極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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第14話「思いを力に変えて」

ザシュッ!! ドゴッ!!

 

ギャアオォォォォォォォ

 

妖魔を切り刻み、殴り飛ばす音、妖魔の奇声が響く。

 

教会の地下の祭壇場では祐斗と小猫が妖魔と応戦している。一匹一匹の妖魔は2人にとっては大した苦にはならないのだが、倒しても倒しても次から次へと現れる上に、時折ひとまわり大きな妖魔が現れることもあり、2人は徐々に圧され始めていた。

 

「次から次へとキリがない・・・!」

 

「祐斗先輩・・・このままでは不味いです」

 

背中を合わせながら言う2人。さながら妖魔に囲まれたような格好になっていて、おまけに息もあがってきている。そろそろ体力の限界も近い。

 

「そろそろ諦めたらどうです? あなたたちが籠手を着けた坊やを逃がしたところで、状況は変わらないでしょうに。それにろくに神器も使えていないあの坊やに何ができるというんです?」

 

十字架の上に座っているシスターが2人に声をかける。

 

「僕はイッセーくんならやってくれると、アーシアさんを助けたいというあの気持ちの強さなら友達を救えると信じているから彼を先にいかせたんだ。きっと彼はやってくれている。だから――――」

 

シスターのほうへと剣を構える祐斗。そして言葉を続ける。

 

「僕も負けるわけにはいかない! 全力で妖魔を、キミを止めてみせる!」

 

「・・・イッセー先輩をバカにしないでください」

 

小猫も前に出てファイティングポーズをとる。気のせいか、疲労だった2人に活気が戻ったような気がした。

 

「キミの、思い通りにはさせない!!」

 

木場と小猫の言葉を聞いて、シスターの顔が伏せる。そして体がピクピクとさせると彼女から笑い声が聞こえてきた。

 

「・・・フフフフ、アハハハハハ! 面白いですね、あなたたち。駄犬と言ったのは取り消しましょう」

 

笑みを浮かべて2人のことを認めるような言葉を言うと再び右手を前にかざす。そして妖魔が再び2人に襲いかかって来た。

 

「はあっ!!」

 

祐斗は『騎士』特有のスピードを生かして剣を振るい、妖魔を斬り捨てていく。

 

「・・・ぶっ飛べ」

 

小猫は飛びかかってくる妖魔を拳でぶっ飛ばし、ひとまわり大きな妖魔にはジャンプして拳を叩き込む。

 

フフフフと含み笑いをするとシスターは口から空気を吸い込み・・・

 

「バッ!!」

 

小猫と木場に目掛けて波動を放った。

 

「くっ・・・!」

 

「・・・!」

 

2人は波動を避けるも、床が波動で小さく焼き焦げる。先程食らったのは衝撃波だったから吹き飛ぶだけでよかったが、今回は紛れもない魔力の弾だ。当たったら手痛い傷を負うことになる。

 

「バッ!! バッ!! バッ!!」

 

シスターは一発だけでなく、その後も何発も口から波動を放った。2人は全ての波動を避けた後、その直後に襲い掛かってくる妖魔と押し合いのような状態になった。

 

妖魔の一匹一匹は殺気を放ってくるので容易に読みやすいが、それに波動攻撃を加わると避けることに集中力を使ってしまうために、妖魔の察知が難しくなる。しかもその波動の避けた直後に妖魔が襲ってくるものだから、酷な話だ。

 

シスターの波動攻撃と妖魔のダブルコンボによって、2人の体力がまたしても削られていく。

 

2人は押し合いになった妖魔を何とか倒すが、周囲を見渡せば全く妖魔が減っていないようにも感じる。

 

明らかに数で攻められている。このままでは消耗戦になってしまう・・・。一体、どうすれば・・・。

 

息を切らせてそう思う祐斗の前の床が光り、青い光が徐々に魔法陣を作っていく。

 

2人はこの魔法陣を知っている。だってこの魔法陣は自分たちも使っているものだから。

 

やがて魔法陣が光り出し、2人の美女の姿を露わにした。

 

「部長! 朱乃さん!」

 

紅の髪の少女――――リアスは後ろにいる2人に声を掛ける。

 

「祐斗! 小猫! 大丈夫!?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「・・・問題、ありません」

 

リアスはその言葉を聞いてひとまず安心した。そして妖魔の大群とシスターがいる前を向く。

 

「あらあら、ここにも妖魔さんたちがいっぱいいるのですね」

 

