「あら、ちゃんと来たわね」
私は兵藤と一緒に部室へとやってきていた。まだ学校の授業は始まってはいない。
今日はいつも私が起きる時間より早く起きたが、眠気に頭が痛くて適わなかった。
昨夜に集まりがあるとリアスから携帯に連絡があって、私は朝早くからここに来た。
何の用かは知らないが、呼んだ理由がくだらないことだったら私は怒るぞ。
ソファーに座って優雅に紅茶を飲んでいるリアスに納得できないような何かを抱きつつも、私はリアスとは対面の席に座った。
「おはようございます、部長」
「ええ、おはよう。もう朝は大丈夫なようね」
「はい、おかげさまで」
リアスの視線が兵藤の足に移る。
「堕天使にやられた傷は?」
「はい、例の治療パワーで完治です」
例の治療パワーというのはアーシアの神器のことだろう。兵藤は昨日、堕天使と戦闘をして太腿を負傷したらしい。
「そう、あの子の治癒能力は無視できないものね。堕天使や妖魔が欲するのも無理はないわね」
アーシアの神器は堕天使や悪魔、妖魔の傷さえも癒す力を持っているらしい。私に言わせれば、そんな力、便利なようで厄介だ。
兵藤もリアスと対面の席、正確に言えば私の隣に腰を下ろした。
「あの部長。チェスの駒の数だけ『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』もあるのだったら、俺の他にも『兵士(ポーン)』があと7人存在できるってわけですよね? いつかは俺と同じ『兵士』が増えるんですか?」
確かにチェスでは『兵士』の駒は8つある。それが本当でなおかつ兵藤が『兵士』ならば、あと残り増える眷属は7人ということになる。
まあ増えることはコイツにとってはいいことだよな。何せ足りない頭をサポートしてもらえるもんな。
兵藤の質問にリアスは首を傾げはじめて、『兵士』の駒を出しながら答える。
「確かにあと『兵士』の駒は2つ残っているけど、私としてはサクラ、リリー、ウィル、エレンの誰かになってもらいたいわね」
そう言って私のほうを見るリアス。私は目線を逸らすように、窓の方を向く。まだ諦めていなかったのか。
言っておくが、私は眷属になんかならないぞ。悪魔になるなんて弱点を増やしているようなものだ。
「えっ。2つしかないってどういうことですか?」
それは私も気になった。兵藤を眷属にしても駒はまだ多く残っているはずだ。
「人間を悪魔に転生させるときには悪魔の駒を用いるのだけれど、そのときの転生者の能力次第で通常より多く駒を消費しなくてはならないときもあるのよ」
・・・なるほど。それだけ言えば、もう分かる。
「チェスの世界ではこういう格言があるわ。女王の価値は兵士9つ分、戦車の価値は兵士5つ分、騎士と僧侶の価値は兵士3つ分。そんなふうに価値基準があるのだけれど、それは悪魔の駒も同様。転生者においても似たような現象が適用されるの」
例えば、騎士の駒を2つ消費してなくてはいけないものや僧侶の駒を2つ消費しなくてはいけないものも存在するってことだろう。
「駒との相性もあるわ。2つ以上の異なる駒の役割は与えられないから、駒の使い方は慎重になるのよ。1度消費したら、2度と悪魔に駒を持たせてはくれないから」
「それと俺がどういう関係にあるんですか?」
・・・私は察しの悪いこの男に苛立ちを覚えた。簡単なことだろうが、この莫迦。
「イッセー、あなたを転生させるとき、『兵士』の駒を6つ消費したのよ。そうしないとあなたを悪魔にすることはできなかったの」
要するに兵藤には『兵士』7つ分の価値があるということ。もっとも、私はこの男にそんな価値があるとは思わないが。
だって頭の中に年中ピンク色の花を咲かせている男だぜ? 究極の莫迦としか言いようがない。
「それがわかったとき、私はあなたを絶対に下僕にしようと思ったの。でも、長らくその理由が判明しなかったわ。今なら納得できる。至高の神器と呼ばれる『神滅具』の1つ、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を持つイッセーだからこそ、その価値があったのね」
私はリアスの言葉を聞いて、兵藤の左腕に目線を向ける。
―――ブーステッド・ギア。それは力を10秒ごとに倍にしていき、神さえも越える力が得られるという神器。
使いこなせるかどうかはコイツ次第だ。何せコイツにとっては過ぎた代物。宝の持ち腐れになりそうだ。
・・・・・・何だろう。私、この神器、嫌いだ・・・。
