海龍のアルペジオ ーArpeggio of LEVIATHANー   作:satos389a

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今作は実写版トランスフォーマーのリベンジよりデバステーターが出演します。
出演とはいっても、リヴァイアサンごと智史が創ったコピー品で、当然オリジナルではありません。
しかし、智史が創ったコピー品であるからこそ、原作の不遇な扱いを晴らすようにしてデバステーターが持つ巨体の重みと存在感を桃源団との戦いで存分に書き出しました。
ブルブルや昆布インフィニティもちょこっと出てくるのですがこちらも酷い目にあいます。
そして目立つような行動ばかりを智史がしてしまったせいで、ヒーロー協会に存在が分かってしまいます。
その今後も話に書いていく予定です。
それではじっくりとお楽しみください。

追記

『ツシモフ』の部分を『ボフォイ』に訂正しました。
誤字申し訳ありません。


第46話 今日も智史は平常運転

ーーピピピピ、ピピピピ。

 

「ぐ〜…、ガ〜…。」

 

ーーピク!

 

「はぅおおああああ!鼻クソついた指であっち向いてホイ仕掛けてくるなあ!」

突如として絶叫と共に飛び起きるサイタマ、恐らく相当な悪夢を見たのかもしれない。飛び起きた彼の顔は緊張してピクピクし汗を垂らしていた。

 

「…夢か。」

しかし直ぐに彼は『現実』を認識し先ほどのものは夢であると改めて認識する、そして周囲を見渡すと自分以外の5人ーージェノス、智史、琴乃、ズイカク、カザリがいない事に気づく。

 

「ん?置き紙がある。なになに…。『今日はF市にみんなでお出掛けしてきます。 海神智史』か…。ジェノスは昨夜、『明日、博士の所に壊れたパーツを修理しに行く』とか言ってたからな…。」

そう呟くサイタマ、そして彼はテレビのリモコンを手にとってテレビのスイッチを入れる。

 

「“F市で暴動を続けるテロリストは桃源団と名乗っており、駆け付けたヒーロー数名が負傷し、手に負えない状態となっています。”」

 

“ーーガサガサ!”

 

「“え〜、たった今犯人グループの主犯の身元が判明しました、B級賞金首のハンマーヘッドです!

この男はこれまでにも数々の暴力事件を起こしています。

身長215㎝、体重210kgの巨体を持ち、路上の喧嘩で20人を相手に全員病院送りにした経歴があるとの情報が入っています。

桃源団から本局も含めた各テレビ局に送られたメッセージによると、『働かないものにも無償で衣食住が提供される世の中になるまで暴れ続ける』などという社会システム上非常に矛盾点が多く、我々一般市民にしてみれば到底理解し難い事を主張しています。”」

 

「(なんかつまんねー事件だな。あいつらF市に行くと言ってたけど、出会ったら即蹴散らして終わりだろうし、今回は俺が行くまでもねーや)」

 

「“また、ハンマーヘッドに同調したメンバーはいずれも無職で働く意思のない若者であり、構成員の顔はスキンヘッドで統一され、非常に危険な雰囲気に包まれています。

外出された際にスキンヘッドを見かけたら直ぐにその場を離れて下さい。”」

 

「な、……なんだと?」

サイタマはテレビの画面と放送の内容を見て戦慄した、何と桃源団の全てのメンバーがスキンヘッドーー禿頭で統一されていたのだ、それを見たら逃げるようにと聞いたサイタマはせっかくヒーローやっててもこれでは自分も彼らと同じく悪者扱いされてしまうのではないかと考え、慌ててパジャマ姿からヒーロースーツへと着替え、家を出る。

 

「(やばい、万が一こいつらがこの事件がF市で起きると知っててF市に行ったとしたら…、こいつらより先にこの事件を片付けねえと、俺は悪者扱いじゃねえかぁあああ!)」

サイタマはそう焦りながらF市に向かって必死にダッシュする、勿論、その予測は的中していた、では、サイタマが起きる前の時間に時間を巻き戻そうーー

 

 

 

ーー今から少し前の時間、午前3時。

 

 

「みんな起きたみたいだな、ってあまり寝てる必要性も無かったか。」

「そうね、疲れてても一時間もしないうちに疲れが取れちゃったから。」

「そして真夜中にF市の何処に行くのか突然話し始めるなんて…。当初は何でF市に拘るんだって思ったけど、色々データ見てるうちに見たいものが見つかったから行きたくなった。」

「釣りやグルメ、文化の事ね。まあサイタマの家に居てばっかもつまらないから賛成。でも観察はどうするの?」

「それは智史本人なりに考えている事だろうから、この話はあまり突っ込まないようにしよう。兎に角、F市でどう楽しみどう学習するかに今は頭を使おうか。」

「そうだな、どう楽しむかの詳細は現地に着いたらまた考えよう。しかし言葉もなしに出るのはまずいな、サイタマの事を考え、置き紙を残していこう。」

智史はそう言いF市へ出掛けるとチラシの裏側に書いた。

 

「何処へ出かけるんだ、智史?」

「F市。見たいものが見つかった。ここから車で行く。」

「車は、無いぞーーな⁉︎工事車両ーーコンクリートミキサー車だと⁉︎」

「その場で即座に生成した、コンクリートミキサー車にした理由?これも後に分かるだろうが、昨日の話とは決して縁が無いわけでは無いぞ?知りたかったら自分で調べ、考えたまえ。」

「でっか‼︎私の身長の2倍以上はあるぞ!」

「智史くん、これって何か作るつもりなの?」

「違う違う。まあさっさと出発だ。」

轟音と共に突如として鈍く光る灰色と白をベースカラーとしたマックトラック社製のものに瓜二つの姿のアメリカンなコンクリートミキサー車が無人のまま智史達の目の前に停車する、そして智史達はそのコンクリートミキサー車に乗り込み出発する。

 

「んで、私にしか知らせなかった(メンタルモデルの概念伝達を利用してジェノスにその目的が知られる事を防ぎたかった)F市に行く本当の目的、そろそろ言ったほうがいいんじゃ?」

「そうだな、ジェノスも居ないし、口を割るとしよう。F市に行く本当の目的は桃源団というテロ組織を跡形もなく撲滅する為だ。奴らの行動理念は簡単に言ってしまえば「断固働かない、働かなければ衣食住が貰えない社会を解消する」だ。」

智史はそう言いながら桃源団に関するデータを青いサークル上に表示された立体モニターで動画も交えて的確に説明していく。

 

「その行動理念とやらについてなんだけど、その前に『衣食住』って言葉の意味は、何?」

「衣服と食物と住居。生活をしていく3大基礎を一言で言い表した言葉。」

「なるほど、でもなんで働かなければ衣食住とやらが貰えないのかな?」

「カザリ君、『働かなければ衣食住が貰えない』という飴と鞭の社会システムを機能させないと困る人達がいるのよ。彼らは自分達だけでは成せない大きな夢や願望を下っ端の一般の人達をそのシステムで使役する事で実現してきたのよ。智史くんがあなたと会う前に私とズイカクと3人でそんな話をしてたわ。」

「なるほど…。つまりそのシステムを機能させないととても困る人間達がいるのか…。僕もそんな所あったな、人間にセルメダルを投与して自分の力を増やす為に彼らを利用した点で。」

 

ーードゴォン

 

「あ、昆布をいっぱい身にまとった奴がいる。」

「本当だ、そして人が倒れてる。」

「格好から見るに、多分ヒーロー協会に所属してる奴だろう。そして見るからに非常に好戦的だな、口程度で通すつもりはなさそうだ。裏を返せば大変潰しやすい。」

「それなら、お摘みとしてこの昆布、遠慮無く頂戴していくか。」

「賛成だ。一つ残らず生えなくなるまで徹底的に毟り取ってやろう。」

サイタマの家を出発して程なくして怪人、昆布インフィニティが彼らの視界に入る、智史はコンクリートミキサー車を停める。

 

「なんだぁ、お前ら?先程のヒーロー、人間共の仲間か?

