海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー 作:satos389a
そう考えつつも私はストーリーの矛盾を無くしつつ詳細な世界観の設定を色々と考えておりました。
ストーリーは最後まで描ききります。
今作は前半はコミカル要素が強いのですが後半は猟奇的なシーンが殆どを占めます。
主人公の智史がやったことさえ可愛く思えてくる程です…。
それでも見たい方はじっくりとお楽しみ下さい。
「彼らは…、説得に応じはしないのね…。」
「はい、ヤマト様。世界中の霧にそう呼びかけたのですが、殆どの者があのヤマト様は偽物であると信じて疑いません。私達と同じようにその真実を知っている霧もヤマト様が智史さんに媚を売ったと信じて疑わなかったようです。また、大西洋艦隊は私達元太平洋艦隊との組織的対立から説得を一切聞きませんでした。」
「説得を続けて…。お願い、みんな、話を聞いて…。」
「ヤマト、説得はダメだったのか…。」
群像がそう尋ねる、そしてヤマトは悲しげにそう頷く。
「そうか…。」
そして蒔絵たちの家では。
「ただいま〜。」
「智史、男専用の浴場を作った様だな。」
「まあその通りですけど。」
「智史くんが作ったのは私たちみんなで作ったのとは違って随分と豪華絢爛だったわ。ケチ、といった方が正しいのかな?」
「ギクッ…。」
そう智史と会話するキリシマ、そして琴乃にそう言われてギクリとする智史。
「まあ悪くは言わん、自分だけで作ったならな。蒔絵は振動弾頭に関する仕事で今日も出かけている。」
「向こうの人たちにしてみれば蒔絵は自分達が必要としているものを持っている唯一の存在。裏を返せばそれさえ知ってしまった、もしくは自分達にしてみれば必要なことさえ知り尽くしてしまえばお役御免としていいどうでもいい存在。ところで今日で終わりだったな、その仕事?」
「そうだな、振動弾頭の量産に目処は着いたから取り敢えず終わりはするだろう。だがブラックボックスについては…。」
「色々と無意識に見えてしまうのだが未伝授と判断出来るな、何せ振動弾頭が霧との戦争以外での手札に使われたら堪らんからな。」
「まあそうだろうな、何れにせよ我々以外の霧にしてみれば新たな危険事項が増えたといっていいが…。」
実際二人の会話通り、蒔絵は振動弾頭の大部分に関してはアメリカ軍に説明はしたものの、ブラックボックスに関する説明は彼らには言わずに伏せておいた。そのことを彼らは疑うことは無かったようだが…。
「誰かがここに来るようだな、サクラ達とマミヤ、ノースカロライナにタカオ型姉妹にと貧乳ロリスパッツか。」
「智史、貧乳ロリスパッツとはもしや401のことか…?」
「まあそういえことだ。」
智史は彼らが来ることを常に機能しっぱなしの様々な探知システムやデータ検索処理で無意識で見抜いてしまっていた、智史本人の気持ちの関係なしに。
「お邪魔しま〜す。」
「いらっしゃい、皆さん。」
「あ、貧乳ロリスry」
「それ人の目の前で言うなぁ‼︎」
「キリシマ、何かあったの?」
「4、401⁉︎いや、なんでもないぞ…。しかし401、船体は何処にやった?」
「ヒュウガが私の船体をスキズブラズニルで改修しているから。」
「なるほどな、諸君らがここに来た理由は簡単な“お祭り”の他に今後の話についてだろう?」
「その通りだ、智史。」
「しかし、サクラ、提督、なぜここに来た?我々に所属するという必要性などないというのに。」
「そうだな、確かに君が言う通り、君が所属している組織は我々に所属という要求を求めていない、ただ、今も元の世界に帰る方法が分からなくてな…。」
「そうか、まあいい。(本当はもう既に元の世界に連れ戻すことも出来るのだが、今そんなことをあっさりとやったら新たなギクシャクや警戒を呼び起こしかねないからな、まあそんなことが出来てしまうだけの装備を付けてしまったら何って言えばいいのか、面白みがなくなるといった方が相応しい…?)ところでノースカロライナ、霧の大西洋艦隊はモンタナからの降伏要求に応じていないみたいだな、まあ霧を裏切る形となったし太平洋艦隊と比べたらムサシに信を強く置いているからな…。」
「まあその通りだ、取り敢えずこの話はここで話すべきではない。」
ノースカロライナはそう言うと智史を連れて一旦外に出る。
「貴艦の発言通り、モンタナ様からの降伏要求を彼らは拒否している。彼らは貴艦のそばにいるヤマト様はヤマト様ではないとしてその要求を撥ね付けた。」
「組織的対立もそこに絡んでくるからな…。」
「そうだな、元々我々太平洋艦隊と大西洋艦隊は互いをライバルとしてイザコザを繰り広げてきた。そして貴艦が「霧」を破壊していき、子宮がムサシによって両者に配置された時でもその対立は変わらなかった、貴艦に対抗する為の戦力拡充という大義名分を互いに掲げて。そして我々が貴艦に負けたことをいいことに彼らは益々強硬になっている。」
「なるほどな。戦力の方に話を移していいか?」
「構わん。」
「奴らの戦力は、メインなら超高速潜水艦アームドウィングスを中心として超巨大双胴強襲揚陸艦デュアルクレイター級がオリジナルも含めて20隻、18inch砲を複数装備したアルウスの改良版と言っていいヴァルキリー級が10隻に量産されたヴィルベルヴィント級とそのレーザー兵装版も多数装備されているか…。おまけにあの「器」も一緒にコピーされているか、まあ基本的にはその器無くしてあんな力は振るえないからな…。」
「智史、半分は正解だ。だがもう半分はーー、言わなくても分かっているか。」
