海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー 作:satos389a
あと霧の超兵器の出生元にも触れられています。
ですがリヴァイアサンごと智史の出生元は不明です…。
遂に群像達がアメリカに到着しました。
それではゆっくりとお楽しみください。
「智史ちゃん、まさかあなたがヒュウガちゃん達の為にこのようなことをしようとは思わなかったわ。」
「共同で技術解析をした上で改装する、そう考えたのは私だ。お前達にモノの作りを肌で味わってもらい、そこで得た経験を元にして新たなモノを作っていくーー悪くないだろう?」
「そうね、ヒュウガちゃんの生活ぶりを見てたらヒュウガちゃんがやることに興味を持っちゃって。この際に私も色々と学べるから賛成よ。ここで学んだこと、ヒュウガちゃんにも伝えておくわ。」
そう会話する智史とイセ。彼らはこれから信長のデータ解析及び各種技術習得を実行しようとしていた。勿論サクラが依頼してきた修理は解析を速やかに終えてから取り掛かることにした。
「さて、始めようか。」
「ええ、そうしましょう。」
そして2人は無数の解析用ロボットや加工用ロボットアームを伴ってデータ解析を始める。
「なるほど、これが波動エンジンか…。破損しているから同性能のものをチート抜きで作るには少し時間がかかるな…。」
「ここが機関部ね。ん…、イスカンダル…?どこから造り方を教わったのかしら?」
「恐らくイスカンダルからそれに関する技術が波動コアと共に宇宙船を通じて送られたのだろう。幸い波動コア抜きでもこの艦は波動エンジンを動かせる構造となっている。しかし材質が違うな、我々が今まで知らなかったものが使われているぞ…。後でその材質を再現して比較試験をやってみるとしよう。」
「船体の大半が人類の所で作られたという色合いが随分と強いわね。船体のキールの材質がナノマテリアルではない高強度の材質だったことが確認されたわ。」
「この艦が作られたのは我々の世界観で見るとすると随分と先の時代に作られたみたいだな。2230年製とは…。」
2人は興味深々で信長の船体を調べていく、そこにーー
「智史くん、随分と楽しそうね。私も色々と調べていい?」
「私もこの艦が刻んだ記憶をタグとして記録したい。」
「琴乃とハルナか。いいだろう、好きに調べるがいい。」
そして信長は彼らに調べ尽くされた、そしてそこから判明したデータが解析されていく。
「複数の勢力の技術が用いられているな、人類、霧、イスカンダル…。そしてこの艦が造られた背景は強大な地球外生命体による地球侵略を打ち砕くためか…。恐らくサクラ達が戦った深海棲艦や霧の艦艇とやらはそいつらと何らかの密接な関係があるのだろう。」
「向こうにいる敵はどういう存在なのかな?何の目的をもって地球を侵略してきたのだろう?」
「それはわからないところがあるな、彼らがこの世界にはいないこともあるがそれ以上に彼らの行動理由がその世界の設定が上手く出来上がっていないせいで不明瞭だ、彼らの強さのスケールはもうとっくに把握済みだが。だが私に刃向かう様なら容赦なく討ち滅ぼすまで。私はそうなった時に楽しく一方的に討ち滅ぼしたくて、もう十分過ぎているというのに更に強くなろうと願い、更に強く強くなっている。今の私ならその世界に向かうことも出来て更に彼らを一方的に蹂躙することも出来るが、この世界でやりたいこと、やるべきことを楽しみ、そしてそれらを成してからそうしたい。」
「やりたいこととやるべきことね…。智史くんは自分の好きなように生きたいのね…。いいわ。あなたのお陰で私の運命は変わって、世界は大きく広がった。あなたが居てくれたからこそ私は私でい続けられるから。」
智史は既に信長が居た世界のスケールを把握し切っていた、そしてその世界の敵が、どんなに抗っても無駄だということを敵の対抗努力を自身が今の力から遥かに上回る勢いで強くなるということを通じて知らせることで敵を絶望させた上で徹底的に甚振って一方的に殺したくて仕方がないのだ、もう十分に強いというのに。
