一夏VSセシリアな回。
原作である対決は、ほぼテンプレになってしまうから構成が難しいです。
まぁ私のところでは、少し違う展開になりますけどね。
「来ないな……。」
「ああ、来ない。」
「…………。」
「「「…………。」」」
長かったようで短い1週間が過ぎて、今日は月曜日……。イッチーとセシリーが模擬戦をする日である。イッチーが中学の途中から剣道を再開したおかげか、モッピーは原作みたく鍛え直す!……なんて言い出さなかった。それでも勘を忘れないようにと、剣道はやってたみたいだけど……。
その他にも、キチンと座学でISの勉強もしていた……というか、そこは俺が勉強してきたノートが役に立ったと言うか。とにかく実際にISは動かせなかったが、イッチーにとっては充実した数日間だったみたい。原作ではモッピーに対して文句ありありだったけど、特にいざこざといういざこざも無くて何より。
……なんだけど、ここはやっぱり原作通りか。イッチーの専用機の搬入、ホントに遅かったんだなぁ。最初の内は2人共その内来るだろーハハハ、なんて言ってたのに……もはや話す事も無くなったのか無言が続く。俺が喋られれば場を賑わす事くらい出来たろうに……残念無念。
「お、織斑くん、織斑くん、織斑くん!」
「落ち着いて下さい山田先生。走ると危ないですよ?」
「で、ですが……織斑くんをだいぶ待たせ……キャッ!?」
「おっと……。ほら、言わんこっちゃない。大丈夫ですか?」
ピットの奥の方から山田先生の騒々しい声と、鷹兄のいつも通り余裕のある声が聞こえてきた。2人の姿が見えた事により、イッチーはやっとか……みたいな、モッピーはどこか安堵したような溜息をそれぞれ吐く。そんで俺達が近づこうとしたら、山田先生が転びそうになるわけで。
しかしそこは、隣に居た鷹兄がしっかりと支えた。ほほぅ……?この2人、何やらお似合いの2人なのでは?副担任同士なせいかよく一緒に行動しているみたいだし。何より、支えて貰った山田先生は解りやすいほどに頬を赤く染めている。ま、俺が干渉すべき事ではないんだろうけどね~。
「えっと、山田先生?」
「はっ!?す、すすすす……すみません!あのですね、織斑くんの専用機の搬入の準備の完了を……。」
「のが多いですよー山田先生。つまるところ織斑くん、準備が整ったって事さ。」
「そういう事だ。急げ、織斑。アリーナを使える時間は限られている。」
結局のところ用事の全貌が見えなかったためか、イッチーは山田先生に問いかけをした。……のだけれど、どうやらまだまだテンパった状態だったみたいだ。代わりに鷹兄が簡潔過ぎる説明をしたかと思えば、ちー姉が煽るように急かす。皆さん、イッチーのキャパシティはオーバーフローしかけております故。
「え?いや、あの……えっと……。」
「ん~……まぁとにかく、搬入口を御開帳~。」
イッチーも若干テンパり始めたのを察してか、鷹兄は隔壁のコンソールを操作して搬入口を開いた。まぁ……イッチーには口で説明するよか、実際に見せた方が圧倒的に早いからね。事実、搬入口がスライドしながら開いて行くにつれて、イッチーの顔にも締まりという物が見られるようになってゆく。
「これが織斑くんの専用機、白式です!」
「白式……。」
「えっと、解説を入れさせてもらうと……。」
「近江先生、時間がないのでそれはまた今度お願いします。」
搬入口が開くと、そこには白が居た……みたいな事をイッチーは考えてたんじなかったかな。どこかボーッと、それでいて光のこもった目でイッチーは白式を見つめる。そんな中で鷹兄が白式について解説をしようとするが、ちー姉に制されて少し残念そうだ。
どちらにせよ、鷹兄の解説はきっと専門用語のオンパレードなはず。イッチーは勿論のこと、俺も理解できないと思う。とにかくイッチーは、更にちー姉に急かされて白式へと搭乗した。最初こそ困惑した様子だったけど、なにやら白式がしっくりくるのかイッチーの目は自信ありげに変貌している。
「問題はなさそうか?」
「大丈夫、千冬姉。いける。」
