魔法少女と孵卵器(インキュベーター)~規制版~   作:ダル神

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第六十二話 物語の外の存在達 (常闇語り部)

ボクの身体を球体状に包み込む膨大なマスケット銃。

 

マスケット銃の檻。その銃口全てがボクの身体を捕捉している。空間で完全包囲されたこのマスケット銃から逃れるすべはおそらく無いだろう。

 

「ヴァロットラマギカエドゥーインフィニータ!」

 

やれやれ、そんな大層な技名を叫んで恥ずかしくないのかなぁ、という気持ちはあれど、やはり彼女、巴マミの強さは本物だ。

 

千を超える銃弾がボク目掛けて一斉射撃を始める。その発砲された銃弾は一つ一つは小さくとも、膨大な数が収束すればまるで太陽のような黄色の光がボクを包み込む。その光に一瞬目が眩むほどに。

 

「無駄だよ」

 

いくら眩しくとも、いくら輝いていようとも所詮一発一発の銃弾の威力なんてたかが知れている。ボクはその銃弾を全て相殺し、打ち落とすべく手を目の前に振り上げる。ボクは今魔法少女の力も、魔力も使うわけにはいかない。無駄使いはできない。ボク本来の力、ボクの存在の一部を闇として高質化し、思いのままに形を創造していく。あんな数だけの銃弾なんてこれで十分すぎるだろう。

 

「それはどうかしら!」

 

巴マミがそう叫ぶ声が銃弾の外で聞こえる。ボクの周りに全て張り巡らされた銃弾のせいで巴マミの姿は見えないけれど。

 

ボクはそんな言葉を無視し、闇を放出しようとするが、銃弾のいくつか、そう多くは無いが、おそらく一割ほどの銃弾が“ほどけた”。そのほどけた銃弾は黄色いリボンのようなひも状になって周りの銃弾よりも速くボクの身体に到達し絡まっていく。

 

「!?」

 

ボクは一瞬驚きで動きが止まってしまう。その隙にそのリボンはボクの体中を縛り上げ拘束する。ボクは驚愕の事実に苦笑いせずにはいられない。そんな、まさかこれだけの銃弾を生成して、その銃弾を一発一発精密に把握し、こんな細工まで施してある。どれだけの魔力と魔法技術、精神力が必要かわからない事を当たり前のようにやってのける。恐ろしい少女だ。もし他の魔法少女達もこれだけの技術と精神力が備わっているのなら彼女達では荷が重過ぎるね。でもまぁ、時間を稼いでくれたならそれでいいんだけれどね。

 

「くっ!」

 

ボクは体中を拘束され、まともに身動き一つとれない。しかたなく打ち落とすのを諦め、身体を闇で覆い防御に徹する。

残りの銃弾が全てボクの身体を打ち爆音が轟く。やはり威力はそれほどなくボクは無傷で防ぎきる事ができた。

 

「こんなに魔力を消費してもこの威力かい? 残念ながらその程度の威力じゃあボクを倒すなんて――!?」

 

ボクはまたも驚愕せずにはいられない。

 

「き、君達、まさか……!」

 

そう、君“達”なんだ。だってそこにはいないはずの少女が疲労困憊で、巴マミに抱えられていたのだから。

 

「それを、世界の卵を、その殻を突破したというのかい?」

 

その少女、暁美ほむらが不適に笑う。

 

「っ……!」

 

こちらも歯噛みしながら苦笑いするしかない。

 

「さっきのは目眩ましよ」

 

巴マミも薄く微笑んでいるが、大量の魔力を消費したせいか疲労が呼吸に現れている。あれほど精密で大量の魔法を使ったのだ。おそらくほとんど魔力は残っていないはずだ。

 

「……捻りのある目眩ましをどうも」

 

しかしやはり驚愕するべきは暁美ほむら。あれほどの高密度であるボクの一部を流し込んだのに食い尽くされる事なく自分の力として取り込んだ? いや、ありえない。そんな根性論で何とかなるレべルじゃあないはずだ。一体どんな裏技を使ったのか。だが今はその事はいい。ここに暁美ほむらが残っているという事は、中に入ったのは恐らく。

