「―――このように、中国軽慶市で生まれた『発光する赤児』の誕生と同時に〝個性〟を持つ人口数は増加し同時に〝個性〟を利用した犯罪者が瞬く間に広がった。事態収拾にはまず〝個性〟研究専門機関の設立、国際条例の制定等が挙げられるがどうしてもそれまでには〝個性〟による犯罪を止めることは叶わない――筈だった。だが当時〝個性〟が与えられたのは無秩序だったことが災いし必ずしも力ある犯罪者のみとは限らなかった」
嗚呼、
「但し〝個性〟を身に着けたことによる犯罪者の比率は圧倒的に多い。何故ならば他人より優れた力を持っているという自負心が驕りを生み、〝個性〟を悪用した生き方の方が遥かに楽だと考えたからだ。当然だな、当時はまだ〝個性〟の乱用による法整備が生まれていない。物を盗もうが、人を殺そうが、如何なる犯罪を犯そうが罰則なんてないからな――これが、〝個性〟発現の黎明期、第一世代の暗黒時代だ」
板書を終え再び生徒たち向き直ると、雷っ子が鼻からチョークを生やしてた。インガオホーだバカヤロウ。チョークの粉の白と鼻血の赤がめでたいクリスマスカラーを彩ってるぞ、素晴らしいな。
「ざっと個性史のおさらい、ここまでお膳立てしたからわかる奴にはわかると思うが最初はこの暗黒時代の犯罪者に関わる心理学を進める。興味ある奴だけ出るんで構わないが一応テストには出るからできれば全員参加推奨だ。学期末試験に関してはトップシークレットなので今は説明しないが、今学期の大まかな流れは第一世代の〝個性〟犯罪者の犯罪傾向、動機、軽いプロファイリングを体験してもらう。スムーズに終われば第二世代にも踏み込むが本格的な授業は二学期からだ、そこまで警戒する必要はない」
導入は軽い〝個性〟の歴史から本題に入る。おい
「――雄英高校に入ったお前等が進んで犯罪者になる可能性は無いと思いたいが決してゼロでは無いんだ、わかるか?」
軽い威圧というものを出してみる。少し寒くはなったかな? ちょっと生徒共の顔が青い。
力んだだけで気温が40℃くらい跳ね上がるバケモンヒーローと比べれば俺からできるのはせいぜい教室程度の密室の気温を少し下げる程度の感覚しか与えられないのが悔やまれる。
「言っておくが俺はお前等を生徒と見なしてはいるがヒーローだなんて欠片も思っちゃいない。Aクラスだからヒーローの卵だなんだと持て囃されてるようだが孵った卵が実は托卵でヴィランになるなんてザラだからな。昨今〝個性〟持ちでなくても教員職やってたら性犯罪に手を出してました、なんてよくニュースに出るだろう? 必ずしも全員ヒーローになれるとは限らない、挫折してもまたヒーローを目指し、そしてそれに成功した奴は極僅か。大抵はそのままヴィランへと傾き、あとは犯罪者街道一直線だ。だが安心しろよ、犯罪者に堕ちた生徒を罰するのは先生のお仕事だ。犯罪者になったことを後悔するくらい苛め抜いて豚箱にぶち込んでやるから」
そもそもヒーローを育てる為に専門知識というのはかなりデリケートな部分であり、その知識がヴィラン側に悪用されるのはヒーロー協会としてはかなり立場の悪くなる事案だ。しかし近年の〝個性〟犯罪者は増加傾向にあり、現在現役中のヒーローは第三、第四世代中心であり特に第四世代はヒーロー教育に熱を入れ始めた世代でもある。それでも増加傾向であるということはつまり――ヒーロー教育を受けた者の一部がヴィランになってる絶対数が多いのである。
「まぁ、脅してみたけどそもそもあの入学試験に合格したってことは第一から第三までヒーロー志望で根気のある連中だから態々俺が出張る必要もないか」
だからこそ、専門高等学校での教育はかなり専門性を増した講義プランになっているのだが、俺から考えても正直博打に近い。
成功すれば犯罪者の抑止力となり結構な数のヴィランを駆逐できる。
