魔法少女と孵卵器(インキュベーター)~規制版~   作:ダル神

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第六十五話 とある日常の後日談

ああ、神様。もしも本当にいらっしゃるのなら神様。私は決して人ではないけれど神様。どうかお願いします。今この時だけは生きることを許してもらえないでしょうか。

 

私のした事は許されない事ばかりです。だから必ず報いを受ける日が来るでしょう。それでいいです。いずれ私は私の犯した罪に押しつぶされるのでしょう。でも、どうか今だけは。こんなにも私を愛してくれた、私がこんなにも愛してしまった、この人の前だけは、どうか生きることを許してもらえないでしょうか。

 

「私は人ではありません」

 

私は今泣いているのだろうか。さすがにそんな機能はないはずだけれど。

 

「私はとても口では言えないくらい酷い事をしてきました」

 

それでも、この次々と溢れてくれるこの気持ちはなんだろうか。

 

「それでも、私はあなたのそばにいてもよいのでしょうか?」

 

「……いいに決まってるよ」

 

そう彼は小さな私を抱き上げ、抱きしめてくれた。

 

それは私の、生きてもいない人生が全て報われる思いで、あるはずのない心は、何故かこんなにも溢れんばかりに充ち満ちていた。

 

「……宗谷さん……!」

 

美樹さやかの言っていたように私は全ての罪をしっかりと見つめていこうと思う。私はきっと許されない。それでも彼女の言った“どんなに罪深い奴でも、どんなにどうしようもない奴でも、それでも生きちゃいけないなんて事は絶対にないんだよ”とそんな優しくも厳しい言葉を信じたい。

 

いや、願った。それが真実である事を。

 

ありがとう、さやか。臆病者の私一人ではきっと生きることすらできなかったことだろう。

 

醜い私はそれでもこの人と一緒に生きていこうと思います。

 

これはきっともう永遠に語れる事はない、一つの人形を愛してしまった狂った男と、ただ一人の男を愛してしまった罪に塗れた醜い人形の物語だった。

 

―――壱輪揚羽。

 

 

 

あの凄まじい戦いは、しかしなんの傷跡も、痕跡も残すことなくおさまったと言えた。何故ならばこの世界には結局凄まじい戦いなど起こっていなかったのだから。傷跡も何も在るわけがないのだけれど。

 

気がついたら朝になっていて、あれほど長い戦いと感じていたけれど、それがなんと丸一日も経っていないのだから不思議なものである、と本来ならそれで笑って終らせられる神経の図太さには自身があったのだけれど、真に遺憾ながら僕は笑い飛ばすことはできなかった。

 

といいますか、普通に絶望しました。もう、絶望の至りって感じでした。

 

誰にとも無く敬語で話したいほどに、僕は焦っていた。というかもうこれ焦ってもしょうがないでしょ。普通に諦めますか。

 

まぁ、何を諦めるかといえば、古典のテストの追試である。

 

凶悪な顔をした担任(箱入生娘先生)が言っていた事を、見事覚えていらしやがりました、巴マミさんが、そういえば、あなたの追試どうするの? と青い顔で尋ねてきやがるものですから、まぁ当然僕も一緒に青くなるしかないじゃないですか、という話である。

 

というかマミさんすごいっすね。マジパネぇっすわ! あの戦いが終わって、まどかとの感動的な再会を果たしたその後すぐの第一声。どんだけテストの心配してくれてんすか。僕なんてあの戦いのおかげで今までの人生ところどころ曖昧になってるくらいなのに。

 

まさかさすがのマミもあの戦いと僕の追試を同列に扱っているわけではないと思うが、しかし当の本人が全く記憶に無い事をずばり、素早く指摘してくれるとは、ありがたさ半分、もうそのまま忘れて寝落ちしたい気持ちが半分という感じ。

 

ああ、やっと戦いが終わったのだ、みたいな感慨深い余韻を見事に奪いやがった憎たらしい担任の顔を思い出して途方にくれる僕達を、しかし救ってくれたのは他でもない、マンションの住人である。

 

マンションの住人も一度は魔法少女化させられ、即魔女化の危険があり、ましてや敵側に操られるという最悪な状況だったにも関わらず、朝になればみんなけろっとしていたどころかいつもどおり元気いっぱいだった。幸い記憶には残っていないご様子で、今は夏で、日の出の時間、つまり朝五時前後なのだけれど、ほぼみんなが起きているという事実に驚愕するばかり。