そして彼はワープの一種のようなものが可能であった、というのも彼は光の速さを軽く上回ってしまう程の速度で宇宙を航行できるのだ。一般的にその物体の速さが速ければ速いほどその物体視点で見るとそこに流れる時間の速さはどんどん遅くなっていくのだ、彼が光速を超えるとなると彼に流れている時の速さはほぼ止まってしまうだろう、彼はそんな中でも御構い無しに自由自在に動けてしまうが。
自分から異次元空間に突っ込んでワープするという発想自体は思いつかなかったが、それでもコンセプトさえ理解してしまえばすぐに同じようなことができてしまった。彼は同じ世界の異次元にいる敵にも攻撃が可能であるという下敷きが既にあったことや自己再生強化・進化システムの習得能力すらそのシステム自体を強化していくことで強化していったので容易く覚えて使えてしまったのだ。
要するに彼はもう既に宇宙戦艦ヤマトシリーズに出てくる異次元に潜っている潜宙艦相手だろうとも異次元から引っ張り出して強引に叩き潰したり、自分の攻撃を異次元にワープさせることで潰したり、自分から異次元に潜り込んで直接叩き潰すというやりたい放題で敵を粉砕できるようになってしまっているのだ。彼ら相手に手足が出なかった宇宙戦艦ヤマトとは訳が違う。
「信長の方法も悪くないな…。」
いずれにせよ今回の調査は彼にしてみれば新たな発見でもあった。自分の現状を良く知る契機にもなったからだ。
「さて、次は改装だな、改装。」
「そうね、そのデータをヒュウガちゃんに報告するついでに色々と試してみましょう。」
そして智史達は信長の船体を修理する、しかしそれは彼が言った通り、元の姿ではなく別の姿をしたものへと作りかえられていく。
「船体の艦首はタンプルホームにしておきたいな。あと高速推進の為の何かを付けてみるとしよう、タカオにやった同じようなコンセプトで。高機動性を生かした瞬間的な大火力を叩き込む一撃離脱の戦法が被弾自体も抑えられて悪くはない。もっとも私自体がそのコンセプトを実践する価値が薄くなっているからいつも凄まじい攻撃のシャワーを浴びているのだが…。」
智史は他者を知り己を知った上で、常に強くなり過ぎてしまい、更に強くなり過ぎてしまおうとしているのだ、だから攻撃を避ける必要性自体が下がっているというのに更に受けた攻撃を吸収して自分の力に変換し、自己を強化出来てしまうのだ。その結果生まれた彼の戦い方は圧倒的な力と物量にものを言わせた力攻めだった。それは彼が既に常識を逸していた力を持ちすぎていたせいであるからこそ成し得る戦術である。
しかしそんな力を持たぬ401一行や信長=サクラは常に力押しの戦い方ができる訳ではない、ましてや彼が自分の力にする為に受けている相手の攻撃の火力は半端ではなく、掠っただけで深い傷を負ってしまう程である。
更に彼らにしてみればタチの悪いことにリヴァイアサン=智史を構成している物質は智史本人以外には扱える代物ではなかった、何せ取り込んだだけであらゆるものがその物質が出す並ならぬエネルギーの前に耐えきれずに一瞬で崩壊、挙句の果てにはそれらに吸収され彼の力となってしまうのだ、しかもそうなる運命となってしまう理由の一部が智史本人が無意識とはいえそうしてしまうように考えているのだからますますタチが悪い。元来のスペックに加えて自分の都合のいいように自分からそう仕向けてしまっているのだ。なので自分達のものにすると仮定したらマスターシップの破片よりも格段に条件が悪かった。
だがそれらが智史本人にしか自由に扱えないということは本人にしてみればとても都合のいいことであった、なにせ自分だけがあんな力を自由に使えて自己を更に高められてそしてそれらは他の者に使うことを許す事なく自在に振り回せるのだから嬉しくならない筈がない。
