八咫烏は勘違う(旧版)   作:マスクドライダー

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こちらは裏になります。
今回に限って、表から読んだ方が良いかもしれません。

買い物の最中で、黒乃が何を考えているかです。
特に鷹丸を選んだ理由は必見ですので。


第46話・裏

「黒乃。」

(うぃっすイッチー。どうしたん?)

「あの、少し頼みがあるんだけどな―――付き合ってくれ。」

(はい……?)

 

 ラウラたんが俗にいう一夏ラバーズへと加入してしばらく、騒がしいながらも平和な日常が続いていた。そんな変わらぬ日常の放課後、寮に向かう道すがらイッチーに呼び止められ……そんな事を言われた。突然で脈絡もなかった為か、一瞬何の事か解からなかったが……全て謎は解けた!

 

 これはあれだ、臨海学校の前に買い出しするから付き合ってくれ……の意だろう。臨海学校っつっても、特別校外学習って言う名目の小旅行みたいなもんさ。でも3日間は向こうへ拘束されるから、足りない日用品なんかも出る訳で……。イッチーは主夫故、そういった準備は欠かさない。

 

(う~ん……しかし、あ~……どないしようかなぁ。)

 

 イッチーが俺を誘ったのは、きっと大勢の方が良いからとかだろう。となれば、俺よりも前にマイエンジェルにも声をかけている可能性が大きい。う、うむむ……迷う。マイエンジェルの邪魔になるだろうし、そしたら俺も胃が痛いわけで……う~む……。

 

(すまんマイエンジェル……。)

「そうか、解った。じゃ、今度の日曜日な。調度いい時間に俺が迎えに行く。」

 

 それでもなるべくマイエンジェルに着いて回りたい俺は、迷いながらもイッチーの誘いに乗る事に。とんでもない罪悪感に襲われてるけど……。とにかく、これで出かける算段はついた。晩御飯の時間にはまだ早いため、俺達は連れ立って寮の自室まで歩いた。

 

 ……で、時は過ぎて件の日曜日……。俺の予想に反して、マイエンジェルの姿が見当たらない。後で合流かなとかも思ったりしたんだが、イッチーは駅前大型複合ショッピングモールの『レゾナンス』までグングンと進んで行く。それも……待ち合わせに使えそうな場所をことごとくスルーして。

 

(あれ……ホントおかしくねぇ?)

「黒乃?急に立ち止まってキョロキョロして……知り合いでも居たか?」

(いや、むしろ知り合いを捜してるんすけど……。)

 

 俺の少し前を歩いていたイッチーは、俺の足音が止まった事に反応を示した。そうして振り返って俺の近くまで戻って来ると、何処か楽しそうな様子でイッチーも周囲を見渡す。俺は間違い捜しゲームをしてるつもりはないよ。ええい、苦肉の策だ……動け、俺の指よ!

 

 

(今日って、俺ら2人だけなん?)

「……ピース?じゃないよな。……もしかして、俺達2人だけかって聞きたいのか?」

(そうそう、そうゆう事さイッチー。)

「…………。」

 

 俺がピッと指2本を出すと、なんとかその意図を察してくれた。……のは良いんだけど、イッチーはまるで何も答えようとしない。その表情は若干不機嫌っぽく見えて、何か失言?というか、気に障る事をしただろうかと焦ってしまう。やがてイッチーは、静かに口を開く。

 

「ほら……家族水入らず。黒乃と2人で買い物なんて久しぶりだろ?だから……。」

(ああ、なるほど……ったくこのシスコンは……。はいはい解ったから……お姉ちゃんが悪かったって。)

 

 イッチーは考え抜いた末に呟くが、どうにも俺から視線を逸らしてるわ不安そうだわ……見ていられなかった。俺は自分はイッチーの姉だと言い聞かせながら、まるで子供をあやすかのようにその頭を撫でてやる。はぁ……ちー姉の言う通り、少し甘やかし過ぎたかな。

 

「……とにかく、今日は黒乃と俺の2人だ。さぁ行こうぜ、時は金なりってな。」

(わっ、イッチー!?)

 

 イッチーは俺が頭を撫でている腕を掴むと、どかすと同時に俺の手を取った。それも、ご丁寧に恋人つなぎ……。く、くそ……あの1件以来、妙に男性を意識してしまう俺がいる。凄まじくナチュラルに俺の手を取ったイッチーは、何処か男らしくて……。あぁ……イカン、俺の手……汗ばんだりしてないかな……?

