極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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さて今回からは第一章の番外編です。これはサイドストーリーや後日談などをまとめたものであります。はっきり言って、ギャグがほとんどです。各章ごとにやりたいと思っています。どうぞ、お付き合いください!

さて、まず最初の番外編ですが、長いので分けました。今回はその最初の話です。続かなかった第6話の続きです。



番外編1「アクマのおしごと 前編」

「・・・・・・遅い」

 

・・・アイツ、何してんだ?

 

深夜、私は依頼者の住処であろうアパートの前に立っていた。

 

リアスの魔法陣の転送場所を把握し、闇の回廊を使ってその場所に来たのだ。

 

・・・正直、苛立っている。その証拠に腕を組んで顔を顰めながら、片足をトントンと鳴らしている。

 

20分後、イライラが限界に達し、もう帰ろうかと思った矢先、右方向から自転車を最速で漕ぐ姿が見えた。

 

「おーい、サクラー!!」

 

・・・兵藤だ。全く、この男は・・・。

 

私の近くまでで自転車を止めるも、私はそこから降りるこの男を睨みつける。

 

「わ、悪い。遅くなガッ!?」

 

私は言葉を言い切られる前に、兵藤の後頭部をド突いた。

 

幾分マシだろ。このまま来なかったら、翌日に短剣で斬り殺してやるところだ。

 

「遅い・・・!」

 

「す、すみません」

 

兵藤が後頭部を摩りながら、私に謝る。

 

・・・謝っただけで私の気が済むとでも思っているのか?

 

「おい、そこに座れ」

 

「え?」

 

「いいから座れ」

 

「・・・はい」

 

兵藤は私の低い声に圧されて、地面に普通に座った。

 

・・・・・・って、おい。

 

「正座をしろ・・・!」

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

金属バットを突き付ける私に怒鳴られて、慌てて正座に座り直す兵藤。その兵藤を私は冷たい目で見下ろす。

 

・・・さて。尋問を開始するか。

 

「・・・何で遅くなったのか、理由を聞こうか?」

 

「えーと・・・その、ですね。俺の魔力が、子供以下で、ですね・・・」

 

金属バットを肩にかけながら言う私に冷や汗を垂らしながら、口ごもったように言う兵藤。

 

「・・・子供以下で、何?」

 

「その、魔法陣からワープ、できなかったんです・・・」

 

魔法陣からワープができなかった。だから、自転車を漕いできたのか。

 

そうか、そうか。そういうことか。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・ふざけてるのか。

 

「悪魔が魔法陣からワープできないわけないだろ。もっとマシな嘘をつけ」

 

「ほ、本当だって! 朱乃さんがせっかく魔法陣を準備してくれたのに、光が体を包んだかと思えば移動すらしてなかったんだぞ!」

 

「・・・・・・」

 

「何が哀しくてチャリで駆け回らないといけないんだよ! 魔法陣からワープできないせいで、木場の野郎には溜息つかれるし、小猫ちゃんにはバカにされるし!!」

 

「・・・・・・」

 

「せっかく悪魔に転生したっていうのに、こんなのあんまりだぁ! 世界は俺を見放したというのか! いい夢見させてくれてもいいじゃないかよぉぉぉぉ!!」

 

・・・それはお前が単に低能なだけだろう。世界に責任を擦り付けるな。

 

それといい夢で終わらせちゃダメだろう・・・。

 

地面に突っ伏して泣き叫ぶ情けない下級悪魔。こんな様子で爵位なんかもらえるわけがない。

 

自転車に乗ってくることもそうだけど、それ以前に魔法陣から自分でワープできないなんて前代未聞だ。

 

あまりにも面倒な出来事に、私は溜息を吐く。持っている金属バットを地面に下ろすと口を開く。

 

「・・・仕事で挽回すればいいだろう」

 

「えっ?」

 

「悔しかったら仕事で挽回しろ。契約さえ取れれば木場も小猫も何も言わないだろ」

 

私の言葉を聞いた兵藤はしばらく放心していたが、涙を拭うと立ち上がる。

 

「そ、そうだよな! 仕事さえしっかりやれば、みんなも喜んでくれるよな!」

 

どうやら元気が出た様子。本当にお騒がせな男だ。

 

「よーし、契約取るぞぉ! 立派にこなしてハーレム王になるんだ!」

 

兵藤が腕を上に突き上げながら叫ぶ。

 

・・・これとハーレム王は関係ないと思うが。

 

ドガッ!!

