海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー   作:satos389a

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今作は霧の究極超兵器 超巨大戦艦リヴァイアサンが如何にして生まれたのかをちょっとだけですが描いてみました。
まあリヴァイアサンという言葉に関する意味も含めて書いたので単なる「超兵器」としてのリヴァイアサンでは終わらないです。
あと旅行中だったので執筆が少し遅れました。
それでは今作もお楽しみ下さい。


第32話 生い立ちと憎悪との決別、そして心臓への「楔」

「裂天、発射準備開始しました、搭乗員は速やかに操作室兼脱出艇に搭乗してください。」

「第一ブースター、燃料注入開始、続く第二ブースターも注入開始して下さい。」

「各電気系統のチェック開始」

「システム系統の確認、71%まで完了」

「弾頭の安全装置の最終チェック、終了」

 

有人操作削岩弾頭「裂天」を用いた作戦の第一段階として「裂天」の発射を成功に終わらせるべく次々と飛び交う指示。その雰囲気の中には緊張という要素が12分に含まれていた。

 

「イオナ、緊張するか?」

「緊張する、何せ成し遂げなくちゃいけないことだから。智史に「私達はあなたに飼われるだけの無能ではない」ということも示したい。」

「そうか、杏平、ドリルの様子は?」

「万全。でも群像、植物のコアにたどり着く為の掘削の際に何で高熱をドリルブレードや表面から発するんだ?」

「焼き固めることで損傷箇所の修復を妨害するためだ。生のままだとすぐに再生されて脱出の障害になる可能性があるからだ。」

「なるほどね、それなら妨害されるリスクは減るわ。」

「いおり、ブースターのエンジンは?」

「順調!主機補機共に行けるよ!」

「そうか、僧、ブースターの操作系統のチェックを頼む、静、お前はレーダー並びに通信機器の最終確認に入ってくれ。」

「「了解しました。」」

「ヒエイ、弾頭の護衛を引き受けてくれて有難う。」

「いいえ、彼に助けられたままでこのまま大星を上げてないままだと恥の上塗りになりますから。このまま終わる訳にはいきません。」

「あいつには負けてられない、助けられてばかりだというのに何もしないままだと「飢えた狼」の名が泣くから!」

「ありがとう。」

「アイオワとサクラより連絡、「各機器の最終チェック完了、発射態勢の移行、何時でもどうぞ」とのこと。」

「了解した、これより本機は発射態勢に移行!」

群像のその言葉と共に横になっていた裂天を載せたロケットが垂直に立ち上げられていく。

 

「第2固定装置、解除!」

「本機の発射角度、仰角35度に固定!」

「ロケットブースター、アイドリング入るよ!」

「カウント開始、10秒前から!」

「10…9…8…、」

いよいよ打ち上げの時が迫る、皆は成功するのかどうかで興奮し、緊張した眼差しでその光景を見る。

 

「7…6…5…4…。」

「ブースター着火開始、最終固定装置解除!」

「了解!」

「3…2…1…!」

 

ーーズゴァァァァァァ!

ーーゴォォォォォォォ!

 

そして裂天を載せたブースターは爆炎と轟音と共に発射台を飛び立つ、そしてドイツにある植物の「コア」の方へと飛び去っていく。

 

「発射、成功です!」

「まず第一段階が終わったか…。あとは千早艦長とヒエイ達次第だ…。護衛部隊は?」

「はっ、現在「裂天」を載せたブースターに随行中。コア近くまでなら護衛は可能です。」

「了承した…。コア爆破後は直ちに植物共を駆逐できるように準備を整えておくようにサクラ達や全部隊に伝えてくれ。」

「「はっ‼︎」」

 

そして群像達はーー

「第一ブースター燃焼終了、切り離すよ!」

「了解、切り離し開始。」

「第一ブースターの切り離し確認、第二ブースターの着火開始、コアに突入するまで燃焼続行。」

「お姉ちゃん…、緊張するね…。」

「そうね、アタゴ。でも私達は何としてもこれを成功させて智史さんに会わせる顔を作る!」

「(お姉ちゃん…。やっぱり智史さんにデレデレじゃん…。笑われちゃうよ…?)」

 

 

ーードーバー海峡東端を航行中のリヴァイアサン

 

 