よく分からないけど、とにかく嫌いなんだ。むず痒い感じがする・・・。
「あなたを転生させようとしたとき、私の残りの駒は騎士、戦車、僧侶が1つずつ、兵士が8つしかなかったわ。イッセーを下僕にするには、そのなかでも兵士を6つ消費するしかなかったの。兵士の駒と相性も良かったし。他の駒では転生できる能力はなかったわ。でも、元々兵士の駒の価値は未知数。プロモーションなども含めてね。私はその可能性にかけた。結果、あなたは最高だったわ」
私の頭には最低という言葉しか浮かばない。頭にピンク色の虫が湧いているこの男にはな。
リアスが嬉しそうに微笑みながら、兵藤の頬を指で撫でる。
「『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』と『赤龍帝の籠手』、紅と赤で相性バッチリね。イッセー、とりあえず最強の『兵士』を目指しなさい。あなたなら、それができるはず。だって私の可愛い下僕なんだもの」
・・・できるのだろうか。いろいろと心配になる男だが、私は心配なんかしていない。
まあ、莫迦とハサミは使いようと言うし、ハサミでも持たせればその分ましになるかもしれないな。
「これはお呪(まじな)い。強くなりなさい」
そう言ってリアスは兵藤の額に唇を触れさせた。その瞬間、兵藤の顔が紅潮する。
「うおおお!! 部長! 俺、がんばります!!」
兵藤が嬉しそうな顔して宣言する。私はその光景に苛立って立ち上がり、座っている兵藤の足を踏みつけた。
「ギャアァァァァァッ!! 何すんだよ、サクラ!?」
「・・・フン」
兵藤が痛みに叫び声を上げて飛び上がり、私に抗議の声を訴えてくる。私はそっぽを向く。
キスされたぐらいでデレデレするな、この変態が。この莫迦が。
「ふふふ、仲がいいのはいいことだけど・・・」
この光景のどこをどう見れば、仲が良いと捉えられるんだ? 眼科行けよ、この女は。
リアスは私の方を見ながら言ってくる。
「サクラ。あなたは私の下僕になる気はないの?」
・・・この女はあくまでも私を下僕にしたいようだ。
さっきも言ったが、私は下僕になるつもりはない。縛られるのはご免だ。
でも・・・・・・。
私は無言のまま、懐から2枚の紙切れをリアスに差し出す。
「あら、これは・・・」
でも、この部員たちの、グレモリー眷属の集会に留まる気はある。
だって面白そうだ。コイツらは眷属こそ個性豊かだが、何よりもそれをまとめているのはあの有名なグレモリーの娘だ。その船に乗っからないわけにはいかないだろう?
だから私はここでオカルト研究部の入部届を差し出したのだ。リリーのも含めてな。
リリーの分まで出すのは正直嫌だったが、出さなかったら出さなかったでアイツもうるさいだろし・・・。
「下僕にはならない。でも部員になってやる。オレもこの莫迦が困ったときはサポートもしてやれるし、部員でも損はしないと思うぜ? 面倒だけど、オレに言えばやってやる」
リアスは私の言葉を聞いて笑みを浮かべる。
「そう。本当は眷属のほうがいいけど、仕方ないわね。改めてよろしくね、サクラ」
「・・・改めて、よろしく」
お互いに笑みを交わし合う私たち。これから面白くなりそうだ。
「ところで・・・」
リアスが紙切れのうちの1枚を見ながら言う。
恐らくリリーのだろう。そう言えば、下の方にいろいろと書いてあったし。
「この、リリーの志望動機があまりにも不純なのだけれども・・・」
例えば『アーシアを守るため』だとか、『薄汚い猿を排除するため』だとか、『アーシアとずっと一緒にいたい』とか、ほとんどアーシアと兵藤のことについて書かれてあったな。
「・・・そう言えばアイツ、オレにこれを差し出したときに言っていたな。『アーシアとあの山猿が一緒にいるなんて絶対に許せない!! アーシアが汚れちゃうわ!!』って」
「えぇぇぇ!? 俺、どんだけリリーちゃんに信頼されてねぇんだよ・・・」
兵藤が頭を抱えながら項垂れる。リアスは入部届を見つめたまま苦笑している。
私は無言で兵藤の肩をポンポンと叩いてやる。
アイツが入部するとなると兵藤も大変だな。コイツは日頃の行いってヤツで、自業自得なわけで。
まあ、私的にはそこが面白いんだけどな。リリーに嬲られる兵藤なんて想像しただけでも愉快だぜ。
「ええい、構うもんか!! 俺はハーレム王を目指す男だ! ちょっとやそっとの困難など乗り越えてみせるさ!!」
・・・いや、コイツは案外大変じゃないかもしれない。チッ、何だよ・・・つまんない・・・。
ドガッ!