 

「ギャハァァァァァァァァァァァッ!!」

 

ムカついたので、金属バットで兵藤の脛を打ち据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって依頼者のアパート。

 

階段を上って、依頼者の部屋の前へとやってくる。

 

「・・・依頼者はここにいるのか?」

 

「ああ、この携帯悪魔機器が正確ならここのはず」

 

兵藤が答える。そしてドアをコンコンとノックする。

 

私は扉から見て左側に立って、兵藤のことを見守る。

 

・・・ああ、眠い。本当なら今すぐに帰りたい。

 

「こんばんは! グレモリーの使いの者ですが、すみません! 召喚された方はこのお家ですよね?」

 

捕捉として言っておくが、悪魔は契約した人間にしか認知されないらしい。つまり深夜にこのダメ悪魔がこんなことをしても、他の住人には何も起きていないのと同じだということ。

 

「だ、誰だ!?」

 

酷く狼狽したような声が部屋から聞こえてくる。

 

・・・まあ、普通の反応だよな。

 

「えーと、悪魔です。新人ですけど、なんか、お呼ばれされたんでここまで来ました」

 

「う、嘘をつくな! 玄関からやってきてドアを叩く悪魔なんかいるもんか! 悪魔はこのチラシの魔法陣から出てくるだろうが! それに呼んだのは小猫ちゃんだ!」

 

私もそう思う。普通は魔法陣から出てくるのに、玄関からノックして訪れる悪魔がいるなんて、世間で聞いたら笑いものにされるだろう。

 

なお、これが時間指定の配達の店だったら、お客にも店長にも怒られているはず。

 

私も初めて見た。こんな前代未聞の悪魔。コイツは助走もつけなくては飛べないアホウドリなのか?

 

いや、コイツをアホウドリに例えたらアホウドリに失礼だな。

 

「あ、すみません。俺、魔力が足りないみたいで魔法陣から出現できないんすよ」

 

「ただの変態なんじゃないのか!?」

 

小猫を指名している時点で、契約者だってロリコンの変態だろ。

 

・・・ああ、そういえばこの莫迦も大変態だったな。

 

この契約者の一言に兵藤が腹を立てた。

 

「変態じゃない! 俺だって、知るもんか! いけるなら魔法陣から出てみたいわ!」

 

・・・覗き見の常習犯がどの口をほざく?

 

「逆ギレするなよ! ド変態!」

 

「ド変態!? ふざけんな! 俺は悪魔だっつーの!!」

 

涙目で反論する見習い悪魔。

 

頭を搔く私。本当に、先が思いやられる。

 

契約者と言い争いするなよ、この莫迦は・・・。ああ、面倒臭い。

 

このままでは契約できずに終わってしまいそうだ。

 

見かねた私はドアをノックして声を掛ける。

 

「あのう、悪魔とか人間とかどうでもいいから、とりあえず開けてもらえないか?」

 

「今度は誰だ!? また別の変態か!?」

 

「違う。いいから落ち着いて、このドアを開けてくれないか?」

 

私が更に声を掛けると中から歩く音が聞こえ、扉が開けられた。

 

「もう、何なんだよ、君たちは・・・」

 

男が不機嫌そうな顔をしながら現れる。この何とも冴えない眼鏡が依頼者なのか。

 

「今からコイツが悪魔だって証明するから見てろ」

 

私はそう言って懐からエレンから貰ったロザリオを取り出して、兵藤に近づく。

 

