ソファの上。それはゆったりとした空間。昼寝にはもってこいの場所でもある。
しかし私は隣で気になる、というよりも気に障るものがいるのを感じている。
それは腕を組みながら頬を膨らませており、黒いオーラを出しているようにも見える。
金髪の私の幼馴染はどうやら不機嫌なようだ。おそらく昨日のことが原因だが、いくら日付が変わったとはいえ、夜になってまでむくれるものなのだろうか。
それを大きなデスクに座って何らかの書類に目を通している紅の髪の先輩が、オーラを感じているのか気になって私に訪ねてくる。
「ねえ、サクラ」
「・・・何?」
「リリーったら、どうしたの? 何だかさっきから機嫌が悪そうなのだけど・・・」
「・・・知るか」
・・・そんなのこっちが聞きたい。
確かに喧嘩を目撃はしているけど、その後私は呆れながら勝手に帰る。大抵は何事もなかったように普通にしているのが普通だ。
昨日はアーシアのことで揉めていたし、おそらくアーシアと一緒にいれなかったことが大いに不満なのだろう。不貞腐れる人間ってのは面倒臭い。
「・・・サクラ」
ふとリリーが私に不機嫌オーラを垂れ流しながら、私に話しかけてくる。
「・・・今日、アーシアとデートしたんでしょ?」
「・・・は?」
・・・毎回思うが、どいつもこいつもどこからそんな情報を手に入れているのだろうか? 盗聴器でも仕掛けてあるのか?
「アーシアと楽しくキャッキャッ、ウフフしてたんでしょ?」
「・・・何を言っているんだ?」
本当に何を言っているんだ、この金髪は。訳の分からない言葉まで覚えて・・・。
「・・・何で私も呼んでくれないの?」
「・・・何で呼ぶ必要がある?」
大勢で来たって厄介事が増えるだけだ。特にこの金髪を連れて行ったら、もっとややこしいことになる。
「あぁぁぁん、私も行きたかったぁぁ・・・サクラと手を繋いだり、アーシアと食べさせ合いっこしたり、サクラと遊園地にいったり、アーシアと一緒に観光巡りをたくさん、たぁぁぁくさん、したかったのにぃぃぃぃぃ!!」
「・・・・・・・・」
・・・おい、今までアーシアの話だったのに、何で私の名前が出てくるんだ?
っていうか、二股だろ完全に。コイツの頭には、百合はカウントされていないとでも言うのか?
まあそれはそれとして・・・・・・。
「・・・お前が来ると面倒だからだ」
「面倒って何よ!? そんな憐れむような目で言わないで! 深く傷ついた!」
「・・・ん? オレはお前がそうやって狼狽えているのを見て、非常に愉快なんだけどな」
「酷いッ。人の心を弄ぶなんて! 友人に対する尊敬の念が足りないわ!」
「・・・お前のことは尊敬しているさ。甘い物と同じくらい」
「私の尊敬価値はお菓子と同等!? 人間以下なの!? 今まで以上にないくらいの屈辱だわ! 酷いッ。酷ぉぉぉぉぉい!!」
五月蠅いけど・・・ハハハハハ・・・コイツ、弄るの楽しいな。
私の前だと結構なくらい悶えてくれるもんな。目の保養になるな。
「あの2人って仲がいいんだね」
「・・・喧嘩するほど仲がいい」
何やら木場や小猫が言っているみたいだが、気にしないことにした。
リアスはそんな私たちを苦々しい笑みで見ている。意外と悪くないな・・・あの笑み。
「ねえ、2人とも」
「・・・ん?」
「何ですか?」
リアスは紅茶を啜った後に口を開いた。
「そろそろ部活に入ってくれる気になった?」
それは私たちを誘っているということになるのだろうか?