 

「「…………。」」

 

 いつもだったら話しかけてくれるのに、こんな時に限ってイッチーは無言だ。チラッ……チラッ……っと俺の姿を眺めるだけで、全く口を開こうとしない。何、何なの?……と思ったが、何かイッチー以外からも視線を感じる。それは……周囲に居る男達からだった。

 

「おい、見ろよあれ……!」

「うおっ……すっげースタイル……。」

「これだから夏はたまんねぇよなぁ。」

 

 聞こえてるっつーの!噂話は音量落して、どうぞ。はぁ……今の俺の格好は、ショートシャツにデニムのショートパンツ。つまるところ、へそだしルックって奴。いや違うんだよ、ちー姉が買ってくる服ってこんなんばっかりなんだもん。うぅ……昔は気にならなかったのに、やっぱり男を意識しちゃってる証拠かなぁ。

 

 でも、隠したりしたらダメだよねぇ。元男だから解るけど、こういう時に隠されると……ついつい隠すくらいならそんなコーデ止めとけよーって思っちゃったり。あれって、今思えばとてつもなく失礼な事だったんだな……。変に意識するな……今まではキチンと着れてたんだから。

 

「黒乃、立ち位置交代しないか?なんか、俺の歩いてる道の方が日陰だし。」

(イ、イッチー……。)

 

 イッチーは、俺がジロジロ見られてるのを防ごうとしてくれる。そうなんだよ、こういうさりげない気遣いがねぇ……この男の危険な所と言いますか。とにかく、イッチーの厚意はありがたく受け取っておこう。俺達はいったん手を離すと、立ち位置を入れ替えてまた互いの手を握った。

 

(あれ……?)

「よし、それじゃ……気を取り直して行くか。」

(な、何やってんだ俺……手ぇ離すチャンスだったじゃん。)

 

 立ち位置が変わったことにより、男達の視線は大半が緩和される。やっとこさこれで落ち着ける……と思ったら、何故かイッチーの手を取っている俺が。ほ、本当何やってんだろ……俺の方こそすっげーナチュラルだった。イッチーはニカッと笑うと、俺の手を少し強めに握り返してきた。……まぁ良いか、気にするだけ無駄なんだろうし。

 

 

 

 

 

「手……繋いでるわよね。」

「そうですわね……。」

「そうだな……。」

「よし、殺そう。」

 

 一夏達の遥か後方ではあるが、そこには確かに箒、セシリア、鈴音の姿があった。仲睦まじい様子の一夏と黒乃を目撃し、思わず尾行を開始したのだが……どうにも鈴音は黙って見ていられないらしい。物騒な言葉と共に甲龍を展開しようとする物だから、慌てて2人に止められる。

 

「じゃあ何よ!このまま指咥えて見てろっての!?」

「そうは言いません。自然に加われるタイミングを慎重に―――」

「……永遠に訪れる気はしないがな。」

 

 ならば代案をと鈴音は叫ぶ。セシリアは少し動揺しながらも、まだ慌てる時間じゃないと鈴音を宥める。しかしだ、箒は少し意見が違うらしい。あの2人の間に、つけ入る隙など生まれないと言いたいのだろう。そう言われて再度2人に目をやると、やはり仲睦まじい。

 

「ねぇ、こんな所で何やってるの?」

「その声は……シャルロットさん。奇遇ですわ……って!?」

「ラウラ・ボーデヴィッヒ!アンタ、なんでソイツ連れてんの!」

「な、なんでって……同室の縁かな。あっ、それより聞いてよ!ラウラってば、水着は学校指定ので構わないなんて言うんだよ!?」

「……私はシャルロットに連行されただけだ。」

 

 箒達に声をかけたのは、シャルロットだった。それに、傍らには制服姿のラウラを連れている。まだラウラの件を水に流せてはいないのか、セシリアと鈴音は警戒心ありありの表情でラウラを見つめる。本人は……どうやら特に気にした様子は見られない。

 

