八咫烏は勘違う(旧版)   作:マスクドライダー

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シャルロット関連イベント第2回。
相変わらず話が前後してますが。
あと、今回妙に長くなっちゃいました。
いろいろとやらねばならない事が多かったので……。


第39話

「ただいま……ってあれ?俺、鍵は締めたはずだよな……。」

 

 千冬姉と遭遇して、トンボ返りで自室に戻った。ナチュラルに部屋へと入れたわけだが、俺の記憶では確かに鍵は締めたはず。となれば……シャルルが帰って来たんだろうな。姿が見えないとなると、今はシャワーでも浴びてんのかも。うん……水音が聞こえるし間違いない。

 

 ……そう言えば、ボディーソープが切れていなかっただろうか。いくら男と言えど、何も使わず水だけってご時世じゃないよな。特にシャルルは気を遣ってそうだし、届けてやる事にしよう。所定の位置から詰め替え用ボディーソープを取り出すと、洗面所兼脱衣所になっているスペースへと足を運んだ。

 

「ん、調度良かった。これ、替えのボディーソー……プ?」

「い、一夏……?」

「…………ん?」

 

 洗面所からシャワールームに声をかけようと思ったらタイミングよくドアが開いたわけで、俺はボディーソープを捜しているものだと思った。そうやってシャルルの姿があるであろうドアの方へと目を向けると、どういうわけか女子がそこから出ようとしている謎の状況だ。

 

 しかもいわゆる生まれたままの姿という奴で、率直に言ってしまえば全裸である。あ、シャワールームに居たんだから当然か……ハハッ。いや、待て……ハハッじゃないだろう。本当にこれはどういう事で……あれ?なんかこの女子、何処かで見覚えがあるような……。

 

「キャッ!?」

 

 お互いに情報の処理が追いつかなくてフリーズ状態だった。だが、謎の女子は俺よりも早く復活して急いでシャワールームに戻って行く。……それはそうか、男にマジマジと見られて平気なはずがない。まぁ……その見ていた奴とは間違いなく俺の事だが。

 

「……詰め替え用、ここに置いとくから。」

「うん……ありがとう……。」

 

 かくいう俺は、未だに頭の整理が追いついていない。そのせいか、恐らく後回しにすべき事を行いつつ脱衣所を後にしてしまう。……とりあえず、あの子が出てくるまで待っているか。あ~……そう言えば、シャルルは何処に……っておい、もしかしなくても……あの子ってシャルルなんじゃ……?

 

「上がったよ……。」

「…………。」

 

 シャルルっぽい女子(仮)は、思ったよりも早く出てきた。きっと俺に気を遣ったんだろう。さて、今はジャージを着ている事だし……少しばかり観察させて貰う事にしよう。黄金と呼ぶにふさわしいブロンドの髪に、アメジストのような瞳。いや、ここだけとってもどうやったってシャルルだろ。

 

「その、シャルル……だよな。」

「うん……。」

「……話、聞かせて貰っても大丈夫か?」

「もちろん。こうなったからには、僕はキミの質問に答える義務があるもん。」

「まぁその前に、見て悪かった。」

「アハハ、仕方ないよ……キミは僕を男だって思ってたんだし。」

 

 本人に確認を取ると、肯定の反応が示された。つまりは、シャルルは男のふりをして学園へやって来た事になる。なにやら事情があるのは明白で、責めるつもりはないが聞くべきではあると俺は思った。だが事情聴取の前に、うら若き乙女の裸体を見てしまった事をキチンと謝罪しておかなければならない。

 

「じゃあ、何処から話そうかな……。」

 

 俺とシャルルは並んでベッドに腰掛けると、それぞれ聞き手と話し手の役割をこなす。シャルルは俯き加減だったが、確かに自分の素性を語ってくれた。自身が愛人の子である事、突然父親に引き取られテストパイロットになった事、父親の会社経営が危うい事、広告塔として注目を浴びるために男装をしていた事、そして―――

 

「それと僕は、白式のデータを盗ってくるよう命じられたんだ。」

「…………。」

 

