八咫烏は勘違う(旧版)   作:マスクドライダー

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クラス対抗戦篇終結な回。
鈴登場から含めて数話しか経過してないですけど……。





第34話

「か、カイリセイドウイツセイショウガイ……?」

「……いわゆる多重人格って奴だ。」

「し、知ってるわよそれくらい!」

 

 無人機騒動冷めやらぬが、日の変わらぬ内に鈴には黒乃の事情を話しておく事に。人が全く居ない放課後の1組にて、鈴の金きり声は良く反響する。というか、絶対に知らなかったリアクションだったろ。でもこれ以上の追及をしようものならば、手とか足が出てくるから黙っておく。

 

「……あれ?それ、マジ……?」

「いや、あくまで暫定的な話ではあるんだけどな。でも、黒乃を知ってる鈴なら……納得いく部分もあるだろ。」

「そうね……。今日の黒乃ってばなんか変だったし。何より機械相手だからって、あんな事する子じゃないもの。」

 

 もしかしたら俺達の思い違いなのかも知れない。だけど変な話で、俺はそうであって欲しいと思っている。だってそうじゃないと、今までIS操縦者を潰して来たのも……全て黒乃の意志だったという事になってしまう。もう1人の黒乃が黒乃にさせているのだと考えれば、俺としては救われる気分だ。

 

「いつ頃からそんな事になってたのよ。」

「正確には解からない……。けど、あるとすればISに乗り始めてから……らしいんだ。」

「そっか……。なら、もしかするとアタシが居た時には既にそうだった可能性もあんのね。」

 

 一応は多重人格に関して色々と調べてみた。どうにも、本人にすら自覚症状がないパターンもあるようだが……セシリアの証言からして、多分黒乃は知っている。だとしたら、本当にいつなんだ……?黒乃との日々を隅から隅まで思い出してみるが、それらしい記憶は蘇らない。

 

 ……いったい何が、違う黒乃を生み出してしまったのだろうか。どうしていつもいつも……黒乃ばかりが苦しまないといけないんだ。俺達が傍に居るだけでは、黒乃には何も響かないのだろうか……?今までやってきた事が無駄だったと言いたいのではないが、それは寂しいというか……辛いな。

 

「ところでだが、中国ではどうなんだよ。……八咫烏の知名度は。」

「へ?あぁ……うん。それは凄いもんよ……勿論、悪い意味の方で。」

「……そうか。」

「断っとくけど、アタシは本当に違うからね?むしろ日本で言うところの小烏党寄りよ!」

「小烏党……なんだそれ?」

 

 ふと気になって鈴に問いかけてみたが、やはり中国でもそうらしい。落胆する俺だったが、鈴が小烏党なる発言をしたのが引っかかる。今度は俺が質問する番で、小烏党についての解説を目で訴えた。すると鈴は、何か藪から蛇を出したような……そんな顔をしてから語り出す。

 

 なんというか、想像をはるかに超えた集団だった事には違いない。小烏党とは、黒乃を女神と崇拝しているネット団体だそうだ。黒乃を崇める理由としては、黒乃がIS操縦者を潰してきたから。つまるところ、自分達に代わって女尊男卑に染まった輩を成敗して貰っている気分なのか?

 

 なんなんだそれは……なんて無責任な連中なんだ。自分達はネットで匿名の書き込みをしてるだけの癖に、勝手に黒乃を祀り上げる。黒乃の気も知らないで、黒乃が自分と闘っている事も知らないで……何が女神だよ。その小烏党って奴らは、間違いなく黒乃に迷惑をかけるだけの存在だ。

 

「……黒乃は、そいつらの事を知ってんのか?」

「さぁ……?アタシにはなんとも言えないけど、黒乃って自分の事に疎い部分はあるわよね。あの子、下手すると自分が美人な自覚すらなさそうだわ……。」

 

 それは確かに、思い当たる節はいくつもある。スカート穿いてるのに腰から屈んでパンツ丸見えとか、割とよくある話だ。指摘すると隠すから、一応の恥じらいはあるって事だろう。まぁ別に、黒乃の下着なんて洗濯してたわけだし……騒ぐことも慌てる事もないが。

 

「とにかく!アタシは黒乃支援派って事よ。小烏党ってのはまぁ……言い過ぎかしらね。」

「そうか、解った。けど鈴……中国で知り合いとかが潰されたりは……。」

「ああ、良いの良いのあんな連中。この際だから言っとくけど、アタシにとって黒乃に勝る大事な人なんてほとんどいないから。」

 

 ほとんど……な。そのほとんどには、親とか俺や弾あたりも含まれているからこそのだろう。しかし、随分と鈴らしい言葉ではある。まぁ……1年で代表候補生になったらしいし、頭角を現した鈴にはいろいろとあったに違いない。

 

「黒乃が多重人格かぁ……。なんとか力になってあげられないかしら。」

「状況は最悪だよな。黒乃は自分から助けを求められない……。そのうえ、黒乃が俺達に知られる事を拒んでる。」

「…………。」

 

 失語症さえなければ、父さんと母さんが居てくれさえすれば……こんな事態にはならなかったのだろうか。黒乃の置かれている状況をよほど悲痛に感じているのか、ついに鈴は黙ってしまう。俺達に出来る事は、何も知らないフリしていつも通りに過ごすしかないのか……?

