キュウべぇに騙される前の馬鹿な私を助けてあげてくれないかな?
これじゃあ、呪いじゃあないか。
僕はそう思った。
君はまどかと、みんなと仲直りするべきだ
僕はそんな事を彼女に言った。
暁美ほむらは茫然としている。
「な……何を言っているの…ピュー」
パンツで顔の表情が見えなくても、ブラで目を隠していようとも、暁美ほむらはかなり動揺している。そんな事は簡単にわかる。その証拠に身体は震え、鍵盤ハーモニカの音は消え、リコーダーの音はとても微かな音だったからだ。
暁美ほむらはリコーダー、鍵盤ハーモニカ、パンツ、ブラをすべて外す。武装解除である。アルティメットマッドデーモン解除である。やっと本気になって、本来の暁美ほむらになる。さあ、ここからはおふざけなしだ。
これからの話をしよう。
君達と僕のするべきことの。
「そんな事できるわけない!」
「何故だい?どうして仲直りできない?仲良くしたら、まどかが魔法少女になってしまうのかい?」
「……そうよ。」
「そんな事はない。断言できるね。いや、むしろ今までまどかが魔法少女になってしまったのは君が彼女達の仲間ではなかったからだ。」
「そんな事……、だって、私は最初……」
「君も最初に彼女達の仲間だった?いや、違うね。君はまどかの仲間であって、まどかの味方であって、決してみんなの仲間ではなかったんだ。
でも、それじゃあダメなんだ。暁美ほむら、君ならよくわかるだろう。
残された人の事を考えろ
そう言った君ならわかるだろう。まどかだけを救っても何の意味もない。まどかを救っても、彼女の大切な人がいないと何の意味もない。彼女の隣に君がいないと、そんなの誰も喜ばない。そんなの誰も幸せにならない。そんなの誰も救われないんだ。君も、まどかも。みんな。」
「でも、でも、そんな都合のいい事なんてあるわけない!まどかを含めた、私なんかを含めたみんなが幸せになるなんて事あるわけない!だから、私は切り捨ててきたんだ。本当に大切なものを守るために!本当に救いたい人を、その人だけは救えるように!みんなを救えたなら、それは、とても素晴らしい事よ!そんなことは、わかっているわよ!その方がまどかが幸せになってくれる事もわかってる!でも、それじゃあ駄目なんだ!それじゃあ、みんな、みんな、最後は絶望しちゃう!みんなを救い出す?そんな余裕私にはないのよ!あなたに一体何がわかるというの!たかがインキュベーターに何がわかるって言うのよ!私はできるまでやる。まどかだけは救えるまで繰り返す!ただそれだけよ!」
「君は、何がわかると聞いたね。ああ、そんなのわかるわけないね!言っとくが僕は君の辛さの10分の1も味わった事はないし、そんな地獄を経験した事もないね!でも、それでも、たった10分の1でもそれが辛いって事だけはわかるよ!10分の1で絶えられない。とてもじゃないが僕には無理だ!そんな君を放っておく事もできない!」
「あなたの事なんて関係ない!私は何度だって繰り返す。たとえこの世界がダメでも、何度だって……そうすれば……いつか……」
「いつか、まどかが救われると思っているのかい?それこそ、都合がよすぎる。」
「なんですって?」
暁美ほむらは今にも掴みかかってきそうだ。勿論僕は今心底びびってる。もうガクブルである。ちびらないのが不思議なくらいだ。本当に怖いもんだ。死にたくないと思うのは。でも僕は退くわけにはいかない。負けるわけにはいかない。
「怖いのかい?君がもしみんなと仲良くし、楽しい思い出なんて作ってしまって、もしこの世界がダメだった時、君はその世界から離れられないからかい?嬉しいことも、楽しいことも、味わってしまったら、それを失ったときの、悲しみに耐えられないからかい?だから大好きなまどかとも距離をおいているのかい?」
「それの何が悪いっていうの!辛いのよ!きついのよ!みんな、みんな最後は死んでしまうのよ!魔法少女に救いなんてあるわけないんだから!それなら……」
確かに君は強いよ暁美ほむら。でも、君はやっぱり歳相応の少女である事もまた事実だ。仲良くした友達が死ぬのは、そんなの誰でも辛いさ。
「それなら、か。それなら、もう君がループを繰り返してはいけない理由を話そう。」
「君はループをするたびに鹿目まどかの魔力はどんどん上がっていったと言ったね。そもそも魔法少女の魔力計数はその少女に結ばれる因果の数で決まるんだよ。不思議に思っていたんだよ。一国の王でも、世界の救世主でもないまどかがどうしてあれほどの魔力を持っているのかをね。」
「………」
「君は無意識のうちにまどかを中心に時間軸を組んでいたんだ。彼女の関わる因果は積み重なって、絡まって、何重にもなった。それなら、いや、それしか有り得ないんだ。」
「そんな……そんなの、嘘よ。だって、
だって
それじゃあ……私のしてきた事は、これから私のやろうとした事は……
まどかを苦しめるだけじゃない……
それなら私……なんの為に……
私のしてきたことって……」
まずい!ほむらのソウルジェムがどんどん濁っていく。彼女の強さを過信し過ぎた!
