海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー 作:satos389a
第36話で智史がやらかした一部を除いた各世界系の無差別破壊、その詳細な被害規模は今作にて明らかになります。
あとワンパンマンの原作にあったスーパーの特売日ネタも交えてストーリーを練りました。
それではじっくりとお楽しみください。
「ベヒモス様、これはこれまでに無い異常事態ですぞ!」
「死んだと思われていたあの存在が、まさかあのような化け物と化して宇宙を荒らしまわるとは…‼︎なんという事だ…‼︎」
「異常事態だという事はもう分かっている、奴があの一発で焼き尽くした宇宙の数はおよそ2.875×10の5027万2912乗個だ。」
「なあっ!それは我らが至高神様が治められている全宇宙の18%を一発で焼き払ったという事なのか⁉︎」
「念に念を入れて追い詰め、弱らせ、引導を渡したというのに…。もう二度と災厄が起こらぬようにし、安泰な未来が永久に存在するようにした筈だというのに…‼︎」
「それを嘆いていても仕方ないだろう、だがまだ奴を止められぬわけではあるまい、ライトマサル、状況は?」
「“は、単なる警告だけではそこにいる者は奴を認識せぬ限り全く団結せず、我々が関わろうとしなかった事もあり、奴を全く止められませんでした、奴は次の世界系に向かったようです、今度は積極的に関わってみましょう。”」
「そうか、無理はするな。後詰めとして私も出よう、相手がとても不味すぎる、至高神様は?」
「は、それが大したことではないと言い全く腰を上げられずに日々侍女達と戯れております…。」
「奴を生み出した者の欠片を持っているが故に恐れようとしないのか、いやそのせいで己の力を過信し過ぎているのか…。何れにせよこのままでは拙いな、お力を貸されようとせぬ今、今あるものを使って奴に対抗する手段を編み出し、この事態を収拾へと導く糸口を作るしかない…。」
そう会話するベヒモスーー特徴は頭から猛々しい対を成す巨大なツノと猛獣の如き面構え、そしてそれに相応しい筋骨隆々とした身体、ツヤのある人のものならざる茶色い体毛で埋め尽くされた表面、その身体全身を覆う重厚な鎧ーーと側近、彼らはリヴァイアサン=智史の他者のことなど省みぬ傍若無人(彼らにしてみれば。智史にしてみればさらに強大になり、その圧倒的な力を持って強者を容赦なく甚振るという欲望を満たすための行動の一環である)な振る舞いに頭を痛めていた。
何れにせよ智史の行動を放置できない立場である彼らは策を練る、だがこれも残念なことに常に進化をし過ぎ、更には感性と観察眼を強化している智史の目にあっさりと、即座に止まってしまったーー
「さて、ワンパンマンの世界系か。やはり勝手にパンパンと進めないように気を使わなくては。強者と戦い己が最強というのを示すのもいいがそれではちょっと他の仲間を省みぬこととなってしまう。まあこれも見返りを求めた自己満足かもしれんが。」
「そこまで思い詰めなくてもいいわ、どうしてこう考えてしまうのかは分かる。向こうはどういう環境なの?」
「元の世界と同じ基準だ、大気状態も悪くはない。ただ到着先は夏場で気温が高いから気をつけておけ。大雑把に世界観を説明すると特定の組織集団ーーヒーロー協会に登録、所属している者しかヒーローと認められず、それ以外の人物はいくら善意や正義感で怪人を倒し人を救いヒーローを名乗ろうともヒーローとは認められず妄言を吐く変人扱いされ、白い目で見られる風潮が根強い世界だ。」
「要するに特定の組織に所属している者しか『憧れ』として見做されない世界ね。まるで智史くんが元いた世界の風潮と同じみたい。」
「まあそうだな、『人間』は自分が受け入れられない物は否定するだけで、本質を見ようともしない馬鹿な生き物だからな。後に『人間』の文明を発展させる偉大な功績を残したガリレオも、ニュートンも、生きている最中は詭弁を振るう馬鹿とあしらわれたように。」
「そして後々それが偉業だと認められることもある、人の功績は死んではじめて評価されることはよくあるわね。」
「そうだな、さて、話を元に戻そう。何となく分かるかもしれないが、所属しても何の対価もなければ組織は成り立たない、そのヒーロー達は協会から活躍した分だけ周りの人間達からの寄付金を給料としてもらっている。勿論平等など存在しない訳でそこに所属しているヒーロー達はランク付けがなされている、上から順にS、A、B、Cだ。当然上の奴ほど名声や権力、金がたくさんもらえるからな、そして組織の膿出しに関する『モノ』が無い。だから上を上を目指してヒーロー同士でランキングを巡る人気の取り合いや潰し合いが横行し、警察組織との軋轢や幹部クラスの腐敗などが随所に見られる等、とても防衛組織としては見るにも耐えぬ有様だ。また、一部のヒーローをランクが下級であるという理由で過小評価し、協会の体裁を守るために嘘の報道を流すなど、組織自体にもお粗末な点が目立ち、創立3年目にして組織としては末期の状態だな。当然のことだが人間の心は混沌そのものだし、そして人間の本質が変わらない限り一時はそれが治ってもそれはまた繰り返される、また忘れられてしまうから。」
「そうね、それが智史くんが今も持っているかもしれない「人類を人類で無くしてしまい、社会システムの絶対的管理下に置く」という考えの理由にもなっているね。」
「準備出来たぞ、行こうか。」
「ああ。」
そして智史達はワンパンマンの世界系の外からワープホールを通じてこの世界に入っていく。出た先はZ市郊外の廃墟ーーサイタマごとワンパンマンが住んでいる場所の近くだった。
「太陽がジリジリと照りつけてくるね〜。日焼けに気をつけないと。」
「(新陳代謝が私のせいで劇的に上昇しているから日焼けを生み出す環境がなくなればすぐ治ってしまうんだがな、まあ人間をベースにして変えたのだから仕方あるまい、曲がりなりにも『人間』である以上、仮に弄くり回して太陽がギラギラと照りつけてくる中で日焼けを生じないようにしたら何かしらのデメリットが出てくるかもしれんな)そうだな、日傘でも差しとくか。ズイカク、カザリ、お前達も差すか?」
「日傘?その言葉の意味って何?」
「太陽のジリジリとした照りつけを避け、日陰を作る為に差すモノだよ。」
智史はそう言いながら黒い日傘を展開した状態で手元に生成する。
「成る程、感覚的に言うと暑いね、なら遠慮なく頂くよ。ーーうん、確かに照りつけてくる感じが大きく減ってる。」
「さて、ここは随分と生活臭が満ち満ちてるな…。これ迄の見てきた世界系の中で最も強いぞ。」
「僕が元いた世界のモノと近いけど、それよりも何かが強いね…。」
「私が知っている元の世界の風景に近い…。だが古さがそこそこにある、それ故に独特の美しさが出ているな。」
興味深そうに町並みを鑑賞しつつ、会話する智史達、しかしそんな雰囲気を壊すものが彼らの近くで突如として現れる。
ーードガァァァァン!