 

「でも、黒乃がアタシらにどうにかして……助けてって、そう言ってくれた時は……。」

「ああ、それは勿論……俺達のやれる事を全力でしてやろう。」

 

 そのどうにかしてが、黒乃にとっては難しい。だけど、それさえクリアしてしまえば……俺達はいつだってお前の味方だからな。何か解決策が浮かぶまでは、やはり待ち続けるしかないか……。とにかく、黒乃の事情は鈴に受け入れてもらえたようだな。後は……。

 

「鈴。」

「な、何よ……急に改まっちゃって。」

「この間の事、悪かった。」

「アンタが折れるなんて珍しいじゃない……。どういう心境?」

「いや、賭けはお流れになっちまったし……俺も悪い事言ったのは確かだしさ。」

「わ、解れば……じゃないわよね……。アタシの方こそ、ゴメン。」

 

 負けた方が先に謝るって事だったが、無人機のせいでなかった事も同然だ。かといって、そのままなぁなぁにするのもいただけない。鈴は多分だけど、そんなのは忘れていたようだ。それでも、俺が謝れば向こうも謝ってくれた。うん、これで丸く収まったんじゃないか?

 

「それじゃ、俺は行くぞ。」

「なんか用事でもあんの?」

「ああ、少し……黒乃の様子が気になってな。そうだ、後で黒乃と食堂に向かうから、皆で食べようぜ。」

「あ、それ良いわね。解ったわ、なるべく早く来てよね!」

 

 あの時は落ち着いてくれたが、まだ情緒が不安定かも知れない。とりあえず鈴と話をするのを最優先にしたが、やっぱり黒乃の様子をもう1度確認しておくべきだ。去り際に飯時の事を思いついたが、鈴は快く乗ってくれて、元気に教室を去って行った。

 

 さて、俺も黒乃を探そう。この時間なら……部屋にいる確率が高いよな。寮の方まで歩を進めると、寮と教室棟の渡り廊下に差し掛かる。そこには想像通り黒乃の姿が見えた。しかし、それとは別で余計な奴の姿も……。いつものニヤけた面が癪に触る……近江 鷹丸だ。

 

 やはり俺は、黒乃とあいつが一緒にいると……冷静ではいられない。それは多分、奴が黒乃に変な事をするであろうという危機感からだ。早いところ、黒乃から近江を引っぺがしてしまおう。俺は少しだけ音量を大きめにして、黒乃の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

(はぁ……なんだか今日は疲れたなぁ……)

 

 無人機の乱入があったのだけれど、学園の運行は平常通り……。と言っても、ほとんど自習だったんだけれど。ってか、それならいっそ閉校で良い気がする。だけどこれがまだまだ序盤と思えば気が重いや。これだから代表候補生にはなりたくなかったんだけど……。

 

 今日はアニメ観たりゲームせずにバタンキューしとこう。なんかもう……ご飯もいいかな、面倒だし。面倒臭くて飯抜きとか、そんなん前世では良くあった事だもの。フカフカのベッドが俺を呼んでるぞ〜っと。……の前に、俺を呼ぶ超えが聞こえた。

 

「藤堂さん、少し良いかな。」

「…………?」

「うん、時間とかは大丈夫かい?」

「…………。」

 

 俺に声をかけたのは、鷹兄だった。ずっと姿が見えなかったけど、やっぱり無人機の調査でもしてたのかな。別に用事はないし、むしろ暇なくらいだよ。鷹兄の俺に対してある用事は、無視する訳にはいかん。俺はこの人の部下みたいなもんだしね……。

 

「刹那の事で幾つか質問させて欲しいんだけど……。」

「…………。」

「今日やってたあの動き、即興かい?それとも、技のイメージは前からあった?あ〜と、後者の質問にイエスかノーで。」

 

 今日……?ああ、はいはい神裂閃光斬の事ね。イッチーがワチャワチャしてるって評してたけど、鷹兄が何か気にするような事でもあったのかな。あ~……無茶な動きは止めてくれとかかも……。で、質問に答えるとすれば……イエスだ。俺は首を縦に振った。