朱乃が妖魔の大群を見ながら言う。微笑んではいるものの、目は笑っていない。

 

「まあ! こんなところで魔王の妹に会ってしまうなんて! 感動で涙腺が崩壊しそうです」

 

リアスを見たシスターが驚いたような顔をして口に手を当てていたが、すぐに嬉々したような顔でわざとらしい台詞を吐く。

 

一方のリアスはシスターのことをキッと睨みつける。

 

「私の下僕に随分と好き勝手なことをやってくれたようね・・・」

 

「私は何もしていませんよ? 私が妖魔に好き勝手をするようにしましたけどね。本当はそこの2人と籠手の付いた坊やは可愛い妖魔の餌になる予定でしたけど、そこにあなた方が入り込んだというわけです。お分かりですか?」

 

悪びれもなく微笑みながら言うシスター。実際彼女は何もしていないのは事実だが、妖魔に襲わせている時点で彼女は関係なかったと言い切れるような状態ではないわけだ。

 

小柄な妖魔の一体がリアスに飛びかかるも、滅びの魔力で消し飛ばされる。

 

「あなたは一体何者なの? よく見れば、あなたはこの妖魔たちを従わせているみたいだけど、一体何の目的があってこのようなことをしているのかしら?」

 

「全てはベールさんのためにこのようなことをしています。 あのシスターの神器を捧げることで私たちの糧にしようという魂胆です」

 

あっさりと目的を白状する銀髪シスター。しかし、その表情はどこか余裕の見える顔だ。

 

「ベール?・・・そのベールは一体何者なの? あのシスターの神器を使って、何をするつもりなの?」

 

「私が易々とクソ悪魔たちに情報を漏らすと思いますか? おしゃべりよりも可愛い妖魔と遊んでいたほうが退屈も紛れるでしょ?」

 

シスターはそう言うと右手を前にかざす。すると妖魔たちが一斉にリアスたちに襲い掛かる。

 

「あなたのような戦うことしか脳の無い人と一緒にしないで頂戴。私の縄張りに妖魔を放っただけでなく、その下僕まで傷つけようとするなんて、万死に値するわ!」

 

「あらあら、可愛いお顔をしているのに・・・攻撃するとなると胸が痛いですわぁ」

 

リアスは冷静に右手に滅びの魔力を集めていく。先程の妖魔の群れを相手にしたときよりも多く。朱乃も右手に雷を纏わせる。

 

「滅びなさい!!」

 

「雷よ!!」

 

そして2人で一気に力を放つ。滅びの魔力と雷撃によって、木場と小猫が二人がかりで苦戦した妖魔たちを飲み込まれていく。

 

魔力が消えたころにはシスター以外、何も残らなかった。

 

「あとはあなたね」

 

リアスが滅びの魔力を再び右手に纏わせる。

 

「私の・・・可愛い・・・妖魔・・・」

 

シスターはその光景に茫然したような表情をしていたが、途端に顔を伏せる。

 

すると彼女はニタッと含み笑いして、体を痙攣するように震わせる。そして口から笑い声が聞こえてくる。

 

「フッフフフフフ・・・アハハハハハハハ!!」

 

そして顔を上げると嬉々した表情になっていたシスターが口を開く。

 

「何が可笑しいの・・・!?」

 

「素晴らしいですね! 噂に聞いたあなたの滅びの力。犬のように群れていた妖魔たちをあっという間に消し去ってしまうなんて! 久々にいいものを見た気がします!」

 

シスターは妖魔が消えたことにはまるで意を介さず、むしろリアスの滅びの魔力に興奮しがちな声を上げていた。

 

フフフと笑いながら十字架から飛び降りて、片足から着地をして地面に着く。するとシスターの背中が光り始める。

 

その様子にリアスたちが戦闘態勢に入る。

 

「さて、私も一戦したいものですね」

 

『シフォン』

 

「!?」

 

今まさに戦闘準備に入ろうとしていたシスターが驚いたような顔をして疑問の声を漏らす。

 

顔を顰めて耳に手を当てると艶のある女の声が頭の中に響いてくる。

 

『シフォン、戻ってきなさい。作戦は終了よ。あの子にしてやられたわ』

 

どうやら撤退しろという命令の様子。その声にシスターは吐き捨てるように舌打ちをすると背中の光が消えた。

 

「分かりました」

 

耳から手を離すとリアスのほうに向き直る。

 

「今回はここまで。魔王の妹も拝めたことですし、感服です。死闘は一旦お預けといたしましょう」

 

そう言うと地面の下から黒いガス状の霧が出現し始める。

 

リアスたちはあの霧を知っている。あれは式たちも使っているものだ。

 

・・まさか、逃げるつもり!?

