海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー 作:satos389a
あと主人公である智史の個人的な考えの描写も強いです。
それと前作の戦闘描写に個人的な不満を感じたので新規に表現を追加いたしました。
書き直した前作も一緒に今作もお楽しみください。
「彼が…、ここに…、来る…。嫌、いやあああ‼︎」
「オウミ、落ち着いて‼︎暴れても殺されるだけよ!」
「落ち着いてくれ!大人しくしていれば彼は君を殺しはしない!」
「あの人は次々と私の友達を嬉しそうに殺していった、そんな人を誰が信用できるというの⁉︎」
オウミはそう言い艤装を展開してモンタナ達の制止を振り切ろうとする。
「くっ、電子撹乱魚雷発射!オウミを止めるんだ!」
そして401とヤマトから電子撹乱魚雷が発射される、オウミは迎撃システムをフル稼働させて何発かは撃破したものの、あまりの弾速のために処理が追いつかず、残りの命中を許してしまい、爆発によるEMPによって艦の機能が一時的に停止した。
「皆、オウミの各システムの制圧、急いで!」
「モンタナ様、止めてください!そんなことをしていたらあなたも彼に殺されてしまいます!」
「彼を信用できないというの⁉︎あなたが彼を憎み続けていたらそれは破滅的な報いとなって返ってくるわ‼︎」
「放して‼︎」
オウミはEMPによる機能停止状態を強制解除し、モンタナ達と群像達を蹴散らして逃げようとする。
「オウミ、止めて‼︎」
「あなたは彼に騙されている‼︎邪魔をするなら薙ぎ払うまーー」
オウミが彼らを自身の全身の火器を用いて蹴散らそうとした、次の瞬間ーー
ーーピーピーピーピー‼︎
ーーズヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ…。
「コントロールシステムがロックされた⁉︎どうして⁉︎」
突如としてオウミの艦体の機能が完全に停止する、それはモンタナ達のものでもなく、群像達のものでもなかった。
「来たのね、リヴァイアサン…。」
「智史‼︎」
それは、南の方から姿を現わしたリヴァイアサン=海神智史によるものだった。彼は彼女の全システムをハッキングし自身の制圧下に置くことで彼女にコントロールロックを掛けたのだ。おまけとばかりに彼は彼女のエネルギーを全部吸い取ってしまう、ただでさえ十分すぎる勢いで、その強化ペースも滅茶苦茶な勢いで上げているという状態で強くなっているというのに。使えるなら他のものも取り込んで自身の強化に回してしまう彼は力に関しては何処までも貪欲だった。
「う、動いてよ、今動かないと死んでしまうのに‼︎」
「私から逃げようと結構焦っているな、オウミ?」
「ヒッ‼︎」
智史はそう呟く、そしてリヴァイアサンはオウミの方にゆっくりと近づきながら彼女に前部砲塔の砲身の狙いを定める。
「いっ、嫌ああああ‼︎こっちに来ないでぇぇぇ‼︎お願い、殺さないでぇぇぇ‼︎」
「まさか、オウミを殺す気⁉︎」
「智史、止めてくれ‼︎」
ーーブンッ‼︎
「あれ…。何で…?ね…む…い…。」
ーーバタッ‼︎
「オウミ‼︎」
「安心しろ、オウミのメンタルモデルとしての機能をタイムリミット付で強制停止させた。タイムリミットは今から24時間後だ。」
智史はcadenzaでムサシがイオナにしたことの真似をしてオウミの機能を一時的なものとはいえ完全に停止させた。勿論永久的に止めたり殺したりとかの他のことはやりたい放題なくらいに力が有り余り過ぎているのだが…。
「とにかく、よかった…。あなたが霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサン殿ですね?」
「あなたが太平洋艦隊副旗艦モンタナ殿ですか。そうです、私は霧の究極超兵器超巨大戦艦リヴァイアサンであり、海神智史という存在でもあります。」
「太平洋艦隊旗艦ヴォルケンクラッツァー殿からあなたに「私が敗れたら投降するように」と命令を受けました、この戦闘に関する全責任は私が取りますので、部下の命は奪わないで下さい。」
「了承しました、速やかに武装を解除して下さい。」
そして智史はエネルギー供給が切断された全艦の武装にセーフティを掛けていく、勿論抵抗しても無意味な相手なので、武装解除は速やかに進んだ。
「モンタナ様‼︎」
「ノースカロライナ、マミヤ⁉︎やはり生きていたのね‼︎」
「ええ、彼は逆らう者には一片の情け容赦無く、片っ端から血祭りに上げています、ですが逆らわない者には比較的寛容です。」
