八咫烏は勘違う(旧版)   作:マスクドライダー

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日常回になってます。
ですが、1部の方には申し訳ない事態になっている……かも?
まぁ、多分私が気にする程の事じゃあないんでしょうけどね……一応です。





第35話

 IS学園に入学して早くも2か月。6月に入ったという事で、季節は徐々に夏へと移り変わろうとしている。6月ねぇ……嫌いな時期だよ、梅雨があるから。何が大変って、髪の毛の手入れだ。梅雨時期は髪が広がるわ、はねるわで面倒極まりない。だから短髪が良いのに、イッチーとちー姉が長い方が良いって言うからさぁ……。

 

 そんな嫌いな季節ではありながらも、今日は外出中である。目的地は五反田食堂。別に弾くんと遊ぶ約束をしてるでもなく、じっちゃんのご飯が食べたくなっちゃって。いや~……美味しくてさぁ、じっちゃんの出す手料理。個人的には、もう少し愛想よくしてくれれば満足だ。

 

 さて……見えて来たぞ。う~ん……この外観は、いつ見てもTHE・食堂って感じで落ち着く。店には準備中の看板が立ててあるが、俺、イッチー、鈴ちゃんはいつでもウェルカムとの有難い言葉をいただいている。という訳でして、お邪魔しま~す。

 

「あ、ごめんなさい。今準備中……ってあーっ!お姉……久しぶり~!元気だった?」

 

 五反田食堂の戸を開けてみると、ラフな格好、赤髪が特徴的な少女が俺を出迎えた。この子はご存知?弾くんの妹の……五反田 蘭ちゃん。俺の何処を気に入ってくれたかは知らないけど、知り合った当初からお姉と呼ばれて慕われている。蘭ちゃんは客が俺だと解るや否や、まるで猫のようにじゃれついてきた。

 

 ふむふむ……やっぱり少しずつながらも、しっかりと育ってるねぇ蘭ちゃん。むふ、少女の発育途中の胸板……むふふふふ……!おっと、いかんいかん……いつもの悪癖が出てきたな。え゛~ゴホン!しばらくはされるがままの俺だったが、蘭ちゃんをやんわりと引き剥がす。

 

「お姉、代表候補生になってから来てくれないんだもん……寂しかったよー。」

「…………。」

「そんな頭下げなくたっていいけど……。あ、そうだ……お姉はIS学園に通ってるんでしょ。どんな感じなの?」

 

 いや、落ち着きなよ蘭ちゃん……。その手の質問は俺にしたところで答えてあげられないよ。まぁ……女の子の憧れの的みたいなもんだし、気になるのが当たり前か。そうなると印象くらいは解からせてあげたいな。ん~……刹那に記録映像とか無かったっけ。俺が首元のチョーカーを弄ろうとすれば……。

 

「おう蘭、そのへんにしときな。嬢ちゃんが困ってら。」

「へ……?わ、ゴメンお姉……。つい興奮しちゃって。」

「わりぃな嬢ちゃん。なにぶんお転婆なお年頃でよ。」

 

 厨房の奥から現れたのは、筋骨隆々なナイスミドル……ってかシニア?で五反田食堂の店主……五反田 厳さんである。俺はじっちゃんって心の中で呼ばせてもらってるが、喋れたら面と向かって言えた気がしない。……だって怖いもん。いや、厳しいながらも良い人だってのは知ってっけどさ……怖いんだもん!

