魔法少女と孵卵器(インキュベーター)~規制版~   作:ダル神

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第十九話 純白の英雄

美樹さやかは帰ってきた。自分の恋を終わらせて。自分の夢から覚めても絶望する事もなく、彼女は彼女のまま帰ってきてくれたんだ。きっとそれはとても辛い事だったのだと思う。きっとみんなその辛さを理解して、さやかと同じ思いを背負っているのだと思う。それでも笑顔でいる彼女達は本当に強いな。僕にはとても無理だ。どうして彼女達はこんなにも強いのだろう。弱い僕は彼女達の強さが羨ましい。矮小な僕は彼女達がとてもまぶしかった。それはそうだ。だって、僕は彼女達のようにお互いを信じる事なんてできない。どころか、僕にできる事はやっぱり、少女を騙す事だけなんだ。

 

「よっしゃあ!魔女のたまとったどぉおお!」とさやか。

しかし、女の子がたまとかいわない。

「やったわね、美樹さん」とマミ

「さやかちゃんすごい!」とまどか

 

「……ええ」

あれ?ほむらの元気が異常にないぞ?まどかが見てるんだ。魔女との戦いの途中に時間停止能力を使ってまどかのパンツでも覗いて大喜びでもしてそうなものなのに、何か不満な事でもあるのだろうか?

 

「不満な事しかないわよ!何で私が美樹さやかにおぶられているの!?わけがわからないよ!」

 

あ、それ僕のセリフね。

 

「しかたないでしょ、あんたの時間停止能力はあんたに触れた状態なら私の時間も停まらない。つまり私は魔力をゆっくり貯めながら攻撃できるわけよ!ワルプルギスの夜に向けてある程度フォーメーションを組んでおかないとね!」とさやかはほむらを未だおぶったまま、元気な笑顔を見せる。

 

ほむらは、はあとため息をする。

「いい?私がフォーメーションを組むとすればそれはマミさんよ。勿論まどかは私の永遠のパートナーだけど!」

 

ほむらの病気が!因みにまどかはもう病気のほむらは見慣れているので、この光景を見ても全く動じない。それどころか顔を赤くして、てへへと微笑むのだ。君達実は付き合ってんじゃあなかろうか。

 

「こほん、つまり私の能力である時間停止による空間凍結はこちらが直接触れて攻撃してしまっては敵の時間も動いてしまう。私はそのリスクを避ける為にいつも飛び道具を使ってるのよ。あなたのような近接タイプは本来私は組まない。というか組めないわね」

 

「ぶー、じゃあ何でよ?」

頬を膨らませるさやか

 

「心配性の先輩に頼まれてね、仕方なく」

はぁ、とため息を吐かんばかりに、答えるほむら。

 

「ぁぅ……。暁美さん、それは秘密だって……」

顔を真っ赤にするマミ

 

「マミさん……。私は大丈夫ですよ。でも、その気持ちは最高に嬉しいです!」

これまた少年のような真っ直ぐな笑顔をするさやか

 

「そうでしたね。ごめんなさい、私の失言でした。正しくはまだ魔法少女になったばかりの可愛い後輩が傷つくのはとても見ていられない。心配で戦う事もできないと泣きつかれたので、仕方なく私が手を貸したというわけよ」

ドSな笑みを見せるほむら。彼女は基本的にまどか以外の人にはドSである。まどかに対しては超ドMだけど。

 

「やめてやめて!これ以上私を辱めるのはやめて!」

顔を手で覆い隠しながら首を左右に振るマミ。

 

「ちょっと暁美!あんまりマミさんを虐めるとただじゃおかないわよ!」

 

「あら、それもこれも全て先輩に心配させる弱いあなたが悪いのでしょう?悔しかったら私を倒せるくらい強くなりなさい」

「ぬぐぐ……、暁美だって時間停止能力を発動した時まどかのパンツ覗いてたくせに!」

 

「な!?ななな何を言ってるの!?変な言いがかりはやめなさい! 」

 

あっ、本当にやってたんだ。まあ、時間停止してたら誰も気づかないだろうな。

 

「なーにが、ソウルジェムの浄化の為よ!ただ、まどかのパンツ見たいだけだろ!」

 