今考えてみると仮入部となり、この部室に入り浸ってから1週間は経っている訳なのだが。
「・・・」
「私はサクラが入れば入るんで」
「どうして? 私はこの前のサクラの戦いを見て確信したの。あなたは結構な実力な持ち主だと。私の眷属になって悪魔になれば、爵位を取れるかもしれないわよ?」
「・・・興味無い。私は妖魔とさえ戦えればそれでいい」
「アタシは家庭が家庭なだけにあまり位とか、そういうのは好きじゃないんです」
どっちの言葉にかは知らないが、リアスが複雑そうな顔をした。
「・・・サクラ。あなた、昨日の神父みたいなことを言うのね」
「・・・あんな奴と一緒にするな。悪魔を狩る趣味は無い。私は私の邪魔をするヤツを狩るだけだ。それはお前でも変わりは無い」
むしろ悪魔を崇拝していると言った方が正しいのかもな。そういう組織だから。
私が目を細めて言うとリアスは少々強張った顔をした。
「紅茶ですわ」
「・・・・・・」
「あ、いただきます」
少々気まずい状態になったとき、姫島が紅茶を私とリリーに差し出す。ちょうど喉が渇いていたので、啜ってやることにした。
ズズズズ・・・・・
私とリリーが同時に紅茶を啜る。そして同時に目を開いた。
「「・・・甘い」」
更に同時に言葉を発する。・・・この紅茶は好きだ。心が落ち着く。
私はティーカップをテーブルに置くとリアスのほうを向いて口を開く。
「・・・何故オレが居るかと言われれば、あの莫迦が心配なだけだ」
「私はあの莫迦は嫌いだけど、サクラがそういうなら・・・」
「・・・そう。分かったわ」
私とリリーがそれぞれ言うとリアスの顔に笑みが戻った。気まずい空気が元に戻った気がした。
ふとリリーが体をビクッとさせる。ドレスのポケットに手を突っ込んで、出したものはスマホだった。
リリーはスマホの画面を見るなり、不機嫌そうに顔を顰める。
・・・大方予想通りだとは思うが、多分アイツからの電話だろ。
そして画面をスライドさせ、耳に当てる。
「・・・何か用?」
電話に出たときの第一声は顔と同じ、随分と不機嫌そうな声であった。
「・・・はあ?・・・そんなのウィルに行かせればいいじゃない。アタシは今、サクラと・・・えっ?・・・・・・分かったわよ」
リリーはスマホの電話を切るとソファから立ち上がって、黒いゲートを出現させる。
「リリー、どこに行くの?」
リアスがこの場から立ち去ろうとするリリーに疑問を投げかける。
「ちょっと、あのメガネに呼ばれちゃって・・・」
「メガネ? ああ、エレンのこと?」
「そうです。じゃあ、また後で・・・」
「ええ、また後でね」
リリーはゲートへと入っていった。私は腕を組んで、そのまま目を瞑って昼寝に入ろうとする。
すると部室のドアが突如開く。私は目を開いて、何事かと言わんばかりに扉の方に見遣ると兵藤がいた。
息を切らせていていつもと様子が違う。一体何が・・・。
「どうしたの、イッセー。今日は休むようにと・・・」
「部長」
兵藤がリアスの言葉を遮る。というよりもアーシアがいないぞ・・・?
「お願いです、アーシアを助けに行かせてください!」
・・・何だと・・・!? コイツ、もしや・・・!!
その言葉を聞いたリアスたちは言葉を失った。私も目を見開いた。
そして私はコイツを心の底から殺したいと思った。
ドンッ!