 

「そうか……! 全てはあのバグか!」

 

「そう、よ。あなたが度外視して、全く脅威として捕らえる事すら、なんの対策すらしなかったあの男があなたをここまで追い詰めたのよ。我らが先輩が私達をここまで支え導いてくれたの。あなたはあの一番に危うく変態な男を甘く見すぎていた。それがあなたの一番の敗因よ」

 

暁美ほむらが呼吸を乱しながらも言葉を紡ぐ。

確かに全く眼中になかった。気に留める必要というよりも、気にする理由も、意味もなかった。だって彼はただの人間なのだから。悪魔でも神様でも魔女でも魔法少女でもインキュベーターですらない、なんの変哲も無いただの人間のはずだ。そんな存在を脅威と認識するほうがどうかしている。

 

「そう、彼はただの人間。でも、この世界を作り上げた人間で、そしてこの世界の終焉の原因でもある」

 

な、何を……! た、確かにあの男がこのまちがった世界の始まりだった。そして、この終焉も、またあいつが大きく関わっている。しかしだからなんだというんだ。あいつがなんの力もないただの人間には変わらないはずだ! ただ、原因の中心に……

 

「! 大きすぎる、影響力……!?」

 

「そう、あの人は周りの人間を変え過ぎる。影響を与えすぎる。良くも悪くもね。だから問題の中心にいるのはいつだって“あの人”なのよ! よくマンションで問題が多すぎると嘆いていたけれど私から見たらどう考えても先輩が原因を“作って”いる」

 

「くっ……、あいつが“主人公”だったとでも……? そんな、ありえない。だってこの世界は“魔法少女まどか☆マギカ”の劣化版のはずだ。鹿目まどかが主人公でないなんてありえないじゃないか。そんなボクが、このボクが勘違いをしていた。あのモブキャラを見誤っていた、だと?」

 

 

いや、やはりありえないはずだ。あいつはただ四苦八苦していただけじゃないか。功績といえば巴マミのソウルジェムをお菓子の魔女から引き揚げたくらいで、やはりほとんど当事者であるこの底知れない少女達が紡ぎだした世界のはず。少なくとも観測者であるボクはそう認識していた。

 

「ボクを動揺させようたって無駄だよ。所詮ただの人間があの中に入ったところでどうしようも無いはずだ。あの卵の殻をぶち割った事には驚いたけれど、それでもその卵を完全に粉砕する事はできず、その穴もすぐに塞がったみたいじゃないか。なんの意味も無いはずだ。この世界の終わりに変わりは無い! あの卵は必ずや孵りこの世界を終らせてくれるだろう」

 

「それは、どうかしらね……?」

 

勝ち誇った暁美ほむらの笑みが何故か鼻につく。心をかき乱される。いや、実際にかき乱しているのはあの男か。

 

「それでも、これで君達は終わりだよ! もう巴マミに魔力はほとんど残っていないはずだ!」

 

ボクは腕を巴マミと暁美ほむらに振りかざす。もう彼女達 にボクの攻撃を防ぐすべは無いはずだ。これで君達は終わりだ! その後ならどうとでもなる!

 

「ねぇ」

 

ボクが。このボクが動けない!? 巴マミの魔力の重圧で身動きが取れない……だと!?

 

「あなたは、何故こんな事をするの?」

 

俯き押し黙っていたマミが口を開く。その身体からは、ありえない量の魔力が漏れ出ている。一体どこにそんな魔力が……、いや違う、明らかに全快である時よりも大幅に魔力量も質も跳ね上がっている。しかし、この魔力はすでに魔法少女のものではない。そう、これは、まるで。

 

「……魔女、だ」

 