 

しかし驚愕するのはそれだけではなかった。なんとすごい事に僕の追試を知っていたどころか、僕が追試に受かる事はないと最初からわかっていた(考えてみれば大変失敬な話ではないだろうか?)ようで、あらかじめ天才発明少女、トラブル娘エジソンちゃんに話をつけてくれていたと言うではないか。

 

その大変失敬な少女、常根暗 闇子。あれ? こんな娘マンションにいたっけ? みたいな事を思ってしまうが、よくみれば普通に常根暗闇子ちゃんである。美しい真っ黒でロングな髪、真っ黒なワンピースに真っ黒な靴。年中喪服を着ているような、どんだけ黒が好きなんだよ! といつか突っ込みをいれようかと心に誓っていた少女である。そのはずだったのだけれど、僕は彼女が現れた後、数秒の沈黙のあと、はっと思い出したのである。 全くどうして今まで彼女を忘れていたのか大変に不思議である。

 

別段影が薄いわけでもなく、その美しい顔を忘れほど僕の頭はボケてはいないはずなのだが。

 

しかしまぁ何はともあれ、これで解決だ!

 

と、その時は浮き足立っていたが、他人に問題を丸投げしておいて、大変に申し訳ないのだが、しかし、エジソンちゃんが渡してくれたのは、見た問題の答えを写してくれる超高性能めがねでもコンタクトレンズでもなく、一般的な超小型イヤホンだった。

 

どういう構造になっているのかステルス使用。

 

いや、魔法少女ならぬ発明少女がもってくれるものならば、猫型ロボットばりにすんごい出鱈目グッツを披露してくれるのではないかと、内心ワクワクしていたのだけれど……。

 

「おいおい、キューさん、まさかどんな難問も答えを導き出してくれるめがねとか期待していたんじゃあないだろうね?」

 

ずばりそのとおりでござる。

 

「いや、それもできないわけじゃあないんだけれどね」

 

できるのか。

 

「しかし、今回は土曜日なのに、本来ゆとり教育である見滝原中学校がわざわざお休みの日に、テストをするんだよね? 補習ならぬ、再テストなんだよね? 馬鹿の頂点を極めしキューさんただ一人の為の救済処置なんだよね?」

 

「……はい、そうなんです」

 

敬語にならずにはいられません。

 

「だったらおそらく監督の先生は一対一で君を監視しているわけじゃあないか」

 

「ああ、確かに!」

 

「そんな他の生徒がいるならまだしも、普段裸眼のキューさんが、裸眼で女子の裸を覗く為なら4.0くらいの視力を発揮するキューさんが、めがねなんてしてたら先生が不振に思わないわけが無いでしょう?」

 

確かにその通りではあるけれど、女子の裸体のために底力を発揮するような言い方はやめてくれ。僕はそんな尻軽男じゃあない、マミ一筋だ。

 

「加えて答えがレンズに文字が現れたり、チカチカ光っていれば気付かれる事は必至」

 

「だとするとこのイヤホンは一体どうするんだい?」

 

「そのためのステルスイヤホンさ。がん見していても決して気づかれる事はない。音量も調節すればいくら閉鎖空間の無音でも音が聞こえる心配も無いでしょう」

 

「な、なるほど」

 

「つまりキューさんはこのイヤホンをしながらただテストをうければいいのさ」

 

「それは大変ありがたいけれど、このイヤホン、カメラ機能とかはついてないよね? どうやって僕の答案を見るんだい? 誰かが僕に解答を教えてくれるんだろう?」

 

「うん、任せろ! 住人みんなで頑張るから!」

 

「意味無いだろ! それ! 僕の知能と大差ない奴らが何人集まっても一緒なんだよ!」

 

つーか、君達はまだ古典と言う学問にまだ到達していないはずである。最近九九がどうとか、小学三年生漢字で唸っていたじゃあないか。

 

「ぐすん、それはひどい」

 

「解答を導き出してもらうのは普通にマミにお願いするとして、どうやってその解答を見るんだい?」

 

「え? 普通に見滝原中学校だったらどの教室も隠しカメラでいっぱいだから安心してよ」

 