 

「ん~……そっか。じゃあ、他にも隠してる……っていうか、今日みたいな技ってまだあるかい?」

 

 お、次もまた良く解らない質問がきたぞ。鷹兄の言う通りに、隠してるってほどじゃないんだよね。でも……本当に使うタイミングなんてほとんど無いからさ。ただ、試してみたいな、再現してみたいな~って技は山ほどあるよ。だからこれも、イエスかな。

 

「へぇ、そうかい。」

「…………?」

「ああ、ごめんね。何のための質問か解んないよね。もし決まった動作のある技なんだったら、刹那にインストールさせておいた方が良いんじゃないかと思ってさ。」

 

 なるほど、鷹兄の質問にはそんな意図があったのか。確かにゲーマー仕込みの指捌きと、妄想癖ありきのイメージインターフェースでなんとか形にしたけど、あらかじめ刹那に覚えさせておいた方が操作に補正がかかって安定するはず。で、その相談に来たって事ね。

 

「もし藤堂さんが構わないなら、全部記録させてもらって良いかな?データ化とかインストールは勿論僕の仕事として……。」

「…………。」

「ありがとう、助かるよ。じゃあ……今週の土曜日は開けておいてくれるかい?君も日曜日を潰されるよりは良いだろうし。」

 

 鷹兄の頼みは、むしろ大歓迎なくらいだ。すぐさま首を縦に振ると、鷹兄は予定の話を切り出した。まぁ……土曜日もIS学園は半ドンだもんね。それを言うと、鷹兄の言う通りに日曜日がフルで休みの方が俺としては良いかな。これにも首を縦に振って肯定……っと。

 

「うん、了解。場所は研究棟の第13区画になるかな。……解るかい?」

「…………。」

「そっか、まぁ君らは用事はないもんねぇ。それなら、放課後になったら一緒に向かおうか。」

 

 研究棟とか、足を踏み入れた事すらない。鷹兄の質問で、初めて首を横へと振った。しかし鷹兄の言い方……何か引っかかるなぁ。もしかして、近江重工が1区画丸々使っちゃってるとかないよね?……流石にそんな我儘が通るはずもないかぁ~……ハハハ。

 

「じゃあ……話はこれくらいかな。引き留めちゃってごめんね、今日は君もゆっくり休んで―――」

「黒乃!」

「やぁ、織斑くん……こんにちは。」

「……ども。黒乃、鈴が先に食堂で待ってんだ。あいつ1人は可哀想だからさ、先に行っててくれないか?」

 

 鷹兄の言葉を、まるで遮るかのようにイッチーが割って入って来た。まぁ……話は済んでるみたいだから良いけども。んでもって、鈴ちゃんが食堂で待ってるって?あ~……飯は抜こうと思ってたけど、そういう事なら話は別だな……。任せろイッチー、鈴ちゃんの面倒はちゃんと見といてやるからよヘヘッ。

 

「…………。」

「うん、明日も遅刻の無いようにね。」

「また後でな、黒乃。」

 

 鷹兄に深々と頭を下げてから、食堂目指してズンズンと歩を進めて行く。……あれ?イッチーはどうして俺と一緒に行かないんだろ。あれか、鷹兄に用事でもあったのかもな。気になって振り返ると、イッチーと鷹兄は何か話してる。やっぱそうか、ま……そんな事より鈴ちゃん鈴ちゃん……。やっぱ女の子が待ってるって思うとテンション上がる。そのまま俺は上機嫌で食堂へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

「えっと、君は何か僕に用事だったのかな?」

「ああ、あるぜ。……黒乃について話がある。」

 

 去る黒乃の背中を見守っていた2人だったが、ある程度の距離が開くと鷹丸がチラリと一夏を見ながらそう聞いた。今は人気は自分達意外に見当たらないため、常々質問がしたかった一夏にとってはまたとないチャンス。一夏が鷹丸に向きなおると、それに倣って鷹丸も一夏を正面で捉える。

 

「アンタ、黒乃をいったいどうしたい?」

「質問の意図が見えないねぇ。それを聞いて、君はどうするつもりなのかな。」

「……それは、俺が判断する事だ。」

「そう?じゃ、単刀直入に言おうか……。藤堂さんは、僕のお嫁さんにしたい……ってところだね。」

「っ!?」

 

 どうしたいのかと問われれば、鷹丸からすればこう答えるしかない。何故なら鷹丸は、心の底から黒乃の事を好いているから。それは純度100%混じり気の無い恋慕なのだが、日ごろの言動より鷹丸を良しとしない一夏にとっては……聞き捨てならない言葉だった。

 

