十一月中旬。陽の光は陰りはじめ、空模様は段々とオレンジ色へ変わりだす。ノスタルジックな雰囲気を醸し出すこの時間帯は、倉野川のひなびた街がよく映えた。
「倉野川───倉野川───」
電車の扉が開くと、一人の大学生が勢いよく飛び出し、大股で改札へと向かう。
「切符を「どうもっ!」
駅員が差し出した手に、彼女は乗車券を叩きつける。その横顔からは、かなり不機嫌であることを容易に察することができた。
彼女は改札を抜けてもなお、大股で歩き続ける。カッカッカッというヒールの音を響かせ、頭のポニーテールを激しく上下に揺らし、右手にはそれまで肩に掛けてたであろうポシェット、左手には頭頂部を彩っていたであろうカチューシャをそれぞれ握りしめ、ぐんぐんと駅から遠ざかって行った。
「ちくわパフェひとーーーつ!!!」バスコム!!
駅から一直線南に下り、日向美商店街入口角のシャノワールの扉を思いっきり引く。店の中からは少しレトロな匂いが香り、レコードちっくないつもの音楽が流れていた。
・・・ああやっぱりいるし。目の前の机にちくパをスタンバイしたまり花とめう、その二つ奥の席には本に視線を送る凛、そしてメイド姿の咲子。どうやらイブの土産話を期待してるようだけど、あんたたちお生憎様だし。
「ちくパ・・・ですか?」
「むっきゅん!ついにいぶぶもちくパガチ勢の仲間入りめう!」
「ふおおおお!今日は天変地異さんだよ!青天の霹靂、プルータスお前もかだよ!」
「後半意味全然違うし・・・。」
「どうやらその様子だと、かなり凄惨な結果のようね。」
流石凛、よく分かってる。
いや、分かってないっぽい3人がトンチンカンなだけかも。
「さささ、今日のほっとパーソン、席につくめう!」
めうに促され、まり花とめうの正面に座る。二人・・・いや咲子含む3人は目を爛々と輝かせているが、正直私は警察の尋問を受けている気分だった。なんか凛もチラチラこっち見てるし。
「ふっふっふ〜それでは初デートの感想をお願いしますだよ!」
そう。今日はついにできた初めての彼氏との初デート。ショッピングセンター行ったり、ご飯食べたり、その他色んなお店回ったり───内容はデートそのものだった。でも……
なんかムカつく!!!
私は得体の知れないその感情の高ぶりをまり花達に吐き出した。
「もう最低!これがイブの初デートとかマジありえないし!あいつイブに会って開口一番何言ったと思う!?『FABのセッティング何で出だしてる?』って言ったのよ!?そっからほしゆめ行くまでずっと戦場の絆の話してたし!」
「しかもセンス無いなりに服のコーデ頑張ってくるとおもってたんだけどさぁ!パーカー以外どー見ても部屋着だし!どうやって選んだの?って聞いたら『タンスの中の一番上のやつ引っこ抜いてきた(笑)』とか言ってるし!『(笑)』ってなんじゃぁぁぁ!」ゴォォォォォ
「そういえばいぶぶのかれしし、リクルートスーツ着て来たこともあるとかぜのうわさで聞いためう……」
「流石にそれはないよ……」
「そんで見るに見かねてこのイブ様がコーデしてあげたってのに!あいつ『コーディネートはこーでねーと』とかいうドライアイス級のオヤジギャグかましたわけ!もうキレたわ!全くイブのことをなんだと思ってんのよ!!!」シャアァァァァァ
「よほど内容に不満だったようね・・・」
「当たり前だし!まり花水!」ゼーハーゼーハー
「はい、お疲れ様だよ〜」
あーヤバイ。どんどんイライラしてくるわー。私はまり花に差し出された水をあおり、机にガンッと打ち付ける。いっそ氷をボリボリやってやろうかと思ったけど、流石にやめた。
「お待たせしました、ちくわパフェです!」
「ありがと咲子。」
うおおやっぱり禍々しい見た目。こいつが目の前に召喚されるのは何回目だろうか……。まり花とめうは既にその柔らかそうなほっぺたいっぱいに頬張っている。高校生のめうはまだしもまり花。あんたもう大学生でしょ?と言いたくなる。ちなみにイブの過去完食記録は無し。でも、今日はなんとなくいける気がした。
「いただきます!はむはむはむ!」ガガガガガッ!!!
「おお!イブすごいよ!」
「こりは…我らちくパガチ勢に匹敵するたべっぷりめう!」
おっこれは案外楽勝かも。絶妙なとろけ具合のバニラアイスに、そこまでしつこくない生クリーム。甘くほんのり酸っぱいイチゴに、引き立て役のチョコシロップ。そしてメインはなんといってもちく──
「ゲホッゲホゲホ!」
うんやっぱダメ!ちくわとパフェなんて合うわけないし!