って、え?俺を誰だと思って」

 

ーードガァツ!

ーーザンッ!

ーーゴキィツ!

ーーバキッ!

ーーブチブチブチッ!

 

ーーゴォォォォォ…。

「(昆布、全部毟られた…。(泣))」

そして哀れ、昆布インフィニティは出会い頭にいきなり顔知らぬ存在である智史達の襲撃を受け、昆布を全部毟り取られてしまった。毟り取られた昆布と大怪我をしたヒーロー二人を積み込み去っていく彼らのコンクリートミキサー車を昆布インフィニティは涙目で見送るしかなかった…。

 

「んーっと、この二人、どうしようかしら。」

「取り敢えず応急手当をした後、近くの病院で降ろすか。二人の怪我が悪化しないように手当はしても、面倒まで見るのは我々の義務ではないからな。」

智史は近くの病院へとミキサー車を運転しながら情報検索で調べ上げたデータや2人の怪我の状況を把握する為に採ったスキャンデータを参照しそれをシミュレートして最適な具体的な応急処置の内容を編み出し、それを事細かに琴乃に指示し、琴乃は海洋技術高等学院で学んだ知識を応用して速やかにその指示された内容を智史から指示された内容に応えるようにして手渡された救護用キット一式をフル活用して実行していく。

 

ーーキキィイッ!

 

「何用でしょうか?」

「こんな遅くにすみません、重症の方が2人居るので、その2人を引き渡しに来ました。後はこちらで宜しくお願いします。」

 

ーードスン!

 

「え、ちょっと待ってください、お名前は⁉︎」

「教える気などないので関わらないでください。カプセルの開け方は本体の側に記載しておきましたので。」

 

ーーダンッ!

ーーゴォォォォォ…。

そして智史はZ市の市立病院に現れ、負傷したヒーロー2人を入れた救護カプセルを二個その場に置くと慌てて状況を聞こうとする職員を突き飛ばしてそのまま去って行ってしまった。

 

「名前や事情を教える義務など我々にはない。単に重傷者を手当して2名搬送しただけだというのに。そもそも彼らを助けた事による名声や権力など欲しい気が微塵もしない。さて、改めて行こうか、F市に。」

 

「あ、ここも田んぼがたくさんだ。」

「色々とごちゃごちゃしている都市の郊外に出てくると、心が何となく落ち着くな。日が昇ってくるのがより一層いい味を出してる。」

F市に向かっている途中の田園地帯で、日が東の地平線から昇ってきた。その朝日の光がまだ水が張ってある田んぼに映えて美しい風景を生み出していた。その風景の中を智史達を乗せたコンクリートミキサー車は黙々と進んでいく。

 

「この街を抜ければF市だ。と、その前に潰しておきたい奴らがいる。強盗団「牛の胃袋」を束ねるA級賞金首のブルブルだ。こいつらをぶっ潰してカネを調達してやる。」

「それ、この世界の法律に違反するんじゃないのか?」

「こいつらはマトモな理由も無しにカネを分捕ったんだ、少なくともこの世界の基準から見れば。だから社会にエラー扱いされて賞金首にされた、言い換えればそいつらを潰しても社会に論理的意義で非難される事はない、あったとしてもあまり大きくなる事は無い。ただそいつらを踏み潰す役回りが単に私になっただけだ、その何が悪い?」

そして智史は今度は『牛の胃袋』のアジトの目の前に停車し、アジトの玄関をいきなり蹴破って強引に乗り込む。

 

ーードガァン!

 

「A級賞金首のブルブルだな。」

「おい、テメェ‼︎なにも」

「貴様に教える名など無い。死ね。」

 

ーーザンッ!

ーーズゲッ!

ーーゴキッ!

ーーズガッ!

 

「ひ、ひいっ、たすけ」

 

ーーザクッ!

ーーズシャッ!

ーードサッ!

ブルブルは抵抗しようとはしたもののその暇さえ与えられずに智史に手刀で首を一瞬で刎ねられ、そこから血が勢いよく噴出し、頭を失った胴体が地に力なく倒れる。

それを見た『牛の胃袋』の構成員達は統率を失い我先に逃げようとしたものの智史は敵と決めた相手には余程の事がなければ絶対に容赦しない全殺主義者である、逃げる暇さえ与えられずに次々と智史の手によって命を刈り取られ、その一生を終えていった。

突入してから戦闘が終わるまでには1分強しか掛からなかったが、戦闘が終わった後のアジトの中は構成員達とブルブルの骸が内臓と共に転がる血塗れの凄惨な状況となっていた、そして智史はそんな彼らを動物の死骸処理でもするのかのように次々と窓からコンクリートミキサーにその場で新たに生成して取り付けたトレーラーダンプの中へと放り込んでいく、サイズは比較的大きくなかったことも相まってあっという間にトレーラーダンプの荷台の中はブルブル達の骸で一杯になった。

智史はブルブルの首とこれまで彼らに盗まれたカネが大量に入っていた袋を最後にアジトから運び出すと、青白い光弾を左手から放つ、それは一瞬だった、次の瞬間、アジトは巨大な爆炎を巻き上げて跡形もなく吹き飛んだ。

アジトの場所が人気がほとんど無いスラム街であった為に爆発という事象を目撃した人は何名かいたものの、ブルブル達が殺されたという事実を目撃した者は居なかった。

 

「さて、この骸の群れを札束入りの袋と共にF市管轄の警察署の目の前でばら撒いて我々が強盗団『牛の胃袋』を壊滅させたということを証明してやろうか。」

「すげえ悪趣味だな、オイ…。そして積極的に関わる事はしないって言いながら些細な事で積極的に暴れてるじゃねえか…。」

「心配するな、サイタマの良いところが見れなくならないように関わらないと言っただけだ。」

「でも、賞金首って事は討ったらカネが貰える可能性があるって事だよね。」

「ああその通り。こいつには1000万円の賞金が掛けられている。」

「1000万円って、数日間滞在するには十分過ぎる額だと思うけど…。」

「物価基準が違えばそれは十分過ぎるとは言えない可能性が出てくるがな。さて、アジトを焼き払う際に回収した5億6000万円を奴らの目の前で見せ、そこから賞金として1000万円を徴収しよう。」

昆布を車内でパクパク食べながら智史達はF市管轄の市警察署へと入っていく。

 

「すみません、賞金首討伐したので証拠を見せに来ました。刑事課の人を呼んでいただけますか?」

「え、A級賞金首のブルブルだ…、しかも首だけ…。は、はい、呼んできます!」

 

少しして刑事課の人間達がその場に現れるーー

 

「ブルブル討伐と同じくして『牛の胃袋』を壊滅させた事を示す為にこいつらの亡骸をブルブルの首も含めてここに持ってきました。」

 

ーーガァァァァァ

ーードサドサドサッ!