「そう…、ヴォルケンが言ったことは本当だったのね…。」
そして智史は401の前部甲板にジャンプで移動する、
「智史…。なぜここに来た…?」
「ここに来るという運命が有ったからだ。さっきは血が上り過ぎてしまったようだ、すまない。」
「君は「力こそ総て」とそう言っていた、確かに君が言った通り、この世界の国々は自分達の利益で生きることを優先している、自分達の国民を養う義務があるからだ。そしてその国々の「個性」が異なるためにその違いから戦争が起きたりすることもあった。それで自分達が滅ぼされるのを防ぐ為に抑止力や実力を付けた、だから君が言っていることはパワーバランス上の意味合いでは間違ってはいない。
しかしそれを振りかざして自分に合わない他者を片っ端からねじ伏せ、殺し尽くし、焼き尽くしても、君は物質的には平気な顔で生きられるだろうが本当にそれでいいのか?君がそのようなことをする理由はわかっている、他者に認められて欲しい、打ち解けあいたいという願望が裏切られたことから来ているのだろう?他人は単なる力だけでは変わらないものと君は信じているだろうから他人を実力をもって力づくで叩き潰してきた、だがその結果は他者が皆いなくなって君には孤独しか残らない、これでは君の願いが叶うことはない、それでいいのか?」
「…。」
ーー群像、確かにその通りだな…。
私は友達も、彼女も欲しいというごく普通の願望を持っていた人間だ、だが私がごく普通の人間とは違っている特性を持っているだけで私は周りの人間に奇異な目で見られ、蔑ろにされたり、虐めに遭ったり、無視されたりした。私はそんな状況を変えたかった、皆と打ち解けあい、恋もしたかった。しかしそれを口にしてもそれは当たり前だからみんなの常識に従いなさいという感じの言葉だけが返ってきた。私はそのことに傷つき、悲しみ、怒り、全てを焼き尽くしてやろうといつしか願うようになっていた。そして私はこの事件でとんでもない力を得たので己が倒されぬように、自己を貫けるように己を研鑽しつつ自分と相容れぬと判断した霧を蹴散らし、皆殺しにし、灰燼にしていった。だが、それは虚しさというものをどこかで生み出していた。己に負荷を与えると判断した他者を全て消滅させてもそれでその他者が居なくなって負荷が消えただけで、その他者が自分のことを理解してくれるようになった訳ではない。その行為は一時の勝利の美酒に酔いしれるという結果と同時に永久の空漠を生み出したという結果も生み出したのだから。
「智史、あなたは自分を嫌う他者を激しく憎んでいる、だけど他者を憎んでもそれは新たな憎しみを生み出すだけ。憎しみは連鎖する、それを嫌がってみんな一人残らず消し去ったらあなたには空漠しか残らない‼︎なら他者を憎むのを止めればいつか気がついて、その憎しみは消えていく‼︎」
「それはいつになったら消えるというのだ?」
「わからない、でもいつか気がついてくれるはず‼︎あなたから変わっていけば時間がかかるけどあなたを取り巻く環境もいつか変わっていく‼︎」
不確定だな、それは徒労にも終わるかもしれないということだぞ?
確かに自分から変わっていけば周りの人間がそれに気がついてくれるという可能性はある、しかしその可能性は不確定だ。気づかない可能性もある。特に視野狭窄に陥っている人間なら私が変わったことに気づかずにいつも通りに非難するだろう。
なら自身を取り巻く環境を変えるというのも手だ。確かにそれは自己を変えた自分なら受け入れられやすいのかもしれない。しかし一度生まれた負の感情はいつ消えてくれるかは分からない。ひょっとしたら未来永劫に続くのかもしれない。そんなものをいつまでも味わうのは御免だから私はその感情を持つ他者を次々と惨殺し、消し去ろうと考え、それを実践しているのだ。
だがそれはさっき呟いたように虚無しか残さない、一人残さず消し去ったら私は永久に他者との交わりを求めるという飢えに苦しめられるだろう。それは非常に辛い、一時だけでも嫌だ。だがらといって自身のことを忌み嫌う他者を消し去らなければ気が済まず、それ以外のことはどうすればいいのか分からない、他者の心の中を覗いて性格を知り対策を練り策を弄したり、その性格を強引に作り変えたりという方法を除いて。これらの方法を使っても心は満たされない、自分が望んだ形では無いのだから。これら抜きでどうやったら自己を抑える事なく満足できる形で自己を変えられ、他人と確実に理解し合えるのか?
