八咫烏は勘違う(旧版)   作:マスクドライダー

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授業風景とパーティー回。
後者に関しては、添えるだけみたいなものですけど。





第30話

「では、これよりISにおける実践的な飛行訓練を行う。織斑、オルコット、藤堂、試しに飛んでみろ。」

 

 クラス代表決定戦の騒動から数日が経過し、春という季節感もあってか平和そのものに感じられる。まぁ……IS学園に居るって時点で穏やかじゃないんですけど、そこはご愛嬌という事で。さて……飛行訓練か、これもテンプレっちゃテンプレだよね。とにかく、急いで刹那を展開……っと。

 

 俺とセシリーは、それぞれ専用機をスムーズに展開する。だが、イッチーは原作通りに手間取ってるみたい。ポーズを取れば安定して即時展開ができるらしく、俺達とは数秒遅れで白式を身に纏った。その際に熟練したIS乗りは1秒かかんないって言うけど、俺はどうなんだろ……?コンマ切ってるかは自分じゃ解んないな。

 

「よし、飛べ」

 

 オーケー、ちー姉。だけど、見学してる生徒が近いからスタートはゆるりと始めないとね……。俺がそうこうしている間に、2人はもうスピードを上げ始めてる。あ~……ヤバイかな?ちょびっとOIB(オーバード・イグニッションブースト)を使っとこ。追いつかないとまずいと思った俺は、50%もない出力でOIB(オーバード・イグニッションブースト)を発動し追い上げをかける。

 

「ん……うぉっ!?な、なんだよその滅茶苦茶な速度は……。」

「あ、あの距離から追いついて来ますの!?」

『何をやっている。刹那は別として……スペック上は白式の方がブルー・ティアーズよりも速度は上だぞ。』

 

 ほんの軽くのつもりだったんだけど、違う意味で軽く2人を抜き去ってしまった。2人の横を通り過ぎた時に発生した風に煽られ、特にイッチーはバランスを崩してしまったみたいだ。調子良く飛んでいたのに、そのせいでちー姉にお叱りを受けたっぽい。済まぬ……済まぬイッチー……。

 

「刹那と比べられないだけマシか……。はぁ……できれば、黒乃にイメージに関してのレクチャーをして欲しかったぜ。」

「一夏さん、イメージは各々で異なりますわ。貴方のやり易いイメージを模索するのが、最適です事よ?」

「そもそも、ISってどういう原理で飛んで……。いや、なんでもない。考えるだけ無駄だな、そもそも……得意な方では無いし。」

 

 頭は悪い方だと遠まわしに言うイッチーに接近し、俺も同じようなもんだから気にしないでと肩を叩く。しかし、どうやら憐れんでいる思われたみたいで……。イッチーは悲しくなるから止めてくれ、なんて言って……項垂れる。そんなイッチーを見て、セシリーは優雅な笑みをこぼした。あれ、何々?和やかな雰囲気じゃね?俺様もしかしてファインプレー?

 

『織斑、オルコット、藤堂、急降下と完全停止をやってみろ。目標は地表から10cm。で、藤堂……くれぐれも解っているな?』

「な、何やら解りませんが……とりあえずわたくしから。ではお2人とも、御機嫌よう。」

 

 急降下と完全停止という課題を出すと同時に、ちー姉は俺に釘を刺すように言った。や~……ISに乗り始めた頃のが尾を引いてるね、うん。セシリーは何か不憫そうな表情を俺に送った後、地表へ向かって降りて行く。そして、地面寸前で身体を反転させて完全停止。パーフェクッ!ファンタスティック!