ふう、打ち上げは終わったか…。ワクワクドキドキのスリリングで迫力ある「映画」の始まりかな?それにしてもフィンブルヴィンテルに関連することを調べ直したらやはり奴を造るのにこの世界のはるか外を束ねる「神」の如き存在が関わっていたか…。まあこれが理由としたらあんな力を持つ理由も何となく頷ける、奴はそのことを知らぬようだがな…。そして私は、「神」と何らかの関係を持つ者の骸、そして彼によって作られた生命体を己の血肉の一つとして生まれたのか…。ふふふ、何という皮肉よ、何という悪運、そして何という業か…。

そう智史は呟く、実際にアメリカ東海岸の植物達を駆逐した後に気がついた己の齟齬から、彼は再度徹底して情報を念入りに調べ上げた。そしてそれによって発覚した事実は彼の「考え」に少なからぬ影響を与える、なんと彼は「神」と何らかの力的関係を持つ者の骸を自身の血肉の一つとして生まれた存在だった、そして他の血肉の元はその者によって作られていた生命体だった。とはいっても「最強」の名を冠した「生物」として完成する前にその者が「神」によって討ち取られやむなくその者がその生命体に自身の血肉と記憶を授けたことでその生命体は「生物」ではなく「創造者の形見」として完成したという結末を迎えたのだ。

そしてその生命体は「神」から逃れるようにして世界を移動した、しかし自分が「神」を打ち砕く力を持つ前に自分の存在自体が「神」に気がつかれていたために自分は形を変え、意識と記憶を消して「死ぬ」必要性があると判断したことから自分の願いを成し遂げてくれる「心」と「欲望」を持つ者をその場で選んだ結果、海神智史という人間が選ばれてしまい、更には自身が潜んでいた世界が「蒼き鋼のアルペジオ」だったこと、彼が好んでいたものが超巨大戦艦リヴァイアサンという艦であったこたから、既に死んでしまった「霧」を取り込みながら自身の血肉を彼に霧の究極超兵器超巨大戦艦リヴァイアサンとして彼に捧げ、作り変えることで彼に自分の「願い」を託したのだ。

 

意識まで「私」の中に入っているとなると「神」に「まだ生きている」と感づかれる可能性がある…、かといって無作為に選んでも何の為にもならない…。それらの事情を考慮した上で「神」を倒す域にたどり着く程の力を求める「心」を持つ者を選んだ…。そして今の「私」になる前の私は理不尽な環境から誰よりも力を恐ろしい程に欲していた…。だからか…。

ふふふ、その願いを無駄には出来ん、なら全身全霊を以って応えてやろう。さて、今のままで勝てるのかというと、勝てる確率は高いが、かなりの手傷を負うことは免れないか…。だが「心」が謙虚、「態度」は傲慢か。おまけに監視も「元」が死んだ時点で解いていたようだな、もう心配ないと考えて。ならとくと後悔するがいい、己の過ちを噛み締めながらな…。

そして私は「神」という程度が決まった栄誉は要らない、更に外に出て更なる高みを極めるために…‼︎そして己と「同じ」分野の能力を持つ者、己より優れた強者がこの世界の外にうじゃうじゃと居るからこそ私はそれらさえ軽く上回る更なる高みに上り詰められるのだ…‼︎

まあそのためにも力の「器」はどんどん大きくしていこう。力が「器」に収まらないということは己を滅ぼすことにもなる、神を余裕で嬲り殺す前に自分が滅んだら笑い話にもならんからな。そして力が「器」に大人しく収まるようにするにはきちんと「力」を噛み砕いて消化しなければならん、動物が食べ物をきちんと消化吸収して自身の栄養源としている自然の摂理と同じことよ。

…ふっ、以前と同じことか。私が取り込んだものは全て「私」のものにするだけだ、他人のものにする気など微塵も無い。

さて、そろそろルフトが目覚めるか、ルフトの所に向かうとしよう…。

 

そして智史は海風が吹く艦橋の外を後にして、ルフトが眠っている部屋へと向かっていくーー

 

 

ーーリヴァイアサン艦内のとある一室

 

 

「……………。」

ずっと眠っているルフトを沈黙と共に見守っているムスペルヘイム、彼女はルフトが目覚めた時に側に誰もいないのは何処か物悲しいと考えてここにいたのだ。リヴァイアサン艦内に運び込まれてからある程度は時間が経っているが、彼女はまだ眠っていた。

 

「ルフト様…。」

ムスペルヘイムは彼女の手にそっと触れる、自分が側にいることで彼女はいつも安心していられるからだ。彼女の姉であるヴォルケンがリヴァイアサンごと智史に殺されても彼女が無謀な行動に出なかったのはムスペルヘイムが彼女の参謀役兼心の拠り所として機能していたからだった。

 