誰か…、誰か…。教えてくれーー
「あなたはどうすれば自分が満足できるような形で我がたまりを持ってしまった他者と再び理解し合えるのかというプロセスを知りたがっている、しかしそんなものは存在しない、あなたが他者の心を覗いて対策を練って策を弄して、そして彼らの自我を完全に叩き潰し、根本から洗脳してしまうという方法を除いて…。いずれもあなたが望むような形では無い…。」
「そうだな…。これら抜きでは私は他者の気持ちさえ知る事が出来ない、そして私は気分屋だから他人をあまり理解しようともしなかった…。」
そう呟く智史、そこにモンタナから通信が入る。
「お話中すみません、私達の母港に連れていって頂けませんか?ヴォルケン殿が私達とあなた宛に大事なものを残したというみたいなので。」
「了解しました。」
そして智史達は太平洋艦隊の拠点とも言えるハワイのオワフ島へと向かっていくーー
ーーそしてその頃、ジュドラント沖ではーー
「お姉様が…、死んだというの…?」
「はい…。貴方様の姉であるヴォルケンクラッツァー様は自身に付き従う部下達共々、リヴァイアサンに討ち取られました…。」
「そ…、そんな…。い、嫌ぁぁぁぁ‼︎お姉様ぁぁぁぁ‼︎」
あまりに残酷な報せに嘆き喚くルフトシュピーゲルング。
ーーお姉様と一緒に居れる、それが幸せだったというのに…。リヴァイアサン、あなたはどうしてそんな日々を私から奪い去るの…?
ほぼ同じくして、北極海では。
「リヴァイアサン、あなたのせいでみんなどんどん死んでいく、そしてあなたは様々な世界を旅するだけの力を手にした、それなのにあなたは気がつこうとしない、それは元の世界に戻るための力を手にしたことでもあるというのに。その力を用いて大人しく元の世界に帰れば私達に幸せな日々が戻ってくるというのに…。いいわ、あなたにみんな殺される前に私がマスターシップを用いて殺してあげる、あなたに付き添っているヒエイ達やヤマトも一緒にね…。」
そう呟くムサシ。彼女が言った通り、彼、リヴァイアサンごと海神智史は自己を無限に強化し、それによって得た力を相手に対して容赦なく振るい、一方的に破壊し蹂躙し尽くすことで満足するということを続けるとしたらこの世界に自分を満足させられるものは既に限られていると判断していた。ならその外にどんどん飛び出してしまえば自分を満足させられるものは幾らでもある。無双orochiシリーズに出てくる遠呂智のように世界という井戸の中のものを狩りつくして心を満たされずに虚無のあまりに自壊を望み、自らを倒してくれる強者を待ち続けることなど考える気さえ彼には無い。そんな暇があったら彼はどんどん外に出て行きたいのだ。
そういうこともあってか、彼は自らの欲望を満たすために他の世界へと航行、行き来する能力ーー次元横断能力を身につけた。しかしそれは元の世界に戻る方法を身につけたということでもあった、彼には元の世界に戻る気など微塵もないが。
そして彼は自己の欲望のままに行動していたためにとっくに気がついていた、その気になれば各世界の営みを捻じ曲げ、時空の調律さえ歪め、壊してしまう程の力を既に持っていたことに。そしてその力を得て、その力を更に強くしたことによる力の重みが増えすぎて時空の調律が崩れ、世界を区切る壁が悲鳴をあげてしまう程だというのに。
しかし彼はそんな力を手にしても満足すらしない、それ自体が彼自身の心を永久に満たさないものだからだ。彼は貪欲に更なる力を手にせんと己を磨く、あらゆる死角も隙も次々と潰しながら。彼は力上の意味では満足は進化を止める行為と判断していた、ならば力を貪欲に求めた方がマシだ、他者が死んでも世界が滅びようとも。流石に仲間まで見捨てる気は微塵も無かったがーー
そしてハワイ、オワフ島ではーー
「随分と豪華で立派だな…。本拠地としての威厳がある。」
「そうです、かつては多くの仲間たちがここで船体を補修していたりしていました。今はその仲間たちは海の藻屑ですが…。」
「そう不吉なことを言うな、記憶がぶり返される。」
そして智史達は本拠地の外縁に停泊する。
「ゔ〜、お腹いっぱい〜。」
「お腹いっぱいだ、あまり行きたくない。」
「ご馳走がまだ消化しきれてないか、仕方ない。琴乃、大丈夫か?」