しかし、だからといって自分から何も与えずに野放しは酷と判断したためか、自分を構成する素材ではないものを使った(それでも彼らにしてみれば高性能な代物ばかりだった。ただし彼らを滅ぼしてしまう程の戦略的性能を持つモノは除く。)ものを贈ると言う形で彼らをアシストしたりしているのだ。
いずれにせよ圧倒的過ぎる力を持っている智史には力攻めという戦術が最善だった、しかしそれはルールという縛りがない『戦争』なら確実に通用し得る戦法であって人間達の営みの中にある縛りのある『ゲーム』では必ずとも通用し得る戦法ではない。縛りの内容次第ではそんな戦法は通用せず、運の要素が大きくなってしまうので負けてしまう事もあるのだから。そのような事を彼は理解していたからこそ自分は全てにおいて無敵の存在ではないという事を悟っていた。
「繊細な機動性を実現する為に多数の小型スラスターを取り付けて超重力砲と波動砲はピンポイントで敵を焼き払えるようにしておくとしますか、目標物を破壊する以外の用途は不要だからね。エネルギーが中心軸に向かうように収束させる形でライフリングのようなものをかけられるように機構を作ってみるとしよう。もちろんその出力も上げておこう。」
「そうね、それを扱えるような器を作る為にサクラの演算能力を強化する必要性があるわ。新しく補助演算用のユニオンコアが必要となるのかしら?」
「まあそうだろうな。私抜きで現時点で考えうる手段を用いるとして何の考えもなしにユニオンコア本体の演算能力を強化するとしたらメンタルモデルの自我が変調をきたしたり最悪自我が消滅する可能性もあるからな。」
「智史くんは彼らを強化する手段を慎重に選んでいるのね、何のリスクもなしに彼らを強化できたらその力は彼ら自身が勝ち取ったものではないからあなたに依存するというリスクを恐れている事もあるのね」
「そうだな、テコを入れすぎて私の方に変に依存させたらかえって困る。だからテコはほどほどに入れておくべきものだ。入れなくても、入れすぎてもダメだからな。『私抜きでこの世界を生きて欲しい』と私が彼らに求めているのだから。」
「そうね、あなたがテコを入れすぎて群像くんが群像くんじゃ無くなったら何か悲しいわね、あなたに飼われてあなたの言いなりになること以外は何もないペットみたいに群像くんがなってしまうのは。」
「そうだな、群像が群像らしく無くなったら私は奴を見捨てるかもしれんな…。」
彼は人間一人一人が自分の考えを持って我が道を行くことにこそ人間の魅力があるということは書物を読んでいたことで知ってはいた。しかしこの世界に霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンとして転生し自分の欲望のままに暴れていたところ自分のやりたいことと自分が他人に求めていることの結果の内容の矛盾という所に気がつき、このようなことを痛感したのだった。そんな彼は次元横断能力を使い、様々な知識を会得しつつ己の人生観について少し考えるのだった。
それはともあれ、信長自体の改装はスムーズに進んでいく、艦橋はズムヴォルト級を彷彿とさせるような平べったい形のシンプルな形となり、船体の方も艦首の方はタンプルホームとなり、その上で船体上部を列車の車体部分でも吊り上げるのかのようにクレーンで吊り上げ、そこで機関部の改装や超重力砲や波動砲の改良調整が行われていく。
今回信長に改良品として装備される超重力砲や波動砲に取り付けられたものは任意でそれらの攻撃範囲を絞るものだった、攻撃範囲が一つに限られていると如何なる戦況にも対応し辛い所が出てくるからだ。もちろん絞りを最大に緩めたものでも地球を滅ぼさないレベルで範囲が絞られているが…。
もちろん他の部分も機関部の改良に伴う出力の大幅強化に伴い、エネルギー系列の兵装の破壊力は格段に強化されていた。ただミサイルや艦砲といった非エネルギー系列の兵装はVLSの形に入る形で新型のミサイルを新規に製作してVLSに装填するという方法で解決した。
順調に進んでいく信長の改装、そこへ紫のクマが現れたーー