 何処か悲しそうにそう語るシャルルに対して、俺には返す言葉がすぐには見つからなかった。いや……きっと何を言っても気休めにしかならないはず。数回しか会った事が無いと言っていたが、実の親にそんな命令をされたのだから。俺の胸にあるのは、確かな憤りだ。……だが、それをシャルルに露呈しても何の意味もなさない。

 

 ……自分に出来る事を、精一杯してやれ。幼き日の俺に千冬姉が送ってくれた言葉だ。考えろ、意味のある行動をしろ、シャルルに今何をしてやれるかを考えるんだ。だが、さっき千冬姉に言われた通り……俺は馬鹿だ。だから俺に出来る事って言ったら……。

 

「シャルル、少し俺の話をしていいか?」

「え?うん……それは構わないけど。」

「そうか、ありがとう。……俺の両親な、俺と千冬姉を捨てて蒸発したんだ。」

「っ!?」

 

 いきなりな俺の告白に、シャルルは大層驚いているようだ。それと、いきなり何を言い出してるんだコイツは……みたいな反応でもある。そりゃそうだ、親の話ではあったとはいえ……いきなりこんな事を言われても困るだろ。だけど、俺はシャルルに伝えたい事がある。

 

「でも、そんな事はどうでも良いんだ。そんな薄情な奴ら親だなんて思った事は無い。だって俺には、血の繋がりはなくても……本当の両親が居てくれたから。」

「もしかして、藤堂さんのご両親?」

「ああ、そうだ。物心ついた頃には世話になっててさ、あの人達が俺の両親なんだって疑いもしなかった。」

 

 それこそ、血の繋がりが無い事を知った時は……子供ながらにショックを受けた覚えがある。泣いて、喚いて……父さんと母さんをかなり困らせたろう。だけど、あの時に父さんに言われた言葉は……しっかりと胸に刻み込まれている。

 

『血の繋がりだけが家族じゃない。だってそれなら、僕と母さんは家族じゃないってことになる。大切なのは、一夏くんがどう思ってるか……じゃないかな。』

『……おれが……?』

『うん、そうだよ。僕はね、一夏くんと千冬ちゃんは本当の息子と娘だって思ってる。だから家族だ。違うかい?』

『ちがわない……とおもう。』

『自分がこの人が家族だって思っていたら……その人は家族って事で良いんだよ。じゃあ一夏くん、1つ聞かせてくれないか?一夏くんにとって、いったい僕はどう映ってるかな。』

『とう……さん……。とうさんは、おれのとうさん!』

 

 ……いかんな、思い出しただけで目頭が熱くなってきた。とにかく、あの言葉があったからこそ……俺は家族とはなんたるかという観点がある。黒乃の両親は、俺にとって父さんと母さん。千冬姉はもちろんだが、黒乃だって俺の家族。それをあの人(父さん)から教えて貰った……。

 

「……良い……人達なんだね。」

「ああ……。だけど、俺の父さんと母さんも……もう遠くへ逝っちまってな。……交通事故だった。」

「そ、そんな……!?」

「……その交通事故がきっかけで、黒乃もあんな事に……。……いや、それはまた今度で良いな。」

 

 父さん達の事故は、黒乃の現在に大きく影響しているが……今はそっちに話を移すときではない。つまり、俺は亡くなった父さんの言葉を借りたいって事だ。重要なのは、シャルルがこれからどうしたいか。ただ命令通りに動くんじゃなくて、シャルルが父をどう認識するかだ。

 

「それは……解らないよ。あの人が、僕……ううん、お母さんの事をどう思っていたのか……それを知らない限りは。」

「……解った。それなら今はそっちはなしだ。じゃあシャルルはこれからどうしたい?」

「僕は……。僕はここに居て、皆ともっと一緒に笑いたいな。」

「そうか。だったらそれで良い。決心がつくまで、シャルルはずっとここに居て良いんだ。俺も……シャルルと一緒に笑ってたい。」

 

 俺がそう言うと、シャルルは両手で顔面を隠した。……そうか、辛かったよな……。精神的には成長したとはいえ、俺達なんてまだまだ子供だ。それで良い……泣きたいときには泣いて良いんだ。悲しい涙も嬉しい涙も、それを止める権利なんて誰にもない。俺は耳まで赤いシャルルの頭を撫でて慰める。

