実況パワフルプロ野球~あの空のムコウまで~   作:たむたむ11

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第二章 第6話「先輩」

 青々とした空をただただ見る事しか出来なかった少年が再び空の下へと舞い降りた四月の初め。

 病院の敷地内は満開に咲き乱れる桜と、舞い散る花びらに染まっていた。

 大きな荷物を抱え、すっかりと元気を取り戻した少年は大きく背伸びし空を見る。

 本日も晴天。空には疎らに雲が散らばっており、桜の木を揺らす程の春風が退院する少年を乱雑に迎えていた。

 

「ふーっ、長い入院生活だった……」

「お役目ご苦労様、隼ちゃん♪」

 

 入院してから一週間、この日ようやく退院許可が下り溝浜疾風の寮へと戻る事となった隼はふと息をつく。

 既に彼はユニフォーム姿、病院に運び込まれた時の服装を纏い隼は溝浜疾風の野球部へと戻ってゆくのだ。

 見送りに来た邑子はニッコリと笑顔を浮かべながら言う。

 

「隼ちゃん、これからどうすればいいのか……ちゃんとわかってる?」

 

 確認するようにそう問いかけられた隼は、しっかりと邑子の目を見つめ返しハッキリと言い切る。

 

「はいっ! 僕は袰延君を止め、きちんとした野球部活動を再開させてみせます!」

「ふふっ……、それでこそ私の子ね」

 

 我が子が再び戦地へと向かう事を知っていながらも、それを笑顔で迎えていた邑子。

 本当は、そんな所に我が子を向かわせたくはない。

 しかし隼に野球部の現状を聞かされ、野球部の為に尽力をつくしたいという隼の気持ちを、自分の気持ちを抑えて素直に汲み取っているのだった。

 

(大丈夫、あの子はもう一人じゃないから――)

 

 今までは隼が困っていたらずっと自分が寄り添っていたけれど、今はもうその必要もない。

 隼にも仲間が出来た、だからもう大丈夫……。そう信じていた。

 

 

(野球部を……、救えるのは自分しか居ない……)

 

 そして隼も、この一週間袰延による圧政が敷かれている野球部の事を考えると気が気で無かった。

 袰延の掲げる思想は非常に危険で容認しがたいもの。

 仮に袰延に従う事で溝浜疾風が甲子園に行けたのだとしても、そこに誰も夢を感じる事は出来ないだろう。

 人間、誰しもが袰延の様に強くいられるわけではないのだ。このまま袰延の圧政を続けていたら、最後に笑う事の出来ない人が出るに違いない。

 だから彼を止めなくてはならない。

 隼はそう決意していた、そしてそれを止められるのは自分しか居ないと思っていた。

 隼は邑子に一礼すると、病院を後にし溝浜疾風高校の下へと真っ直ぐ向かって行った。

 

 

 

 

 

 ――入院してから一週間、監督とは連絡が取れなくなっていた。

 あの後、一体野球部で何があったのか。病院送りにされた以降の事は全く聞かされていない隼。

 知っている事は野口とジョザが隼を病院まで運んできてくれた事ぐらいである。

 今現在の野球部の現状の事、何故監督と連絡が取れなくなったのかと言う事、そして矢部や野口、ジョザの現在……、分からない事が多い。

 兎にも角にもまずは現状を把握する事が先、そう判断した隼は溝浜疾風高校に到着するとまずは準備の為に長く空けていた寮へと向かう。

 

「この時間だし、流石に野咲先輩達は練習中だろうなぁ……」

 

 そう呟きながら隼は寮室の鍵を開け、部屋の中へと入って行く。

 時刻は午後五時、夕焼けに空が赤く染まってくる時刻とは言え球児達にとって空の様子など関係ない。

 男子野球部も同じであるが同室の夢花達も女子野球部の練習に出ている時間である。

 監督の事については夢花達に聞くのが一番だと思っていたが、そのためには少し待たなくてはならないだろう。

 そう思いながら部屋の奥へとゆっくりとした足取りで向かってゆく隼。

 するとその部屋の奥からは予想を裏切るような甲高い声が隼を出迎えて来た。

 