そうか、この改変前の世界での最も気に入らない、ご都合設定……、魔法少女の魔力は消費すればただ減るわけではない。代わりに穢れが溜まっていく。希望という感情エネルギーを使ってしまえば絶望というマイナスの感情エネルギーが溜まってしまうように。しかし、いくらマイナスと言えどそこにはエネルギーが存在している。その絶望と言う感情エネルギーというものは、エネルギー量だけを見れば希望を大きく凌駕している。魔法少女になったときよりも魔女に孵ってしまったほうがより多くのエネルギーが得られるのだから。しかし、本来の魔法少女は希望から生まれた存在。故に希望というエネルギーからしか魔法が成せないはずなのだ。しかし、彼女達は絶望すら行使する。穢れを限界まで溜め込み、魔法少女と魔女の境界が曖昧になったこのほんの少しの狭間で、魔女の魔力を持つ魔法少女と変貌する事ができる。勿論並外れた精神力と、希望を完璧に思い描き、心底信じきらなければ無理な話だけれど。

 

「ねぇ、どうしてあなたはこの世界を終らせようとするの、って聞いているの……!」

 

巴マミの瞳が獰猛な獣のように赤みを帯びた殺気を放っている。

 

「だから、言っただろう」

 

ボクは冷や汗をかきながらも、不適に笑う。

 

「神様の代用品であるボク。鹿目まどかが神となり、また一人の少女として転生した結果、その概念の空席を生めるためだけに造られたボクからしてみればこの世界が面白くなくて、気に入らなくて仕方が無いんだよ。吐き気がする。君達は何度も、何度も絶望するべきなんだ。それがこの“魔法少女まどか☆マギカ”っていう物語の決まりなんだよ! だから、ボクが元通りにしてあげるんだ!」

 

こちらには鹿目まどかのソウルジェムがある。これは確かにボクの切り札ではあるが、同時に彼女達が大切にしている鹿目まどかの魂で、命そのものでもあるんだ。鹿目まどかはこの中に存在している。無闇にボクに攻撃はできないはずだ。

 

「……だったら、私達は抗う! どんな絶望にも抗い、もがいて、そして希望を掴み取る! どんな絶望の世界だろうが! どんな地獄だろうが! 生き抜いて、成長していってやる!」

 

巴マミの背中から真っ黒な魔力の翼が羽ばたく様に広がり、風と魔力を開放する。ボクとあわせる様に腕を振り上げる。

 

上等だよ。ボクの闇と真正面から挑もうって言うのかい。いくら魔力が跳ね上がろうが、所詮は魔女レベル。概念であり、神様の代用品であるボクとでは格が違う!

 

ボクは特大の闇を巴マミに向かって吐き出す。雪崩のように膨大で禍々しい闇が巴マミに抗う術を与えない。

 

「アヴァンツァメント・リミッテッド!」

 

しかし、それ以上に禍々しく、膨大な魔力を感じる。絶望と希望の入り混じった強大な魔力量と質。魔法少女としても、魔女としても、まさに“限界突破”している。そして澄み切り全てを見透かすような眼光がボクの身体を貫く。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

巴マミが咆哮を上げると同時にその澄んだ瞳は、荒ぶる敵意のこもった瞳に相転換し、その強大すぎる魔力が弾け、火花を散らし、その絶大な力は魔法という形を得て姿を現す。

 

「……なん……だと……!?」

 

ボクの闇を一気に打ち消すほどに巨大な真っ黒な大砲が出現する。しかもそれは一つではなかった。六角形に造形されたその大砲の砲口が無数に合わさり、隙間なくボクを円状に取り巻き、まるで巨大な蜂の巣の中に立たされるような閉鎖空間を作り上げる。これでは逃げ場がないどころではない。こんな空間で集中砲火されたら衝撃波すらこの空間で逃げ場なく爆散することになる。鎌焼きどころの火力じゃない。

 

ボクはあっけに取られる。ボクを圧倒させるほどの魔法。これほどまでに強い少女。こんな強靭な少女達にボク達は挑んでいたのか……! 勿論手を抜いていたわけではないが、これほどまでとは……! 完全に認識違い、否、完全に甘く見ていたとしか言いようが無い。あの娘達では到底歯がたつわけが無い。どころかこれほどまでに時間を稼いでくれていること自体が行幸と言うほかない。

 

「し、しかし、巴マミ! いいのか! こちらには鹿目まどかのソウルジェムが――」

 

暁美ほむらが腕を空高く振り上げるとその手のひらにはしっかりと鹿目まどかのソウルジェムが握られていた。

 

「!? そうか! あの目眩ましの時に!」

 

あのリボンにボクは拘束された! その時懐に忍ばせていたソウルジェムを抜き取られていたのか!?