 

「無理しなくたって良いんだぞ。」

「な、泣いてないよ……照れてるの!」

「そうか?」

「そうだよ、一夏があんな事サラッと言うから……。それより、僕がここにいつまでも居るのは無理なんじゃないかな。本国に呼び戻されたりしたら……。」

「ああ、その事だったら―――」

 

 IS学園特記事項第21、IS学園に所属する者は外部からのあらゆる干渉を受け付けない。……という裏技があるから、卒業ギリギリまでは悩んでいられる……という事だ。それを説明しようとすると、バァン!と凄まじい音を響せ自室のドアが開く。……あ、鍵かけんの忘れてた。そしてそこに立っていたのは……。

 

「く、黒乃……。」

「あ、あわわわわ……!」

「…………。」

 

 俺の姉兼、妹兼、幼馴染の……藤堂 黒乃だった。

 

 

 

 

 

 

(ん……もうこんな時間か。)

 

 ふとPCの端にある時計に目をやると、かなりの時間が経過していた。部屋に戻ってからずっとアニメを見ていたが、少し疲れてきたかな……。無表情ながらも欠伸は出るもので、俺の静かな声でふわぁ……と息を吐く音が室内に響く。ん~……飯時かな、そろそろお腹減ってきたや。

 

 というか、イッチーは大丈夫だろうか……。考え過ぎ等々のせいで、しょぼくれてなければ良いけど。うん……少し様子を見て、ついでにご飯に誘ってみよう。そしたらマイエンジェルも一緒で……って、マイエンジェル?ちょっと待とうか、俺は……マイエンジェル関連で何か忘れているような……。

 

(マイエンジェルが来て5日……。そんでラウラたんが絡んできたのなら、マイエンジェルの正体バレイベントの発生タイミング!)

 

 ああ、なんて事だ!よりによって、このイベントを忘れるなんて!場合によっては、マイエンジェルの全裸を見るチャンス……。こうしちゃいられない!制服のままでくつろいでいたため、急いで自室を飛び出た。そしてお隣である1025室の扉を確認……。おっ開いてんじゃ~ん!

 

 失礼だとかは百も承知。それだけ俺にとっては一大事なのである。そういうわけで、1025室の扉を開帳。すると俺の目に飛び込んできたのは、ベッドに座るイッチーと……ジャージ姿のマイエンジェルだった。つまるところ……遅かったという事になる。あぁ……見逃してしまったかぁ……。

 

「く、黒乃……。」

「あ、あわわわわ……!」

「…………。」

「その、これはほら……違うくてな。シャルルって美少年だろ?だからちょっと服に丸めた新聞紙詰めて女装ごっこというか……。」

 

 2人の様子をじっと見ていると、なんだかイッチーが苦しい言い訳をし始める。まぁ……そうだよな。原作でもマイエンジェルが自ら正体を明かすまでは、誰にも言わずに隠し通していたんだから。う~む、どうにかして2人……というか主にイッチーを落ち着けさせた方が良さそうだ。

 

「良いよ、一夏。藤堂さん、最初から気づいてたみたいだから。」

「そ、そうなのか黒乃!?」

「…………。」

 

 マイエンジェルの半ば諦めたような言葉に、イッチーは驚いた様子で俺に問いかける。それに対していつも通りの無言で頷くが、内心は動揺しまくりだ。ま、まさか……女子だと知っているというのを見破られていたとは。でも……あ~んとかやってたし、流石に露骨過ぎたのだろうか。

 

 俺が肯定の意思を見せるや否や、イッチーはマイエンジェルにいかような事情があったかを力説してくる。それも知ってるんだけど、これこそ悟られると面倒だ。俺はいかにも初耳ですよというような雰囲気を醸し出しつつ、イッチーの弁論に耳を傾ける。その間のマイエンジェルは、庇われる事が嬉しそう。……畜生め。

 

「……って事なんだ。だから頼む、シャルルを責めないでやってくれ!」

「一夏……。」

(ん~……そっか、原作と違って父親との(わだかま)りに決着をつけたいって言葉は引き出したんだ。)