「まぁ、せっかくなのだから洒落た物を着てみてはどうだ?」

「箒、アンタすんなり―――」

「器が小さいぞ、昔の事をいつまで言っている。私も納得のいかん部分はあるが、何より襲われた本人がさほど気にしていないのだからな……私が騒ぐことでは無い。」

「まぁなんだ、許せ。済まなかった。」

 

 普通にラウラと接している箒に対して、鈴音は驚くような表情を見せた。それに対して箒は随分と男前な言葉で返す。ラウラもしっかりセシリアと鈴音に対して頭を下げながら謝罪した。若干軽すぎるような気もしたが……確かにらしくないと気持ちを切り替える。

 

「解ったわよ!これじゃアタシが悪者みたいじゃん……。」

「それで、皆はコソコソと何をしてたのかな?」

「ええ、少しその……お2人を……。」

「あれ……一夏と黒乃?……良いなぁ……いつも仲良さそうで。」

「尾行でもしていたのか?」

 

 鈴音がラウラを許した事でこの場は丸く収まり、話は箒達が何をしていたかという事に戻る。なんとなく尾行していたと自分達の口では言い辛く、ラウラがハッキリ告げると……3人は顔を見合わせ、苦笑いしながら首を頷かせてみせた。

 

「なるほど、面白そうだ。どれ、私も混ぜろ。」

「それは構わんが、シャルロット……。」

「ううん、僕も混ぜてよ。ラウラの言う通り面白そうだしね。」

「5人か……随分と大所帯になっちゃったわね。」

「ですので、細心の注意を払って追跡を継続しましょう。」

 

 原作ではいつもいがみ合ってばかりのメンバーだが、どうにも結束が強いのは……黒乃と言う名のラスボスを目の前にしているからだろう。そんなこんなでチーム一夏ラバーズ5人娘は、軍人であるラウラを筆頭に尾行を開始した。しかしそれは、結局のところ敗北感を味わうのみの不毛なもので終わる事だろう……。

 

 

 

 

 

 

「えっと、これで大体の物は大丈夫……。黒乃は、忘れ物とかないか?」

(オッケー、多分だけど。)

「そっか、なら問題ないな。それじゃ次は……水着を見に行こうぜ。」

 

 日用品等の買い物を終えた俺達は、買い物袋の中身を適当に確認する。どうやら買い忘れも無いようで、イッチーは水着を見に行こうと提案を出した。マズイ、凄くマズイ……この時の俺はこう思うしかない。いや、だって……水着だよ?水着。今まで通りだったら着ようと思ってたけど、最近の精神状態だとちょっと……。

 

 もちろん、臨海学校は存分に楽しむつもりだよ。でも今回は、浜辺で涼しい格好して遊ぼうかななんて思っていただけに……水着の事なんてまるで想定していなかった。この場でイッチーを踏みとどまらせるのは簡単だ。しかし、それだとイッチーは俺を説得しにかかるだろう。

 

『黒乃、せっかくの海なんだし―――』

(な~んて言われる未来が見えてるよ……。正直めんどいし、なら買うだけ買っとけばいっかー……。)

 

 まぁ……イッチーに下心は無いって解ってるからこそだけど。これがもしカズくんなら、もうとっとと回れ右して家路に着くよ俺は。いやね、良い子だってのは解ってるつもりだよ……。でも目がマジだから少し怖くってさぁ。それはほっとくか、仕方がないから大人しく連行されておこうかな。

 

「ん~……あそこなんか良さそうだな。大は小を兼ねるって言うし。」

(薪は楊枝の代わりにならぬ……とも言うけどね。)

 

 水着を売っているフロアに行くと、やはりシーズンという事もあってか、どこもかしこも大々的に売り出しをかけている。そんな中でイッチーが指差したのは、最大規模と看板が掲げられた店だ。確かに、外観だけ見ても他のところよりだいぶ大きい。イッチーが使った諺の対義語っぽい意味の諺を呟いたが……やっぱり品ぞろえが豊富な方が良いに決まってる。

 

 イッチーとその店に足を踏み入れると、なんというか……最大規模ってのは誇大広告ではないらしい。男性用から女性用、子供向けからシニア向けなど……様々な年代のニーズに合わせたラインナップだ。この中から好みの物を見つけるとなれば、本気度のレベルでかかる時間が増大するだろうな。

 