「う…、うう…。」

「ルフト様⁉︎ルフト様‼︎」

「ムスペル?何故ここにいるの⁉︎あなたも私と同じくあの悪魔ーーフィンブルヴィンテルの操り人形にされてもう元のあなたはここにはいないと思ったのに…!」

「ルフト様…、私はあなたの姉君を殺したあなたにしてみれば忌むべき存在ーーリヴァイアサンに助けられました。」

「リヴァイアサン⁉︎お姉様を殺したあいつが…⁉︎」

「はい、彼が私がルフト様を助けるのを承諾したのも、姉君に続いてあなたまで殺すのは気がひけるという理由だそうです。」

「何故なの…。あいつ、私やあなたを徹底的に陵辱するつもりで…‼︎」

「そんなことありません、彼に陵辱する気があるのなら最初からこんな扱いは無かったと思います。」

「何が、「陵辱しない」なの…⁉︎この扱いは私にしてみればお姉様を奪った上で「生き恥」を晒させ、そして更に惨めな目に遭えと言われているようなものなのよ…‼︎そんな目に遭うぐらいなら死んだ方がマシよ…‼︎」

「違います、ルフト様、落ち着きください!」

目の前に広がっている現実を受け入れられずに錯乱し泣き叫ぶルフト、それを必死になだめようとするムスペルヘイム。ルフトが言った「生き恥」とは彼女を縛っていた「破片」という名の呪縛を智史が解いた際に彼女の「躯体」さえ生き残ってりゃあとは自分の好きなように戦闘を「彩色」していいと智史が考えていたせいで船体を破壊され「躯体」だけがここに存在しかつてのような力や威厳を振るうことができなくなってしまったことを指していた。

そして智史がそんなやり取りの真っ最中に空気を読むことなく部屋に入ってくる。

 

「リヴァイアサン、下がってくれ!ここは今貴艦が入っていい場所ではない!」

彼が部屋に入ってきたことに驚きながらも退去するように叫ぶムスペルヘイム、しかしそれは遅かった、ルフトは彼が入ってきた途端に彼女の制止を振り切って彼に掴みかかる。

 

「リヴァイアサン‼︎お姉様の仇、ここで取るわ‼︎」

「何が「仇」なのかはなんとなくわかるが、その「仇」を取ることで姉が帰ってくると言えるのか?」

「なっ…⁉︎」

「私を殺したところでお前の姉は帰ってはこない。それでも「仇」を取ろうというのは姉を失ったお前が自分を満たすための「意義」を求めた結果ではないのか?」

「違う、そんな筈は無い‼︎」

「違わないな。「復讐を果たす」ことを姉という存在の代わりとして心を満たそうと顔に書いてあるぞ。お前の「復讐」は虚無しか生まん、やめておけ。そしてそうする暇があるぐらいなら現実と学問、そして世界を学ぶがいい。それがお前の為にもなるだろう。まあ私も「完全なる破滅」という形で「復讐」を果たそうと考えている相手はいる、そして「復讐」は災厄と憎悪ばかり産むものではない、時には福を生むこともある…。」

「うるさい‼︎あなたにそう言われる道理はないのよ‼︎」

「そうか、それでも復讐がしたいか…。なら私に掴みかかってくるがいい。」

智史はルフトに挑発するのかのようにそう言い放つ、そしてルフトは智史に掴みかかろうとするーー

 

「ヴァァァァァァァァ!」

「ルフト様‼︎」

「(さあ、来るがいい…。)」

 

 

「待って」

 

「「ムサシ様⁉︎」」

「(ふっ、来たか、ムサシ…。予想できたとはいえ、単なる「善意」で救ったことがこういう福となって帰ってくるとはな…。実に面白いことよ…。)」

突如として部屋の中に入ってきたムサシに驚くルフトとムスペルヘイム。これに対して智史はこういうことが起こると予め予測していたかのように平然としていた。

 

「ムサシ様、来てくださったのですか⁉︎なら共にあの化け物を討ち滅ぼしましょうーー」

「ルフト、あなたにしてみれば彼はどんな存在なの?」

「何を仰られますムサシ様、あの化け物はフィンブルヴィンテルと同様に私達を苦しめ、陵辱し、討ち滅ぼす存在ーー」

「違うわ。フィンブルヴィンテルは「悪魔」だけど彼は「悪魔」ではない。彼が「フィンブルヴィンテル」だったらあなたはもう死んでいたわ。」

「そんな筈は無い、あの化け物は悪魔です、「霧」では無い!私はあいつをこの場で殺したいーー」

 

『だったらその前に私を殺して‼︎』

 

