「鹿目まどかさんはあなたを愛していたのです」
は?
「明確に気がついたのはきっと記憶を取り戻したとき、もしかしたら記憶のない頃からあなたに恋焦がれていたかもしれない」
何を、言っているんだ?
「ずっと、ずっと、ずっと、あなたの手を取った、あの気が遠くなるくらい昔からずっとあなたを思い続けていたのです」
何を言っている? 何を。
彼女は一体何を言っているんだ。
そんな馬鹿なことを。
そんな事あるわけがないじゃないか。
だって僕は結局何もしていないじゃあないか。
何もできていなかったじゃあないか。
無様に余計なことをしていただけで。
結局この途方もなく強い少女達が掴み取った日常だと、僕はそう思っている。
僕を好意的に思う要素なんて、そんなものあるわけないじゃないか。
「あなたのその自虐的で悲観的で自分自身に対しての過小評価が、自分自身に価値を見出せないあなただから、きっとそんなところがあなたに対して思いを抱き続けた一人の少女の思いに最後まで気づくことはなく」
「一人の少女を潰したのでしょうね」
そんな、馬鹿な、なんで。
「あなたが、手を差し伸べたからではないのですか?」
そんな、誰でもできることで?
「恋心とは幾千幾万通りのものがあり、いくらこの私でも全てを把握しているとは言い難いですが。
きっと、あのどうしようもなくなってしまった少女に手を差し伸べる事は簡単ではないと思いますよ」
「それにできるできないはさほど問題ではないのです。あの日、あの場所で、彼女に手を差し伸べたのはあなたなのです。他の誰でもないあなたが。
あなただけが彼女に初めて手を差し伸べたのですから。
彼女にとってあなたが特別になるのは必然だと思いませんか?」
本当なのだろうか。
もし本当に。
これが、真実だというのなら。
僕は、最低だ。
そうか。
そうだったんだ。
僕が悪かったんだ。これ以上もなく。
僕が最初から、最後まで悪かったんだ。
「だから、きっとあなたと巴マミの関係は彼女にとって苦しみ以外の何でもなかったのです」
ああ、僕は一体どれほど酷い事を、彼女にしてしまったのだろうか。
「あなた達は彼女に見せ付けていたのです。その都度何時もと同じ笑顔を浮かべていた彼女。
きっとその思いはどんどん膨れ上がって、どんどん歪んで、形を変えて、性質を変えて、純粋さを失っていったことでしょう」
僕は一体どれだけ、彼女を苦しめていたのだろうか。
「もしかしたらあなたの事を憎んだかもしれない、今の関係を恨んだかもしれない、過去の行動を呪ったかもしれない、巴マミを疎ましく思っていたのかもしれない」
僕は何を見ていたんだろうか。
僕はまどかに祝福されているんだとばかり思っていた。
そう思い込んでいた。
僕は君を一人の少女としか見ていなかった。
僕は君を一人の後輩としか見ていなかった。
どうしても笑顔になってほしかった一人の少女でしかなかった。
君は一体僕をどんな風に見ていたんだい?