「きゃ〜‼︎」
「わぁぁぁぁぁ!」
「な、何だ⁉︎」
「化け物が、現れたみたいだな。」
「そうね、ヒーローとやらが来るんじゃないかしら。」
「ああ、協会での己の出世、そしてファンを増やしてギャラをより多く貰う為に、な…。」
爆音と悲鳴が響き、緊迫している状況とは対極的に、余裕に満ちた態度ーー常識を無視して強くなり過ぎている為に全く脅威になりえない為ーーでそう呟く智史、程なくして脳髄がむき出しになった頭部を持つカマキリの怪人ーーカマキュリーの姿が現れる。
「あーん、お前ら誰だぁ〜?俺の前にノコノコと立ちふさがるな、おらぁ‼︎」
「随分と粗暴でよく吠える雑魚だ、まあいい、無視するぞ。」
「てめえワザと立ち塞がり、雑魚と言い放った挙句にシカトだとぉ⁉︎ふざけんな、切り刻まれてぇのかぁ!」
智史の挑発が混じった『金持ち喧嘩せず』の態度にカマキュリーは逆上し、その場を呑気に闊歩する智史に斬りかかろうとする、が
ーーパンッ!
「げぴゃっ!」
「体液が付いたか…。まあ直ぐに拭ってしまえばいいだけの話なのだが。」
邪魔だと言わんばかりに無意識かつ反射的に繰り出された平手打ちにより一発で四散してしまった、体液が飛び散り、その一撃をかました本人である智史にこびりつく。智史は不潔だと考えたのか直ぐにそれを表面から取り払うように、原子レベルという言葉など何処吹く風の細かすぎるレベルで分解して己の更なる強化源へとしてしまった。
ーーボォン!
ーービチャッ!
「ん?今度は何処からか何か飛んで来たぞ?」
「目ん玉かなぁ?でもどう見ても人の物じゃないね。」
「近くに誰か居るな、各種情報とデータベースと照合して解析・判断するに、その人物はワンパンマンだと私は考える。折角だし行ってみるか。」
ーーバガァン!
「また何か飛んでったぞ?あれは何だ?」
「モグラの形をした怪人かな?」
「あ、あれ見て。頭に…、毛がないマントを羽織った人間がいる。」
「ナイス。あれがワンパンマンごとサイタマだ。頭に毛が無い状態は『禿げ(ハゲ)』という言葉で表す。彼のネーミングは『ハゲマント』。『ハゲ』+『マント』をくっ付けて生まれたネーミング。見た目そのまんまを言い表している。」
「なるほど、でも…。強いって感じがしない…。」
「私にそこを突かれてかつて欺かれたように、見た目に惑わされるな。己の感覚を疑え。」
「そうだね、あの時はそんなこと知らなかったから君にそこを突かれてまんまとやられたよ。」
かつての過去を回想するように呟くカザリ、そして智史はサイタマの視線に入るところまで近づく、右手に大型の拡声器を生成すると大声でサイタマに呼びかけ始めた。
「“ハーゲマント、ハゲマント〜。ハゲハゲハゲハゲハゲマント〜。”」
「誰だ!大声で『ハゲ』って叫んでる奴は!」
「私ですよ〜。ハイ。」
「ふざけんな、人の見た目そのまんまに高らかに拡声器で大声撒き散らしながらからかうんじゃねえ!」
智史にハゲとからかわれて怒るサイタマ、自分の予想通りに怒ってくれたサイタマの顔を見て智史は口を押さえて嬉しそうに笑う。
「結構怒ってますねぇ〜。このままじゃ怒り晴れないでしょうし、軽くいっちょやりますか?」
「それ本気で言ってんのか?」
「はい♪(予定とは異なる展開となったが、これはこれで面白い。この場で思いっきり鍛えすぎて一方的となり過ぎている暴力を振りかざして踏み散らすとしますか。まあ度を逸しすぎないように気をつけないと。)」
自分の欲望を抑えきれず、否抑えようとせずに智史はさらにからかいサイタマを激怒させてしまう、これでも智史は特に気にしなかった、もうとっくのとんまにサイタマを吹っ飛ばすだけの力を身につけただけでなく飽き足りずに貪欲に進化を続け、オマケに彼の事を原子レベルといった細かすぎる所まで把握してしまっているのだから。
智史はテーブルをサイタマの目の前に生成すると腕相撲をしないかと軽く誘う、サイタマは試しに一発パンチを放つーーそれは怪人という化け物を軽く破砕する一撃だったーー智史はそれを平然と平手で受け止める。
「(か、固いな…。先ほどの悪ふざけと反してかなり手ごたえがあるじゃねえか…。こりゃあ全力を出して腕相撲をする価値があるな!)」
そしてサイタマは智史の誘いに乗り両者は互いの右手を組む、そして腕相撲が始まる。
ーーグッ!
「(ど、どんだけ力あるの…?いつも圧倒的で単調で詰まらなかったけどこれは楽しめそうだ…‼︎)って、俺の頭を嬉しそうにペチペチ叩くんじゃねえ!気が散るだろうが!」
智史に頭を嬉しそうに叩かれ、再び怒るサイタマ、彼は本気で智史の右手を負かそうとする、しかし智史の右腕は動きこそしなかったものの、かといって、全力を入れても最初に構えた場所からピクリとも動こうともしなかった。サイタマは少し焦り、そして同時に期待を持ち始めた、それに対して智史は余裕そうに涼しげに微笑んでいる。
「ぐぅぅぅぅぅっ!(くっ、ピクリとも動かねえ…。手ごたえあると思ったけど、まさかここまでとは…。いかにも普通そうな感じしてて滅茶苦茶やばい実力持ってそうだーーひょっとして俺と同じ感じじゃないのかな?でもいつもの一方的とは違って何か嬉しい…‼︎)」
「随分と必死そうだ、どうやら楽しめてもらえているようだな。さて、いつまでもこのままなのは少し飽きた、こちらも軽く本気を出すとしよう。」
ーーガッ!