「お、おい、サクラ、何する気だよ?」

 

「お前が悪魔だって証明するんだよ。それが、何?」

 

「何か、お前の持ってるそれ見てると体の震えが止まらないんだけど・・・?」

 

兵藤がロザリオを持っている私を見て怯えだす。体も震えている。

 

「ああ、本物のロザリオだからな。悪魔を調教するための」

 

「ちょっ、それ俺にとっては危険な代物なんじゃないのか!?」

 

「お前にしては利口だな」

 

私は今日だけは満面の笑みで言い放つ。

 

「でも、大丈夫だ。運が良ければ死にはしないさ。・・・・・・多分」

 

「多分って何だよ!? ちょっ、お、おい、や、やめギャアァァァァァァァァァァァッ!!」

 

私は笑顔のまま、兵藤の頭にロザリオを捻じ込んだ。

 

ちなみに聖水を染み込ませてあるから、悪魔に効果は絶大なはず。

 

数秒後、頭から煙を出しながら、向かい側の手すりに体を預けている兵藤の姿があった。

 

「聖水を染み込ませたロザリオだ。これは悪魔にとってはダメージを受ける。つまり、これでダメージを受けたから彼は悪魔だってこと」

 

私は依頼者にロザリオを見ながら話を続ける。

 

「は、はあ。それよりも彼は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だよ。死んじゃいない。何せ熊よりも強いからな」

 

「・・・おっ、おぉ・・・」

 

「ほら、起きた」

 

兵藤がほんの数秒で復活する。頭を抱えながら。

 

「サクラ・・・お前、俺を殺す気か・・・?」

 

痛みに呻きながら言葉を紡ぐ男。大袈裟にもほどがあるんじゃないのか?

 

「悪魔がロザリオ捻じ込んだぐらいで死ぬもんか。死んだほうがマシと思われるほどの痛みを味わうかもしれないが」

 

「死ぬほどの痛みなんて食らい続けたら、肉体よりも先に俺の精神が死ぬわ!! お前、俺を何だと思ってんだよ!?」

 

「・・・ただの暇つぶし」

 

「うなぁぁぁぁぁーっ!!」

 

天を仰いで絶叫する男。私は目線を背けながら呟く。

 

いちいち、うるさい男だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうかい。魔法陣から出ていけなくて、それで自転車でわざわざ来ていたのか・・・」

 

「そうです」

 

悪魔だと証明し、中に入れてもらっている私たち2人。

 

「で、そこの和服を着た綺麗なお嬢さんは誰かな? キミと同じ悪魔かい?」

 

依頼者――――森沢の言葉を聞いて、私は不機嫌そうな顔をする。

 

「違う。オレは使い魔みたいなものだ。低能でマヌケで変態なこの莫迦のサポートをしているだけだ。こんなヤツと一緒にするな」

 

「そ、そうかい・・・」

 

「おい! 何だよその言い草は!?」

 

兵藤の抗議の声が上がったが、無視。だって本当のことじゃないか。

 

森沢は普段、公務員をしているらしい。真面目に働いていた彼が人との触れ合いに飢えていて、例のチラシで悪魔を呼んだという。

 

そして初めて交わした悪魔である小猫に一目惚れして、それ以来彼女を呼ぶようになった。

 

・・・ロリコンの変態だと思っていたけど、違ったんだな。誤解した。

 

「小猫ちゃんじゃないんだね・・・」

 

「すみません、あの子、人気らしくて。つーか、かわいい系の担当らしくて」

 

・・・かわいい系とかよく分からん。

 

チラシに願いを込めるときに指名したい悪魔の名前を呼べば呼び出せるが、今回のように手が回らない場合には他の悪魔が代わりにくることもあるという。

 

「ぼ、僕、かわいい系のお願いを契約チラシに願ったんだけど・・・」

 

「ここはひとつ、俺もかわいい新人悪魔ってことで納得してもらえませんかね?」

 

