私は言い訳をする。
誰でもなく。自分自身に。
言い訳をして、誤魔化して、嘘をつく。
私は、ただ恭介の為だけに、誰かのために、願った奇跡を誇りに思っているんだよ?
だから、私に後悔なんてあるわけないんだ。
たとえそれで、あなたが離れていってしまうことになったって。
たとえそれで、私がどうなってしまおうが。
そう思うことができたんだ。
―――美樹さやか
ねぇ美樹さん。私絶対あきらめないよ?
あなたが何を望もうが。あなたの幸せがそんな結末だとしても。
そんなの認めないよ。
だって私は、あなたと一緒に生きていきたいんだから。
私は、私たちはだから自分勝手にあなたを救い出す。
だって私はあなたが大好きだから。あなたの事が好きすぎて、どうしても友達になりたくて、こんな運命に引きずり込んだ張本人ではあるけれど。
それが罪深い事はわかってるつもりだけれど。
それでも私は、望む。
自分の罪を棚上げして望む。
彼女の美しく、強く、真っ直ぐなその笑顔を。
もう、絶対に失わせない。奪わせない。なに一つだって私の大切なものは譲らない。
理不尽な運命なんて、絶望なんて、全部ぶっ壊してやる。
私と鹿目さんは今美樹さんの目の前にいた。立ちはだかるように。まるで、対峙するように。戦うように。
「さやかちゃん……お願い……上条くんに思いを伝えよう?」
鹿目さんが先に切り出す。
「な……何いってるのまどか?私は……もう、その事はいいのよ……。だって、あの仁美だよ……かなうはずないよ。もう大丈夫だよ」
美樹さんは作り笑いをする。空っぽなのに元気な振りをする。痛々しく彼女は笑う。とてもじゃないけど見ていられなかった。
「美樹さん。ダメよ。逃げちゃダメ。あなたの大切な人なのでしょう。あなたから始めた恋なのでしょう?だったら、終わらせないといけないわ。他でもないあなたの手で……。」
「何よ、何よ何よ何よ何よ何よ何よ何よ!!うるさい!!うるさいのよ!!あなた達に何がわかるって言うのよ!」
「恋をしたことのないあなた達に何がわかるの!怖いのよ!嫌われる事が!今の関係を壊してしまう事が!勇気を振り絞って思いを伝えても、それで断られたら!そんなのいや!惨め過ぎる!立ち直れない!」
突然激高する美樹さん。それはきっと今まで溜め込んでいた黒い感情だった。
「美樹さん……」
「さやかちゃん……」
「……私が恭介と本気で付き合えるって信じているの?無理に決まってる!こんな……
こんな!
人間でもない化け物の身体でどうしようっていうのよ!
こんな魂のない空っぽな身体で言えるわけない!
抱きしめてなんて言えない!
キスしてなんて言えない!
それとも……恭介に私のした事をばらすつもり?私はあなたのせいでこんな身体になっちゃいました。だから、責任をとって私と付き合いなさいなんて言うの?
無理よ!やだ!やめて!そんなので恭介と付き合っても辛いだけだ!苦しいだけだ!お互いを苦しめるだけだ!頭がどうにかなっちゃう!とてもじゃないけど正気じゃいられない!
だから、だからだからだからだからだからだからだから!
あたしはこのままでいい!恭介が幸せならそれでいい!あたしはそう決めたんだ!あの日!恭介が壊れてしまったあの日確かに……確かにそう思う事ができたんだ!
たとえ死んだって構わない!人間でなくなってもいい!恭介の為なら私はどうなってもいい、って!」
「いいわけないよっ!!!!」
鹿目さんが大声で叫ぶ。
温厚な彼女がここまで、感情をあらわにするのはきっと、美樹さんは初めて見たのだろう。
だから、美樹さんは呆気にとられて身動き一つできない。
鹿目さんは、吐き捨てるように。
美樹さんがないがしろにされているのが心底許せないみたいに、声を荒げて言う。
「全く、ふざけないで!
そんなの!私がよくないんだよ!
あんなヴァイオリンの事しか考えてない!自分の事しか考えられない、余裕のないあんな男の為にさやかちゃんが死ぬ?不幸になる?
そんなのさやかちゃんはよくても私はいやだね!死んでもいやだ!
私の大切な友達があの男みたいな奴の為に不幸になる?
そんなの認めない!
それでも、あの男の為に何かやりたいなら、2人で幸せになりなさい!それ以外私は認めない!あいつの為にさやかちゃんを犠牲にできるわけない!みんなそう思ってる!私も!マミさんも!ほむらちゃんも!