「ムサシ様⁉︎」

「ルフト、いくらあなたが彼を殺したくても彼を殺すことは今の私達やフィンブルヴィンテルでも叶わない…。でも今の私にはそれが出来ないことを悔やしがって更に彼に対する恨みを募らせる理由なんか無い。あなたやその仲間達、そして私達霧をこんな悲惨な目に遭わせ、彼をあなたにしてみれば憎むべき存在にしてしまった私を許してほしい…‼︎」

「ムサシ様…、一体どういうことなのですか…⁉︎」

予想外の言葉と態度が出たことに驚くルフト、しかしムサシは言葉を続ける。

 

「私の彼に対する憎しみにフィンブルヴィンテルがつけ込んだせいで私はあなた達を生み出してしまった…。そして彼が私達に対する憎悪など持っていなかったのに、私が彼と人類を憎しみをもって排除しようとした結果、彼は私に暴力でもって応え、人類もそれに続いた。彼と人類と私の暴力と憎悪の「戦争」があなた達に破壊と不幸、そして新たなる憎悪と怨嗟を生み出してしまった…。でもその時の私は憎しみに囚われたままだったからフィンブルヴィンテルに利用されていたということを身を滅ぼされかけるという形で知らされるまであなた達にそうし続けてしまった…。

そんな私のせいでフィンブルヴィンテルの操り人形という残酷な生をあなた達に負わせた上で「彼」を破壊神に変え、あなた達から希望や自由を奪い、破壊と絶望、憎悪と怨嗟に満ちた未来へと私が変えてしまった…。

ごめんなさい…、本当にごめんなさい…‼︎だから、憎むなら彼ではなく、あなた達にそういう目に遭うようにしてしまった私にして…‼︎」

「ムサシ様…。リヴァイアサン、一体どういうことなの?」

「要するにお前達の最高指導者ーームサシがお前達に私を憎むように仕向け、私を攻撃してきた。そして私はこれに対して暴力をもって応対した、私は口より手で解決するのが好きなのでな、申し訳ない。

そしてそのやりとりが何の福も生まないということにムサシはフィンブルヴィンテルに身を滅ぼされかけるまで気がつかなかった、憎しみに囚われっぱなしだったからな。

結論としてお前達に降りかかった不幸の元凶は一見見ると私のようだが、実はムサシがそう仕向けてしまっていたということだ。まあ私がお前達をコテンパンに打ち負かす為にあまりにも強大になってしまったからこういう結論が余裕で言えるのであって、私が並だったらこういう結論は出なかっただろうな。何れにせよムサシがそもそもの元凶とはいえ、直接お前達をこういう目に遭わせてしまった私にも非はある、許してほしい。」

智史がムサシの言葉の意味を噛み砕き、共感しつつ己のしたことに対してルフトに謝罪する、その言葉の中には暴走しやすくも気紛れな自分の感情に対する嫌悪も含まれていた。

 

 

「うっ…、あぁぁぁぁぁぁぁぁ…。ムサシ様ぁぁぁぁ…。」

 

そして憎むべき相手ーーリヴァイアサン=智史から謝罪され、そして信頼していた主ーームサシが彼を庇うように己の非を詫びられたルフトは行き場のない怒りと憎悪、悲しみを泪と共に流し、ムサシに縋るのかのように泣き崩れる。

 

「ムサシ様…。あなたがこれ程のことを言われるとは…。私の目にはあなたが逞しく見えます…。」

「ムスペル…。起きてしまったことはどうしようもないわ…。でもこの後の未来はまだ作り直せる…。リヴァイアサン、私が引き起こした業の尻拭いをあなたにさせてごめんなさい。」

「別にいい、むしろ私以外に誰がこの事態の尻拭いができるのか?居たら教えてほしいぐらいだ。本艦は千早群像一行の作戦の後詰めも兼ねてヤマト艦隊と一度合流した後、フィンブルヴィンテル撃滅に向かう。異論はあるか?」

「ないわ。ただお姉ちゃんに正当な事由があるにせよ好き勝手に振り回したことに対して詫びたいと顔に書いてあるわ?」

「ふっ、痛いところを突く…。」

智史は己の本音を見抜かれたことに苦笑しつつこれまでの険悪な雰囲気が消え、明るい雰囲気となったこの部屋を出る。

 