でも、ほむらがまどか成分でソウルジェムを浄化できる事を僕は知っている。初めてみた時は信じられなかったけどね。あれはマジなんだよ。

 

「殺す!」

おもむろにほむらは特性爆弾を取り出す。

 

「わっ!ほむらが切れた!逃げろ!」

さやかとほむらの追いかけっこが始まる。

 

「今日も平和ですねマミさん」

まどかが遠い目をして言う。

 

「そうね」

少し困ったように眉を下ろしながらも微笑むマミ。

 

 

 

散々追いかけっこの末敗れ無惨に転がるさやかの姿がそこにはあった。

 

「やっぱ、かなわね〜」

あちこちプスプスと煙をだしている。

 

「ふふ、まだ暁美さんには適わないようね」

 

「まだ、ですけどね。そのうち追い抜いてみせます。私はマミさんのおかげでこうして最高の友達に囲まれて笑っていられるんですからね。どんな強い魔女にも負ける気がしませんて」

「もう、調子のいいこと言って」

「本当の事ですよ。だから、マミさんも頑張ってくださいね!速くあなたの想いをあの鈍感な宇宙人に伝えてあげてください!」

 

「あううう!何を言ってるの!?」

異常に顔を真っ赤にするマミ。どうしたのだろうかマミは。それにしても僕達インキュベーター以外にも宇宙人がいたとは初耳だな。

 

「どう見ても相思相愛ですって!」

 

「だから!何の事を言っているのかまったくわけがわからないよ!」

 

「愛する人の口癖が移ってますよ?それはあれですか?愛する人の事は全部受け入れちゃう的な?」

 

「ちょっと!美樹さん!本当に怒るわよ!」

 

「でも、あいつはないよね〜。ね?まどかアナウンサー」

「うえ!?」

まどかは顔を真っ赤にして、目を泳がせて取り乱しかと思うと、あわてて取り繕うように。

 

「そ、そうですね。なんと言いますか、生理的にといいますか、生物学的にきついとこがありますね。なんたって地球外生物ですからね」

まどかがどっかのアナウンサーの真似をする。

 

「ふむふむ。やっぱりそこは愛に障害はつき物と言うわけですかね?」

 

「まさしくその通りですね。一つ付け加えるなら。愛は障害があればあるほど燃え上がる、でしょうな」

 

だからお前たちはだれだよ。しかも全く話しについていけない。

 

わけがわからないよ!

「あなた達……。少々きつめのお仕置きがご所望のようね♪」

 

「「マミさんマジ切れ!?」」

全力疾走のまどかさやかチーム。

 

しかしマジ切れのマミ。しかも魔法少女に変身したままだし。こんなワルプルギスの夜級のラスボスから逃げきる事なんてできるんだろうか……。

 

 

 

しかし、まどかが誰かにぶつかって倒れる。誰か?

 

影で顔がよく見えない。身長はまどかと同じくらいの小柄な少女。

 

全身赤い服に身を包んで、右手に槍を持つ魔法少女だった。

 

彼女は槍を振り上げて

 

僕は悪寒が走る。

まさか……

「まどか!そいつから離れろ!」

とっさに僕は叫ぶが。

 

魔法少女は、いや、佐倉杏子は槍を振り下ろす。

 

土煙が舞う中、しかし、佐倉杏子の槍はまどかを殺す事はなかった。

ほむらが時間停止能力でまどかをタッチの差でなんとか安全な場所に移動していたのだ。心なし満足げなほむら。それはおそらくまどかをお姫様抱っこしているからだろう。あれは当分帰ってこないだろうな。

 

「あんた……何を……。今、本気でまどかを……」

さやかは驚愕している。

 

確かに今まどかを殺そうとした。何の躊躇もなく何の迷いもなく、ただ冷たい殺気を放ち、殺そうとした。

「あんた!まどかに何をするつもりだったんだあああ!」

さやかは変身して、剣を佐倉杏子に突き立てようとする。

 

しかし

 

「じゃまだ。どきな」

 

さやかは一瞬で串刺しにされる。佐倉杏子の槍はさやかの心臓を貫く。そしてそのまま、壁に縫い付けられる。手足を槍で貫かれて。身動きが取れない、虫の標本のように。

 