 

「待ちなさい!! あなたにはまだ聞きたいことが・・・!」

 

「そのうち分かりますよ。私の名前はシフォン・アリシア。また会う日まで、覚えておいてください」

 

リアスの抗議の声を突っぱねた上に、聞かれてもいない名前を名乗ると含み笑いのまま、彼女は霧に包まれて消えていった。

 

結局シスターの意図が分からずに、腑に落ちない様子のリアス。

 

「あのシスター、ベールのためって言ってましたよね。もしかしてそのベールが、妖魔の暗躍の首謀者なのではないでしょうか・・・?」

 

木場がリアスに問いかける。

 

「ベール・・・どこかで聞いたことのある名前ね・・・」

 

「・・・聞いたことがあるんですか?」

 

「ええ、どこかで聞いたことがあるような名前なのだけれど・・・どこだったかしら?」

 

首を傾げるリアス。ベールという名前をどこかで聞いたことはあるが、記憶の片隅からそれを引っ張り出せない。

 

・・・一体、何なのかしら・・・?

 

考え込むリアスに朱乃が声を掛ける。

 

「それよりもイッセーくんのところに行きましょう!」

 

「ええ、そうね」

 

ベールという人物のことも気になるが、今は可愛い下僕の身のほうが心配だ。あの子は大丈夫だとは思うけど・・・。

 

リアスたちは地下の祭壇を出て、聖堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

ズドンッ!!

 

「ぐぁああああああああぁぁあああああぁ!!」

 

俺の両足を光の槍が貫き、絶叫を張り上げる。『戦車』の防御力をもってしても、両脚の太ももに鋭く打ち込まれた。

 

痛いッ。激痛で倒れそうになるが、こんなところで倒れるわけにはいかない。

 

俺は刺さった光の槍に手を掛ける。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅあああああああ!」

 

肉が焼ける音が聞こえ、槍を掴んだ俺の手のひらを焦がしていく。熱い! 超熱い!!

 

その様子を見てレイナーレが嘲笑していた。

 

「アハハハハ! バカね! 悪魔にとって光は猛毒に等しいわ。触れるだけでもたちまちその身を焦がしていく。あなたのような下級悪魔ごときに――――」

 

「ぬがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

もはや声にならない声を張り上げて、俺は光の槍を少しずつ引き抜いていく。歯を食いしばって、掴み手にいっそうの力を入れて抜いていく。

 

その間にも槍と光の猛毒とやらの激痛が俺を襲う。

 

痛みで意識を失ってしまいそうだ。歯を食いしばっていないとどうにかなってしまいそうだ。

 

でもそれがどうした!!

 

「それがどうしたっていうんだ!! こんなもの、あの子の、アーシアの受けた悲しみに比べれば!!」

 

痛てぇ! 超痛てぇ!!

 

でもそれが何だっていうんだ。こんなものがどうしたっていうんだ!!

 

ずりゅずりゅと嫌な音を立てながら槍が抜かれていく。

 

両足から離して手から落としたとき、光の槍は音を立てることもなく宙に消えた。

 

塞いでいたものが無くなった傷口から鮮血が噴き出る。

 

体から力が抜け、俺はその場にすとんとしりもちついてしまう。立ち上がる力も残っていなかった。

 

「・・・大したものね。下級悪魔ごときが光の槍を素手で引き抜いてしまうなんて。でもね、私の光の槍は派手さはないけど、殺傷能力は高いわ。光の濃度が高いのよ。ひとつ傷を負ってしまえば、中級の悪魔でもそう簡単には治らないわ。下級悪魔のあなたじゃここまでが限界よ。ふふふ、光のダメージを甘く見ちゃダメなのよ? 特に私の光はね」

 

相変わらず俺が分からないことを長々と話してくれるレイナーレ。

 

「あなたの体中に光が回って、全身にダメージを行きわたらせてじわじわと死に至らしめる。でも普通の下級悪魔だったら今すぐに消滅しても可笑しくないはずなのだけど、あなたって本当に頑丈ね」

 

俺のようなクズじゃ、この傷はヤバいってことか?