「多少のリスクを背負ってでも私に関するカウンターとしての戦力の充実を急ぎかたった為だろう?あとモンタナから知ったようだが、彼らがマスターシップに操られることを知らなかったことも大きいか。」
「その通りだ、貴艦の言う通り、私は霧の超兵器がマスターシップから作られたということをモンタナ様から知らされた。あの方も貴艦がヒュウガに研究を依頼し、解析して結果を知らされるまでは知られなかったようだ。」
「ともかく、奴らがマスターシップに操られるように造られているということは確定した。そしてその作りもコピー体に受け継がれてしまったことも。もし奴らがマスターシップの手先に堕ちたら、奴らを使役していた霧は破滅が確定するだろうな、マスターシップは自分以外の全てを滅ぼすことを目的としているのだから。しかもまあそれは私抜きと仮定した場合の話だが…。」
「一応聞いてはおくが、貴艦がそこに居てもその結末は変わるのか?」
「(まあそう聞きたくなるかもしれんな、必ずしも『勝利する』という未来が確定したわけでは無いのだから。)そうか、なら変わらないとは言い切れるか?」
「よくわからないな…。」
「そうかもな。それに更に厄介なことが判明した。」
「なんだ?」
「マスターシップの破片が器に入ると超兵器は本来の姿を現わすということは知っているだろう、だがそれだけではない、マスターシップとネットワークのような繋がりでマスターシップが作ろうと命じたものを瞬時に作れてしまう、例えば奴が『ウイルスを作れ』と命じたら破片を入れた超兵器達は瞬時にそれを作れてしまうのだ。」
「何だと⁉︎それが本当だとしたら人類だけでなく我々を滅せるだけの兵器も作れてしまうということなのか⁉︎」
「そのような事実はまだ確認されてはいないがその気になれば作れてしまうということだな。おまけに破片は奴の意のままに自在に動かせる、つまり奴が破片を入れようと思えばいつでも入れられるということだ、ただ目覚めていないからこの事象は確認されていないだけのことだ。」
「少し分からないところがある、常識的に分かるように具体的に教えてくれないか?」
「奴、マスターシップは破片を介して多次元空間を使って必要なものを伝達できる。霧の超兵器達を奴が支配下に置き、彼らに破片を入れた状態で本来の姿に変えたという時に限りこういうことは出来ないという制約があるが、多次元空間を介した「手助け」で、出来ないことも難なくと出来るようになってしまうのだ。」
「なーー」
そこに、突如としてーー
「智史、ノースカロライナ?二人ともどうした?二人とも険しい顔で話をしていたようだが…。」
「コンゴウか、マスーー」
「いやなんでもないぞ‼︎」
「そうか、それよりも琴乃が『お着替え大会』を開くらしいが…。」
「主にイオナ、タカオ、ハルナがメインか…?」
「そうだな、ハルナはコート依存が強い…。激しく嫌がって抵抗することも承知の上でやるようだな…。」
「取り敢えず、行こうか…。」
ーー琴乃、イオナの服を変えるつもりだな…。よもや劇場版アルスノヴァに着ていた服とは異なるものにするつもりか…?ファッションに関する本も買ってきたという行動以前からでもお前がこういうことをすると分かってはいたが…。
そして智史達は家の中に戻っていくーー
その頃、家の寝室の一室ではーー
「イオナ、智史くん未だに『貧乳ロリスパッツ』ってイメージをあなたに抱いているみたい。」
「そう…。ごめん、琴乃。こういうこと聞いてしまって…。」
「いいのよ、なら智史くんが抱いてるイメージをぶち壊しちゃいましょう?」
「でも、どうやって壊したらいい?」
「いつも着ている服を思いっきり変えちゃうのよ、今からやる『お着替え大会』で。幾つかファッションに関する女性雑誌をあなたに見せるから。」
琴乃はそう言うとファッション雑誌を幾つか見せる。
「私が着ている服のスタイルと随分と違う…。」
「でしょ?これが今時の女子のスタイルよ?」
「この感覚…。何って言えばいいの?」
「“お洒落”って言うべきかな?」
そう会話する2人、そしてそこに智史が現れる。
「2人ともここで話をしていたのか。」
「あ、智史くん。ちょうどいいところに来た。これから『お着替え大会』をやるから2人でどうするか話をしてたの。」
「それは構わないが一応、私が知っていた『世界』のイオナとその仲間の比較映像、出しておくぞ。」
智史はそう言うと『原作』のTV版と劇場版の登場人物達のスタイルを示している画像を投影する。
「これが、違う世界の『私』?あなたが言っていた『あだ名』とは違うスタイルの姿がある…。」
「これは智史くんが知っていた『世界』からの知識ね…。なるほど、これはお着替え大会の一例の参考になるかも。智史くん、そのデータ、私のパソコンに転送してくれる?印刷して参考例にしたいから。」
「了承した。だが物質生成能力で比較表も作れるはずだが?」
「他人に任せっきりなのもちょっと気が引けちゃうから、だから。」
そして智史はインターネットワークシステムに強制介入して、その画像データをパソコンに転送する。すぐに琴乃はそれを印刷する。
「智史、その画像の衣装に、着替えていい?」
「か…、構わんが…。」
「ありがとう。」
するとイオナを囲むように水色のサークルが生じる、そして彼女の服が青い光の粒となって形を崩す、一瞬彼女の裸体が露わとなるが直ぐに周りを囲んでいた青い光の粒が彼女の体を囲み、多い、再び服の形を構成する。その青い光の粒が服の形を成した時にはその形はさっきの形と異なっていた。
「貧乳…、ロリ…、スパッツじゃ…、無くなってる…。(こうなることが分かっていても、これで完全にうちの頭の中のイオナのイメージが崩れた…。)」