「ハハハ! 無茶言うね、キミは! ここに祝福儀礼の銀作りの剣があったら、キミをぶすりと刺しちゃうところだよ!」

 

・・・何か、流れ的にまた言い争いが起きそうな会話なのだが。

 

「ちなみにお聞きしますけど、小猫ちゃんを呼んで何を願うつもりだったんですか?」

 

兵藤が森沢に訪ねる。それ、私も聞きたかった。

 

「これを着させようと思って」

 

そう言って取り出したのは女子高生が着るような制服。でも現実にそんな学校の制服はないと錯覚する。

 

「これは短門キユの制服だよ」

 

「短門・・・あっ、暑宮アキノの」

 

・・・短門、暑宮アキノ。何だそれは? 聞いたことが無い。

 

「悪魔くん、キミは短門が好きかい?」

 

「いえ、俺はどちらかというと――――」

 

・・・・・・・・・。

 

正直、話に付いて行けず、まして興味も無かったので聞き流すことにした。

 

一分後・・・

 

「彼女、小猫ちゃんはなんというか短門に似ているだろう? 雰囲気とか、少しばかり背は足りないけど」

 

・・・・・・・・・。

 

・・・要するに小猫はその短門というもの? にそっくりだから制服を着せようとしているわけだ。

 

・・・まあ、どうでもいいけど。

 

「だからこそ、これを着てほしかった。着てほしかったんだよォォォ!!」

 

森沢が涙を流す。何、泣いてんのか全然分からない。

 

・・・泣くヤツってのは一番面倒だ。

 

「すみません。わかりました、俺が着ましょう」

 

「殺すぞ、この野郎!!」

 

兵藤の莫迦な気遣いに、泣きながら叫ぶ森沢。当然の反応だろうな・・・。

 

男が女ものの制服なんか着て、何の得をするというのか。ただの変態じゃないか。

 

まあコイツは前から変態だけど・・・。

 

すると涙を流していた森沢の視線が私に移る。

 

「あっ、そうだ! キミ、この服着てみてくれないか?」

 

・・・・・・はあ?

 

その服を、着ろ、だと・・・?

 

「・・・な、何でオレがそんなものを」

 

いかん、思わず声が詰まった。まさか、そんなことを言われるとは思っていなかったからだ。

 

「頼む! この際、キミでも構わない! 着てみたら案外似合うかもしれないだろ? だから、頼む!」

 

わ、私が、そ、その服、を・・・?

 

顔が熱くなるのを感じる。頼みなのに着たくないという感情が沸きだす。

 

「こ、断るッ!!」

 

「頼む着てくれ!! キミだって悪魔くんと一緒に来ているんだからいいだろう!」

 

「そんな恥ずかしいもの着れるか!! 大体それ、サイズが合わないんじゃないか!?」

 

サイズを言い訳に拒否しようとしたが・・・

 

「ええと、確か、キミぐらいのサイズの制服が押し入れに入っていったような・・・ああ、あった!」

 

森沢は押し入れを探って、もう1着の制服を取り出す。しかもサイズは私と同じくらいだ。

 

クソッ・・・何でよりにもよって、2着も持っているんだよ!!

 

「お願いします、着てください!!」

 

とうとう土下座までし始めた森沢。私はその姿にたじろいでしまう。

 

うぅ・・・着たくない・・・恥ずかしい!

 

私が困っていると兵藤が話しかける。

 

「なあ、サクラ。俺からも頼む。初めての契約なんだ。それに彼もここまでしてやってるんだからさ。だから頼む!」

 

兵藤が顔の前で手を合わせながら、私に懇願してくる。

 

・・・・・・仕方がない。

 

友人のためだ。あくまでも、友人のためだからな!!

 

「分かった。着てやる。その代わり、着替え終わるまで外に出てろ」

 

「ああ、分かった」

 

制服を受け取って私はそう言う。外へと出ようとする私は男2人に一言。

 

「覗いたら、2度と朝日を拝めないようにしてやる・・・特に兵藤・・・」

 

「何で俺だけ!?」

 

お前が変態だからに決まってるだろうが・・・・・・!!