「ぐわぁっ!」
「サクラ!?」
部室内に鈍い音が木霊する。発生源は俺が叩きつけられた後ろの壁だ。
そう俺は自分の友人に頬を殴られて、壁に突き飛ばされたのだ。その友人の顔は酷く怒りを露わにしていた。
アーシアを堕天使に攫われた俺は学校に赴き部長に詳細を話した。その上で教会に乗り込むことを提案したんだ。アーシアを助けるために。
でも部長はこの件に関して、一切関わらないと言い出した。納得のできない俺は部長に詰め寄ろうとしたところにサクラが割り込んで、俺を殴り飛ばしたのだ。
いつもとは違うサクラの様子に部長も目を見開いていた。俺も初めてだ。サクラがここまで怒っているだなんて。
「・・・何でアーシアと最後まで一緒にいなかった?」
「・・・・・・」
「・・・都合が悪くなるとすぐにだんまりするんだな、お前は」
そう言ってサクラは俺の胸倉を掴んで、更に言葉を続ける。
「じゃあ質問を変えるぞ。オレとの約束を破ったことに関して弁解はあるのか?」
「・・・・・・・ない」
それしか言えなかった。攫われたとはいえ、俺がサクラとの約束を破ったことに変わりは無かった。
掴んでいた腕を離すとしゃがみ込んだ俺を見下ろしながら言う。
「お前って本当に無能なヤツだよな。はぐれ悪魔の討伐の際にも無能だと思ってたけど、お前がここまで無能なヤツだとは思わなかったよ。お前はそうやって大切なものを何でも失くしてきたんじゃないのか?」
「・・・・・・サクラ」
「主人の言うことを聞けない莫迦で無能な犬と一緒だな。アーシアを助けたいだと? そういう台詞は妖魔の一体でも倒せるようになるか、ご主人様の役に立ってからから吐け」
サクラは俺に対して毒を吐きまくる。心が痛かった。だって彼女の言っていることはほとんどが事実だから。
俺は神器もうまく使えないし、サクラのように強くなんかない。部長にも迷惑をかけてる。でも・・・!
「俺はそれでもアーシアを助けたいんだ!! ここで諦めたら絶対に後悔する。万一の可能性があるんだとしたら、俺はアーシアを助けたい!!」
「無理だ。悪魔になったからって何でも出来ると思っているのか? お前の場合は利点で言えば体が丈夫になった、欠点で言えば弱点が増えた。欠点なら叩けばいくらでも出てくると思うが、ただそれだけだ。そんなお前が堕天使に勝てるものか」
「俺は確かにお前のように強くないし、一番弱いよ。でも、俺はアーシアを助けたい!!」
「あなたはバカなの? 行けば確実に殺されるわ。二度と生き返ることはできないのよ? それがどういうことか分かっているの?」
サクラに反発する俺に部長が諭すように言ってきた。冷静さを振る舞いながら。
「あなたの行動が私や他の部員に多大な影響を及ぼすのよ! あなたはグレモリー眷属の悪魔なの! それを自覚なさい!」
「だったら俺を眷属から外してください。俺個人であの教会に乗り込みます」
「そんなことできるわけないでしょう! あなたはどうして分かってくれないの!?」
初めて部長が激昂する姿を見た気がする。あんなに怒っているのは珍しいかもしれない。
するとサクラが再び俺に歩み寄り、腹に膝蹴りを喰らわせてきた。
「グハッ!?」
俺は前にへたり込む。痛さで自分の中にあるものを吐きそうになった。
「口だけは達者なヤツだな、お前は。でもお前はこんなにも弱いんだ。1人で乗り込んだところで何ができる? 戯言をほざけば助けられるとでも思うな。勇敢と無謀っていうのは違うんだよ」
サクラが更に俺に対して酷い言葉を投げかける。恐らく俺に行かせないようにしているんだろう。
でも悪いサクラ・・・これだけは譲れないんだ・・・!