 

「こ、こいつら全て『牛の胃袋』の構成員です…。」

「そ、そんな事を伝える為にわざわざ『牛の胃袋』の構成員の死体を…。」

「いきなりそんなキツイものを見せられるのは見苦しかったでしょうか。では証拠写真を撮影するなら今のうちに。即刻焼却致します。」

「そ、それは止めてくれ…。死体を跡形もなく始末されたら我々の言い分が無くなる…。」

「そうですか。でも死体は生きていませんからね、この夏場だとあっという間に腐りますのでじっくり解剖したいならヒンヤリとした場所に移さないといけませんね。

さて、こいつらのアジトを焼き払う前に回収してきた5億6000万円、ご確認ください。」

智史はそう言うと5億6000万円の札束が入った袋をその場で開き、そこで5億6000万円ちゃんとあるという事を立体的に示すかのように分かりやすく札束を並べた。

 

「確かブルブルに掛かっている賞金は1000万円でしたね、なので申し訳ないですが賞金としてそこから1000万円を徴収させて頂きます。あとの5億5000万は被害に遭われた銀行の方に補填として分配してあげてください。

では、これにて。お忙しい中失礼致しました。」

「は、はい…。」

智史はそう言い終えるとトレーラーダンプを巨大な布で一瞬覆い隠す、次の瞬間にはそれは消えていた、作成者であるリヴァイアサンごと智史に吸収され、更なる進化の糧にされる形で。

そしてF市管轄の警察署の職員達は智史達が悠々と去っていくのをポカンと見つめるしかなかった、智史達の姿が見えなくなって少しして皆我に返り始め、状況把握に我先にと走り始めた。

 

「案外、すんなりと行ったな。もめ事になると一瞬思ったけど。」

「もめ事、か。まあ起きたら起きたで即刻吹っ飛ばす気でいたが。」

「お前は進化のし過ぎで力を手に入れ過ぎているし、今もアホという言葉など吹っ飛んだ速過ぎるペースで進化をし続けているからなあ、それもメンテナンスを除けばほぼ全自動で。まあそのお陰で元の世界の外も見れて、色々と学べて楽しい一面もあるけど。」

「あ、何か黒いスーツを纏った集団がゾロゾロと集まってきてるわね。あの人達かしら。」

「そうだな。しかしまだテロ行為には及んでいないからな、いきなり攻撃しても奴らに言い訳を与えかねん。だから奴らが行動を開始するまでのその間にゆっくりと観光しよう。」

黒いスーツーー服ではなく、金属的なバトルスーツーーを纏ったスキンヘッドの集団ーー桃源団のメンバーがある方向へと歩いていくのを見た、しかしまだ騒ぎは起きていない。智史はその様子を遠くから静観していた、これから騒ぎが起きる事を予測して嬉しそうに待ちわびながら。

そして智史達を乗せたコンクリートミキサー車はその場を去る、暇潰しでもあるF市観光をする為にーー

 

 

 

ーー『桃源団』首領、ハンマーヘッドの独白ーー

 

 

「なぜ働かなければいけないのか!

なぜ金を払わないと飯が食えないのか!

分け合えばいいじゃないか!」

 

俺の名はハンマーヘッド。名前の由来は俺の頭の頭蓋骨がハンマーみたいに硬いという事からだ、俺は喧嘩なら誰にも負けた事がない。掛かってきた奴は全員病院送りにしてやった。

そんな自慢話はさておきとして、俺は『働く』事が嫌いだ。

 

何故か?

 

『働いている奴は皆苦しんでいる、でも働かなければ飯を食うための金は貰えず、飯は食えない。』

 

そんな光景を幼少から見てきたからだ。そして俺も大人になれば働いている奴と同じ苦しい思いをすると思い、『働く』事は嫌いだと自然に思うようになった。

 

「こんな世の中の何が自由なのだ!

皆労働に縛られているではないか。

金持ちは肥え、貧乏人は死ぬ‼︎」

 

それだけではない。俺は金をたくさん持っている奴の凄さ、そして金をたくさん持っていればこそ許される俺達平民にしてみれば手にも届かなさそうな料理をたらふく食べている光景を目の当たりにした。

俺は金を持っていなければ生きるために食う事すら許されない、そして金をもらう為には苦しい労働をしなければならない社会がそこにある事に憤慨した。

 

「仕事は楽しいか?

否!

そんなわけない!

我々は断固働きたくない!

だから変えるのだ!このハンマーヘッドが!

働きたい奴だけ働いて他は養ってもらえる社会に‼︎

理想郷を実現させるのだ!」

 

だから俺は今日、俺と同じ崇高な目的を持つ部下達と共にここF市で金が無ければ食えないという社会の醜さを演説している!

しかし…。

 

ーーガヤガヤガヤガヤ…。

ーーワイワイワイワイ…。

 

「ボス‼︎誰も聞いてません‼︎」

「何だと⁉︎」

 

「ハゲ!」

「こら、見ちゃダメ!」

 

「くそ〜、愚かな大衆どもめ…。」

 

大衆はそんな我々の叫びには耳すら傾けず、寧ろ寄ってくるな、叫ぶなと軽蔑するような態度を示す者さえいた。

恐らく大衆共はこの苦しい生活に満足してしまうように自然と洗脳されているのだろう、そして所詮叫ぶ程度で本気ではないと軽蔑しているようだ、ならば

 

ーーザッ!

 

「行くぞ!

まずは町一番の大富豪ゼニールの家を破壊して本気だとわからせてやる!

豪邸など不平等の象徴だ!」

「イエッサー‼︎」

 

本気だという事を分からせるには口ではなく態度で示した方がいい。

そう考えた俺は部下達を率いゼニールの家へと向かっていく。

 

「この高層ビル丸ごと、ゼニールの自宅です。」

「………。(悪い事して荒稼ぎしたに違いない、許せん!)

よし、破壊しろ!」

「イエッサー‼︎」

 

ーーバコン!

 

やがて我々はゼニールの家に着いた、目の前に聳え立つ高層ビルがゼニールの家だという事を知り、改めて不平等の大きさを感じ取った俺は部下の1人にこのビルを破壊するように命ずる、例の組織から命懸けで盗んできたこの黒々と光る新型のバトルスーツの性能を試す事も兼ねて。

そしてその指示に応えるようにして部下の1人のバトルスーツの前腕の部分が大きく膨らむ、そしてーー

 

ーーズドン!