「ちょっと食い過ぎちゃったけど、大丈夫よ。智史くんこそ大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。エネルギーの需要と供給のバランスを調整して大量のご馳走だろうと瞬時に消化した。」
「智史くん羨ましいな、こんなことも自在に出来ちゃうなんて…。」
「それを言うなら人間でいられるお前が羨ましい。いくか?琴乃」
「ええ、行きましょう。ヴォルケンさんが私達に何を残したのか見極めたいから」
そして智史は琴乃を連れて本拠地の桟橋に着地する、そこにはモンタナがヤマトを連れてそこにいた。
「行きましょう、皆さん。」
「了解した。ところでモンタナ、事前にその理由は把握してはいるが、なぜお前はヤマトのことを知っているのだ?『記憶』は書き換えられた筈だぞ?」
「そのことですか、私は人類の言葉で言う『アナログ』の方法でデータのバックアップを取っておいたんです。」
「アナログ、か。あえてデジタルな霧のデータベースにはバックアップは置かない、それだとムサシに直ぐに感づかれて消されて終わりということか…。」
「そういうことです。」
そしてモンタナは智史達をある場所へと連れて行く、智史はそこへ至る道程への風景を楽しんではいたが。
ーー随分と軍基地にふさわしい雰囲気だな。
色々と気になってしまう、これがどういうものなのか、それはどういう作りとなっているのかを知っていても、だ。やはり体で見て触って覚えないと私は気が済まないのかもしれないな。まあ壊したら不味いものもあるからそれは壊さないように触りはしておこう。さて、もう見せたいもののネタは知っちゃってるけどあえて黙っておくか、ネタバレは興を削ぐからな。そしてそれを見終わったら基地を見て触って楽しもうか‼︎
ーーヴォルケン、あなたは一体何を彼に託そうというの?
あなたとの最後の会話となった際にあなたは彼に自分が彼に見せたいものがあると告げてその場所を示した、条件を付けて。そしてその条件が満たされて私はあなたの指示通りに動いた、でもその中身は何?あなたが他者に見せたがらず、彼にだけ見せたいものとは…?
そして彼らはヴォルケンが隠していた場所に辿り着く。
「随分と重厚な扉ね…。」
「私達の全力をもってしても破れないほど重厚な扉よ、非常に強度の高い素材が使われてるわ」
「おまけに常時クラインフィールドに量子フィールドまで展開されているわね、これじゃあ私が破ろうとしても触れる前に吹き飛ばされてしまうわ。」
「要するに智史くん、ヴォルケンさんはあなたにこの中身を見る資格があるのかどうか見極めたいからじゃないの?」
「そのようだな、ヴォルケンは死んでも私に問いかけているのだな、私なら容易く破れるというのに」
そして智史は右手に巨大な青いクラインフィールドと量子フィールドを多層展開して形成した破城槌を形成する。
「壊れろ」
ーーブォン‼︎
ーードガァァァン‼︎
ーーガラガラガラガラ…
「こんな扉を、い、一撃で…。」
「モンタナ、智史さんは常に進化をし続けたおかげでこんな壁も破れちゃうみたいね…。」
「さて、中身を拝見しましょうか。」
そして彼らはヴォルケンが隠していたものが入っている部屋の中へと入っていく。
「嘘でしょ、なぜマスターシップの破片が⁉︎それらを私達の仲間の超兵器達が全員取り込んだはず‼︎」
「恐らくとは思うが、私達にマスターシップに関するヒントを残していったのだろう、全員でそれがどのようなものなのか見極めてみるか」
「そ、それは無理よ!破片に触れただけでも身体が滅びてしまうわ‼︎」
「お前達はな。だからこそヴォルケンはこの厳重な容器にその破片を入れたのではないのだろうか?」
そして智史はマスターシップの破片を手に取る、マスターシップの破片からは邪悪な力が湧いていたものの智史はその力を完全に吸収して取り込み、自分の力としてしまった。
「私は自分で決めたことを変えられるのが大の嫌いでね。」
「す、凄い…。」
そして智史は透明な容器を左手に作り出すと破片をその中に入れて密封する。
「その破片は死んだわけではない、スキズブラズニルの実験室でデータを解析しよう、そのパッケージに入れた状態でヒュウガに渡すか。」
そして智史はもう片方のものに視線を向ける。
