パチンっと。
まどかの肉体を操り指を鳴らす異質な何か。
空には千を超える魔法少女が舞っている。
「まだまだ!」
さらに、指を指揮者のように振ると、マンションの住人達が操られるように、マンションの廊下からこちらを見下ろしてくる。
「さぁ! どうするんだい! 魔法少女ならともかく、元から魔女だったマンションの住人達は、少しの刺激で魔女になりかねないよ!」
くっ!
僕達は歯噛みする。
悔しいが絶対に住人達には攻撃できない。
この世界にはグリーフシードなど存在しない。
住人達のソウルジェムを浄化することはできない。
空からも地上からも囲まれてしまった。
戦える仲間は、さやか、杏子、マミ、織莉子、キリカしかいない。
これは、相当やばい。
グリーフシードがないということは、マミ達もまた魔力の回復なしに、まどかまでの道のりを切り開かなければならない。
空の千と地上の千の魔法少女、絶対絶命だ。
まどか(黒)は顔を醜悪に歪めて微笑み言う。
「おいおいまだまだこんなものじゃないよ? 確かにボクの世界に共感してくれた魔法少女は世界中で千人くらいしかみたないが、元魔女だった少女達は別だよ。ゆっくりとこちらに近づいてくれているはずさ! その数ざっと一万!」
「もう勘弁してください! ちょっとこれはいくらなんでも無理があるでしょうが!」
僕は涙目になってまどか(黒)を睨みつける。
心底嬉しそうに、性格悪そうな意地悪な微笑みを浮かべている姿がなんとなくイラ☆っときたので。
「ちょっと! ほむらもなんとか言ってあげてよ! その身体に☆」
ほむらはふぅ、とため息をして、肩をすくめ、やれやれという姿勢をとると。
カッと目を開き、その身体を激しく振動させ、全身の血液を沸騰させるように身体を興奮させ、顔色が赤みがかり、高温のためか全身から蒸気を噴出し、その顔を恍惚な表情で染めていた。
何がふぅ、やれやれ、だ! 超やる気満々じゃないか!
っていうかなにそれ!? 変態も極まるとそんな状態なっちゃうの!?
「しょうがないわね! 本当は気が乗らないけれど! 悲しいかな先輩の言うことには逆らえない!」
嘘付け! 僕の言うことなんてほとんど聞かないじゃないか!
「ちょ! やめ! ひゃめてぇ!」
ギアセカンド状態の変態が「ジェットフィストファック!」と叫びながらまどか(黒)を追いかけている。
その間に魔法少女達がマンションの周りを固め陣を張る。
「マンションの住人達は私とキリカで何とかします!」
織莉子がそう叫ぶとキリカがマンションを埋め尽くすほどの魔法陣をはる。
マンションの住人達の動きが突然止まった。
否。
止まったように見えるだけだ。
彼女達は少しずつだけだが僕達に向かっている。
しかし、キリカの遅延魔法で、速度を限りなく遅くさせているのだ。
これで、だいぶ時間が稼げる。
はぁ、はぁ、はぁ、そ、それじゃあボク達は一足先に、頂上で待っているよ」
なんとかほむらの陵辱を回避したまどか(黒)は、疲労困憊しながらも全身から迸る闇で、天空にまで届いているのではないかと思うほど高い樹木の周りに結界を張り巡らせ、その入り口から階段を創造して上っていく。
くっ!
まどか(黒)達を追うにも、空からの魔法少女がどうしようもならない。
どうすれば。
戦闘準備に入るマミ達。
「駄目だ! 君達がここで戦ってしまったら、誰がまどかを救い出すんだ!?」
「でも! どうすればいいの!?」
マミは顔を困惑に染める。
しかし、容赦なく魔法少女達は戦闘態勢に入る。
くそ。一体どうすれば。
「うおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああ!」
突然キリカが叫んだ。キリカの咆哮が轟いた。ものすごい魔力を、雷撃のごとく生み出し、強大な魔法陣を形成する。この町を全て包み込むほどの。
ま、まさか!