「あり?リタイアなりか?がっかりめう…」
「イブちゃん、無理しないでくださいね。」
「うん…咲子ごめん。まり花、これお願いしていい?」
そういって此度も完食を断念したちくパを、例の如くスイーツブラックホールまり花へ差し出す。
「うぇぷ・・・」
うう…いきなりかっ込んだせいかちくパそのもののせいか…お腹の中でちくわとその他諸々が化学反応おこしてる。ヤバイちょっと気持ち悪くなってきた。
「イブぅ…大丈夫?」
「うん…ちょっと気持ち悪いだけ。むしろ落ち着いて良かったかもだし。」
まり花が優しく私の背中をさする。やっぱまり花いいわぁ癒される。
「何よりだわ。それで、洋服屋は自分の怒気の理由、自覚できたかしら。」
「…ふぇ?」
急に凛が突飛こと聞くから変な声出た。恥ずかしいし。
そうだ、なんであたしこんなにイライラしてるんだろ……
正直、2人の時間は楽しかった。戦場の絆の話だってイブも好きだし、後半はカリカリしてたけど、前半はずっとはしゃいでた気がする。それにあいつの服のセンスが終わってるのは今に始まったことじゃない。寒いギャグだってそう。
じゃあ、なんで・・・
「自覚無し・・・ですか。イブちゃん人の気持ちは分かってくれるのに・・・とってもとっても不思議さんです。」
「まあ、イブって以外と鈍感さんだからね〜。当然と言えば当然だよ。」
「えっ?・・・えっ?」
「こんなのこーこーせーのめうでもわかるめう。」
いつの間にか四面楚歌。てか分かってんならもったいぶらずに教えるし!
「洋服屋、今日はもう帰りなさい。それで一晩ゆっくり考えること。時として自分を客観視することは、あなた自身にとって肝要なことになるの。」
「凛ちゃんのいう通りです。」
「うん、そういうわけだからイブ、」
「お家に帰るめう」
あぁ・・・みんな揃って酷くない?これってあれでしょ?独りで反省してろ的な。孤独に打ちひしがれて自らの罪を悔いよ的な。もしかしてあたしが悪いのかそうなのか。
「・・・へーいす。」
結局私は、重い足取りでシャノワールをあとにした。
「ふぅ……しかし洋服屋も、少し可哀想ね。」
「イブもイブの彼氏さんも奥手だからねぇ……お互い様なんじゃないかな?」
「まりりのいうとーりめう。これはめう達が後方より支援する必要があるめう。……ってさきき、何してるめう?」
「イブちゃんの彼氏さんにメールです。こんな文面にしようと思うのですが……どうでしょう?」
「……むひゅひゅん♪」
「少々出過ぎた干渉……いや、このくらい言わないと行動しないわね。」
「これからの展開が楽しみだよぉ…」
「ふふふっ、送信っ♪」ピロリン
「さて、どうでるか……」
「そりでわ、まりりの部屋からいふぶの様子をてーさつするめう!」
「とってもとっても楽しみです!」
「……ただいま〜。」
「お帰り。あら、元気ないわねぇ、どうしたの?」
…そりゃ萎えるわよ。自分がムカついてる理由がわかんないし、そんなことでせっかくの初デート終わらせちゃったんだから。
いっそのことママに相談しようかな…いや、そういや凛が自分で考えろって言ってたっけ。
「大丈夫だし…。」
ママに背を向け、私は階段を一段ずつゆっくり踏みしめ、一途自分の部屋へと向かう。
自室につくと、パタン、と力なくドアをしめ、ベットに身を投げる。
「今頃あいつ…どうしてんだろな……。もしかして、嫌われちゃったかな……。」
……久し振りのナイーブモード突入かぁ……。最後いつだったっけ、こんな気持ちになるの。
私は、耐えきれなくて、近くの枕に顔をうずめようとした。
ぴロリロリん♪ ピロリロリん♪
「ん…電話?……あいつから?」
電話の相手に少し躊躇いつつ、[応答]のマークをタッチする。
「もしもし?…え、なに?」
「……そう。いや、こうやって伝えてくれただけでも嬉しいし。」
「…うん。あたしもごめんね。最後の方怒っちゃて。」
「……なっ!は、はっきり言い過ぎだし!そりゃあイブは世界一の美貌だけど……」
「え、アドバイス?…ああなるほどねぇ……。いや何でもない。」
「とにかく今日はありがと。次は思わず口に出しちゃうくらい、チョー可愛いカッコしてくから、期待しとくんだし!」
「……うん、じゃあね。」ポチッ
「……」
「…………」
「………………」
「キャーーーーーーー!!」
数寸の沈黙の後、思わず奇声をあげ、両手と顔で枕を抱え込み、両足をばたつかせる。
褒めてくれた!可愛いって!素敵だって!今日気合い入れておめかしして良かったぁ!
自分でも分かるくらい顔あっつい!ヤバイ嬉しい嬉しい!顔にやけ過ぎて元に戻んないし!
「イ、イブ〜〜・・・」
バンドのみんなに言われた時とはまた違う、思わず飛び上がっちゃうような嬉しさ……。やっぱ彼氏っていいな(๑´ω`๑)
「いーぶぶ〜・・・」
ていうかアドバイスって咲子達だよね?もうみんなツンデレなんだから……でも今回は素直に感謝してやるし(*´ω`*)
「洋服屋・・・」
あれ、おかしいな、みんなの声が……
「イブちゃん……」
「ええ!うち上がって来ちゃったの?もうしょうがないな〜今ドアを……」
「あの、そっちじゃないです……」
「え?」
「大変申し上げにくいのですが……」
「ん?」
「こっち側の窓空いてます…………」
……え?
声の方向を見ると、そこで四人は隣の家のまり花の部屋から、ゆでゆでだこな顔を覗かせていた……。
「……そっか〜窓空いてたんだ〜…」
「ええ……」
「じゃあれか。あんたたち一部始終聞いてたわけだ。」
「うん……」
「そんであれだ。最後のイブの大声は……」
「商店街全域に響き渡っためう……」
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
こうして、羞恥と居心地の悪さを全身で感じ取ったイブは再び絶叫。そして思いっきり布団を被った。
ちなみに、窓は空いたままだったので、本日二回目の悲鳴とも取れる叫び声は、すっかり空をオレンジ色に染めた、夕暮れの日向美商店街にこだました。
おしまい
つぎの日、イブは大学を自主休講しました。(サボった)