そしてさやかちゃん自身も、自分では気づいてないかもしれないけど、
あなたは上条くんと一緒に幸せになる事を望んでる!
だったら告白してきなさい!上条くんの為にも!さやかちゃんの為にも!
もしダメでも私達がいるから……
決して笑ったりしないから
私達の所に帰ってきて」
鹿目さんは感情を思いっきり彼女にぶつけた。その瞳から溢れだしそうな、涙を必死に堪えて。
涙もろい彼女が、戦うと決めた、決意の表れだった。
「私がいいって言ってんのよ!なんで私にそこまでこだわるのよ!放っておいてよ!関係ないでしょ!」
「そんなのこだわるよ!関係なくない!放っておけるわけない!だって私はあなたの友達だから!
あなたの友達なの!それが不幸になるのを、放っておけるわけない!」
「……それなら、私はもう友達じゃない!あなた達とはもう友達でもなんでもない!だから放っておいて!かまわないで!これからは私一人で魔女を狩る!誰の力もかりない!」
「そんな事させない!さやかちゃんを一人になんて絶対させない!」
美樹さんは魔法少女に変身する。
「邪魔するならまどかを倒すまでよ!魔法少女でもないやつが何いってんのよ!私にかまわないで」
全くひかない鹿目さん。本当に……すごいな……鹿目さん。本当に強い。これは負けていられないわね。先輩として、気張らせてもらおうかな。
私も美樹さん同様、魔法少女に変身する。
「だったら……魔法少女どうし腹をわって話そうかしら?お互い化け物どうし」
「……マミさん。あたしもう、あなた達とやっていけません。あなたを倒してあたしはこの街を出て行きます」
ああ、昔私はこれとそっくりな事を言われた事がある。
私の弟子、佐倉杏子に。結局私は彼女を引き止める事はできなかった。誰かの為に願ってしまった彼女はその願いのせいで一人ぼっちになってしまったのだ。私もあの日鹿目さんのようにしたかったな……自分の思いを全部ぶつけるべきだったんだ。一人じゃないといってあげるべきだったんだ。
本当に美樹さんはあの娘によく似ている。私はあの日のまま何にも成長できていないのかしら?
そんな事はない。
そんな事は認めない。
あの日の過ちを繰り返さない。
私は今度こそこの娘を一人ぼっちになんてさせない。
「私のかわいい後輩を一人にするわけないでしょう?あなたをおぶってでも連れて帰る」
美樹さんは私に剣を持って突進してくる。
私はそれを長銃で受け止める。私の武器は基本的にライフルのような細長い形状をしている。美樹さんの長剣とリーチはそんなに変わらない。
私は美樹さんの単調な攻撃を全て受け止める。私から攻撃するつもりは全くない。
「なんで!なんで!攻撃しないんですか!いっそこのまま死んでしまった方が楽なのに!」
「ふふ、まだまだね美樹さん。こんな事じゃあとても心配で一人でなんて行かせられない。せめて私に攻撃させてからそう言うことはいいなさい」
「だあああああ!」
美樹さんの剣速が上がる。
「なんで!なんで!なんで!私なんか放っておいてよ!こんな惨めな私をこれ以上晒さないでよ!」
「惨めで何が悪いの!恥ずかしいから何!あなたが苦しんでいるなら私達だってその苦しみを背負いたい!お願いだから一人になりたいなんて言わないで!私達は仲間じゃない!」
「こんな私を仲間なんて言わないで!とてもじゃないけど無理!こんな、こんな事をして……」
そこに鹿目さんが飛び出してきた。
きっと、何もできないのが本当にいやだったのね……。
「さやかちゃん!そんな事ない!取り返しがつかないわけない!だって、だって私達はまだ生きてるじゃない!」
「こないで!!」
美樹さんは長剣を鹿目さんに投げつける。それは威嚇のつもりだったのでしょう。しかし、私と戦っていた美樹さんはそんな余裕もなく、その軌道は鹿目さんに。
私は片手で美樹さんの投げつけた剣を受け止める。自然、鹿目さんを庇う形になる。とっさの事だったので剣は私の左手に突き刺さる。私は左手に激痛が走り、血が溢れでる。でも、私はこんな痛みより、心が痛かった。
「マミさん!手が……」
鹿目さんが震える声で言う。
なんて顔しているの、あなたは。
あなたは何も間違っていないんだから、そんな顔をしてはダメ。
私は、そんな鹿目さんに微笑んでみせる。