「ごめんね……ごめんね、まどか。私約束守れなかった……それどころか……私のせいであなたを……不幸にして……傷つけて……」
「違う、違うだろ、ほむら。君のせいじゃあないんだよ。君は、本当に、本当に、凄い奴なんだ。
僕には、
僕にはできなかったんだ。
君みたいに、できなかったんだよ。
誰かの為に戦い続けることができなかった。
だから、諦めて、現実を受け入れる事しか、できなかった。これは、しょうがないことだと勝手に割り切って、多くの少女達を見殺しにしてきた。少女達が契約していくの、見ている事しかできなかった。結局僕は誰も守れず、誰も救えず、残ったのは後悔だけだった。でも、君は違うだろう?君は、ずっと、ずっと、一人で戦い続けた、一人で、傷つきながら、それでも、戦い続けたんだ。
それは、本当に凄いことだ。
だけど、君はそのために、どれだけの
痛みと苦しみを味わってきたんだ。
たった一人で。
もう、いいだろう?
もう、十分すぎるほど、君は傷ついてきたじゃないか!
だから、もう、一人だけ傷つくのはやめてくれ!
君だけが、苦しんで、傷ついても、そんな事誰も望んでないんだよ!
これは、誰か一人に傷や痛みを押し付けても、どうしようもないことじゃあないか!
何にも変わらないんだよ!そんなことしても!
君の運命も、まどかの運命も!魔法少女のシステムも!
みんなで、背負わなくっちゃあ意味が無いんだ!
まどか、もマミもさやかも、きっとみんな、みんな望んでいることなんだ!
君が思っているほどみんなは弱くない!
だから、君もみんなを信じてくれよ!」
「無理よ、私は、今まで、誰一人、信じてこなかったのだから。大切な、大好きな、まどかすら信じることができなかった。任せることができなかった。私は、誰より、誰かを信じることに、希望を信じることに、臆病になってしまった。だって、信じてしまったら、望んでしまったら、最後には必ず、失望することになるのだから」
「それでも、君も、まどかも、みんな、みんな生きているじゃあないか!何一つ間違いを犯さず生きてこれた奴なんて一人もいないけれど、涙を零さず生きてこれた奴なんて一人もいないけれど、それでも、君も、あの娘達も、こんなにも、強く、優しく、凛々しく、正しく、清らかに、生きてきたじゃないか!辛いことも、嫌なことも、いっぱいあっただろうけれど、それでもちゃんと生きてこれたじゃないか!」
「でも、でも、もう、無理よ。もう、私にできることなんて無いじゃない。私じゃあ、まどかを苦しめるだけじゃない」
「頼むから、お願いだから、希望を捨てないでくれ!あきらめないでくれ!もし、君が諦めてしまえば、それで終わってしまうんだ!マミも、さやかも、魔法少女も、
まどかだって!!!」
「でも、私じゃあ……まどかを……」
「そんなことない!断言できる。君達以外誰もまどかを救うなんて無理だ。どんな魔女を倒せる最強の転生者がいたってそれは無理だ。力も強さもいらないんだ!必要なのは、最後にみんな誰一人失わず、笑える日が来るって事を信じる心で、希望を信じる感情なんだ!それは、君達にしかできないことなんだよ。しっかりしてくれよ。君はまどかを誰より見てきた筈だろう。その、まどかをどこの馬の骨ともわからないような奴に横から勝手にまどかを救われる事を君は許せるのかい?自分には無理だからと諦めるのかい?」
「それは……確かに、我慢ならない!」
ソウルジェムの穢れの勢いが止まる。
「君は君のまま、まどかの隣にいていいんだよ。そうしないといけない。君達はみんなで支えあえる最高の友達だろう。だったらそれはダメだ。捨てちゃだめだ。今回がダメでも、なんてそんな弱い事を考えるな。君らしくもない。失ったことを考えるな。失望を恐れるな。投げ出すな。誰かを救いたいなら、まずその人に手を差し伸べてもらわないと救いあげる事はできないだろう?みんなの為に、心を一つにするんだ。もうこれが最後なんだ。みんなと精一杯頑張ろう。誰一人失う事なく、みんな笑って帰れるように」
「そんな事私に本当にできるの……?何度やってもダメだったのに?」
「ああ、勿論さ。だって君は一人じゃないんだからさ。みんなと一緒ならできないことはないさ。」
「でも、無理」
「……なんでだい?」
「誰かと仲良くするなんて……無理よ……そんなやり方……忘れてしまったわ。私がどれだけの時間一人でいたと思うの」
まあ、変態に変貌してしまう程だろうね。
「一人でしか私は何もできないのかもしれない。今さらまどか達の輪に入るなんて、とても無理よ……なんというか、すごく恥ずかしい。」
「仕方ない。これはできれば誰にも聞かせたくなかったんだけどな」
ふぅ、と僕はため息をする。
僕は墓まで持っていくつもりだったからね。しかし、背に腹は変えられない。
「あなたは……何を!?」
とくとみよ!いや、聞け!