君は僕に一体どんな幻想を抱いていたんだろうか。
「さあ、この世界の破滅と終焉の原因の中心となりうるあなたは一体どうしますか?」
確かに僕が最初から最後まで悪かった。
僕が原因で、僕が要因だった。
それでもまだ。
「終っちゃいないだろう?」
まだ、希望は費えていない。
全て絶望に埋め尽くされているわけじゃあないんだ。
「それは?」
織莉子は薄く微笑む。
不気味に微笑む。
そこにはきっと悪意が込められていた。
「まどかに会いに行こう」
ごめんな。きっと謝って許されることじゃあないけれど。
「勘違いしないでくれよ。まどかに謝罪するつもりはないよ」
僕には、今とても好きな人がいるんだよ。
「まどかと心行くまで語り合うんだ」
だから、僕は君を一番に愛することができないんだ。
「きっと彼女は僕に言いたい事がいくらでもあるだろう。もしかしたら命がけになるかもしれないけれど」
君は僕の一番の特別ではないかもしれないけれど。
それでも君は僕の大切な仲間で、後輩で、家族も同然なんだ。
「お互いの言いたいことを言って。心の底から思うことを話し合い。真実をぶつけ合おう。お互いが納得できるまで」
「あははははははははっははははははっは!」
僕の人生を賭けた覚悟は、真っ白な魔法少女の不気味な笑い声で掻き消された。
その美麗な顔を醜悪な表情に歪めて。
「滑稽ですね。あなたは酷い勘違いをしている! 無知とはここまで罪なものなのですね! 醜さで嫌悪感を通り越して哀れみすら感じます! 本当に恥ずかしい人ですね! 可哀想な人ですね! あなたは!」
いいでしょう! 私が、お見せしましょう! と、織莉子は右手を振り上げ、魔力を開放する。
「あなたのその滑稽で罪深い勘違いを、間違いだという事を、今からあなたに教えてあげますわ!今の彼女の本当の姿を見せてあげます!」
「あなたの間違いを私が正してあげます!」
僕はまだ間違っているのだろうか。
僕は未だ自分の罪の重さを理解していないのだろうか。
未だ僕は幻想をみていたのだろうか。
まるで魔女が結界を張るように美国織莉子の作りだす世界に僕は包まれる。
「ごめんなさい」
それは真っ暗な世界だった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
その世界はとても冷たかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
その世界は絶望で溢れていた。
なんだ、なんだよ、これ。
う、うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
それはまさに地獄のような世界だった。
真っ暗でなんにもない。
何もないし。
何者もいない。
そこにあるのは深い闇と。
一人の絶望した少女だけだった。
気が狂ってしまいそうだった。
私は間違っていた!
私が間違っていた!
生きていたことが間違いだった!
ごめんなさい!
もう私は自分で死ぬこともできない、そんな無様な存在になってしまいました!
私のせいでこの世界は壊れてしまいます!
崩れてしまいます!
歪んでしまいます!
狂ってしまいます!
だからお願い!
誰か私を殺して!
殺して! 殺して! 殺して!
それが私の願い!
どんなに酷くても、惨くてもいいです!
それが私の望み!
私は死にたい!
死にたいんです!
こんな恥ずかしい自分になるくらいなら死んだ方がマシ!
私は生きるべきではなかった!
私は生まれてくれること。それ自体が間違いで、罪深い事だった!
そうその少女は叫んでいた。
絶望を叫んでいた。
まるで狂ってしまっているかのように。
壊れてしまっているかのように。
嘘だ。こんな、事。
こんな、これが、僕の仕出かしてしまった罪。
これほどまでに罪深い。
取り付く島もない。
希望なんて、欠片もない。
ここにあるのはただ絶望だけだった。
深い、深い、深淵の闇を連想される、そんな絶望だった。
本当に僕は一体何を言っていたんだ。
さっき僕はなんと言った?
大切な仲間を友達を後輩を家族をここまで完膚なきまでに壊しておいて、一体僕はなんと言った?
滑稽すぎるだろ。
なんなら、殺してやりたいくらいだよ。
笑えもしないくらい滑稽で、醜悪だ。
織莉子の言った通りだった。
いや彼女の言葉では足りないくらいだった。
僕はこんな事をしでかしておいて、あんな偉そうな事を。
ああ、惨めで恥ずかしい。
殺してやりたいし、死にたいくらいだ。
僕は間違っていたんだ。
僕は生きちゃだめだった。
生きていてはいけなかった。
あの日、あの場所でインキュベーターと一緒に絶望の世界に行っていればよかったとさえ思えてくる。
そうすればこれほどの絶望は味わうことはなかったのではないだろうか。
僕の犯してしまったこの罪は。
とてもじゃあないが、許されない。
もうもとには戻れないかもしれない。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
この怨嗟のような懺悔の言葉が僕を責める。
もう僕達の世界は決して昔のように幸せにはなれないのだと。
そう言われているような。
そんな現実を突きつけられているようだと思った。
僕のせいで。
僕が生きていたから。
僕もみんなと一緒に生きて幸せな世界を望んでしまったから。
だから間違いが起こってしまった。
矛盾が起こってしまった。
だって、僕は本当は。
「いないはずの存在がいたから」
真っ白な魔法少女、美国織莉子は薄い笑みを浮かべてそう言った。
「あなた達はこの世界にも、どこの世界にも存在していなかったはずなのだから」
そうだ、僕は本当はこの物語には存在していなかったのだから。
僕はただのバグみたいなもので。
僕はただの突然変異みたいなもので。
ただの不穏分子だったのだから。
本当は彼女達と関係性が生まれることなんてありえなかった。
そんな僕が存在していたら当然、間違いも矛盾も起こる事は必然だったんだ。
「そうです、だから元に戻してみる気はありませんか?」
何を言いたいんだ?
