魔法少女と孵卵器(インキュベーター)~規制版~   作:ダル神

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第三十二話 最後の戦い 中の下 

「全てのインキュベーターに強い感情を与えて!私達のような飛び切り強い感情を!」

 

この祈りが叶えることができれば全ての魔女を、魔法少女を救えるはずである。

他でもない僕達の手で。

 

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

そのはずだった。

 

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

しかし、誤算があったとすればただ一つ。

 

殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ殺してくれ

 

それは、効果が絶大すぎることだった。

 

死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!死にたいんだ!

 

この世界に肉体を保有し、現在活動している僕達の数はおよそ70億。

その全てが見滝原市見滝原町に集結しつつある。

僕達で溢れかえる。

狂気で溢れかえる。

自分達の罪の重さに耐えかねて、自分の作り出してしまった最大の罪の結晶のもとへと集まる。

彼らは殺してほしいのだ。

魔女に魔法少女に。

最凶の魔女に。

最強の魔法少女に。

そのうめき声は、一つ一つは小さくとも、これだけの数だ。ワルプルギスの夜の笑い声なんて比較にならない。

うめき声だけで使い魔を圧倒する。

その声は振動し辺りの窓ガラスを破壊していく。

 

痛々しい、狂った呻き声。それは呪われているようで、まるで怨嗟のようであった。

何かを怨んでいるように、呪っているように。

いや、怨んでいるし呪っているのだろう。

自分自身を呪って、怨んでいるのだろう。

許されるはずのない僕達。

そんな僕達に向けられた怨嗟の声。

なんで、こんなことをしてしまったんだという後悔の塊。

許しをこうことすら許されない。

そんななんの救いもない現実に僕達の貧弱な精神が耐えられるわけがなかった。

 

僕達は上位通信、いわゆるテレパシーで繋がっている。

僕達の声は

僕達の狂った呻き声はすべて僕に伝わり、反響し、連鎖する。

僕まで狂ってしまいそうだ。

正気を保っていられない。

 

想像を絶する事態。

ここまでとは予想できなかった。

スケールが違った。

 

ぎゃははっははっはははははは!

 

自分の罪とこの狂気に耐え切れず精神破壊を起こす僕達。

 

ははははっはははははあっははは!

 

それは、病となり、伝染していく

 

あははははっはははあっはあっは!

 

その数は全体の1割を超える。

 

ワルプルギスの夜の使い魔が僕達の一部を襲う。

 

ありがとう!僕達を裁いてくれるんだね!さあ、思う存分やってくれ!好きなだけやってくれ!僕達はそれだけの事をした。

さあ、さあ、さあ、さあ、さあ、さあ、さあ、さあ、さあ、さあ!

 

自ら使い魔へ飛び込む僕達、1億を超える。

 

僕達は取り返しのつかない事をした!死ぬべきだ!僕達は死ぬべきだ!

 

互いに僕達を食い殺す、絞め殺す、共に殺しあう。できあがる死者の数、3割。

 

膨大な僕達はワルプルギスの夜に救いを求めるように群がる。

 

70億の狂気は僕の精神を蝕んでいく。

 

そうだ!これが僕達のしてきたことだ!今まで数え切れない少女を不幸にしてきた!多くの少女を泣かせて、絶望に追い込んだ!

僕達のせいで、僕達の作り出したシステムのせいで、マミは毎晩泣く羽目になった。命の危険な毎日に精神をすり減らし、年相応の幸せを感じる暇もなかった!

 

僕達のせいで、さやかは普通の恋すらできなかった。

 

僕達のせいで、ほむらは幾千幾万の時間の迷路に迷い込み、

 

僕達のせいで、杏子は家族を最悪の形で失った。

 

僕達のせいで、まどかは多くの辛い現実を知った。友達が辛い目にあっていても何もできない、そんな重荷を背負わせた。

 

その報いだ!ざまあみろ!

 

ほら、そんなものか?もっと狂え!殺し合え!僕達のやってきたことはこんなものじゃあないだろう!

 

さあ、みんな見てくれ!滑稽な僕達を見てくれ!

 

蔑んでくれ!嘲笑ってくれ!

 

これが僕達の終わり方だ!

どうだ!僕達にお似合いの滑稽な終わり方だろう?

これ以上もない最高の終わり方だろう?

 

だからみんな笑ってくれ!