 

「…………。」

「おっ、やる気満々だな黒乃。解った、先に行ってこいよ。」

 

 な~んて言っている場合でも無く、さっさと次行かないとね。俺は自分を親指で指差すと、次は俺に行かせてとイッチーに意思表示して見せる。イッチーは快く承諾してくれたが、まぁ……その方が君も困らないと思うよ。んじゃ、得意分野だし……華麗に魅せますか。

 

 俺は地面に向けて飛ぶのに合わせて、先ほどと同様に50%に満たないOIB(オーバード・イグニッションブースト)を発動させる。重力に従っているのもあってか、上昇よりも更に速度が凄まじい。で、セシリーと同じく地面に激突する前に身体を反転。……に合わせて、今度はOIB(オーバード・イグニッションブースト)をほぼ100%で地面に向けて噴出させた。

 

「……記録、0cm。」

 

 うっし、我ながら完璧……。50%下回っているOIB(オーバード・イグニッションブースト)なら、100%近いOIB(オーバード・イグニッションブースト)で完全に勢いを殺せるからね。ただし、地面に対してスッゲー風が巻き起こるけど。おかげで、俺の付近には凄まじい砂埃が舞う。で、俺の頭にはちー姉のお約束が……。

 

(ありがとうございます!)

「藤堂、念を押しただろうが。はぁ……今後、授業では許可なしにOIB(オーバード・イグニッションブースト)は使うな。良いか、これは命令だ。」

「み、皆さ~ん……大丈夫ですか~?」

 

 声がするので後ろを向いてみれば、ちー姉が出席簿を構えていた。もちろんこんな距離からは避けられないわけで、俺の頭には衝撃が走る。……嬉しいけど、まぁそれは良いとしよう。OIB(オーバード・イグニッションブースト)に制限をかけられちゃったか……魅せにはピッタリなんだけど。現にこうして、砂埃で周囲の女子達が被害を(こうむ)ってるしね……あまり紳士的ではなかったかな。

 

 皆さん、ほんと申し訳なかった。……さて、イッチーは……。ハイパーセンサーで白式をロックして様子を見てみると、俺は瞬時に悟った。あ~……アレだ、アレは長年の経験からするに……地面に激突だな。やっぱ最初は上手くいかんか、原作通りになるなら仕方がない。

 

「藤堂!あの馬鹿……。」

 

 再度空中へ躍り出た俺は、イッチーの墜落してくる一直線上に位置どった。ん〜……さっき使用が制限されたわけだが、どうやらOIB(オーバード・イグニッションブースト)を使わないと勢いが殺せないな。ってか、それよりもまずイッチーが避けようとしなければいいが……。

 

「くっ、黒乃!?お前何やって……クソッ!」

 

 まぁそりゃ避けようとしますよね〜。イッチーは進路を横へとずらそうとするが、そこは刹那の性能の見せ所ってもんだよ。俺はイッチーのずれた方向に合わせてQIB(クイック・イグニッションブースト)で横移動。そのタイミングでイッチーは俺へ接触する。ほ〜れ……おいでイッチー、おっぱいクッションを堪能させてやろう。

 

「んむぅ!?」

 

 イッチーの頭を胸で抱え込むようにすると、早めに全力のOIB(オーバード・イグニッションブースト)を発動させる。これなら、さっきと違って他の生徒に迷惑はかかんないだろ。最初こそイッチーと接触した衝撃が凄まじかったが、その勢いは徐々に収まっていき……イッチーは無事に地面へと着地した。

 

「ぶはぁ!ち、窒息するかと思った……。」

「……の割には、随分とだらしない顔つきだな。なぁ?一夏。」

「見損ないましたわ。」

 

 俺のおっぱいを堪能したせいか、イッチーの顔はかなり赤い。そのせいでモッピーとセシリーの総攻撃をうけるが、不思議と俺に矛先が向かないじゃないか。むぅ……もっと俺を責めてもええんやで?ま、どちらにせよちー姉に……なんて考えていると、俺とイッチーの頭を出席簿が襲う。

 

「この馬鹿共が!」

「いだっ!?」

(ありがとうございます!)