「へぇ、へぇ…。つ、強えなお前…。何者なんだ、って、嬉しそうに墨筆で俺の頭に落書きすんなぁぁぁぁぁ!」
そして智史は軽く腕に力を入れ、顔が真っ赤になり腕や頭に血管が浮いてくる程に本気を出したサイタマを軽く打ち負かした、そしてさらなるからかいとして嫌がるサイタマの腕をそれ以上の力を以て強引に軽々と払い除けてサイタマの頭に堂々と墨筆で『ハゲ』と大量に書き、本人がそれを拭おうと必死になっている様を見て笑い転げた。
「先生、何してるんですか、って何なんですかその頭は⁉︎」
「ジェノスか…。あいつが俺の頭に『ハゲ』って大量に書き込んできたんだ…。」
そこに、近くにいた怪人全てを片付けてサイタマのところに戻ってきた全身サイボーグの青年、ジェノスが現れる、彼は髪の毛のないサイタマの頭を見て戦慄してしまう。
「(状況から見るに先生と同じ、いやそれ以上の力を持っている可能性が濃厚だ…。)お前は、誰だ?」
「私か?名前から言うべきか?」
「ああ、名前から説明してくれ。」
「私の名は海神智史。この世界の外から来た『存在』だよ。」
「(ワダツミ サトシ…。この世界の外から来たのか…。)俺の名はジェノス。何のためにここに来た?この世界に災厄をもたらし、滅ぼすためか?」
「部分的には正解だが、殆どは違う。」
「ならその大勢の理由は何だ?」
「さあな。一応お前達に関心を持った事が大勢の理由だが、実際の所少し分からん。今の所お前達と敵対する意思は特に無い、取り敢えずお前達の様子を観察させてくれ。」
「な、何?何の為に俺や先生の様子を観察するんだ?」
「お前よりも、サイタマの様子を観察するといったほうが正しいだろうな、サイタマの様子を見ることで何か学べることがあるのでは考えたからだ。」
「な、なるほど…。俺と同じく先生から学びたいと…。」
「おいおい、俺から学びたいって…。あまり学べるものはねえぞ…?」
「あるな。日常や考え方にも『学べる』ものが混じっている。」
「そ、そうか…。」
「さて、先ほどの悪ふざけの件は詫びよう。家に案内してくれ。琴乃、ズイカク、カザリ、待たせてすまなかったな。」
そして智史はサイタマの頭に着いた墨を拭う、彼らはサイタマの家へと向かっていくーー
ーーサイタマの家
「結構質素かつ地味だなぁ、周りの雰囲気と馴染んでいるぐらいに。」
「広告がいっぱいある…。特売のものがいっぱい…。かつての私もそうだったな。」
「でも生活感は雑な域ではないし部屋の雰囲気は落ち着いている。マンガが沢山あるな…。見ていいか?」
「ああ、でも散らかすんじゃねえぞ。見終えたら元に戻せ。ジェノス、ゴリラもどきから聞き出せたことはあるのか?」
「はい、先程の敵は全て進化の家からの刺客のようです。」
「はあ、進化の家…。どういう組織なんだ?」
そんな会話の中で智史はサクサクと漫画を読んでいる最中だった、そんな時智史の目にあるチラシが飛び込む、そしてワンパンマンの原作内のあるシーンを思い出す。智史は読みかけの漫画を片付けるとサイタマとジェノスの会話に口を挟むようにしてチラシをピラピラしながらこう話す、
「いきなり話に口を挟んですまないが、今日は土曜日だ、そしてその日は何の日だったのか、忘れてないかな?」
智史にそう口を挟まれて少し不機嫌そうなサイタマであったがチラシの内容を見てすぐに顔色が変わる、
「あ、スーパーの特売日だったぁぁぁぁぁぁ!」
「進化の家とやらはここから歩いて数時間は掛かる場所だからねぇ、だったら進化の家の件は私が片付けよう。あんたは気にせずに特売の買い物に行ってらっしゃい。」
「え、そんなに軽く言っちゃっていいの?」
「智史は一度やると決めてしまったら終わるまで止まらないからな、特に敵を相手にした場合はそれが顕著に出る、見ただろ、ウルトラマンとやらが根絶やしとなるまで徹底的に殲滅されたのを。」
「あ、そうだった……。(汗)」
「ジェノス、買い物行ってくるから、宜しく!」
「は、はい…。」
サイタマは今日はスーパーの特売日であったことを思い出したようだ、彼は智史からチラシを取り上げると買い物袋を持って出かけてしまった。
「そこまで慌てている様子を見るに、家計は切迫してるみたいね。」
「ああ。(メタを言うと2人ともまだヒーロー協会に入会してない時期にこちらが来てしまったからな)言い忘れていたが、彼は就職を諦めたらしい。というのも3年前、上手くいかない就職活動中に失意の中、偶然出くわした顎の割れた少年を怪人から助けたことをきっかけに、幼い頃になりたかった「ヒーロー」になることを決めたんだよ。
そして性格はマイペースで緊張感に欠け、非常に物臭(面倒くさがり)な一面があり、誰が相手でも襟を正したりへりくだったり、ましてやおべっかをすることがない、良く言えば万人平等、悪く言えば八方無礼。また興味のないことへの物覚えも記憶力も悪い。そのため彼は、中学生の頃から集団や社会になじめず無気力な生活を送り、当時から感情の昂ぶりがある出来事を求めていたんだ。」
「なるほど、どこか智史くんに似てる性格ね。悪い意味で使ってるわけではないわ。」
「そうか。だが良いところもある、口で語らずとも関わりを最小限にしていれば明らかとなるはずだ。さて、進化の家とやらに行こうか。ワープは詰まらん、よほど切迫してなきゃじっくりと楽しみながら歩いていくのが吉だな。」
「ず、随分と呑気だな。緊張感が無さ過ぎるぞ?」
「私は常に進化している、より強大な他者を圧倒的な力でねじ伏せ、思う存分振り回し、甚振るという快感を得るために。そのせいで力が数質共にあり過ぎてぱっぱになっているからな、だからだ。よっぽど興味がない時以外はこうしていたい。」
「な、なるほど…。」
「と呑気に言っても、暑過ぎてあまり動きたくない環境だからな。ならば環境をこちらが活動しやすいように改変してしまおう。」
智史は恐ろしい事を軽く呟く、そして彼は外に出ると空に手をかざす、すると上空に無数の巨大な青色のサークルが展開される、そのサークルを展開した際に少し掛かっていた雲が引き裂かれるようにして環状に吹き飛ぶ、そして猛風が吹き始め、サークルの周辺の大気が急激に冷え始め、気温が下がり始める、いやそれだけではない、大気圏にある温室効果ガスの一部がサークルに引き寄せられ、取り込まれていく。
「天気が変わった…。涼しい…。」
「ふ、普通こんな事ってアリなの…?」
「環境をエネルギーベクトル操作能力で調整した、熱エネルギーを減衰させ、大気の保温能力を低下させるという形で。」
「(天候を変えただと…⁉︎まさかこれほどとは…。これは恐らく原子の運動エネルギー量や大気中の温室効果ガスの量を調節したのだろう、だがあんな芸当など先生、ましてや俺にも出来るはずがない…。)」