彼女は?
僕が今さらいなくなったとしてそれで本当に世界がもとに戻るとでも思っているのだろうか?
もしそれで世界が元通りになるのならそれほど魅力的な提案はないだろう。
でもそれはいくらなんでも不可能だ。
だって僕のせいでもう世界は狂ってしまったのだから。
「簡単なことです。あなたがあなた達が元に戻すのです」
「鹿目まどかのいない世界にすればいい」
………な………なん、だって?
「あなた達にしかできないことなんですよ? 鹿目まどかを殺すことは」
……ふざけるな。
「いない、と言うのなら彼女もその一人です。彼女はこの世界にはもともといなかったのですから! 彼女は自らの意思で、自らの願いでその存在を概念と化してしまったのですから! 一つの理に過ぎなかったのですから!」
やめろ、やめろ、やめろ。
「今ならまだ間に合うのです。魔法少女も魔女もいない、インキュベーターもなく、宇宙のエネルギーも関係ない、そんな世界。
この世界はそうなったのだから。
それが本質で本物で起源なのだから。
今この世界は辛うじてそれを認識しているのだから。
だからこの魔女と魔法少女の世界になりかけているこの世界のほうが間違っているのです。
本質から外れている、無理を押し通そうとしている世界なのです。今その核となる存在であるものがいなくなれば、この世界のソウルジェムも魔法少女も世界の修正作用でなんとか間に合うのです。しかし、このまま世界の優先権を奪われてしまえば。今鹿目まどかさんの魂と同化しているその存在は未だ不確定でありますが、彼女のほぼ全てを奪い取った存在はどんなものなのかはわかりませんが。
もしそちらの世界に書き換えられれば今度こそ終わりです。
取り返しなんて絶対につかない。
絶望の世界に成り果ててしまう」
「………まどかも一緒に生きていられる、まどかも含めた全ての少女が、みんな、みんな、笑顔になる。そんな世界を望んで作ったはずのこの世界から、まどかを消せ、と。
そう言いたいのか?」
「その通りです」
「ふざけ―――」
るなぁ! と叫ぶはずの僕のこの言葉は。
この心は。
遮られた。
「そうだ、そうだよ。もしかしたら白…じゃない、美国織莉子さんが力を貸してくれるかもしれない。もしかしたら私のこの声だけでもみんなに届くことができるかもしれない!」
まどかのその言葉は本当に嬉しそうで。
まどかのその顔は本当に一縷の望みに賭けるようで。
まるで小さな希望を紡ぎ出すことができたと、そう言っているようで。
僕は固まってしまう。
僕は言葉が詰まってしまい。
頭は真っ白になってしまった。
「お願い。私を殺してください」
何言ってんだよ。まどかまで、何言ってんだ。
「今ならまだ間に合うの。お願い、お願いだから」
嫌だ。そんなの嫌だよ。
「私ね、この世界が大好き」
僕も大好きだよ。この世界が大好きだ。
「魔法少女も魔女もいなくて、インキュベーターも宇宙のエネルギーも関係なくて、マミさんがいて、さやかちゃんがいて、ほむらちゃんがいて、杏子ちゃんがいて、キュー君のいる、この世界が大好き」
おいおい、まどか。
君が抜けているよ?
君がいないじゃないか。
ちゃんと言ってくれよ。
含めてくれよ。
でないと、そうでないと。
僕の大好きな世界じゃないよ?
「だから、私を消してください」
まどか、言っていたよな?
私もみんなと一緒に笑っていたいって。
一人ぼっちは嫌だと。
みんなと離れたくないって。
そう言っていたじゃないか。
「この世界を守ってください。お願いします。私と彼で作ったこの世界を。みんなで紡ぎだしたこの運命をどうか守ってください」
まどかは今にも泣き出してしまいそうな、そんな悲痛な笑顔を浮かべながら言う。
「私の事はお願いします。含めないでください。こんな事になってしまったのは、全部私が悪かったからなんです。私が望んでしまったから」
違うだろ。君は悪くなかったんだ。
「私が醜くて、醜悪な、矮小な、脆弱な、そんな願いから、そんな望みから生まれてしまったから」
「キュー君を私のものにしたいなんて、そんな事を望んでしまったから」
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……!