 

「私もう子供じゃないよ!」

「うるせぇ、俺からすりゃいつまでもガキだ孫娘。んで嬢ちゃん、あのバカに用事か?」

(いいえ、全然。)

 

 蘭ちゃんは可愛らしくじっちゃんに抗議するが、そんなのは全く通じないらしい。適当にあしらって俺の相手をするもんだから、蘭ちゃんは不服そうにむ~っと唸っていた。それで、あのバカ……ってのは十中八九で弾くんの事だろう。別に弾くんに用事じゃないですけど。俺が首を横に振ると、2人は微妙な顔つきになった。

 

「お兄……ドンマイ。」

「先が思いやられるぜ……ったく……。」

 

 え、何?俺なんか悪い事言ったかな。別にこんなの嘘つくまでも無いし、用事が無くてもご飯食べに来たら自然に出会ったりするだろうし……。蘭ちゃんはともかく、じっちゃんまでこんな感じになるのは珍しいな。いや、天地がひっくり返っても見られない……ってくらいには貴重かも。

 

「じゃあ何か、単に飯を食いに来てくれたのかい。」

(まぁ……はい、そうですね。)

「おっ、美人に言われりゃ冥利に尽きるってモンよ。いつもので良いんだろ?ちょっと待ってな。おい蘭、あのバカも呼んでやれ。」

「は~い。」

 

 俺が単に食事に来たってだけでも、じっちゃんはなんだか嬉しそうだ。その点……この身体って男に対しては便利だなぁって思い知らされる。じっちゃんにも逐一美人って呼ばれるもんなぁ……。うん、ポテンシャル高くてありがとう黒乃ちゃん。さて、蘭ちゃんは階段の下から弾くんに呼びかけて……。

 

 あ、反応が無いから登ってったぞ。……ってあれ?これってもしかして、今日が原作におけるあの日?しばらく耳を澄ませていると、何やら蘭ちゃんの驚いたような声が……。ああ、コレ確定だ……イッチーが遊びに来てるみたい。やがて、ドタバタと騒がしい足音と声が近づいて来る。

 

「飯の後どうするよ?」

「ん、適当に街の方でもブラブラ……って黒乃!?」

 

 ハハッ、やっぱり兄と妹だねぇ弾くん。本人達に言えば否定されそうだけど、やっぱり良く似た2人だ。弾くんは俺を見つけるなり、蘭ちゃんとそっくりなリアクションを見せてくれる。イッチーの方もサプライズでもあったような表情……ってか、俺が居るんだからある意味サプライズか。

 

「もしかして……俺に会いに来てくれたか?」

「んなわけないでしょ、お爺ちゃんのご飯を食べに来たんだって。」

「聞いたか一夏。いや~お互い冗談の通じない姉ないし妹を持つと苦労―――」

「なんか言った?」

「何でも無いです。」

「仲良いな、お前ら。」

 

 ほんとそれな。もうあれだ、2人で漫才師でも目指しちゃいな。冗談抜きで良い線行くと思うんだよね……オジサンは。でもやっぱり本人達は不服みたいで、声をそろえてイッチーの言葉に反応を示した。ほらさ、そういうところが仲良い証拠だよ。いやはや、微笑ましいねぇ。

 

 後はまぁ……原作通りの流れかな。蘭ちゃんが勝負服に着替えてんだけど、イッチーが持ち前の鈍感で自分の為だとは思わず……。あぁ~……蘭ちゃん可愛いなぁもう。道半ばだったが、原作でイッチー達が進級したら下級生組って事でキチンとヒロイン入りしたんだろうなぁ……。

 

「ま、立ち話もなんだし座らないか?」

「ここ俺んちな。全面的に賛成だけど。」

「…………。」

 

 あ、いかんな……急いで弾くんの隣に座らないと。そうすれば、必然的に蘭ちゃんはイッチーの隣だ。弾くんが席に着いたのを見計らって、滑り込むようにその隣を確保。蘭ちゃんは俺の意図を察したらしく、パアッと嬉しそうな表情を見せる。

 

「出来たぞガキども。食え。」

「で、出たっ!?業火野菜炒め……大紅蓮!」

「黒乃……。極度に辛いのは止めとけって、いつも言ってるだろ?」

「は、ははは……。」

 