「これで気楽に風景を楽しみながら進化の家に行けるな、行こうか。」
智史はそう言うとサイタマを除く皆を連れて進化の家へと歩いていく、その光景を先程の戦闘でジェノスにより手足をもがれて動けない状態のアーマードゴリラが脂汗を垂らし、歯をガクガクと鳴らし戦慄と恐怖の眼差しで見ていた、彼は智史達との距離が暫く開いた後、先程送ったデータに補足として自分を殺しにまた帰ってくるかもしれないということに怯えながらも慌てて進化の家へと彼が向かっている事を送信したーー
ーー進化の家
「旧人類撲滅用精鋭戦力が、全て殲滅されただと⁉︎」
「はい、全てターゲットに殲滅されました、そしてもう一つ気になる点が…。」
「それは、何だ⁉︎」
「ターゲット以外にも、未確認の存在を確認…。戦闘能力はターゲット以上のモノを持っている可能性が高いです、それにターゲット側に我々の存在が聞き出されてしまった以上…。」
「な、なにが起こる⁉︎」
「ここに攻め込んでくる可能性が極めて濃厚です…、アーマードゴリラがその存在が活動を開始したとの報告を寄せてきました…。」
焦るようにしてそう会話するのは『進化の家』の首領ーーボスであるジーナス博士とそのクローン達であった、彼は実年齢は70歳を超えているものの、研究の成果によって若返っており、自身のクローンを何十人も従えていた。
「くっ、こうなったら阿修羅カブトを出すしかない…。」
「し、しかし!」
ーードゴォォォォォォォン!
「未確認の、巨大なエネルギー反応を確認!場所は、ここの近くです!」
「上部構造物、全壊!」
「防護壁が完全に破壊されました!目標、侵入してきます!」
「…こうなってしまった以上、阿修羅カブトを出す以外に突破口はない。出すんだ。」
「…は、はい!」
突如として起こる巨大な爆発、それによって生じる大地震の如き振動に圧倒的恐怖というべき未確認の化け物ーー智史が来たことをここに居た全員が悟る。そして同時に理解した、ここ『進化の家』最強の存在ではあるものの精神が不安定で傲慢であり、それ故に手に負えない一面を持つ『阿修羅カブト』を開放するしかない事をーー
ーーほぼ同時刻、進化の家郊外
「いつもと変わらず随分とド派手な…。一発で根元から吹っ飛ばしてそのままジ・エンドかと思ったぞ…。」
「ズイカク、一発で吹っ飛ばしては詰まらんではないか。悲鳴と叫喚をじっくりと聞きながら、楽しく、しかし確実に、そして徹底的に殺るのが気に入らぬ者に対する蹂躙の醍醐味よ。」
「こ、怖…。(汗)」
さてと、中に入りますか。
智史達は先程の砲撃で守るものが跡形もなく吹き飛び剥き出しとなっている出入り口を見つけ、そこから侵入した。
「何かひんやりしてるね、研究施設だからかな?」
「ああ、研究という事象を行う為の施設だ、それ以外の要素はいらないから、こうなって当然だろう。」
「(抵抗が無いな…。生体反応が最下層に集結している、そしてその中に特に強大な生体反応が存在してい…ん?生体反応が減少している…?何か起きているのか?)」
…ズズゥン。
「何かがこの研究所の最奥で起きている、それも相当ヤバい事象が。抵抗がなくて当然だろう。そのお陰で散策に掛かる手間が思いっきり省けたな。」
「(随分と緊迫している状況だというのに呑気そうだ…。だがその態度からは圧倒的な余裕が感じられる…。何なんだ、底が見えないこの不気味な感じは…。)」
何処から敵や脅威が現れても不思議では無い状況だというのに全てを見通しているのかのように平然と喋る智史にジェノスは不気味な感触を覚える、だがそんなジェノスの気持ちとは関係なしに智史達は道を阻むモノ、トラップを次々と破壊し、奥に進みながら研究所の各所を見て回る。やがて彼らは培養槽がたくさんある薄暗く、機械的な部屋に入る。
「ん?水槽みたいなのがいっぱいある、その中に何か気持ち悪いのが浮いているぞ?」
「培養槽…。動物や昆虫をくっ付けた人みたいなものがたくさん…。ここで智史くんや私達を襲ったものが作られていたのかしら。」
「そうかもしれない。でもなんか放ったらかしだなぁ、私達がここに来るのに気がついて片付ける間もなく逃げ出しましたって感じだ。」
「しかもこれって見た感じ、大事なものばかりみたい。もし計画的に戦略を立てている大規模な組織だったら、ここを爆破してでも証拠を隠滅するかもしれないわね。でも爆破されてないって事は…。」
「拠点が一つしかない故に後がないのか、もしかしたら智史の先程の台詞を推察するに、そこを爆破させる決心をさせない『何か』がいるのかもしれない。」
「彼ら、僕にどこか似ている…。ねぇ、彼らと僕の共通点、知ってたら教えてくれない?」
「共通点か…。そこにいる彼らとお前の共通点は『管理』された状態で作り出されたということだな、人の域を超えたものとして生み出されるように。」
「『管理』ね…。んじゃあ姿形、能力が事前に設計された上で僕も彼らも生み出されたということか…。ところでさっき、『人の域を超えたものとして生み出されるように』って言ってたけど、何処からが『人を超える』域なの?」
「さあな…。それは見方次第で決まってくることだ、統一された計る基準など存在しない…。ただ相手にしてみれば並の人間を超越していると認めて初めて、『人を超える』域は存在する。」
グリードたる己と人造的に生成された生命体との共通点について話すカザリと智史、そんな中でズイカクはモニターの一つに映されていた内容が気になったのか、端末を操作して調べ始める。
「ん?データベース漁ってみたらこんなものが。どれどれ…。成る程、こいつらは遺伝子操作で生み出されたのか…。なあ智史、さっきのカザリとの話に補足入れるが、こいつら『運命』も『管理』された状態で生み出されたんじゃ?」
「そうだな、もし『管理』された状態で生み出されなかったら理由と目的があって創り出す方にしてみれば都合がとても悪いだろう?」
「という事は、僕がグリードとして生み出されたのも、仕組まれた事か…。」
「そして、『管理』された『運命』の中で生きていく事は本当に幸せなのか?仕組まれた運命という事を初めて知らされた時、それはいい気分と言えるのだろうか?」
「これも見方次第だな、仕組まれた運命と悟っていて喜ぶ奴もいれば嫌がる奴も居る。さて、このぐらいで話は取り敢えず仕切るとしよう、何時までもお喋りをする為にここに来た訳ではないからな。」
智史はそう言うと話に入れてもらえず半分空気なジェノスを連れて『進化の家』の最深部へと突き進んでいくーー
ーー『進化の家』最深部、戦闘実験用ルーム
ーーパパパパパパパ!