「織斑……藤堂のおかげで未遂だが、あのままではグラウンドに大穴が開くところだったぞ。そして藤堂……私は許可なく使うなと言ったばかりだが?」

 

 うひぃ……叩いてもらえたのは良いけど、この威圧感満載の視線は怖いなぁ。どうしようか考えていると、俺を助ける為にやった事だからとイッチーが庇ってくれた。いいぞイッチー、俺は面倒が嫌いなんだ……罰で労働を強いられるのは勘弁だぜぃ。

 

「はぁ……もう良い。だが藤堂、今後はその馬鹿を甘やかさないように。よしっ、では次にいくぞ。」

「黒乃、さっきはありがとな。後……悪かった。」

 

 こうして授業は進んでいくが、小声で感謝と謝罪をされた。謝ったのは……おっぱいの事だろうね。気にせんといてよ、俺が好きでやったんだから。いや、別にイッチーに触らせたかったって意味ではないからね?まぁいいや、集中せんと……ちー姉にマジギレされそうだ。

 

 

 

 

 

 

「というわけで、織斑くん……クラス代表就任おめでと〜!」

「「「おめでと〜!」」」

「人気者だな、一夏。」

「箒、本当にそう思うか?」

 

 現在は夕食後の自由時間で、場所は食堂に居る。1組の生徒プラスアルファで、イッチーの就任パーティーが盛大?慎ましく?……ちょうどその中間くらいの規模で執り行われた。それに対してイッチーは不服そうで、口を尖らせなら皮肉を言うモッピーに抗議してみせる。

 

「まぁまぁ、一夏さんをお祝いしたいという気持ちは本物ですわ。」

「そうだよ、織斑くん。こういう時には他人事と思うのが楽しむコツさ。」

「……なんでアンタが此処に居るんだよ。」

「何故って、幹事してる子に誘われたから。まぁ断るのもなんでしょ?」

 

 セシリーが(たしな)めるような台詞を言っていると、突然背後から鷹兄の声が響く。ビ……ビックリするから止めてよ鷹兄……。絶対わざとなんだろうけど、気配を消して近づいて来るから余計に性質が悪い。しかし、鷹兄も誘われるよねぇ……そりゃ。存在を感知された鷹兄は、瞬く間に女子達に引っ張られ輪の中心へと入って行った。

 

「……本格的に、誰が主役か解からんな。」

「やっぱ俺を祝う気なんて無さそうだけど。」

「ま、まぁまぁ……。近江先生の言葉にも、一理あると思いますわ。」

 

 まぁ、楽しんだもんの勝ちだよね。郷に入らば郷に従えって奴?……なんか少し違う気がする。頭悪いのに、無理にことわざを使おうとするからこうなるんだ。結果、鷹兄の言葉にもセシリーの言葉にも同意って事だよ。そうと決まれば、何とかイッチー達を盛り上げる方法を考えないと。

 

「はいは~い、新聞部でーっす!何かと話題の織斑 一夏くんにインタビューに来ました!」

 

 ゲ、ゲゲェ!?まずったな、このイベントを忘れてた……。え~っと、黛 薫子さん……で合ってるよな。黛先輩のインタビューは、確か代表候補生にも及んだはず。そうなってみなよ、何も答えられないから盛り下がるの必至じゃん。仕方が無い……こっそり退散するか。それにこの時間帯なら、まだ間に合うかもだし……。

 

「…………。」

「黒乃?どうかし……っておい、ちょっと待て!黒乃ーっ!?」

 

 その前にモッピーの肩を叩いて、手提げの袋を渡しておいた。中に入っているのは、時間を見つけて焼いておいたクッキーだ。このパーティーがあるのは解ってたし、せめてもと思って……。いや~……いろいろ大変だった。何が大変だったって、まず調理実習室を借りるのが俺には難度が高く……。

 

