海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー   作:satos389a

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今作は社会問題や人間の心理について書いてみました。
アメリカ軍が大戦後の発言力を増大させようと独断で行動しています。
それではじっくりとお楽しみください。


第26話 恐怖と脅威 そして「力」の重大性

「『余はマスターシップ、フィンブルヴィンテル!この世に運びる虫ケラ共よ、ひれ伏せい!』」

世界中に配信している映像でそう言うフィンブルヴィンテル。

 

「貴様、ふざけるな!ムサシ様をどうした⁉︎」

「ほう、概念伝達をいうものを通じて直に文句を言ってくるとはな。少し見直したぞ、我が手先よ。あの小娘は余が直に手をかけたわ。」

「なんだと、ムサシ様を殺したというのか⁉︎」

「そういうことだ。」

「くっ、この鬼畜め、貴様の手先と言われた覚えは無い!」

「『魂』は余が直に作っていないからそう言えるか。だが『肉体』は余が己の血肉を用いて『霧』という下種共の皮と此奴らを形作っている素材を混ぜながら直に作ったものだ。余の血肉が混ざっていることに感謝せよ。そしてそれを今から思い知るがいい。」

 

フィンブルヴィンテルは概念空間と現実空間の両方で何かを念じるように手を突き出す。するとデュアルクレイターとアームドウィングスが突如として苦しみ出す。

「ぐっ、ぐぁぁぁぁっ‼︎」

「痛い、痛いぃぃぃぃ!」

襲ってきた苦痛に悶え苦しむ2人、だがそれは2人に限ったことでは無い、リヴァイアサンとオウミを除いた全ての霧の超兵器達が同じ目に遭っていた。

 

「何なの、この痛み⁉︎痛い、苦しいよぉ‼︎」

「分かりませぬ、ですが意識を乗っ取ろうという邪悪な意思が感じられます…!」

突如として襲ってきた痛みに苦しむルフトシュピーゲルングとムスペルヘイム。

 

「誰か、誰か助けてくれぇぇぇ!」

「い、一体何が⁉︎」

「アームドウィングスの野郎の話を盗み聞きしていたがっ、ムサシ様を殺した奴があたしらの意識を乗っ取ろうとしてるんだっ、ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁ!」

「そ、そんなっ、気をしっかり持ってください!」

 

「コアが、コアが割れるぅぅぅ!」

「うがぁぁぁぁ」

「ぁぁぁぁ…。」

「…ぁぁぁ…。」

 

そしてその悲鳴は沈黙に変わる、その直後に何者かに洗脳された虚ろな表情でふらりと立ち上がる。

 

「…大丈夫、ねえ、大丈夫⁉︎」

「ぐあぉっ‼︎」

「ぎゃぁぁぁぁ、離してぇぇぇ!」

突如として豹変し、さっきまで仲間だった存在に襲いかかる霧の超兵器達。他の霧達は彼らを必死に止めようとしたり、理性を戻させようとするが、彼らが暴走することを普段から訓練して対策を整えて想定していても中々止められない。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅっ、る…、ル…フト…さま…?」

「ぅぅぅぅぅぅぅう…。」

「しょ、正気を…、失われたのですか…?」

「キャァァァァ‼︎」

「くっ…、何としても…。」

そう呟き懸命に抗おうとするムスペルヘイム、しかしその試みは無駄に終わった。

 

「な、なんだあれは⁉︎なんて禍々しい気配だ…。くっ、体がこれに惹きつけられているようだ…。」

突如としてマスターシップの破片が彼女の目の前に現れる、そして破片は真っ直ぐと彼女の方に向かってくる。

 

「くっ、くるなっ、こっちに来るなぁぁっ!」

そして破片はムスペルヘイムのコアと船体、その両方に予め仕込まれていた『器』に入る。

 

「い、嫌だ、いや…だ…。」

『器』に破片が入って程なくして、彼女の「偽りの自我」は完全に途絶え、フィンブルヴィンテルからの命令だけを素直に熟すだけの破壊の化身としての心が彼女の「身体」を支配した。その心が身体を支配するのとほぼ同時に船体も禍々しい模様や突起物があちこちに出現し、クリーチャーを船で具現化したような雰囲気となってしまった。しかし、彼女やルフトは「自我」が消えたわけではないのでまだマシだった、他の超兵器達はというと、破片が『器』に入る前に「自我」は消滅し、破壊の化身としての「心」が「身体」を支配するという悲惨な状況だったのだから。

それはともかくとしてフィンブルヴィンテルの手駒となった彼らは元「仲間」達に次々と牙を剥いで襲いかかる。

 

「掛かれ、我が手先よ。この世の全てを蹂躙し、壊し尽くすがいい!」

 

ーーザザァァァァ!

ーービィュィィィィン‼︎

ーーキュォィィィィン!

 

「やめて、一体どうしたの⁉︎」

「頼む、元に戻ってくれぇ!」

「やめろ、こんな事をして得になると気が狂ったのか⁉︎」

 

ーーズグァァァン!