 俺以外の3人のメニューは、どれも同じで日替わりランチだ。だけど俺が注文ってか、じっちゃんがいつものって言ってたのがコレである。好きな食べ物はと聞かれれば、俺は間違いなく激辛料理だと答える。いつも業火野菜炒めばっかり食ってるもんで、もしかして辛い物が好きなのではと察してもらえたんだよね。

 

 でも、残念な事に通常バージョンでは全然辛さが足りてない。どうにかこうにかその事を報告出来たので、俺用に業火野菜炒め・大紅蓮を作成してもらうに至る。もはや真っ赤な野菜炒めを目の当たりにした弾くんは驚き、イッチーは爺臭く俺を注意し、蘭ちゃんは乾いた笑みを浮かべた。

 

「じゃ、じゃあ……食うか?」

「おう、いただきます。」

「冷めねぇうちにな。」

 

 イッチーの音頭と共に、俺達は一斉に両手を合わせていただきますを言う。さて、俺も真っ赤に染まったキャベツを口に頬張り咀嚼する。おおふ、そうそう……これこれ!なんかもう……一口食べた瞬間から汗が噴き出てくるこの感じだ。実際に体温は上がらないが、カプサイシンの効果で灼熱感が……。耐えられなくなった俺は、Tシャツの胸元を掴んでパタパタさせながら食べ進める。

 

「…………。」

「顔にハエが止まってるよお兄。」

「いってぇ!おい、いくらなんでもそれはやり過ぎだろ!?」

 

 突然というか、蘭ちゃんはおもむろにメニュー票を引っ掴みそれで弾くんの頬を殴打する。パァン!と気持ちいい音が鳴るこの感じ、ちー姉の出席簿アタックに良く似てるな。だけど、じっちゃんの前でそんな騒ぐとさ……。イッチーも関わらない方が良いと思ってるのか無言だ。

 

 しかし、ハエね……食堂に入って来るとはなんと不届きか。……むっ、ホントにいたな。メチャクチャ小さいが、蘭ちゃんはこれを瞬時に視認したのか……?潰せるかどうか一応は試してみようかな。不規則に動くハエを片手で小さく狙いを定め……そこだ!

 

「「「!?」」」

「……やるな、嬢ちゃん。」

 

 あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!『ハエを掴んだかとおもったら、そいつはオタマだった』な……何を言ってるのかわからねーと思うが(ry……これはアレだ、ハエを掴もうとしたら、オタマの方から俺の手の中に飛び込んで来た感じだな。我ながら神がかっている。

 

 それにしてもじっちゃん……ばっちし弾くんの頭を狙ってるな。それならまぁ……弾くんも守れて一石二鳥かもね。え~っと、このオタマをとっととじっちゃんにこのオタマを返す事にしよう。箸を置いて立ち上がった俺は、オタマの肢をしっかりと握って、厨房のじっちゃんへ近づく。

 

「ヘヘッ、代表なんちゃらってのは伊達じゃねぇな。」

「違います。」

 

 おろ、声出た……本当に最近は調子がいいな。言葉通りに違うんだよ、じっちゃん。代表候補生とか関係なしに、単なる偶然だから。だけど、残念ながらその説明はできそうにもない。俺は小さく会釈をすると、元の席へと戻った。俺の中途半端な言葉が気になるのか、じっちゃんは終始不思議そうな様子だった。

 

「黒乃、ありがとな。それとその……悪かった……。」

 

 席に戻るなり、弾くんにそんな事を言われた。感謝の方は解るけど、なんで弾くんは俺に謝ってんのかな。まぁ……何やら知らんが、どっちも気にしなくていいって。俺は優しくゆっくりという事を意識して、首を横へと振った。それを期に、再び業火野菜炒め・大紅蓮に手をつけ始める。うんうん……これだけで満足な休日になったな。

 

 1つ気になるとすれば、イッチーと弾くんがじっちゃんに呼ばれた事かな……。イッチーはすぐに戻って来たけど、弾くんはしばらくじっちゃんに拘束されっぱなしだ。何の相談かは知らないけど、やっぱりそれも俺が気にする事じゃ無いんだろう。さーて、次はいつ足を運ぼうかな~……。