「藤堂さん、それ僕の制服とコルセット……。え、何?何?着がえろって言いたいの?わ、解ったよ……。」

 

 マイエンジェルがそう決めたんだったら、俺も全力でキミを手伝うよ。だから……やはり鷹兄を頼る。本当だったら、おいそれと……ド◯えもん感覚でそんな話を持ちかけられる人じゃないってのは理解が及ぶ。だから断られたらそれまで。ただし、力を貸して貰えるんだったら鷹兄になんだってしてみせる。

 

 そういうわけで善は急げ。早速鷹兄の元へと向かいたいのだが、それにはマイエンジェルが男装をする必要がある。俺が男装セットをグイグイと押し付けると、着替えてほしいという意図は伝わった。しかし、渋々といった様子でマイエンジェルは脱衣所に入って行く。

 

「……黒乃、シャルルをどうするつもりなんだ?」

(大丈夫、悪いようにはしない。だからイッチー……俺を信じて。)

「解った。黒乃がそう言うんだったら、俺は黒乃を信じる。」

 

 イッチーは、訝しむ様子で俺へそう告げる。それに対して俺は、目で信じてくれと訴えた。するとどうだ、一言も発してないのに言いたい事が伝わった。うん、伝わるって素敵だね。俺は、俺とイッチーの間に確かな家族の絆を感じた。いや、より一層深まった気さえするよ。

 

「えと、着替えたけど……これから何処かへ向かうのかな?」

(よ~し、すぐ行こう。鷹兄も待ってはくれないし。)

「わっ!?ひっ、引っ張らなくても逃げないよ……?」

「まぁシャルル、今は黒乃を信じてやってくれ。」

 

 着替え終わったマイエンジェルに歩み寄り、その手を掴んでさっさと1025室を出た。強引で悪いけど、あまり時間をかけるのはまずいからさ。俺がズンズンと突き進むのに合わせて、マイエンジェルは慌てて着いてくる。イッチーは、その様子を何処か微笑ましげに少し後ろを歩いた。

 

 はてさて、鷹兄の部屋は寮の職員用のフロア~っと。近江重工関連で何回か訪ねたが、今もタイミング良く居てくれるといいけど……。しかし、マイエンジェルの表情が曇ってくるな。きっと、職員のフロアに向かっていると解ったからだろう。だけど大丈夫、鷹兄だったらきっと力になってくれるさ。

 

(はい、到着!すんまっせ~ん、鷹兄いらっしゃいますかー!)

「あれ、ここ……?ここって……。」

「はいはい、今出ま~……って、藤堂さん。それに織斑くんにデュノアくん。3人揃って、いったいどうしたんだい?」

「黒乃……どうして近江先生のところに連れて来たんだ。」

 

 鷹兄の部屋の扉を叩くと、しばらくして家主が顔を覗かせた。俺達の姿を確認した鷹兄は、珍しい組み合わせだねとでも言いたげだ。そして、さっきまでの穏やかさはどこへやら……イッチーは凄く機嫌が悪そうだ。嫌いなのかも知れんけど、今はこの人が1番頼りになる人だと忘れないように。

 

「もしかして藤堂さん、近江先生に力になってもらおうと?」

「ちょっと待った待った。僕を置いてきぼりにしてほしくはないなぁ。とりあえず3人とも入ってよ。話は中でゆっくり聞くから。」

 

 話が呑み込めないから困っているんじゃ無くて、鷹兄は仲間外れにしてほしくない感じだ。どちらにしたって、隔離空間でなければ話は進められない。俺が容赦なく鷹兄の部屋に侵入すると、後ろの2人は顔を見合わせてから恐る恐る入室した。

 

 部屋の様子は、学生寮の部屋と変わりは無い。ただ、鷹兄の部屋には資料が多いのだ。仕事用であろうデスクの上にも山積みだったけど、幾分か量が減っている。鷹兄が適当に腰掛けてくれと言うと、イッチーとマイエンジェルはベッドに腰掛けた。俺は……立ちっぱなしで良いや。

 

「……さて、これでもう白々しいマネをしなくて良いかな。まぁ誰が聞いてるか解からないし、警戒は怠らないようにね。っていうかデュノアくん、だから気を付けてって言ったのに。」