「それじゃあ、俺は男性用の売り場に……ってそうだ。黒乃、調子はどんな感じだ?自分で好きなの選べそうか?」

(うん、今日は割と調子の良い方で……。っておい!なんでいきなり否定も肯定も―――)

「……ダメそう……か。それなら、俺が選ぶよ。先に黒乃のから決めようぜ。」

 

 今日は割に自分の意志を示せていたというのに、なんでかいきなり否定も肯定もできやらねぇ。イッチーは照れてる様子というか、苦肉の策ってか……複雑そうな様子で俺と共に女性用の販売ゾーンへ足を踏み入れた。あれ、少し違うけどこのパターンって……。

 

「そこの貴方。この水着、片づけておいて。」

「断る。見ての通り俺は忙しいんだ。」

 

 おおふ、やっぱりこのパターンですかい!原作よりも物言いは柔らかい……気がしなくもないが、イッチーは明らかな女尊男卑主義者の命令をバッサリ断った。そうなんだよねぇ……お願いじゃ無くて、命令なんだよねぇ。しかし、どうするか……あれはマイエンジェルだから丸く収められたようなもんで……ってアレ?

 

「ふぅん、そういう事言うんだ。それならこっちにも考えが―――」

「そこの麗しいお姉さん。代わりに僕が承りますよ。」

「お前っ……!?」

「あら、良く解ってるじゃない。そっちのキミも見習う事ね。」

 

 女性の背後に現れたのは、いつも変わらぬニヤニヤスマイルの鷹兄だった。鷹兄は女性の手からサッと水着を奪うと、まるで執事のみたいなお辞儀を見せる。イケメンな鷹兄に下手に出られて、女性は露骨に上機嫌な様子へと変わった。そして鷹兄に水着を手渡すと、鼻歌交じりに店を後にする。

 

「やぁ、災難だったねキミ達。」

「アンタ、どうしてここに居る?」

「たまたまこの店で水着を選んでたんだけど、そしたら女性向けのコーナーにキミ達を見つけてさ。声をかけようと思ったら、キミ達がトラブルに巻き込まれてた……ってわけ。」

「……それで良いのかよ、アンタは!」

「だって、あの手合いは相手するだけ労力の無駄でしょ?確かに、女尊男卑に抗おうって織斑くんの姿勢は素晴らしいし、心から尊敬に値すると思うよ。ただね、時と場合は選ぶべきなんじゃないかな。」

「くっ……!」

 

 イッチーの放ったそれで良いのかって言葉は、きっとあんな女にペコペコしてるだけで良いのかって事。だけど、今回は全面的に鷹兄に同意だ。丸く収まるんなら、多少のプライドなんてクソ喰らえだよ。時と場合……ってのは、同行者……この場合は俺にも迷惑がかかると鷹兄は言いたいらしい。

 

「鷹丸さん、何か大きな声が……。わぁ、織斑くんに藤堂さん!奇遇ですねぇ。」

「お前達、というか一夏。店内で騒ぐな。」

「山田先生……それに千冬姉も。」

「2人……というか真耶さんに誘われてねー。せっかくだから一緒にどうだって。」

 

 奥の方からヒョコッと顔を出したのは、山田先生とちー姉だった。まぁあの女の人が現れたんだし……どうせ居るんだろうとは思ってたけど。というか、山田先生が誘ったんだ……。山田先生、男性全般は苦手なんだろうと思ったけど……やっぱり鷹兄に気があったり?

 

「で、お前達もいい加減に出てきたらどうだ?」

「「「「「!?」」」」」

「皆!?なんだよ、声をかけてくれれば良かったのに。」

 

 並べられている水着の陰から観念した様子で出て来たのは、一夏ラバーズ5人娘……5人!?やだ、凄く目立つ……。おかしいな、この場にモッピーやラウラたんは居なかったはずだけど……。マイエンジェルの関しては、本来この場に居るべきなんだろうけどね……。

 

「いや、何……声がかけづらくてな。」

「おしどり夫婦の様相を呈していらっしゃいましたわ……。」

「何よ、黒乃のおへそに鼻伸ばしちゃって。」

「……黒乃に勝てる気がしない……。」

「姉様、それは私の嫁です。」

 

 な、なんだよ皆して……俺だっててっきりマイエンジェルと一緒かと思ってたんだから仕方がないじゃん。それよりもセシリー、キミの言葉だけは聞き捨てならんぞ。お、おしどり夫婦とか……単に仲のいい姉弟の間違いだろ。べっ、べべべべ……別に俺とイッチーはそんなんじゃ……。