「智史くん、ようやくこれまでにあったわがたまりが解けたって感じでなんか嬉しそうね。力による解決も時として役に立つこともあるのね。」

「まあその通りだ、口だけで解決するなら世界は容易くまとまっているだろうからな。それよりも群像達があの植物の中核部に突入したそうだ。」

「そうね、群像くんうまくやってくれるかしら?」

「私とは違い、奴には信頼できる「仲間」が沢山いる。多少の力の優劣はあろうとも突破して帰還してくるだろうな。まあそういう風に言えるのは私が予め手まわししておいたに他ならないが…。」

「ヒュウガに植物のデータを送信したことね、何の情報も無かったらこういうことは微塵も言えないわね。」

「まあそういうことだな…。さて、バックアップを取るか…。」

「ところで蒔絵ちゃん何してるのかな?途中でちょこっとだけ見かけたんだけど熱心に何かに打ち込んでいるような…。」

「ふっ、そんな蒔絵のために少し『材料』は提供したがな…。」

「それって?」

「蒔絵はデザインチャイルドーー人ならざる者だ。彼女はフィンブルヴィンテルに苦痛を見せる『何か』を作っている最中だーー」

 

 

ーー植物の中核部、その上空

 

「第二ブースター切り離しまであと20秒」

「突入までの距離再計算、現在92000」

「本機は現在高度35000ftを飛行中、これより降下を開始します。」

「突入角度は48度に調整、現在機体角度の誤差修正中」

「地上からの迎撃並びに敵軍の反応、確認されません。」

「第二ブースターエジェクション、これより突入態勢に移行。総員ショックに備えろ!」

「「了解!」」

「護衛部隊より通達、『現時刻を持って護衛を一時的に離れる、グッドラック』」

いよいよと植物の中核部へと突入する群像達、突入の時が迫るにつれて緊張も高まっていく。

 

ーービュォォォォ!

ーービュォ!

ーービュォォォォ!

 

「「裂天」外郭カバーパージ完了!」

「イオナ、裂天との演算リンクを開始!」

「了解。」

「杏平、ドリルの加熱機構並びに回転装置を起動、イオナ、カウントダウンを始めてくれ。」

「あいよ、加熱機構起動、ドリル回転開始!」

 

ーーウィィィィィィィィィィ!

 

「突入まで15秒。……10、9、8…。」

「突入角度誤差±0.03度、想定内に収まりました!」

「3…2…1…、突入。」

 

ーーズガァァァァァン!

 

「きゃぁっ⁉︎」

「くっ‼︎」

 

ーーウィィィィィィィィィィ!

ーーガリガリガリガリ!

 

「群像、本機のドリルは植物の中核部の外郭を掘削中、各機構も正常に稼動、演算も問題ない。」

「そうか…、よかった…。イオナ、引き続き裂天の各機構の維持を頼む。」

イオナ達を乗せた裂天は植物の外郭をドリルによって強引に突破していく、だからといってまだ中心部に辿り着いた訳でもないし、「外」に抵抗が無くても「中」は無いとはまだ決まってない。そしてその懸念は的中する、裂天が外郭を突き破った直後、突如として裂天の動きが止まる。

 

「どうした⁉︎」

「何かによって本機の動きが封じられている、恐らく粘度が高い流動性があるネット状の物質だと思う。」

「ドリルの加熱機構の効果も冷却によって相殺されてやがる、外に出てこの元凶を排除しねえと回復しねえぞ!」

「タナトミウムによる侵食をしようにもその前にタナトミウムが吸収された。メンタルモデルを展開してそのネットを排除するしか方法が無い。」

「くっ、加熱機構を一時停止、メンタルモデルを出せ!」

「なら、私達が道を切り開きましょう!」

「私も出ます!」

「ヒエイ⁉︎タカオ⁉︎行けるのか⁉︎」

「401やあなた達がこの「艦」を守らなくてはいけない以上、誰が行くのですか?」

「私達はこの時の為にここに居るんです!」

「分かった、ハッチを開放、ヒエイ達を出せ!」

「は、はい‼︎」

群像の檄により急いで裂天のハッチが開放される、ハッチの外は無数のツタとネットで埋め尽くされた視界が広がっていた。

 

「にゃろ〜、舐めやがって〜。」

「こいつら剥がすのめんどくさいけどそうしないとこの船が動かないのはもっと面倒…。」

「解析完了、このツタとネットはエネルギー系列の攻撃は吸収、また物理にて切り刻まれても数秒で再生する模様です。」

「ならば結構、全員ナノマテリアルを用いた物理攻撃でこいつらを切断しなさい!智史のように全部焼き払う必要性はありません、船が動けばいいだけのことです。」

「「「「了解!」」」」

ヒエイがそう命ずるがままに、「元」霧の生徒会とタカオ姉妹は裂天を目的地へと進める為に長剣や薙刀、ガトリングガンや大口径ライフルをナノマテリアルによって瞬時に生成すると次々とツタやネットを切断していく。