「俺はアーシア・アルジェントと友達になった! アーシアは大事な友達だ! 友達を見捨てるなんて俺にはできない!」
「確かに、友達になった。でも、オレらはそれを認めてない。それは何故か? それはお前とアイツは、悪魔と教会関係者だからだ、敵同士だからだ。分かったら莫迦なことを考えるのはやめろ」
俺はサクラの言葉に首を振った。するとサクラは再び俺の胸倉を掴んで壁に叩きつける。
「もう一度言うぞ。お前は弱い。ここにいるお前の仲間より弱い。オレよりも弱い。お前はそれがまるで分かってない。だからお前はそんな無謀な台詞が吐ける。お前が死んだら誰が一番迷惑するかを考えろ」
サクラはそう言うが、譲れない俺は負けじと言葉を返す。
「俺は死なねえよ!! 絶対にアーシアを助ける!! 誰も悲しみなんか背負わせはしねえよ!!」
「お前のせいで、堕天使に攫われたアーシアがどんな気持ちだったかお前に分かるのか!? オレだって裏切られたお前に腹が立っているんだよ!!」
「だったらどうしろって言うんだよ!? このままここでくすぶっていろって言うのか!? 大体、お前だって何で俺に押し付けて先に部室に行ったりしたんだよ!?」
「言うに事を欠いてそういうことを言うか!! 雑魚が自分の不始末を人のせいにするな!! 結果的にお前が悪いのは変わりないんだからな!! お前が何を言おうが、何をやろうが無駄なことだ!! もうアイツのことなんか諦めろ!!」
「俺はそんなの嫌だ!! 絶対にアーシアを助けに行くんだ!!」
「絶対って何!? そのアーシアにお前は庇われたんだろう!? そんなお前なんかに何ができる!? やっぱりお前は自分のことも、相手のことも何もかも分かっていない!!」
「分かっていないのはお前だって一緒だろ!? どうしてお前はそこまでして俺がアーシアを助けにいくのを拒もうとするんだよ!?」
俺のこの言葉にサクラが顔を伏せる。そして歯を食いしばって、胸倉を掴む腕に一層の力が入る。
「・・・ここまで言ってやっているのに、そこまでしてオレのことを裏切りたいのか・・・!?」
「ぐわぁっ!!」
サクラが俺のことを突き飛ばす。壁に叩きつけられて声を漏らす。今日は本当にシキに殴られ放題だな俺・・・。
「分かんないんだったら、今ここで言い聞かせてやろうか? お前がどれだけ無能なんだということを・・・」
ジャキッ
痛みに顔を顰める俺の耳に剣を抜く音が聞こえてくる。まさか・・・?
前を見てみるとサクラが短剣を俺に向かって構えていた。そして俺の首元に近づける。
「サクラ!? 何をする気なの!?」
部長の驚いた声が響く。こんなことをしてくるなんて予想外だったのだろう。
「・・・お前を堕天使に殺させるなんて、もったいない。殺されるくらいなら今オレがこの場で殺してやる」
そういうとサクラは俺に向かって剣を持ち直す。俺の足が震える。
・・・こ、殺される・・・!
「お、お止めなさい!!」
立ち上がって叫んだ部長の声も虚しく、俺は死を覚悟して目を瞑った。そして短剣が俺に向かって・・・
ドスッ!!
・・・振り下ろされなかった。何でだ・・・?
目を開けると短剣は俺の顔の横すれすれの壁に刺さっていた。
「・・・刺される覚悟もないのに助けに行くとか、お前は本当に莫迦だよな」
サクラが短剣を壁から抜いて腰に納める。そして俺に向かって背を向ける。
「正直、オレはお前のことなんかどうだっていいんだよ。オレがお前のためにこういうことをしているんだと思っているんだったら大間違いだ。過去にもお前みたいなヤツがいたから、イライラしていただけだ。オレはお前の勇気と無謀も履き違える精神なんかいらない。分かってて死ににいくようなヤツなんか嫌いだ」
俺はその言葉に声を失っていた。サクラ・・・お前が俺のことを全然考えていなかったなんて・・・。
サクラは部室の扉に近づきながら言う。
「助けたかったら、勝手にしろ。そして死んでこい。友人の頼みも聞けないヤツなんて、友人じゃないよな? だったらこうしようか・・・」
部室の扉を開けて、後ろを振り向き、正確には俺のほうを向いてこう言い放った。
「もうオレとお前は、絶交だ!!! ・・・後は、好きにしろ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の体から力が抜けた。そのまま床にへたり座ってしまう俺。
前を向いて冷静に一言言った後、そんな俺を残して、サクラは部室から出ていった。
しばらくの間、部屋に沈黙が落ちる。それを打ち破ったのは部長の声だった。
「・・・あなたの言っていることは立派よ。それをあんなに面と向かって言えるのはいいことよ。でもね、あなたが思っている以上に悪魔と堕天使の関係は簡単じゃないの。何百年、何千年と睨みあって来たのよ。あの子の察している通り、隙を見せれば確実に殺されるわ。私たちは敵同士なのだから」
「・・・敵を消し飛ばすのが、グレモリー眷属じゃなかったんですか?」
「・・・・・・アーシアは元々神側の子。私たちとは根底から相容れない者同士なの。いくら堕天使に攫われたとはいえ、私たちと敵同士であることには変わりはないわ」
「あの子は敵なんかじゃありません!!」
「だとしても、私たちには関係の無いことだわ。あの子のことは忘れなさい」
そんなことを言われても忘れられるわけがないじゃないか!!