 

 

 

 

 

 

「ったく蘭の奴、年々俺の扱いが雑になってくぜ。」

「弾も余計な事を言うからだろ?」

 

 日曜日といえば、多くの人にとって天国のような響きだろう。俺の家は食堂経営という事で手伝わされることも多いが、今日は一夏が遊びに来ているので免除だ。爺ちゃんは理不尽な事も多いが、キチンと筋は通してくれる。久しぶりに一夏がウチを尋ねるというのも大きいのかも……。

 

 で、俺が何をブツブツ言ってるのかと聞かれれば、妹の蘭が年を追うごとに狂暴化してるって話だ。今さっきだって、一夏が遊びに来るのを言ってなかったとかで怒られた。蘭が一夏を好きなのは知ってっけど、別に言う必要もないし……ラフな格好してたのはお前の責任だろ。

 

「……って言えればどれだけ楽か……。」

「どうかしたか?」

「……何でもねぇ。」

「そうか、なら別に構わないけど。早いとこ降りないと厳さんが怖いぞ。」

 

 本当、微塵の反論も許されない俺の立場とはいったい……ウゴゴゴゴ……。はぁ……一夏の言う通り、蘭の上をいって爺ちゃんが恐ろしいから溜息が止まらねぇ。鉄拳制裁が下される前にさっさと下へ向かおう。割と築年が長い家なため、ギシギシと階段を軋ませながら歩を進める。

 

「飯の後どうするよ?」

「ん、適当に街の方でもブラブラ……って黒乃!?」

「…………。」

 

 階段を降りながら今後の予定を相談しようとしていると、いつ見ても変わらぬ黒髪美少女がそこに居た。会うのは久しぶりになるが、相変わらず綺麗な事で。IS学園でもやっぱり黒乃と身近な一夏が羨ましいぜ……。しかし、あまりにもいきなりの登場に一夏も面喰ってる。

 

「もしかして……俺に会いに来てくれたか?」

「んなわけないでしょ、お爺ちゃんのご飯を食べに来たんだって。」

「聞いたか一夏。いや~お互い冗談の通じない姉ないし妹を持つと苦労―――」

「何か言った?」

「何でも無いです。」

「仲良いな、お前ら。」

 

 一夏のツッコミ待ちだったのだが、ちゃっかり勝負服へ着替えよった妹からキツイお言葉が飛んで来た。それに対して更に冗談を重ねてみるが、やっぱり一睨みされておじゃんだ。一夏が目の前でもお構いなしなのを見ると、蘭を選べばカカア天下一直線だな……。……あれ?鈴を選んでも同じような気がするが。

 

「ま、立ち話もなんだし座らないか?」

「ここ俺んちな。全面的に賛成だけど。」

「…………。」

 

 一夏が着席を促すと、4人掛けのテーブルへと腰を掛けた。するとどうした事だろうか、黒乃が少し急いだ様子で俺の隣の席を確保するではないか。くっ、黒乃……もしかして、俺の隣が良かったのか?……なんて淡い期待を寄せたのも束の間……俺の正面に居る蘭が嬉しそうな顔をしている。

 

 あぁ……そうか、黒乃は蘭に美味しい思いをさせようとしてくれたのな……。ハハッ、解ってた解ってた……期待した俺が馬鹿だった。いや、それよりも前に……黒乃と隣だからって何が起きるという事も無いだろう。数馬じゃあるまいし、調子に乗るのは止めとかねーと。

 

「出来たぞガキども。食え。」

「で、出たっ!?業火野菜炒め……大紅蓮!」

「黒乃……。極度に辛いのは止めとけって、いつも言ってるだろ?」

「は、ははは……。」

 