「キリカ! やめろ! やめてくれ!」
僕は気が付いたら叫んでいた。これはだめだ! こんな魔力の使い方をしていたら―――
「魔女になってしまう!」
僕の悲鳴のような叫びを鼻で笑うように彼女は言う。
「それがどうした。これは必要なんだ」
何でもないんだと。これで本望なんだと。そう言う。
「襲いくる魔法少女を全て足止めする。千だろうが一万だろうが関係ない。これは織莉子にとって必要なことなんだよ」
本気でそう言っているんだと彼女の生き様が物語っていた。彼女の人生がそれを全て望んでいる。
「君が死ぬ事を織莉子が本気で必要にしていると思っているのか? 織莉子が君を犠牲にしてまで望んでいる事があると本気で思っているのか?」
キリカが僕の胸倉をつかみ、ものすごい剣幕で言う。
「私はお前らが織莉子を幸せにすることに懸けた。織莉子はこの世界を守りたがっている。その望みを叶えるためにお前を殺すことを織莉子が選んだならそれでいい。でも織莉子はしなかった。できなかったんじゃない、お前を殺さずに世界を救う事を選んだんだ。お前らに懸ける事を織莉子は選択した。だったらそれは私の望みだ。私は織莉子のために死ぬ。それが長年見てきた夢なんだから。だから私の命を使ってここを足止めする。織莉子のために」
「織莉子! キリカをやめさせろ! 彼女は本気だ! 本気で君のために―――」
僕は気が付いたら空高く舞い上げられていた!? 一体何が起きたんだ! このままじゃあ!
「ぶべら!」
……このまま僕は地面叩きつけれた、マジで痛い。言うまでもなく織莉子が僕を投げ飛ばした。キリカのそばにいるのは私なんだと、そう背中で語るような後姿だった。
「キリカ。本気で言っているの? これは私が覗いた未来じゃない。これはなんの信憑性もない、ただの私の妄想かもしれないのよ?」
「織莉子の妄想? そんな可愛らしいもので死ぬなら、それこそ幸せだよ」
「愚かね。狂っているわ」
「そうだよ、私は狂っている。私は織莉子に惚れ狂っている」
「本当ににしょうがないわね」
織莉子は涙を流し、微笑むように、キリカに一歩一歩、歩み寄る。
「本当に困った、可愛い親友」
そこにいるすべてのものが、凍りついた。
キリカすらも目の前の現実に、目を丸くして、ただ茫然としていた。
織莉子がキリカに口付けをした。キスをした。
「それなら、一緒よキリカ。私達はいつだって一緒にやってきたじゃない。だから―――」
そして、お互いのソウルジェムを合わせる。
「一つになりましょう」
奇跡が起きた。それは魔法の根源だった。
僕たちは魔法の根源。世界を思いのままに支配し、書き換える黄金の真実を目にした。
それは愛だった。
お互いの魔法が交じり合い、魔力が交じり合い、肉体が交じり合い、魔法少女が交じり合い、感情が交じり合う。
「こ、これは一体、どういう事、なの」
マミが驚愕しながら言う。
僕にもわからない。これは一体どんな理なんだ? それこそ、この世界を改変してしまえるほどの絶対的な魔力。
「おやおや、貴方達、見惚れている暇はありませんよ?」
その白と黒の混ざり合った魔法少女は、神様のような超常的な魔法少女は、しかし苦悶に声を震えさせながら言う。
「残念ながらこの魔法はまだ未完成。いつ合体が解けるのか、命を落とすのかもわからない、成功確率すら限りなくゼロに近い奥の手なのだから」
「ていうかなんなの! この魔法! 合体魔法! フュージョン!? 」
「いや! これはなんか織莉子とものすごいプレイしてたら! ほんと! 死が垣間見えるほどの濃密ハードプレイしてたらなんかできるようになったとっておきなんだ!」
え? 何それ? マジ怖いんですけど! その濃密プレイめちゃくちゃ気になるけどめっちゃ怖いんですけど!? ていうか急に口調変わったんだけど! 君絶対キリカだよね! このシリアスな状況でハイテンションになるほどキスされて嬉しかったのか!