 

「笑えるわけない!」

 

そんな声が響いた。

 

その声は優しく強くそして、希望に満ち溢れていた。

 

「お願いだから、しっかりして!私達を笑顔で帰してくれんでしょう?誰一人失うことなく、みんなで笑ってかえしてくれるんでしょう?そんなものじゃあ私達は笑顔になんてなれないよ。誰一人幸せになんてなれないよ」

 

「魔法少女のシステムを、根こそぎぶっ壊してくれるんでしょう?私達を苦しめるもの全部なんとかしてくれるんでしょう?だったら」

 

「そんな所で、終わらないで」

 

まどかの声が聞こえる。しかし、

 

なんて事をしてしまったんだ。死ぬべきだ。殺してくれ。なんで僕はまだのうのうと生きていられるんだ。早く死なないと。死なないと。死にたいんだ。

 

僕の中の怨嗟の声は鳴り止むことはなかった。まどかの希望に満ち溢れた声ですらかき消すほどの絶望の怨嗟。

まどかの声は聞こえるが、頭に入ってこない。

それどころではない。

もう、ダメだ。

もう、正気を保っていられない。

 

「マミさん!?」

「大丈夫よ鹿目さん。ここは私に任せて。妙案があるの♪」

 

あれあれ?なんか嫌な予感がするぞ?

 

「あ、よいしょっ!っと!」

 

「んぎゃぁあああああ!」

 

何が起こっている!?僕の局部に激しい痛みが!?もどかしいようなそれでいて切ないこの痛みはなんだ!?僕の第二の命が、息子たちが鷲摑みされているような感覚!?

 

「更に激しく引っ張っちゃったり♪」

 

「ひぇええええええ!」

千切れる!千切れちゃうよ!僕の大切な何か!いや!生物学的に僕を男としてくれている唯一無二の存在が!

 

「∞を描くように、秘儀、インフィニティサイクロン!」

 

「やめてやめて!もう正気に戻ったから!ほんとにとれちゃうよ!」

ていうかマミ絶対面白がってるよね!?

「あら♪大きくなるじゃない♪」

 

「ちょっと待て!なぜ、僕の平均サイズを知っている!?」

 

「そ、それは……その」

 

「う、嘘だよね?やめてよ、へんな冗談!?マミさん?ねぇ!!うんっていってよぉ!!!?」

 

「とっても、可愛かったわよ♪」

 

「殺してくれぇー!!!

 

マジで死にたい!本気で!

僕達の絶望より、今の僕のほうが絶対に絶望しているね!断言できるよ!今なら魔女になれる気がする!」

 

「ねぇ、キュウべぇ?もう大丈夫?」

マミはそっと優しく僕を抱きしめる。

優しいマミの匂い、温度、声その全てが僕を包みこむ。

 

怨嗟の声がぴたりとやむ。

 

いや、怨嗟の声は今も僕の頭の中で鳴り響いている。そのはずである。しかし、僕は全く気にならない。気にならなくなってしまった。

それは、君がいたから。

「でも、もうちょっとマシなやり方があったんじゃあないかなぁ?ショック療法もいいとこだよ」

 

「ふふ、私のこと忘れて、私を残して終わろうとした罰です。バチともいうわね」

 

まったく、君のそんな笑顔見せられちゃあ、絶望なんてできるわけないじゃあないか。本当に君は僕の希望だ。

 

「キュウべぇ?私はいやよ?絶対にいやよ。あなたがいないなんて。考えたくもない。だって、私達はまだなんにもやっていないじゃない。まだ、恋人らしいこと何一つやっていないじゃない。だから、この戦いが終わったら、絶対誰一人失わず帰るのなら、あなたも絶対帰ってきて。絶対私達の所に帰ってきて。認めないわよ。あなたのいない世界なんて」

 

「絶対認めてやらないんだからぁ」

マミは僕を強く抱きしめながらそう言った。

最後は涙声のなってしまったけれど、とても、強い。

マミは本当に強い。

僕はそう思った。

 

「本当にマミさんには適わないなぁ」

 

まどかがそんな事をつぶやいたと思ったら、まどかの身体が光、魔法少女の姿に変わる。

 

「鹿目さん!?何を!?」

 

「ま、まどか!?一体何をするつもりだい!?まさか、戦うつもりかい!?そんな事をして、もし、万が一魔女になったらお終いだぞ!みんなお終いだぞ!何もかも!」

 

「大丈夫、戦ったりしないよ。私はただ、祈るだけ」

 

まどかの身体から光が溢れ出る。

優しいピンク色の光。

その光は白犬、黒犬、ほむら、杏子、さやか、マミ、、へと降り注ぐ。

 

「こ、これは、魔力が回復しているの?力がみなぎる。なんて優しい光」

マミのソウルジェムの穢れが浄化されていく。

 

さやかのソウルジェムも

杏子のソウルジェムも

ほむらのソウルジェムも

浄化され、輝きを取り戻す。

 

そうか、まどかの願いは与えること。

感情を心を与えること。

感情は、確かに絶望してしまうこともあるかもしれないけれど、それでも、やっぱり感情がなければ、希望を信じることも、生まれることもできないんだ。

だから、まどかはみんなに分け与えているんだ。

まどかの感情を、心を、

魔力を希望を。

 

みんなの目が覚める

「あれ、私達……?」

「どうしたんだっけ……?」

 