 

「ナチが言った通りか…。だがチョロい、これであたしを止められると思うなぁ〜!」

「再生を上回る速度で切断を行えばいい、それだけのことだ!」

「すごい数…。だけど私達を甘く見ないで!」

 

そして当然の如く再生してはくるものの、それを上回る速度で切断して行った為に裂天を取り巻いていたツタやネットはどんどん剥がされ、裂天は重力による自身の重量によって彼らから逃れるように下へ下へと滑り降りていく。

 

「あと一息!とぉぉりゃぁぁぁぁ!」

「たぁぁぁぁっ!」

 

ーーザンザンザザンザンザン!

 

ーーズルッ!

 

「脱出できました、再び植物壁に接触します!」

「杏平、ドリルを再稼動!」

「あいよ、単に熱するのが駄目なら冷やしてカチコチにした上で砕こうぜ、群像!」

 

ーーはっ‼︎

 

ヒエイが杏平のその言葉を聞いた途端、リヴァイアサンごと智史に冷却弾を雨霰と叩き込んでカチコチにした筈がその冷却メカニズムを逆用されて逆にエネルギー源とされてしまい結果的には散々に返り討ちにされた硫黄島沖海戦の記憶が頭に蘇った。

 

「ふっ、あの時の屈辱が頭に蘇るとは…。私も「人間」ですね…。でも彼に通用しないことが分かったからって他のものにも通用しないとは限りませんね。ナチ、植物の構造は?」

「智史さんのようなエネルギー逆用メカニズムは確認されていません、冷却攻撃は有効です。しかし会長、なぜ今になってこのようなことを?」

「千早群像を始めとした人間達の会話を聞いてあの日の記憶を思い出したのです、人間にも頼りになれるものはいるのですね。」

ナチの質問にヒエイはそう答える、心の奥底で部下を犬死にさせてしまった苦々しい思い出と向き合いながら。

 

「裂天、先程の植物壁を突破した模様!」

「船は先に進んだようですね、続きましょう。」

裂天が次の「壁」を突破したことを確認したヒエイ達は足止めを止めて裂天のあとに続いていく。

 

「会長、植物のツタが裂天に襲いかかってきます!」

「先端に口⁉︎気色悪〜い。」

「これでは、単に斬り刻むだけでは間に合いませんね。冷却攻撃は可能ですか?」

「どういう理屈でやればいいのかは分かってるし、ナチから聞いたけど智史が用いたあの反則技のようなものは使ってこないからいつでも行けるよ、ヒエイ!」

「了解しました、レーザー冷却を用いた戦術によって襲いかかってくるツタやネットをカチコチに固めて打ち砕きなさい!」

そしてヒエイ達は冷却用レーザー銃を瞬時に手元に生成して次々と襲いかかってくるツタを凍らせ、僅かな衝撃をそのツタに加えて次々と破砕していく。そしてイオナ達を乗せた裂天の方も負けじと言わんばかりに自身に触れたツタを凍らせて力に任せて強引に破砕して突き進んでいく。

だがレーザー冷却は原子運動のタイミングを計算した上で原子運動のエネルギーを相殺する代物である、それを成り立たせるには膨大な演算リソースが必要だった、演算リソースが圧倒的に有り余り、かつそのリソースさえ滅茶苦茶に増やして懐がホクホクの智史なら余裕で成り立つ代物でも演算リソースを外的要因でしか増やせない状態ーー物理的意味合いで自力で「進化」出来ないヒエイ達にしてみればかなりの負荷が掛かる。

つまり例えて言うならば収入を馬鹿みたいに増やせる「金持ち」と収入を限られてしまった「一般人」との関係である、基本として1人あたりの税額を平等とするならば所得が多い方が余裕があるに決まっているのだ。だがその上で「収入を増やせる余裕のある環境下にある者は収入を増やせる」と仮定した場合、「金持ち」の方はいくら税を増やされてもそれを上回る勢いで収入を増やしてしまえばいいだけのこととなってしまう。しかし収入を固定された「一般人」は収入を増やせないので税を凄まじい勢いで増やされたら即終わりとしか言いようが無いほどに悲惨である。

実際にその言葉の通りにツタが潰しても潰しても次から次へと潰した数以上の勢いで現れて彼女達の物理的、精神的余裕を奪い、ジリジリと追い詰めていく。

 