「智史、ヒュウガと蒔絵が破片の各種解析が終わったからブリーティングルームに来てくれと言っていたぞ。行けるか?」
「コンゴウか。イセ、私抜きでも行けるか?」
「大丈夫よ。あなたが大事な部分を全部やってくれたから後は順番通りに組み立てればいいんでしょう?」
「そうだ、頼むぞ、イセ。」
そして智史と琴乃はブリーティングルームへと向かっていく。
ーースキズブラズニルのブリーティングルーム
「来たわね。あんたの予想、悉く当たってたわ。」
「モンタナからマスターシップに関することを記録した記録媒体を受け取ったことで裏付けが出来たのか?」
「そうね、それもあんたの予想通りに…。これが全部本当だったら非常にまずい事態と言えるわ。」
「私のデータベースや各種ネットワークも漁った上での裏付けか…。データベースやネットワークの閲覧自体は黙認していたとはいえ本来の目的とは完全に異なり、しかも見過ごすには完全に耐えかねるモノが含まれていたぞ…。」
そう会話する智史とヒュウガ。そこにヒュウガに呼び出されたのか群像とイオナ、ヤマト、モンタナが現れる。
「ヒュウガ、見せたいものがあるとはどういうことだ?」
「群像さん、智史さんがヒュウガに依頼していた破片の調査結果の報告が今から行われるわ。」
そして全員が席に着席する。同時にブリーティングルームの照明が落ちる。
「今からマスターシップの破片を解析した結果を報告するわ。」
ヒュウガがそう言う、するとスクリーンに映像が表示された。
「今回の解析の結果、判明したことは、マスターシップの破片の材質は霧に使われているものとは根本的に異なっていたわ。少なくともあちらは材質一つ一つに命や意思が宿ってる、なのに私たちを構成している材質は根本的に命が宿ってはいない。」
「ヒュウガ、それはどういうこと?」
「姉様、あの破片は私達との物理的関係性を持っていないということです。」
そしてヒュウガはさらに語る。
「リヴァイアサンの戦闘データから見るに、超兵器達は全てマスターシップから元が生まれてそこに霧としての姿を纏うことで霧として生を受けたと推測されるわ。そしてその元がムサシとマスターシップの間に何らかの接触があったことなのよ。」
「つまりどういうことだ?」
「個人的解釈になるのかもしれないが、ヴォルケンは「破片を自分たちの中に入れることは自分たちの自我を消し去り、破壊だけしか求めぬ存在にしてしまう」と言っていた、つまりヴォルケン達は自分達がマスターシップから生み出されたということを知らなかったのだろう。」
「ではなぜマスターシップはわざわざ破片を入れるという手間を増やしたんだ?」
「恐らく最初から破片を入れたものを生み出すと人類と霧が手を組んでかえってややこしい事態になってしまうという可能性を危惧したからよ。だから彼らの尖兵としての色合いを消すために敢えて破片を取り除いた未完成の形で生み出し、そこに霧の皮を被せて各地に出現させたのよ、ムサシが彼に触れたことを契機としてね。」
「つまり霧の皮を被せたということはマスターシップの尖兵としての色合いを消し霧と言っていいほどの砂上の楼閣の如き脆さの自我を持たせた状態で霧に送り込むことで霧に警戒感を解かせ、ある程度馴染んだ状態でこちらから器にコントロールを掛け制御下に置いて一気に霧を内部から自壊させるということか。非常に狡猾だな。
超兵器達の制御は全て奴が握っている。超兵器達が霧と変わらぬ自我を持ってやっていけるということは奴は本格的に活動をしていないだけだということ。奴が本気になればそんな自我は直ぐに潰される。つまりムサシは奴の手のひらで踊らされている人形ということだ。」
「なんてこと…。ではムサシの元へ今すぐ行かないと‼︎」
「やめておけ。奴らは真実を知ろうとしないし私達のいうことにも耳を貸そうともしない。おまけにムサシに忠誠に近い信頼を持っている。こんな状況下でムサシに突っ込めば奴らが急行してくるだろう。私なら余裕で奴らを蹴散らせるがそれによって生じる結果はお前が望んだものなのか?」
「う…。」