ーーボカァァァァン‼︎

 

「ヴギャァァァ‼︎」

「きゃぁぁぁ!」

「許して、お願いぃぃぃ!」

「誰か、助けてぇぇぇ!」

 

元「仲間」だった霧側にしてみればもう既に手につけられない状態だというのにそれを更に悪化させるファクターが加わったという事態は堪ったものではなかった、ただでさえ彼らに不利だった戦況は一挙に悪化する、智史達が制圧した海域を除いた世界中の海で苦悶や悲鳴、恐怖、絶望、断末魔の重奏があちこちで演奏され、木霊する。

そしてフィンブルヴィンテルの手先と化し、本来の目的にふさわしい力と姿を与えられた超兵器達は生き残った者達に次々と「何か」を撃ち込む。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

「体が、焼けるぅぅぅ‼︎」

「熱い、熱い!」

「躯体が、船体がぁぁぁ‼︎」

 

「何か」を撃ち込まれた生き残った者達の船体や躯体を構成していたナノマテリアルやユニオンコアは次々と燻り、焼け、燃え上がり、変質していく、そして蛹が出来上がる、そこから生まれ出でたものはもはや人や船の常識的な形を成していない「化け物」だった。

そしてそれは世界中の各地の海域で繰り広げられる。

智史はフィンブルヴィンテルのやった事の一連のことをあたかも予測していたかのように事前に霧の各根拠地とその周辺海域にリヴァイアサンからRQ-4「グローバルホーク」を飛ばして皆に内緒でこっそりと撮影していたのだが、そんな事実など彼らが捉えた映像に映されていた光景を智史経由で見ていた蒔絵達、ハワイに居たヤマトや群像達に紙屑同然に吹き飛ばされてしまう。

「群像、奴にしてみれば玩具以外の価値など霧にはなかったのだろう。そして今その玩具の価値さえ感じなくなったから用済みとして真っ先に消されたのだろうな。」

「な…。ムサシをはじめとした霧は利用するだけの存在だというのか⁉︎」

「惨い…、用済みという理由だけでみんな殺すなんて…‼︎」

 

「この惑星に運びる虫ケラよ、これより貴様らは我が配下として生きるがいい。逆らうものは容赦なく我が血肉にしてくれよう‼︎ふはははははははは‼︎」

 

そして放送は途切れる、しかしリヴァイアサン=海神智史との会話はまだ終わっていない。

 

「フィンブルヴィンテル、貴様の手によって奏でられた苦悶と悲鳴、恐怖と断末魔の演奏、堪能したぞ。」

「ほう、貴様も余と同じ好みを持っていたか。それは誠に嬉しいことだ。」

「返礼として今度は私からも貴様の手先を用いた殺戮と蹂躙の演奏を貴様に聞かせてやろう。」

「そうか、貴様が我が手先を討倒して余の元に至ることを期待しているぞ。貴様は余にしてみれば唯一余自身を楽しませることが出来る存在だからな。」

 

そして二人の会話は終わる、それとほぼ同時に海の方で奏でられていた「演奏」は今度は陸の方に切り替わろうとしていた、「霧」が支配していた海域内から逃げ出した、いや辛うじて逃げ切った一部を除いた霧は全て喰い殺し終えた超兵器達が、新たに生み出した「尖兵」達を多数引き連れて、今度は陸を喰らい尽くそうと食指を伸ばしてきたからだーー

 

 

ーーイタリア、タラント要塞港近くの海辺の集落。

 

「父ちゃん、今日の夕ご飯はなに〜?」

「パンと玉ねぎのスープだよ。」

「わぁ〜、美味しそう〜‼︎」

 

日が落ち、暗くなっていくバラック集落で、父親と子供がバラックに入っていく、その中で待っていた母親と夕食を見て心を躍らせる。

 

「おかえり、あなた。」

「ただいま。」

「お母ちゃん、昔はどういう時代だったの?」

「昔は今よりもずっと美味しいご馳走がたくさん食べられた豊かな時代だったのよ。」

「ふぅ〜ん、でも何で今のようになったの?」

「あなたが生まれる十何年も前に私達は突如として現れたお化け達によって海から追い出されてしまったの。それ以来私達は海に出ることも出来なくなってしまって、それに伴って美味しいご馳走も入ってこなくなってしまったからなのよ。」

「なるほど〜、でもそのお化け達は何で僕達人間を海から追い出したんだろう?」

「それはね…。」

 

そう悩む母親。霧が人類を海から追い出したという事実は知ってはいたが、その理由までは知らなかった。

 

「ねえ、どうしてなの?お母ちゃん?」

 

それでもその事実の訳を知ろうと尋ねてくる子供に一言でも言葉を返そうとした、その時ーー

 

「“おい、海の方から何かやってくるぞ‼︎”」

「“何かが海の方で起きているみたいだ!”」

「“何だ何だ⁉︎”」

 

「何だか外が騒がしいな…。何事だ?」

そう言いバラックの外に出る父親。

 

「こんなに騒いで、一体なにがあったんだ?」

「俺は詳しい訳を知らねえが、海の方から何かがこっちに来てるって噂で大騒ぎだぞ。」

「なるほど。」

「お父ちゃん、どこに行くの?」

「海辺の方でなにが起こっているのかをちょっと見てくる。」

「あなた…、気をつけて…。」

「母ちゃん、僕も父ちゃんと一緒に行きたい!」

「ダメだ、お前はここで待ってなさい。直ぐに帰ってくるから。」

何かが起こるという不吉な予感に心が支配されたのか、父親を心配する母親。彼女は子供と共に帰りをバラックで待つことにした。

彼は、「何か」を見ようとする他の人々と共に近くの海辺へと向かっていく。

既に海岸はこの事象を知りたくて堪らない多くの人で埋め尽くされ、彼はその人々の合間から必死に「何か」を見ようとしていた。

 

「船…、なのか?」

「いや、それにしては随分と禍々しい雰囲気を出しているぞ…。」

「おい、こっちに向かってくるぞ…!」

「一体、何をするつもりなんだ…。」

 

あまりに不気味な雰囲気にそう驚き、戸惑い、震える人々。そう、海の方からこちらに姿を見せた「何か」は船とは思えぬ、生物と機械が融合したような禍々しい姿をしていた。そして彼らの様子など御構い無しに彼らの方へと向かってくる。

 

ーーゴゴゴゴゴゴゴゴ!