 

「これで手加減の必要は、ない!」

 

この巨大な大砲が光り輝く。キィィィィイイイイ! と甲高い音を奏でながら。奏でる音はどんどん高く大きくなる。魔力が圧縮され、高密度の魔法が生成されている証だ。

 

「チェント・ティロフィナーレ」

 

“チェント”百。百発の超巨大な大砲が一度に火を噴き、爆激音だけでボクの鼓膜が弾け飛んでしまいそうになる。荒れ狂う火力と爆風が容赦なくボクの身体を吹き飛ばす。

 

「ぐがぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

ボクは咄嗟に自分の中の全ての闇を全身に纏わり付かせ、わき目も振らずにただ防御に徹した。衝撃と熱は防ぎきれずに、身体のいたる所は骨折し、皮膚は焦げ、爆音で耳がやられたが、それでもボクは、立っている。

 

やった、これでボクの勝ちだ。これで、彼女は全ての魔力をだ――

「インフィニータァ!」

 

未だ、膨大な量の大砲は輝き続け、光が増していく。

 

馬鹿……な……!? これほどの魔力を、これほどの威力を持つ、最上級魔法を、連続砲撃……だと!?

 

大砲の砲口からは、無限に続く砲撃がボクを打ち貫く。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

四肢が粉々に粉砕され、内臓が吹き飛び、爆風で頭がもぎ取られる。

 

「鹿目さんとは、ちゃんとお話をしたかった! これは私達がしっかりとお互いを傷つけ合ってでも、解決しなければいけない事だったんだ! それを、あなたが滅茶苦茶にした! 私達の気持ちを、心を弄んだ! あなたがどんな崇高な目的があるかなんて知らないし、関係ない! 私達の大切なものを滅茶苦茶にしたあなただけは絶対に許さないんだからぁ!」

 

未だ、その爆炎と爆風はやむ気配がない。そんな地獄の業火に焼かれながら、ボクはただ数えていた。

 

98%。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

巴マミの咆哮とともに、その膨大な威力はとどまる事を知らない。

 

99%。

 

「これで、終りだぁああああああああああああ!」

 

最後の砲撃は、一際大きな爆風と爆炎を巻き起こす。その灼熱の炎が、その暴風がボクを蹂躙する。もう、痛みどころか衝撃すらろくに感じる事も出来ないけれど。

 

巴マミが崩れ落ちると、その魔法は跡形もなく消え、その魔法の中に押し込められていた、無残なボクの姿が現れる。

 

「……な、なんな……の……これ……?」

 

最初に絶望の声を上げたのは暁美ほむらだった。

 

巴マミは今の攻撃で、絶望の感情エネルギーも希望の感情エネルギーもほぼ使い切ってしまったようで、苦しそうに白い息を吐きながら、焦点の合わない虚ろな瞳で、ボクを見る。

 

ドクンっ、ドクンっ、と脈打つ音が響く。

 

ボクは鹿目まどかから莫大な魔力をいただいている。このソウルジェムの中でおそらく繰り広げられているであろう凄惨な戦いで、お互いの精神を削り合っている事だろう。ならば彼女らが消費している魔力はどこに行くか。本来ならば彼女達が戦い、敵を討つためにいくら魔法を行使し魔力を消費しても、鹿目まどかに宿る本来の魔力は減らない。減るはずがない。何故ならば彼女達は結局、誰とも戦ってなどいないのだから。彼女達は自分自身の精神世界でお互いの精神を、心を、魂を削り合っているだけなのだから。そこに痛みはあれど、なくなるものはないはずだ。身体をいくら傷つけようが、どこを殴り、刺し貫き、切り裂き、引きちぎり、燃やしつくそうが、精神さえ保ってさえいればそれで元通りのはずだ。

 

ならば何故鹿目まどかの魔力は消費され、摩耗し、今にも底がつきそうなのか。

 

それはボクが彼女達の消費した魔力を、このソウルジェムを通じていただいているからさ。見ての通りボクは今鹿目まどかの肉体を占領し、独占している。当然だ、魂はあの終焉の卵の中にいるのだから、この肉体の中にはボクだけしかいない。彼女の肉体を占領すれば魔力も手に入ると思ったかい?