ーーズズズズズ…。

ーーゴゴゴゴゴゴゴゴ…。

 

ーーシュゥゥゥゥゥゥ…。

 

「標的を破壊しました!」

「うむ。さすがは新開発されたバトルスーツだ!例の組織から命懸けで盗んできた甲斐があった!」

 

ゼニールの自宅は根元が崩壊してゆっくりと崩れ落ちていく、先程部下の1人がバトルスーツの前腕部分を膨らませた上で放った一発で、だ。ゼニールの家は巨大な超高層ビルだ、その根元を一撃で粉砕したとなるとこのバトルスーツは凄まじい破壊力を秘めている。

やはりこのバトルスーツは期待通りだ、その事実に俺は満足する。しかし、

 

「あ、このマンション違った。

すいやせん、ボス。ゼニールの家はもっと先でした。」

 

ゼニールの家は此処ではないという間違いに部下の1人が気づき知らせる、つまりゼニールの家だと信じて壊した先程のビルはゼニールの家ではなかったのだ。

 

「“きゃぁぁぁぁぁ!”」

「“うわぁぁぁぁぁぁ!”」

 

「失敗は誰にでもある!

肝心なのは反省し次に活かす事だ。

違うか?」

「違いません。」

 

だが何も学ばずに何度も同じ過ちを繰り返しているならまだしも、たかが一回の失敗程度で感情的に怒っていては自分の首を最終的に絞めるだけだ。

我々が本気であると理解した大衆が混乱し、恐怖し悲鳴を上げて我々から逃げるようにして離れていく中、俺は失敗を受け入れ、その上で次に活かすようにと訓示する。

 

「では、いざゼニールのもとへ!」

「「「オーッ!」」」

 

そして我々はいざ行かんと気合いを入れる、しかしそんな雰囲気に冷や水を刺すようにしてーー

 

「待て、悪党ども!」

「「「「!」」」」

 

ーーキィッ!

ーーガッタン!

ーーカチャカチャ。

 

「正義の自転車乗り、無免ライダー参上!」

 

無免ライダーと名乗るヒーローとやらが我々を阻むようにして現れる、だが勇ましい名乗りに反してそれ以外は貧相でかなり残念なものだった。

 

「キャーーーー!

無免ライダーが、来てくれたわ!」

「彼が来たならもう安心だ!」

 

しかしそれを見た大衆共は愚かにも歓声を奴に浴びせる、奴が我々を倒してくれると確信して期待しているのだろう。

歓声を浴びせられているのを見るに奴はそうされるだけの実力はあるのだろう。

だが、俺にはあらゆる喧嘩に負けないだけの腕っ節がある。ましてやこのバトルスーツを身につけている今、俺や同志達を阻む者はどこにも存在しない。

 

「ヒーローか、下らぬ。」

「行くぞ!」

 

例え、それがヒーローでもあってもだ。

 

ーーボグッ!

 

「キャァァァァァァ!」

「誰か、医者を呼べぇぇぇ!」

 

俺は、そいつをひと殴りで一蹴すると、同志達を連れて改めてゼニールの家へと突き進んでいくーー

 

 

ーーほぼ同時刻、F市I地区のとある喫茶店にて。

 

「“F市市役所から、緊急のお知らせを、致します。只今、当市のG地区でテロが、勃発しました。テログループは、現在も活動中です。テログループは、全員がスキンヘッドで統一され、黒いスーツを纏っています。危険な状況ですので、当市に在留されている方は、避難誘導に従い、速やかに避難をして下さい。”」

「彼ら、動き始めたわね。」

「ああ。いい頃合いになってきたし、そろそろ奴らの元に行くか。しかし有料とはいえ大型バス以外の大型車両でも停められる駐車場が存在するとは。事前調査済とはいえど、こんなものは何だか新鮮過ぎるな。」

「そうだな、何処かに落ち着いた雰囲気や歴史を感じさせているものが沢山立ち並んでるけど何かと他の世界とは異なる常識があったりするな。比較するのも面白いや。」

「街の人に話聞いてみたら、より観光客を取り込む為に数ヶ月前に隣の街で再開発の工事やってる人も軽く立ち寄れるようにって大型バス以外の大型車両も停められるような駐車場をF市行政が造ったんですって。」

「そうだな、今隣の街は復興も兼ねた再開発でカネという餌が盛大にばら撒かれてそれに我先にと食らいつくかのように各大手ゼネコンが軒を連ねて仕事をしている、そしてこの街と隣の街は距離的にもさほど遠くはない、しかもこの街は新しいモノが切磋琢磨と言わんばかりに出回りながらも、古い伝統的なモノが今も保存されて存在しているという大きなアドバンテージがある。おまけにこいつらは文化的に入り混じってさらに大きなアドバンテージをこの街に与えている。

そこにカネをばら撒いてくれる存在が近くに大量に現れた、こんな機会は滅多にない、だからこんな変わった取り組みをしたのだろうな。」

「ある意味、カネに感謝しなくてはいけないわね。」

そう会話しながら智史達は某パスタ屋風のアイスミルクティーを甘みの余韻をゆっくりと楽しむかのように飲み干していく。

外は桃源団が暴れているせいで緊迫した空気が走っていたが、この店の中は比較的客が少ない事や、植物やコケが複数植えられた和風庭園のような緑豊かな庭や外壁によって外と店本体の間に間が開けられていた為にそんな雰囲気など感じもする事はなかった。

 

「すみません、お勘定お願いします。」

「ありがとうございます、ところでお客様、先程市の方から避難指示が出ましたが、この後どうされるのですか?」

「大型車両用の有料駐車場に車停めているので、それに乗った上で例のテロ組織とやらに突っ込むつもりです。」

「お客様、もしかしてヒーロー協会に所属している『ヒーロー』なのですか?」

「いいえ、この街の外から来た『見た目』はごく普通の者です。」

「そうですか、既にラジオではヒーローが何人も殺られていると言ってますからね、行くなら命を粗末にしないように気をつけて下さいよ。」

「お気遣い、ありがとうございます。こちらこそ気をつけて。」

この店の店主は老紳士だった、彼はこれから桃源団の元へと行こうとする智史達を心配したものの引き止める気はなかった。

 

「ごちそうさまでした。」

「ありがとうございます、またお越し下さい。」

 

「ふう、じゃあ行きますか。」

「おい、君達、どこへ行くつもりだ…?」

「これからハンマーヘッド、否ハゲの集団が暴れている現場に行く。」

避難している中年の男がたまたま智史達に遭遇する、彼はどこへ行くと尋ねた、勿論智史は今自分が行きたい場所を正直に発言する。

しかしそれを聞いた周囲は動きをピタリと止めて皆彼の方をジロリと見つめる、所詮一般人ーーつまり我々と同じく非力な存在だというのに、これから死にに行くのではないかという雰囲気で。

 

「駄目だ若者、早まるなぁぁぁぁ!」

「みんなこの男を取り押さえろ!恐怖で錯乱している!」

「誰かがやっつけてくれるのを待つんだ!」

 

そして彼らは死にに行こうとしている(彼らから見れば。そして自分達とは違う異質な存在ではないかという事を無意識に恐れ、一般人という集団に引き留めようとしているという部分もある。)智史を取り押さえようと群がってきた、瞬く間に智史の周りは人で埋め尽くされてしまう。

 

「何で、引き止めようとするんだろう。」

「恐らく智史くんはあの人達と同じく、非力な一般人としか受け取られていないんじゃないのかしら。智史くんはこの世界では大事を引き起こすのを避けて混じりこむ事を処世術として行ってしまった、結果として智史くんはこの世界の住人達に溶け込む事は出来たけど、代償として圧倒的な力を持っているという事を見せつける機会を自ら潰してしまった。」

「当然この世界の殆どの人間達は智史が圧倒的な力を持っている事を知らない。だから智史がハンマーヘッドの所に行くと聞いた際、『自殺はよろしくない事である』とあう一般常識が働いて、智史を引き止めようとしたんだろう。」

「なるほど。でもこれってなんか馬鹿馬鹿しくない?僕達や彼にしてみればひどい迷惑だよ。僕が彼と同じ状況だったらーー」

 

「退け」

 

ーードゴォン!