 

そうなのだろう。体の内側がなんだか痛む。ズキズキというのではなく、もっと凄まじい痛みだ。骨や筋肉が焼き焦がされているようなそんな痛み。神経に直接伝わってくるから、気を抜くと意識がとんでしまうかもしれない。

 

こんなところで座ってるわけにはいかないんだよ。こんなヤツにアーシアを渡すわけにはいかない。

 

でも、思いに反して体に力が入らない。なんてこった。

 

俺、ここまでなのか? アーシアも助けられないままで終わるのか・・・?

 

――――お前には腹が立つんだよ。

 

――――オレを裏切りたいのか・・・?

 

――――お前に何ができるっていうんだ?

 

また脳裏に過ぎるサクラの言葉。

 

ああ、俺だって腹が立つよ。サクラを怒らせてしまった自分に・・・! こんな下衆にアーシアを奪われたことに・・・!

 

でも、それももう終わりだ。俺はもう、もうアイツを裏切ったりなんかしない!

 

そのために俺にできること? それは・・・

 

絶対に諦めないこと・・・そして、あのクソ天使を一発殴り飛ばすってこと!!

 

――――絶対って何?

 

絶対・・・どんなことがあってもそれを果たすことだ!! 自分の誓いを!!

 

『Boost!』

 

「こういうときって神に頼むのかな」

 

俺はいつのまにか独り言のように口を開いていた。その言葉にレイナーレも疑問符を浮かべる。

 

「イヤ、神はダメだ。あんなにいい子のアーシアを救ってやることすらしなかった。ハハハ、神様がなんだっていうんだ」

 

「何を言い出しているのかしらね。ついに壊れた?」

 

「じゃあ、魔王なら俺の願いを聞いてくれますか? いますよね? 聞こえてます? 俺もいちおう悪魔なんだから少しの願いぐらい聞いてくれませんか? じゃあ、聞いてください」

 

「・・・どうしようもないわね、この子。何やら独り言を始めているわ」

 

「今からそこのクソ天使を殴りたいんで邪魔が入らないようにしてください。増援なんかいりません。俺1人の力でなんとかします。足も大丈夫です。何とか立ち上がりますから。もう俺は怒りでどうにかなってしまいそうです。お願いです。一発だけ・・・殴らせてください!」

 

感覚の無い俺の足が動く。正直、少し動かす程度でも激痛が走る。

 

でも動く。少しずつ俺のケツと床から離れていく。

 

足がガクガクと震えて止まらない。それでも少しずつ体が上がっていく。

 

痛い。体中が痛い。でも我慢だ。一発殴るまで我慢すればいいんだ。

 

「ッ! う、嘘よ! 立ち上がれる体じゃないのに!・・・光のダメージで!」

 

レイナーレの顔が驚愕に包まれる。その視線の位置に少しずつ近づいていく。

 

そして俺は立ち上がった。足をガクガクに震わせながら、血を流しながら。

 

「立ち上がれるわけないわ! 下級悪魔ごときがあんな傷で! 光が内側から焦がしているのよ!? 光を緩和できる魔力を持たない悪魔が耐えきれるはずがないわ!」

 

「あー、痛ぇよ。チョー痛ぇ。今にも意識が飛びそうだよ。でも、そんなものよりお前や自分に対する怒りのほうが凄くて、どうにかなっちまいそうなんだよ!」

 

俺は視線をずらさずに敵を睨みつける。ここで一発決めるんだ。それが俺の最後の一発。

 

「なあ、俺の神器(セイクリッド・ギア)さん。目の前にいるヤツを殴り飛ばすだけの力はあるんだろう? なあ、頼むぜ。サクラじゃないけど、コイツに怒りをぶつけたいんだ。今からトドメとシャレ込もうぜ」

 

『Explosion!』

 

機械的な声はこのときだけ、とても力強く聞こえた。何やら宝玉が一層輝いた。

 

この光には苦痛を感じない。ダメージどころか、むしろ安らぎを感じる。まるであの子の神器みたいだ。

 

俺は足を一歩ずつ前へと動かす。足の傷口から血が噴き出し、おまけに口からも吐血した。体中の激痛も走ってる。

 

でも大丈夫だ。足は全然動く。いまでも籠手から体中に力が流れ込んでくる。

 

夕方にレイナーレと対峙したときは実力差に怯えた。悪魔の本能ってヤツで、絶対に勝てないと思った。

 

でも、今は違う。籠手から伝わってくる力はハンパじゃない。

 

神器の持ち主だからだろうか。多分これは一発だ。永続じゃない。一回でも力を放てば、それで終わる。

 

でも一発だけでも当てられればいい。俺は拳を撃ち出す体勢を作った。

 

「・・・ありえない。どうして? それは持ち主の力を倍にする『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』でしょ?・・・なんで。あ、ありえないわ。どうしてあなたの力が私を超えているの? この肌に伝わる魔力の波・・・魔の波動は中級・・・いいえ上級悪魔ぐらいの・・・」

 

お前って俺の力を倍にするだけの神器じゃないのかよ? 上級悪魔は部長しかあったことないけど、部長みたいに強くなったってことなのか?