 

実はそんなことは全然ない。本来魔法少女の魔力とは感情エネルギーなのだ。感情から生まれ、心で形成し、魂で輝くものなんだ。故にさっきまでのボクは鹿目まどかの絶大で莫大な魔力は実際のところ全く得ていない状態だった。

 

だから、ボクは鹿目まどかの魂を終焉の卵の中に押し込め、彼女の人格を細工させてもらった。彼女の精神を二つに分け、心を闇と光に分けたんだ。彼女の奥底に眠る人格を引き上げた。それだけで、おそらく彼女達はつぶし合ってくれる。元来、人とは自分自身の闇を最も毛嫌いし、恐れるものだ。

 

見事それは功を成し、魔力はボクの身体へと注ぎ込まれている。本来の人格である、魔法少女の鹿目まどかからは希望のエネルギーを。彼女の奥底に眠る魔女の人格からは絶望のエネルギーをそれぞれ頂戴した。その魔力量は受け取ってしまえば本当に圧倒されて、まともに“戦う”事もできないくらいだ。貯めるので精一杯。今にも身体がはち切れそうだ。魔力がここまで高濃度で、膨大だとはね。

 

そして。

 

100%。

 

今、世界を改変するだけの魔力を得られる事ができた。

 

ボクは今人間の形を保っていない。球体上の、心臓よりは一回り大きい程度の大きさ。

 

それが宙に浮き、心臓のように脈打っている。

 

「どういうことなの……!?」

 

ボクは全く魔力を使う事ができなかった。使ってしまえば、今にもこの肉体が崩れてしまいそうだったから。それに万が一にも魔力を消費して世界を改変する事ができなくなってしまっては本末転倒だからね。

 

しかし、肉体を傷つけられてもボクは困ってしまうんだ。風船と同じ。小さな穴でも開いたらそれで弾け飛んでしまいそうだった。だからボクは魔力を貯蔵している部位以外の全てを捨てた。ここだけに全ての闇を集中させ、魔力だけは漏れ出てしまわないように、必死に防御に徹した。

 

結果、あの恐ろしい威力のある地獄のような魔法空間の中この魔力が漏れ出る事だけは防ぎきり、最後に勝つのはボクだ。

 

「これで、終わりだね」

 

ボクは言い放つ。終焉の音をならすように。

 

魔力を開放し、ボクの身体を再構築し、その中心へと身を置く。ボクを核として世界の改変を始める。あまりにも強大で莫大で絶大な魔力は世界を滅ぼすどころか、歪み全てを飲み込んでしまいそうだった。

 

「安心しなよ。君達は結局元に戻るだけだ。巴マミは求め続けた希望を目の前に魔女に殺される運命で、美樹さやかは愛する男に絶望を与えられ魔女に成り果てる運命で、佐倉杏子は自分と重ねた少女の最後を認める事ができなくて、変わり果てた少女と共に命を果てさせる運命で、暁美ほむらは一人の少女の幸せを守るためにそんな地獄を何度も繰り返す運命で、そして鹿目まどかは少女の思いを蔑ろにしてまで叶えたその願いで、人間であることをやめて、遠い未来、幾重にも連なる時間の終焉で絶望するはめになるのだから。

 

「……そん……な……、私達は結局何の意味もなかったの!? 私達は結局運命に打ち勝つ事ができないの……?」

 

暁美ほむらが真に絶望したように、涙を零す。

 

「そんなの当たり前じゃないか。所詮君達は物語の登場人物なんだよ? そんな生きているみたいなこと言わないでくれよ。成長? 抗う? 打ち勝つ? 文字の羅列でしかない君達が? おいおい勘弁してくれよ、笑いを堪えるのも一苦労なんだ」