「ひっ、来るな、来るなぁぁぁ!」
ーーグシャ!
ーービチャァァァァッ!
「シュゥゥゥゥゥゥ…。」
「やあ、阿修羅カブト…。元気にしてたかい?また私のクローンをたくさん殺してくれたな、…気は済んだか?」
「あ?」
その部屋はジーナスのクローンの屍がたくさん転がっていた、彼らは阿修羅カブトを解き放ちコントロールしようとし逆鱗に触れ、皆殺しにされてしまったのだった。勿論自動小銃といった武力を用いて抑え込もうとはしたものの、そんなものでは阿修羅カブトの表皮に大した傷は付けられず、逆に彼の怒りをさらに煽るだけにしかならなかった。
そのせいでまだ感情の高ぶりが治ってない阿修羅カブトにジーナス本人は脂汗を垂らしながら話しかける。
ーーバキン!
「バーカ、お前。気が済む訳ねぇだろぉ?
人を地下深くに閉じ込めやがってよお、進化の家最強戦力の俺をよぉおおおおおおお。」
「お前は精神が不安定だ…。我々でもコントロールできないから仕方がなかったんだ。」
「コントロールだぁ?くはははははは、バ〜カッ。
俺はお前らの求めた『新人類』の完成型なんだぜ、知能も肉体レヴェルもお前ら旧世代とは比にならねー‼︎だからお前らが俺の言う事を聞くのが正しいんだよぉ‼︎」
「(違う、お前は失敗作だ。確かに圧倒的な性能を持つが、
品性が、足りない…。)
私を殺しても構わん。代わりは幾らでもいる。
だが、一つ聞いてほしい。」
ーーピッ!
ーービュン!
「!」
「何としても入手したいサンプルがある、だが恐ろしく強いのだ、トラップを易々と排除しここの直ぐ近くまで迫っている…。」
ジーナスは死ぬ事も半ば覚悟で監視カメラの一つが捉えた智史達の映像を映す。それを興味深そうに阿修羅カブトは見ている。
「お前にしか倒せん、殺してもいいから奴を捕まえてほ」
ーードゴァァァァン!
「(来たか…。)」
「お、強え奴が来た来たぁあ。あいつかぁ?」
そこに扉を強引に蹴破り智史が現れた、智史は破壊以外の価値など見出せないという冷たい眼差しで阿修羅カブトを見つめる。
「奥にもう一匹いるが、あれは要らん…。」
「んじゃあ奥の奴は要らねぇんだな。」
ーードガァッ!
「俺は阿修羅カブトってんだ、やろうぜ〜」
「(ジェノスが一撃で吹っ飛んだか、まあ中枢部に損傷は及んでないし、まだ戦闘可能であることには代わりはないが。しかし、見てるだけで殺気が湧いてくるような態度だな、気に入らん。一撃でその面を歪め、八つ裂きにしたいぐらいだ。
それにしても随分と広いものだ、このぐらいの広さがあれば戦闘データの計測も十分に可能なのもあらかじめ見えていたことだとはいえど、改めて頷ける)」
「おぉい、興味無さそうなツラしてこちらを焦らすんじゃねえょお!無視すんなぁ!」
ーーボッ!
ギシ…。
「まーだ生きてやがったのか。」
ヒュ!
バンッ!
バン!
バン!
バン!
「ブァ〜カ」
ボ!
ーーガガガガガガガガ!
先程不要とみなされて吹き飛ばされたジェノスがマシンガンブローを阿修羅カブトに対して放つ、この攻撃の威力は災害レベル「虎」ーー不特定多数の生命の危機を齎しかねない域ーー迄の怪人なら粉々に出来るというモノだった、しかしーー
ーーガッ!
ーーゴカン!
阿修羅カブトはジェノスのその攻撃を難なく耐え凌ぎ、しかもその攻撃の最中に一撃を彼の顔にかましたのである、それにより彼の顔面の左側が大破し、眼球のような物が飛び出す、そして彼は大きく吹き飛び、智史の横に叩きつけられる、彼はすかさず態勢を立て直すと腕を変形させて焼却砲ーー高出力エネルギー砲の一種ーーを再び阿修羅カブトに向けて放つ、それは日本のそこかしこにある平均的な大きさの山なら消し飛ばしてしまう威力を持っているが、先程の結果は阿修羅カブトには全くダメージにもならないというものだった、しかもそのビームがこちらに向かってくるのを見た阿修羅カブトは今度はそれを強烈な猛風で押し返し、ジェノスはその反動を食らって更に悲惨な事になる。
ジェノスは災害レベル『鬼』ーー都市全体の機能の壊滅が危惧される域ーークラスの怪人と単独で渡り合う実力を持っているものの、そんな彼が一対一で圧倒されているのを見るに、阿修羅カブトはジーナスが『自身の研究の集大成』と認めるに相応しい貫禄を出していた。
「下がれ、ここはもうお前の出る幕でない。」
「うう…。」
「“随分と、強そうな奴だなぁ。私で何とか五分五分って感じだ。"」
「気を抜くな、ズイカク。こいつの災害レベルは『龍』。複数の都市ーー今まで見てきた大都市クラスが複数壊滅しかねない程の域だ。」
「“大都市複数って…。んじゃあ元の世界基準でいくなら戦局を揺るがす巨大な要素になるな。まあ滅茶苦茶に進化し、強くなり過ぎたお前にしてみれば些事でしかないと思うが。”」
そして智史は中破したジェノスを後ろに下げ、単独で阿修羅カブトの方へ歩いていく。
「お、見るからにやっぱり強そうじゃねえかぁあ。視線や雰囲気がこれまでの奴とは違うなぁあ。」
そう戯言をペチャペチャと呟いていられるのも今のうちだ。遺言は吐き終えたか?ならば来い。
「んじゃあ、改めて殺し合いますかぁ。」
ーーヒュッ!