「ダハアァァァァァァァァァ!!」
私はムカついたので、兵藤の脛を蹴ってやった。
「だから何すんだよ!? 俺が何をした!?」
「・・・うるさい、莫迦」
兵藤の抗議の声に、私はまたそっぽを向いた。
コイツはむしろ、こうしたほうが退屈しないな。
「イチャイチャするのはいいけれど、新人の子に嫉妬されてしまうわよ?」
・・・本当にこの女の目は節穴なんじゃないのか? 私がいつ、こんなヤツとイチャイチャした?
「イ、イッセーさん?」
背後から聞こえる声。私は知っている。
少しだけ視線を向けるとそこにはアーシアがいた。しかもこの学校の制服を着て。
「ア、アーシア?」
でもその顔はよく見ると笑顔を引き攣らせて、怒っているようにも見えた。
対して兵藤のほうはアーシアのほうを見て、顔を放心させていた。
・・・・・・・・・・・
ズガッ!
「痛ェッ! 何だよ、サクラ!?」
「・・・鈍感」
コイツはどうも察していないようだったので、私は脛をまた蹴った。
・・・女心の分からない変態め。だから、嫌われるんだよ。
「そ、そうですよね・・・。リアス部長は綺麗ですから。そ、それはイッセーさんも好きになってしまいますよね。そ、それにサクラさんも綺麗でカッコいいですから、私何か、自信を無くしそうですぅ・・・。ダメダメ、そんなことを思ってはいけません! ああ、主よ。私の罪深い心をお許しください」
手を合わせてお祈りのポーズをする。
「あうっ!!」
するとアーシアが頭を抱え始める。そういえばコイツ、悪魔になったんだっけ。
「頭痛がしますぅ・・・」
「当たり前よ。悪魔が神に祈ればダメージを受けるわ」
さらりとリアスが言う。
「うぅ、そうでした。私、悪魔になっちゃたんでした。神様に顔向けできません・・・」
アーシアが複雑そうな顔をする。・・・ああ、全くこの女は。
私はアーシアのほうに歩み寄る。
「・・・後悔してないのか?」
それを聞いてアーシアが私のほうを見る。
「本当は悪魔になるんじゃなくて、オレたちと一緒のほうが良かったと思っているんじゃないのか?」
アーシアが私の言葉に首を横に振る。
「いいえ。私はどんな形になっても、イッセーさんと一緒にいられるのが幸せですから。もちろん、サクラさんたちと一緒にいられて嬉しいですよ」
アーシアが満面の笑みで言う。本当に、幸せそうな顔だ。
「・・・そうか。じゃあ、オレはもう何も言わない。でも、一つだけ」
そう言って私はアーシアの側に歩み寄って、前髪をまくり上げると・・・
チュッ
「・・・えっ?」
額に口づけをした。
アーシアが状況をようやく把握すると、その顔が熟れたリンゴのように見る見る赤くなっていく。
「あ、あ、あ、ああ・・・」
「・・・オレも意外と悪魔のような女だからな。その気になったらお前を食べてしまうかもな」
私は口元に笑みを浮かべてそう言った。そのアーシアは口をパクパクさせていた。
私がこのとき口に出さなかった思ったことは、何キスされたぐらいで真っ赤になってんの?
ああー面倒臭い。でも、見てて楽しい女だな。
「お、おいサクラ。い、今のって・・・」
「ただの接吻だろ。何、お前まで赤くなってんの? 変態」
「へ、変態は関係ないだろ!」
ウブなヤツめ。鼻を伸ばすくせに、本当は女への耐性が低いんだな。
何故か動揺している兵藤のことをあしらって、リアスのほうを見ると「まあ」とでも言いたげな感じで、顔を紅潮させていた。
「サクラって女も男も落とせそうな性格と顔立ちをしてるわね。この学園で人気があるのも頷けるわ」
私はただ、からかい半分でキスをしただけなのだが・・・たかがこんなことで騒ぎになるこの雰囲気が理解できない。
普通じゃないのか、接吻は? 私の姉や母親だって常習の如くやっていたぞ?