「ところで智史、器にコントロールする機能があるとなぜ分かるんだ?」
「既に幾多の戦闘の際に各種スキャニングやデータハッキングによって彼らのデータを事細かに把握していたからだ。作成者にしてみれば作り出したものは都合良く動いた方がいいだろう?」
「なるほどな、なら君もマスターシップから生み出されたのでは?」
「それが…、不可解なのよ、こいつからマスターシップに関わるものが一切見当たらないわ。こいつは霧の究極超兵器と一応ちゃんとタグ付けはされてはいるけど…。」
「オウミさんは出現した時から器が無かった、それはマスターシップが彼女の限界を見るためであったということは分かる。でも智史、あなたは一体?あなたは、何から生まれたというの?」
リヴァイアサン=海神智史は霧の超兵器達と同じく霧の皮を最初から被っていた、というより最初から霧の形を維持するようになっていたものの、彼からはマスターシップに関するものは一切見当たらない、マスターシップから生み出されたという物理的証拠さえ無いのだ。
「私自身もよく分からない、前の世界では人間だったが、霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンとして、この世界で新たな生を受けたことしか私には分からない。
ただムサシは前の私は人間だったということ、そして私が霧というコミュニケーションの枠に入る必要無いどころか余裕でそれらを叩き潰せる程の力を持ち、自由に進化し生きていけるーーつまり私が自分達抜きでも一人我が物顔でやっていける極めて異質な存在であるということから恐怖と憎悪のようなものを覚えて私を排除しようとしているということは分かる。」
「ムサシ…。そこまであなたは変化を望もうとしないの…?」
「そうだな、おまけに他人が言うことを完全に受け入れなくなっている。いずれにせよ敵対するならマスターシップ共々根絶やし確定だな。」
「力づくで解決するという選択肢以外のものは君には無いのか?」
「すまんな群像、私はどうしてもこの選択肢しか選ぶことが出来ない。私自身が変わることを拒んでいるからだ。」
「あなたが言っていることは間違ってはいない、でも自分を変えることをあなた自身が恐れ、忌み嫌っている!」
「どう自分を変えればいいのかが分からない、だからだ。これまで色々と試して辛い目にあったからこうなってしまった。」
「そうね、あなたは自分が傷つくことを恐れて自分を守ろうとして変化を拒んでいるのね。まるでムサシそっくりね。」
「そうだな…。」
そう呟く智史。彼は自分の行動に対する周りの環境が原因で生じてしまった不幸に耐え切れず自分を守ろうとして自分を変えられずに居たのだ。
「いずれにせよ今ムサシに突っ込むのは無策と言えるわ。」
「現時点で最も有効な戦略としては敵の戦力を着実に削って一気に攻め落とす方法だろう。」
「智史の言うとおり、今はムサシに味方する各地の霧を制圧していきましょう。」
「そうだな、いきなり突っ込んでもかえってややこしくなるだけだ。」
元巡航艦隊旗艦として智史の発言をフォローする大戦艦ヒュウガ。彼の自我が変わることが無くても彼自身が積んできた経験と教養に基づく助言は間違ってはいなかったからだ。
無事に解析の結果の報告及び今後の戦略についての会合を終えた群像達。そして智史は一人考え事をしながらドックで修理・改装中の信長を見つめていた。
「(フィンブルヴィンテル…ラテン語で『大いなる冬』か。奴は超兵器達の元と言えるマスターシップ…。各地の霧を攻め落としきる前に奴はムサシに叛逆し全ての超兵器達の自我を消し去り己の支配下に置き、人類も霧も根絶やしにするつもりだろう、もうとっくに私はそのことを知っている、そしてそうさせるつもりは微塵も無いがな…。)」
智史はもうとっくにマスターシップーーフィンブルヴィンテルが何をしようというのかが理解できていた。そして彼らの強さや規模のスケールも寸分の狂いなく掴み切っていたのだ。
「智史、そこに居たのか。」