僕は悲鳴とも、絶叫とも、号泣ともわからない何かを叫びながら。
膝を地に着けて。
手を地面に這い蹲らせ。
顔面を地面に擦り付けていた。
「違うだろうが! まどかが何で悪いんだ! 何でまどかだけが悪いんだ! それならみんな悪かったじゃないか!
僕も君も悪いと言うのなら! この世界も悪かったじゃないか!
結局みんな悪かったし。
実はみんな悪くないんだ!
悪い事した奴なんていないじゃないか!
間違いを犯してしまったやつなんていないじゃないか!
ただみんながみんな必死に生きていただけじゃないか!
それがなんでこんな事になってしまうんだ!
まどかは何か間違っていたのか!
何かいけなかったのか!
そんなに罪深い事なんて何一つないじゃないか!」
「いけなかったのですよ?
罪深いことなんですよ?
あなたも、鹿目まどかさんも間違いを犯したのです。
さあ、もとに戻してしまいましょう。彼女もそう望んでいるじゃないですか。
それなら彼女の望んだとおり、この世界を守りませんか?
それともあなたはたった一人の少女の為に。
一番大切なわけでもない少女の為に。
この世界を潰すのですか?
あなたの一番大切な人はこの世界にいるのに。
あなたの一番に守りたい人がいるのに?
あなたは確かに誓いましたよね?
彼女だけは、巴マミだけは必ず守ってみせると。
そう言っていたじゃないですか」
「ああ、そうだ。僕は確かに誓った。そう誓った」
「それならもう答えは出ているじゃないですか」
「ああ、そうだ。答えは出ていた」
「そうです。彼女も、鹿目まどかさんもそれを望んでいるのですから。これがみんなが幸せになれる選択なのですから。さあ、口に出してください。これは約束です。あなたがするという契約です。あなたがこの世界を救済するのです」
ああ。わかった。言ってやろうじゃあないか。
僕は空気を肺にためる。
大きく息を吸う。
マミ、ごめん。
やっぱり僕は最低の“人間”でもない、バグだ。
「こんな世界滅んじまえぇぇぇぇぇ!!!!」
「な!? 何を言っているのですか! あなたは! 気でも狂いましたか!?」
「まどかのこの思いが。
まどかのこの感情が間違っていて、悪い事で、罪深いことだと言うのなら!
そんな世界なんて滅んじまった方がマシだって言ってんだ!
まどかに不幸を押し付けてみんな幸せになる?
ふざけんな!
そんな事するくらいなら、みんな不幸になればいい!
まどかに全部押し付けて死ねってみんなが言うのなら、みんな死んでしまえばいい!」
「あなたはこの世界を愛していないのですか! 大切に思っていないとでもいうのですか!」
「大切だし! これ以上ないってくらい愛してるよ!」
「それなら!」
「そこにまどかがいるからだろうが!」
「この世界にまどかがいて! さやかがいて! 杏子がいて! ほむらがいて! 織莉子がいて! キリカがいて! マンションの住人がいて! マミがいるから! みんながいるから! 大好きなんだろうが! みんなでこの世界はできてんだよ! それが僕の守りたい世界なんだ! 誰か一人でも欠けてしまったならそれで僕の世界は終わりなんだよ!」
「たとえそうでも! 本当に大切なものを守りたいのなら切り捨てなければ全部なくなってしまうんですよ!」
「それがどうした! 僕は初めてまどかと出会った時感じたんだ! こんな少女一人に世界の災厄全部押し付けるくらいなら、そんな世界滅んだ方がマシだって! 一人の少女に絶望を押し付けるくらいなら、みんな絶望した方がマシだってな! 僕のあの時の思いも感情も何一つ変わっちゃいない! あの日、あの場所で僕はまどかに手を差し伸べた事を、まどかの手を握った事を毛ほども後悔しちゃあいない!」