「そんな事……認めてたまるかよ!アンタみたいにヘラヘラした奴に、黒乃を守れるはずがない!」

「うん、そうだね。でも君が言っているソレは、力ありきの話でしょう?」

「…………?」

「彼女は、僕に守られる必要がないほどに強い。そんな事はとっくの昔に解ってる。だから僕は、僕だからこそ出来るやり方で彼女を守っていくつもりだよ。」

 

 鷹丸が言いたいのは、力でなく立場で黒乃を守るという事。近江重工を抜きにしたって、鷹丸は科学者として確実な名声を物にしている。鷹丸個人の立場に近江重工という立場が加わり、ほぼ隙は無いと言って良い。鷹丸は、覚悟なんてとっくに出来ていたのだ。

 

「彼女を守るためになら、なんだってやってみせるさ……。彼女さえ幸せであってくれるなら、僕に何があろうと痛くも痒くもない。それより、僕の方からも質問いいかな?」

「……なんだよ。」

「君は、何をそんなに怖がっているんだい?」

 

 一夏は鷹丸の言葉に思い当たる節は無かった。それなのに、何故か図星を突かれるような感覚が胸を過る。鷹丸の言葉に対して、どうしようもなく焦りや不安が滲み出てきてしまう。しばらくの間に一夏が出来た事と言えば、とにかく鷹丸を睨むくらいだった。

 

「何が言いたいんだよ……!」

「だってそうでしょう?君、僕が藤堂さんと話しているのを見て……それで慌てて話しかけてきたよね。僕はもう用事は済んだし、あのまま立ち去るつもりだったんだけどなぁ。」

「…………。」

「フフッ、そんなに僕と藤堂さんが仲良くしてるのが嫌かな?」

 

 そう言われると、またしても一夏の胸に見破られたかのような感覚が。一夏は、まるで……悪戯したのがばれた子供のような様子だった。嫌かどうかで聞かれれは、それは確かに嫌なのだろう。だが、鷹丸の言いたいソレではないと、一夏は自分に言い聞かせた。

 

「アンタが、もう少しまともな態度さえとってくれれば……。」

「言っておくけど、僕は校内で藤堂さんを口説く気なんてないよ。これでも今は教職だからねぇ。」

「…………。」

「ま、プライベートでも許されないって言われちゃうとそれまでだけど……。これらの材料から推測するに、君は僕に……いや、まだ止めておこうか。」

 

 ああ言えばこう言うと、鷹丸はそれを体現したかのような存在だ。よほどの事では折れないし、反論に反論を重ねる気概がそんじょそこらの人間とはわけが違う。一夏のまるで苦し紛れの言葉にも、しっかりと結論を出そうとして……止めた。

 

「なんだよ、言いたい事があるならハッキリ言え!」

「いやぁ、ゴメンね。もう少し君の様子を見てからにしようかなと思ってさ。決着をつけるのは……ね。」

「…………?」

「まぁとにかく、君はもっと自分と藤堂さんに向き合う事をオススメするよ。」

 

 鷹丸はそう言うと、白衣を翻して何処かへと向かおうとする。話はまだ済んでいない。一夏はそう思っているが、何故か……鷹丸を止める事が出来なかった。それは、鷹丸の言葉が脳内で渦を巻いているから。自分と黒乃と向き合え……意味は解るようで解らない。

 

「クソッ!」

 

 歯痒い。一夏の悪態には、それしか込められていなかった。飄々とした鷹丸に、のらりくらりと躱され……。しかし、一夏は単に鷹丸だけに苛立っているのではなく、何か自分にも同じ感覚を抱く。だが、考えても考えても……答えらしい答えが浮かばない。

 

(いや……考えるだけで無駄か。アイツに踊らされちまうのがオチだろ。)

 

 それまで難しい顔をしていた一夏だったが、大きく息を吸って吐くと潜めていた眉は元の位置へと戻った。そうすると、いつまでこうしていても仕方がない。一夏は、頬を叩いてから食堂を目指して歩き出す。それこそが鷹丸の指摘したかった事なのだが、一夏はそれに気づかない。

 

 いや、気づかないのではなく……一夏は、無意識のうちに見て見ぬふりをしているだけなのだ。黒乃に関わるあらゆる物事から、一夏は目を逸らしている。一夏自身がそれに気がつかない限りは、鷹丸に一生敵う事はないだろう……。

 

 

 

 




黒乃→(多重人格では)ないです。いや、ネタ抜きにして本当だからね?
鈴音→アタシの知らない所で、黒乃がそんな大変な事になってたなんて……。

はい、これにてクラス対抗戦篇は終了になります。
次回より学年別トーナメント篇……。
と、言いたいところですが、恐らく幕間を1本挟むでしょう。

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