第一話 忘れられた記憶
「ねぇ、あなたは神様?」
「うん」
僕のそんな突拍子もない問いに答えてくれた彼女は神様だった。
でも、そんな二つ返事を簡単に信じてしまうほど彼女は神々しかった。しかし、ふ、と気がつく。彼女が神様だということは。
「ということは僕は死んだのかな?」
「うん」
これまた二つ返事。
「そっか、本当にろくでもない人生だったな。」
「そんなことない。あなたが頑張って生きてきた事を私は知ってるよ」
「なんか、そう言われると恥ずかしいな。それも、神様の仕事ってやつかい?」
「うーん、仕事は今からかな。何か一つだけ願いを叶えてあげましょう。さぁ、この神様に言ってみなさい」
可愛らしい小さな胸を突き出し、えっへんのポーズをする神様。
その腰のそり具合が最高に素敵だ!
しかし、そんな事はおくびにも出さないで彼女の質問を答える。
平静に冷静に。
「うーん。特にないなぁ。別にいいよ(腰のそり具合が最高に素敵だ!ぺろぺろしたいなっ!)」
「あれ?おかしいな?君のあられもない欲望が聞こえたようなきがするけれど、気のせいかな?」
「そんなものは気のせいだよ絶対!神様にも気のせいなんてあるんだね!(あ、もしかして神様の下着を見たい言ったら見せてくれるのかな?ま、まさかっ!はいていない!?そんなこといわれたら悶絶死しちゃうだろ!あ、もう死んでるんだけど!いや、もしかしたら侮蔑の視線をむけられるのかもっ!どっちもうれしい!)
「本当に気のせい?これがもし幻聴なのだとしたら私はひどい幻術にかけられているのかもしれないと真剣に悩まなくてはいけないのだけれど」
「それは心配だ。後で僕がその術者にきつく言っておくから、今はおいておこうじゃないか」
「むーーん、それよりも、本当に叶えたい願いはないのかな?」
「そりゃあ、もう、ばっちりない」
「あう、せっかくの大サービスだったのに」
神様は残念そうに顔をやや下に俯く。かわいい。しかし、なんでかなぁ。こんなにかわいいのに。こんなにやさしそうなのに。楽しそうに微笑んでくれれば絶対かわいいのに。なんで君はそんなに
どうして君はそんなに
「寂しそうなの?」
「え?」
「そんな寂しそうに何を見ているんだい?」
「これね、私が人間だった頃の記憶。いくつもの並行世界の私とその友達」
神様の記憶。彼女はそれを寂しそうに、今にも泣いてしまいそうなほど悲しそうに、しかし大事そうに抱え、そう言うのだ。
「君はもともと人間だったのかい?」
「うん、ちょっと前までは」
「どうして、そうなってしまったのか、それを見たらわかるのかい?」
「うん」
「見てもいいかい?」
「?いいけど、おもしろくないよ?」
「それでも僕は君のことが知りたい」
「あなたは変わっているね」
「生前よく言われたよ」
「とても、悲しいお話だったね。」
とても悲しくて、理不尽で、とてもじゃないけど納得できないお話だった。
「うん。ほむらちゃんは私を救い出すために時間の迷路に閉じ込められて、さやかちゃんはどの並行世界でも絶望してしまう。マミさんも杏子ちゃんも。おかしいよね、希望を信じた魔法少女が泣いちゃうなんて」
「だから、君は神様になったのかい?」
だから君は一人になったのかい?
一人ぼっちだと気づかないくらい寂しい所にいるのかい?
「うん、これで」
「魔法少女の代わりに君が泣いてあげれる?魔法少女の苦しみ全部代わってあげられる?」
気に入らないなぁ。
「え?」
「これで、よかったのかい?君は本当によかったのかい?これで、君は本当に幸せかい?」
だって、いくら世界中の魔法少女が希望を抱けても、最後に絶望することはなくたって、泣いてしまえばそこでお終いなんだよ?君も、君たちも。
なにより、君が笑顔でいられないじゃあないか。
それでも、君はよかったのかい?
「よかったに決まってる!だってそうしないとみんな泣いちゃうんだよ!?笑顔でいられないんだよ!?」
「君はこのまま永遠に、未来生まれるであろう魔女を浄化し続けるのかい?」
「うん!だってそれは、私が望んだ事で、私がみんなの為にできることなんだ!」
「だって、他にどうしようもなかったじゃない!