「それは本末転倒じゃあありませんか!」
「全部賭けずに運命なんて変えられるか! 世界なんて変えられるか! そんな程度の覚悟で絶望に立ち向かえるかぁ!」
「それならあなたは、今のこの状況をどうにかする策があるというのですか?」
「そんなもの必要ないだろう? 僕は今まで、自分の思い通りに事が進んだことがないんだ。全部行き当たりばったりで、奇跡に全身全霊を賭けた。みんなの願いがあって、みんなの想いがあって、誰一人犠牲にしないのなら、それで世界は変わってきたんだ」
「お話にならないですね。
わかりました。
やはり、あなたを殺すことにしました」
やはり、か。
織莉子は今まで堪えていた殺気を全て僕にぶつけてくる。
きっと彼女は本気で僕を殺すだろう。
その顔に。
その眼光に迷いの欠片も感じられない。
「だから僕を殺してどうなるっていうんだ」
「私は最初からあなたの力に期待していたわけではありません。私はあなたの影響力に期待していたのです。私はあなたが皆を引き連れて、皆にまどかさんを殺してもらう覚悟を決めさせてほしかった。それにはあなたと言う絶大な影響力が必要だった。
それをあなたが拒むと言うのなら。
もっと単純な方法を取ればいい。
あなたが死ねば、あの少女達は動かざるおえない。
あなたが鹿目まどかさんに殺されたとなれば。
彼女が動かないわけがない。
憎まないわけがない。
彼女に復讐せずにはいられない」
「なるほど。それが君の望みなのかい?」
「そうです」
「それで君の世界は本当に守られるのかい?」
「そうです」
「それならその願い。
絶対叶えさせるわけにはいかない!」
「今更あなたが何をしようとこの結果に変わりはない!」
織莉子は球状の魔力を浮かべる。その数は鼠算に増えていく。
2つが4つに。
10が100に。
それでも僕は彼女に語りかけることをやめない。
「その未来が、君に本当に見えているのかい?」
「っ!」
彼女は右手を僕に振りかざす。
魔力の塊で合成された弾丸は僕目掛けて飛んでくる。
「やはりそうか。君には見えていない未来がある。未だ知りえない可能性のある未来がある」
僕はそれをなんとか転がりながらさける。
縦横無尽に逃げ回る。
みっともなく地面に転がりながら。
必死に逃げ回る。
「この世界で鹿目まどかさんの世界に関係あるものに、全てノイズのようなものがかかっていてはっきり見えないのです。
それでも、私は見てしまったです!
この世界が崩壊する、そんな未来が!」
彼女の動きが止まる。
弾丸も彼女の身体の周りにふわふわと浮かんだまま動きを止める。
「それで僕を殺して、まどかを殺して、本当に世界は変わるのか?」
「変わるに決まってます!」
「それこそ幻想だ! もしそれで何もかわらなかったら今度は誰を殺す! みんな殺すのか! 君の大切な人が原因だったら君はどうするんだ! 君は世界を守るために、君の本当に大切な人を殺すことができるっていうのか!」
「ええ! そうよ! 世界を守るためならどんなに大切な人を犠牲にする覚悟はある!
たとえ私自身だろうが! キリカだろうが! お父様だろうが!
そんな覚悟もなしに、世界が救えるとでも思っているの!」
彼女は再度魔力の弾丸を僕に浴びせてくる。
僕の腕に、肩にそれが当たるとそれらは簡単に僕の肉を抉った。
痛い。
それでも今はそんな些細なことにいちいち反応している余裕も時間もない。
怒りで頭が沸騰しそうだ!