 爺ちゃんがぶっきらぼうにテーブルへ並べたのは、3つの平凡な日替わりランチと……地獄のように真っ赤な野菜炒めだった。爺ちゃんは、様々な要因から黒乃の事を大層気に入っている。それで黒乃の為に開発されたと言って良いこのメニューは、業火野菜炒め・大紅蓮。香辛料マシマシ、辛いと言う概念を超越した新たな扉が開かれる一品だ。

 

 見るのが久しぶりなせいか、少しオーバーなリアクションをとってしまう。一口食べさせてもらった事もあるが、それはもう悶絶必至だった……ってかもう、ゴッホゴッホ!蒸気が目と喉に沁みる……。これ食べても黒乃は動じないからすげぇ。

 

「じゃ、じゃあ……食うか?」

「おう、いただきます。」

「冷めねぇうちにな。」

 

 動揺はまだ冷めないが、とにかく食事にしよう……うん。爺ちゃんが傍にいる故、しっかりいただきますをしてから箸を取った。……黒乃がとんでもないペースで食べ進めてるが、特に気にしないでおく……事は出来んかった!辛さのせいか熱いようで、黒乃はシャツの胸元をパタパタさせていたのが目につく。

 

 黒乃も女の子にしては身長がある方だが、それでも俺の方が高い。つまり上から見下ろすような形になる俺には、必然的にブラが見えてしまうのである。悪い事だとは思っていても、視線が釘付けになってしまう。その豊満なバストは微妙ながら汗ばんでいて、とてもじゃないが官能的で……。

 

「…………。」

「顔にハエが止まってるよお兄。」

「いってぇ!おい、いくらなんでもそれはやり過ぎだろ!?」

 

 無言で手も止まっていたせいか、蘭には普通バレてしまったらしい。だが……メニューで顔面をひっぱたくのは絶対にやり過ぎだ。しかもつまらねぇ嘘つきながら……!なんだその目は、まるで俺こそがハエとでも言いたそうじゃねぇか!俺が悪いのは認めるが、流石に俺だって黙ってるわけにも―――

 

「「「!?」」」

「……やるな、嬢ちゃん。」

 

 黒乃が瞬時に身を乗り出したかと思ったら、その手に握られているのはオタマだ。しかもそのオタマは、黒乃がキャッチしなければ完全に俺の頭へと当たっていた事だろう。オタマを投げた張本人である爺ちゃんは、感心した様子だ。黒乃はオタマを返すつもりなのか、立ち上がって爺ちゃんへと近づいて行く。

 

「ヘヘッ、代表なんちゃらってのは伊達じゃねぇな。」

「違います。」

 

 しっかり柄の部分を爺ちゃんの方に向けるあたり、黒乃の細かな気遣いが窺える。しかし……オタマを返す際の違いますってのは、どうにも会話が噛み合ってねぇような気がすんな。爺ちゃんもそれが気になるのか、ちょっとこっち来いなんて言って俺を呼びつける。

 

「さっきの言葉、聞いてたか?」

「ああ、聞いてたけど……。」

「どういう意味だと思うよ。」

「いやぁ……俺に聞かれても。こういう時は、素直に一夏を頼った方がいいと思うぜ。」

 

 残念ながら、断片的な黒乃の言葉を全ては理解してやれない。せっかく喋ってくれたのに、大変申し訳なくはあるんだけど。生後0歳からの付き合いらしい一夏を頼るのが得策だと判断した俺は、爺ちゃんと同じように一夏を呼ぶ。……睨むな妹よ、文句なら俺じゃなくて爺ちゃんにだ。

 

「あの……どうかしました?」

「嬢ちゃんが、俺にオタマを返す時によ……違いますっつったんだ。」

「それがどういう意味なのか、解説してくれねぇかな。」

 

 爺ちゃんが一夏にそう質問すると、小さく唸って考え込む。いろいろと候補があるのか、あーでもないこーでもないと悩んでいる様子だ。何もそんなに真剣に考えるこたぁねぇと思うんだけどな。まぁ……何気に黒乃の事を理解してやるのがポリシーなのかも知れん。