 

「うわぁぁっ⁉︎」

 

「ジャストタイミングだ。こんな感じに、吹き飛ばしたいよ。」

智史は自分に群がり、のし掛かって押さえ込もうとする周囲をクラインフィールドを全方位に叩きつけて吹っ飛ばした、殺さないようにエネルギーベクトル能力も行使して威力の加減はしたものの、群がって押さえ込んでくる市民達を吹き飛ばすには十分すぎる威力だった。

そして智史は右手にM134ガトリングガンを生成すると蒼空に銃身を向けて威嚇射撃を行う、一隙も間を持たない断続した雷轟の如き発射音とそれに伴って零れ落ちる無数の薬莢が地面に落ちて鳴り響く音が街中に木霊する、そしてそれらは強烈な本能的な恐怖を彼らに与える。そして銃声が止む、智史は今度は彼らにその銃身を向ける。

 

ーージャキン!

 

「通告だ、死にたくなければ20秒以内に失せろ。」

 

「う、うわぁあああああ!」

「逃げろ、逃げろぉおおお!」

 

「駆除とは、こうやるものだ。」

「怖気を引き起こすようなすげえ轟音と迫力だったな…。幾らどかしたかったとはいえ、そこまでしなくても…。まあ死人が出ないだけ大事にはならないからマシか。」

「そうね、でもこれで邪魔が無くなったのは大きいわ。行きましょう。」

そして人気のない街中を智史達は歩き、車を停めてある有料駐車場に入っていく、程なくして智史達を乗せたコンクリートミキサー車が出庫する、そして智史の意志に従ってハンマーヘッドの所へと向かっていったーー

 

 

 

ーー再び、ハンマーヘッドの独白ーー

 

 

ーーベゴォン!

 

「逃げろーーっ!」

「ハゲが押し寄せてくるぞぉぉおお!」

「こいつら、本気でぶっ飛んでやがる!」

「危険すぎるぅううう!」

 

ーードォォォン!

 

ーーザッ!

ーーザッ!

ーーザッ!

 

ヒーローと名乗る奴を一蹴したあの後、我々は着々とゼニールの家へと進撃を続けていた。

道中、ヒーローと名乗る他の奴等、勿論警察もその道に立ち塞がるようにして襲いかかってきたものの、我々は凄まじい破壊力を持つバトルスーツを着用しているーーつまりは圧倒的な力を持っているのだ。一般の奴なら鎮圧できる警察も所詮はボンクラに毛の生えた奴らの集まりだ。

大盾、装甲車?それがどうした?今圧倒的な力を有している我々の前には、何の役に立つのだ?

当然我々はこいつらを悉く一蹴してそのまま進撃を続けた。そして“我々を倒してくれる”存在であるこいつらが吹き飛ばされる光景を見た愚かな大衆共はその考えが受け入れられずに恐怖して逃げ惑う。

やがて我々を阻む者は姿を消し、人影も失せた。その中を我々はゼニールの家へと突き進んでいく。

 

「ボス、見えました。

この先に見えるのがゼニール邸、通称金のウンコビルですぜ。」

「よし、行くぞ!」

 

やがてゼニールの家ーー間違えて壊した超高層ビルと同じかそれ以上の大きさのビルーーが我々の視界に現れる。

そしてさあ突撃と気合を入れて号令をかけた、その直後であるーー

 

ーーゴォォォォォォォ

 

「!」

 

人影が無くなり閑静となった街中、いや閑静となっているからこそ余計によく聞こえるのか、何かがこちらに向かってきているという事がわかるような重いタイヤの走行音が俺の体に響いてきた、俺は素早く部下に歩みを止めるようにと手を出す。

やがてその音を奏でていた正体が現れる、どうやらコンクリートミキサー車のようだ。その車はこれまで散らしたボンクラ共と同じく我々の道を阻むようにして真正面に停車する。恐らく我々と相対する自信があるという事だろう。

そしてドアが開いて人が降りてきた、それは愚かな大衆と混じっても見分けがつかない程地味な姿をした若い男だった、しかし態度は先ほどの通り、愚かな大衆のものとは全く違い、自信に満ちていた。

 

「お前が桃源団の首領、ハンマーヘッドか。」

「そうだ、俺の名を知っていた上でここに自信満々と立ち塞がるとは、並のボンクラとは少し違うみたいだな、面白い。だが俺は喧嘩は強えんだ、阻むようなら潰してやる。」

「そう出来るなら是非ともそうしてもらいたいものだ。」

 

俺はそいつに軽く威嚇を掛ける、しかしそいつは自信に満ちた態度を崩さない。寧ろその発言からは余裕さえ感じる。

こいつはただの一般人ではない。そう確信した俺は少し興味を持った。

 

「やはり喧嘩には、自信があるみてえだな。」

「如何にも。」

「退けば病院送りにならなくて済むぞ?」

「お断りだ、この先は私が仕掛ける喧嘩に勝利してから行け。」

「ほう。どうやっても通す気はないのか。なら始めるか。始める前に名を聞いておこう。」

「海神智史。今日お前達と相対する存在だ。」

「いい名じゃねえか。んじゃあかかって来やがれ。」

「良いだろう。但し念のため警告しておくが喧嘩する相手は目の前に見えている『私』ではないぞ。尤も、それは私の一部分でもあるがな。」

「何?」

 

こいつ、何を言っている?

一瞬俺は奴の発言の意味が理解できず、ふざけているのかと思った、しかし新たな重い地響きと轟音が複数現れる、恐らく何かをする気であるという事は確かなようだ。

程なくしてそのミキサー車の後ろや横から巨大なパワーショベルやクローラークレーン、ホイールローダーに大型のブルドーザー、オフロードダンプ、ダンプトレーラーが信号機や歩道橋、車、果てには建物も邪魔になるなら薙ぎ飛ばし、踏み潰し、アスファルトを叩き割りながら豪快に現れた、それらは先程のミキサー車を中心として一斉に停車する。

 

「な、何のつもりだ?工事車両ばかり出して、これで崇高な目的に生きる我々を倒せると思っているのか⁉︎」

「これは準備だ、本番はここからだ。」

 

ーーパチン!