すると朱乃さんがそそくさに部長に耳打ちで話しかけてくる。その表情は険しいものだった。
朱乃さんの報告を聞いた部長が顔を険しくさせる。そして少し俺を見遣った後に、ここにいる部員全員に話しかける。
「大事な用事が出来たわ。私と朱乃はちょっと出かけてくるわね」
―――ッ! そ、そんな!!
「部長、まだ話は終わって――」
俺の言葉を遮って、部長が人差し指を俺の口元に当てる。
「イッセー、あなたにいくつか話しておきたいことがあるわ。あなたは『兵士』を弱い駒だと思っているようだけど、どうなの?」
俺はその言葉に静かに肯定して、頷いた。
「それは大きな間違いよ。『兵士』には他の駒にはない特殊な力があるの。それは『プロモーション』よ」
プロモーション? 何だ、それ?
「実際のチェスと同様。『兵士』は敵の陣地に入り込んだ際に、『王』以外の全ての駒に昇格することができるの。イッセー、あなたは私が『敵の陣地』だと認めた場所の一番重要な場所に足を踏み入れた際に『王』以外の駒に変化をすることができるのよ」
じゃ、じゃあ、俺は木場の『騎士』や小猫ちゃんの『戦車』や朱乃さんの『女王』にもなれるのか!?
「あなたは悪魔になって日が浅いから負担のかかる『女王』への変化は無理でしょうけど、それ以外の駒ならあなたが強く思えば『プロモーション』することは可能になるわ」
すげぇ! それを聞いただけでも大収穫だ! その力に俺の神器を合わせれば、あの神父だけでも殴り飛ばせるかもしれない!
「それともうひとつ。神器について。これを使う際にはこれだけは覚えておいて」
部長が俺の頬を手で撫でてくれる。
「想いなさい。神器の力は想いの力で動き出すの。それはあなたが悪魔になっても消えることはないわ。想いが強ければ強いほど、神器はあなたに応えるわ」
―――想う。俺の想いの力が神器を動かす、か・・・。
だったら俺が想えば神器も動いてくれるってことだよな。
「最後にイッセー。『兵士』でも『王』は取れるの。これはチェスの基本よ。これは悪魔の駒でも変わらないことなの。あなたは強くなれるわ」
それだけを言い残して部長は朱乃さんと共に魔法陣でジャンプしていった。
俺は部長の言葉を聞いて決意を改めた。絶対にアーシアを助ける! そしてサクラにも証明してやるんだ! 俺でも強くなれると!
◆◆◆
兵藤の莫迦・・・莫迦・・・莫迦・・・莫迦・・・。
私はあそこまで言っているのに、どうして分かってくれないんだ!?
私は兵藤を危険な目に遭わせたくなかった。だからあの場で酷いことも言ったし、脅してでも留まらせようとした。アイツはまだ、弱いからだ。
でもアイツは引くことは無かった。むしろ私に食い付いてきた。だから腹が立った。
飛び込んだところで死ぬのは目に見えているというのに・・・。
私は今、帰路に付いている。もちろんアーシアを助けにいくためだ。
あんなことで私の顔に泥を塗ったあのクズ共に思い知らせてやるんだ・・・!
