htoL#NiQ―無垢な少女の輪廻への乱入者 作:通行人 放浪
どうしてこうなった...
無音と暗闇が、まるで憑かれたかのように、恐怖を引き立てる。
先を見通すのは、蛍が不可欠。
そんな森林のなかを、俺達は蛍の案内で突き進んでいた。
まさしく道なき道、と言える草むらをミオンのルートを確保するために掻き分け、邪魔すぎるときはナイフで切り払う。
雑草刈りのじいちゃんかよ。
腰痛になるの嫌なんだけど。
面倒臭さに口を尖らせつつ、さっさと草を処理していく。
「行人お兄さん、まるでりんごとか作るおじさんみたい」
ミオンは、にっこりと微笑みながら、褒めてくれた。
―嬉しくないね、おじさんなんて言われたら傷付くよ?
『行人君、笑いが引きつってるよ...』
言わなくていいんだよ、んなことは。
階段のところから1km位歩いただろうか、草むらの高さが急に低くなった。
不思議に思っていると、蛍の光が、謎の異物を照らす。
「なんだありゃ」
少し興味が湧いた俺は、警戒しながらも足早に駆け寄る。
「あ、行人お兄さん、早いよ...」
ミオンが制止をかけてきたが、もしミオンに何かあったら、蛍達に申し訳が立たない。
彼女が近付く前に謎の異物に近づいてみる。
近付いて見てみると、それはチューリップのような謎の植物だった。
大きさは、ミオンよりちょっと小さいくらいだろうか。
見たことのないものに、つい好奇心が理性に打ち勝ち、ポンポンと植物の花弁辺りを叩いてみる。
『あ、言うの忘れてた。それ、危ないわよ』
えっ?
蛍が、ぽろっ、と溢した刹那、シャンパンのコルクが空いたような、間抜けな音が響く。
次の瞬間、頬辺りを、軽く『鋭い何か』が高速で掠めていった。
『何か』は、掠めた後、かなりのスピードで上の方に飛んでいく。
『ごめんなさい、その植物、人を殺められる位の種を重なりあった花弁の隙間から、定期的に吐き出すという、珍しい種類なのよ』
ちょっと慌てたように蛍が追記する。
少し遅すぎやしないですか?
まぁ、被害者がミオンでなかっただけ、マシとしようか。
―ブチッ!
「ん?」
「ほえ?」
『む?』
『ん?』
此処に居る四人全員が、腑抜けた台詞をほぼ反射的に(少なくとも俺は)呟いた。
なんか、今前方、上の方から千切れた音が。
―ああ、この時、種吐き植物に気を付けていれば。
次の瞬間、音もなく、何かが目の前に落下するのを、俺は目撃した。
ボロボロの茶髪。
何年も放置されていたかのような、そこらが綻びだらけの、白いワンピース。
最早、生を感じさせない、虚ろな目。
死人のような、真っ青な血の通いを感じさせない肌。
先程からずっと側にいた少女と、角以外は見紛うことが無い程に同一の姿をした『モノ』が、鈍い音を立てて、草むらの無い、拓けた地面に、頭の部分から突っ込み、倒れこんだ。
頭から落ちた筈なのに、全く血は出ていない。
生き物だったかすらも、この状態では分からない『少女に似た何か』の、瞳孔が開いた眼は、俺を真っ直ぐに捉えていた。
その眼は、負の感情が固まっているように見えた。
「行人お兄さん...?」
不思議そうに此方に、小走りに近寄ってくる足音と、その足音の主の、ミオンの声で、俺は、『何か』の視線から解放される。
もし、これをミオンに見せてしまったらどうなるだろう?
普通なら心は壊れてしまうのではないか?
「...ね、行人お兄さん?どうしたの?」
俺がミオンを制止しようとしたときには、既に遅かった。
彼女の眼は、確りと、地面に倒れこみ、俺達に憎しみを浴びせてくる『何か』の姿を、完全に視界に入れてしまっていた。
「...なんで、私が...?」
「っ!?」
震えた声で、ミオンは呟くように言葉を漏らすと、そのまま膝をつき、地面に突っ伏してしまう。
蛍達も駆け寄るが、ミオンは、既に意識を手放していた。
影蛍で切れる蔦、あの種なら切れると思うんですがね。
...ちょっと質が更に下がってきたな...
一度見直しする時間も必要な様だ...