みんな笑顔で!私もみんなと一緒に帰ることなんてできなかったじゃない!
私は間違っていたかもしれないけれど!
それでも、こうする以外道はなかったんだ!
だから、
だから、私は後悔なんてしていない!」
神様は自分の本当の気持ちを見せてくれた。
それが君の真実。
それなら、今の君なら、
君自身の気持ちを理解できるだろう?
本当の君を、君自身が受け入れるんだ。
さあ、見てくれ、自分の本当の姿を。
君が神様だと言い張った今の君を。
「じゃあなんで、君はそんなに寂しそうに泣いているんだい?」
そこにいたのは、魔法少女でも魔女でもましてや神様でもない、ただの少女だった。
僕にはそう見えた。
この子が少女じゃなくてなんなんだ?
それを否定するなら、そんなもの僕が全部
ぶっ壊してやるよ。
「本当に君の願いは、魔法少女みんなが笑っている事なのかい?
君はただ君の友達を笑顔にしたかっただけじゃあないのかい?魔法少女じゃあない。君の最高の友達をただ泣かせたくなかっただけじゃあないのかい?」
「そうだよ!私はみんなの笑顔が見たかったんだ!私の最高の友達と笑顔でまた一緒に遊びたかった。おしゃべりしたかった!本当は離れたくなかった!私もずっとみんなと一緒にいたかった!私だってみんなと二度と会えないなんていやだよ!逢いたい!みんなとまた会いたいよ!」
ああ、そうだね。そうあるべきだ。そう願うべきだ。君がそう望むなら。
望んでくれるのなら。
「だったら、僕がなんとかしてあげよう」
僕は何の根拠も無い、彼女からしたらひどく頼りないであろう言葉を発する。でも、これが僕の本当の気持ち。
「無理だよ。神様の私でも無理なんだ。私が一体どれだけの間あの頃に戻りたいと願ったと思ってるの?無理なんだよ。私はもう、あの頃には帰れない」
僕は決めたんだよ神様。あなた、いや、あなた達を笑顔にするって、そう決めたんだよ。
「神様、僕の願い決まったよ」
何故かって?
「何?」
そんなの決まってる。
「僕をあの白いのキュウべぇってのに転生させてよ」
それはひどく自分勝手で。
「そんな、何をするつもりなの!?」
ひどく欲望に忠実で。
「もう一度最初から、一から世界を作り直してよ。鹿目まどかのいる世界に戻してよ。神様なんだからできるだろう?」
不純な想いもあるかもしれないけれど。
「できるけど、でも、それじゃあ前と同じだよ。また悲劇を繰り返すだけだよ。私はもう、みんなが泣く姿を見たくないよ。魔法少女のシステムがある限り、私達の救われる道はないんだよ」
でも、それはきっとみんなが見たいと思っている事。
「だから、僕がいるよ。僕が必ずなんとかしてみせる。魔女とか魔法少女とかそんなよくわからないものは全部なんとかしてみせる。そんなシステムは僕が根こそぎぶっ壊して見せる」
それはね、君たちがこれ以上もないってくらい。
「でも、やっぱり無理だよ。無茶だよ!あなたをインキュベーターに転生させたら、あなたの魂も無事じゃあすまない。本当にインキュベーターになっちゃうかもしれないんだよ!あの種族は根源が魂だから、完全に交じり合う。人間だった記憶も、この記憶も絶対覚えていられない。自分を保ってなんていられない。なんの力もあげられない。あなたが普通のインキュベーターと違うところがあるとすれば、それは、感情があることくらいしかない!」
楽しそうに笑うんだ。
笑って
泣いて
怒って
時に喧嘩して
そして最後は仲直り
誰かを嫌いになって
誰かを好きになって
そして生きていく。
「それだけで十分さ。それさえあればなんだってできる。僕はそれだけで今まで生きてきた。まぁ死んじゃったけど。でも、それでも僕が絶対君をもとの君に戻してあげる。また、みんなで泣いたり笑ったりできるようにしてみせる。あの子達の隣に君は必要で、君にはあの子達が必要不可欠だ。それなら君はこんなところにいちゃあダメだ。こんないるのかいないのかよくわからないままじゃあダメだ。
君を苦しめるものは全部何とかしてみせるから」
幸せそうに生きていく。
そんなもの絶対かわいいだろう?
「だから、もう一度だけ、僕と一緒にがんばってみないかい?」
ねぇ?みんなもそんな彼女達を見てみたいと思うだろう?