ただし失敗すれば――ヴィランの数は格段に増え、犯罪数は爆発的に増加する。
業深い社会だ。大人の都合に、前途ある子供を巻き込むなんて。
「改めて自己紹介だ、今年から雄英高校の犯罪心理学を務めることになった
赤銅色の瓶にぽこぽこと泡が浮かんでは消えていく。
芳醇な煙は瓶の中央から伸びる銀のパイプを通り、柔軟なチューブ状のホースを通過し、咥え込んでいるマブサムから口元へと運ばれる。ゆっくりと、味わうように吸うことで甘ったるい香りが喉を通り、気道を抜けて肺を満たす。
合間合間に息を吐くと、瓶の逆側の逆支弁からころころと金属製のボールが転がりながら煙が漏れていく。
「ぷぁー…旨ぇ」
「リョン君!」
「あ、オールマイトさん。どもっす」
授業を終え教師用喫煙室で水煙草を堪能しているとオールマイトがいつものムキムキボディでサムズアップして飛んできたいた。別に俺以外に今は廊下に誰もいないから力まなくてもいいのだが。
「いやぁ、キミが来てくれて助かったよ! 雄英高校に赴任するからしばらくはこっちにかかりきりになるからね! キミとの距離は近い方が負担も少ないし持続時間もそこそこだしね!」
「まぁ――実際距離はあんま関係ないんすけどね。どっちかっつーと俺の〝個性〟で曖昧にしてるだけで、オールマイトさん自身が描く理想像と周りの人が思い描く理想像を掛け合わせた分だけ効果は持続します」
オールマイト――世界中の誰もが知る英雄のベスト・ザ・ベスト。
あのエンデヴァーをも上回る実力を持つ真なる〝平和の象徴〟
―――というのも、極一部はそれはもう秒読み段階に入ってると知っている。現に俺やリカバリーガールの婆さんも現役引退はそう遠くないだろうと予想している。
だがそれは今ではない。
今は不味い、オールマイトの存在は在り続けるだけで犯罪者の最大の抑止力となっているのだ。現状ではヴィランは未だ多くの数が世間で騒がれており、此方でも面倒な組織が水面下で蠢いているという連絡も入っている。
今斃れられたら不味いのだ。だからオールマイトは俺の〝個性〟の補助を受け続けている。
死ぬよりも苦しみが伴うであろう拷問の如き副作用と引き換えに。
「でも掛けなおすのに態々外国にいるリョン君のところへ飛んでいくのは最近辛くなってきてね…ホラ、もう歳だからさ!」
「以前ラーメン食おうとしたら頭からテーブルに突き刺さってたこともありましたよね、ギリギリまで働いてるから時間ヤバくなるんですよ」
「だってホラ…プロは、」
「プロはいつだって命懸け!! でしょ? わかってますよそれくらい」
わかってる。オールマイトは自分が背負っている責任や名声の重さをしっかりと理解しているからこそ、ヒーロー協会の要請を受け入れて俺の〝個性〟を受け入れた。
苦痛に関していえば、それは使用者である本人たる俺と他人との違いだろう。数日程度であればそこそこの立ち眩みなどの体調不良で済むが、年単位となると曰く、脊髄を鑢でゴリゴリされるくらいキツいらしい。恐らく人間の感覚器官に作用しているせいだろう。
「あ~あ~、もうちょい給料あがんないかなぁ」
「キミはよく食うからね! ヒーロー職の方が教員職よりも給料はいいし!」
「いや、今兼任してるんすけどそれでも足りないんですよね。主に先生でいる時間が多いせいなんですけどどうしても足らないんで前より少ない時間でヒーロー職やってるんで今までより疲れるしその分お腹の減りも早くて」
「よし、じゃあ今日の晩飯はこのオールマイトが奢ろう! 今晩はなんでも好きに食べるといい!」
「マジっすか。オールマイトさんさっすがぁ」
「その代わりと言っちゃなんだけど、もうちょっとリョン君の〝個性〟の掛けなおしのインターバル長くしてくれない? あれ結構面倒でさぁ…」
「それはダメっす、アレ一応身体検査も含めてるんで」
九人兄弟で上から五番目