そう、その服の形はテレビに出てくる少女アイドルを思わせるような白みを帯びた薄い青で統一され、胸にはピンクのリボンがつき、脚には白いニーソックスが履かれているというものだった。
「(うわぁ…。これって嫌味…?)」
「智史、これからあなたの中の『私』を壊す。じっくりと楽しんで。」
「嘘でしょぉぉぉ…?(笑)」
そして智史は少しショックを受けた顔で琴乃やイオナと共に皆が集っているリビングに向かうーー
ーーリビング。
「401、あなた、衣装を変えたの?」
「そう、智史が私を見た目だけのあだ名で呼んだことがあるから思い切って衣装を変えた。」
「思い切ったことをするなぁ、401。そんなに智史の付けたあだ名が気に入らなかったのか?」
「そう。」
「智史さんは思ったことが直ぐ顔に出るタイプですからね。」
イオナとそう会話するアシガラ達。
「みんな集ったみたいね。これを見て。」
琴乃はそう言うとテーブルに智史から送られたあの比較画像が載った紙を置く。
「これは智史くんが持ってたものだけど、別の世界のあなた達に関するものが載っているわ。」
彼女はそう言う、そして皆はこの紙を見る。
「別の世界の『私』ってこんな服を着てたのね…。」
「ハルナ、別世界のお前は髪を変えたみたいだな。」
「お姉ちゃんの乙女プラグインの機能の仕方が酷い…。」
「私達が着ている服とこの写真の服、見事に一致してますね…。」
「それってパクリ?つまんな〜い。」
彼らはこの紙に表されている別世界の『自分』達に様々な反応を示す。
「それは参考程度にして、本題行きましょう?」
「そうね、その紙が本題とは言えないし。」
「んじゃあ、ファッション雑誌を幾つか見てその中から自分の着たいものを選びましょう。」
「さんせ〜い‼︎」
そして彼ら、メンタルモデル達は自分達が着たい服を着たイメージ図を作り上げていく。彼らは浴場作りの際に智史からイメージ作りも教わったのだ。
「ちょっと待て、着る服はどこから調達するんだ?ここにあるとは限らないし…。」
「(もしやうちの物質生成能力を用いてそうするのか…?しょうがない、無理に全員分購入したら物凄い費用となるし、おまけに決まってる、買えるとしてもその物品全てが店に揃ってますとは限らないからねぇ…。しょうがない…。)」
智史は半分涙目な気持ちで次々と彼らが着たいと思われる服を次々と生成していく。
「うちはあんたらの奴隷じゃ無いんだからね、このツケ、払ってもらうとしようか?」
「うっ…。」
「智史くんごめん、随分と無計画にやっちゃって…。」
「まあいいが…。」
「あと私が持ってるお洋服とか出してくるからちょっと待ってて。」
そして智史と琴乃は一旦リヴァイアサンに戻り、服を何着か持ってきた。
「さ〜て、『お着替え大会』開始っと。あれ、ハルナ?決めてないの?」
「わ、私は結構だ…。」
「コートを脱がされたくない、それが本音だろう?ならこちらから行くぞ。」
「ま、まってくれーー」
ーーバサッ。
ハルナの本音を見抜いていた智史は強引にコートを脱がす。
「か…返して…。ひっ、堪忍してつかあさいぃぃぃ〜。」
「嫌でも行くぞ、覚悟しておけ。」
「智史、琴乃、私も手伝う。」
そして智史と琴乃は嬉しそうに次々とハルナに服を試着させていく、イオナはそれを手伝う。
「もう、やめてつかあさいぃ…。」
ーープルプルプルプル…。
「まだだ、次行くぞ。」
「ヒィッ‼︎」
ーーズルズルズルズル…。
「これはどう、智史?ハルナらしさを私なりに考えてみたんだけど…。」
「参考例の一つとはしておこう、でもそれがハルナらしさを出すとは限らないから何度か試してどれがハルナにふさわしいのか見極めよう。」
「もう終わりにしてぇぇぇ…。」
「このヘタレめ、徹底的に調教してやるから覚悟しておけ。」
「あらぁ、智史くんタカオを虐めてた時の姿と同じじゃない。」
「まあ今はこうする行為自体がそのぐらい嬉しいと言うべきかな。」
こうしてお着替え大会での皆のファッションは徐々に形を成していく、北極海で世界を戦慄させる出来事が間もなく起こることを智史以外は感じずにーー
ーーその頃、北海では。
「お姉様…。」
「ルフト様、ここに居られたのですか?」
「ムスペル、心配してくれたの?」
「はい、あなたのお姉様であるヴォルケン様があの化け物、リヴァイアサンに討ち取られて以降のあなたの様子が心配になってしまいまして…。」
「あいつは…、あいつは…、私の大事なお姉様を殺し、私から幸せというものを奪っていった…。」
「その気持ちは分かります、ですがムサシ様が彼、リヴァイアサンに対する対処策として我々の各地の根拠地に『子宮』を建設され、我々やお姉様方がこれらを用いて次々と新たな『霧』を生み出しても彼にはほとんど効果がなく、ただ不幸を次々と生み出すだけでした…。彼に対する憎しみや敵意を募らせても我々には不幸しかないのでは?話し合うという選択肢もあるのに」
「そうね、話し合い、平和的な方法でやれば理解できる、しあえることもあるかもしれない。でもお姉様を…、お姉様を奪ったあいつだけは絶対に許さない‼︎」
「ルフト様…。」
「ムサシ様があの艦を…、あの艦を用いてあいつに裁きを下し、私があいつに止めを刺す…。それでいい、あいつには地獄に堕ちるという未来が相応しいのよ…。」
「ムサシ様はあなたがお姉様を討ち取られて狂乱されていたところを宥めてくださった、そして常にお姉様と同様、あなたの心の支えとなった…。だからあなたはムサシ様を信頼するのですね…。」
「あの方は我々を幸せにしてくださる方…。あの方抜きで私達が幸せになる未来なんて無いわ‼︎」
「それは分かります、ですが必ずしもムサシ様のやっていることは正しいとは言えるのでしょうか?」