「そうか。さっき言った通りに時間が無い。
なんというか、イッチーと白式はシンクロ率が高いのかもな。俺は刹那の初搭乗の時にそんな自信満々ではいられなかった。とにかくして、もう残すはイッチーが飛び立つだけなんだけど……。モッピーや、恋する男の子に一言申してやりなさい。俺はモッピーの背後に回ってグイグイと背中を押す。
「く、黒乃!?わ、解った……ちゃんとするから背中を押すのは止めてくれ。あ〜……一夏。」
「箒……?」
「が、頑張ってこい……。その、お前の勝利を信じている。」
「……ああ、ありがとな!黒乃、箒……勝ってくる!」
「織斑くん、いつでもいいよ!」
モッピーは顔を真っ赤にしながらだが、割と心からの応援を口にする事が出来たみたいだ。それに続いて、俺はいつも通りに黙ってサムズアップ。イッチーは、きっと絆の力って奴を感じているに違いない。鷹兄がカタパルトのゲートを解放するのと同時に、元気よく飛び出していった。
「一夏……。」
「…………。」
「黒乃……。ああ、そうだな。一夏を信じよう。」
口では激励の言葉を送りはしたけど、やっぱりモッピーは心配の方が勝っているらしい。大丈夫だって、イッチーはやるときゃやる奴じゃん。そんな意味を込めながら、そっとモッピーの肩に手を乗せる。それで俺の考えも伝わったらしく、少しは安心したような表情を見せてくれた。
(ま、それも後は本人次第だけどね……。頑張りなよ、イッチー。)
◇
「……随分と時間がかかりましたわね。」
「ああ、そこは素直に悪かった。」
カタパルトから競技場内に飛び込むと、一夏を待ち受けていたのは超満員になっているアリーナだった。そんな観客達を前にしても、セシリアは動じることなく悠然と佇んでいる。会話が可能な範囲まで一夏が近づくと、解っていた事だがセシリアの口から飛び出たのは嫌味だ。
本来は搬入に手間取った学園側の不備なのだが、必ずしも自分は関係ないと言えない。そのために一夏は、ペコペコとするわけでは無いにしてもしっかりと謝罪の言葉を述べる。セシリアとしては言い返してくるであろうと思っていただけに、少し調子を狂わせながらブロンドの髪を靡かせた。
「まぁ良いでしょう、わたくしは寛大ですので。そんな寛大なわたくしは、貴方にチャンスを差し上げますわ。」
「チャンスだと?」
「貴方はいわば
自分が前菜だとすれば、主菜とは間違いなく黒乃の事だ。この問いかけに対して、一夏は特に怒りは覚えない。何故なら、セシリアの言っている事は決して間違ってはいないのだから。ただ……黙って引き下がるわけにもいかない。一夏の目の前に居るセシリアは、自分の誇りを穢した……。
「だとすれば、なおさら引き下がるわけにもいかないな。」
「なんですって?」
「アンタ、黒乃に手の内見せるのが嫌なんだろ?だったら、俺が黒乃に楽させてやらないとな。」
勿論一夏とて、最初から弱腰でこんな事を言っているのではない。むしろ……勝つ気が満々といったところだ。それも全て、己の傷つけられた誇りを取り戻すため。自分に協力してくれた幼馴染のためにも負けは許されない。一夏はニヒルな笑みを浮かべながら、セシリアの言葉を完全否定した。
「そうですか、残念ですわ。でしたら―――」
『試合開始。』
「お別れですわね!」
「くっ!」
セシリアは、試合開始と同時にその手に持っている射撃武装で一夏を急襲した。セシリアの専用機、ブルー・ティアーズが誇る高火力レーザーライフル『スターライトMk-Ⅲ』は、轟音を放ち砲口からエネルギーを射出する。セシリアが攻撃体勢に入っている事は、試合開始前から白式が知らせてくれていた。
しかしだ、それでも操作が多少遅れてしまう。なんとか白式の肩を掠るか掠らないかに被害は抑える事が出来た。実際にISは動かせ終いだったが、やはり黒乃と行った疑似操作訓練が役に立っているらしい。一夏は頭の中でサンキューと呟くと、急いで白式の姿勢を立て直す。
「あら?思ったよりもやりますわね。」
「そりゃどうも!」
「ですが、そう長くは続かなくてよ?さぁ、踊りなさい!わたくしとブルー・ティアーズの奏でる