 

こいつらは恐ろしくでかい鋼鉄の塊だ、動いているだけで凄まじい威圧感がある。だが、これで我々に勝てるというのか?

俺は強がりながらも奴にそう聞いた、すると奴は嬉しそうに指を鳴らした、するとエンジン音、否甲高い重厚なモーターのような音がこいつらから発せられ、あたりに響き始める。

そしてそいつらは信じられない行動に出始めた、何とこいつらのボディーが規則的な形をして割れる、まるでパズルのピースを外していくかのように変形していくではないか。その割れ間からはこれまで見たことのない機械的、しかし有機的な形をしたパーツが見え隠れする。

後ろの変形しているパワーショベルからチェーンのようなものがコンクリートミキサー車に取り付き、そのまま強引にパワーショベルと合体させる、そしてコンクリートミキサー車のフロント部分がパキリと割れてそこから機械的な形をした獣の顔が覗き出る、悍ましい獣の声が僅かながらも響く。他の変形した車両も次々と変形したパワーショベルに合体していった。

やがてこいつらは一つの巨大なモノへと変貌を遂げる、それは機械で出来上がった巨大な鋼鉄の獣だった。そしてこいつはコンクリートミキサー車だった頭の部分を地に這いずらせ、複数の瞳を黄緑色に輝かせて一際と周囲の大気を揺るがす咆哮を奏でた。

それはこれまで見てきた常識やこれまでこいつに抱いていた印象が悉く崩れ去るような恐ろしい光景だった、何せ突如として我々を優に見下ろす大きさの巨大な鋼鉄の化物が目の前に現れたのだ、普通こんな事などあり得ない筈なのに、だ。

 

「“I am Devastator!(意訳:俺はデバステーターだ!)”」

 

そしてこいつはこの鋼鉄の化物の頭の上で大声で先程の言葉をハモって叫んでいた、相変わらず何の行為なのか分からなかったが、少なくともこちらを殺す気は満々のようだ。

そして鋼鉄の化物は重厚な機械音を奏でてゆっくりとこちらに向かって歩いてくる、歩く度に地面が激しく震え、砕け割れ、周りの建物も崩れ、部下達の一部もバランスを崩してしまう。

尋常ではない圧倒的な威圧感と恐怖がこいつから伝わってくる、先程まで俺を支配していた優越感は崩れ去り、本能的な恐怖が俺の中を駆け巡った。

だが、俺は喧嘩には負けない、そうだからこそ絶対に負けたくない。それに、ここで負けたら「働きたい奴だけ働いて他は養ってもらえる社会にする」という我々の崇高な志が砕けてしまうのではなのだろうか。そして散々に蹴散らしてきた愚かな大衆達にこちらが負けたーーつまり弱さを見せたら何をされるのか恐ろしくて仕方がなかった。

我々は引くにも、引けなかった。

 

「行けええええ!」

「「「うぉおおおおお!」」」

 

「やはり、来たか…。

「“Devastator Destroy‼︎ HAHAHA‼︎”」」

 

そして我々は突っ込んでいく、あの化物が歩く度に地面が、大気が激しく震える中、こんな大きな化物など、唯の見掛け倒しの化物だという希望的観測を中に秘め、バトルスーツの性能を全開にして。

しかしーー

 

ーーゴォオン!

ーーカァン!

 

「え?」

「う、うそだろ…?」

「ならばもう一回だぁぁぁ!」

 

ーーボコン!

ーーコォォオン!

 

「ぼ、ボス…、こいつは唯の見掛け倒しじゃありません…‼︎」

 

バトルスーツのフルパワーを叩きつけるこちらの攻撃は鋼鉄の化物にはカァンという音ぐらいで効かず、鋼鉄の化物はビクともしなかった。超高層ビルの根元を破壊したモノを遥かに上回るパワーを複数叩きつけているのに、だ。

 

ーーバガァン!

 

「ウピャッ!」

 

「た、助け…、」

 

ーーグシャッ!

 

ーーガシィンガシィンガシィン!

 

「ギャハッ!」

「うわぁあああああ!」

 

そして当然こいつからも攻撃が始まる、だがこちらは羽虫でも散らすかのように一振りや踏みつけだけでいとも簡単に吹っ飛ばされてしまう、バトルスーツのフルパワーで防ごうにも相手はそれを上回る圧倒的な力でバトルスーツ諸共一発で叩き潰してくるのだからまともにぶつかるのはあまりにも無謀すぎた。

俺や部下達は自分達に対して容赦なく振われるその圧倒的過ぎる力の前に先程の思い込みは幻影であったことを強制的に悟らされて本当に恐怖した、そして同時に後悔した、自分が最強であるという幻想に囚われ上には上があるという現実が見えていなかったことに。

 

「くっ、こんな化物に頼るとは卑怯な!地上に降りて堂々と戦え!」

「ふふふ、何を言っているのか分からんな。何を使おうが勝てばそれで良いのだから。それに則り私は自分のやりたいように戦っているだけだ。そして警告した筈だぞ、戦う相手は人の形をした『私』ではないと。それを覚えずにそう吠えるとは、なんと愚劣な。見てて呆れるわ。」

「“グゥォオオオ‼︎”」

「ぎゃぁあああああ‼︎」

 

ーードガァァァン!

ーーミチャッ!

 

まずい、このままではまずい!

俺はそう確信し一度引こうと指示を出す、どうしても命が惜しくなってしまったからだ。逃げ遅れた部下達がバトルスーツ諸共次々と踏み潰され、吹き飛ばされていくという絶望的な状況の中で。

既に部下達の大半がこの化物により葬られている、これ以上戦っても無意味過ぎた。我々はあの化物が地面を揺るがして迫ってくる地獄絵図から本能的に必死に逃げる、もはやそこには統率や理性も無く、ただ恐怖のみがあった。しかしその様を見たあいつは一際と不気味な笑みを浮かべる、するとそれに応えるようにして化物は一度動きを止め、態勢を整えると、唸りを上げて口をガバリと開けた。

 

「な、何のつもりだ…⁉︎」

 

ーーウォオオオオオオオ‼︎

 

「“デバス、ヴェェェェェ!”」

 

一瞬それは何なのか分からない、しかしこちらを殺す行動の一つであると俺は直感した、そしてそれは当たった、突如として強烈な猛風が吹き始める、そして周りのものが次々と化物の方へと吸い寄せられ始めた、しかも信じられない事にーー既に非常識の連続なのだがーー化け物が起こした先の振動で壊れかけていたとはいえ、コンクリートの建物も木々も、アスファルトの舗装も、土諸共根元からごっそりと吸い寄せられていくのだ、我々は吸い寄せられないように周りのものに掴まろうとはしたものの、こんな行為など無意味だ言わんばかりにこうも周りのものがいとも簡単に吸い寄せられてしまうのでは、悲鳴を上げることさえも許されずにただ一方的に蹂躙されるしか無かった。