 

兵藤がツッコミを入れるも、私は2人が出ていく様子を冷たい目で見つめる。

 

2人が完全に出ていくのを確認すると私は制服のほうに向き直る。

 

さて・・・・・・。

 

私は着物の帯を解くと、ハラリとそれを床へと落とす。

 

さらしとパンツだけの肌を晒したような格好になった後、私は制服のスカートを腰に巻く。

 

・・・ふむ。このチャックを上げればいいのか。

 

私はスカートのチャックを締めて身に着ける。後にこれをファスナーだと知ったのは別の話だ。

 

上のブラウスを着ようとしたところ、視線を感じて顔を顰める。

 

扉のほうを見ると男2人が顔を半分覗かせていた。

 

「っ!?」

 

「ブッ!?」

 

私は顔を赤らめながら、金属バットを放り投げる。バットは回転しながら、兵藤の嫌らしい顔面に直撃した。

 

兵藤は後ろに倒れ込んだが、森沢はまだ覗いていたので私は目を更に鋭くする。

 

「ひっ」という小さな悲鳴を上げて慌てて扉を閉める森沢。

 

全く、アイツらは・・・。まあ、契約者に怪我させてないだけいいか。

 

私は気を取り直して、制服のブラウスを羽織る。

 

・・・胸は言うほど大きくないけど少しキツイな。胸なんか無くなるか、小さくなればいいのにと思ってしまう。

 

ブラウスのボタンを締め、リボンをつける。リボンは学校の制服で身につけていることがあるから問題は無い。

 

全ての制服を身につけ、そして2人を呼び出す。

 

「これは・・・」

 

「よく似合ってるじゃないか、キミ!!」

 

「―――っ」

 

私は嬉しくない。こんなの、は、恥ずかしいじゃないか!

 

ああ・・・下がスースーする。

 

顔が熱くなるのを感じる。何だか死にたい気分になる。

 

「チッ・・・」

 

思わず舌打ちをしてしまう私。だんだんと頭が沸騰していく。

 

もう嫌だ・・・帰りたい・・・。

 

「サクラ・・・」

 

「・・・何だよ」

 

兵藤が私の目を見ながら呟く。

 

「お前、可愛いな!! その制服姿」

 

兵藤が変に褒めてきたせいで、私の顔が更に熱くなってきた。

 

「だ、黙れ!! 変態!」

 

私は思わず声を上げてしまう。

 

ああ・・・今日の私、何か変だ・・・。おかしい・・・。

 

「私の思った通りだ! その制服を着ることによって可愛さを引き出す能力があるようだ! いや~予想以上だよ!」

 

森沢のこんな言葉が頭に入らないほどに、私の思考回路はおかしくなっている。

 

「よく似合ってるぜ、サクラ! これでおっぱいが大きかったら文句なしだな!」

 

・・・・・・・・・は?

 

「俺はやっぱり部長ぐらいの大きさのおっぱいが一番いいな! 何せ、おっぱいには夢が詰まってるからな! 大きくしないと俺的にはまだまだだな」

 

・・・・・・・・・。

 

私の顔の熱が引いていく。そして一気に氷のように冷たくなる。

 

私は黙ったまま、床に置いてある金属バットを掴むと兵藤の元に歩み寄る。

 

「んーその制服を着てるってことは、ゲーム的に言えば夜水可子みたいなおっぱいのほうがいいな! だからここはひとつ、ってサクラ? どうしたんだ? 何で金属バットを引きずりながら俺のほうに近寄って来てるの?」

 

・・・・・・・・・。

 

「・・・どうして、そんなに怯えているの? 大丈夫、あなたのふざけた頭はオレがぶち壊してあげる」

 

「な、何だよそれ!? っていうかサクラさん・・・目が濁ってますけど?・・・何か笑みが優しいのに寒気がするんですけど!?」

 

「大丈夫。オレ、あなたを壊す自信があるから」

 

「全然大丈夫じゃないよ!? 壊されたら俺が地獄街道まっしぐらだよ!! っていうか、本当にどうしたんだよ!?」

 

「地獄に逝っても、アイシテルよ? すぐに後を追うからね❤」

 

「な、何の話だよ!? ちょ、サ、サクラさん。や、やめ――――」

 

ドカッ!! バキッ!! ゴキッ!! グチャ!!