「まどか!そんな!どうして!あなた……魔法少女に……」

 

ほむらはまるで、世界の終わり見ているかのように

 

「そんな、今度も、ダメなの?私は、一体何度繰り返せばいいの?もう、無理なの?結局まどかを救うことはできないの?」

 

「無理なんかじゃあないよ。私達が救われない運命なんてあるわけない。そう、私は信じてる。そう、信じさせてくれた人がいるんだ」

「まだ、何にも終わってないよ。

まだ、何も始まってもいないよ。

私達の物語はもうじき、始まるんだよ」

 

「でも、魔法少女なんかになって、救われるわけない!」

 

「そんなわけないよ。

だって、魔法少女は希望を振りまくものであって、絶望を与えるわけではないでしょう?」

 

「同じことよ!だって最後は必ず絶望してしまうじゃない!どんな希望も、どんな願いも、どんな祈りも、

 

いつだって最後は絶望だった。

 

私はそんな世界をいくつも見てきた。

目に焼きつくほど!

見飽きてしまうほど!

それが、当たり前だと諦めてしまうほど!」

 

「そうだね。

でも、それは決して特別なことじゃあないんだよ?

誰しもみんな笑顔であり続けるなんて不可能だよ。

笑っている時もあれば、泣いてしまう時もある。

楽しい時もあれば、辛い時もある。

誰かを好きになるときもあれば、嫌いになったりもする。

嬉しい時もあれば、悲しいときもある。

希望を信じていても、絶望するときだってある」

 

「それは、みんな生きていたら必ずそうなる。そんなことは普通で、当たり前なことなんだよ」

 

「普通の人ならそれでいいかもしれない!でも、私達は違う!たった一度でも絶望してしまえばそこでお終いなんだ!たった、それだけで、終わってしまうんだ!」

 

「うん、だからこそ、彼がいる」

 

「え?」

 

「私ね、前の世界で、みんな笑顔でいることを望んだんだ。みんなずっと笑顔であり続ける。そんな無茶な祈りを叶えちゃったんだ。だから、いけなかったんだよね。だから、私は間違えちゃったんだよね?」

 

「まどか?」

 

「結局、私は一番笑顔にしたいはずのみんなを泣かせちゃったんだ。でも、気づいた時にはもう、何もかも遅くて、もう何もかも終わってたんだ。後悔に明け暮れる毎日。そんなある日、彼が私の前に現れたんだ。彼はなんていったと思う?何も知らない彼はこう言ったんだ。

 

魔女だとか魔法少女だとかそんなわけのわからないものは全部僕に任せろ

 

ってさ。

 

私達みんな、また笑ったり

 

泣いたりさせてくれるってさ。

 

そう、言ってくれたんだ。

 

私達を何度でも、笑わせてくれて、何度でも、泣かせてくれる

 

何度絶望しても大丈夫なようにしてくれるって、そう言ったんだ。

私は驚いた。私のような稚拙な願いではない。

現実を見据えて、それでも、ちゃんと私達の事を真剣に考えてくれた彼。

だから、私はそんな彼にすべて、かける事にしたんだ。

すべて、任せる事にしたんだ」

 

「話が長ぇぜまどか!ようはこいつを信じろってこったろ?」

杏子は僕を指差す。

 

「そういうことなら話は早いぜ!このさやかちゃん!マミさんの愛している男を信じられないほど落ちぶれちゃあいねぇ!」

さやかは元気よく笑う。

 

「み、美樹さん!で、でも、まぁ、私はそんなの、当たり前かな?」

マミも顔を真っ赤にして頷く。

 

「本当……なのね?私はこいつを信じていいの?」

ほむら涙を浮かべ、まどかにすがりつくように問う。

 

「私は信じてる」

 

ほむらは凛と立ち上がる。

みんなに背をむけ、ワルプルギスの夜を見据えて。

 

「あなたが信じるのなら、私が信じないわけにはいかない!」

 

ほむらの背中にさっきのような弱さもうすでにない

 

「やってみなさい!キュウべぇ!私のまどかにここまで言わせたんだから、何とかしてみせなさい!

やりきってみせなさい!

誰一人失うことなく!

みんな笑って帰れる、そんな最後を作って見せなさい!

 

私には決してできなかった事を……」

ほむらはその身体を震わせ、拳を握り締め、涙を流す。

それは、何かに耐えるように。屈辱に耐えているかのように。

いや、それは言葉にできないほど悔しいことなのだろう。彼女が幾千幾万の並行世界を旅し、幾重もの絶望を味わってもなしえなかったことを、その全てを他人に明け渡すことは、それは、とても悔しいことなのだろう。

それでも、その全ての感情を理解して

 

「必ず、やりきってみせる」

 

僕は応じる。

彼女の悔しさを理解して、

彼女のプライドを傷つけて

それでも、尚言ってやる。

 

「後は僕に任せろ」

 

 

 

 

 

 

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