「そんなものが本当にあんたの守りたいものなのかぁ!」
「それで誰が救われるんだ! それで、あんたには何が残る! 何にもないじゃないか! みんなみんな死んでしまって! それでこの世界に何が残されるっていうんだ!」
「それでも世界がなくなるよりはマシだ!」
「どこがだ! そんなものは何の意味もない! 君はそんな事を本当に繰り返していたら、歯止めが利かなくなって、結局全部壊してしまうだけだ! そんな誰も支えてくれない世界で君はどうするって言うんだ! 君には任せておけない! 君では世界は救えない! それじゃあ結局君が人類を滅ぼすだけだ!」
「だまれぇ!」
球状の魔力の弾丸は僕の両足を貫く。
血が噴出し。
僕はついに、倒れてしまう。
「これで、終わりです」
ちくしょう。
織莉子はゆっくりと僕に近づいてくる。
本当に死んでしまう。
僕は本当に死んでしまう。
僕が原因で。
僕のせいで世界が狂って。
僕のせいでまどかを滅茶苦茶に壊して。
それなのに僕はなんの責任も取ることもできなくて。
ここであっさりと死んでしまう。
なんの意味もなく。
無意味に。
ただ死んでしまう。
走馬灯のように。空間がスローになっていく。
やけに世界の音がはっきりと聞こえる。
織莉子の足音も。
闇の静けさも。
絶望の冷たさも。
まどかの声も。
「私を………殺して」
まだそんな事言ってるのかよ。
そんなの嫌に決まってんだろうが。
「はは、何でかなぁ? ここに、キュー君がいてくれる気がするなぁ」
僕は固まる。
まどかを見つめる。
「はは、私、本当にダメだなぁ。まだこんなになってもキュー君の事が」
まどかは僕達を認識しているわけがない。
僕達の姿も。
声も彼女には届かない。
それでも。
「でも、もし本当に彼がここにいてくれたなら」
それでも。
まどかにも伝わっているものがあった。
心が。
魂が。
絆が。
ちゃんとここには繋がっていたのだ。
「こんな事言っていても無駄なんだろうなぁ」
ああ、そうだよ。
なんだよ、ちゃんとわかってるじゃないか。
僕はまどかのそんな言葉に心底嬉しくて、泣いてしまいそうだ。
嬉しくて。
信じてもらえている事が嬉しくて。
こんな僕でも彼女は信頼してくれている事が嬉しくて。
今にも死んでしまいそうなのに、笑顔が溢れてしまう。
「きっと、あなたは私を殺してくれない」
当たり前だ。
「ほむらちゃんもね
そう、言ってくれたんだ」
僕は全身の鳥肌が立つのを感じる。
目を見開いて。
全身の血流が止まってしまうのではいかと言うくらいに緊張して。
打ち震えた。
「ほむらちゃんがね、またキュー君に会わせてくれるって。
だから今度こそあなたの言いたいことを。
あなたの本当の気持ちを伝えなさいって。
そう、言ってくれたんだよ?」
織莉子は僕の額に手を振りかざし。
魔力を集中する。
「ちょっと待てぇぇぇ!」
僕の絶叫にも似た咆哮に織莉子はその動きを止める。
「今更、命乞い―――」
ですか?
そう言おうとした彼女の言葉は、しかし地鳴りと地震でかき消される。
「な、何!? 一体何が起こっているって言うの!?」
「はははははははは!」
「何がおかしいの!」
「やってくれた! まさか彼女がやってくれたとは! 僕では到底不可能な奇跡を起こしやがった!」
「何を言っているの! 本当に気でも触れたのか!」
「僕はてっきり彼女はまどかと一緒にこの世界を終焉へと導くことを決心していたと思っていた!」
「それのどこが間違いなの! ご主人様はこの世界の敵に」
「酷い勘違いだよ! 織莉子! 君の見えていない所で彼女はしっかりとこの世界も。僕達も。君達も。まどかも。自分自身も。全て救い出す未来を思い描き、そして全身全霊をかけてこの可能性を紡ぎだしたんだ!
君でも! 僕でも! 無理で不可能なことを暁美ほむらはやってくれたんだよ!」
「さっきの答えを教えてやる! 今度は、はっきり言ってやる! 誰一人犠牲にすることなく!
この世界を救ってやるよ!
僕と、ほむらと、まどかと、みんなでな!」
「な!?」
「速くこの結界を解け! 大切な場面を見逃す事になるぜ!」
「そんな、事、だって私は、あなたを殺さないと。でないと、何も変わらない」
「まだそんな事言ってるのかよ! もう何もかも変わってんだ! ちゃんとよく見ろ!
君のその魔法でじゃあない!
未来でも過去でもない!
君のその両の目で!
しっかりと見てみろ!
この世界を!
現在を!
今のこの現実を!」
パキンっ。
と、何かが壊れる音がした。
少しずつこの真っ暗な世界が薄れていく。
まどかはそんな世界の中心に小さく座っている。
「こんな醜い私だけれど、あなたは救ってくれますか」
君を救うのに理由なんていらないな。
「こんな弱い、最低な私だけれど、それでもあなたは私を見てくれますか」
そんなの大前提だよ。
「救いようもない私ですけれど、罪深い私ですけれど、あなたは許してくれますか?」
当たり前だぁぁぁぁぁああ!