「ア、アハハ……近江先生の言う通り、気を付けててもどうしようもない事態が起きちゃいまして。」

「ちょっと待て、アンタ……知ってたのか!?」

「うん、そりゃね。というか、僕が知らないハズないじゃない。」

 

 鷹兄とマイエンジェルのやり取りは、なんだか意思の疎通が取れていて……俺は思った、鷹兄が知らないハズないと。い、今更かよ……マヌケもいい加減にしようぜ俺。そっかー……マイエンジェルは、独自に鷹兄へと接触してたか。それでこの様子を見るに、鷹兄はマイエンジェルを応援してたくらいみたい。

 

「まぁ……理由は知ってても、デュノアくんの事情は知らないけどね。その辺り、詳しく聞かせてくれると嬉しいな。」

「は、はい……。実は―――」

 

 鷹兄は、マイエンジェルの目的までしか知らないらしい。それはそうか、身の上話まで知ってたら流石に背筋が凍る。マイエンジェルの話を聞く鷹兄の顔は、いつも通りで締まりがない。けれど、相槌を打つ声色は真剣そのものだった。やがてマイエンジェルが話しを終えると鷹兄は、安っぽい回転椅子に深く座り直す。

 

「……なるほどね。そっか、お父さんの……。……デュノアくん、キミはお父さんの真意を知りたいって事で良いのかな。」

「……はい。僕は、お父さんと話してみたいです。」

「そうかい。で、藤堂さん。デュノアくんを僕の所に連れてきたって事は、僕の力で2人をなんとか引き合わせろって事で良いかい?」

(そういう事になりますね。)

 

 おや、なんだか鷹兄の様子が……。なんだろ、元気が無いってか……思うところでもあるのかな。非常に覇気のない様子で、鷹兄は俺とマイエンジェルに質問を投げかけた。それに対して、俺もマイエンジェルもどちらも肯定。すると鷹兄は、またしばらく考え込んだ様子を見せてから口を開いた。

 

「……うん、解った。なんとかやってみるよ。」

「「!?」」

「あ、あ……あの!それこそ、近江先生に損得はないですよ!?」

「……俺は単純にアンタを信用できない。」

「そうかい?僕は純粋に手伝いたいって思ってるんだけどなぁ。」

 

 いや、ゴメン鷹兄……こればっかりは俺もフォローできないや。さっきの間がさ、どーしても……悪巧みでもしてんのかって思っちゃった。あまり良いとは言えない俺達のリアクションを前に、鷹兄はうむむと唸ってどうするべきかを思案する。

 

「織斑くん。信用に足る言葉があれば……どうだい?」

「それは、まぁ……内容にもよるが。」

「……あまり人に話すような事じゃ無いんだけどね。少しだけ聞いて欲しい。」

「…………。」

「僕とデュノアくんの事情は、ある意味で似てるのかも知れないね。」

 

 ……あの鷹兄が、何か物寂しげな表情を浮かべている。キャラじゃないだけに、よほどの事情がある事を俺達は察した。鷹兄はマイエンジェルと自身の状況が似ていると前置きすると、ゆっくりと口を開く。次いで紡がれる言葉は、俺としては想定してなかった内容だ。

 

「僕の母は、それはそれは自慢の母だった。気品に溢れて、慈愛に満ちていた。父さんもそこに惚れたって言ってたっけ。でも、そんな母は……もう居ない。」

「……亡くなったのか?」

「いや、生きてるよ。だけど僕は、あんな人……あんな物を母さんだって認められないんだ。」

「それって、どういう意味ですか……?」

「……母さんは、ある日を境に徐々に別人になっていったよ。……僕の母さんは……過激な女尊男卑主義者だ。」

 

 辛そうにそう語る鷹兄の言葉に、純粋な衝撃を覚えた。ある日を境ってのは、つまるところ白騎士事件か……。鷹兄は取り繕ったような笑顔を見せ、たば姉に恨みはないしむしろ科学者として尊敬していると語った。それに関して嘘ではなさそうだけど、でも……やっぱり辛そうに見える。

 