・・・ああ、もういい。考えるだけ面倒だ。
「・・・フン」
・・・何か、恥ずかしくないけど恥ずかしい気分だ。
私はそのまま鼻を鳴らして、ソファに腰を下ろした。
「アーシア、今日からあなたも私の下僕悪魔としてイッセーと一緒に走り回ってもらうから」
「あっ。は、はい! がんばります!」
しばらく放心していたアーシアがリアスの言葉で我に返る。そしてアーシアはたどたどしいが、元気に返事をする。
・・・心配だな。だって私が知る限り、ドン臭いし。
「ア、アーシア、その恰好・・・」
・・・今頃気付いたのか。この莫迦は。
「に、似合いますか・・・?」
恥ずかしそうに訊ねてくる彼女。何、顔を真っ赤にしてんの・・・?
まあ、いいか。それはそれとして・・・
「最高だ!」
「ふーん、似合ってるじゃないか」
「あ、ありがとうございます」
兵藤と私はそれぞれの感想を述べる。兵藤は下心が完全に丸出しの発言だ。
「あとで写メを撮ろう!」
「え、は、はい」
反応に困っている彼女。全く、この変態は・・・。
でも、アーシアの困った顔・・・いいかも。その顔、もっと見たい。
怯える顔もいいけど、困った顔もそそるじゃないか。
「おはようございます、部長、イッセーくん、アーシアさん、サクラさん」
「・・・おはようございます、部長、イッセー先輩、アーシア先輩、サクラ先輩」
「ごきげんよう、部長、イッセーくん、アーシアちゃん、サクラさん」
「おはようございます、リアス先輩、アーシア、サクラ」
部室に入ってくる木場、小猫、姫島、リリー。4人ともそれぞれ挨拶をしてくる。
・・・リリー、いつのまに来たのか。
するとリリーが兵藤の元へと歩み寄りながら、顰めた顔で言う。
「アタシは許さないからね。アンタがアーシアやサクラとイチャイチャするなんて」
兵藤は首を傾げていたが、アーシアはその言葉を聞いて顔を赤らめていた。
リリーがアーシアのほうに視線を向けて目を見開いた。
「え? アーシア? 何で顔を赤くしてるの!? ま、まさかアンタ・・・!!」
リリーが兵藤のほうに向き直って睨みつける。
「ち、違う!! 俺は何もしてないぞ!?」
「じゃあ、何でアーシアはアンタの話題が出ると顔を真っ赤にしてんのよ、この変態がァァァ!!」
「ほ、ホントに誤解だっつーのぉ!!」
兵藤とリリーが部室の中で追いかけっこをし始めた。本当に兵藤は何もしていないぞ。
・・・ああ、面倒臭い。
「リ、リリーさん、イッセーさんは本当に何もしていません!!」
リリーがそれを聞いて足を止め、アーシアのほうに近づいてくる。そのときの顔は絶望したような感じだった。
「そ、そんな・・・アーシアがこんなゴリラを庇うなんて、毒されてしまったのね・・・酷いぃぃ」
「おい! 何という言い草だ!!」
「え、え、え、あわわわ・・・」
アーシアの前でめそめそと泣き始めるリリー。反論の声を上げる兵藤。
・・・アーシアが困っているだろうが、この莫迦共は。
いや、よく見渡すとリアスたちも苦笑してしまっている。
・・・ああもう、面倒臭いなッ!!
私は溜息をつくとリリーと兵藤の元にそれぞれ歩み寄って・・・
スパァン!!
「痛ァ!」
ドゴォッ!!
「ガハッ!!」
ハリセンと金属バットでそれぞれ頭部を殴った。
頭を抱えるリリーと兵藤。兵藤に至っては、タンコブができていた。
「さ、さて、みんなが揃ったところでささやかなパーティを始めましょうか」
リアスはそう言うと指をパチンと鳴らす。するとテーブルの上に大きなケーキが出現した。
・・・ケーキ・・・・・・。
「た、たまにはみんなで集まって朝からこういうのもいいでしょ? あ、新しい部員が3人もできたことだし、ケーキを作ってみたから、みんなで食べましょう」
リアスが照れくさそうに言う。何で赤くなっているのは、もう何回も感じた疑問。
「早く、ケーキを食べようぜ」
私はソファに腰を下ろしてスタンバイしている。
「あら、サクラ。珍しくノリが良いわね」
リアスも嬉しそうに微笑んでいた。
・・・まあ、いいか。こういうのも、悪くはない。
今はこのハッピーエンドを見届けることにしよう。一寸先は闇、この先もこんな薔薇色とは限らないからな。
この後、兵藤が場を盛り上げるために面白くもなんともない一発芸を見せてくれたが、これは話すのもくだらないので語らないことにする。
◆◆◆
「・・・ふぅ」
私は風呂に入り、タオルで頭を拭いているところだ。
今日は秋山にストロベリーのパフェを作らせてあるから、風呂あがりにそれを食べるつもりだ。
イチゴは甘くて美味しいからな、食べるのが楽しみだ。
私は上にさらしを巻き、白い着物を羽織り、タオルを首にかけながらリビングへと入る。
「あ、サクラさん。お、お邪魔してます・・・」
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・何でアーシアがここに?