ーーキャリキャリキャリキャリ!

 

ーーバラバラバラバラバラハラ…。

ーーキィィィィィィン!

 

程なくして軍隊が現れ、「何か」を攻撃する態勢に入る、そして「何か」の方もそれに呼応するのかのようにアクションを起こし始める。

 

「軍人さんよ、一体これは何なんだい⁉︎」

「それはどうでもいい、今直ぐここから退避しろ!ここに向かってきている奴は我々を殺すつもりだ!」

1人の軍人が民衆の中の1人にそう答える、だがそれを言い終わるか言い終わらないうちに、「何か」の方から大量の羽虫、化け物のようなものが大量にこちらの方に向かってくる。

 

「みんな逃げろ、奴ら俺たちを殺す気だぞ!こいつら俺たちを喰い殺す気だぁ‼︎」

その一言で高まっていた人々の不安と恐怖は一気に爆発し、人々は我先にとこの場所から逃げ出そうとする。

 

「撃てぇ、撃ちまくれぇぇぇ‼︎」

「何か」がここを襲ってくるということが分からなくても、恐怖に支配されかけていた彼らはその恐怖のあまりに攻撃命令を受け取る前に滅茶苦茶に撃ち始める、そしてその連鎖は他の部隊にもどんどん広がっていく。そして「何か」の方も彼らに対して積極的に攻撃を開始した。

 

ーーババババ!

ーーダダダダダダダダ‼︎

ーーシャァァァァァ!

ーーヒュォォォォン!

 

瞬く間に空と海は光弾と光束、そして爆発で埋め尽くされる、そして両方の骸が次々と現れる。しかし、彼らの規模では「何か」を押し留めることなど出来ず、瞬く間に彼らの装備は破壊されていった。

それでも抗うーー最後までここを守りたいのか、それとも単に逃げられずに背水の陣で死に物狂いなのかーー彼らの様子など構うことなく、化け物の群れが平然と上陸してくる。

 

「ひいっ、うて、うてぇ〜っ!」

 

ーーパパパパパパパパ!

 

ーーヒュォッヒュォッヒュォッヒュォッ!

 

「な、なんだこいつら、こちらの攻撃が効いていねえ!」

「ひいぃっ、退却、退却〜!」

兵士達は半ば錯乱した状態で銃や対戦車ロケットランチャーを化け物達に向けて我武者羅に撃ちまくる、しかしその程度の攻撃は全く通用していない。ただでさえこちらの方が圧倒的に劣勢だというのに、相手が非常に不気味すぎているという事もあって自制心が崩壊し、彼らの統率は崩壊し、我先にと逃げ惑う輩まで現れた。

 

ーーバシュバシュバシュ!

ーーヒュンッ!

 

ーーズボッ!

 

「グハッ!」

「グガァッ!」

 

化け物たちは彼らを捉えると次々とツノを弾丸に変えて発射したり、収縮自在の舌を生かした銛攻撃で次々と撃ち仕留めていった、そして化け物達は仕留めた彼らの骸を食べ、そして新たな仲間を次々と生み出していく。またあえて生き残らせたモノは海の方にいる「何か」の方に連れて行かれた。

 

 

「きゃぁぁぁぁ!」

「キャー!」

「ああぁぁぁ!」

 

既にバラック街は海から迫ってくる化け物達から逃げ惑う人々でごった返していた、当初は要塞港の中に逃げ込もうと行動していたものの、要塞港の壁は「何か」と化け物達の中で巨大戦車の如き巨大なものが一撃を加えただけであっけなく倒壊し、そこから化け物達が容赦なく攻め寄せる。

「そんな、鉄壁と言われた要塞港の壁が…。」

「ここはダメだ、他の所に逃げろ‼︎」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

「嫌ぁぁぁぁ!」

「うわっ、うわぁぁぁぁぁぁ!」

「誰か、助けてぇぇぇ!」

 

「何か」からの攻撃が間断なく市街地に撃ち込まれる中、瞬く間に、化け物達は要塞港の中に居た生きた人々を喰らい、食いちぎり、嬉しそうに惨殺して地獄絵図を展開していく。その際の人々の断末魔の演奏があちこちで繰り広げられていた。

 

「誰か、誰か助けてぇぇ!」

 

攻撃が降り注ぐ中、父親は家財道具まで持ち出して逃げようとする人々の中を必死に掻き分けて母親と子供がいるバラックに向かおうとする。

 

「来たぞぉ、奴らが来たぞぉぉぉ!」

「逃げろ、ここに居たら喰われるぞぉぉ!」

「おいあんた、何処に行くんだ、こっちは危険だぞ!」

「家族が、家族がいるんだ‼︎」

 

父親は静止を振り切って人混みを潜り、やっとの事で母親と子供の元にたどり着く、しかしここも例外ではなく、海の方にいる「何か」から攻撃を受けたせいで破片や肉片が至る所に飛び散り、あちこちから炎が上がっていた。