「……僕と父さんには普通に接してくるんだけどね。それ以外ってなると……酷いもんさ。」

「アンタが説得したらどうにかならないのかよ?」

「ならないね。……いや、そう断言して良い資格は僕にないか……。だからこそ僕は、デュノアくんを助けたいって思うんだ。」

「僕を……。」

 

 今日の鷹兄はどこか百面相というか、今度は自嘲するような笑みを浮かべる。そうして話をどうして得するわけでも損するわけでもないのに、マイエンジェルを助けてくれるかという方向へもっていく。引き合いに出されたマイエンジェルは、まだまだ関連性が見えないらしい。

 

「僕と父さんは、母さんから逃げている。もう手遅れだって、そう認めたくないんだ。だから母さんにハッキリと何も言えない。」

「それは……仕方がない事だと思います!だって―――」

「デュノアくん。キミはまだどうにかできる余地がある。そして、どうにかしようって勇気がある。だから僕は、自分にはできない事の……その手伝いをしたいって思うんだ。……嘘っぽく聞こえたらゴメンね。それはきっと、僕の日頃の言動があってだろうから。」

「っ!?……悪かった。まさか、アンタにそんな事情があるなんて思いもしなくて……。」

 

 鷹兄は、マイエンジェルの言葉を遮って皆まで言わせない。……そうだね、何言われたって……そんなの慰めにならないだろうから。鷹兄が呟くように謝ると、イッチーは思わず謝罪を述べる。それに対して鷹兄は、キミが気にする事じゃないと優しい言葉で返した。

 

 ……何と言うか、空気が重い。こんな空気感になるのは解ってたけど、流石に胃が痛くなってきた。ふと視線を泳がすと、台所の方にお茶類が見えた。……前来た時に、自分の部屋だと思って好きにしていいからねー……なんて言われたし、少し茶でも飲んで落ち着こう……。

 

 そう思って歩き出そうとすると、俺の改造制服として自作したスリット付きロングスカートを踏んづけてしまう。当然ながら俺はよろける訳で、ほぼ真正面にいた鷹兄に抱き着く様な形になってしまった。鷹兄は椅子に座っているので、俺の肩に顔を埋める感じの状態だ。

 

「……ゴメン、ありがとう黒乃ちゃん。ありがとう……。」

「藤堂さん……。」

「…………。」

 

 おおっ、ちょっと鷹兄……なんで腰に腕を回してって……もしかしてこれはアレか、鷹兄に胸を貸すみたいに思われた?いや、別に……慰めようと思ったわけじゃ……。え、ええい……ヤケクソだ。俺は鷹兄の後頭部に手を添えるようにすると、更に肩の方へと押し込む。あぁ……なんで男慰めんとアカンの……死にたい……。

 

「……ありがとう。もう落ち着いたから……。さて、話を戻そう。2人共、これで僕は信用してもらえたかな?」

「もちろんです。」

「ああ、俺もだ。」

「そうかい、ありがとう。じゃ……僕がデュノア社に商談を持ちかけるよ。デュノア社長は必ずそれに乗る。」

 

 鷹兄の腕に込められた力が弱まったので、すかさず俺は離れた。いつもの調子に戻った鷹兄は、2人に確認をとる。で……商談か、今のデュノア社は藁をも掴む思いだろうからね。近江重工に何の利益もなさない商談だから、怪しんできても必ず乗る。向こうも話を聞く価値くらいはあるはず。

 

「えっと、僕がそれに着いて行く……って事ですか?」

「平たく言えばそうだけど、藤堂さんと織斑くんにも手伝ってもらいたいんだよねぇ。」

「俺と黒乃に?あまり役にはたてないと思うが……。」

「いや、頭数は多い方が良い。とはいえ、大人数ってわけにもいかないから……僕ら4人で当たるべき事案さ。」

 

 まぁ……鷹兄の言葉の裏には、これ以上の人間を巻き込むわけにはいかないってのもあるだろう。かといって、俺とイッチーが参加しないと頭数が足りないって話だな。俺はマイエンジェルのためなら努力は惜しまない所存。イッチーも、言われなくても力になる気が満々らしい。

 