セシリアのキメ台詞を皮切りに、凄まじいレーザーの雨が一夏と白式を襲う。その様は一見すれば美しいが、正面に立たされている一夏からすればたまった物ではない。いくら一夏の操縦技量が初心者にしては優れているとはいえ、言葉通りに初心者の域を出る事は無い。
なんとか絶対防御の発動は避けようと躍起になっているせいか、その代わりにとでも言ったようにガンガンと白式へとレーザーが命中する。このまま何も出来ずに終わってもおかしくない一夏だが、とにかく反撃をと武装の展開を試みた。しかし……白式の装備一覧を見て、一夏はある意味戦慄するしかない。
「近接ブレード……これだけ!?ええい、ないよりマシか!」
そう、恐ろしい事に近接ブレード1本しか積まれていなかった。名称が未設定のままのブレードを手元に呼び出すと、甲高い高周波音とともに白式の右腕から粒子が放出される。それは形を成して、一夏の手にスッポリと収まる。それは片刃のブレードで、メカメカしいながらも造形は洗練されていて美しい。
「近接ブレード……?そんな物で、射撃型機体であるブルー・ティアーズに挑むなど……笑止千万ですわ!」
「笑いたきゃ勝手にそうしてろよ、足元掬ってやるぜ!」
◇
「すごいですねぇ……織斑くん。」
「ですねぇ。彼もやっぱり、織斑の名に相応しいって証拠かもですねぇ。」
モニターで2人の試合の様子を眺める鷹兄と山田先生。確かにそれは言う通り。モニターに映るイッチーは、短時間でセシリーの弱点を把握して、今もブルー・ティアーズのブルー・ティアーズを3基撃墜してみせたのだから。……ややこしいから今後はBTと略そう。
ま、俺からすればここまでは知っている展開なわけで……。強いて言えば、イッチーの動きは随分と良い方なんじゃないだろうか。IS搭乗歴3年強の視点から言わせると、やはり何も訓練しなかったよりは雲泥の差があったに違いない。ただねぇ……2人が言うほど、のんびりもしてられないのよ。俺は思わず、左手をグッパグッパと閉じたり開いたりしてみる。
「……お前も気付いたか、藤堂。」
「どうかしましたか、織斑先生?」
「見ろ、アイツが左手を閉じたり開いたりしているだろう。アレは、アイツが調子に乗っている証拠だ。」
「なるほど、本人が無自覚なタイプの癖ですね。」
別にちー姉に知らせる気は無かったけど、問い掛けられたので頷いて肯定しておく。すると俺達のやり取りが気になったのか、山田先生が不思議そうにちー姉を見詰める。後は、ちー姉が解説したとおりかな。あれねぇ……マジでイッチーがあの癖を見せるとロクな事にはならないからね。
イッチーが料理を始めたばかりの頃だろうか?何を調子に乗ったのか、子供には不相応な大きさのフライパンをプロの料理人よろしく振って……。その時に作ってたのは確かチャーハンだったと思う。見事にイッチーはフライパンをひっくり返して、その場に居た俺もちー姉に飯抜きをくらうと言うね。
その時にしっかりと観察してみたんだけど、フライパンを振り始める前に例の癖は確認できた。よって、ちー姉の言っている悪癖は大正解であったことが実証されたのだ。別にイッチー1人が被害を
「それにしても、流石はご姉弟ですね。弟さんのことをよく解かっていらっしゃる。」
「ま、まぁな……あれでも私の弟だ。」
「おやぁ、照れてるんですか?これはレアな姿を見れました。」
「……近江、お前からかっているだろう。」
「ええ、からかってますね……って、あいたたたた!」
いつも以上にニヤニヤしながら言うと思ったら、意図してからかっていたらしい。あっけらかんとした様子でからかっている事を肯定するせいか、鷹兄はちー姉のアイアンクローを喰らう。この人は……頭良いんだか悪いんだか解からない時があるな。ちー姉の万力のような手で頭を握られてもアッハッハ!……って高笑いしてるし。
「コレは凄い……人知を超越した力ですね!」
「お、近江先生!?言ってる場合じゃ……。お、織斑せんせいも落ち着いて下さい~!」