 

「嘘! そんなの嘘よ! あ、あなたのような下賤な輩にこの私が!!」

 

レイナーレは両手に光の槍を作り出し、それを俺に勢いよく投げ出してきた。

 

俺はそれを横殴りに拳で薙ぎ払った。光の槍は跡形もなく消し飛んだ。

 

それを見たレイナーレの顔が更に青ざめる。

 

「イ、イヤ!」

 

黒い羽をばたつかせ、レイナーレはいまにも飛び去ろうとしていた。

 

逃げる気かよ。俺を散々嘲笑った癖にか?

 

でも逃がさない。逃がしてたまるかよ!!

 

タッ

 

俺は相手が飛び出そうとしている瞬間に駆け出し、その手を掴む。自分でも信じられないほど、堕天使でも反応できないほどのスピードだった。

 

一気にレイナーレの腕を引いて自分の方に寄せる。これでもう逃がさない。

 

「逃がすか、バカ!!」

 

「わ、私は至高の―――」

 

俺は左の腕の籠手が一気に力を解放する。左腕に全ての力を集中させ、それを拳へと乗せる。

 

「吹っ飛べ! クソ天使ィィィッ!!!」

 

それを敵の顔面に鋭く、力強く真っ直ぐに打ち込んでやった。

 

ドゴッ!!

 

「ギャアァァァァァァァァァァァ!!」

 

レイナーレが拳の一撃で後方へと吹き飛ぶ。

 

ガッシャアァァァァァァン!!

 

入り口上のステンドガラスが派手な破砕音をたて、レイナーレは地面へと落ちた。

 

地面に落ちた堕天使は動かない。死んだかどうかはわからないけど、そうそうに立ち上がってはこないだろう。

 

「ざまーみろ」

 

思わず笑みもこぼれる気持ちのいい一撃だった。

 

サクラ。やったぜ、俺。

 

話して信じてくれるかどうかは分からないけど、堕天使に勝ったぜ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「?」

 

森の中、アーシアをおんぶして疾走している桜が疑問点を抱く。

 

(何かの気配が消えたな・・・)

 

「ハァ、ハァ、サ、サクラさん」

 

思考しているアーシアがふいに声をかける。桜はその言葉に足を止める。

 

「・・・どうした? 黙ってないと舌を噛むぞ」

 

「あ、あの、ちょ、ちょっと疲れちゃったんです」

 

桜が背中のアーシアをよく見ると汗で濡れていて、ぐったりしているのが分かる。息も少々荒くなっている。

 

それもそうだ。特殊体質のある自分とは違って、アーシアは神器を持っていることさえ除けば、ただのシスターで生身の人間なのだ。それを桜レベルの走りでどうにかしようものなら、それにアーシアが付いていけるわけがない。

 

「あっそ」

 

アーシアの言葉に構わず、素気ない言葉を交わして走りはじめようとする。それを明るく高い声が制する。

 

「ねぇ、サクラ。ちょっと休ませてあげようよ? みんなサクラみたいに元気ハツラツ♪、ってわけじゃないんだよ?」

 

アーシアの頭の上からひょこっと顔を出したモココが提案する。これ以上桜の走りに乗っていると、アーシアが気絶しそうで厄介だ。

 

その言葉を聞いた桜は少しの間があってから、溜息を吐く。

 

多くある木のうちの一本に歩み寄るとアーシアを下ろして寄りかからせる。桜もアーシアと同じ木に寄りかかって座る。

 

(木がじめじめしていて、気持ち悪い・・・)

 

どうやらこの木は水で湿っているようだ。不快感を覚える桜ではあったが、それでもゴツゴツした石の上に寝るよりはマシだ。と考えてこれ以上苛立ちにはならなかった。

 

桜はどこからか取り出したペットボトルの水をアーシアに無言で無表情で差し出す。

 

「あ、ありがとうございますぅ・・・」

 

アーシアはペットボトルの水を受け取ると蓋を開けて、それを飲んだ。一方の桜は案の定、目を瞑っている。

 