 

「オタマは人を傷つける為の物じゃないって、そう……言いたかったんだと思います。」

「…………。そうか、それで違いますか……。わりぃな、手間ぁ取らせた。」

 

 なるほど、いかにも黒乃らしい。オタマは料理器具……それを人を攻撃する用途で使ってほしくないってこったな。この店を気に入ってくれている黒乃にとって、それは前々から気がかりだったのかも知れねぇ。席へと戻った一夏を追おうとするが、どうにも爺ちゃんの様子も気になった。

 

「爺ちゃん、さっきからどうかしたのかよ。」

「……弾。嬢ちゃんは好きか?」

「は、はぁ!?な……なんだよ、いきなり意味解かんねぇ事言って。」

「いいから答えやがれ。」

 

 黒乃は常に自分の事より他人を優先するような奴で、人の為に頑張れる子で……見てると応援したくなるっつーか。しっかりしてると思えば割と天然で、無表情でワタワタしてる姿がまた可愛いっつーか……。おまけに見た目も綺麗で家事等はそつなくこなすで……完璧美少女だ。まぁ有体に言えば……好きです……。だけど、俺が黒乃にアタックする事はないだろう。なんてったって黒乃の瞳には、一夏しか映ってねぇから。

 

「……仮に好きだとして、結局は何が言いてぇんだ。」

「必ずモノにしやがれ。嬢ちゃんなら店の看板も安心して預けられらぁ。」

「いや……黒乃は代表候補生で、夢を追ってIS学園に通ってるんだぞ?」

「店やりながらでも選手はやれなくもねぇだろ。」

 

 この爺さんは……正気か?つまるところ、藤堂 黒乃から五反田 黒乃にしろって言いたいらしい。……それはとてつもなく良い響だが、黒乃が何の為に代表候補生まで上り詰めたと……。はぁ……前々から気に入ってたのは、食いっぷりだけじゃなかったらしいな……。

 

 黒乃には数回だけ厨房に立ってもらった事がある。その時の手際と料理の上手さ及び美味さといったらなかった。あの頃から爺ちゃんは黒乃に目をつけて、さっきの言葉が決定打になったんだろう。だけど俺は、やっぱり黒乃を応援してやりたい旨を伝える。

 

「男らしくねぇ……。それでも俺の孫かバカタレ。」

「ぐっ……。……女々しいのは解ってっけど、俺が決めた事だからよ。」

「そうかい。後……食事中に騒ぐんじゃねぇ。」

「うぐっ!いっつ~……!じ、時間差かよ……。つーか、拳骨の方がいてぇ……!」

「嬢ちゃんに料理人の基本を思い出させてもらったんでな。これからは料理器具では殴らねぇ。」

 

 俺が心に決めた事だと言えば、爺ちゃんは口出しする事ではないと解ってくれたらしい。それで完全に用事は済んだと思って振り返ると、頭上から鉄塊が降って来たかの如き衝撃が走る。再度爺ちゃんの方に向き直ると、青筋の入りそうな力で拳を握っているではないか。

 

 ……これは、何か厄介な事態になってしまったかもな。後はさっさと食えなんて言って、爺ちゃんはまるで野良犬でも追い払うかのようにシッシッと手を動かした。呼んだの爺ちゃんだろうに……。まぁいいや、確かに爺ちゃんの言う通りではある。俺は涙目になりながら、ノロノロと自分の席へ戻った。

 

 

 




黒乃→神がかりなオタマキャッチだぜ!
厳→オタマは人を傷つける道具じゃねぇ……か。

弾×虚のカップリング推しな方は申し訳。
もういっそ黒乃ちゃんは逆ハーレム状態で良いんじゃないかと(錯乱)
と言うわけでして、弾も夏休み篇で争奪戦に本格参戦します(ネタバレ)

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