「私はからかわれるのが嫌いなのでな。」
……もう良いや、この大人達は放っておこう。モッピーは……言葉通りに信じてイッチーを待ってるっぽい。そんじゃ、何を言っても無粋だよね。じゃあ残るは……イッチーか。ん~……4基目のBTに回し蹴り……吹き飛ばして間合いを作ったつもりだろうけど、それは悪手だよイッチー。
いわゆる誘い……蹴りを喰らわせ、これで本体は隙だらけ……と思わせといて、実はBTは6基ありましたと。実を言うとBT2つ目と3つ目を堕とさせたのも伏線だったのかも。刃が届きうる距離まで詰めれただけに、ここからの回避はほぼ不可能。待ち受けている2基のBTは、レーザーでなくミサイルBT……。
「一夏!」
「ほ、ほらほら織斑先生、織斑くんピンチですよ!近江先生なんかに構ってないで!」
「なんかって山田先生……酷いなぁ。それにしても……なかなか神がかりなタイミングですね。」
「ああ、機体に救われた。」
ミサイルは見事にイッチーへ直撃……。これを見たモッピーは、悲壮感漂う声でイッチーの名を叫ぶ。それで大人達は大慌てどころか、むしろ事態は収束へと向かっていった。本当、鷹兄の言った通りに神がかっているとしか言いようがない。ミサイルの爆煙が晴れてイッチーの姿が見えると、白式の色は真白に変わっていた。
「な、何が起きたと言うのだ……?」
「…………。」
「むっ、コレを見ろ?
携帯してるISに関する資料が記録してある空間投影型ディスプレイを起動させ、一次移行の項目をモッピーに見せた。一次移行で装甲が再形成されたと同時だったから、実態ダメージも全て無効……だったかな?やっぱ世界はイッチーを中心に回ってんのかね~。
『まさか……
『俺は世界で最高の姉さんを持ったよ。』
『はぁ!?』
モニターに映る2人は、そんなやり取りを繰り広げた。まぁ……そうだよね、質問の答えになって無いもん。会話のドッジボールって奴?しかしこの流れ……やっぱりダメみたいですね、どう足掻いても原作通りか。イッチーは零落白夜を発動……そのエネルギー消費で敗北と……。良いや、見ないでおこう。人が失敗する所って、見てるのとか苦手なんだよね……。
「黒乃……?待て、最後まで見ないで帰るのか。」
「結果は見えた。」
何か悟ったような……フッと笑みを浮かべてから、俺はその場で振り返った。もちろん、それが顔に出ているかどうかは俺には解からない。それを抜きにしても、当然ながらモッピーは俺を引き留めた。久方ぶりに声も出たので、思った事をそのまま述べてピットを立ち去る。……後でイッチーの残念会でも開いてあげよう。
◇
「俺も家族を守る……なんて大それたことはまだ言えないか。とりあえず俺は立った。それだけは間違いない。」
「貴方、先ほどから何を仰って―――。」
「ようやくスタートライン……。2人の背中は遠いだろうけど、絶対に追いつくさ……黒乃、千冬姉。で、必ず追い抜く……だからその時は言わせてくれ。俺が……絶対守って見せるからって!」
「だからさっきから何を……ええい、お話になりませんわ!」
白式が本当の意味で一夏専用に最適化されると、その手に握られていた名もなきブレードにも銘が入る。雪片弐型……それが真なる名だ。雪片とは、一夏の姉である千冬が唯一用いた武装。それと同じ名の刀を持っている事は、何か託されたような……そんな感覚だった。
しかし、まだ雪片は自分にふさわしくないとも一夏は考える。だからこそ、一夏はようやくスタートラインだと言ったのだ。ようやく……ようやく、背中を見ている事しか出来なかった大事な姉と姉貴分の背中を追える。その事が、一夏には嬉しくて仕方が無かったのだ。
だからこそ、こんな所で躓いてはいられない!……とでも言いたげに、一夏は行動を起こす。基本を思い出せ、俺の根幹は剣道にある。そう自分に言い聞かせた一夏は、セシリアのヒステリックな声に命じられて攻撃行動を開始し迫って来ていたBTを、雪片にて切り伏せる。
「よしっ……!」
「そんな!?」
(けど、エネルギーもあとわずか……もってくれよ、白式!)