「ムスペル、そんなはずはないわ。だってあの方は曲がりなりにも霧を永遠に『幸せ』にしようと頑張っているのだから。」
「そうですか…?私には嫌な予感がします…。悪魔が今から目覚め、この世の終わりが始まるような予感しかしません…。」
そう会話するルフトシュピーゲルングと超巨大航空戦艦、ムスペルヘイム。彼女は炎の国という名の意味に相応しく戦闘の時は積極的に戦うという勇猛果敢な一面が有るが、同時に慎重で、本質を見抜くという一面もあった。そう、彼女もまた、智史と同じく、北極海で大事件が起こるという『未来』を予感していたーー
ーーそしてほぼ同時刻、カリブ海にて
「太平洋の馬鹿どもは無謀にも奴に突っ込んで盛大に返り討ちにされた挙句に奴に媚びて奴の手先となって我々に降伏勧告を出したか、そんな手には乗らんわ‼︎」
「そうでございます、モンタナは霧を裏切り、奴に媚びを売った愚か者です!しかしそれを命じたのはヤマト様ですが…。」
「あれは奴が作った偽物だろう。そしてモンタナに奴に生き延びて媚びるように命じた張本人は何を血迷ったのか奴に突っ込んで自滅したがな。責任取りを気取ってはいるがその行為自体がほとんど無意味よ、いたずらに奴に兵を討ち取られた挙句にその責任取りで自滅とは愚の極み!」
「そしてその馬鹿どもに仕え、奴が強大な存在であることを知らされずに奴に一方的に殲滅された兵共は気の毒でございますな…。」
「生き残った者共は奴にしきりに奴に媚びをうる。こんな馬鹿なことがこれまでにあったか⁉︎いや、ない!媚びを売るぐらいなら特攻して奴の足を止めろ!」
「それが太平洋の馬鹿共に相応しいと『言える』、いや、『言えた』ほうが正しいと言うべきでしょう。もうすでに生き残ったものたちは最後まで抗うという選択が頭の中には無いのですから。」
「なんと愚かしいことか…。奴らは地に堕ちたといっていい。ところで、我々の兵力だけで奴には勝てるのか?」
「多分我々の兵力だけでは勝てぬでしょう。ですがムサシ様があの艦を使えば奴など一捻りでしょう。もっともあの方は慈悲深き御仁だ、奴とは違う。奴とそのドブネズミ共を殲滅する前に降伏勧告を出されるでしょう。」
「奴は多分応じはしないだろう、だがこれであの方は慈悲深き御仁であるというイメージは成り立つ。」
「奴が応じなければマスターシップとやらを用いて木っ端微塵ということですか、つまり奴が暴れられるのも今のうちと言うことですな。」
「まあそういうことだな。」
「既にマスターシップは発掘されてもうすぐムサシ様のお手によって完全に起動するでしょう、これで我らの天下は確定したと同じです、ははは…。」
そう会話するアームドウィングスとデュアルクレイター。リヴァイアサンごと智史の実力を侮っていたとは言い難いが、彼の力を見誤ってしまっていた。智史は元々感覚過敏なこともあったのか、あまり気にはしたくはなかったが、この会話が自分の頭の中に強く響いて来てしまったのでこう毒気付いた。
ーー嫌なこともよく聞こえるな、常に進化しづ付けることは一見するとメリットばかりだと思うけど思わぬところでデメリットにあったりするから案外メリットばかりとは言えないな、自分の中の『ソフト』を変えようとしないことも大きいからな〜。まあそういう問題点は以前から気が付いてはいたし、デメリットよりメリットが多いから進化をし続けよう、楽しいから。上へ上へ登り、唯一無双と言われても。
しかし、なんて傲岸不遜な奴らだ。あいつら、視野狭窄か?そしてムサシ、お前には指導者としての『器』が欠けているぞ?お前は現実逃避で頭いっぱいでそれ以外の『霧』は道具同然として使い捨てるのか?その現実逃避を続けたツケは高く付くぞ、お前が信用しているマスターシップの暴走という出来事をトリガーとして…。
そして彼ら大西洋艦隊は、智史が言った通り、ムサシが道具同然に使い倒しているマスターシップがとんでもない大事件を引き起こすということには気がつきさえしなかった…。
それはさておきとして。
ーー蒔絵とその仲間達の一軒家
ーー13時頃。
「ただいまーー」
「シャキーン」
蒔絵が玄関のドアを開けた途端、彼女の目の前に立っていたのは白いカプリパンツを履き、黄地に白いアロハの模様が入ったポロシャツを着ていたハルナだった。
「えっ、ハルハル、服変えたの?それよりもコート何処にやったの?」
「それを着なくても平気になってしまった…。智史に散々に扱かれ続けられているうちに気が付いたらそうなってしまっていた…。」
「智史〜、ハルハルに一体何したの〜?」
「ハルナを面白半分で散々に弄んだよ?(笑)」
「だめでしょ〜?ほんとにいけない子ね、智史は。」
「まだ説明不足だから誤解されちゃうよね、実はこのことには訳があるのさ。」
智史は『お着替え大会』で自分はコートを脱がされたくなくて不参加で逃げ切ろうとしたハルナの本音を見抜き、彼女にふさわしいファッションを決めるついでにハルナのコート依存解消も出来たらいいなと考えつつ色々とハルナを弄って遊んでいたらあっさりとその依存も解消できたことを話した。
「えっ、ハルハル達は私が来るまでにファッションショーのようなものをやっていたの?」
「そうだ、その時私はコートを脱がされるのが嫌でこの場を乗り切ろうとしたが…。」
「ハルハル、それってダメでしょ〜?せっかくハルハルも誘ってみんなで楽しくやろうっていうのに自分が嫌だからって逃げたら次から誘われないよ〜?」
「す、すまん、蒔絵…。」
「智史、さっきはごめんね。」
「まあ事実を伝えただけだが、ハルナがお前の望むような姿を醸さなくなっているぞ…。」
