この世界には、善と悪の二つの種族が存在する・・・。
善とは、誰かのために命がけで守り、優しさを見せること・・・。
悪とは、自分の力を欲望のために振るい、支配をしようとすること・・・。
しかし、中には善でありながら悪、悪でありながら善になろうとするものがいる。
その行方は、最後まで見届けなければ分からない・・・。
◆◆◆
満月の輝く、美しい夜。星でも見えるのではないかというくらいの雲一つ無い夜。
そんな中で一つの場違いな声が聞こえてきた。
「うわあぁぁぁぁぁぁ!! 誰か助けてくれぇ!!」
男の叫ぶ声。逃げる男の背後から三つの巨大な影が迫ってくる。その顔は鼠のような外見をしつつも、口が縦に裂けていて体表が茶色く染まっていた。
男は必死に逃げるも、怪物から巻いて逃げられる気配がない。
「ハァ、ハァ、うわぁっ!」
逃げているうちに男は足がもつれてしまい、地面へと転んでしまった。
そこに妖魔がゆっくりと男のほうへと近づく。
「ああ・・・ああ・・・や、やめろ・・・来るなぁ!」
男は恐怖の表情をしながら体を引きずって逃げるも、妖魔から逃げられる訳もない。
妖魔はジャンプをして男を地面へと突き倒す。もう背後へと逃げられないようにするためだ。
妖魔は組み敷かれた男の姿を前足で捉えると前歯を突き立てようと顔を近付ける。
「あぁ・・・ああぁ・・・や、やめ、ギャアァ!!!」
一体の怪物が前歯を体に突き立てると、他の怪物も一緒になって男を齧りはじめる。
男は三体の怪物の手によって、哀れな肉塊と成り果てたのだ。もう騒ぎ立てることも無い。
それは決して上品ではなく、まるで獣のように貪る三体の怪物。肉を千切る度に血しぶきが飛び、腹からは内臓が飛び出る。
そんな彼らの食事は1人の人物が来たことにより、終わりを迎える。
「随分と美味そうに食べてるな。オレも混ぜてくれよ」
1人の声に怪物が一斉に振り向く。そこには着物姿で男にも女にも似つかない顔立ちの人物が不敵な笑みを浮かべていた。
「まさか、こんなところで妖魔が呑気にお食事タイムをしているとはな。犬ならまだしも、鼠ならもう少し場所を選んで喰うところを、穴に隠れもしない今の有様を見れば知能の低さが伺えるな」
右手を天にかざすとどこからともなく剣が飛んできて、右手の中に止まる。その剣を掴むとそれを三体の妖魔に向ける。
「さあ、往生してもらおうか?」
その言葉と剣を殺意と受け取った妖魔は奇声を上げながら一斉に襲い掛かった。
前歯を突き立てられる直前で瞬間移動をして消えると、一体の妖魔の背後へと回る。
「やっぱ知能は低いな。行動が単純すぎるからか?」
左手に炎を灯すと妖魔に向かって拳を打ち据える。重い音がしたかと思うと妖魔は吹き飛ばされて木に叩きつけられた。
それを見た他の妖魔が走って襲い掛かってくる。臆することなく赤い魔力を剣に灯すと振り下ろすと、赤いオーラの波が発生し一体の妖魔を打ち上げる。
飛び上がるとその妖魔にどこからともなく出現させた銃をぶっ放す。妖魔は血飛沫を上げながら奇声を上げ、そのまま地面へと落下。頭を打ち抜かれたせいか、ピクリとも動かなくなった。
そこへもう一体の妖魔が驚異的なジャンプ力を見せてこっちへ来るも、突き立ててくる前歯を剣で受け止め、空中で一回転すると妖魔の脳天に踵を打ち据える。
地面へと吹き飛ばされ叩きつけられた妖魔。そこへ剣が振り下ろされ、突き刺さる。
ピギャアァァァァァァァァァ!!!
目に突き刺された妖魔は痛みで奇声を上げ暴れるも、勢いは止まらない。剣を目から抜いた後、剣を左手に持ち替え、右手の人差し指を敵に向ける。
人差し指に赤いオーラが集まり、ピンポン玉ぐらいの大きさになっていく。
「『
ズバアァァァァァァァァァァァン!!!
その技の名前が紡がれたとき、人差し指から赤い光線が放射された。
赤い光線に包まれた妖魔は断末魔の奇声を上げながら、跡形も姿を消した。
妖魔を倒して息を突くと剣をクルクルと回し、自分の背中に収める。妖魔の死体に一瞬だけ目を向けると、その場から立ち去って行こうとする。
しかし、先程木に叩きつけられた妖魔がゆっくりと起き上がるとキョロキョロと見渡し、去っていく人物の姿を見る。
背後へとゆっくりと近づいていく。気付いていないのか、振り向きもしない人。気付いていないのなら好機だと近づく妖魔。
ゆっくりと距離を縮めていき、前歯を突き立てようとする。
しかしその直後、人物は足を止めると剣を握り・・・。
ビュンッ! ビュンッ!
振り向き様に背後の妖魔に向かって、左へ右へと剣を振った。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・しばらくの間、静寂が包み込んだ。その直後・・・。
ブシャアァァァァァァァァァァ!!!
胴体から十字に切断された妖魔は血飛沫を上げながら、ゆっくりと地面へと崩れ去った。
「・・・今度、生まれ変わるときは尾行する訓練でもしておきな」
そう一言残すと剣の血を振り払って、再び背中に収めると今度こそその場を立ち去って行ったのであった。
◆◆◆
妖魔を全て片付けた人物は帰るために歩く途中、満月が照らす空を見上げた。月明かりは顔を照らし、容姿が美しいせいなのか顔がより綺麗に見える。
口元に笑みを浮かべると無言のまま、その場を立ち去った。
人物の名前は