 

「あ~……皆さん、私忘れ物しちゃってました。少し探すのを手伝ってくれないでしょうか?ほらほら、こっちですよ。」

「……なんだったんだ?」

「さてな。」

 

 こういう時の山田先生は押しが強いもんで、俺、イッチー、ちー姉を残して6人をグイグイと店から追い出した。織斑姉弟+藤堂 黒乃。これぞ完璧な家族水入らずだ。イッチー皆を退場させた山田先生の背中を不思議そうに見つめ、ちー姉はなんだか複雑そうな溜息を吐く。

 

「一夏、せっかくだから意見を寄越せ。……そうだな、これとこれならばどちらだ。」

「……白の方。」

「よし、ならば黒だな。」

 

 ちー姉は白と黒、2種類の水着を手に取った。どちらも露出度は高めだが、どちらかと言えば黒の方は意識してセクシーなデザインになっているようだ。ちー姉は黒が似合う。そこを考慮するとイッチーは素直に黒と言いたかったんだろうが、変なのが寄りつくだかなんだかであえて白と宣言。

 

 しかし、イッチーの葛藤などお見通しなようで……ちー姉は白の水着は戻してしまう。まぁ……どちらにしたって構わないと思うけどね。ちー姉にナンパな男が近づいたとして、イッチーが心配してるような事なんて起きるハズもない。

 

「では、次は黒乃のだな。黒乃、お前も当然黒だろう?」

「ちょっと待った。黒乃は白だろ。」

「何を言うか、名前に黒と着いているのだから黒の方が自然だ。」

「解かんねぇかな。黒乃の黒髪とのコントラストが良いんだよ。」

 

 あんたら、自分のパーソナルカラーを俺に着て欲しいだけだろ。それ言うと、あまり他の子とは被らせたくないんだけどな。白はモッピーが着るし、黒はラウラたんが着るしで……それだとどっちもなぁ。っていうか、俺の目の前で白黒はっきりつけようとしなくて良いから(ダジャレ)

 

「ん~……折衷案って事で、モノトーンにすれば良いんじゃないんですか?」

「「なんでお前がここに居る!?」」

「なんでって、こっそり抜け出して来たからですけど。だって、そのうち僕も家族の一員―――」

「本当、いい加減にしないと本気で殴るぞ!?」

「お、落ち着け千冬姉!気持ちは解るけど、千冬姉の本気はマズイから!」

 

 突然に俺の後ろからヌッと鷹兄が現れた。抜け出してきた、なんて言うけど……さては鷹兄、隠密の心得があるね?で、鷹兄が何か言おうとするが……怒り心頭な様子のちー姉に殴りかかられそうにる。イッチーが何とか落ち着けさせると、ちー姉は肩で息をしてみせた。

 

「はぁ……はぁ……。だが、近江……お前の言葉にも一理ある。」

「でしょ?だからついでに僕が選んで―――」

「一夏、見張ってろ。」

「了解。」

 

 あまり見られないが、イッチーとちー姉のコンビプレーが発揮された。イッチーは鷹兄を店の外まで連行し、俺の水着を選び終えるまで見張る気らしい。ちー姉は俺とお買いものと……。なんなんだろ、鷹兄の嫌われっぷりは。確かに何考えてるか解からないけど、別に悪い人ではないと思うんだけどなぁ。

 

 それでしばらくあーでもないこーでもない言いながら、ちー姉と白黒の水着を物色する。とりあえずは、シンプルにボーダーパターンの白黒三角ビキニという事で落ち着く。まぁ……着るか着ないかは向こうに行って次第かな。さて、会計会計……っと。

 

「待て黒乃。それは私が買ってやる。」

(へ?いや、悪いよちー姉……。)

「遠慮するな。思えば……代表候補生になった祝いもろくにしてやれなかったからな。埋め合わせになるとは思っていないが、なんだ……たまには姉らしい事もさせろ。」

 

 ちー姉はそう言うと、俺の手から水着を奪って会計の方へと消えて行く。会計は……少し込んでるな。それなら、邪魔にならない場所で待っていよう。俺は出入り口から少し外れた場所、ショーウィンドウにも似たガラス張りになっているところに立つ。……あ、イッチーと鷹兄が見える。