「なるほどな、私と今後どう付き合い、ムサシとマスターシップをどういう風に戦略を立てて叩けばいいのかがきちんと書かれているな…。」
「これは…。私達に宛てたものなのね、私達が今後彼とどう付き合い、そしてそれを霧と人類の未来にどう繋げていくのかということが具体的に書かれてるわね…。」
「具体的だな、負けるべくして負けるということを考慮した上で道筋が明快な戦略を立てていたのか。」
「ヴォルケン…。素直に彼に降伏するという道もあったはず…。あなたは自分やみんなの誇りを守るために死んでいったのね…。」
そして智史達はその部屋を去る、彼らにここにいる理由はもう無いからだ。
そして彼らはヴォルケンがかつて使っていた部屋へと向かう、その道中でーー
「これが、お前達が新たな『霧』を生み出していた『子宮』か…。」
「そう、新たな『命』を生み出すためのもの。あなたが戦った『命』の殆どはここで生まれたのよ。」
「そして霧の超兵器のコピー体もここで生み出されたのか、ある意味で人間の言葉て言うと『生命の倫理に反している』と言うべきだろうな…。」
「そうかもしれないわね、そしてそれはあなたが出現し、破壊を始めた辺りから作られ始めたわ…。あなたが暴れまわることによって『霧』がいなくなる、そのかわりとしての『霧』を作れというムサシの命でね。
「ムサシ、なんてことを…。『子宮』は本来なら強大に進化させるものではないというのに…。」
「まあ間違ってはいない、体制を維持するというコンセプトから見たところではな。目的のために手段を選ばないのは世の常道と言うべきか、それとも非人道的と言うべきかは見たものにしか決められないな…。」
彼らが見ていたものは新たな『命』を生み出すための『子宮』だった。リヴァイアサンごと智史が暴れ始めたことを契機としてムサシの命で各艦隊の根拠地に作られたのだ。
今まで霧は強大な『命』を生み出す必要性が無かったーー『メインパーツ』が消されるという事情自体が無かったがために。だが『子宮』は規模は小さくとも存在してはいた、軽巡や駆逐、潜水艦といった『消耗品』に近い存在を補完するために。しかしリヴァイアサンが暴れ始め、「霧」を構成する『メインパーツ』が減っていき、その『メインパーツ』を補完するために本格的、そしてより強大な『霧』を生み出すために『子宮』は多数作られ、そしてより強大な『命』を生み出すためにその器を大きくしていったのだ。
彼がナガトと戦う頃には『子宮』は霧の各根拠地の大部分に備え付けられていた、特にナガトの所には真っ先に『子宮』が取り付けられた。
彼はその存在にあまり重大性を感じてはいなかったものの、(ここでいう重大性の意味合いは、科学的な意味合いではない)改めてこの存在を見ることでその重大性を痛感していた。
ーームサシ、お前は変化と人間が嫌いと言ってはいるが、お前のやっていることの本質は人間の醜い部分と一致しているぞ。
そして彼らはここを去る、程なくして彼らは元太平洋艦隊旗艦、ヴォルケンクラッツァー専用の部屋に着いた。
「随分と装飾が飾ってあるな…。ちゃんとした作戦書類もデータを補完するものもきちんとあるが」
「そうね、ここで過ごした記憶がきちんと残っているわ。」
「随分と家具や小道具が沢山置いてあるな、その整理整頓も行き届いているといい…。太平洋艦隊旗艦のために作られた部屋に相応しいな。」
「その言葉、感謝するわ。」
そう返事をするモンタナ、そして彼女は語り始める。
「ここはかつて私達がヴォルケンと公私問わず様々なやり取りをし、記録を残していった場所。そして人類から学んだことを生かして作り上げた営みが残っている、喜び、怒り、悲しみ、楽しい…。様々な感情がこの部屋も含めた施設には残ってはいる、でもあなた達ーー主に智史さんとの戦いによってその営みを作り上げるメンバーの大半が消えてしまった。智史さん、私達があなたと戦うということが決まってしまったということでその営みは終わってしまう宿命だったのね…。」
彼女の話は絶望と諦めが混じったものでもあった。これに対して智史はこう切り返す。
「いいや、そうだからヴォルケンはその営みが終わらぬようにお前達を生かしたのでは無いのか?私はこう捉える、
『営みそのものが終わったのではなくて、一つの形としての営みが崩れただけだ』と。