 

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・ふん」

 

ああ、スッキリした。心が洗われる気分だ。

 

何か心が侵されていたような気がしたが、まあいいか。

 

私の前には血まみれの兵藤・・・・・・ではなく、すっかり気絶して四肢を投げ出してピクピクしている兵藤の姿があった。

 

・・・・・・この変態め。ド変態め。莫迦。莫迦。莫迦。莫迦。莫迦。

 

「ふ、む。ヤンデレ属性に目覚めるとは・・・キミはやっぱり私の予想以上だったよ。ええと」

 

「・・・・・・桜」

 

「そうそう。サクラさん。またコスプレをしてもらえないか? 小猫ちゃんもだけど、キミも私の好みだよ」

 

森沢がそう言ってくる。またコイツは・・・!

 

そうか・・・これがコスプレというのか・・・ハッキリ言って、もうゴメンなのだが・・・。

 

でも・・・何か知らないけど、楽しかったな。何か知らないけど・・・。

 

私はコクリと頷く。森沢も嬉しそうな顔をしていた。

 

私は悪魔じゃないから契約はできないが、とりあえず彼に携帯の連絡先を紙切れで渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は元の着物に着替え直して、体のあちらこちらに包帯をグルグル巻きにして復活した兵藤と共に森沢と対面している。

 

「キ、キミ。大丈夫なのかい?」

 

「え、ええ。何とか」

 

私もハッキリ言って、さっきの恥ずかしさが抜けていない。まだ顔が熱い・・・。

 

「そうかい? ところでキミたち、特技は何? 悪魔なら何かあるよね? もちろんそこにいるサクラさんも。こう不思議な力的なものが。ちなみに小猫ちゃんは怪力が自慢だったよ。僕、お姫様抱っこされたもの」

 

自慢げに言う森沢。どうせ持ち上げられて興奮してたんだろ。

 

小猫・・・お前も苦労してるんだな・・・称賛に値するぞ。

 

コスプレなんかさせられているお前の気持ちがものすごく分かった気がする。分かりたくもなかったが・・・。

 

それはそれとして、私の特技は・・・。

 

「・・・・・・料理」

 

「キミ、料理が作れるのかい?」

 

「・・・和食ぐらいなら簡単に」

 

「そうかい。今度作ってほしいな。女性に作ってもらった料理を喜ばない男はいないからねぇ」

 

・・・そういうものなのか? まあ、どうでもいいけど。

 

「俺の特技はドラゴン波です」

 

「死んでしまえ」

 

森沢があっさりと吐き捨てる。まあ、普通の反応だろうな。

 

真面目に言ったんだろうと思うが、ドラゴン波が特技って意味がわからないぞ。

 

「なっ! なんスか! その即答はないでしょ! しかもチョー殺気こもってるし!」

 

「こもりたくもなるわ! どこの世界にドラゴン波が特技の悪魔がいるんだよ!」

 

ここに悪魔がもう1人いたら、うんうんと頷きたくなるような言葉を言う。

 

「ここにいるよ! ここに!」

 

「ならやってみろよ!」

 

「ああ、やってやるさ!」

 

兵藤が自分を指さして言うも、抗議の声を上げる森沢。

 

・・・また言い争いが始まったな。面倒臭い。

 

「撃てるもんなら、撃ってみろってんだ! ドラグ・ソボール世代舐めるなよ。僕が小学生の頃には、決まって毎週月曜日の学校の休み時間さ。世界中の豪気だって無駄に集めて、豪気玉だって作ったんだ。なめるなよ、僕らの世代を!」

 

「うるさいっスよ! 直撃世代がなんだってんだ! 俺だって全巻持ってるんだ! 特装版だって全巻初版で買ったわ! 悪友と公園で『気を探すかくれんぼ』だってやったっつーの!」

 

・・・くだらない張り合いすぎて冷めるんだけど。いや、もう冷めてるんだけど。

 

特にこのポンコツ悪魔は本来の目的を忘れてるんじゃないのか?