阿修羅カブトは重厚な巨大な体格に見合わぬ恐るべき速さで襲いかかった、次の瞬間には彼は智史の後ろに移動する、だが智史はこの動きを難なく捉えた。こんな速さなどどこ吹く風の域、いやそんな事などどうでもいい無常識な別次元の域にもうとっくに達し、しかもそれでさえ飽き足りずに常に己を半分無意識ながらも異常な勢いで研鑽していたのだから。
智史は殺意を込めた視線を阿修羅カブトに向ける、その視線を阿修羅カブトは感じ取ったのか、拳を当てる直前で慌てて後ろに飛び退いた。
「な、何なんだこいつは…‼︎隙だらけなのに!俺の直感が大音量で危険信号を発している!今、引かなければいいように殺られていた…‼︎貴様ぁああ!これ程までの力、一体どうやって手に入れたんだよぉぉぉ!」
「常に進化をし続けたからだよ、お前は外を見られなかった、否品性が欠如していた『モノ』故に見せられなかったのだ、この『進化の家』の最終兵器ーージーナスの集大成である事も相まって。
だからお前は『井の中の蛙大海を知らず』ーーつまり狭い見識にとらわれて、他に広い世界があることを知らないで、自分の住んでいるところがすべてだと思い込み満足してしまっていると言わんばかりの状態のまま、今日この日を迎えてしまったのだ。ジーナスがこうならないように外を見せながら『己より強大な者がいるかもしれない』という事も含めてきちんと教育していればお前はこういう傲慢な醜物(醜い化物)にはならなかったものを。」
「“確かにその主張は一理あるな、傑作品として力を与えることに没頭しすぎて品性を育てなかった結果今の傲岸不遜な化物が生まれてしまった。ジーナスとやら、研究者としては優秀だったけど、教育者としてはダメだったみたいだな。
だが、お前は非常識過ぎる。お前のような非常識な相手と相対した経験が彼らにはないというのにそのケースを想像して見出せとか、ちょっと無理過ぎる所があるぞ?『人間は己の知る事しか知らない』ってお前、言ってたじゃないか。”」
あ、そうだったな。ちょっと言い過ぎたか。
「よそ見すんなぁああ!常に進化し続けたって、どう言う事なんだぁぁ⁉︎」
「一言で具体的に言い表すなら、原子、素粒子などとっくに通り越した細か過ぎるレベルから根本的に『進化』しているという事だよ。お前はそんな事など思いつきもしまい?」
「細か過ぎるだと…⁉︎つまりあいつは何かの『進化』能力を内包しているのか…⁉︎」
「まあそういう事だよ、自力で進化出来る『能力』をあいつは内包している。あいつはその能力のお陰でこれ迄に闘ってきた強敵を悉く打ち負かした。あいつの恐ろしさは単に圧倒的な力を持っている事じゃない。今より更に強大に己を発展させられる『力』を持っているから恐ろしい。」
「そうね、智史くん色々と凄まじい力を行使してきたけど、最大の強みは「進化」という学習適応能力の高さにあるというべきかしら。それにしても、彼、大丈夫なの?痛くない?」
「機械をメインとした際に人間としての感覚器官を捨ててしまったみたいだ、多分痛みなど感じないのかもしれない。」
中破して後ろに下げられたジェノスと共にズイカクは智史と阿修羅カブトの様子を見守りながら琴乃とともにそう会話をする。
「そうかい…。」
ーーミシィ…。
「おい阿修羅カブト⁉︎よせ、また暴走する気か!」
ーーメコォ!
ーービキキ!
「俺にはそんな力なんかねぇって言いてえんだろぉ…。どう見てもインチキくせえし、どうせ俺よか強くねえ…。でも、ムカついたからテメェはぶち殺す!」
都合の悪い現実を受け入れられないからこうして強がるのだな。まるで人間の悪い部分そのまんまだ。しかしその強化形態、エヴァンゲリオン初号機とどこかそっくりなカラーリングではないか…?
血管が阿修羅カブトの身体中に浮かぶ、そしてただでさえ闘争的なデザインをしていた肉体が更に鋭利さ、猛々しさを増して変化する。この形態を阿修羅カブトを生み出したジーナス本人は『阿修羅モード』と呼称しているが、実際の所これが世間一般の呼び名となるとは限らない。世間がジーナスと同じ感性を持ってるとは言えないからだ。
「ふぅううう…。こうなるともう丸1週間は理性が飛んで闘争本能が静まる事はない。
お前を殺した後は街へ降りて、来週の土曜までは大量殺戮が止まらねえぜ」
「そうか。貴様の品性の無さが丸出しだな。」
「ふぅうううおおおおおおおおおおお!」
そして強化形態となった阿修羅カブトは智史に拳を当てようと突進する。彼はその場から動こうとはせず、不敵な表情を浮かべていた。
ーーブォッ!
そしてその拳は智史に到達する、その際に衝撃波が生じる。しかしその結果はーー
ーーガッ!
ーーゴキゴキゴキゴキィッ!
「な、なあっつ⁉︎」
「どうした?ちゃんと信念を込めて殴ったのか?」
「ば、馬鹿な、な、何故ぇえ⁉︎」
鈍く、とても重い衝撃が衝撃波と共に彼を殴ろうとする阿修羅カブトの右腕を襲う、そしてそこに彼の姿はない。そして後ろから声が掛かる、見るとそこには彼が居た。彼をもう一度殴り付けようとしたが、激痛が走りピクリと動かない。見ると右腕は無残に変形していた、指も含めた全ての骨があちこちで砕け折れ、表皮が無残に衝撃で砕け割れ、所々から体液が垂れ落ち手としての形を成さない程に。
「何故だ、俺はテメェより、誰よりも強えはずだぁあ‼︎負けるはずがねぇええ!」
ーードドドドド!