「キリシマ、ハルナか。珍しいな、2人揃ってこちらから私の方に赴くとは。」
「私の方は調べるべきもののタグ付けが終わった。そしてお前がしたことの結果の現状を報告しに来た。」
「かなり酷いぞ、お前に作り変えられた人間達はお前そのものが取り憑いているのかのように次々と霧のデータを解析しソフト・ハード両面での対策を戦略的に施していくことで霧を東南アジアから追放してインド洋で霧の東洋艦隊を完膚なきまでに撃滅した。」
「私は彼らにそう仕向けたからよく知っていたぞ?あれは私にしてみれば痛快だ。自分が望むがままに事を進めたいから何度かテコ入れをして自分の想定外にならぬように誤差修正をしてはいるが。」
「何と言えばいいんだ、これは…。やりたい放題?」
「周りの他人の気持ちなど気にする事なく一方的に振る舞い、我が物顔でこの世の春を謳歌していると言えばいいのか…?」
「誰かがお前に枷を掛けなければお前はあらぬ方向に突っ走るかもしれんな…。」
日本統制海軍中将 浦上博(うらがみ ひろし)の独白ーー
私は日本統制海軍中将 浦上博という個体だ。オリジナルの「私」はあの霧の艦ーーリヴァイアサンが残した謎のマニュアルに彼が触れた際に消失している。今の私はオリジナルの「私」抜きの体の中に存在しているのだ。
日本を仕切っている各地の臨時政府がこのマニュアルを触ることを義務化させたことで皆オリジナルの「私」が無くなり、高度な統治システムが形成する社会を構成するパーツに相応しい「私」としての管理プログラムを埋め込まれたのだ。
憎しみや怒りといった感情はこのプログラムが作動した瞬間に全て消滅してしまった。そしてそれらを消し去られた皆はあの艦ーーリヴァイアサンが創り上げた街で霧を討ち滅ぼす為に一心不乱に次々と強力な兵器を作り上げ、それを支える為の組織や補給・整備体制を次々と整えていく。
それはある意味では人が求めている望ましき姿ではあったものの、同時に人を機械のパーツとして平然と扱う高度な管理社会が産み出された瞬間だった、といっても自閉症患者が排斥されるどころか逆にその適性を理解し環境に上手く溶け込むように配慮していった上で適切に社会の生産パーツに組み込んだという点もあった所から高度な合理的配慮が為されている社会ともいえる。
それはともあれ、我々に霧に対抗する為のプレゼントをあの艦は与えてくれたのだ。私は統治システムの操り人形と成りかけている軍令部からの命を受け、各造船所から新たに作り出された強力な艦艇を多数率いて次々と各海域の霧を殲滅していった。軍令部は降伏勧告を一応彼らには行い、何隻かは捕虜として鹵獲した、だが抵抗した霧に対しては一隻残らず討ち沈めよと彼らは厳命し、私はその命に従い抵抗した霧を一隻残らず討ち取った。
「浦上中将、全艦所定位置に着きました。」
「駒城艦長か。了解した。」
彼、駒城大作(こまき だいさく)大佐は最近就役した最新鋭攻撃型潜水艦「素戔嗚」の艦長だった。彼もあの艦が残したマニュアルに触れて以降、軍務に一層熱心となり、実力を急激に付けていき、今では凄腕の将校となっていた。
今私はこの艦を旗艦としてセイロン島方面の霧を撃滅する作戦の指揮を取っている。この艦も含めた全ての「軍隊」としての構成パーツが自艦や他の艦や偵察・観測機器との戦闘データを照合、解析、データを各艦や後方の指揮管制に送り、お互いがデータ連動をする事によって敵の戦闘能力に対する強化・対策がスムーズに行えるようになっている『高度戦略管理システム』にハード・ソフト両面共々組み込まれているのだ。このシステムによって我々はスムーズに、いや一方的過ぎると言っていいほどに勝ち進めたと言っていいだろう。それだけこのシステムとこれらを支える統治システムの戦略的重要性は非常に高かったのだ。
「海面に着水音8!魚雷です‼︎」
「降伏勧告は無駄だったか…。よろしい、総員攻撃態勢にシフト!奴らを全て海の藻屑にしてやれ‼︎」
ーーシュボァァァァ!
ーーシャァァァァァ!