 まぁそれはいいや、後はスタコラサッサ~っと。クラス分より余計に焼いておいたし……1人数枚は食べれるだろ。さて、俺はするべき事をしないとな。え~っと、正面ゲート付近をウロウロしてたはずだから……こっちか。俺はジョギングくらいの速度で走って、とりあえず正面ゲートを目指してみる。

 

 ん~……着いたはいいけど、目立った人影は無しか。えっと、あの後彼女がとった行動を良く思い出せ……確か描写されてたはず。描写……されて……って!違うううう!タイミング……間違えた!良く思い出そうとしたら、俺が根本的な間違いを犯している事に気が付く。

 

 彼女はイッチーとモッピーの仲睦まじい姿を目撃してるんだから、タイミングとしてはパーティーが開かれるよりも前だ。はぁ~……無駄足か。なんとか、彼女を出迎えて……いや、せめて迷子にならないようにしてあげたかったんだけど。記憶力が弱い自分に嫌気がさして、体育座りでゲートの支柱にもたれかかる。

 

「……こんな所に居たんだ。」

 

 あり、鷹兄……?こんな所にって言うけど、それは俺も同じ感想だよ。もしかして、変な抜け方したから心配させちゃったかな。鷹兄は俺のどんよりとしたオーラを察してか、ゲートを挟んで反対側の支柱に腰掛けた。あ~……うん、良いね鷹兄……すぐ口を開かないのはナイスだね。

 

「星……。」

「…………?」

「星、綺麗だと思わない?太陽なんかよりずっとちっぽけな輝きなのにさ、こうして集まって寄り添って……太陽じゃ出せない景色を描く。」

「…………。」

 

 そう言えば、IS学園の空は澄んでる気がするな……。首都圏に点在してるのは変わらないのに、鷹兄の言う通りに星が綺麗だ。春の星座と言えば……アルクトゥルス、スピカ、デネボラから形成される春の大三角形が有名……なのか?勉強苦手だけど神話とか好きだから、星座は特に密接な関わりがあるし……自然に詳しくなっちゃった。

 

「人だって同じさ、例えちっぽけでもその人にしか出せない輝きがある。僕は……キミの輝きを見ていたいな……僕も君の近くで輝きながらね。だから……自分を見失わないで。君の輝きは……どんな暗闇でも見つけ出してみせるから。」

 

 た、鷹兄いいいい!後半何言ってるか良くわかんないけど、とにかく俺を励まそうって気持ちは伝わった!マジでありがとう!いや~……しかし凄いな。俺だったら、ドンマイドンマイ!誰でも間違いはあるって!……みたいな励まし方しか出来ないけどな。遠まわしな励ましはこうやってやるのか……勉強になるね。

 

「あり……がと……。」

「……さぁ?今のはただの独り言だよ……っと!じゃ、僕はこれで。気を付けて帰ってね。」

 

 どうしても感謝の言葉が伝えたくてふんばっていると、なんとか声を絞り出す事に成功した。本当は、ありがとうございますって敬語のつもりだったんだけどな……。俺が感謝を伝えると、鷹兄は立ち上がり次第にこの場を去って行く。う~む……去り際までオサレな言葉で締めくくったな……余裕のある大人ってカッケー。

 

(んじゃ、俺も帰ろうかな……。)

 

 

 

 

 

 

(やはり凄いものだな……黒乃は。)

 

 ISを用いた実践的訓練が開始され、その手本として一夏、黒乃、オルコットの3名が飛んでいる。背にあるスラスターから黒い炎を吹き出して、刹那はグングンと上昇していく。仮に私が刹那を渡されたとして、ああ上手くは使いこなせないだろう。

 

 しかし……黒乃に解離性同一性障害の可能性あり……か。あの日帰って来た一夏が真剣な話があるとかで聞いてみれば、私としては信じられないような、確かに納得せざるを得ん部分もあるというか。確実な事があるとすれば、あれは黒乃の戦い方ではなかった……。

 