「あーっ、隼クン! おかえり~っ!!」

「本当だー、やっと帰って来た!」

 

 奥から現れたのは夢花と涼子、今の時刻を考えると練習に出ている筈の二人が出迎えて来たのだ。

 二人の行動はいつも予想外とは言え、呆気に取られ呆然としていた隼。

 すると、二人は隼に落ち着く時間すら与えず質問を投げかけてくる。

 

「今まで一週間もどこ行ってたの? 監督とどこかに?」

「え……?」

「そうだよそうだよっ! 監督は何処にいるのっ!?」

 

 突然のぶっ飛んだ質問に困惑する隼。どうやら、二人は隼が病院に入院してた事すら知らない様だ。

 勿論、二人には自分が入院していたなんて話はしていない。しかし、こんな事態になっているならば話が伝わっていてもおかしくない状況である。

 そして二人の話の中では男子野球部と女子野球部を兼任している筈の八剣監督も行方が分からないというらしい。

 監督が居ない故に練習せずずっと寮の中で待機していた、と隼は瞬時に把握した。

 

「え、えーっと……、とりあえずまずは僕の話を聞いて頂けます?」

 

 帰って来たばっかりで話が纏まらない隼。一先ず、状況を落ち着かせる為まずは二人に隼自身の現在の境遇について説明する。

 男子野球部の抗争があった事、袰延という男が野球部を支配しようとしている事、袰延に打ちのめされた事。そして入院させられていた事。

 どれもこれも非現実的な話であり、比較的平和な女子野球部の常識では考えもつかない内容に二人は口を開きながら聞き入っていた。

 そしてその後、今度は夢花達から現状の報告を受ける。

 あの日以来監督が消えた事。そのせいで女子野球部の練習も壊滅状態にある事。そして、男子野球部員の目に光が無くなった事。

 どうやら、問題の影響は既に男子野球部の中では納まりきらず、溝浜疾風高校全体を巻き込み始めている様だ。

 そして消えた監督の行方。それに関しては隼は何故消えたのかを何となく理解していた。

 

「多分、監督は責任を負いたくないから逃げたって事だろうね……」

「あー、やっぱそういう事なのかねっ」

「監督見た目は怖いけど完全に小物だからねー」

 

 思わず愚痴を溢す三人。野球部を強豪に仕立て上げた手腕は認めれるものの、やはりそのいい加減さ責任感の無さについては皆呆れているらしい。

 しかしこのまま監督不在が続いてしまえば今度は野球部全体の信頼も損なわれるだろう。

 そうはさせまいと隼はその場で目の前に居る夢花と涼子に対し、こう宣言をする。

 

「これから僕は、もう一度袰延君の元へと向かいます……。今度こそきちんと決着をつけてきます!」

 

 しかし真剣な面持ちを浮かべている隼とは対照的に、事態の深刻さを理解してないのか夢花達は笑みを浮かばせながら茶化し始める。

 

「おおーっ、カッコいい事言うじゃんっ」

「あれだあれだ、倍返しだ! ……とか言う感じの奴?」

「取りあえず釘バット持ってく? 何なら私たちも武装して攻め入ってあげてもいいけど?」

「ちょ……、ゆーちゃん? その私たちってまさか私も頭数に入ってるの……?」

 

 段々と話が武力行使へと繋がって行き、勝手に盛り上がって行く二人に対し、隼は頭を抱え込み唸りながら悶えるように体を捻じらせた。

 

「ああ、もう! 先輩達ももうちょっと真面目に考えてくださいよぉ! この問題を解決できなかったら最悪大会に出れないんですよ!?」

「あーあー分かってる分かってるっ、隼くんがきちんと考えてるって事はきちんと理解してるよっ」

 

 すると先ほどまで、全くと言っていいほど緊張感の無かった夢花の顔が珍しく真剣な表情へと変わっていく。

 彼女も分かってはいるのだ、部活が違うとはいえ大切な後輩が苦しんでいる事を。

 夢花は鋭い視線を向けてくる隼の肩に手を掛けながら、ニッコリと笑みを浮かばせ語り掛ける。

 