「とにかく、あらゆる手を尽くす事を約束するよ。絶対にキミとお父さんを会わせてみせる。」

「は、はい!ありがとうございます!」

「とはいえ、色々と準備しなきゃだし……決行は早くて夏休み中になるかな。」

 

 夏休み……か、まぁ軽いフランス旅行とでも思っておこう。パスポートは、ドイツに行ったときのがまだ有効期限内だったかな。さて、これで後戻りはできなくなった。気合い入れて、いっちょ原作改変といきますか。それもこれも、マイエンジェルが安心して暮らしていけるために。

 

「それじゃ、今日のところは解散しよう。また何かあったら声をかけるから。」

「解った。黒乃、シャルル、帰ろうぜ。」

「あ、うん。失礼しました。」

(鷹兄まったね~。)

 

 鷹兄は、パンッと手を叩いてからそう言う。。解散になると同時に、イッチーとマイエンジェルはベッドから立ち上がった。俺も2人の後に続くと、鷹兄のヒラヒラと手を振る姿が見える。……いつも通りに戻ったみたいで安心したよ。俺は鷹兄に会釈すると、再び2人を追いかけ始めた。

 

 

 

 

 

 

「…………。」

 

 回転椅子の背もたれに、思い切り体重を預ける。あぁ……熱い。まるで病魔にでも侵されたかのような感覚だ。体温の上昇と激しい動悸、その感覚が……堪らなく心地いい。その心地よさこそ、僕の黒乃ちゃんに対する想いの現れ。でも解ってる……キミが、そんなつもりで僕を抱きとめたんじゃないって。

 

 さっきまでの僕はきっと、子供そのものだった。甘える場所を探して、構ってほしい盛りの小さな子……。だからこそ黒乃ちゃんは、僕を慰めた……子供としてね。だけどキミがどう思ってようと、キミに惚れてる僕からすれば……それはますますキミに惹かれる要因にしかならないよ。

 

 ……人に甘えさせてもらったのは、いったいいつ以来だろう。優しかったころの母さんだって、面と向かってはされなかった気がする。……天才だともてはやされ、神童だとごまをすられる人生だった。僕としては、少し違う視点で物事をこなしているつもりでも、周囲の人から見れば特別な事で……。

 

 いつしか僕は、悟ってしまっていたのかも知れない。僕の生き方に甘えは許されないと、何処か壁を作っていたのかも知れない。でもキミは、そんなのおかまいなしだよね。それが、僕にとってどれだけ喜ばしい事か……キミは自覚がないだろう。黒乃ちゃん、キミは……僕を僕として見てくれる数少ない人だ。

 

 ……考えれば考えるほど、想えば想うほど……キミが好きで好きで堪らなくなる。天才でも神童でもない。意地悪で捻くれ者で機械好き。そんなただの近江 鷹丸としての僕をずっとキミに見ていてほしい。そうすれば、僕は僕でいられるんだ……さっきみたいに。キミの温もりを1番近くで感じていたい。

 

「キミが……欲しい。」

 

 そう、欲しい。黒乃ちゃんの全てが欲しい。前々からあった確かなその想いは、僕の中でもっと大きな感情へと昇華してしまったようだ。絶対にキミを手に入れてみせる。僕が僕らしくある人生を、キミと共に歩んでいきたいから。まぁ……とりあえずは、デュノアくんの件をどうにかしないと……。

 

「もしもし、鶫さん?うん……ちょっと調べておいてほしい事があって。」

 

 僕はポケットから携帯を取り出すと、頼れる社長秘書へと連絡をとった。さて、夏休みまで忙しくなるぞ。社長業、教職、デュノアくんの件を同時にこなさないとだから。まぁ……どうにかしてみせよう。なんたって僕は、天才なんだから……ね。

 

 

 




黒乃→慰めてるつもりじゃないんだよなぁ
鷹丸→惚れ直したと言うか、ますますキミに惹かれてく僕がいるよ。

ISの登場人物は家庭事情に問題抱えている人が多すぎだと思うの。
鷹丸もその例に漏れずと言う事ですね。
シャルロットの件ですが、夏休み篇にてしっかり解決させようと思ってます。
原作でも不完全燃焼気味で歯痒かったので……。

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