 

私の心中を察しないまま、兵藤は腕を、多分どこぞの漫画のように構える。

 

「ドラゴン波ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

どこぞの漫画の必殺技の叫び声を上げる兵藤。すると左腕が光り出して、赤い籠手が出現する。

 

くだらないことで神器を出すな、この莫迦は・・・。

 

森沢を見ると何故か号泣していて、本棚から漫画を一冊取り出して、兵藤の手を握って握手する。

 

「語ろうかッッ!」

 

すると兵藤の目からも涙が流れ出す。

 

「ええ、語りましょうッッ!」

 

あ~気持ち悪い。男同士で手を握っているなんて・・・。

 

もう知らない。どうなっても、もう私は知らないぞ。

 

兵藤と森沢は2時間以上も漫画のことを語り始め、私はただ兵藤の背中をジト目で睨むこと以外しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

次の日の放課後。私は部室の扉を開くとそこには異様な光景があった。

 

正座をさせられている兵藤、その前では無言で眉を吊り上げて黙り込むリアス。

 

まるで悪いことをした子供にお母さんがお仕置きをしているかのようだった。

 

「・・・イッセー」

 

「はい!」

 

低く怖い声音を発するリアスに兵藤が上ずったような声で返事をする。

 

私はとりあえず入ると無言でソファーの真ん中に着席した。一緒に来たリリーも私の隣へと着席する。

 

「依頼者と漫画のことを語って、それからどうしたのかしら? 契約は? サクラと一緒にいながらできなかったの?」

 

兵藤から冷や汗がダラダラと流れてくる。余程の恐怖を感じていると言えよう。

 

「け、契約は破談です・・・。あ、朝まで依頼者の森沢さんと、とある漫画のバトルごっこをして過ごしていました!」

 

「バトルごっこ?」

 

「は、はい! ま、漫画のキャラを演じて、お互い空想の戦いを繰り広げる行為です!」

 

ああ、昨日のことか。それで今、兵藤がリアスに説教されているのか。

 

「ぷぷぷ、怒られてやんの。いい気味ね~♪」

 

右隣でリリーがリアスに怒られている兵藤を見て口を抑えて笑っている。コイツには自重するという辞書はないのだろうか。

 

私はテーブルに置いてある紅茶を啜る。

 

「そ、それと、サクラでコスプレ大会をしていました!」

 

っ!!!

 

思わず啜った紅茶を吹きそうになった。ここでその話が来るのかよ・・・!

 

思い出したくもない過去を呼び覚まされて、顔が熱くなる私。

 

「サクラ、説明してちょうだい」

 

「断る」

 

リアスが私のほうに視線を向けて、答えを求めてくる。

 

言えるわけないじゃないか! そんなこと・・・!

 

私はリアスの言葉を即座に否定すると紅茶を再び啜った。また顔が熱くなってきたぞ。この部屋は暖房が利いているのか?

 

怪訝そうな顔をするリアス。そこにリリーが顔を覗かせてくる。

 

「サクラ? 何で顔がリンゴみたいになってるの?・・・!」

 

リリーが私の顔を見て言う。聞くな聞くな聞くな・・・・!