 

「無事か⁉︎」

「大丈夫よ、でも突然攻撃が降ってきて、家が…。」

「それはどうでもいい、ここから逃げるぞ!」

 

そう言い父親は2人を連れてここから逃げようとする、しかし、突如として彼らの目の前に人の内臓の様なものが落ちてくる。

 

「何…、これ…。」

「生暖かい…。」

「いっ、嫌ぁぁぁぁぁ!」

 

彼らが振り返ると、その真後ろに生きた人を喰らい、嬉しそうに食い千切り、殺している化け物達の姿が見えた。化け物達は彼らに感づくと、新たな標的を彼らに定め、こちらに向かってくる。

 

「逃げろ、逃げろぉぉぉ!」

「嫌ぁっ、嫌ぁぁぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁぁ!」

 

彼らは必死に化け物達から逃げる、しかし化け物達の方が足が速く、その距離はみるみると縮まっていく。

 

ーーヒュンッ!

 

ーーブスッ!

 

「キャァッ!」

「アラーダ!」

 

母親が突如として悲鳴をあげて地面に倒れこむ、彼女を見ると彼女の右足に何か銛のようなものを先端とした触手が突き刺さっていた、そして彼女はその触手に引きずられ、必死に逃げようと抗うものの、その願いは叶わず、どんどん引きずられていく。

 

「あなた、助けて!嫌ぁっ、嫌ぁぁぁぁぁ!」

「アラーダ…、アラーダぁぁぁ!」

「やめろ、母ちゃんを返せぇぇぇ!」

 

「グガァァァァァ…。」

「ひっ、嫌っ、お願い、助けてぇぇぇ!」

 

ーーザンッ!

 

「ギャァァァァァァ!」

そして化け物達は彼女が自分達の手元に来たことを確認すると彼女に止めを刺す。彼女の命乞いの声は断末魔の一声に変わった。

 

「アラァダァァァァ‼︎」

「かぁちゃぁぁぁん!」

 

そう嘆く父親と息子、彼らは半分唖然としつつ必死に逃げる、化け物達も追いかけてくるが、なぜかさっきより動きが鈍い。

逃げ切れるか、そう彼らが考えた、その時ーー

 

ーーバッ!

 

「離せ、離せぇぇぇ!」

「父ちゃん、父ちゃん…!」

 

父親が今度は空から現れたスズメバチのような姿をしたグロテスクな化け物に捕まる。化け物は父親を食おうとする。

 

「止めろ、離せぇぇぇ!」

「キィィィィィィ‼︎」

「ギャァァァァァァ!」

 

ーーグシャッ!

 

ーーコリコリ…。

 

ーーゴトッ。

 

「とおちゃぁぉぁぁん!うわぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

父親と母親が化け物達に食われるという残酷な形で失ったことで泣き叫ぶ子供。しかし化け物達はこんな様子など御構い無しに子供を強引に捕まえる。

 

「離せ、離せぇぇぇ!」

 

そう泣き叫び、必死に掴んでいる脚を剥がそうとするが、全くと言っていいぐらいに剥れない。そしてその化け物達は子供を海の方へと連れて行く、そこにあったのは禍々しい姿をした巨艦だった。そして子供は注入口のような構造物に放り込まれ、そのまま落ちて行く。

 

「助けて、誰か、助けてぇぇぇ!」

 

そしてその後注入口の奥から聞こえてきたのは肉と千切り、骨を砕くような音だったーー

 

 

これが、タラントを襲った虐殺劇の一部始終である。だが、こんな虐殺劇はここには限らず、ヨーロッパの各地の沿岸で繰り広げられた。そしてそこにいた人間達を喰らい尽くした化け物達は、新たな仲間を生み出し、地球上のあらゆる有機生命を根絶やしにする毒素を生み出す植物を植え付け、新たな獲物を求めて内陸へと進行していく。しかも彼らを生み出した諸元は無能ではなく、彼らにヨーロッパ大陸を蹂躙後、世界を喰らい尽くすための拠点も兼ねた繁殖用の巣を作るようにそう仕向けていた。

そして、その諸元ーーフィンブルヴィンテルの意志のままに、アメリカ東海岸にも災厄が襲いかかる。

なお、智史はこのことの一部始終をデータハッキングや各種計測、偵察機からの報告で徹底的に把握していたーー

 

 

ーーアメリカ、ワシントンD.C ペンタゴン

 

 

「国防長官、これが先程撃墜された偵察機から送られてきたデータを照合、解析した結果です。」

「ふむ、どれ、表示してくれたまえ。」

 

クルツ・バーター中佐からのネットワークを通じた報告にそう頷く国防長官を始めとした上級将校達。そしてバーターから報告されたデータの内容がモニターに表示される。

 

「なぁっ…‼︎」

「これは、一体…⁉︎」

「これは、もはや霧ではないな…。」

「一体、奴らに何が起きたんだ…。」

「やはり、マスターシップがやった行動と関連しているのでしょうか…?」

 

アメリカ軍はいつも霧に撃墜されていても無人偵察機を出して頻繁に周辺海域のことを調べていた、無人偵察機達を大量に食いつぶしても彼らにしてみればその情報は貴重だったからだ。