「ああああああ!!!?」

何をされたのか全く理解できていないさやか。しかし、手足と心臓の痛みは容赦なく彼女を襲う。心臓と一緒に左肺もやられたみたいで、ゴボッと口から大量の血を吐き出す。

 

「いやあああ!美樹さん!!」

マミも取り乱して、何がなんだかわかっていない。状況を理解していない。

 

「よぉ、巴マミ。久しぶりだな。本当はあんたのいない時に確実にあんたの大切な人間全部殺してやろうと思ってたんだけどね……。我慢できなかった。耐えられなかった。あんたの幸せそうにしている光景がね。だから気が変わった。

あんたの目の前で、あんたの大切な人を殺してやる」

 

「佐倉さん!?どうして!?なんであなたがこんな!?」

 

「なんだよ……しらばくれるつもりかよ。まあ、いい。覚悟しな

 

この人殺し」

 

 

 

今、佐倉杏子は何と言った?

マミに何と言った?

 

人殺し?

 

そう言ったのか?

つかつか、と音を立てながらマミに近づく佐倉杏子。

普段の僕だったら、ここでは何もしない。

そもそも、何の力のない僕が、敵の前に出ても、状況を悪化させるだけだし、マミの足手まといになってしまうことはわかり切っているいるからだ。

伊達に長年、マミとの戦っている姿を見ているわけではない。

僕はみたいな力ないのない、脆弱な存在がそれでも、強き者の後ろ姿を見守るのは簡単な事じゃあない。

戦えない者にとって、それでも、戦う者の背中を見守るといのは、本当に必死な事なんだ。

だから、こんな自殺行為なマネは普段だったらしない。

 

でも、ダメだ。

 

おさえ切れない。

 

今の言葉だけは押さえきれない。

 

巴マミが人殺しだと?

 

「バカにするなぁあああああああ!」

 

僕は佐倉杏子の目の前に立っていた。

 

「なんだよお前?お前こそ、それは何の真似だ?ぶっ殺すぞ?」

「ぶっ殺す前に、さっきの言葉の意味を教えてもらえないかな?」

 

佐倉杏子は突然笑顔になったかと思うとそのまま。

 

槍で僕の腹部を貫いた。

 

「!?」

 

どうやら、彼女は冥土の土産も僕には持たせてくれることはなかった。一瞬の事で。痛みより驚きが先に僕の中で駆け巡る。

 

「てめぇ、ふざけてんのか!」

 

佐倉杏子は槍で、何度も、僕を突き刺す。

 

「ぐぁぁああああああああああ!」

痛みが、追いつく。全身を駆け巡る。

 

「てめぇが仕組んだ事だろうが!てめぇが言ったんだろうが!あたしの、家族を殺して、潰して、壊したのは、巴マミだってよぉ!そう言っただろうが!ふざけんな!この野郎!この!この!小動物の分際で!殺してやる!殺してやる!殺してやる!」

 

佐倉杏子は、一体何に怒っているのだろうか?

本当に、彼女は、巴マミに怒りを感じているのだろうか?

彼女は本当に、僕に対して、怒りをぶつけているのだろうか?

 

まるで、君は

「そんなに、自分が許せないかい?」

 

佐倉杏子の動きが止まる。

 

「まるで、君は、自分自身を殺しまわっているように見えるよ?自分を殺したくてしょうがないって、顔だ」

 

彼女は突然がたがたと体を震わせる。

「うるせぇな、うるさい、うるさい、うるさいうるさいんだよ、お前」

そして、彼女の瞳には涙が浮かべられていた。

 

それは、一人ぼっちのあの日のマミのようだった。

 

その瞳から一切の光彩は消えうせ、殺気となる。

冷たい殺気に変わる。

 

「もう、お前、死ねよ」

 

僕の額に正確に向けられる槍は、しかし僕を貫くことはなかった。

 

「佐倉さん!やめて!あなた!」

 

マミが間一髪で、その渾身の一撃をマスケット銃で受け止めてくれたからだ。

 

「……あー、そうだ、あんただ。あんたが全て悪いんだからよ」

 