「あ、そうか、ハルハルコート無くてもヘタレじゃ無くなっちゃったからね…。」
「すまん蒔絵、智史が散々に私を扱いたおかげで私はもう『ヘタレ』にはなれなくなってしまった…。」
「ハルハルがハルハルじゃなくなっちゃうなんて、なんか寂しいな、でも智史に弄られて良かったね、ハルハル。クールな大人の女性って感じが出てカッコ良くなってる‼︎」
「そうか、ありがとう…。みんなファッションが決まったみたいだ、見に来てくれ。」
「うん‼︎」
そして智史とハルナは蒔絵を連れてリビングに入る。
「すご〜い‼︎服変えるだけで見た目の印象って随分変わるんだね‼︎」
「服を変えるだけで見た目の印象がこんなに変わるとは、いままで体験したことが無かったな…。」
「ふはははは!いいぞ、この衣装はいい!」
「あ、キリシマにコンゴウも衣装変えてる‼︎」
「わ、私は勝手に智史の奴に着替えさせられたんだ‼︎」
「コンゴウ、衣装可愛い〜‼︎」
「くっ、私に絡み付くな‼︎」
「蒔絵、私も服変えた。」
「イオナ?なんかお姉さんっぽくなっていいな〜‼︎」
「琴乃、その服装、随分とかわいいな、なんか乙女っぽい感じで。」
「も〜、智史くんったら〜。そんなこと言わないでよ〜。」
蒔絵達はリビングにいる皆の服の変わりようを見たが、否定すること無く、むしろ嬉しそうにその変化を受け入れていた。しかし智史が次の瞬間にとんでもないことをしでかしたせいでその雰囲気は吹き飛んでしまう。
「サクラ、服のデザインが随分とアメリカの女子が着ているようなものに近くなってるな、でも個人的にはあの衣装が言葉的には何か似合うような…。」
彼はそう言うと突如としてサークルを展開し、モニターを空間上に出す、そこに映されていたのはドラゴンクエスト8の女性キャラクター、ゼシカの画像だった。
「彼女の服、あんたの体の特徴に似合ってるから参考例として出してみた。」
「す、ストレート過ぎです!一歩間違えたらセクハラですよ⁉︎」
「いやうちはそんなつもり無いんですけど…。」
「このバカ、空気を読めやオイッ‼︎」
「(ふぇ、何でこんなことに…?)」
彼がそう発言した途端、場は一瞬で凍りつく。そして彼は他者のデリゲートな部分は駄目だと激しく責められる。理屈で叱られているのならまだしも、感情的に責められるのは非常に嫌いで苦手だった。感情的に責められた彼は酷く落ち込み、部屋を出て行ってしまう。
「みんな落ち着いて。彼をこれ以上責めては駄目。理性的な意味合いで叱るのはいいけど、感情に任せて叱ったら彼は酷く落ち込んで内向的になってしまうわ。」
「そ、そうなんですか…。でもデリゲートな部分を平気な顔で言ったんですよ、彼は!」
「そのことについては彼は反省はしてるわ、だから今はこれ以上責めちゃ駄目。」
「は、はい…。」
琴乃の仲裁によってこの険悪な雰囲気は呆気なく収束した、彼女は外で仰向けになって空を見て気晴らしをしていた智史の元に向かう。
「智史くん、みんなが怒った訳を理解はしているみたいね。」
「そうだな、皆の気持ちを理解しようとしなかった私が悪いのだろうな、そんな私は皆を苦しめるだけの存在かもしれんな…。」
「そんなに自分を貶めなくていいの!そんなことぐらいで凹んでたら生きづらいでしょ?それに悲観的にならなくていいの、こういう険悪な雰囲気がいつまでも続く訳じゃないわ。」
「ああ…。」
「次からはこうならないように気をつけましょう。」
「わかった…。」
凹みながらもそう応答する智史。彼は自己管理が出来ていないという『短所』も意識してか、その教訓を新規作成した自己管理プログラムに記憶しておいた。
「それにしても空、綺麗ね。体が溶けちゃうぐらいに…。」
「(これは物理的意味じゃなくて比喩で言ってるのか。)そうだね、今日は晴れてるからね…。」
2人は嬉しそうに横に並び、仰向けになって空を見つめる、しかしそんな幸せは直ぐに崩れる、いや今崩されたと智史は悟った、次の瞬間に突如として北極海から発せられたあらゆるネットワークに介入してくる強力な通信電波を感知したことで。
ーームサシの奴、遂にパンドラの箱を開くか…。この前の創造主の使いのフリをした警告、お前のものだったということは直ぐに分かったぞ?そして千早翔像の形をした人形を用いて私や全人類への降伏勧告をする気だな、既にフィンブルヴィンテルの手の中でお前は踊らされている状況だというのに…。
「あらゆるネットワークに介入してくる電波を感知した。」
「なに、突如としてどうしたの?」
「多分よくないことが起こる予感がする、とりあえず一旦家に入ろう。」
ーー再び、家のリビング
「なんだ、これは⁉︎」
「私の方にも強制的に介入してきたぞ⁉︎」
「ナチ、何が起きているのですか?」
「我々専用のネットワークだけでなく、あらゆる通信チャンネルに介入してきます!」
ーーアメリカ海軍サンディエゴ軍港、同コントロールセンター
「軍の通信回線に強制介入!」
「世界中の霧の妨害電波が消えています!」
ほぼ同じ頃、世界中では、霧の妨害電波によって何も映すことなく、真っ黒な画面だけを維持していたテレビ達が突如として紋章のようなものを映し出す。
「民間の周波も使用されています、電波ジャックです!」
「何だと⁉︎発信源は⁉︎」
「不明です、今解析中とのことです!」
同じ頃、カリブ海でも。
「ついにあの方が降伏勧告を出されるか…。」
「そうみたいですね、これが最後の警告となるから奴がこれを蹴れば破滅以外は無いと言って同然でしょう。」
「智史さん、一体何が起きているんですか?」
「電波ジャックだ、発信源は北極海にいるムサシの奴だ。」
「何ですって⁉︎ムサシ様が…。」