「ねー、藤堂さん……意識して後から速度出したよね?」

「はっ、舐めプって奴なんじゃないの。八咫烏様の事だしね。」

 

 ……仮に黒乃にもう1人の人格があるとしよう。だとすれば、私は黒乃であって黒乃でないソイツを許さない。現にこうして陰口を叩かれるのも、ソイツのせい以外何物でもないはずだ。原因はソイツであろうが、私の後ろで声を潜めている連中の意識の問題でもあるがな。

 

 それにしても、黒乃はもちろんだが……一夏も随分と遠い存在に感じてしまうな。白式を纏っている一夏は、黒乃やオルコットと何やら楽しそうにしている。……あの2人に置いて行かれるのは嫌だ。私の家族は、家族と言えない。2人に置いて行かれたら、私は本当に独りになってしまいそうだ……。

 

「あの〜篠ノ之さん?」

「はい?」

「その、ボーッとしてますけど……体調でも悪いんですか?」

「あ、あぁ……いえ、スミマセン。少し考え事を……。」

 

 いかんいかん、私とした事が……。山田先生だからよかっただけで、千冬さんなら既に出席簿を喰らっているところだろう。うん……考え過ぎはいかんな。置いて行かれたくなければ、私が精進すればいい話だ。いつまでも待ってもらうわけにはいかんからな。

 

 山田先生に大丈夫だと返している間に、一夏達は急降下と完全停止を披露する事になったようだ。まず動き始めたのはオルコット。悔しいが、やはり代表候補生なだけはある。オルコットは見事な操作を見せて、千冬さんにもお墨付きをもらったようだ。

 

「あら、何かご用事でして?」

「いや、見事だと感心していただけだ。」

「そ、そう手放しに言われますと……返って困惑しますわね。」

 

 何処か得意げ……というか自慢げに話しかけてきたオルコットに、私は思っていた事を簡潔に伝えた。向こうとしては、私が噛み付いてくるとでも思ったに違いない。フンッ……一夏が関わりさえしなければ、私もそこまで熱くはならんさ。うむ、一夏が関わらなければ……。

 

「ですが、彼女に比べればわたくしもまだまだ……。」

「……あの速度で迫られると、なかなか迫力がある物だ。」

 

 オルコットが上空を見上げるのに合わせて、私も首を上方へと傾けた。そしてその目に映るのは、背から小さい炎の翼を噴出させている刹那だった。翼の大きさが異なると言う事は、まだまだ余力は十分か……。黒乃はまるでその証拠かのように、地表が近くなると同時に雷火の出力を上昇させた。

 

「近江先生も、随分と特化型のISを設計なされたものですわ……ねっ!」

「まるで砂嵐だな……。」

 

 地表に近い位置で……あ~……何だったか、お、おーばーどいぐにっしょんぶーすと?……横文字は苦手だ。とにかく、とんでもない出力で炎を吐きながら地表へ近づくものだから、当然ながらグラウンドの砂は巻き上がる。見学している私達は遠い場所に居るのだが、ほとんど意味をなしてないな……。

 

 むっ、黒乃に千冬さんが近づいて……。あれは出席簿直撃コース……流石の黒乃もアレは避けれんか。なんだか解からんが、千冬さんが叩いたと言う事はお叱りと思って間違いない。わざわざ千冬さんが、人を褒めるために近づく訳が……。なんだろうか、千冬さんと目が合った気がする。

 

「残るは一夏さんですが、あぁ……アレは……。」

「どうかしたか?」

「簡潔に言いますと、墜落しますわ。」

 

 そうか……いや、そうかで済ませてはいかんだろう!?ISを纏っている以上は死にはせんだろうが、死なないから落ちても構わんだろう……とは私は言えんぞ。なんて心配しながら急降下してくる一夏を眺めていると、再び黒乃が動き出した。

 