「あ、あの、今日からイッセーさんのお家にホームステイすることになりまして・・・でも、サクラさんにも一言お礼を言おうと・・・」
だったら何でここにいる・・・?
私は呆然としていたが、テーブルのほうを見て目を見開いた。
そこにあったのは・・・空のパフェグラス・・・。
「・・・おい、オレのストロベリーパフェは?」
「ひう!! あ、あの、わ、私が食べちゃったんですけど・・・」
私の冷たい声にアーシアがビクッとした後に、白状する。
「ふーん?」
「ひぃっ!! だ、だって、あ、秋山さんが、た、食べていいって・・・」
私がアーシアに歩み寄っていくとアーシアの顔がどんどん青ざめ、涙目になっていく。
秋山が食べていいって言ったのか・・・・ふーん。
・・・・・・だから、何?
「はーん?」
「ぎゃい!? い、痛い痛い痛い痛い痛い!! 痛いですぅ!!」
私はアーシアの背後に回って、こめかみを拳でグリグリする。
秋山も秋山だが、お前もお前だ。馬鹿正直に食ってるんじゃない。
私がグリグリを止めるとアーシアは涙目で頭を抑えている。
「うぅぅ・・・痛いですよぉ・・・」
「黙れ。食いものの恨みは恐ろしいんだからな」
私がアーシアに背を向けていると前に秋山が現れた。
「いかがなさいましたか? お嬢様」
「お前な・・・」
私は秋山を睨みつける。大体コイツも、客が来ているなら私に言えよ。
「何やら不機嫌そうな顔をしていますが?」
「ああ、そうだな。どっかの誰かのせいで、パフェを食べ損ねたんだからな」
「はて、何のことでしょうか・・・?」
コイツ・・・!
悪びれもなく言う秋山に苛立ちが募ってくる。しかも、誤魔化したし。
「・・・まあいい。もう1回ストロベリーパフェを作れ」
「できません。持ち合わせの材料がもう無いもので」
何だと・・・ストロベリーパフェが作れない・・・?
ふざけるな・・・せっかく楽しみにしてたのに・・・!!
・・・・・・はあ。
「・・・もういい」
私はリビングを出ようとする。こうなったら外でパフェを食べに行こう。
もう夜になりそうだけど、開いている店くらいあるだろう。
「あ、あの!!」
背後からアーシアが話しかけてくる。
もう、何だよ・・・騒がしいな・・・。
「あ、あの、私を助けてくださってありがとうございます。あ、あのとき、サクラさんが助けてくれなかったら、私は今頃死んでいたと思います」
・・・なんだ。そんなことか。くだらない。
私にとっては大それたことでもない。
「・・・そうか」
私はアーシアの言葉に、振り向いてただこう答えただけ。
私はそのままリビングを出ようとするが、何故か足を止めた。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・まあ、たまにはいいか。
「おい」
「は、はい」
もう一度振り向いて、私は言う。
「・・・これから夜更かしをしようと思うんだが、一緒に来るか?」
アーシアはこんなことを言われるなんて思わなかったのだろう。しばらく放心としていたが、すぐにその顔は笑顔に変わった。
「はい!!」
アーシアは返事をすると私に駆け寄ってくる。
今日だけは付き合ってやるか。甘いものを食べ損ねたことだし、ついでに言えばコイツの入学祝いで何かをごちそうしてやろうと思う。
・・・・・・そうだ。あそこだったら、まだ開いてるはず。私が世話になっているあの店なら。
行ってみよう。スイーツを食べに。
私は笑顔のままのアーシアを連れ出して、闇夜の中を歩いていく。