我々は成す術もなく猛風に翻弄されただ舞うしかないだけの木の葉のように化物に吸い寄せられていく、そして悲鳴を上げる間もなく次々と化物の歯車やファンに挟まれ、叩きつけられ、一瞬でミンチにされて消えていく、こんな様では当然バトルスーツはゴミ同然の有様だった。

 

母ちゃん、誰か、助けてくれぇえ…‼︎

 

俺は誰にも聞こえない悲鳴を上げた、そしてそれを言い終えた瞬間、俺は化物の何かに叩きつけられた、強過ぎて感じられない激痛が身体中に走った、一瞬で肉体が砕けたのが分かった。そして次の瞬間には頭が砕けた、そこで俺の意識は途絶えたーー

 

 

 

ーーほぼ同時刻、F市J地区。

 

「はぁ、はぁ、やっと着いた…‼︎」

 

ーーゴォオン

 

「ん?まだあのハゲの軍団が暴れているのか?地面が大地震でも起きたようにひび割れて、街中滅茶苦茶だが。」

 

ーーズゴォン

 

「また揺れた、おまけに何だか強い風も吹いてるな。

こりゃ、只事じゃみてえだな。期待させてくれるじゃねえか、行ってみるか!」

避難指示が出て既に無人となったF市に汗だくとなって着いた男がいた、それはF市で起きた騒動を見て慌ててやってきたサイタマだった。

だが残念な事に騒動の元凶は既に智史によって始末されていた、その事実を知らないままサイタマは智史達の所に向かっていく。

 

「おお、やっぱりだ!随分と強そうじゃねえか、ってあれ?お前ら、何してんだ?」

「この化物を使ってのんびりと遊んでいた。」

「おいおい…、ところであのハゲの軍団は、どうなったんだ?」

「ああ、あの軍団か。この化物を使って一方的に踏み潰したよ。」

「やっぱり、先に片付けられたか…。しかしそれにしては街の一部が綺麗さっぱりと無くなったりしてる、これもお前の仕業か?」

「そうだ、あの軍団を始末する際に、人も特にいなかったことや守りたいと思うものも特に無かったから、特に周りを気にすることなく盛大に暴れた。強風か?ああ、あいつらを飲み込んで跡形も無く破砕する際に生じさせてしまったものだよ。」

サイタマは綺麗さっぱりと消し飛び、更地と化したF市の街並みであった場所を見ながらそう呟く。智史はそうだと答えるように『自身』でもある鋼鉄の化物ーーデバステーターの頭部及び口を大きく展開させ、先ほどハンマーヘッド達を周囲の建物諸共破砕した、大型吸引装置「ヴォルテックス・グラインダー」起動形態へと変化させた。「ヴォルテックス・グラインダー」は再び起動し、周りのものを易々と吸い込んでいく。

 

「すげえ風だ、あの強風と振動は、お前が生み出したこの化物が原因だったのか。なるほど、何もかも無くなってスッキリして広々な理由がわかったぜ。俺を追い出した大家もこいつの餌食になればいいのにな。」

「大家さんに、何か恨みでも?」

「ああ、家賃滞納で追い出されたよ。元を言えばヒーローになろうと決めて就職しようとせず、そのせいでお金もあまり貰えず、家賃を支払おうとしない俺が悪いんだけど。しかし、何でだろう。お前が多少絡んだにせよ、多くの怪人をぶっ倒したのに、何で周りは注目してくれないんだ?ここまで来る途中に、テロリストと誤解されちまった、そこまで俺は人々に知られてないのか?」

「それには訳がある。家で詳細を話そう、だから帰るとしようか。」

「あ、ああ…。しかし、この化物も連れて帰るのか?これだと目立って仕方がないんじゃ、って、こいつ、変形ロボットだったのかよ⁉︎」

「ああ。私が創ったものだがな。ついでに言うならこいつらを使う必要性は無くなったな、だから『消す』としよう。」

智史はそう言い終える、するとデバステーターを構成していた材質が無数の青白い光の粒となっていき、デバステーターの形が消えていく、そしてそれらは今度は消防車ーーRosenbauer Panther 6×6 化学消防車ーーの形を構成していく、その消防車は智史達の前に停車する、ドアが自動で開いた。

 

「す、すげえ…。色々と訳わからなくて混乱しちまうぜ…。ところでさ、何で、あんな非常識な事を簡単に思いつけるんだ?」

「簡単に言うならこの世界の外の情報を集めてそれを参考にして色々と練り、鍛えているからだ、何も見ないのではこんな非常識な事など思いつけん。」

「だったら、さっきのあの化物も様々な世界の情報を参考にしたのか?」

「ああ。あの化物は今の『身体』に転生する前に知っていた事もあり、情報探索で詳細なスペックを把握した上で形にした。」

「なるほど…。だっからこいつを作るためにわざわざごっついコンクリートミキサーを選んだのか…。でもあれ、滅茶苦茶な存在感があってよかった。」

「しかし、ここまで暴れたからには目立つんじゃない?この世界の人間達に僕達が存在している事、知られたんじゃ?」

「ああ、もうバレている。報道ヘリはこちらの姿を映す前に悉く潰したが、ハゲ軍団の騒動を聞きつけて駆けつけた一部の『勇敢』な人間がこちらの姿を捉えてしまった。バレたら不都合な事が何かあるのか?」

「い、いや…。ただバレたからには今後この世界では表立って平穏に歩けなくなるんじゃ?」

「そうだな、自分から目立ってしまったせいで周りから視線を浴びやすくなってしまったのは確かだ。今後私達に関連する大事が起きやすくなったが、これはこれで面白い。」

「おいおい、俺も変に巻き込むなよ…。しかしこれ、乗り心地いいな、あ、夕焼けだ。明日もいい事あるかな。」

 

 

ーーA市、ヒーロー協会総本部

 

「F市が半壊、そして桃源団は全メンバーが消息不明だと⁉︎一体何が起きたんだ⁉︎」

「詳細は不明ですが、巨大な化物がF市のH地区で目撃されました、それが移動する際に発生させた強烈な振動がF市に瞬間震度7の地震を連続で発生させたとの報告が入っています。」

「そして強烈な烈風も発生させたそうです、それによって桃源団は壊滅したと思われます。」

「災害レベルは少なく見積もっても鬼、竜の可能性も否定出来ません。」

 

ここはヒーロー協会総本部の一室であった、部屋の中は薄暗く、テーブルの透明な天板を下から照らす明かりが部屋の照明だった。

その部屋の中で大勢の人間ーー何もヒーロー協会の関係者ーーが何やら話し合いをしている、どうやら桃源団とF市半壊の件で彼らは集まったようだ。

 

「成る程…。それで、画像データらしきものは採取出来たのか?」

「はい、たった今、入手しました!こちらが、そのデータです。」

「出せ!」

 

ーーブゥンッ

 

「大きい…、ボフォイ博士が作った新兵器か?」

「いえ、ボフォイ博士から提供されたデータによるとどのものにも当てはまらないようです。」

「これまでの災害データとの関連性も確認できません。」

「そうか…、まて、頭部に何か映っているぞ。頭部の部分を拡大しろ。」

「は、はい!」

 