ーーガンッ!
自分はあいつに劣っている、こんな非情な真実を具現化した現実を見せつけられてもなお、諦めの悪い事に、阿修羅カブトはまだそれを受け入れようとしない、突進し頭部の角で智史を刺し貫こうとする、智史はそれを右手でそのまま受け止める、阿修羅カブトの突進を受け止めた際に吸収されなかった一部の運動エネルギーが凄まじい衝撃となって床に伝わり鋼鉄より高い強度を持つ素材でできた床がひび割れる。阿修羅カブトは巨体に任せて彼を押そうとする、しかし彼はケロリとした表情で平然とそれを受け止めたまま一歩も動こうともしなかった。彼はその角を握り潰し角に亀裂が入る。そして投げ飛ばしてその角をへし折ってしまった。投げ飛ばされた阿修羅カブトは壁に叩きつけられ、勢いを失ったまま床にずり落ちる。
「う、嘘だ…、こんなのあり得ねえぇ!インチキに決まってるぅう!」
「インチキインチキと、よく吠える。だが安心しろ、その煩わしい口ももう直ぐ動かなくなる。さあ、楽しい饗宴を始めるとしようか。」
「あ、あああ…。うわぁああ、来るなぁあ、来るなぁあああ!」
圧倒的な力を伴い、殺意と狂気に満ちた表情で迫ってくる智史に完全に阿修羅カブトは震え上がる、理性では克服できない本能的な恐怖が阿修羅カブトを支配していた、彼は残った左腕をジタバタさせて智史を追い払おうとしたものの、智史はそれを平手で斬り払う、斬り飛ばされた左腕が宙を舞う。
「ひぃい、誰か助げでぇええ」
ーーガッ!
ーーミシャッ!
「ゔぁあああああ‼︎」
ーーブチブチブチブチッ!
ーービチャッ!
そして因果応報というべき容赦無い解体劇が幕を上げる、智史は阿修羅カブトを蹴り転がし、右足を踏み潰して馬乗りになり、まず右目に手を突っ込み眼球を思いっきり引き千切る、あまりの強引さに視神経が周りの体組織を纏ってちぎれ飛び、体液が智史に掛かる。
次に智史は親指を除いた全ての指を口に突っ込む、そして阿修羅カブトの顎に彼の指が深々と食い込む。今度は左足ですでに半壊した顔を踏付け押さえ付ける、そこに掛けられるあまりの荷重に阿修羅カブトは逃げたくても逃げられない。手を解きたくてもその手を振り払う手はもうとっくに破壊されていた。
ーーギリリリリリリ!
「イベッ、イベベベベベベ‼︎」
ーーブチィィィイッ!
ーービシャァァァァァ!
「口が無くなった以上、舌ももう要らんな。」
ーービシャッ!
「うえっ、相変わらず容赦無いな…。」
そして智史は顎を容赦なく乱暴に引き千切る、凄まじい怪力に耐えきれずに表皮が筋肉と共に裂け体液が更に噴出する。
だが解体劇はこれでは終わらない、智史はもうピクピクとしか動かず、一瞬しか味わえない引きちぎれた部分からの勢いのいい体液の噴出も止みただタラタラとそれを垂れ流し力なく地に伏せた阿修羅カブトの頭部を思いっきり踏み潰した、その勢いで体が跳ね上がり床に新たな亀裂が走り、体内に残った体液、脳味噌が砕けた表皮と共に盛大に飛び散る。
ーーズガァッ!
ーーズガァッ!
ーーズガァッ!
そして智史は何度も何度も阿修羅カブトの骸を踏み付ける、その度に表皮や肉片、骨や体液が滅茶苦茶に飛び散る。彼の体はもう原型など留めていない、ただ智史に徹底的に嬲られて破壊されていく運命しかそこには存在しない。
やがて阿修羅カブトが蹴り転がされた場所には踏み潰せるモノが無くなる、それと同時に智史の阿修羅カブトに対するオーバーキルというべき猛攻も止まる。しかしそれでも智史の攻撃は終わらない、今度は自身の研究の集大成というべき阿修羅カブトが一方的に破壊されていく様を見て呆然と立ち尽くしていたジーナスが標的となる、こちらに迫ってくる智史を見たジーナスは本能で次はこちらが殺される番だということを理解したのか恐怖に震えながら覚悟を固める。
「…容赦する気は、無いみたいだな。まあ私の代わりは幾らでもいるが…。」
「ならば、その代わりも皆殺しにしてやろう。安心して逝け。」
「おい、ここを吹き飛ばす気か⁉︎」
ーーゴアッ!
ーーズゴォォォォォォン!