白と黒の魔法少女は両手を広げ、大きな拍手を一つ。パンっと乾いた音が響き渡り、一万人の魔法少女の動きを止める。
「!?」
僕は驚愕して声も出せない。これは遅延ではない。それは凍結だった。一万の魔法少女一体一体にそれぞれ凍結型の封印魔法を施している。それはまるで時間を止められているかのようだった。それはまさに世界という理を止めていた。
僕が壮大な魔法に腰を抜かしそうにしていると、くるりとその白と黒の魔法少女は振り返り、僕を見つめ「キリカ、ごめん少しだけ任せていい? 少しだけお話したいことがあるの。もちろんだよ、織莉子の頼みなんだから。ふふ、ありがとう」とまるで一人で二役を語るように言って、織莉子が僕の目の前にいた。
「私はあなたを殺そうとしました」
織莉子が僕をまっすぐに見て言う。
「そうしなかったこと、そうできなかったことがよかったとは私はどうにも思えません。できれば私はあなたを殺して、鹿目まどかさんを殺したかった。だってその方が絶対確実だからです。ここまできて、これほどまでに世界は終末を迎え、それでも誰一人犠牲になることなくみんなが笑顔で帰る、そんな未来がどうにも私には思い描けないのです。それでも、あなたはやるんですか? やりきってみせてくれるのですか? 鹿目まどかさんを含めた全ての少女達を救うことがあなたにできるのですか?」
そんな織莉子を僕は、場違いにも微笑ましく見えてしまう。彼女のまっすぐで、この世界が本当に大切で、がんばって、がんばりきって、一人で抱えてしまう困ったところも全部、全部可愛らしく見えてしまう。
「君は本当にかわいいな。とても魅力的だ」
「なっ!?」
真っ白な髪に、真っ白な肌。その顔色だけが真っ赤になる。かわいい、かわいい。ぺろぺろしたいな。
「何を言っているのですか!? この状況で!? 不謹慎ですよ!」
いたっ!? 痛いっす!? ちょ、マミさん!? マスケット銃で殴らないで!? 今大事なところですから!
僕はコホンと咳払いして言う。
「そうだ。きっと僕は誰よりも正しくない。そんな僕にはきっと少女を、誰かを救い上げることは難しい。きっと僕にできることなんてほとんどない。それでも、僕は行くよ。まどかに会いにいく」
僕はまっすぐに彼女の瞳に向かって言う。向かい合うように。
「だって、まどかは大切な人だから。世界と同じくらい大切で掛け替えのない人だから」
僕もさやかも杏子もマミもみんな笑ってる。ニカッと歯を見せて。
ああ、そうだ。怖いことも不安なことも、ましてや難しい事もない。ただ僕達は困った後輩をむかえにいくだけなのだから。
「こんな僕達だけどさ、それでも信じて待っていてくれないかな?」
はぁ、と心底気が抜けたかのように肩をすくめる織莉子。
「呆れましたわ。まさかこんな時に、こんな最低な言葉をもらうことになるとは思いもしませんでした」
本気で呆れている織莉子はそれでも微笑んでくれる。
「それでも、不思議と信じてみたくなってしまうから腹がたちますね。いいでしょう。それまでは私達がこの場は収めて見せます」
「うん。頼んだ」
「それに、何となくまどかさんの苦労もわかりましたし。あなたも苦労しますね。巴さん」
? 僕が迷惑な存在ということだろうか? それは申し訳ない。
「まったくだわ。この天然で、朴念仁なところが特にね」
片目を閉じて、少し呆れた様子で僕の顔を見るマミ。それは僕にぺろぺろされたいって言う意思表示ととってもいいのかな?
「なんで! そう! なる! のよ!」
痛い! 痛い! そんな本気で殴らないで! 死んじゃうから!?
織莉子がくすりと笑った後、まばゆい白と黒の光を放ち、もう一度白と黒の超越した魔法少女となる。
「あとはお願いしますよ。私たちはあなた達に懸けたのですから。この世界を救う事を、守る事を、そして何より、幸せにしてくださると信じたのですから」
「わかった、あとは僕達に任せてくれ。必ず全てを救ってみせる」
「ほんと、最初からこうしていればよかったわ、キリカ。終わりよければすべてよしだよ織莉子」
僕はそんな仲良さそうに語らう二人をほほえましく眺めた後、くるりと反転させ歩き出す。
僕達はまどか(黒)の作り出した影のような真っ黒な階段の前にいる。
見上げれば奥は真っ暗で何も見えない。深い闇が続いていた。ここは敵の作り出した闇。どんな世界が待ち受けているかわからない。もしかしたら生きて帰る事はむずかしいかもしれない。まどかにたどり着くことはきっとむずかしい。
でも、だからって諦めるわけにはいかない。
だって、僕達は仲間だから。
君が大切だから。
だから、今行くよ。
仲間達に背を向け、僕達は振り返ることなく絶望のような深い闇へと続く階段を駆け上がる。
あれ? こんな展開聞いてない? そんなまさか? はっは! これこそキャラが勝手に動き出す! キャラも生きているということですよね!