そんな桜の横からペットボトルの水が差し出される。桜は片目を開けてペットボトルを見る。

 

「サクラさんは飲まないんですか?」

 

アーシアが訪ねる。桜はしばらくペットボトルを見つめていたが、その口元に笑みが浮かび始める。

 

「・・・お前、嫌らしいこと考えてるだろう?」

 

「えぇっ?」

 

「だってオレのペットボトルの水を遠慮なしに飲んで、しかもそれをオレに飲ませようとしているんだぜ? あながち無理矢理、間接キスでもさせるつもりなんだろう? お前の考えてることなんか、顔と行動を見れば分かる」

 

意地の悪い笑みを浮かべて桜が話す。アーシアは最初、何を言っているかは分からなかったが、その考えを察した途端に顔が赤く染まる。

 

「そ、そんなことしようなんて考えてません! そ、それにキ、キスをするなんて、わ、私には不相応です!!」

 

「嘘なんかつかなくたっていいぜ? 本当はキスされたいんだろう? だってオレとウィルの前でリリーと抱き合ってる変態だもんなぁ、お前」

 

「ち、違います!! あの時は私もよく分からなくて・・・!」

 

アーシアが必死になって否定し始める。何でここまで否定するのか、式にはよく分からなかった。

 

「そ、それにキスとか、抱き合うとか、そんな不埒なことを神がお許しになるはずがありません!!」

 

「ふーん?」

 

・・・その不埒なことをすでにしているんだということを、コイツはなんで気付かないワケ?

 

「あー!! サクラさん、私のことバカにしてるでしょう!?・・・うぅぅぅ・・・」

 

(面倒臭い女だな・・・)

 

言うとおり、馬鹿にするような笑みをしていた桜にぷんぷん怒るアーシア。とても怒っているようには見えないシスターに、すっかり呆れたような様子の桜。

 

「・・・か・・・ま・・・まだ・・・れて・・・のか?」

 

桜はアーシアの訴えには応えず、前を向いて小さな声で何やらブツブツとつぶやいているが、アーシアには聞こえなかった。

 

「・・・サクラさぁん」

 

アーシアが何やら拗ねたような声で話しかける。

 

「・・・何?」

 

「私を困らせて楽しいんですか・・・?」

 

「へぇー。お前にしては利口だな。楽しいよ。特にお前がたかが、冗談に狼狽えてる姿が特にな。冗談を本気にしてるときのお前の真赤な顔、可愛かったぜ」

 

「サクラさんは意地悪ですぅぅ・・・えっ、冗談・・・?」

 

アーシアは両手を振りながら怒るが、桜のさりげない告白に思考が停止した。そして気付いたアーシアが目を開く。

 

「えっ、えっ!? さっきの嘘だったんですか!?」

 

「・・・お前、莫迦なのか?」

 

「ひ、酷いです、サクラさん!! 騙すなんて!!」

 

「騙される方が悪い。っていうか、勝手に勘違いして、騙されてるのはお前だろう?」

 

「うぅぅぅぅぅぅ・・・」

 

アーシアはとうとう桜に背を向けてしまった。すっかり拗ねている。

 

「もう、サクラさんなんか知りません・・・」

 

「あっそ。つまんない・・・」

 

桜は素気なく返すと立ち上がり、着物のお尻の土を払うと再び教会に向けて暗闇の中を歩き出す。

 

「えっ、サ、サクラさん。どこにいくんですか?」

 

「何って、兵藤のところに行くに決まってるだろう。そんなことも教えてあげなければ分からないほどに、お前は思考回路もおかしくなったのか?」

 

「そんな言い方ないじゃないですかぁ・・・あ、ちょっ、待ってくださいよぅ!!」

 

アーシアも立ち上がって桜のほうへと走り出す。

 

「何で着いてくるんだ? オレのことなんか知らないんじゃなかったのか?」

 

「つ、着いてこないなんて言ってません! もぉ・・・サクラさんの意地悪ぅ・・・」

 

「怒るなよ。そそるじゃないか・・・」

 

「もぉ・・・本当に意地悪なんですからぁ・・・!」

 

ぷんぷん怒るアーシア。仕舞いには桜の背中をポカポカと殴ってきた。桜の大きくとも小さくともない胸が揺れる。

 

小さな声で「悪かったって・・・」と桜は言ったのだが、聞こえていないようだ。

 

それでも桜は元気になったアーシアを見て、内心微笑ましく思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・その様子を、二つの人影が上空で見ていることも知らずに・・・・・・。

 

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