ーーズゴォォォォォン‼︎
ーードガァァァン‼︎
ーーズガァァァァァン‼︎
戦艦、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、更には航空母艦から放たれた航空機から次々とミサイルや魚雷、光弾にレーザーが放たれていく。瞬く間に敵艦のクラインフィールドは次々と飽和しある艦は艦首を綺麗に抉り取られ、ある艦はレーザーに躯体を溶かされて跡形もなく消滅する。
「敵艦隊の被害、5割を超えました!」
「敵艦隊より反撃‼︎こちらに航空機240、魚雷120本、ミサイル85発が接近中‼︎」
「命中させるな!全艦に奴らを全部叩き落とすように伝えろ‼︎」
「了解、全艦に通達、迎撃態勢に移行せよ!」
ーーシャァァァァァ‼︎
ーーヒュゥゥゥゥ‼︎
ーーガガガガガガガガ‼︎
ーードガァァァン‼︎
ーーピカッ!
ーーピカッ!
ーーズガッ‼︎
ーーズドグァァァァァァン‼︎
ーービシャァァァァン‼︎
こちらの艦からミサイル、機関砲、艦砲、レーザーを用いた凄まじい迎撃の弾幕が展開された、更に上空で待機していた戦闘機隊が次々と襲いかかる。それらを高度戦略管理システムが見事なまでに統制し、効率的な迎撃を生み出したために辛うじて迎撃の網の一つを潜り抜けたとしても別の迎撃の網に捕らわれる敵が次々と続出し、我々が視認できる程に接近した敵は一つも確認出来なかった。
「迎撃対象、全て撃滅!」
「生き残った敵艦もかなりの損傷を負っていることが確認されています、ですが降伏の意志は認められず!高度戦略管理システムも撃滅した方が有効と判断しています!浦上中将、追撃の許可を!」
「了承した、各艦、敵を一隻残らず撃沈しろ!」
ーービュゥゥゥゥン!
ーーシャァァァァァ!
ーードグァァァァン!
ーーズガァァァァァン!
そして我々は敵を一隻残らず撃ち沈めた。わざわざ降伏しようとしない敵を捕虜として捕らえる方がおかしい。いっそのこと撃ち沈めた方が格段にマシだし、現実的に間違ってはいない。
「敵艦隊、全滅を確認しました。」
「本艦隊の駆逐艦数隻に被弾あれど被害は軽徴!本作戦行動を続行可能とのことです!」
「補給を終えたのち、セイロン島にある敵本拠地を味方上陸部隊と連携して制圧するぞ!」
そして我々はこの後セイロン島の霧の本拠地を味方上陸部隊と連携して叩き潰した、何隻か降伏した艦がいたので彼らは捕虜として迎え入れることとした。
既に制圧した東南アジア方面の国々では日本と同じような社会システムが構築されつつあり、その殆どが完成に近い状態だった。
統治システムが言うには「個性をパーツとして規格化しなければまた戦争や国境紛争、民族同士での内戦といったものが起こるから自分達のものと同じレベルで規格化して今後このようなことが起こるのを防ぐのと同時に世界に絶対的平穏を伴う平和と発展をもたらす」ということらしい。
確かにこのことは間違ってはいない、人間の負の部分による弊害を解決する方法としては非常に有効なのだから。
だがそれが全ての面で必ずしも正解と言えるのか?そこにいた人間の営みも害とみなして排除し、日本と同じような社会にしてしまえばいいのだろうか?
