある。あいつは……黒乃は、一夏をどんな存在だと認識しているのだろうか。普通に考えれば、好きなのだろうが……。だとすれば、どうして黒乃は度々私をフォローしてくれるのだ。私はお世辞にも冷静な女ではない。特に一夏の事になると、頭に血を登らせてしまう傾向にある。

 

 しかし、子供の頃からそうだ……。黒乃は、私にとってマイナスであろう行動をほとんど防いでくれている。今朝がいい例だ。女子に囲まれる一夏を見てはいられずに、急いで立ち去ろうとしてしまった。だが、黒乃は少しばかりスカートの端を掴んで引き留めてくれて……。

 

(あのまま立ち去っていれば、随分と印象は悪かっただろう。)

 

 反省はしているのだが、やはりどうも一夏が絡むとな……。昔からそうなのだから、私はそういう女だと黒乃に見放されても文句は言えん程なのに……。それでも私をフォローしてくれるとなれば、黒乃は一夏の事をどうとも思ってない……?……解からん。

 

 いや、違うか……重要なのはそこじゃない。それこそが、黒乃が優しいという証拠ではないか。こんな私でも見放さないで、友だと思ってくれて……いるのだろうか?いやいや、きっと大丈夫だ……うん。とにかく、一夏が必死になる理由だけは解る。

 

 何気に私も、オルコットが黒乃の事をギャーギャーと喚き始めた時は……なかなかに腸が煮えくり返ったものだ。あそこで私も輪に入るのは得策でないと思って黙ってはいたが、次黒乃と一緒に居る時にでも同じような事があれば……その時は容赦せんぞ。

 

  ……っと、物騒な事を考えていないで自室に戻ろう。私の足は再び動き出し、1025室へと向かっていく。目と鼻の先だったわけだが、考え事なら帰ってからすれば良かったな。……?部屋の中から、一夏の声はするが……まるで1人事のように聞こえる。つまり、黒乃が居るのか……?

 

「…………。」

 

 悪い事であるとは思いながらも、私は扉を中の様子がうかがえるギリギリ程度に開く。すると私の目には、一夏の背中に密着して抱き着く黒乃の姿が飛び込んできた。お、落ち着け……何処の誰とも知らん馬の骨では無いのだ。ここで激昂したところで、黒乃の想いを無駄にするだけだろう……!

 

「ち、違う?あ、本当だな……さっきと順番が1つだけ入れ替わってんのか。」

「…………。」

「うん……オッケー、次は間違えないと思う。黒乃、今のところをもう1回頼めるか?」

 

 ……此処からだとよく解からんが、何やら私が思っている事とは違うらしいな。一夏の言葉の端々からISに関わる用語が出るのならば、何やら勉強中なのかも知れない。やはり突入しなくて正解か……私も多少は我慢強くなっている証拠かもな。うむ、やはり黒乃に感謝しなくてはならん。

 

(さて……。)

 

 私は少しばかり開かれている扉をそっと閉じた。黒乃が私にそうしてくれたように、私も場の空気くらいは読むさ。紛れもない……あの空間は、完全に2人の世界だ。だがこれで、お前の腹も読めたぞ……黒乃。お前もやはり、一夏の事が好きなのだな。

 

 いくら一夏と黒乃の間柄が家族同然とは言え、何とも思っていない男に対してあそこまで密着する事は出来んだろう。私は絶対に無理だ、一夏ならともかくだが……。いや、一夏だからこそ無理というのもあるが。そ、想像していると恥ずかしくなってきてしまった……。

 

 と、とにかくだ!今は……そっとしておくのが吉。それでなくとも黒乃は、私のような者にチャンスを譲ってくれているのだからな……。黒乃が行動を起こしたのならば、私に邪魔をする権利も資格も無い。だがそうなると、暇になってしまったな。……少し校内をふらついてみる事にしよう。

 

 

 




黒乃→イッチー?だからただの家族だってば。
箒→一夏に対する想いは同じか……。

鈴ちゃんだけでなく箒も同様の考えを。
これが後々に影響する……と思います。

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