 驚いている暇もなく、黒乃はその胸を緩衝剤にするかのようにして一夏を受け止める。く、黒乃……お前という奴は、時々思うが少しは恥じらいというものをだな……。いや、もしかしてわざとか……?私とて、そういうのが女の武器である事は理解しているが……黒乃のように有効的に扱う自信はないな。

 

「ぶはぁ!ち、窒息するかと思った……。」

「……の割には、随分とだらしない顔つきだな。なぁ?一夏。」

「見損ないましたわ。」

 

 まぁ一夏が無事で何より……と思ったのは束の間だ。黒乃の胸から頭を離した一夏の顔は、こう……何かした堪能したとでも言いたいようにだらしない。流石にこういう時は気が合うな、オルコット……。私はオルコットと2人して、黒乃の胸にしてやられた一夏を責める。

 

 だが今は授業中だ。あまりやり過ぎると、それこそ私の身が危ない。実際のところで、一夏と黒乃は出席簿による制裁を喰らう。……今回は、それで許してやる事にしよう。さて、見る事もまた戦いだ。残りは集中して、専用機持ち達の手本を見守った。

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、織斑くん……クラス代表就任おめでと〜!」

「「「おめでと〜!」」」

「人気者だな、一夏。」

「箒、本当にそう思うか?」

 

 自由時間に食堂集合という物だから来てみれば、まさか一夏の就任を祝う会だとは。見たところ1組以外の者も居るようだし……何でもアリかここの連中。私も私だな……落ち着け、一夏が女子に祝われているからなんだ。一夏に皮肉を送った事を反省しつつ、何とか心を静める。

 

 ……私や一夏はともかくとして、黒乃は大丈夫だろうか。黒乃は私達が楽しんでいる様子を見て、それでパーティーなどは楽しんでいるようだが……。今回は規模が大きいうえに、周囲は敵だらけ。……ここから黒乃を連れ出すのが得策か?黒乃の場合は、判別に困る。

 

「まぁまぁ、一夏さんをお祝いしたいという気持ちは本物ですわ。」

「そうだよ、織斑くん。こういう時には他人事と思うのが楽しむコツさ。」

「……なんでアンタが此処に居るんだよ。」

「何故って、幹事してる子に誘われたから。まぁ断るのもなんでしょ?」

 

 オルコットが一夏のフォローをしていると、いつの間にか近江先生が私達の背後に居た。時々思うが、やはりこの人もただ者では無いな……。足音、気配、双方微塵も感じられなかった。飄々としているせいで解り辛くはあるが、いつかこの人の本気も見せて貰いたいものだ。

 

 自ら気配遮断を断ったせいか、近江先生はあっという間に女子に見つかる。……なるほど、近江先生が呼ばれた理由はそれか。と言うよりは、一夏の就任パーティーと言うのも大義名分。これは連中が一夏や近江先生と距離を縮める為にあるようなものだ。フンッ……近江先生はともかく、私と黒乃が居る限りは思い通りにさせんぞ。

 

「……本格的に、誰が主役か解からんな。」

「やっぱ俺を祝う気なんて無さそうだけど。」

「ま、まぁまぁ……。近江先生の言葉にも、一理あると思いますわ。」

 

 近江先生は、女子達に引っ張られ盛り上がりの最たる場所まで連行されてしまう。やはり私達が居るせいか、表だって一夏にアプローチはかけづらいらしい。しかし、近江先生の登場でますます場が盛り上がってしまったな。それに比例するかのように、黒乃の存在感が薄れていく。……よしっここはやはり、黒乃は退出させよう。

 

 オルコットと一夏を2人にするのはなんだが、こう人の目が多くては大胆な行動には出れんだろう。それに、私もこのパーティーに興味は無い。黒乃といる方がよほど有意義な時間を過ごせるというもの。私が黒乃に意思確認を取ろうとすると、思わぬ邪魔がそれを遮った。

 