「くそお…、次から次へと湧いてきやがる…。」

「あたしの方もオーバーフロー仕掛けてきてる、ヤバイかも…。」

「まずい、押されてる…。でも必死みたい…。」

「それだけあの化け物は『死』に恐怖しているのでしょう、楔が自分の「心臓」に深々と打ち込まれるのを恐れて。ナチ、裂天の突入状況はどうなっているのですか?」

「401とのデータリンクからの情報によるとあと少しで「コア」に到達する模様です。」

「了解しました、彼らがあの化け物に楔を打ち込むのを成功させる為にもあと少しの間頑張りましょう、自身の「限界」を上回ってでも。」

「はっ。たとえ全力を出し切って果てても目的を果たせたならば悔いはありません。」

「死ぬことは許しません、「限界」は上回っても。死んだら何も出来ませんからね。」

ミョウコウの言葉に対してそう説教して答えるヒエイ。そして彼女らは群像達が弾頭をコアに到達させるための時間を稼ぐ為に押し寄せてくるツタの群れに対して更に奮戦する。

 

「きゃぁっ!」

「ナチ⁉︎今度こそやらせるかぁ〜‼︎」

「うぅ、目眩がしてきたぁぁ…。」

「あと少しだ、頑張れ!」

「お姉ちゃん、後ろ!」

「分かってるわ、アタゴ!」

 

「タカオ…。ヒエイ…。」

 

ーードガァァァン!

ーーガリガリガリガリ!

 

「第5層の掘削完了!コアに到達しました!」

「よし、コアの奥深くまで掘り進めた後に弾頭部を切り離し、ヒエイ達を回収して離脱するぞ!」

遂に中核部に到達した群像達。そして裂天はコアの中へと掘り進んでいく。

 

「コアの中核部に到達しました!」

「了解、杏平、弾頭部の起爆装置のタイマーを起動!」

「あいよ!起爆スイッチの安全装置を解除、タイマーを起動っと!」

「弾頭部、パージします!」

 

ーーバキィィィィィン!

 

「切り離し終了、起爆装置のタイマー起動!起爆まであと175秒!」

「全速後進!後部ドリル起動!」

「了解!」

裂天の弾頭部の起爆タイマーが起動した、そして群像達を乗せた脱出艇はもと来た道を辿るのかのように突き進んでいく。

 

「はぁ…、はぁ…。舐めるなぁ…!」

「裂天の弾頭部の起爆タイマー起動を確認!脱出艇がこっちに来ます!」

「“ヒエイ、君達を回収する!もう少し待ってくれ!”」

「了解です、総員速やかに脱出艇に乗り込めるようにしておきなさい!」

「起爆まで138秒!脱出艇、来ます!」

 

ーーズドォォォォン!

 

「皆、早く乗って!」

起爆の時が迫る中、一度活路を開く為に降りた「船」が彼女達を乗せる為に再び現れる。彼女達は追撃防止のための援護射撃を加えつつも速やかに脱出艇に乗り込んでいく。

 

「全員搭乗完了しました!」

「よし、全速前進!起爆する前に脱出するぞ!」

「あいよ、ドリル回転ペース最大!」

そして猛スピードでコアから離れていく脱出艇。だが往生際が悪い事に植物は彼らが元来た道を強引に塞いで彼らを道連れにせんと抵抗する。

 

「くそ、思うように進まねえ!」

「このままだとまずいな…。」

「起爆まで、あと105秒!」

思うようにことが進まないことに焦りを見せる群像達、だがそれを嘲笑うのかのようにツタは何重にも巻き付けられ、すぐには脱出できない状態となってしまった、起爆の時はもうすぐだというのに。

 

「起爆まであと75秒!」

 

ーーガリガリガリガリ!

 

「まずい、コアの方に引き込まれています!」

「くそ、ここまで来て終わりかよぉ⁉︎」

「折角ここまで来たというのに…、どうしてなの…⁉︎」

彼らの希望が絶望に変わり死の運命を暗示し始めた、もう少しで成功させられるというのに。

 

「起爆まで、あと30秒!」

その言葉が告げられた時、皆の頭の中にこれまでの思い出が走馬灯のように頭を過る、そして死が避けられなくなったことも確信する。

 

「ここまでか…。皆、すまなかった。今まで俺の我儘について来てくれてありがーー」

 

「“待て。”」

 

ーードガァァァン!

 

「「⁉︎」」

「一体何が起こっている⁉︎」

 

突如として絶望的な雰囲気を消し飛ばすような出来事が起きたことに体がついていけずに驚く群像達。

 

「“済まない、群像。「自分一人の足で立て」という理念を振りかざしながらお前達を追い詰めてしまって。”」

「智史⁉︎」

「智史さん⁉︎」

 

ーーブォォォン!

