第二十七話 決戦前の決断 (巴マミ語り部)
今見滝原市にはスーパーセルが上陸することになっている。
そういう事になったいる。
でも真実は違う。
幻想のような現実は違う。
ワルプルギスの夜が今上陸せんとしているのだ。
吹き荒れる風の中。
いつ嵐が吹き荒れておかしくない真っ黒な雲が立ち込める中私たちは街の中心にいる。
人っ子一人いないこの町に私たちは立っている。
この街住民は皆自然災害と信じて疑わない。だから、普通にこの街大きな学校である見滝原中学校に避難している。
この街でおそらく死闘が始まる事を考えれば、不幸中の幸いと言えた。
私の他に、共に戦ってくれる仲間であり、後輩であり、最高の友達である鹿目さん、美樹さん、暁美さん、佐倉さんも隣に心強くたってくれている。
しかし、私の心は乱れていた。落ち着かないどころじゃあなかった。
わからないことがいっぱいあって、知りたいことがいっぱいあって、でも、知るのが怖いことがいっぱいあった。
その不安でしょうがない事を勇気を振り絞って私は鹿目さんに聞いてみる。
「あ、あの。か、鹿目さん?」
「はい?なんですか?そんなに改まって?」
彼女はいつも通りだ。昨日あんな事があったはずなのに、それとももうそれはあなた達の間では普通のことで、当たり前の事なのかしら?
「き、昨日の事なんだけど。そ、その、何にもなかった?へんな意味じゃあないのよ。ただ……」
「それがですね、マミさん。私、昨日から少しへんで、よく覚えていないんですよ」
「覚えてない?」
「そうなんです。昨日お風呂入るまでは確かに覚えているんですけどそれから……」
「そ、そうなんだ。それは、とても不思議ね?」
「まどかもか?実はあたしもなんだよ!」
佐倉さんも頷く。やはりか。
「どうも、昨日から記憶の調子がおかしくてな。あたしも、風呂に入るとこまでは覚えているんだが……」
彼女たちが嘘をついているとは思えない。とするとやはり……
「さやか、とてもいい顔ね?何か昨日はいいことでもあったのかしら?」
「ほむらこそ!顔ツッヤツヤだぜ!何か長年の夢でも叶ったのかい?」
肩を組む二人が原因としか思えない。
「ほむら、私はやっとお前を理解したよ。あんたの苦しみももどかしさも、そして愛も」
「さやか。あなたは私の最高の同士よ。この戦いが終われば語り合いましょう」
「うん」
「「愛とは何かについて!」」
「お互いの愛のためにがんばって助け合っていこうほむら」
「ええ、私たちのかわいい天使ちゃんの為にも」
うわあ、ここに変態百合同盟が結成されちゃったわ。
これはとても心配ね。主に鹿目さんと佐倉さんの貞操が。
「その、佐倉さんと鹿目さんも同盟を組んだほうがよくないかしら?」
被害者同盟とか
「? 何がですか?」
「なに言ってんだマミは?あたし達は同盟じゃあなくて仲間だろ?」
屈託の無い、純粋な笑顔を見せる何も知らない子羊が二人。
「……ええ、そうよね」
違うのよ。確かに私たちは仲間だけど、その中にいるのよ。あなた達の身体を蹂躙する事を夢見る渇いた獣が。とても渇いた獣が!
「……ふぅ」
でも、私が一番知りたいのは
一番知りたくないのは
「マミさん……」
鹿目さんが私を心配そうに見ている。
「ごめんなさい。私ったら集中しないと!もう、すぐそこにワルプルギスの夜は来ているんだから」
私は自分の頬を叩く。
「私に任せてください」
不意に暁美さんがそんなことを言った。
「確かな確証があるわけではないですが、あいつならきっと知っています。なんたって、あいつは
なんでも知っているからです。
あらかじめ、呼んでおいてよかったわ」
暁美さんはパチンっと指を鳴らす
「「はっ!お呼びでしょうか!ご主人様!」」
突如二つの影が舞い降りる。
それは真っ白な少女と
真っ黒な少女だった。
あまりの突然な登場に唖然とするみんな。暁美さんを除いて。
「お仕置きですか?ご主人様?」
白い少女は開口一番にそう言った。
「暁美さん!ダメよ!とてもじゃないけどついていけないわ!この欲しがりさん達は一体誰なの!?」
「私も一緒かよ……まぁ織モガッ」
黒い少女が何か言おうとしたらその口を暁美さんは強く抑える。
「こら!黒犬!あなた4月9日にこの物語ごと削除されていいの!?名前ならちゃんとあげたでしょうが!」
「……まぁ白犬と一緒なら悪くないかな……」
さっきの台詞を言いなおす黒犬(?)さん
「よし!」
まるで自分のペットをしつけているような暁美さん。一体どういう関係なのかしら?友達や仲間ならもっと早く紹介してくれても……
「もぉ、まったく、キもがッ」
「あなたは明らかにわざとね白犬?何?お仕置きされたいの?また全裸で首輪の刑にされたいの?」
「はぁはぁはぁ、ご命令とあらば」わくわく
あの白犬(?)さんは特に要注意ね。あれは変態さんだわ。
「それで、ほむらちゃん?誰なの?この人たちは?」
「ループするたびに私の天使ちゃんに危害を加えようとする困ったちゃんでね、それ以来ループしたらまずこの子達を手なずける事にしているの。Mを開花させるのが手っ取り早いわよ」
「え……っと?つまり?」
「つまり私の犬以外のなんでもないわ。それ以上でも以下でもない。まぁエロ奴隷ともいうわね」
「なんなりとお仕置きを!」
「私は織……白犬のエロ奴隷だけどね」
「えーー…」
ドン引きの鹿目さん。気持ちは分かるわ。私もドン引きだもん。
「まぁ、自己紹介はこれくらいにして白犬?キュウべぇは今どこにいるの?」
「どこにでもいますわ。あちらこちらに。どこにでもいるし、どこにもいない」
「相変わらずあなたの言っていることはよく分からないわね。今日のまどかの下着の色は?」
「白です」
「正解!」
なぜ暁美さんが知っているの!?あ、今日はお泊りからきたものね。それなら下着の色を知っていても不思議は無いわね。そうよね?それだけよね?深い意味は無いのよね?