 

「……うそよ……」

 

暁美ほむらの歯噛みする音がこれ以上もなく心地いい。

 

「それじゃあ、面白い立ち回りを期待しているよ、“登場人物”達」

 

ボクは勝鬨を上げるように手を広げる。高揚感がボクの心を満たし、包みこむようだった。しかしそんな感覚も感情も暴力的に奪われる事になる。

 

「……か…なめ…さん」

 

巴マミのそんな聞こえるかどうかも怪しい蚊の泣くような小さな言葉が鳴り響いた瞬間だった。

 

ボクの背中が温かい。否。まるで誰かがボクの背中を触れている。手のひらをボクの背中に置いている。そんな感覚が広がる。

 

ボクはさっきまでの高揚感も勝利の余韻も嘘のように消え、自分の感情が消えていくのを感じる。

 

「……あとは…おねがい……ね……?」

 

そう巴マミは微笑む。

 

ボクは理解できないでいた。この奇妙な感触、誰かがボクに触れている、身体の奥底に入り込んでくるような、この感触はなんなのだ。ボクのいるこの空間に入り込める存在などいるはずがない。ボクの立ち位置はすでに物語の外にある。そんな例外的な存在にボクは今成り果てたのだ。ただの登場人物がボクに触れるなんて事が果たしてありえるだろうか。

 

ボクはゆっくりと振り向くとそこには。

 

「はい。後は私に任せてください。必ずみんなで笑って帰れる、そんないつもどおりの世界にして見せます」

 

バグに抱えられ、真っ白な女神の衣に身を包んだ鹿目まどかの魂が腕を伸ばし、ボクの身体と同化していたのだから。

 

ボクは何が起きたのか理解できなかった。ただ呆然とあたりの光景を眺める。世界の卵はひび割れ、穴が開いている、それにあわせて、暁美ほむらの握っていた鹿目まどかのソウルジェムにも穴が開いていた。そんなあの世界から自力で外に出てきたのか? 魂だけの状態で? 魔力を行使することもなく? そんな……、ありえないどころじゃない。一体鹿目まどかは“何を”知った? 世界のどんな秘密を、理を理解した。すでに前の存在よりも進化している。神すら超えているように見えた。まさか本当に成長したとでも言うのか? この文字の羅列でしかない鹿目まどかが自分自身の闇と対峙し、お互いを拒絶し合い、傷つきながらも受け入れて、成長し、進化してしまったとでも言うのか? 完全で、究極な存在にでもなったとでも言うのか。

 

ボクはただ何が起きたのか理解できずに立ち竦んでいると、鹿目まどかは笑顔で言う。

 

「それじゃあ、物語の外のお話をしよう」

 

鹿目まどかのソウルジェムと世界の卵が弾け、世界の中心に位置するボクと鹿目まどかだけが、取り残される。世界は真っ白に消し飛ばされ、空白の空間が延々と広がる。

 

『それでは最後の戦いを見届けさせてもらうよ』

 

そんな何もない真っ白な空間に小さなマスコットキャラクターのような生物がひょっこり姿を現す。

 

「……インキュベーター……?」

 

ボクの頭は完全に考える事を放棄し、目に入ったものをただ機械的に言う。

 

「うん。今から私達がどんな世界にするべきか議論し合い、生きるとはどういうことか、世界はどうあるか、私達はどうあるべきかを決めるんだよ」

 

鹿目まどかは楽しそうに微笑む。

 

ボクはただこの狂った展開に呆然と立ち尽くすしかない。

 

こんなのただ笑うしかないだろう。一体どういうことだよ。ボクが油断してしまったあの一瞬を、世界を改変するその一歩手前の小さな隙からここまでの事態になった。

 

「……そんなの狂ってる」

 

そうとしか言えなかった。

 

だって彼女達はこう言っているのだ。誰が好きにこの世界を改変するか、仲良くお話をして決めよう、と。

 

 

 

 

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