「ふふ、本当にあなたは無茶をするわね。でも、そんなあなたを私は誇りに思うわ。どんと胸をはりなさい」
私は美樹さんの所へゆっくり歩いていく。美樹さんは私の手を見て酷く怯えているようだった。
もう何がなんだかわからない。取り返しのつかない事をした。もうダメだ。そんな事を叫んでいるように私は見えた。
「いや……こないで!こないで!こないで!」
美樹さんは何本も長剣を私に投げつける。私の身体にその剣は突き刺さっていく。簡単に避けられる攻撃を身体に受ける。これは美樹さんの想いで、痛みで、苦しみなんだ。だったら受け止めないと。私にできる事はこれくらいだから……。先輩として、できるのはこれくらいだから……。
美樹さんの身体を触れる位置までくるまでに10本の長剣が突き刺さっている。さすがに足に刺さっているのは動けないので引き抜く。魔女と戦い続けた結果がこれ。痛みは感じるけれど、恐怖は感じない。悲しい事ね。私は本当に人間じゃないのね……。
私は腹部に突き刺さっている剣を引き抜く。身体全体から血が吹き出す。私は美樹さんに手を伸ばす。美樹さんは固く目を閉じる。
私は美樹さんを抱きしめる。強く抱きしめる。私の血で美樹さんの身体は汚れちゃうけど、そこはほら、自業自得ね。私のもとから離れたいなんて言った罰よ。バチともいうわね。
私は美樹さんのソウルジェムをグリーフシードで浄化する。
取り返しがつかない事なんてないのよ。私達は仲間で、友達なんだから……。だから悪い事したら、ごめんなさいでいいの。私はそれでいい。だから、お願いだから自分を殺すような事はやめて。死んでしまったら本当に取り返しがつかないじゃない。
「美樹さん、私ね……好きな人がいるの……。その人はいつも私に申し訳なさそうでね、私を見てずっと辛そうにしてた。まあ、人っていうか、宇宙人だけどね。こんな化け物の私を命がけで助けるお馬鹿さんで、その人の事が大好きな私に泣いて謝るのよ。殺してくれって言うのよ。そんなのできるわけないよね……」
「だって、誰かを好きになるってそういう事だよね。その人の事なら全部受け入れちゃう。本当に困ったものね。だから、わかるよ。美樹さんの気持ちがわかる。でもね、これだけは言わせて……。
あなたは少し先走ったかもしれない。目の前の恋しか見えていなかったかもしれない。お節介だったのかもしれない。
でも
それでも
あなたは幸せになっちゃいけないわけじゃあないのよ。
報われないわけでも、救われないわけでもないの。
だから、頑張って幸せになりなさい。
私達はいつだって応援してるから」
美樹さんは上条恭介くんに告白した。
しかし、上条くんの答えは、「さやかの気持ちはすごく嬉しいし、光栄だよ。でも、ごめん。僕はずっと好きな子がいたんだ。その子が今日僕にいいたい事があるって言ってくれたんだ」
美樹さんはすごく悲しそうな、しかし作り笑いとも違う優しい微笑みを浮かべて。
「うん、知ってた……。でもね、これはあたしの恋だって、あたしが終わらせないといけないって、大切な友達と尊敬してる先輩に言われちゃってね……。ありがとう恭介。これで私の恋を終わらせれる」美樹さんは涙を流しながら
「じゃあね、恭介……」
走っていった。
「やばいわ!鹿目さん!とりあえず追いかけないと!」
「そうですね!しかしマミさん本当にすごいですね!もう走れるんですか!?剣10本以上刺さってたのに!」
「あんなもの二年前のイナゴの魔女に比べたら、優しいものよ」
「バイオレンスライフ!」
やっぱり、美樹さんは魔女になってしまうの?いや!そんな運命認めたくない!どうして美樹さんなの?
「恭介のバカヤロー!!!散々期待持たせやがって!!!私のバカヤロー!!!色んな人傷つけて!!自分ばっかり不幸みたいな顔して!!!一番大切な友達と一番大切な先輩傷つけてこの様はなんだ!!!私の大バカヤロー!!!」
美樹さんは叫んでいた。絶望することなく全て認めて受け入れていた。私と鹿目さんは美樹さんと同じように大泣きしながら、美樹さんを抱きしめる。
「よく、頑張ったね美樹さん……最高に格好よかったわよ。あなたが私の後輩で本当によかった。あなた達最高よ。あなた達は私の誇りよ」
美樹さんは私の胸で泣くばかり。
彼女の恋は年相応の甘酸っぱい青春として彼女を成長させたのだと思う。
劇的な私達はしかし平凡に悲劇を回避したのだ。