「私たちだって、本当はそんな危ない所に後輩が行くのを黙って見てる訳にはいかない立場なんだよ。けど隼くんの事だから“危ないから行くな”って言っても聞かないのは分かってる。だから私たちも隼くんを止めたりはしない、これでも隼くんの気持ちを尊重しているつもりだよ?」

「野咲先輩……」

「確かに隼くんは正しい事をするんだと思う、けど何の策略も無しに危険な所に突っ込もうとするのも良くない。少し頭を冷やしてみなよ?」

 

 非常に冷静な言葉を掛ける夢花に、隼は少し俯いたまま何も言えずにいた。

 思えば、どうやって自分は袰延を止めようとしていたのか。

 本当に武力で押さえつけようとしていたのか。はたまた夢花と対決した時の様に一打席勝負を仕掛けるつもりだったのか。

 今にして思えば、自分が冷静ではなかった事は明白だ。

 一週間前、袰延は既に野球部員を思うがままに支配していた。

 飴と鞭を使いこなし、より強いチームへと変貌させようとしていた。

 そんな男に単身で挑もうとすれば、たちまち隼は野球部員全員を相手取って立ち回らないといけない。無論武力行使など出来るわけがない。

 かと言って、一打席勝負で本当に決着をつけれるものなのか。

 実際、夢花と対峙した時も隼は身体能力を駆使し内野安打を掠め取る事しか出来なかったのだ。

 そんな勝利で本当にあの男が納得するものだろうか。

 隼は悩み込んだままじっと地面を見つめていると、ふとその視線の先に先回りするように夢花が顔をのぞかせて来た。

 

「ねぇ隼くん、一人で悩んでても仕方ない事だと思うよっ」

 

 首を傾げるような仕草を見せつけ、そう呟く夢花の表情は優しく微笑んでいた。

 野球部を助けたいという気持ちはある、袰延に野球の実力で勝つという自信もある。けれどどうしても全てを解決できる糸口が見つからない。

 そして隼がその一歩を踏み出せないでいる中で、夢花は隼を導いていくかのようにその手を掴みこう囁きかける。

 

「隼くんには私たちも居る。例え隼くんが野球部全員を敵に回しても、私は隼くんの味方でいるよっ。だって隼くんは私の大切な後輩だもの」

「野咲先輩……!」

 

 普段とは打って変わって真面目で優しさに満ち溢れた夢花の表情を目の当たりにし、この日初めて隼は夢花に対し先輩としての威厳を感じていた。

 そしてそんな夢花に感化されたのか、涼子も仕方がないと言わんばかりに息をつくと、ベットの下に隠されていた謎の木製釘バットを手に取り前に出る。

 

「まあ、私たちも監督に戻ってもらわないといけないし……いいよ、私も行くよ」

「長瀬先輩も……」

「よしっ、んじゃあその袰延って子の元へと向かいますかっ!」

「はい!」

 

 夢花の言葉に、心一丸となって袰延率いる男子野球部のグラウンドへと向かって行く隼たち。

 こうして、隼は頼れる先輩二人と共に袰延の元へと向かう事となる。

 その道中、釘バットを引きずらせている夢花と涼子の姿をずっと目の当たりにし、何も言わないながらも隼はある疑問を心の中に抱いていた。

 

(そういえば、なんでこの人達こんな釘バットなんて持っているんだろう……)

 

 しかし、隼にはそれを聞く勇気はなかったと言う――。




すみません、PCが壊れほぼ2か月何もできずにいましたむたむでございます・゚・(ノД`;)・゚・
急いで更新しなきゃと言う理由で短い話ですが分割して投稿させていただきましたございます(´・ω・`)
次の袰延との対談話を含めるとちょっといつ更新できるかわからなくなりそうだったので・・・

活動報告には2話分飛ばし飛ばしで書くといいましたがどうもうまく書けそうにもなかったのでございます・゚・(ノД`;)・゚・
次のお話も少し更新が遅れると思いますががんばりますございます!

来てない間もお気に入りや評価してくださった方ありがとうございました!
これからも失踪しないようがんばっていきますのでよろしくございますです!
では!
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