佐倉杏子はその焦点の合わない虚ろな瞳で、マミを見る。

その瞳は決して恨んで、憎んでいるものの目ではなかった。

まるで、亡霊のような目だった。がんじがらめに縛られた地縛霊のようだった。

 

やめてくれよ、マミ。

そんな顔しないでくれ。

マミは悪くない。

悪くないんだ。

 

だって、君はこんなにも、正しいじゃないか。

 

悔しいな。

 

ちくしょう。

 

結局僕は何にも変わっていないじゃあないか。

 

誰も救えないし、誰も守れない。

 

力がないと、何にも、守れない。

だれも救えないじゃあないか。

ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。

 

このまま、全部終わりになっちゃうのか?

このまま全部、台無しにされて、壊されて、結局終わるのか?

 

それとも、やっぱり、僕では無理だったのか?

過ぎたことをしていたという事なのか?

 

僕が間違っているのならそれでいい。

僕が全部悪いというのならそれでいい。

悪いのは僕でいい。

その償いも、責任も喜んでとらせてもらおうじゃあないか。

 

だからさ。

 

このまま、この少女達が、不幸のままで終わるなんて、最後だけはやめてくれ。

このまま、絶望に埋もれて終わるなんて。

最後に泣いて終わりなんて、そんなの納得できるわけないだろうが。

 

だから、頼むよ。

僕はどうなってもいい。

彼女達を救ってくれるヒーローがいるなら、どうか、お願いだ。

 

彼女達をこの絶望の淵から救い上げてくれ。

 

 

 

 

「それは、違うよ」

 

 

 

 

一筋の光が差し込んだように思った。

真っ暗闇の底の中、一筋、の光が差し込めた気がした。

 

白いマントがひらりと、風に舞い、僕の目の前に現れる。

純白の救世主がそこには立っていた。

 

彼女の身体には、傷一つない。

血の一滴もついていなければ、さっき佐倉杏子に串刺しにされた所は、服に穴さらあいていない。

 

さやかの固有魔法、超速再生。

通常の魔力消費よりも、格段に軽く。通常の回復速度とは比にならない。

それは、自分にだけではとどまらず、救済すると誓った、守るべきものにも、区別なく振る舞われる、治癒の力。

 

その、青く優しい、暖かな力が僕の怪我を癒してくれる。

 

「あんたは、ちゃんと、私達を救ってくれてるじゃない」

 

そう、さやかが言ってくれる。

 

 

「だから、ヒーローのあんたが、こんな所で、そんな顔していないでよ」

 

「……何言っているんだい?僕がヒーロー?残念だけど、僕にはとても無理だよ。そんなの荷が勝ちすぎるよ。僕は少女一人救えない、そこら辺の奴だよ」

 

「マミさんがね、言ってたんだ。キュウべぇが私達を何とかしてくれるって。あの人が、舞台を整えてくれるんだって」

 

さやかは、その眩しすぎる、強く優しく正しく、しっかりとした、笑顔を僕に向ける。

 

「だからさぁ、一度や、二度のハプニングにそんなチマチマ取り乱さないでよ。こんな小さな問題で、こんな些細なハプニングで、全部壊れてしまうような、矮小な舞台で、私達の運命を本当に何とかするつもりなの?」

 

ああ、そうだ、僕は嘘でも、ヒーローでいなきゃいけない。

彼女達を騙さなくてはいけない。

きっと、僕にできることがあるとしたら、やっぱりそれぐらいなのだろう。

それなら、僕は僕のできることをやろう。

 

「されじゃあ、この小さな問題、些細なハプニングの解決を頼んでいいかな、さやか?それとも、君じゃあ荷が重いかな?」

傲岸不遜に笑って言う。

 

「何言ってんだい!この最強無敵、完全無欠である美樹さやか様だぜ?こんなのパパッと解決してやるぜ」

 

「そっか、それじゃあ頼んだよ」

 

「任せときな!」

 

白いマントを靡かせ、死地に乗り込もうとする、彼女のその小さいはずの背中が、僕には、とても大きく、しっかりとした、ヒーローの背中に見えた。

 

僕では偽る事でしかできないけれど、しかしそこには本物のヒーローがいたのだ。

 

 

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