「これは…、怪人ではなく、人間か?」

「形状からするにそうとしか思えません。」

「複数人いるな、身元のデータは?」

「不明です、現時点では割り出し出来ません。」

 

彼らは困惑する、自分達にしてみれば見知らぬものである故にどう捉え、判断すればいいのか分からなかったからだ。しかしそんな状況を吹っ飛ばすようにして電報が新たに入る。

 

「“大変です、たった今、化物が消えました…‼︎”」

「何だと⁉︎何が起きた⁉︎」

「“は、はい、人が降りた後、変形し、そして光の粒となって消失した模様です…。”」

「消失だと⁉︎一体何が起きているのだ…⁉︎」

「分からんが、どうやらあの人間達が何らかの鍵を握っている事は確かなようだ。彼らは恐らく我々にしてみれば未知の存在だ、だから彼らに関する情報を如何なる手段も使ってでも、収集すべきだろう。」

1人がそう告げる、それに同意するようにして他の人間達も慌ただしく動き始める。

それは智史達に注意が注がれた瞬間だった、彼らはあの後あの手この手を使って智史達の事を知ろうと奔走し始めるーー

 

 

「え⁉︎俺がどうなるのかをある程度知っていた上で今までの行動をしていたと⁉︎」

「ああ。もろそろそろバラしてもいい時期だと判断したからバラしたまでだ。」

「それって、どうやって知ったんだよ⁉︎」

「入ってくる前に世界系の外からの情報把握で転生前に入手したお前の情報を参照した上で修正を足しつつ今後の予想を立てていたからだ、さて、ヒーローを趣味で頑張っていた、だが注目されないと愚痴をボヤいてたな、そろそろ何でお前がヒーロー活動を頑張っても注目されない理由を教えようか。」

「ああ、(先生がなぜ注目されない理由か…。そういえばさっき、桃源団を殲滅したのは智史達ではなく、勿論先生でもなく、『無免ライダー』というヒーローのお陰であると報道していたな…。)まさか、趣味でヒーローとは…。」

「⁉︎」

「先生、もしかしてヒーロー名簿に登録してないんですか?」

「正解、それがこの後言いたかった理由だ。その『ヒーロー名簿』に関しての事だが、全国にあるヒーロー協会の施設で体力テストや正義感テストを受け、一定の基準を超えれば正式にヒーローと名乗る事を許され、晴れて『ヒーロー名簿』に登録される。

そうして協会に認められた者は職業ヒーローとして協会の募金に寄付された金額が働きに応じて支払われる。

そこに登録する際には実力ランキングや人気ランキング等にも同時登録され、世間は常にそれらのヒーロー達の話題で盛り上がっている。

中にはファンクラブを持つヒーローも少なくはない。

そして、何で『ヒーロー名簿』とやらに登録しないと注目されないかについてだが、世間一般でいうヒーローとは協会の名簿に登録された職業ヒーローの事を指しており、それ以外のヒーローはヒーローとは見做されず、いくら個人で活動していても自称ヒーローでは、妄言を吐く変態としか認識されず、白い目で見られてしまう。だからだ。」

「………知らなかった。」

智史からなんで自分がいくら頑張っても注目されないかについての理由を半強制的に知らされたサイタマは少し落ち込んでしまった、自分が趣味としてやってきたヒーローとしての活動は周りからはヒーローとして見做されていなかった、つまり今までの努力は徒労だったという現実に。

 

「プロのヒーローが出てきたのは丁度3年程前からです。大富豪アゴーニの孫が怪人に襲われたとき通りすがりの男性に助けられたらしく、その話を孫から聞いた時にこの制度を思いつき、私財を投じてヒーロー協会を設立したんだとか。」

「ジェノスは登録してんのか?」

「いえ、俺はいいです。」

サイタマはジェノスにヒーロー協会に登録しているのかを尋ねた、するとジェノスは登録は結構だという態度を表した。

 

「登録しようぜ!一緒に登録してくれたら弟子にしてやるから‼︎」

「はい、行きましょう!」

「ヒーロー協会の試験はネットでも申し込みが可能だ、申し込みの締め切りは前日の18:00まで。今日が試験日の二日前だ、だからまだ間に合うぞ。インターネットでヒーロー協会のサイトにアクセスして募集用のフォームに記入事項を入れて出せば、後はOKだ。」

「いつの間にこんな事を…。しかしジェノス、サイタマが弟子とか言ってたが、何かあったのか?」

「俺は、お前達が来る少し前に進化の家の尖兵の1人との戦いで負けそうになり、ここまでと思って自爆しようとした。しかしその時先生が表れ、一撃であいつを木っ端微塵にし、俺を助けてくれたんだ。

俺は、先生のその圧倒的な強さに憧れ弟子入りを懇願した、今先生が登録してくれたら弟子にしてくれると言ってくれた、だから気分が高揚しているんだ。」

「なるほどな…。だから弟子にするとかで気分が高揚してるのか。」

弟子という言葉に興味を持ったズイカクはジェノスとその言葉の件について話をする、内容は少しシリアスだったが、ズイカクはなぜジェノスがサイタマの元にいるのかという理由を理解できたようだ。

 

「あ、スイカのCMだ、スイカ食べたくなってきちゃった。」

「そうか、なら一旦リヴァイアサンに戻ってスイカ持ってくるか。」

「な、何を突然、って、ええ〜⁉︎」

「ちょっと待ってて、スイカ持ってくる。サイタマ君やジェノス君も食べる?」

「あ、ああ…。」

そして智史と琴乃はゲートを通じて一度リヴァイアサンの艦内に戻る、2人はそこから少し歩いてある一室に入る、そこは野菜や果物が、人工栽培されている部屋だった、その中にスイカ畑があった、大きなスイカが複数、そこに実っていた。

 

「大きくなったな、元の世界を旅立つ時はまだ芽すら生えてなかったのに、気がつけばもうこんなになるのか。」

「そうね、智史くんが多少たりとも育ちを速くしているとはいえ、時の流れを何となく感じるわ。さ、持って行きましょう。」

 

2人はその中で最も大きなスイカを予め部屋の中に常備されていたハサミで切り、籠にスイカを入れて再びゲートを通ってサイタマの家に帰ってきた。

 

「はい、どうぞ。」

「美味しそう…。いくらお邪魔してるとはいっても、こちらが何だか申し訳ない気がしてきた…。」

そして切られたスイカがサイタマの家のテーブルに並んだ、皆は仲良く揃ってスイカを美味しく貪った。

こうして、色々と吹っ飛んだ1日は終わりを迎えた、だが時の流れは止まらない。この1日で起きた出来事の影響は智史達と彼らに関わるもの全てを引っくるめてこの後に形となって現れてくるのだったーー




後書き

デバステーターについて。

デバステーターの大きさは原作実写版のものよりもやや大きくしている、勿論姿と各パーツのサイズ比は瓜二つのにしたのでそのせいで各パーツのビーグルモードの大きさがそれに比例して大きくなった。
また原作でのデバステーターは歩く際に地面を割りはしなかったものの、今作ではより巨体の存在感を際立たせるために地面をエネルギー衝撃波で揺らして割るという描写を追加した。
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