……安心できない。日頃の学校生活が普通に安心できない。

 

 

 

 

 

まあ、無事テストも乗り切れそうで一安心。

 

初めて周りの風景が目に入った気がする。

そういえば織莉子とキリカだけれど、無事二人して、イチャラブしながら帰ったとか。あのまま合体して元に戻らなくなったとかなくて本当によかった。まぁ、なんて言うか、そのまま幸せになってほしいお似合いの二人組だった。

 

まあ、織莉子は普通にマミが恐くて逃げ帰っただけなのかもしれないけれど。

 

む、僕は驚きにその場で固まってしまう。

 

さっきあげた二人ならばまだしも、さやかと杏子までもがいないことに、僕は違和感を感じる。

 

あの二人が僕達に無断で帰ることがありうるだろうか。

 

もしかしたら、まだ戦いは終わっていないのかもしれないという不安が頭をよぎった。

 

 

 

 

テストを無事切り抜け、帰ってきたら案の定不安は見事的中していた。

 

具体的にどう的中したかといえば、僕の後輩が犯罪者になって、もう一人の後輩は警察のお世話になった上、大怪我をしていた。

 

青い後輩と赤い後輩。

 

とりあえず青い後輩の話をするけれど、もう普通に青ざめた。追試を思い出したときより驚いたし、絶望した。

 

青い後輩こと美樹さやかは窃盗を犯したのだ。

 

普通に泥棒をした。盗人である。有体に言えばパクったのである。

 

何をパクったのかといえば、どこかの由緒正しい家の、超高そうなお人形さんである。

 

もう、人形持って帰ってきたときには驚きで、言葉も出なかった。

 

つーか普通にふざけんな。 すぐ返してきなさい! 怖い人に怒られないうちに!

 

おかん顔負けの説教を食らわしたのにもかかわらず、まったく堪えるそぶりもなく、エジソンに改造を要求した。

 

あのゲームの勝利報酬である、願いで。

 

どう改造したかといえば、ただ自由に動く機能と、声帯機能、音声機能をつけてくれとなんとも不思議な要求だった。

 

人工知能はいらないのかと思いきや、不思議な事に声帯、音声、四肢を改造された人形は、自分の意思で、自分の足で、自宅まで帰ったのである。

 

それを満足そうに見ていた後輩は遠い目をして言う。

 

「なんだかさ、どうしても放っておけなかったんだよね。あんな一途に、狂ってしまうくらいに愛した人を、どうしても諦めてほしくなかった。色々だめだった私としては、どうしても見てみたかったのかな。報われない恋でも、許されない恋でも、それでも色々な奇跡が重なって成就されることもあるんだって」

 

そんな後輩を見て、なるほど彼女にはどうしても幸せになってほしいものでもいたのだろうか、と納得してしまう。

 

しかし泥棒はやりすぎである。最近の警察はすんごいのだ。道端でマミの胸をまさぐるだけで警察署にまで連れて行かれるほどに凄いのである。まぁこれはまた別の凄さがあるけれど。

 

そしてマジで訪れた。

警察が。

もう、さやかなんてガクブル。自分の犯した罪を神に懺悔し、それでも醜く許しをこう姿はなるほどあまりにも不憫で、とても警察に彼女を引き渡す事などできるわけもなく、住人全体で彼女を庇うべく動いていたのだけれど。

 

しかし予想外な事に、その警察は話を聞きにきただけだったのだ。

 

今は病院で治療中らしい、佐倉杏子の事を。

 

僕達は警察の聞き込みそっちのけで、大慌てで病院へと向かい。

 

杏子の身体を包帯が縦横無尽に巻かれていた。特にひどいのが両腕だった。それは骨折しているのか、切り傷なのか、刺し傷なのか、僕ではとても判断できなかった。

 

しかし、それほどまでに、もしかしたら命を落としてもおかしくないほどに彼女の傷が深い事が一目でわかった。

 

彼女の姿を見て驚きで固まる僕達。

 

彼女は僕達の姿を見るや、涙を流しこう言った。

 

あたしは一人の少女の人生を台無しにしてしまった、と。

ただ一人の母親を奪ってしまった、と。

 

一体彼女は何をしてしまったと言うのだろうか。

 

彼女は一体誰の為に血を流し、どんな罪を犯したと言うのだろうか。

 

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