薄れて消え行く世界で、僕はまどかに笑顔を向ける。
薄れる彼女の瞳にはきっとそれは映らなかったと思うけれど。
それでも彼女は笑い返してくれた気がした。
その希望溢れる。
満面な笑みを。
待ってろよな。まどか。
必ず迎えに行くから。
「そんな、事が………。未来が変わって。よく見えないけれど、それでもあなた達の後姿が見える。みんな誰一人欠けることなく立ち向かっている」
結界は解かれた。
開放された世界は酷く見晴らしのいいことになっていた。
「あはははははっはははっははははははははは!」
そこに高笑いをしている、少女がいる。
「ほら、そんなあるのかないのかよくわからないものなんて見ていないで、あの変態を見てやってくれ」
僕達は空を見上げて、彼女を見る。
暁美ほむらを。
マンションの屋根はすでになく、空高く大きな真っ黒な樹木が育っていた。
まったくなんてことしてくれてんだ。
「あら、先輩じゃない!そんな怪我してどうしたのかしら!」
暁美ほむらはマンションの最上階から僕を見下ろして言う。
彼女はスカートなのでパンツが丸見えなのは秘密だ。
「ちょっと階段で躓いただけだよ!」
マンションの最上階と僕の位置は離れているので大きな声で叫ぶ。
「そう、それは、大変なことね!」
君に比べれば大したことないね。
「一つ聞きたいんだけど!」
「何かしら!」
「なんでまどかはパンツを履かずに君に抱き上げられて痙攣しているんだい!? わけがわからないよ!!!!!!」
「ふっ! わかっているわ! あなたの言いたいことが何なのか!」
「いや! だから僕は何がなんだかわからないって言ってるんだけど!? ちゃんと話を聞いてよ!」
「まどかの処女膜を破ったこの私が許せないのでしょう!!!!!」
「本当に何やってんだ!!!! あの変態はぁああ!!!!!!」
絶句だよ!
もう君には何にも言うことはないよ!
さっさと警察に捕まっちゃえ!
え? 何? だから君の右手はそんなにテラテラと、ヌメヌメと、ちょっと血がついてんだけど!?
マジなんですか!?
本気なんですか!?
嘘ぉ!
お願いだから嘘だっていってくれ!
「私も嘘だって言ってあげたいわよ。でも仕方がなかったの」
右手を美味しそうに嘗め回しながらしゃべるな!
そんな満面の笑みで言われても全然説得力ないよ!
そうしなければいけない状況って言うのも皆目検討はつかないけれど、たとえそうだとしても君はのりのりでやっていたと確信できるし! 断言できるよ!
怖いよ!
恐怖だよ!
まどか君の大切なものは永遠に奪われてしまった。
あの悪魔のような変態に。
「一つ言っておくけれど!」
指先まで綺麗にしゃぶりながら、鬼畜変態少女は言う。
「私を倒してもまどかの処女膜は戻らないわよ! 取り返しなんてつかないんだから!」
変態がもっともらしいこと言ってんな!!!!!
「それでも私とまどかに一言、言いたいことがあるのなら、ここまで来なさい!
来てみせなさい!
あなた達が。
みんなが誰一人欠けることなく、この最上階に来なさい!
そこに本物のまどかの魂はいる!」
まどかを心底愛した彼女は最後の最後で完璧に、本当に大切な人を根こそぎ守りぬいたのだ。
僕のようなバグには決してできない事を彼女はやってくれた。
出来損ないの僕はその希望を決して取り逃がしてしまわないように、ただ全力を。
全身全霊を賭けようと。
そう誓う。
さぁ最後の戦いを始めよう!
あるえ?
題名と内容が変わっておるよ!
と思った方もおられるかもしれません。
ご、ごめんなさい。だめ、やっぱり!
いろいろ考えられましたけれども、これはやっぱりこういう風に書こうと決められて作られたものですもの……!
これ以上エロくしないとかありえないもの!
モチベーション的にあっちゃダメですもの!
僕の進退をかけます!