一夏に余力を残している暇なんてなかった。しかし、黒乃の教えはここに来て勝負の明暗を分ける。刹那の操縦が癖に着いていた黒乃は、無自覚に一夏へある事を伝えていたのだ。それは、極力エネルギーを無駄にしない操作を心がける事。燃費の悪い刹那だ……一挙一動に気を遣う。
一夏の受けたダメージは、黒乃の知っている展開とほぼ変わらない。だが、一夏自身が白式を操作して削ったエネルギーは……白式の特殊能力を発動させても問題無いほどへと抑えられている。一夏は雄叫びをあげながらセシリアの懐へと潜り込み、逆袈裟斬りを喰らわせた。
「おおおおっ!」
「キャアアアア!?」
『試合終了。勝者、織斑 一夏。』
その一撃が決定打となり、試合終了の合図がアリーナ内に響く。織斑 一夏が、男が……代表候補生に勝ったのだ。それは会場の誰もが予想していない結果で、むしろ一夏も必死だったのか何が何だか解っていない様子に見える。そしてようやく自分の勝ちを理解した一夏は、ゆっくりとセシリアに近づいた。
「なんですか?惨めなわたくしを笑いにでも―――」
「するかよ、そんな事。もしそんな事をする奴が居るんなら俺が許さない。」
「では、わたくしに何の用事ですの……。」
「ん、握手。正直、アンタの事はまだ許せない……けど、試合にそんなん持ち込むのは無しだ!だから握手。」
一夏は呆然としているセシリアに右手を差し伸べる。この試合に勝っても負けても、一夏はきっとこうした事だろう。黒乃を侮辱した事に関しては言葉通りだが、それでもセシリアと健闘を湛えあるのは当然の事であると一夏はそう言いたいらしい。セシリアは、ようやくこの男がどういう男か理解したらしい。
「……わたくしは、貴方程度勝って当然だと思っていましたが……それこそが、敗因のようですね。次は負けません。」
「ああ、次も互いに全力で闘おうな!」
セシリアが一夏の手を取ると、会場内は2人を温かい拍手で包む。するとセシリアは一夏の手を離し、まるでランウェイを歩くモデルかのように去って行った。一夏はなんだかな……といった様子でその背を見守ると、自分も出てきたピットへと戻って行く。
「一夏、凄いじゃないか!」
「本当です!最後の一撃までの流れは感心しました!」
「いやはや、魅せてくれるねぇ。完璧なエンターテイメントだったよ。」
「お前達、あまりその馬鹿を甘やかすな。」
興奮した様子で一夏に詰め寄る箒と真耶、素直に一夏を褒め称える鷹丸。いずれも、出席簿アタックの餌食となる。順序良く頭を叩かれるその様は、まさにもぐら叩きそのままであった。女性陣は頭を押さえて涙目になり、鷹丸は相変わらずアハハと笑い飛ばして見せる。
「お前も、あまり調子に乗るなよ。今回は本人の言っていた通り、油断によるところが大きい。次はそうはいかんだろうから覚悟しておけ。」
「ああ、勿論解って―――」
「敬語を使え馬鹿者が。」
ギロリと千冬に睨まれて、矛先が自分を捕えたのだと一夏は解っていた。しかしなかなかプライベートの癖が抜けないのか、タメ口を千冬に使ってしまう。それを逃さないのが織斑 千冬である。一夏の言葉を遮り、その頭に出席簿アタックを叩きこむ。これでこの場に居る全員が被害を受けた事となる。