「な、場所が変わっただと⁉︎」
「智史くん、私達を巻き込まないように転移能力を使ったみたいね。」
「恐らく今バカでっかい火焔を帯びたキノコ雲が立っている場所が私達が入った場所だ、アレじゃあ誰も助からないな、うん、智史以外の反応は無い。」
「ここから随分と離れた場所だけど…。ここまで衝撃波が届くなんて、威力が半端無いね…。」
「確かにこの地下施設は巨大だった、だがそれを一から根こそぎ消滅させる程の巨大な爆発は引き起こす必要は無かったのでは…。」
「まあその爆発を引き起こした本人にどうだこうだ言っても仕方ない、本人も本人なりに考えて引き起こした事だろうし。ただ、かなりの大事になるのは確実だぞ。」
爆心地ーー『進化の家』があった場所には非常に巨大なクレーターが出来上がっており、そこから赤とオレンジの光が混じった力強い噴煙が立ち上る。周囲の木々は衝撃波によって薙ぎ飛ばされ、緑豊かだった山々も変形して地盤剥き出しの禿山と化していた。
そして未だに噴煙立ち上るクレーターから智史がヒョイと大ジャンプで琴乃達の所に到着した。
「さて、家に帰ろうか。もうそろそろサイタマも買い物終わって首長くしてるし。」
「そ、そうだな…。(まさかこれ程とは…。これはズイカクが発言した通り、積極的に活動されたら大事になる…。)」
「あれ、なんかテレビ局の人達がいっぱいいる。」
「あ、あっちにヘリコプターや消防、警察が向かっていくな。」
「ある意味『お祭り』だな、これは。私のせいで普段人気の無い街がこんなにざわついてる。」
智史達はサイタマの家に帰っていく、その最中で智史による大規模な気象操作や巨大な爆発によって様々な人盛りが複数出来ているのが彼らの目に入ってきた。
「ただいま〜。」
「おかえり、スーパーに買い物に行ってる最中に突然陽射しが弱くなって肌寒くなったり、スーパーで買い物終えて家に着いてしばらくした後に地響きと衝撃波がドカンと襲ってきて慌てて外に出たら巨大なキノコ雲が遠くで立ち上がったりしてたけど、何かあったの?」
「先生、この人の仕業です…。」
ジェノスがこの一連の仕業は智史のものだと本人を指差して説明する、指を指された智史本人は嬉しくて笑ってしまう。
「お前の仕業か。勝手に天気変えんなって。まあ汗ダラダラにならなくてよかったけど。んで、結果はどうだったの?」
「『進化の家』は壊滅したよ。人一人残さず徹底的に智史によって殲滅された。」
「人一人残さず全員殲滅って…、残虐だな、オイ…。」
ーーギュウウウウウ…。
「あ、お腹空いてきた…。」
「お腹が鳴ったか…。もう直ぐ夕食の時間だからな。勝手に覗き見したり色々と足を引っ張ってしまったお詫びとして、料理を一品、作らせていただこう。」
「え、いいの?でも食材がないと、って目の前に食材が出てきたぁーー‼︎」
突如として豚肉をはじめとした食材が出てきた事に驚くサイタマ、智史にはごく当たり前の事であれど彼にしてみれば驚愕すべき出来事である、そんな彼を尻目に智史は料理を黙々と作っていく。
ーークツクツクツクツ…。
「今後、どうするの?」
「少し日程が長くなるかもしれない。観光とか色々して暇潰しをしながらこまめに観察だな。じっとしているのは大いに詰まらんし、何より一番嫌いだ。忍耐する必要性があるならまだしも何の必要性、理由も無いのに忍耐など無意味。
さて、観光をするにもカネを求める所ならば必ずカネが必要になるな。敢えてヒーロー協会に入るのも手だが…。」
「せっかくカネを求めて入っても新人潰しやカネや権力の欲にまみれて腐りたくは無いわ。かといって智史くんのチート能力にまた頼るのも…、人が目の前にいるから犯罪騒ぎになるから止めとこうか。」
「そうだな、前者は入らなくても十分に状況を把握できるし、後者は感覚的な後ろめたさもある。ほれ、出来たぞ。」
「う、美味そう…。」
智史は豚肉の赤ワイン煮込みを作り上げ、サイタマ達の目の前に置く、ジェノスがサイタマを守るようにして恐る恐る味見をする。
「う、美味い、しっくりとくる味だ…。(毒性は確認されず、市販の豚肉と成分構成は大差無い…。)先生、せっかく作ってくれたんだし、これ食べちゃいましょう。」
「あ、ああ…。ところでお前らこそ、夕ご飯どうすんの?この世界の外から来たって事は旅してるんだろ?」
「私の生成能力の他にも、この世界の外にある『家』で食料は調達出来る、だから食料に関する問題は無い。」
「そう遠慮するなって。お前ら悪い奴らだって雰囲気はしねえから、この家に暫く居候してってもいいんだぜ。因みに料理している最中にヒーロー何たらとか喋ってたみたいだけど、何かあったの?」
「何れその言葉の意味は判るさ、そう遠くない日に。」
「肝がぞくっとするような言い回しするなよ…。」
智史の先ほどの話が気になったのか尋ねるサイタマ、それに対して智史はこの話の意味はさほど日が経たない内に明らかになると暗示する、その意味が彼が発言した通り、翌日に明らかになるとはこの時サイタマは微塵も思っていなかった。
それはともあれ、智史達はサイタマの家に一泊することにした、彼らは家事を多少手伝いながらも、料理を食べ、そして布団を敷いて明かりを消して休息を取った。
ーーネット上の情報を全てリアルタイムで見るに、ヒーロー協会はまだ私の事を認識していない、か。私がした事は彼らに事前にマークされているジェノスがした事となっている、だが積極的に活動するとなった場合、何れ私がこれらを引き起こしたという事が明らかとなるだろう。実際にこれらの行為を引き起こしたのは私ではないかという目撃証言に基づく噂が表面上には出てないものの陰で僅かながら流れている。バレる確率はゼロに限りなく近づけられても決してゼロには出来ん、逆を言えば必ずしも100%バレるとは限らない。何れにせよこの事象はこの世界全ての事象に共通して言える事だな。
そして、世界系を管理する奴らは彼らに干渉する策ーー即ち私を足止め、欲を言えば殲滅する策略を練っているようだ。
面白い。
ならばまとめて返り討ちにしてやろう。今でも十分過ぎる程にあっさりと対処できてしまうのだが、より酷い目に遭わせる為に常に強大に、そして更に上へと向かうようにして進化しよう。奴らとてこれまで私が戦ってきた者達と同様、無能、暗愚ではないからな、私の事を多少たりとも知り、考え、策を練ってくるに違いない。
智史は心の中でそう呟く、その言葉通り、ライトマサル達がリヴァイアサンごと智史の動きを封じようと策を練っていた。
そして後に智史が彼らの策に敢えて嵌る形で決戦が幕を開ける、だがこの決戦を一番望んでいたのは言うまでもなく、智史本人である事を彼らは知る由もない。
そして彼らの行動は彼ら自身にしてみれば最悪の結末へと向かうように、彼らが嵌めようとしている相手、即ち智史本人の手でとっくにレールを敷かれてしまっていた、それを知らぬまま彼らは望まぬ結末へと突き進んでいく事になるーー
後書き
ジーナスと阿修羅カブトの扱いについて。
原作ではジーナスの死亡描写は無かったものの、敵と決めた者は根こそぎ殲滅するまで絶対に容赦しないという智史の性格も考慮し、彼の手によって研究施設諸共消滅させられるという原作より酷い流れとした。
また阿修羅カブトについては原作ではサイタマのワンパンで瞬殺されたがそれではつまらない感じが個人的にはしたので、ここでは智史にジワジワと甚振られ苦しみながら死んでいくという流れとした。
サイタマがスーパーの買い物に出かけて進化の家に来ていないという設定も彼らの扱いを考慮している最中に生まれたものである。