「恐らく奴は何らかのメッセージを伝える為に世界中の電波をジャックしたのだろう。」
智史はそう言うと巨大なモニターを展開し、そこにムサシからの映像を映す。彼がその映像を映して程なくして、大和型を思わせるシルエットを持つ艦をセンターにし、その左右を4隻の戦艦と思わしき艦が守り、その背後には禍々しいまでの姿を持った巨大な要塞を思わせるような物体の姿を映した映像が現れる。
「ーーなっ…。」
「なんて、姿なの…?」
「まるで魔王を彷彿とさせるような姿だ…。」
「破壊の為に生み出されたとしか言いようがないわ…。」
「この兵器からは悪意しか感じ取れません…。ムサシ様は私達や智史様を滅ぼす為にこんなものまで用いようなんて…。」
ーー前にそのようなシルエットを何度か見ていたこともあってとりあえずは見慣れてはいるがこうして直に見るとラスボスとしての威厳を十二分に感じるし、かっこいいと感じるな…。
そして、第二主砲塔と思われる構造物に1人の銀髪の幼女が前艦橋から飛び降り、そして着地する。それと同時に画面が切り替わる。
「ムサシ…⁉︎」
「あれが、超戦艦ヤマトの妹、超戦艦ムサシだ。」
「綺麗…。まるで天使を思わせるような顔つきみたい…。」
「人間離れした美しさだな…。」
そして画面に映っている少女は語り始める。
「“人類の皆さん、はじめまして。私は霧の艦隊、超戦艦ムサシ。本日は超戦艦ヤマトから皆さんに大事なことをお伝えする為に遮断していた通信回線を復帰させました。どうか驚かずに聴いていただけるよう、よろしくお願いします。”」
「ヤマトはもうとっくに復活してるから大半が嘘と言い切れるな。」
智史はそう言うとヤマトと音声通信を繋ぐ。
「ヤマト、聞こえるか?」
「聞こえます、ムサシが言った『私』は存在しません!」
「だろうな。」
そしてムサシは、
「お父様」
と呟く、そして画面が切り替わる。
ーー海軍横須賀コントロールセンター
「おお…。」
「千早…、翔像…。」
ーー同時刻、スキズブラズニル
「おいおい、群像のオヤジかよ⁉︎」
「(父さん…。)」
「ちょっとこれ、群像くんのお父さんじゃない‼︎」
「翔像…、様…?」
「あれは、本物の翔像さんではありません!ナノマテリアルで作られた影武者です!」
「確かにな。死んだとは決まってはいないが、オリジナルの生体反応の存在は確認できない。あれはナノマテリアルで作られた人形だ。」
既に真実を知っている智史達はこの映像を構成している要素の大半が虚構であることを見抜いていたが、それでも、この映像をみて動揺していた。
そして、翔像の人形は語り始める。
「“全人類に告ぐ。これは、人類への降伏勧告である。”」
その発言に皆驚愕する。
「“私は元日本国海上自衛隊二等海佐、千早翔像。霧の艦隊の提督である。すべての人々よ、手遅れになる前に聞いてもらいたい。我々霧の艦隊はこの惑星のがん細胞たる人類を構成し、すべての存在と均衡を保てるよう、導くための浄化機構である。
人類はその未熟さのあまり、調和を著しく毀損し、省みることがない。我々霧の艦隊は海洋封鎖をもって人類への警告を発したが、諸君は混乱するのみで種の改善を試みる兆しもない。よって我々は人類諸君の自由を制限せざるを得ないと断じたのだ。諸君は無比なる安名秩序なる霧の艦隊の統制を受け入れる、種の在り方を行使すべきである。
即ち、完全降伏せよ!
人類諸君は武装解除後、国家を解体し、今後は霧の管理の元の生存のみを許可する。これは、アドミラリティコードによる種の保存の為の最も正しい選択である。
しかし、あの霧の艦、リヴァイアサンは我々に与するどころか我々の統治を拒否し、人類諸君に与して激しく抵抗している。これは世界を平和に導くどころか逆に破滅へと加速させている。
リヴァイアサン、これが貴艦に対する最後の警告だ、速やかに抵抗を止めて我々に降伏せよ、さもなくばーー”」
ーーザ、ザザッ、ザザァァァァ…。
突如として映像が途切れ、跡にはノイズ混じりの画面しか残らなかった。
「いったい何が起きた⁉︎」
「分かりません、ですがムサシ様の身の回りに何かが起こったことは確かです!」
想定外の事態に狼狽するアームドウィングスとデュアルクレイター。彼らはこのような事態など想定の一つもしていなかった為激しく混乱した。
「なっ、一体何があったんだ⁉︎」
「わかりません、通信電波が消滅!北極海を中心とした強力なノイズが発生しています!規模は、なおも増大中‼︎」
「これはーーまさか…。」
「奴がーー目覚めたのだ。」
ーー北極海
「い…、一体何が…⁉︎」
突如として自分の通信電波を遮断されたことに驚くムサシ。
「“小娘、随分と余の欠片と手先達を何も考えず、玩具同然に使いまわしてくれたな。このうつけが。我が手先はあの野獣の餌ではないぞ?”」
「発信源は⁉︎」
「マスターシップからです‼︎」
「見えんのか?余の姿が。ならこちらから行くぞ」
「う…、ひっ‼︎」
そうどこからか掛けられた声に驚く彼女の目の前に突如として人の形をした人ならざる禍々しい物体が立っていた。
「あ…、あなたは…。」
「余の名はフィンブルヴィンテル。貴様らがマスターシップと言っていた存在よ。」
「あなたがマスターシップなの?残念ね…、あなたの力は、私の、ものよ…?」
「それは余が貴様に戯れとして貸し与えたものよ、貴様のものではない。貴様は余の手のひらで踊らされていた家畜よ。もっとも、上手く使いこなせると期待していたが、やはり家畜如きには使いこなせなかったか。」
フィンブルヴィンテルはそう言い放つとムサシを蹴り飛ばす、彼女は前部15m測距儀の基盤に叩きつけられる。
「うっ…。くっ…。」