そして無人偵察機を複数機食いつぶした代償として手に入った情報は国防長官を始めとする軍官僚や上級将校達をはじめとしたここにいた全員を愕然とさせるには足りた。

 

「奴らはアメリカ東海岸に多数の艦艇を用いて侵攻してくる模様です、映像データからの内容から察するに恐らく艦砲射撃程度では済まないでしょう。」

「揚陸部隊を伴っているというのか、バーター中佐⁉︎」

「そうだと考えられます。実際にあの霧の艦、リヴァイアサンから我々に提供された映像やあの放送の内容から察するに、単に我々を攻撃するだけでなく、徹底的に殲滅し尽くすまで攻撃を仕掛けてくると予測されます。」

「なんということだ…。大統領閣下、これは非常事態ですぞ、ご命令を!」

「アメリカ全土に非常事態宣言を発令しろ!アメリカ陸軍、空軍は東海岸全域に緊急展開!緊急避難命令が出ている地域に該当する州軍及び現地部隊は住民の避難誘導及び救出を急ぎつつ、増援部隊と連携して防衛線を築け!」

「了解、全軍に通達、非常事態宣言発令、非常事態宣言発令!直ちに東海岸全域に部隊を展開せよ!現地部隊及び州兵部隊は避難地域からの住民の救出にあたれ!」

 

大統領の命令の元に、そこにいた全員が沈黙を破って緊迫した様子で慌ただしく動き始める。そしてそこから発せられた命令は全土のアメリカ軍に速やかに伝わり、彼らは速やかに命令に書かれていた内容を速やかに実行し始める。

 

 

ーーサンディエゴ、パシフィックビーチの蒔絵達の一軒家

 

「“国民の皆さん、落ち着いて聞いてください。本日ーー”」

 

「アメリカ全土に非常事態宣言が発令されたか。恐らく大西洋艦隊だった化け物どもの群れが東海岸に大挙して攻めてくるということだな。」

「ああ、お前が手に入れたモノを寄越してもらったことでこちらも大体の事情が理解できた。恐らく奴らアメリカ東海岸から一気に人間達や我々霧を根絶やしにするだろうな。ところで蒔絵は軍の連中に呼び出されるのか?」

「蒔絵を手元に置いて自分達の手駒として運用するーーその必要性自体が今の所彼らには無いと言っていいだろう。彼女から自分達に必要なモノ、知識は知り尽くした、身につけたと信じ込んでいるのだからな。だが蒔絵に再び手を伸ばしてくる可能性はゼロではない。」

「蒔絵を保護するということも考慮に入れているのか?」

「まあそういうことだ、彼女が各国家間の交渉材料として使われたら堪らんからな。それに彼女は今はもう「国家」の所有物ではない。」

そう呟く智史。彼は蒔絵はどういう存在なのかを自分なりに考えて答えを出していた、そして理解していた、彼女は縛られ、管理された環境の中で生きるということを拒否していると。

智史は「人間の意志、個性は異なっているから争いや血肉にまみれた憎しみが引き起こされる、だからそういうことを防ぐ為に、人間は高度な戦略的社会システムに管理されなければならない」と考えている自分自身が刑部藤十郎の遺言に異常なまでに忠実で蒔絵を守り、彼女の意思を尊重しているという形でその考えと矛盾し、そしてその考えがムサシが考えていたこととそっくりなことに気がつき、更には自分自身がやってきたことが自身が変化を求めていたヒエイやムサシがやったことと同じことだということを回想して自分を嘲笑した。

 

ーー私が他人に求め、突きつけていることと私がやりたいことの内容は本質的に矛盾しているな、ははは…。

私は皆から見れば偽善者かもしれないな、だがそれでも私は自分の願いのままに突き進むだけだ…。

 

 

そしてズイカクのセイランがここに来ることを智史は瞬時に察知した。

「ズイカク、イオナを迎えに来たのか?」

「ああ、お前の言った通りの非常事態だ。直ちに401を回収してハワイに連れていく。」

「了承した。イオナ、行けるか?」

「うん、ズイカク、宜しく。」

「ノースカロライナとマミヤ、お前達は群像達に一度合流してくれ、その方が現実的だろう。私はこれから東海岸に向かうからな。」

「分かりました。」

「了解した。」

 

3人は急いで家を出てハワイに向かう、そして智史はスキズブラズニルに通信を繋ぐ。

 

「群像、お前達はどうするのだ?」

「俺達も動かないわけにはいかない、君ばかりが戦って俺達は後方でそれを見ているのというのは申し訳が立たないからだ。」

「ここで指咥えてじーっとしてると思ってんのか、アホ!俺達も動くぞ!」

「なるほどな、だが群像、命を粗末にするな。今のお前は組織を束ねる大将なのだからな。」

「心配してくれたのか、智史。ありがとう。」

「命の価値は不均等というものだ、私が死ぬのとお前が死ぬのでは組織に対する影響の大きさが違いすぎる。」

「そこまで言わなくてもいい、君は俺達にしてみれば大事な存在だ。」

そして通信は切れる。

 

「タカオ、現在アメリカ東海岸全海域に敵軍が多数集結している。私単独で奴らをSYO☆U☆DO☆KU(消毒)する予定だが…。」

「一人だけ手柄独り占めだなんて、ひどいですよ!私はダメだと言いたいんですか⁉︎」

「まあそうなるだろうな。お前も連れて行くぞ。サクラ、提督。お前達は如何するのだ?」

「この世界が如何いうものなのかは分からない、だが、共に戦わせて欲しい。」

「了承した。」

そして3人は各々の船に乗り込む。

 