「はいは~い、新聞部でーっす!何かと話題の織斑 一夏くんにインタビューに来ました!」

 

 何処からかこのパーティーの事を聞きつけたのか、新聞部を名乗る者が現れた。一夏にインタビューか……残念だが、一夏はさほど面白い事を言えた男では無いぞ。私と同じでマスコミの類は苦手だろうしな。そうすると、私の肩を叩く者が。黒乃……そうか、やはりこの場には居辛いのだな。

 

「…………。」

「黒乃?どうかし……っておい、ちょっと待て!黒乃ーっ!?」

 

 すぐさま黒乃と此処を去ろうとすると、私に手提げ袋を渡して1人で去ってしまった。くっ……!もっと早くに行動を起こすべきだったか……。黒乃が私まで去る必要はないと考える事は見えていたのに。追いかけるべきだろうが、コレを私に預けたのなら何か意味があるハズだ。私が手提げ袋を漁っていると、随分と懐かしい物が出てきた。

 

「コレは……!?」

「箒、どうかしたのか?」

「黒乃が、コレを私に渡して去って行った。」

 

 インタビューとやらは終わったのか、1人で驚いている私に話しかけてきた。黒乃がコレを渡したと言うと、一夏も昔を懐かしむような表情を見せる。中に入っていたのは、フレーバーごとに袋詰めされた大量のクッキーだ。何の変哲もないが、私と一夏にとっては特別なもの……。

 

「懐かしいな、俺達が落ち込んだりケンカしたら……必ず黒乃が焼いてくれたっけ。」

「今回は、一夏がクラス代表の件で消沈していたからだろう。」

「これでも食べて元気出せって?……うん、元気出る。」

 

 そう……私達にとって黒乃のクッキーと言えば、何か……絆の証と言い換えても遜色ない。最初こそは失敗も失敗で焦げたクッキーだったが、それはそれで笑いの種になったのを良く覚えている。一夏はそんな事を呟きながら、プレーン味のクッキーを1つ撮んで頬張った。

 

「ところで箒、黒乃は何処に―――」

「あーっ、篠ノ之さんってお菓子作れるんだ!凄~い!」

「その量……クラスの皆に焼いてくれたの!?」

「ち、違う……コレは。」

 

 一夏が私に黒乃の事を尋ねようとすると、連中のうち1人がクッキーに気が付いた。それを皮切りに、クッキーへと女子が群れ……許可も無しに次々と奪っていく。確かにこの量となると、クラス分よりも余計な程だろう。しかし聞いて欲しい……これは、私で無くて黒乃が焼いたものだ。

 

「わっ、美味しい!やるね篠ノ之さん……。」

「フ、フフフ……フンッ!こんな物で一夏さんの気を引こうとしても無駄ですわよ?まぁ……美味しい事は認めますが。」

「……違う!それは、私でなく黒乃が焼いたクッキーだ!」

「え……?」

 

 それまでワイワイと盛り上がっていた連中は、黒乃の名を出しただけで水をかけたように大人しくなった。あぁ……本当に、こいつらを見ていると……つくづく人間というものが嫌になる……!黒乃の手前で我慢してきた……黒乃が望まぬ事だと耐えてきた……。だが、私にはもう限界だ……!

 

「……んなんだ……なんなんだお前達は!黒乃がいったい……どういう想いでそれを焼いたと思っている!?」

「箒……。」

「このパーティーに華を添えようと思っての事だろうが!それをお前達は……黒乃が焼いたものだと知るや否やその態度か!黒乃が……黒乃がいったいお前達に何をした!そのクッキーに毒でも入っていたか!?」

「箒、落ち着け。それはお前じゃ無くて俺の役目―――」

「黒乃は黒乃なりに理解してもらおうと努めているのに、どうしてお前達は欠片も黒乃の事を理解しようと思わない!さも黒乃を酷い奴かのように言って……お前達の方が、よほど黒乃に酷い事をしているではないか!」