それからしばらく、IS起動におけるルールブックを渡されたり……申し訳程度の労いを千冬からされたりで、あれよあれよと言う間に状況は進む。千冬が移動を始めると同時に、副担任コンビもそれについて行く形となった。そうして、ピットに残されたのは一夏と箒のみ。一夏は、ここに来てようやく違和感に気が付いた。
「なぁ箒、黒乃は何処だ?」
「黒乃か?白式が
「そうか……。」
「フフッ、そう気落ちするな。去り際に黒乃が何と言ったと思う?結果は見えたと言ったのだぞ。」
黒乃が、勝利の喜びを分かち合いたい相手が1人足りていない。ピットを途中退室したと言うと、一夏は露骨にしょんぼりした様子になった。そこで、すかさず箒がフォローを入れた。少し箒が笑ったのは、コレを聞けば一夏は必ず喜ぶと思ったからだろう。
「それって、俺が思ってる意味で良いんだな?」
「それ以外考えられるか。黒乃は解っていたのさ、一夏が
「そうか……!」
結果は見えた、一夏が勝つのが見えた、だからこそもうこの場に居る意味も無い。そういった意味で、黒乃はこの場を去ったのだと2人は結論付けた。それが解った途端に、一夏はやはり嬉しそうな様子を見せた。すると箒は、去る寸前の黒乃の事を思い出し……涙を流す。
「箒……?おい、どうかしたのか!?」
「い、いや……済まない。……あの時の黒乃は、笑顔だった。本当に、薄い薄い笑みだ……。だが、黒乃の笑顔を見れたのだと思うと……つい……。」
自分でも知らず知らずの内に泣いてしまったのか、箒は心配させまいと慌てて涙を拭う。いきなり泣き出したわけを一夏に話すと、どうにも黒乃の笑顔がフラッシュバックしてしまう。そのせいか途中からは、少し声を震わせながらの説明となった。
「そっかー……そいつは損した。……何年も見てないしな。」
「おいおい、お前がそんなのでどうする?」
「……ああ、そうだな。いつかきっと、皆でまた笑い合えるよな!」
「その意気だ。では……食事にでもするか。無論、黒乃も誘ってな。」
「おう、そうするか。……の前に、俺は汗を流したいかもだ。」
どうすれば黒乃が元に戻るか。医学的知識のない一夏に方法は見えないが、誰よりも黒乃の回復を願っているのは一夏だろう。信じていれば、きっと。少し揺らいでしまった一夏だったが、箒の言葉のおかげで気を取り直せた。そうしていつもの調子を取り戻した一夏は、箒にニカッと歯を見せながら笑顔を見せる。
しかし、この2人はまだ知らない。こう話した翌日に、黒乃の笑顔を目撃する事を。そしてそれが、自分達の思い描くそれとは……正反対とも言える笑顔だと言う事を。黒乃の笑顔を目撃した2人は、果たして自らの中に居る黒乃を……律していられるのだろうか……?
黒乃→結果は見えたさ……原作通りにイッチーの負けだろどうせ。
一夏→結果が見えた……そっか、黒乃は俺が勝つって思ってくれたんだな。
なんとなく一夏には勝ってもらう運びに。
何処の二次創作でも一夏が負けてばっかですし、たまにはこんなのもアリかと。
原作の一夏よりは鍛えてるし頑張ってる設定なので、まぁ多少はね?