「なんという弱さだ。これが余が踊らせていたものか。」
フィンブルヴィンテルがそう呟き終えた、その直後にーー
ーービュィン‼︎
「あ、あなたリヴァイアサン⁉︎私を道具同然に使わないでぇっ‼︎」
「“貴様がフィンブルヴィンテルか。”」
「そうだ、貴様がリヴァイアサンか。成る程、この小娘が一目おき、余を使ってまで排除しようという理由がなんとなく分かる。」
「出て行けぇっ‼︎私の体から出て行けぇぇぇ‼︎」
「“嫌だな。貴様を使ってでも、記録し伝え、後世に残しておくだけの価値が有るものがここにいるからだ。”」
「ほう、これはありがたい。貴様は余のことを永久に語り継ごうとしてくれているのか。」
「“まあそうだな、少なくとも貴様がどういう存在なのかということは永遠に残しておこう。”」
「フィンブルヴィンテル、お前のような悪魔の為に残す記録なんか無い!リヴァイアサン、今すぐ私から出て行けぇぇ!」
「小賢しい、消え去るがいい。」
そしてフィンブルヴィンテルは剣のようなものを右手に生成するとゆっくりとムサシの方に真っ直ぐに向かってくる。
「貴様ぁぁーっ‼︎ムサシ様に近づくなあー‼︎」
「ミハイル⁉︎」
「これでも喰らええっ‼︎」
ーーブォンッ‼︎
この異常事態に殺気付いたミハイル・トハチェフスキーがフィンブルヴィンテルに斬りかかる、しかし…。
ーーブゥンッ!
「念力フィールド…⁉︎」
「その程度か、貴様の攻撃は?」
「うるさい、まだまだだ!」
ミハイルはフィンブルヴィンテルに滅茶苦茶に斬りかかる、しかしそのほとんどの攻撃が防がれてしまう。そしてフィンブルヴィンテルは彼女の攻撃の一瞬の隙を突いて、彼女の首を捉える。
「くっ、離せっ‼︎」
「まだ暴れるだけの気力は有ったか、なら…。」
「ぐっ…、か、体が動かん…。そんな馬鹿な…。」
「随分とあの小娘のことが気になっているようだな、だが心配するな、直ぐにあの小娘にも後を追わせてやろう。」
「おのれ、フィンブルヴィンテルと言ったな、その名、忘れんぞ‼︎」
「ほう、覚えてくれるのか、それはありがたい。貴様の存在は今から余の中に焼きつくこととなる。さあ、これ以上余を悲しませるな、思い残さずに逝け…。」
「くっ、くそぉぉぉっ…、貴様あぁぁぁっ‼︎」
ーーザンッ!
ーーバタッ。
「ミハイル⁉︎ミハイル…?」
「ムサシ様、早く、に…げ…て…。」
「そっ、そんな…。」
「骸のために残しておく剣は無い。ならば余の手で生かされた方が相応しい。」
フィンブルヴィンテルはそう呟き、指に何かを生成し、それを主を失ったミハイルの船体に撃ち込む、すると直撃した箇所が突如として変色し、形を変える。そしてその変異はみるみるうちにミハイルの船体中に広がっていく、戦艦として美しかった面影はあっという間に失われ、まるでゾンビゲームやバイオハザードによく出てくるモンスターのような禍々しい姿に彼女の船体は変貌した。
「ウガァァァ…。」
「見るがいい、此奴は今から虫ケラではなく我が手先として永久に仕えるのだ。」
「あ、ああ…。ミハイル…。いっ、嫌ぁぁぁぁぁ‼︎」
あまりに惨たらしい光景を見せつけられ、戦慄し、怯え嘆くムサシ。そしてこの光景を見たムサシの護衛の任に就いていた大戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦、潜水艦があらゆる攻撃をフィンブルヴィンテルの船体に叩きつける、しかしーー
「小蝿如きが、そんなものなど存在する価値も無し。ひれ伏せい!」
ーーブアァァァァン‼︎
ーードガガガガガガガガガガァン‼︎
フィンブルヴィンテルはその攻撃を全て受け止めると船体の方から巨大なエネルギー波を発し、彼らに浴びせる。彼らはクラインフィールドをきちんと展開して守りは固めてはいたものの、そんなものなど無意味だと言わんばかりに一撃で跡形もなく消し飛ばされた。更に骸を晒しかけていた艦と躯体、辛うじて躯体だけが生き残った者にまでもミハイルに撃ち込んだものと同じようなものを満遍なく撃ち込み、彼らを更なる絶望が襲う。
「ギャァァァァァァ‼︎」
「苦しい、くっ苦しいィィィィィ‼︎」
「体が、身体中に痛みがぁぁぁ‼︎」
「ガァァァァァ…。」
「…ァァァァ…。」
「………。」
「…ルルゥ…。」
「グルルルル…。」
「グォォォォォ…。」
「ウォォォォォォォーン‼︎」
彼らは悲鳴や苦悶、絶叫、強風、断末魔といった各々の「演奏」を何重にも奏でて一つの「合唱曲」を残して息絶える。そしてその後には彼らの「自我」を消し去り、新たな「生」を受けた化け物達の合唱が奏でられた。もはやそれは霧ではなく、フィンブルヴィンテルの命令以外は己の本能のままに全てを喰らい尽くす存在が無数に生まれたのだ。
「どうだ、貴様の部下が変わり果てていく様は?」
「そっ、そんな…。い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「“見事にこいつの心を壊したな。”」
「きちんと見てくれたのか、リヴァイアサン。」
「“貴様が残忍な性を持っているということをきちんと焼き付けたぞ。もっとも私も貴様と同じようなものを持ってはいるがな…。”」
「その言葉、ありがたく受け取っておこう。さて小娘、貴様は余にしてみればもう必要がなく、且つ捨て駒にする価値さえ無いモノだ。なら余が直々に殺してやろう。」
「ひっ、嫌っ、きゃっ、ひゃぁぁぁぁ、嫌ぁぁぁ‼︎」
既に壊れ怯え泣いていたムサシはこの一撃で完全に心が崩壊し、狂乱し泣き喚きながらこの場から逃げようとする。
「余の手から逃げることなど無意味。それを思い知りながら死ぬがよい。」
ーーヴォウガァァン!