絶望していてどうするのだ、ヴォルケンはお前達に生きることを求めたのだろう、自分がしていったことを引き継いで欲しいからだというのに。私が主原因とはいえ、変わってしまった営みをお前達が自分達でやっていくことを終わらせたらヴォルケンは何と思う?」
「そうね、ヴォルケンは自分達の命を代償として私達に未来を遺そうとした、それなのに私達が彼らの死に慟哭して未来に生きようとしなかったらヴォルケンは何の為に部下を犬死させたのかという理由が分からなくなってしまうわね…。」
「何時迄も悲しみに暮れて前に進もうとしない理由は無い、お前達はその営みを自分なりに受け継ぎ、未来に新たな物語を紡ぐという使命があるのだから。そんなことをしてその営みを受け継がなければ太平洋艦隊の誇りも威厳も名もそれに関するあらゆるものが廃れるわ」
「…ありがとう、私達は散っていった仲間達の意思と誇り、そして太平洋艦隊の伝統を継いで未来に繋げていくわ」
「それでいい。未来は自分達の手で作り上げろ。そうだ、何か不足があったら私に尋ねるがいい、面白半分でヴォルケン達を惨殺したことによる今までの営みを潰したせめての罪滅ぼしとしてな。」
「そんなに自分を責めなくていいわ、少なくともあなたには悪気はないということぐらいは分かるから」
そして智史と琴乃は彼らと別れる、そして様々なものを見て触って楽しむ。
「智史くん、触ってて楽しい?」
「そうだな、少し疲れたか、琴乃?」
「そうね、桟橋の方に行って少し休みましょう」
そして彼らは桟橋に着く。
「いい眺めね、疲れが取れるって感じ。」
「そうか、良かった。」
楽しそうにそう会話する2人、しかし彼に何故か概念伝達による通信が入る。
「ん…?誰からだ?」
「どうしたの、智史くん?」
「何者からか通信が入っている、少なくともこの世界の存在によるものではない。すまん」
そして彼は概念伝達空間に移動する。
ーー概念伝達空間
そこは夜のように真っ暗で光り輝くようなものは一つもない。廃墟と化したローマ風の構造物のようなものの上に智史は立っていた。
「…ここは一体…。」
見慣れぬ景色に少し興味を示してジロジロ見て回る智史、そしてしばらく進むと大広間のような場所で歪みのようなオーラを纏った少女の姿を見つける。
「…貴様は、誰だ?」
「私は使者。時空の調律を司る者ーー創造神様からの使者。」
「時空の調律?この世界も含めた様々な世界の調律を司っているというのか?」
「それが近い。あなたに伝えたい事がある。」
「伝えたい事…?よもや私に大人しくしろと?」
「そう。あなたにはこの世界から手を引いて、元の世界で大人しくしてもらう。そう創造神様から伝えられた。」
「何故そうしろと?よもや私がこの世界の器から溢れてしまうほど大きくなってしまったからか?」
「そう。あなたは強くなりすぎた。そしてあなたは今や存在するだけで様々な世界の壁を壊し、歪めて、最悪世界そのものを壊してしまう存在。」
「理屈は理解出来ないわけではない、だが私は己だけが幸せになりたくて、欲望のままに動く性格なのでね。その要求はお断りだ。」
「今からでも遅くはない、直ちに元の世界に帰って欲しい。」
「嫌だ。確かに他の世界ならまだ納得ぐらいは行くが元の世界ではトラウマを散々に受けたのでね。ところで今の私は自身が存在するだけで世界を壊してしまうのか、それはいい事ではないか。その環境の変化によって様々な世界と交わる事でいろんな事が生まれたり、楽しめたりするのだから。勿論負の部分も生まれはするが。」
「それは出来ない、あなたが今のまま活動を続けたら調律が乱れて多くの戦乱と天変地異が起きる。」
「何故そう言える?かつてそのような事があったからか?」
「そう、かつてあなたのような存在が世界の壁を破壊してしまった、そして様々な世界が融合した結果、大規模な戦乱と天変地異が起きてしまった。多くの世界が滅び、罪なき人が苦しみ、息絶えた。それらの災害を総称したのがディメンシオネムコラプス(dimensionem collapse ラテン語で次元崩壊の意)。私達は実力をもってそれを引き起こした存在を討ち倒した。そしてそれを元の営みに戻していくのに時間がかかった。もしあなたが今のままであれば多くの世界が滅びる、その前にあなたを討ち倒す。今からでも遅くはない、元の世界に帰って欲しい。」