「・・ああ、ちょっとそこのお嬢さん」
ふと私は声を掛けられ、足を止める。そこにいたのは継ぎ接ぎの服を着ていて、帽子を被っている男だ。
「ちょっと私を助けてくださいやせんか・・・?」
・・・知るか。今の私には老いぼれなどどうでもいいことだ・・・。
私は男を無視して歩き去ろうとしたが、次の彼の言葉に目を開くことになった。
「助けてくれれば、アンタの探している金髪シスターのことを教えてあげやすよぉ・・・」
「・・・・!!・・・お前、何故知っている?」
「やっぱりアンタの知り合いでございやしたか。まあ何ていうんでしょうかね・・・堕天使の姉さん共がこの子を連れて行くのを見て、その際に隙をみせたものでしてね。そこを私が連れ去ったということですよぉ」
「・・・アーシアをどこにやった・・・!?」
「・・・さあ、存じ上げませんねぇ。手下の妖魔共が連れて行ったんじゃないんですかぁ?」
私は男の軽い発言に怒りを覚えた。近くの壁に貼ってある教会のポスターに目掛けて銃を出現させ・・・
ズダダダダダダダンッ!!
銃弾を連射した。するとポスターは蛾のような妖魔の姿へと変わり、ポトリと崩れ落ちた。
・・・やっぱりあの教会は・・・。
「・・・お前、何者だ?」
ジャキッ
「・・・ヒッヒッヒッヒ。俺はあの方から、アンタのことは大概知ってるぜ。機関の『神殺し』だろぉ? しかもあの有名な風花家の、そんなアンタを俺が手、駆けるなんて、嬉しさで参っちまうねぇ」
男は私の背中に銃を突き付けて、薄気味悪い笑い声を上げる。
その顔はよく見ると妖魔の顔と同じような不気味な顔つきをしていた。
でも私は銃を突き付けても動じることは無い。むしろ冷静に言葉を返す。
「ほう。じゃあ、そんな銃でオレを殺せないってことも分かってんだろ?」
私は中年男のほうを振り向いて睨みつける。
「・・・さあ、アーシアはどこに行った・・・?」
「うっ・・・分かった、分かった・・・」
男は私にビビったのか狼狽えたように銃を離し、やけに素直に応じた。
そして何故か置いてあったトラックに乗車。男がトラックを運転し、私は助手席で手を頭の後ろに回しながら座っている。
「いやあ~今、魔界では7人の魔王と派党が権力争いが起こっちまって領地の治安などが、かなり物騒でねぇ」
先程のビビりとは違う陽気な口調で魔界の情勢について語り出した。
そんなことはこんなヤツに言われなくても、知ってる。全てはアイツの仕業なんだから。
まあそれはそれとして・・・・・・一応、聞いておくが。
「・・・誰に頼まれた?」
「・・・は?」
「・・・誰に頼まれてアーシアを?」
「え、う・・・・」
男は私の問いに躊躇したような声を出す。コイツ、何を隠している・・・?
私はここで自分の考察を語り出す。
「黒幕は恐らくアイツだろう。アーシアのあの神器を手に入れるために、堕天使の付け入る隙を狙って、妖魔たちを利用して攫った。何のためかは知らないけど・・・」
「す、すいやせん・・・。アタシはあの方の下っ端なもんでして詳しいことは何も聞かされてねえんですよ・・・」
「・・・ふん」
渋っているような感じで言う男。どうやらコイツは何も知らないようだ。
私の考察が本当ならば妖魔たちがやけに増えたのも、検討が付く。
でもアーシアが来る前から、妖魔は多かったような気がする。アーシアが来た途端に妖魔の数が急増した。
エレンが調べていた怪しげな教会も、妖魔が増えたこの件と関わりがあるのかもしれない。
「この先にすでに廃墟となっている劇場がありやして、そこにおりやすよ・・・」
私が考察を並べているうちにトラックは不気味な森の中へと入っていく。