「箒!」

 

 私は怒鳴り散らしながら、前々から思っていた事と今回の事を絡めて怒鳴り散らす。一夏が私の事を想って止めに入ろうとしてくれるが、残念な事に気が収まらなかった……。まだまだ言いたい事はあったが、一夏が大きな声で私を呼ぶ。それでようやく私は我に返った……が、私は何も間違った事を言ったと思って止めたわけでは無いぞ。

 

「はいはい、皆とりあえず落ち着こうか?っていうか、お開きにした方が良いと思うけど。」

「近江先生……。」

「ちなみに、僕は全面的に篠ノ之さんの意見に賛成だね。キミら……もうちょっと藤堂さんの事も考えた方が良い。」

 

 しばらくシンとした時間が食堂を支配したが、近江先生が手を叩きながら解散を促す。そう言われた女子達の表情は……バツが悪そうだ。私からだけでなく、近江先生からもそう言われて相乗効果が出たのだろう。近江先生が動き始めると、それに合わせて女子達も解散を始める。

 

「大丈夫?篠ノ之さん。」

「はい……。近江先生、私は……。」

「君は、自分で間違った事をしたって思うかい?それなら、やらない方がマシだ。」

「いえ、私は後悔はありません。」

「今となっては、わたくしは篠ノ之さんを支持しますわ。」

「あんまり気にすんなよ、かっこよかったぜ。」

 

 どちらかと言えば、近江先生が援護射撃をしてくれたものだと思っていたから謝ろうとしたのだが……。この人は、どうやら本気で私の意見に賛同すると言ってくれたらしい。一夏やオルコットの言葉も……嬉しかった。私はほんの小さな声で、ありがとうと呟く。

 

「さて、このクッキーは……3人で分けなよ。僕は藤堂さんを追いかけるから。」

「ちょっと待て、それはアンタじゃ無くて俺が!」

「織斑くん。」

「な、なんだよ……。」

「残念だけど、今の君にその資格はないよ。僕の言っている意味も解らないなら……それはもう論外だ。」

 

 近江先生は目をカッと見開きながら、少し冷たい口調で一夏にそう告げる。資格……一夏には無くて、近江先生にはある……。……もしや近江先生、黒乃の事を好いているのではあるまいな。いや、誰が誰を好きになろうとそこに口出ししようという事ではないが、教師と生徒と言う立場でそれはどうなんだ?

 

「一夏さん、ここは近江先生にお任せするべきですわ。」

「なんでだよ!」

「大人の余裕……ですわ。」

「確かに、近江先生の方が上手くやるだろうな。」

「ぐっ……解かった。ただし、黒乃に変なことしてみろ……タダじゃおかないからな!」

「うん、そこに関しては約束するから。それじゃ、気を付けて帰ってね。」

 

 そう言うと、近江先生は白衣を翻しながら黒乃の捜索を開始した。というか、近江先生なら刹那のありどころから特定するのだろう。私達3人は、アイコンタクトと同時にクッキーの分配作業に移る。プレーン、ココア、抹茶のフレーバーをバランスよく分配すると、私達は大人しく帰路へと着いた。

 

 

 




黒乃→ちょっち人探しするんで、これにて退散!
箒→黒乃が自ら身を退いたと言うのに……コイツらは!

黒乃のクッキー
小学生時代のとある日に一夏と箒がケンカをしたため、少しでも仲裁の元になればと作ったのが始まり。それ以来は事あるごとに焼いているが、単にレパートリーがクッキーしかないだけである。だだし、その分アレンジの幅は広い。黒乃はコレを特別な物だと思った事は無い。


箒ちゃん大激怒の巻。
怒るなら一夏でなく箒で。
世界観的に、男子が言ったんじゃ心に響かないと思いまして。
この回が、周囲の認識を変え始めるフラグに……かなり長い目で見ればなると思われ。
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