「皆さん、ワープで一気に移動しましょう!」

そう言いワープを実行しようとする信長、しかし突如として警報が鳴り響く。

 

「エラー⁉︎そんな…。」

「恐らく奴が次元空間を操作して不安定な状態にしているのだろう。もしワープ出来たとしても予定位置に出られるとは限らん。最悪、奴の目の前に吹き飛ばされるという事態もあり得る。」

 

智史は自分もそうなるだろうと言い、フィンブルヴィンテルが次元空間を操作、捻じ曲げているという状況下でワープを実行するのは危険だと諭した、実際には智史は常に進化し過ぎているお陰で、自重さえ止めてしまえば、それさえ軽くあっさりと上回ってしまう力で強引にこれを修正して突破するという芸当も可能だったが、万が一の事態も考慮した場合、各個撃破が彼らに対しては現実的かつ効率的だと判断した為、自重することにした。何も考えずに暴れ回るのは色々といざこざが起きて時間とコストが掛かると消去法で判断したことが主な理由である。

 

「そうなら、南アメリカ大陸沖を強引に通るという方法で大回りして行くしかないですね…。」

「強引にショートカットを使うという手は頭の中にあるのか?」

「考えてないわけじゃないですけど、大陸を真っ二つにしたという話は聞いてないし、第一、こんなの不可能です!」

「まあお前達には出来ないかもしれんな、だが私もそうだと誰が決めた?」

智史はそう言う、そしてリヴァイアサンのレールガン砲塔が唸りを上げて旋回する。

 

 

「発射」

 

ーーキュォォン!

 

ーーブォァァァァァァァン!

 

 

「た、大陸が…。」

「い、一撃で…。」

「す、すげぇ…。」

なんとアメリカのサンディエゴからメキシコ湾までの陸地が一撃で両断され、吹き飛ばされた。その抉り飛ばされた跡にはドロドロと溶けた陸地があった、そしてそれは凄まじい熱と衝撃波を放ち、あたりを吹き飛ばし、海水と接触して、物凄い水蒸気を生み出す。しかしその事象は智史のエネルギーベクトル操作能力で強引にエネルギー量を低下させられて、強引に収束させられてしまう。そしてそこにワープホールから海水が流入して、見事な海峡が完成した。

 

「何をボケッとしている、行くぞ。」

「は…、はい…。」

 

そして智史達はその分断面を大西洋に向けて通過していく。ちなみに吹き飛ばした範囲の中には民間人の居住地域が含まれていたものの、彼は事前に家財道具と一緒に彼らを別の場所に強制転移させた。

 

「智史くん、派手にやってくれるわね…。」

「ああ、世界中の人間達がドン引きするだろうな…。」

「智史、今のすげえな!」

「アシガラ、彼をあまりおだてないの。私の人格解析が正しかったら、変に調子に乗らせると暴走しかねないわ…。」

 

 

 

ーーアメリカ、ワシントンD.C ホワイトハウス

 

「何?北米大陸が両断された?」

「はい、あの霧の超兵器が大陸を一撃で両断したようです…。」

「なんてヤツだ…。民間人の被害は?」

「今のところ、犠牲者並びに行方不明者は確認されていません。」

「何が起きているというのだ、神が奇跡を引き起こしたとでもいうのか?」

「原因不明です、爆発の直前に突然別の場所に強制転移されたという証言が多数出ています。」

「そうか、それにしても大陸を真っ二つにするとは…。」

「確かにパナマ運河が使えない状態である以上、北極海かマゼラン海峡を通るというルートしかありません。もっともパナマ運河が使えてもこんな大きさでは通ることなど不可能でしょう。」

「だから強引に道を開いたのか…。」

「ヤツがこうしてまで道を開こうという理由は恐らくーー」

「東海岸に上陸しようとしている敵の大軍を殲滅する、これが主な理由だろうな…。それで、敵の状況は?」

「はっ、現在東海岸の沖合に集結後、接近しています。この調子で行くと、今日の4:00には上陸、囮部隊と会敵すると考えられます。」

「そうか、「アレ」の敷設は終わったのか?」

「はっ、敷設は完了致しました。防衛線の構築もほぼ完了。囮部隊も配置に着きました。」

「沿岸迎撃だと敵の攻撃を受け、部隊に多大な被害が可能性があるからな…。」

「大統領閣下、「アレ」の前にはあんな化け物どもも木っ端微塵でしょう、「アレ」さえあれば我々は奴らに対抗できるということを示せ、ヤツらの影響力を多少は削げましょう。」

「そうだな、我々が今後の世界の覇権を再び握る為にはあの化け物共を誰からの手も借りずに倒したという実績が無ければならんからな…。」

「あとは囮部隊に奴らが食らいついてくれるかどうかです。」

 

秘書官とそう会話する大統領。彼らは敵を内陸に引き込んで、予め仕掛けておいた爆弾を起爆させることで一網打尽とする作戦を立てていた。これは国土の一部を焦土とするリスクを承知の上で実行される作戦だった。智史はこれもきちんと盗み聞きしていたものの、あえて言わずに見過ごしていた。

 

ーーなるほど、内陸に引き寄せてドカンか。多少は考えてはいるようだな。だが「奴ら」に対する認識は甘いぞ?