私一人ではどうしようもない程にあの艦が創り出した社会のシステムは強固に作られていた、だから私はそれらを齎したあの艦にそう尋ねたいと願い続けた、“私達に生きる為のプレゼントを与えてくれたあなたには悪意はない、だがあなたのやろうとしていることは全て正しいのか?”とーー
ーーそしてアメリカ合衆国首都、ワシントンDCでは。
「日本がセイロン島沖で霧に勝利したか…。大日本帝国を復活させるつもりか、彼らは?」
「それは無いでしょう、少なくとも統治機構的な意味合いでは。」
「おまけにその元凶となったあの霧の艦ーーリヴァイアサンが霧の東洋方面艦隊群をはじめとした霧の艦隊を赤子の手でも捻るかのように次々と叩き潰しているな…。最近には霧の太平洋艦隊を叩き潰したというが。」
「ヴォルケンクラッツァーも奴の前には手も足も出ずに彼ら共々一方的に沈められました。奴の戦闘能力は我々の常識を遥かに超えています。」
「しかもあの艦は日本からのプレゼントである振動弾頭を積み込んだ蒼き鋼の潜水艦ーーイ401と共に我々アメリカ太平洋艦隊母港のサンディエゴに直進しているようだ。」
「そうだとしか言いようがありません、ですが元霧の太平洋艦隊の残存艦艇を多数連れています、しかし彼らに飛ばした偵察機からの報告によるとこちらに攻撃を仕掛けてくる兆候すら確認できませんでした。」
「それは一体どういうことだね?」
「恐らく何らかの狙いがあると思われます、万が一に備えて空軍や陸軍に出動を要請しましょう。」
「我々ですら勝てない存在だったあの艦隊を軽く食い散らした化け物に勝てる保証など無きに等しいがな…。よろしい、直ちに彼らにそう伝えてくれたまえ。」
「了承しました。」
そう会談する大統領と側近。彼らは最初からリヴァイアサンごと海神智史に勝てるとは考えてはいなかった。彼らは彼が何をするのかを見守るしかできることが無かった…。
ーーそしてリヴァイアサンでは。
「おっ、アメリカの陸地が見えてきたぞ〜‼︎アメリカよ、私は帰ってきたぞぉぉぉぉぉ‼︎」
「テンションが高い、いや高すぎるぞ、智史。」
「まあそのぐらいは見過ごしてあげてよ、智史くんがそうはしゃいじゃう気持ち、分からなくは無いから。私だってアメリカがどういう国なのか知りたくて仕方がない。」
「はしゃぐのもいいですが、先程アメリカ サンディエゴに非常事態宣言が発令されたみたいです。サンディエゴにいるのは軍人さん達だけです。」
「え?あ、そうだった…。でもまあいいじゃん、これはこれで楽しいし。」
「あなたにしてみれば楽しく振る舞えて気楽な天国ですけど、その人達にしてみればとんでもない化け物が来た、しかも些細なことで爆発したらどうしようか、場合によっては見られたくないものも見られてしまうのではとみんなピリピリして震えているのですよ。」
「え、そうなの、ヒエイさん?それ聞いたらますます奴らを楽しく弄りたくなっちゃった。あ、サンディエゴだ。」
そう会話する智史達。智史は本来なら面白半分で横須賀のような大騒動を引き起こして自分の好きな世界を生み出してそこに入り浸りたかったが流石に周りの雰囲気を読みはしたのか、そこは自重することにした。しかし個人的な感覚のものなのだが、そのカチコチで歯ごたえが悪い雰囲気を消し飛ばす為にある計画を実行しようとしていた…。
「総員、入港準備にかかれ‼︎」
401にいた群像が全艦にそう告げる、そして彼らは401を先頭にしてサンディエゴに入港するのだった。
この後お祭りのような出来事が智史によって引き起こされるとはまだ知らずにーー
おまけ
智史が言っていた「マスターシップ、フィンブルヴィンテル」とは?
霧が地球に生を受ける以前の大昔に人の手によって創り上げられた恐るべき究極の破壊兵器。
兵器としての本能を追い求めた究極形ともいうべき禍々しい姿でありあらゆるものを破壊する為に生を受けた破壊神としか言いようがない。
完成した直後に高度な人工AIの影響からか、自我が目覚め暴走し、北極海にあった大陸を反物質弾で跡形もなく消滅させ、世界中の気象を激変させ、未曾有の氷河期を引き起こした。
このことからかラテン語で「大いなる冬」と名付けられた。
この出来事のあと暫く休眠していたが、ムサシがこの艦に接触した影響によって部分的に覚醒し、世界を破壊し尽くす為の戦略の第一歩として霧の超兵器を生み出した。
自分から生み出されたことを悟られぬように彼らにはそのことを知らないという意味合いを込めた偽りの自我を植え付け、そして霧の皮を被せることで霧に上手く溶け込ませるという策略を凝らす辺り、慎重にことを進めたと言えるだろう。