htoL#NiQ―無垢な少女の輪廻への乱入者 作:通行人 放浪
...よかれと思って!よかれと思って!
乾ききった、茶に侵食された鉄の道を踏む足音が響くも、動き続ける歯車の機械音に掻き消されてゆく。
輪廻を繰り返しても、衰えを見せない無数の機器。
それらを、ミオンは、まるで子供が社会見学に行った時のように純真無垢な目でキョロキョロと見回していた。
ここは、いわば巨大な工場。
不意に、ミオンが歩みを止める。
ミオンの視線を追うと、そこには、私達の進行方向の逆に回転している、幾つもの歯車で構成された道だった。
「あんなに早かったら落ちちゃう...」
泣きそうな声色で、狼狽えるミオン。
確か、歯車の方向を反転させるレバーがあったはずだ。
輪廻の記憶を頼りに、辺りを見回す。
すると、運良く、付近に、古びてはいるが、錆びきってはいない、ミオンと同じ程度の大きさの地面に付いているタイプのレバーがあった。
無論、私の力ではレバーを引くことも、押すことも叶わない。
身体を使って、彼女の頭を、やさしめに(かといって、強くするのも一苦労だが)小突く。
「わっ...ほ、蛍さん?」
小さな悲鳴を上げて、尻餅をつくミオン。
この姿では声をかけることもできない。
ミオンが此方を見詰めてくることに気付くと、私は、出来るだけ早くレバーに近付くと、全身でまた、レバーを小突く。
無論、貧弱な私は、堅い鉄に、跳ね返される。
しかし、狙いはそれではない。
「もしかして、このレバーを引いて欲しいの?」
上手く意思疏通が出来たのを確認した私は、身体を縦に揺らした。
わかった、と小さくミオンは頷くと、足早に近付き、レバーを力一杯引き始めた。
「んっ...」
ミオンが力むのと共に、錆が少しずつ剥がれていく音と、金属同士が擦れる音が発生し、合わさり、辺りに高い不協和音が響く。
ガタン、という鈍い音と、共に、歯車が一時的に止まり、それから直ぐに逆回転した。
有り難いことに、逆回転した後の歯車は、緩やかなスピードで回転し、幼いミオンでも渡れそうな程だった。
「疲れちゃったな...これで行けるね」
額に汗を見せながら、一息つくミオン。
だが、時は休息をも許さなかった。
「ギギッ!」
「ひゃっ!?」
生き物の声色とは思えない音と、驚くミオンの声で、何があったのかと振り向くと、数メートル離れた所に、奴等...”影”が何匹か、いつの間にか現れていた。
私は、軽くパニックに陥っているミオンを割と、今度は強めに小突き、我に返す。
ごつん、と小気味よい音が鳴った。
「いたっ!...ほ、蛍さん、逃げるのは分かったけど痛いよ」
軽く涙ぐむミオンを連れて、私達は歯車の道を全速力で渡り始めた。
同刻、ミオン達が追われている中、行人というジョーカーは、影蛍と共に、彼女達の元に無我夢中で走って―
「風で空高く飛んで、飛ばなくなった所に足場があって怪我せず済むとはついてるな」
―無かったッ!
意外ッ!それはッ!のんびりッ!
『何してるんだ!早くしないとミオン達が!』
悠々とポケットに右手を突っ込み、左手に銃は持っているものの、構えずぶらぶらと、周りを見渡しながら歩く行人の自由っぷりに、流石の影蛍も、大声で叫んでしまう。
だが、必死の影蛍に対し、等の本人は、今尚平然としていた。
「あんま焦っちゃ駄目だぜ、周りが見えなくなるからな」
行人は、不敵な笑みを浮かべ、銃を玩具のように回し始める。
『分かった!私一人でも行ってやる!」
耐えきれない、という風に、影蛍は行人の影から離れて、ミオンが向かっただろう痕跡を辿り、素早く影を駆け抜けて行ってしまった。
一人残された行人は、
「やれやれだ、既にミオンちゃんは動いているってのに」
と、苦笑を帯びた笑みで呟き、反対に回り始めた歯車を一瞥しながら銃の回転を止める。
そして―
後ろに迫っていた”影”の頭部を、寸分狂わず撃ち抜いた。
銃弾は”影”を容易く貫通し、近くの機械盤に小さな銃痕を残す。
強襲に敢えなく失敗し、おまけにカウンターの銃弾まで貰った”影”は、力無く地に倒れ、溶けていった。
「なんでかお前ら”影”共は、ミオンちゃんより俺殺したいらしいな...イレギュラーってやつだからか?」
彼は、ゆっくりとした手付きでシガレットを取り出す。
「黒幕さんに言ってやる。ミオンちゃんを舐めない方がいいぞ」
既に無に還った化け物が倒れていた場所を蔑むように見下ろし、馬鹿にするように行人は嘲笑した。
蛍の声がミオンに聞こえない設定って意外に厄介...
昨日執筆サボりました!すみません!