教訓を得るにはいい機会だぞ、今はそういう野望を抱いて奢っているがいい、「核」のような強力な大量破壊兵器が有れば如何なる敵も倒せるという誤った認識を持ちながらな…。

 

 

ーーハワイ、元太平洋艦隊本拠地沖合

 

 

「あいつ、遂に大陸を真っ二つにしやがったか…。」

「それも、一撃ですよ。一体どれほどのエネルギーを持っているんでしょうか…。」

「おまけに常に進化しているからねぇ〜。あいつ、私達を使って楽しむという自己満足の欲求からあえて手加減をしている感じがして仕方がないのよ。さっきの出来事が本気とは到底思えないわ。」

「あら、智史ちゃんは曲がりなりにも私達のことを考えてるわよ、フィンブルヴィンテル程の非情さは持ってないわ。しかも智史ちゃん、私達を振り切る勢いで強くなっちゃってるからね。智史ちゃんが強くなっていく理屈の基礎は理解できたけど、実際のその力量差、縮まるどころかどんどん広がってくわ♪」

「おまけに故意に仕向けているとはいっても、その力量差の異常なまでの広がり方は意図的に仕組まれたとは言えないわ、一体どうなってるの?あいつに対抗できるのはあいつに関するパーツだけ。他は全然駄目。あいつの強さを支えるシステム、自己再生強化・進化システムを自分たちの手で再現して一応成功したんだけど、どうもあいつのような無茶苦茶なペースでの進化は出来ないみたい。おまけに物質生成能力とは連動が利いてないわ。現時点じゃ、これ以上の性能は期待できない。高性能の人工AIを投入しないと無理だし、物質を更に細かくして分解して再構成していくというメカニズム、あまりにも奥が深すぎて理解不能よ…。

あいつ、私達霧の総力をもってしても訳が分からない域にもうとっくに突入しているわ…。それに、あいつを構成しているパーツ、故意に基づく一面もあるけど、あいつ自身にしか扱えない代物よ?あいつ以外の存在が使ったら破滅以外の選択肢は無いと言っていいでしょうね。」

「でも霧の究極超兵器、超巨大戦艦リヴァイアサンごと智史ちゃんを調べて得たことは役に立たないことばかりではないわ。智史ちゃんを調べて得たデータ、智史ちゃん本人以外には戦略的に非常に重要な価値を持ちそうね、一歩間違えたら己の身さえ滅ぼしてしまう程の…。」

「そうね、私達はパンドラの箱を開いてしまったと言うべきね…。リヴァイアサンごと海神智史を強引に調べ上げて『リヴァイアサン』の力を部分的にだけど再現してしまったことを今では激しく後悔しているわ。『リヴァイアサン』の力を再現したものが群像達が望んでいる平和を壊すようなとんでもない代物だということに気がつかなかったかつての私を殴りたいぐらいよ…。

それにしても、あいつについて気になることはこれだけじゃない、あいつにはユニオンコアと思われる物体が確認されなかったのよ、恐らくあいつを構成しているパーツが船体構成並びにユニオンコアの役割も兼ねているのかもしれないわね。」

「何れにせよ、あまりにも酷すぎて話にもならねえな、オイ。ヒュウガ、おまえとんでもねえ課題を生み出しちまったな…。」

「彼が提供した技術の中には一歩間違えれば社会から人類を駆逐してしまうような代物は入っていなかった。恐らく彼は俺達に、このような物が人類を破滅へと導いていく未来を残したくなかったのだろう。」

「だったら、せめての罪滅ぼしとして、『リヴァイアサン』に関するモノは「未来」に役立つもの以外は私達だけのものとして、この大戦が終わった後にこれらは封印もしくは破却しましょう。」

「そうですね、彼を研究して生み出されたモノに関しては仮に運用するとしたら今後世界的規模の条約による使用制限を掛けるといったことが必要でしょう、「彼」から生まれたモノは使い方こそ間違えなければ人類を救いますが、そうでなければ世界を破滅に導く劇薬となってしまうでしょう。

何よりそのモノはあらゆる人間を魅了し惹きつけてしまう程の力がありますからね…。」

 

そう会話する群像、ヒュウガ達。彼らは実際に智史の性格を突いたデータ調査で智史がどのようにして強大になっていったのかというメカニズムが理解できていた。しかし、彼と互角に戦えるレベルのモノを作り出すのは彼らにしてみれば到底不可能なレベルで仮に彼の現時点のレベルに追いつこうにも世界中の国の財政や資源、諸国民の富と労働力を全てつぎ込んで頑張ってもまだ足りず、しかもそこまでに至る前にその差は縮まるどころか急激という言葉ではもはや物足りないペースで広がっていくという絶望的な結論が量子コンピューター並びに自分自身のユニオンコアの演算による結果から出ていた。

そして彼のモノや力を模して作ったモノは世界中の人間達が一目見ただけで喉から手が出てしまう程の魔力を持った業深き代物だった。何しろ存在するだけで自分達の願いである世界平和という理想の実現を悉く阻みかねないという危険な要素を持ち合わせているのだから。

ヒュウガはリヴァイアサン=海神智史のような力を手にしようと行動してしまったことを激しく後悔した。しかし、覆水盆に帰らずという言葉があるように、タイムスリップを用いて過去を修正するというようなことを除けば、基本的には起こってしまったことは無かったことには出来ない。だから彼らは罪滅ぼしとして彼の力とモノを模したモノをそう簡単には扱えないように使用制限を掛けるーー最悪の場合はそれ自体を完全に破壊するという選択肢も考慮していた。