フィンブルヴィンテルは自身の船体に戻る、そしてその船体の周辺に突如として黒い雷球が出現する、それは必死に逃げようとしているムサシの船体めがけて猛スピードで直進していった。
「ひっ‼︎いっ、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎こっちに来ないでぇぇぇ‼︎」
ーーヒュゥゥン。
ーーズキュゥゥゥゥゥン‼︎
「ムサシ‼︎」
「ムサシ様ぁっ‼︎」
ムサシは恐怖と絶望を刻んだ「悲鳴」を残して、一撃で沈められた、その様子を映していたライブ映像をリヴァイアサンごと智史経由で見ていたヤマトとマミヤが思わず叫んでしまう。
「そんな…。酷い…。敵対していることが分かっていてもこれはあまりにも酷すぎる…。」
「ムサシ様を操り人形として弄び、使えぬと判断したらゴミ同然に屠殺するとは…。」
「ひどい…、こんなのひどすぎるよ…‼︎」
あまりに残虐な光景の一部始終を北極海周辺の霧やカメラを強制ハッキングして撮影した智史経由で見ていた蒔絵達は傷つき、悲しみ、憤る。
「(“さっきは済まなかったな、リヴァイアサン。どうやらあの小娘を沈めたことで貴様の興を削いでしまったようだ。”)」
「(それは別に構わん、奴を通じて見ること以外にも貴様を見る為に使えるモノ、手段が幾らでもあったからな。)」
無言でそう会話をするフィンブルヴィンテルと智史。そしてフィンブルヴィンテルの方が先に沈黙を破る。突如として世界中のテレビやモニター、そして智史のモニターも彼本人が任意で映しているとはいえ、人の形をした人ならざる禍々しい姿をした存在を映した映像を映し出す。
「『余はマスターシップ、フィンブルヴィンテル!この世に運びる虫ケラ共よ、ひれ伏せい!』」
この映像が流れた瞬間、世界中の誰もが、この存在が世界に『悪夢』をもたらす存在であると直感していたーー
おまけ
今作の敵超兵器紹介
マスターシップ フィンブルヴィンテル
全長 2800m
全幅 1800m
基準排水量 70000000t
最大速力 水上 1200kt 水中 1100kt
武装
反物質砲 4門
120口径406㎝レールガン
前方 12門 後方 4門
δレーザー発振基 2基
光子榴弾砲 10門
超怪力線照射装置 40基
240㎝36連装汎用無推進誘導爆雷投射基(見た目及び攻撃方法は映画バトルシップの異星人船が使っていたものと同じ) 40基
全方位パルスレーザー 140基
各種ミサイルVLS 30000セル
量子フィールド、念力フィールド、自己再生能力及び学習能力、リヴァイアサンと同じく、各種物質生成能力を備えている。
解説
大昔に人の手によって生み出された『破壊』の為に生み出された究極超兵器。
完成直後に自我を持ち、『破壊』という自身に与えられた目的を曲解してしまい、世界中の文明を殲滅した挙句の果てに北極海に存在した大陸を消し去り、世界中が氷河期に突入するという未曾有の規模の異常気象を引き起こした。
その後しばらく眠りについていたものの、ムサシが使役しようと接触したことを契機に彼女を弄びつつ、全てを『破壊』すべく霧の超兵器を世界中に出現させ、今作にて完全に覚醒し、ムサシ達を用済みとして始末した。
なお、人の手によって作られたと書かれてはいるが、地球の外の何者かの協力が無ければこんなものは作れないという噂話もある。
超巨大双胴強襲揚陸艦 デュアルクレイター
全長 1500m 全幅 625m
基準排水量
最大速力 水上 1000kt 水中 なし
武装
90口径80㎝砲 3連装8基
500㎝9連装噴進砲 6基
12cm30連装噴進砲 80基
127㎜単装バルカン砲 60基
45cm12連装噴進砲 24基
254㎝多弾頭噴進砲 単装 24基
90口径46㎝砲 連装12基
各種ミサイルVLS 6000セル
61㎝各種魚雷発射管 30門
クラインフィールド、強制波動装甲、ナノマテリアル生成能力を生かした簡易的な戦略基地としての能力を持つ。
解説
ストレインジデルタと同じく、簡易的な戦略基地となる機能を持つ超兵器。但し前者の場合は自分から突っ込まないバトルスタイルに対してこちらは自分から直接突っ込むことを想定して前者より装甲を硬くしている。
また、強襲揚陸艦の名が示す通り、陸上の兵器も量産、運用することが可能である。
霧の大西洋艦隊は智史達に制圧された霧の太平洋艦隊の各基地を太平洋艦隊を潰して自己の勢力拡張を狙っており、ムサシが自分達の所にも『子宮』を与えたのを契機として、彼女と同じ作りのコピー達を多数建造した。
なお、ストレインジデルタやハボクックといった特定分野に特化してしまった超兵器達と同じく、簡易的な戦略基地としての機能を備える代償として潜航能力を最初からオミットしている。