唸れ!超高性能スピーカー!暁美ほむらに自信を与えろ!
『マミさんも、さやかちゃんも、ほむらちゃんも救われるなら、私、全裸になってもいいよ!』
はい、もう一度大事な所を再生。
『私全裸になってもいいよ!!!』
「まどかぁぁああああああ!!!!!!」
あ、暁美ほむらが覚醒した。スーパー変態ほむほむになった。
「まどかまどかまどかまどかまどかまどかまどかまどかまどかまどかまどかまどか!
愛してる!!
私全裸大好き!!!
まどかの全裸!そんなの5億円払っても見たいわ!」
「それで……どうするんだい?」
「やるわよ!なんだってやるわよ!まどかの全裸なのよ!そんなの全てがどうでもよくなったわよ!」
うわあ……引くわ〜、こうなると思ってこれだけは秘密にしときたかったんだけど、というかどうでもよくなっちゃダメだろう。
「それじゃあ、早速マミの家にいこう!」
「どうしたんだい?」
マミの家の前で指をもじもじさせながら、忙しなくあちらこちらと歩いているほむらがそこにはいた。
「や……やっぱり帰る」
「ほら、ほむら!呪文!呪文!」
ほむらはぴっとステレオのスイッチを押す。
「ほむらちゃんが救われるなら私全裸になってもいいよ!」
あっ、こいつ編集で前半カット&改造しやがった。
「私はやるわよ!見ててね、まどか!……でも、やっぱり……」
さっきからこの繰り返しである。乙女か君は!あっ乙女か!変態だからすっかり忘れてた!
「ちょっと待って。今まどか成分を補給するわ。スーハー、コホー」
おもむろにまどかのパンツとブラを出す。
「ストップ!ここは公共の場だぞ!」
うん。やっぱり変態か。
「ほら、早く!君もマミに謝りたいことがあるって言っていたじゃないか」
「それは、そうなのだけど……」
不意にドアが開く。びくっと小動物みたいなほむら。あっ、なんか新鮮だな〜。
そこにはマミがいた。
「これは、その、あの、別にあなたに会いにきたと言うわけではなく……その、近くを通り過ぎたというか」
そんな顔を真っ赤にしているほむらをクスっとマミは微笑んで
「暁美さん、待っていたわ。中に入って」
「ど……どいうこと……?」
ほむらは恐る恐るマミの家の中を覗く。
そこにはお茶の用意がされていた。
「べ……別に、助けて貰ったお礼に、あなたの為に用意したわけじゃ……ない……のよ?」
顔真っ赤にしてツンデレるマミ。
「そ……そんなの……私だって、たまたま通りすがっただけで……」
同じく顔真っ赤にするほむら。本当は嬉しくて泣きそうなんですって顔だ。
「くす……」
「ふふ……」
「えへへ」
「あはは」
お互い照れくさそうに笑う。
「ありがとうございます。マミさん。あなたの家族を傷つけようとしてごめんなさい。」
ほむらが最初に切り出した。その姿は間違いなく、本当のほむらだった。
「こっちこそ、酷いこと言ってごめんなさい。助けてくれて本当にありがとう。」
二人は顔を真っ赤に頬を染め、瞳には涙が浮かべられていた。
僕はこれが本来あるべき関係なんだと思った。
ちょっと初々しい先輩と後輩がそこにはいた。