 

「401は出港できる状態よ、あとはイオナ姉様の帰りを待つだけ。」

「そうか、それで各地の戦力配備の状況はどうなっている?」

「現在『子宮』をフル稼働させて新規戦力を建造中。既存の戦力と合わせて各地を守備させるわ。」

「モンタナ、ヒュウガ、それを運用する事に躊躇いはないのか?」

「「命」を人為的に作り出し、「命」の運命を勝手に決めた上で生み出してしまった事には背徳感があるわ。でもそんな綺麗事ぐらいで躊躇ってたら智史さんに頼ること以外にこの星の未来を守れる手段があるというの?手段を選ぶ理由なんかないわ。」

「なるほどな…。」

 

 

ーーほぼ同時刻、キューバ、バハナから200km北の沖合

 

 

ーーヒュウガ、後悔しているみたいだな。

「力」には周りに影響を及ぼす力が必ずある、それが良くとも悪くともな。それを深く考えずに「力」を手に入れるとは、貴様もまた「人間」となってしまったのだな…。

そして「人間」は教訓が無ければ、己が欲するものが目の前に現れた際、見た目の綺麗事につられ、本質をよく考えぬ…。本当に「人間」は業深き生き物よ、まあ私もそうかもしれんがな…。

 

「智史くん、また考え事?」

「そうだな、琴乃。「人間」について考えていた。人間は所詮、己の知る事しか知らない生き物なのか?」

「そうね、「人間」という生き物は「何か」と接触して「何か」を知らなければ、己の知る事しか知らない哀しい業を背負った生き物ね。」

「そうだな…。」

「それにしても智史くん、進撃止めちゃうなんて、どうしたの?」

「“そうですよ、突然『待機しろ』だなんて!”」

「人間達に「教訓」を記憶させるためだ。人間は痛い目を見なければ過ちをする生き物だからな。」

智史はそう言うと、アメリカ軍が計画している作戦データの内容と、アメリカ軍と敵軍の各種カタログを纏めたデータを自身や他のメンタルモデル達のサークルのモニターに表示する。

 

「あいつらは敵を内陸まで引き込み、予め仕込んでおいたトラップに敵を誘導してそこに入った敵の大軍を爆破して細切れになった敵軍を各個撃破する作戦を立てているようだ。大戦後に自分達の発言力を増大させようと目論みから独力であの化け物共を倒したいようだな。

だが奴らを指揮している御大将がこんな作戦にあっさりと引っかかってくれると思うか?もう既に気がついている。実際に奴らが上陸に用いる奴はこんなトラップの起爆にも余裕で耐えてしまう程の巨大なイモムシだ。そしてその爆発が終わった後そのイモムシ共から敵の大軍がワンサカと湧き出してくる。それに対して奴らアメリカ軍はそのトラップ以外の手札が殆ど無い。欧州の奴らよりはまだマシな装備を整えてはいるが、精々巨大戦車クラス一体を機甲師団一つを用いてやっとこさで倒せるといったレベルだろう。奴らは奴らなりに考えてはいるようだが、そんな程度であの化け物共を倒せるだと?危機意識が甘すぎるわ。」

「でも、そうだからってほったからしにしたらアメリカは滅んでしまうのでは⁉︎」

「『見殺し』にするつもりはない、『教訓』を体感して貰うためにわざと待機するのだ。『教訓』を得る前に奴らを助けたら、奴らは何も会得せずにまた同じようなことをしようとするだろうな。まあ奴らを根本的に作り変えなければ、そういうことはいずれ忘れ去られるだろうし、そういう機会を作っている私も自己満足で動いたところがあるからな…。」

 

 

ーー翌日 a.m3:30 アメリカ東海岸 マイアミ

 

 

「敵の大軍を探知網に捕捉!」

「敵はーーえっ、巨大な移動物体多数を確認!昆虫のような形をした飛翔体も大量に確認されています!」

「奴ら、こちらに向けて侵攻してきます!」

「東海岸の他の地域の部隊もこちらと同様の事態になっている模様!」

「そうか、デカブツを使ってこの国を攻め落とす訳か…。」

「作戦司令部より、作戦を開始せよとの命令が下りました!」

「総員、指定された通りに行動しろ!チャンスは一度きりだ!速やかに、かつ的確にこなせ!」

 

フィンブルヴィンテルの手先と化した超兵器達と化け物達が東海岸に侵攻してきたことを契機として遂にアメリカでの戦端が切られる。

この後に彼らアメリカ軍とアメリカ国民に訪れる運命は希望と喜びではなく、絶望と恐怖だということを彼らはこの時はまだ知らなかったーー




おまけ

フィンブルヴィンテルの手先と化した霧の超兵器達によって生み出された化け物達の種別

種別 陸上
大要塞級 (智史がイモムシと呼んでいたヤツ) 600mクラス
巨大戦車級 60mクラス
支援級 20mクラス
戦車級 15mクラス
突撃級 10mクラス
兵士級 3mクラス

種別 海上
戦艦級 (霧の艦の生き残りを作り変えたのが少数と新規に作った物が多数という構成)
空母級(上と同様)
重巡級(上と同様)
軽巡級(上と同様)
駆逐級(上と同様)
潜水艦級(上と同様)

なお、霧の各根拠地は彼らに制圧された後、彼ら用に改装された。
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