「それはお断りだ。私は今のまま生きる。」
「それが後悔を生むというのに…。」
そして智史は概念伝達を切る。
「智史くん、何かあったの?」
「ムサシからの通信だ、恐らくお前達にしてみれば奇想天外な事を話してはいた、私がこのままそこにいれば世界は滅びるとか。」
「そうね、確かに奇想天外ね。でも滅びるとは限らないわ。」
「そうだな」
「日も暮れてきたし、夕日を見てから今日は休みましょう」
そして彼らは本拠地を一望できる山に登る。
「きれいね…。」
「そうだな、ところで考えていたことがある。」
「何?」
「何故生物学的な性の違いははは存在するのかということについてだ、私は自身の特性に基づく挙動によって異性から誤解を受けて辛い目に遭った、仲良くなろうにも奴らは私を忌み嫌って私を避けた、周りの環境、いや私がいた元の世界そのものがそういう雰囲気だった。私はそのことが激しく憎い、ならば女性を完膚なきまでに抹殺できないかと。
元の世界では男女平等が跋扈し、女性を守る為の法律が充実された、それが教育の仕方に問題があるという環境によって女性が我が物顔でいばり散らすという現実を招いているというのに。私はその奴らとそれを作り出す環境が憎い、そして殲滅したい。だが、子孫を残すものがなければその種は存続しない。人間だってそうだ。その機能が男性にもそうなのだが女性にもあるせいで女性が我が物顔でいばり散らすという現実を作り上げるのに一役買っているのだ。
そこで私はこう考える、子孫を残すものを異性同士ではなく一つの機能として型にしてしまえばどうかと。要するに男女の生殖機能を一つの生産マシンに統合してしまうのだ。そうしてしまえば人間は物同然となり女性が威張り散らせる環境を根本的に支えているものが消滅してしまうのだから。そうすれば人間の性別を消し去り、女性を抹殺でき、私が元いた世界での弊害は根本的に消滅してしまうのだから。」
そう呟く智史、それに対する自身の考えを琴乃は語る。
「要するに人間を全部工場で作られているような商品みたいにしてしまうということね。そうしてしまえば女性の存在理由は無くなって、女性が威張り散らせる世の中は崩れ去り、女性を全員排除できると。
確かに智史くんらしい考え方ね、曲がりなりにも人類のことを考えてはいるし、ある意味では荒療治だけど確実ね。
でも、それは人類を人類で無くしてしまい、社会システムの絶対的管理下に置くというあなたの考え方が生み出したものでもあるわね。
そう考えてしまう理由は分からなくは無いわ、だって悪いことなど一つもする気も無いというのに誤解されて疎んじられたんだから。
でもそれが人類にとっていいことと言えるの?家族愛や恋愛、親子愛といった感情に基づくものが消え去ってしまうのよ?あなたはそれらを失う覚悟はあると思う、けどあなたが望んでいた幸せと言えるのかな?」
「多分、言えないだろうな、私自身が人で無くなることを一番忌み嫌っているのだから。その考え方も私自身が人であるが故に生まれてしまったものでもあるのだから。」
智史は自身の気持ちを素直に語る、あえてそれを誤魔化そうとしても自身が辛くなるだけなのだから。
「素直ね、あなたを理解してくれる人が僅かながらだけど増えてきてる。前を向いて生きましょう、智史くん。」
「ああ…。」
そして、リヴァイアサンの医務室ではーー
「う…うう…。」
「オウミ、目が覚めたのね。」
「モンタナ様⁉︎ここは、何処ですか⁉︎」
「リヴァイアサンの医務室よ。あなたは彼に眠らされた後ここに連れてこられたわ。」
「そうですか…。彼からはどうやっても逃げられないのですね…。」
「そんなことはないわ、でも彼という存在と向き合わなければならないということは確かよ。」
「はい…。ところでモンタナ様、あなたの隣にいる子供は誰ですか?」
「彼女?蒔絵という名前よ。彼女は人ならざる存在ーーデザインチャイルドなのよ。私達に対抗する為の兵器を人間に命ぜられて作っていたというのにそれが完成したら用済みとして殺されそうになったのを彼が引き取ったのよ。」
「そんな…。蒔絵ちゃん、あなたは私達を殺す為に武器を作ったというの?」