 

 あの2人、何かと言い争ってるような気がする。いいや、どっちかというと……イッチーが一方的に噛み付いてるだけか。でも、そうなると……毎回何を話しているのかは気になるかも。この位置からは何を話しているかは聞き取り辛いが、俺は耳を澄ましてみる。すると―――

 

『―――の事が好きだ。いや……愛してると言い換えても良い。』

 

 ……はい?ちょっと待て、ちょっと待とうか……。肝心な部分は聞こえなかったけど、イッチーを目の前にして言ったんだよね?だとすると、僕はキミの事が……しか無くない?…………。お前ホモかよぉ!?(困惑)いや、いやいやいや!ウッソだろお前wwww……とか言ってられねぇ!

 

 た、鷹兄……アンタってばそうだったの!?もしかして、イッチーまでそうだなんて言わんよね。ほ、ほら……ネタじゃん……?イッチーがホモどうのって。いやいやそんなまさか……。チラリ。鷹兄達の様子をチラ見すると……見事に鷹兄と目が合った。あ、あはは……手招きしていらっしゃる。俺は大人しく鷹兄の方へと近づいた。

 

「黒乃。近江先生がな……人数増えちゃったから黒乃はやり辛いだろうって。だから良かったら2人で出かけないかつってるんだけど……。」

「~♪」

「そんな事無いよな。黒乃も皆と一緒のが楽しいだろ?だからこのまま俺達と行こう。」

 

 鷹兄達とは少し距離を置いて、俺は立ち止まった。すると何か、イッチーが必死な様子で俺にそう語りかける。その様は、何か……物を取られたくなくて必死な子供のようだ。それすなわち……鷹兄を取られたくない……?イッチーもやっぱりホモじゃないか!(混乱)ば、馬鹿なああああ!何処で道を踏み違えたんだい……イッチー!

 

 いや、何もそういうのが間違ってるとか悪いって言ってるんじゃないんだよ。ただ……キミは物語の主人公ですぜ。いつかは女子と幸せなキスをして終了しなきゃなんないんだよ!?それがどうしてこんな……。お、おし……落ち着こう……とりあえず落ち着こうか……。

 

 アレだよ、鷹兄がどうして俺を誘うのかを考えろ……。いろいろ候補はあるが、恐らくそれはノンケアピール……のはず。だけどイッチーは、俺と鷹兄が2人で行動するのは度し難いと。そ、そんなに好きなの……?まぁつまり、今まで口喧嘩に見えてたのは痴話喧嘩だったって話ね。さすれば、俺のとるべき行動は―――

 

「え……?」

「そうかい、ありがとう黒乃ちゃん。」

 

 俺はイッチーの隣を通り過ぎて、鷹兄の手を取った。すると耳元には、イッチーの絶望したみたいな『え?』って声が聞こえる。す、すまんイッチー……やっぱりさ、キミには何が何でもノンケに戻ってもらわんと困るんよ。俺は俺で、何とか鷹兄をノンケに出来るよう努力しなくては。イッチーの事は頼んだぞ、一夏ラバーズ!

 

「じゃ、行こうか。此処に洒落たカフェを知ってるんだ。そこで少しゆっくりしようよ。」

(むぅ……これは、何が何でも鷹兄をノンケにして見せないと。)

 

 だって勿体ないよ鷹兄……イッチーもだけどさ。こんなイケメン金持ちさんで、引く手数多なはず……って、思い……出した……!鷹兄って御曹司じゃん!どうするよ、このままじゃ跡継ぎ問題になる!が、頑張れ俺……近江重工の未来がかかってるぞ……!1人意気込む俺を見て、何だか鷹兄は楽しそうにしていた。結果はまぁ……不発だったって言っとく。何したかは聞かんといて……!

 

 

 




黒乃→お前らホモかよぉ!
鷹丸→僕は黒乃ちゃんを愛してる。

はい、まさかのホモ認定になります。
一夏にときめいてる時点で黒乃も同罪とか言わない。
精神的BLはNLだって、それ1番言われてるから。
ですが、ホモ疑惑に関しては解消させる予定です。
そうじゃないと、我らがアホの子黒乃ちゃんは一生口説かれてるのに気付かないでしょうから。

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