 

「「「「きゃぁぁぁぁぁぁ!」」」」

 

なんと智史が彼らが作戦ミスを犯すことも考慮して群像達を救出する為にここにやって来た、そして彼は植物の最後の悪足掻きを強引に排除すると群像達を乗せた脱出艇を瞬時に生成したワイヤーロープで絡め取って素早く投げ飛ばした。

 

「貴様一人で地獄に逝け。そしてもう2度とその見苦しいツラを私に見せるな。」

 

ーーカチッ!

 

ーーピカッ!

 

ーードガァァァン!

 

そして信管が作動したのか、途方も無い爆発が宙に飛ばされている群像達の目の前で生じる。その爆発によって植物のコアは外郭共々吹き飛び、熱風は衝撃波と化して辺りを焼き払い、消し飛ばす。しかし智史はその爆発を受けても全くケロリとしていた、寧ろそのエネルギーを吸収して自分のものにしてしまうぐらいだった。もしこの爆発で彼が殺傷できていたら彼を倒すのは楽だっただろう、そのぐらい彼は自己進化によって猛烈に強くなった、いや強くなりすぎてしまっていたのだ。

 

ふう、事は片付いたか…。群像よ、誇るがいい。お前達は私抜きで「大事」を成し遂げたのだからな。

そして智史は爆発によるキノコ雲が天高くまで吹き上がる光景を眺めながらそう呟く、そしてその「呟き」は群像達の元にも届いていた。

 

「最後の最後でドジったというのにどうしてあいつにここまで褒められるかは分からねえがとにかくあいつ抜きでも出来るということを立証できたことは大きいな、群像?」

「ああ、自分の意志で彼の「援助」無しで戦えたということは大きい。彼が強大だという現実は変わらないが俺達はもう彼に保護されるだけの存在ではないということを立証したことによる「自信」を得た。」

「だとしたら、もう智史に頼らなくても群像や私達は十分に戦える。でも最後の難関、フィンブルヴィンテルは智史と一緒に倒さないと。フィンブルヴィンテルは智史抜きで倒せる相手ではないから。」

「そうですね、あれは彼以外に倒せる物ではありません。それにしてもあの大戦が終わった後は課題が山積みですね。」

「彼が創る予定の「世界」を強引に俺達の手で創ることとしたからな、創るからには自分達で作らなくては。」

智史に強引に投げ飛ばされて海に不時着した脱出艇の中でそう会話する群像達。この後彼らは近くに待機していたアイオワやサクラ達によって回収され、「英雄」として賞賛されることとなる。

 

ーー大西洋上

 

「よかった…。最終的に智史さんに助けられたとはいえ群像さん達が自分達だけで頑張って道を切り開いたのね…。よしっ、智史さんや群像さんに負けないように私も頑張らなくちゃ。」

そう言い気合をいれるヤマト、彼女は自分達の未来を智史抜きで切り開いたという吉報が齎されたことに内心喜んでいた、何せ「自分達の手で未来を切り開く」という理念を達成できたのだから。

 

「“ヤマト様、上陸地点はもう直ぐです。ですがあの吉報を聞いた途端ただでさえ煩いアメリカ軍の人間共が更に激しく騒ぎ立てました…。”」

「いいのよ、もう直ぐあの煩い時間とお別れできる。“全艦隊に告ぎます、これより我々はビスケー湾上陸作戦を敢行します。総員速やかに配置について下さい。”」

ヤマトは全艦隊に音声通信でそう告げる、そしてその言葉の内容を汲み取るかのように彼女の率いる「霧」達は整然と流れるかのように陣形を変えていく。

遂に、人類と霧がフィンブルヴィンテル一味から「ヨーロッパ」を奪い返す時が訪れようとしていたーー




おまけ

蒔絵が作っているもの

対フィンブルヴィンテル用の劇薬

蒔絵はこれまでの戦闘データや破片を解析した際のデータを活かしデザインチャイルドの名にふさわしく超人的な才能を見せつけてフィンブルヴィンテルの構成素材に触れるとその構成素材と反応して跡形もなく溶かしてしまう薬剤を現在開発中である。
大局が目の前で進んでいるというのに智史に出番を食われっぱなしなこともありその力を持て余していたことも手伝い現在は実用化寸前まで来ている。
勿論智史も含めたフィンブルヴィンテル以外の存在には反応しない。
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