ほむらちゃん、杏子ちゃん、さやかちゃんの渾身の一撃はワルプルギスの夜を貫いた。
確かに貫いた。
そのはずなのに。
なんで?
なんでなんでなんでなんで!
なんで!あいつは!
ワルプルギスの夜はそこにいるの?
確かにその巨体の腹部を貫き風穴を開けたのに。
しかし、台座のような巨大な歯車が逆回転を始め。
もとの姿に戻っていく。
それは、まるでさっきの戦いをなかったことにされたみたいで。
ほむらちゃん達のがんばりをなかった事にされたみたいで。
悔しかった。
「キャハハハッハアッハハハアハハハッ!」
その狂った笑い声は止むこともなく。
まるで、それはほむらちゃん達を嘲笑っているみたいで、とても悔しかった。
笑うな笑うな笑うな笑うな!
私はそう何度も叫んだ。
私の最高の友達をバカにするな!
正真正銘魔力を使い果たしたほむらちゃん、杏子ちゃん、さやかちゃんはパタリと崩れ落ちるように倒れていく。
彼女達にはもう、さっきのような羽はない。
すでに、命からがら、かろうじて魔法少女の姿を保っているだけのように見えた。
私はみんなの所に駆け寄る。
泣きながら。助けをこうように。すがりつくように。
「ま……まど、か?」
「ほむらちゃん!」
ほむらちゃんは空ろな目で、焦点の合わせる事のできていない瞳で私を見る。
「お、終わった……のね?」
え?
「これで、みん、な、かえ、れ」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ほむらちゃんにはもう何も見えていなかった。
あの一撃をはなった時点で本当に
本当に、もう
限界だった。
言えない。もう、いくらなんでも、言えないよ。
がんばってなんて言えない。
戦ってなんていえない。
言えるわけないよ!
みんな、もうこれ以上ないってくらいがんばってくれた!
必死に戦ってくれたんだ!
「う、うん。ぁ、ありがとう。これで、みんなで……かぇれる……ね」
こんな時に笑ってあげられないのは私の最高に弱いところだと思う。
気の利いたこと一つ言えない。
私はボロボロに泣きながら。
泣きじゃくりながら
お礼を言うことしかできなかった。
でも、それも見えていないのなら変わらないのかもしれない。
「か、った、のね。わた、した、ち」
さやかちゃんは薄く微笑んで勝ち誇ったように言う。
「へ、へ、み、んな、のしょ、うりって、やつかい?」
杏子ちゃんも、八重歯を見せて大きく笑っている。
みんな、もうとっくに限界なんて超えていた。
もう、何が起こっているのかもわかっていない。
ああ。なんで、こうなってしまったの?
何がいけなかったの?
私達に救われる道はないって言うの?
ねぇ、神様?
あなたの望んだ世界はこんなものなの?
いや、認めない。
そんなこと、認めない。
「ねぇ……ほむらちゃん?帰ったらなにしようか?」
「え、へへ。私ね、もう、長いこと、みんなと、あそん、でないの。だから、みん、なで、おも、いっきり、遊び、たい、な」
私達は本当はそんなこと、当たり前な生活にいたはずなんだ。
そんなこと、望む事すらない当たり前な生活を送っていたはずなんだ。
魔女なんて関係ない。魔法少女の運命なんて知らない。街の平和なんて気にすることない。
そんな普通の生活。
普通に遊んで。普通におしゃべりして。
普通に笑って。
普通に泣いて。
時々喧嘩しちゃうこともあるだろうけど。
それでも、最後は仲直りして。
そこに何も劇的なことはない。
至極普通の日常だけど。
それでも、
それこそが。
私達の幸せだったんだ。
なんで、こうなちゃったんだろう?
いつからこんなことになってしまったのだろう?
「そっか、そうだね。みんなで遊ぼう。思いっきり遊ぼう」
「へ、へ、あた、しは、腹、いっぱい、さやかの、家の、晩御飯、くいてぇ、な」
杏子ちゃんも。
「ほ、んと、にあん、たは食い、いじ、はってんな、そう、だね、わた、しは、今度は、みん、なでパジャマ、パ、—ティ、したい、な」
さやかちゃんも答えてくれる。
「うん!こんな、つらい戦いだったんだもんね!みんなで……遊ぼう!こんな苦しかったんだもん。そんなこと忘れちゃうくらい遊んで、しゃべって、笑い飛ばそう!」
そこに、私はいないけど。
そんな事は言えないよね。
でも、これで決心はついたよ。
そこに、私はいないけど、それでも、この子達が笑って生きていけるなら、
それもいいかなって、
それでもいいかなって思っちゃった。
ごめんね。
みんなのこの苦しい戦いはなかった事になっちゃうけど、
みんなの私への思いも感情も心もなかった事になっちゃうけど。
それでも大丈夫。
安心して。
みんな、私のこと忘れちゃうから。だから、大丈夫だよ?
こんな辛いことみんな忘れられるから。
私なんて初めからいなかったんだから。
いなかった事になるんだから。
だから、みんな寂しくないよ。
私なんかいなくなっても寂しくないよ。
そして安心してあなた達は誰も守れなかったわけじゃあない。
だから。
みんな笑って。
みんな楽しんで。
みんな幸せに生きて。
私はみんなが笑ってくれていれば。
みんなが幸せでいてくれたなら。
それでいい。
そう、胸を張って言えるよ。
「ねぇ、インキュベーター。私魔法少女になるよ」
「その言葉を待っていたよ」
ねぇ、みんな最後にこれだけは言わせて。
こんな辛い思い出なかったことにしちゃえるくらい、精一杯楽しんで、笑って泣いて幸せに、生きてね。
それが、私の希望で望みで願いだから。
あなた達は私の最高の友達だよ。
みんな大好き。
それじゃあバイバイ。
「私の願いは……」
!!
「ぁあぐう!」
突然私の額に痛みが走る。
額にある魔方陣が熱くなる。
これは?お守り?
———あなた達の思い描いた世界になるようにするおまじないです。
確か、白犬さんはそんな事を言っていた。
あなた達?
それは一体だれ?
それは一体だれに向けられた言葉なの?
そして、私は思い出す。
思い出すことになる。この膨大な、神様としての記憶を。
あの人との出会いを。