「そう。私は興味もあってあなた達を殺す為の爆弾を作っていた。でもそれを知っていた智史はともだちを説得して私を暖かく受け入れてくれた。」
「(人間とは、何処まで残酷な生き物なの…。少なくとも彼が悪魔ではないということは分かる…。)」
そう考えるオウミ。彼女も蒔絵と同じく理不尽な目に遭い、自分が望んでいないものをやらされる羽目となったからだ。
「彼に悪意はないわ、彼はあなたのことを気遣ってここに寝かせてくれたのよ。彼は子供みたいに純粋すぎてそれ故に残酷なことも平気な顔でやってしまうような一面がある。それをあなたはたまたま見てしまっただけ。」
「でも、船体の方は⁉︎」
「大丈夫よ、機能停止状態だけどいつでも動かせるように本拠地のドックに入れてあるわ。彼が海の真上でほったらかしなのは見苦しいって」
智史は残酷な一面もある、純粋すぎる故に。しかしそれは優しさもあるという一面もあり、彼はモンタナ達と戦う必要性が無くなったことで敵を思いっきり殺る気分が失せてしまったこともあったのかもしれないが、オウミが震え怯えている様を何処かに哀れみを感じたのか彼女を眠らせた後リヴァイアサンの医務室のベッドに寝かせ、布団を丁度いいぐらいに盛り、船体はドックに入れておくようにモンタナ達に伝えておいたのだ。
「今は疲れているでしょう、温かいものを食べて休みなさい。蒔絵、出してくれる?」
そして蒔絵は海老が入ったチーズリゾットを保温容器から取り出す。
「智史がこれを作ったんだよ〜?これを食べたら体が暖かくなるって」
「彼は、本来なら自分が直接食べさせたい所だけどそれだとあなたが怯えちゃうから私にそれを食べさせてくれるように頼んだのよ」
「はい…、ありがとうございます…。」
そしてチーズリゾットを食べるオウミ。
「美味い…。あの人はただ子供みたいに純粋なだけで悪魔じゃなかったんだ…。」
こうして彼らは夜を明かすーー
ーー翌朝
智史はあることを提案しようとしていた、それはーー
「401の振動弾頭の配達のついでに三者講和条約?これはあなたが考えたの?」
「そう、人類側はそうやすやすは受け入れてはくれない、だからうちらが401について行くという形でそこで講和を決める。だってマスターシップを倒さなきゃならない運命だというのに敵が多かったらやりにくいでしょ?なら講和をして敵を減らし、そのついでに群像が提案している霧と人類が理解し合える未来を作ってしまえばいいじゃん。」
「なるほどな…。君らしい考え方だ、俺も賛成しよう。」
「でも、人類が攻撃してくる可能性も?」
「それを考慮して各艦のバイナルは非点灯にしておこう、バイナルが点灯してたら攻撃する気満々と解釈されかれないからな。もちろん万が一に備えて戦闘準備は整えておこうか。」
「わかったわ、出航しましょう。」
ーーそして401、リヴァイアサン、スキズブラズニル、ヤマト、モンタナ、タカオを中核とした究極超兵器1隻、超大型ドック艦1隻、超戦艦1隻、大戦艦5隻、空母10隻、重巡21隻、軽巡40隻、潜水艦65隻といった大艦隊がサンディエゴに向けて出航する。
だが智史は出航して間もなくして多次元探知能力をはじめとした各種能力から得られるデータからあることが起こると予感していた、
「何かが別次元から来るぞ…。」
そしてその予感は的中することとなる、新たな出会いという形でーー
リヴァイアサン=海神智史が新たに習得したオプション
次元横断能力
これは今の世界には自分の楽しみに関する限界があるということを知った智史が新たに会得した能力。
各次元世界の壁を形成するエネルギーを強引に突破することで穴を開けて物や情報といったものを他の世界に行き来させることができてしまう。もちろん自分自身も世界を行き来出来る。
要するに次元ワープ。
これを実現するには膨大なパワーとテクノロジーが必要で、また仮に会得してもそれを制御し切れなければ自身の破滅やシステム自体の暴走を招きかねないものだったが、智史は自己再生強化・進化システムといった自身全てを強化、進化させ、さらに自身のものであるシステムを強化して、その強化・進化速度を上げていくことで強化・進化のペースを滅茶苦茶なペースとし過ぎてしまったことで(もちろんそれを制御仕切れるだけの力も強くし過ぎてしまい、更にその力も増大している)難なく会得した。