「あ……当たってる。本当になんでも知っているんだね!」
鹿目さん、それじゃあ暁美さんも同じことよ?
「これで、彼女の力は証明されたわね。しかし、確かにキュウべぇというだけでは数が多すぎて判断できないか、それなら……巴マミが愛している男は今どこにいるの?」
暁美さんはドSな笑みを見せる。
な!?私は顔から火が出るほど熱くなるのを感じる。
でも、ここで騒ぐわけにはいかない!
だって、愛していることも
何より、彼が無事なのかどうか、私は何より知りたいのも本当だもの!
私はぐっと溢れ出す感情を抑え、彼女の答えを待つ。
「端的に言いますと。彼はまだ生きています。そして、彼の魂は今、地下にいます。インキュベーターの肉体増生所である地下に拘束されています。彼の仲間に、いえ、仲間ではないですね。どころか、同種ともいいがたいですが」
私は泣き出しそうになる。必死に涙を流さないように口を手で押さえる。
まだ、戦いが終わったわけじゃない。気を抜いていい状況でないのはわかってる。
でも
それでも、こんなに嬉しいことなんてない。
浮かれて、喜んで、はしゃいがずにはいられない。
生きていてくれた。あの人が生きていてくれた。それだけで私にはこんなにも希望がある。
まだ、終わってなんかいない。
「それで、あなたはどうするんですか?この戦いをほったらかしにして、あとは仲間に丸投げして、自分勝手にあなたは助けにいくんですか?」
そんなわけない。あの人が生きていてくれるなら、ちゃんと帰ってこれるように私は戦う。仲間も後輩も友達も愛する人もみんな助けるために。
「そ……」
「そのとおりよ」
!?
暁美さんが私が答えるより先に答えた。
「暁美さん!?何を言っているの!?私も戦うわ!」
「何を言っているのはあなたの方よ、マミさん。
ねぇ?みんな?」
暁美さんはみんなに話を振る。
私は振り向いてみんな顔見る。
見てしまった。
みんながどんな顔をしているか。
「うん!確かにおかしいよね!マミさんがおかしい!」
鹿目さんは笑顔で本当におかしいものを見るように笑っていた。純粋にあどけなく。
「うん!愛はなにより大切だってことを教えてくれたのはマミさんだしね!マミさんがおかしい!」
美樹さんは力強く。少年のように元気よく微笑みかける。白い歯を見せて、私をからかって面白がるみたいに笑っている。
「まぁ、戦いに集中できない奴が隣にいても邪魔なでけだしな。言って来いよ!マミ!」
佐倉さんは顔を赤くして視線をずらしながら、ばつの悪そうな顔をしてから、ニカッと八重歯をむき出しにして笑う。
みんな笑っていたのだ。
歳相応に。純粋に。無邪気に。心強く。心優しく。力強く。元気に。あどけなく。楽しそうに。嬉しそうに。幸せそうに。
その笑顔には、みんなの思いが詰まっていたのだ。
「みんな……」
今度こそ私は泣き出してしまう。みんなの優しさに触れて。弱い私を支えてくれようとしてくれた事が嬉しくて泣いてしまう。
大泣きしてしまう。
声を上げてみっともなく。
まるで小さな子供みたいに。
本当にどっちが先輩なのかわからない。
暁美さんがとても優しく微笑む。
「マミさん。ここは大丈夫です。ここは私たちに任せて下さい。だって。
だって私たちはあなたの最高の仲間なんですよ。
私たちはあなたの後輩なんですよ
私たちはあなたの友達なんですよ。
だから信じてください。私たちを信じてください。あなたの帰る場所を、あなた達の帰る居場所は私たちが必ず守ります。
守って見せます。
だからあいつを助けてやってください。あの誰一人信じることのできない小心者を
自分自身すらも信じる事のできないどしようもない奴ですけど
それでも、あなただけは信じてあげてください。
それはきっとマミさんにしかできないことなんです。
だから」
暁美さんは声を合わせるように
心を一つにするようにみんなの目を見る
「「「「ここは任せて先に行け!!!!」」」」
「……はい……」
みんなずるいよ……。
格好よすぎる。
こんなの頷くしかないじゃない。
はいって言う事しかできないじゃない。
でも、それでも、この胸にあるたくさんの思いを笑顔にのせて、私はこのたった一言に全ての感情をこめて
「ぁりがとうぅ」
そう言った。
いささか涙声で聞き取りにくかったかもしれない。
鼻声で呂律が回っていなかったのかもしれない。
それでも、私は全ての思いをこめた。
きっとみんなにも伝わったと思う。