 

リリーは何かを察したように目を開くと兵藤のほうを向いて睨む。

 

「ちょっと、野生ゴリラ! アンタ、サクラに変なことしたんじゃないでしょうね!!」

 

「ち、違うよ! 依頼者が本当は小猫ちゃんにコスプレして欲しくて、それで小猫ちゃんがこれなかったから、そしたらサクラに着てくれって頼まれて!!」

 

兵藤は手を前に振りながら、慌てたように言葉を紡ぐ。

 

「イッセー!!」

 

「は、はいぃぃ!」

 

リアスの言葉に慌てて彼女の方へと向く兵藤。

 

「サクラにコスプレをさせてもらって、それで契約は取らなかったの?」

 

「じ、実はサクラが可愛すぎて、す、すっかり忘れてしまいまして・・・」

 

・・・ハッキリ言っておくが、私の責任ではないぞ。

 

森沢に便乗したこの莫迦で変態なコイツが悪いんだ・・・!

 

「サ、サクラには契約のことに釘を刺されていたのに趣味のことで熱くなってしまって申しわけないと思ってます! じ、自分でも一悪魔として恥ずかしいと思えてなりません! は、反省しています! すいませんでした!」

 

兵藤は謝罪の言葉と共に深く頭を下げる。これを所謂、土下座というものなのか。

 

コイツは本当に、朝まで一体何をしていたんだ。ただ契約者と遊んでただけじゃないか。

 

私は半ば呆れながら、紅茶を啜る。・・・ん、甘い。

 

「・・・契約後、例のチラシにアンケートを書いてもらうことになっているの。依頼者の方に『悪魔との契約はいかがでしたか?』って。チラシに書かれたアンケートはこの紙に表示されるわけだけど・・・」

 

リアスはアンケートの文面が記されているだろう紙を兵藤に向けて見せた。

 

悪魔も最近はビジネスで契約を取っているのか。随分と現代的だな。

 

「・・・『楽しかった。こんなに楽しかったのは初めてです。それにサクラさんもカテゴリーは違ったけど、思い通りのことをしてくれて感服です。イッセーくんとはまた会いたいです。イッセーくんと次はいい契約をしたいと思います。それとサクラさんはイッセーくんと契約したらまた来てくれますか?』・・・。これ、依頼者さんからのアンケートよ」

 

森沢・・・兵藤が何もできなかったのにそんなことを書いてくれたのか。

 

「こんなアンケート初めてだわ。ちょっと、私もどうしていいか分からなかったの。だから、少し反応に困っていたの。そのせいでしかめっ面になってしまっていたんでしょうね」

 

リアスは本当は怒っていなかったのだろう。好プレイと悪プレイが交わっていて、怒っていいのか分からなかったのかもしれない。

 

でもコイツが契約を取っていないのは事実なわけで。ダメ悪魔なのは変わらないわけで・・・。

 

「悪魔にとって大切なことは召喚してくれた人間との確実な契約よ。そしてそれに似合う代価をもらう。そうやって悪魔は永い間、存在していたの。・・・今回のことは私も初めてでどうしていいか分からないわ。悪魔としては失格でしょうけど、依頼者は喜んでくれた・・・」

 

今まで困っていた顔のリアスだったが、ふっと笑みをこぼす。

 

「でも面白いわ。それだけは確実ね。イッセー、あなたは前代未聞尽くめだけど、それでも面白い子ね。意外性ナンバー1の悪魔なのかもしれないわ。けれど基本的なことは守ってね。人間と契約して、願いを叶え、代価をもらう。いいわね?」

 

「はい! がんばります!」

 

元気な声で返事をする兵藤。ご主人様の優しさに救われたな。

 

「ところで・・・」

 

するとリアスが私の方に視線を向けてくる。

 

「サクラ、今度、私が持っているドレスを着てみない? あなたのコスプレが見てみた――――」

 

ギロッ

 

私は今、ものすごく怖い顔をしていただろう。リアスを思わず鋭く睨みつけてしまった。

 

「・・・調子に乗るな」

 

彼女がとんでもないことを言い出したからかもしれない。

 

「い、いえ、何でもないわ。ごめんなさい・・・・・・」

 

リアスが少し冷や汗を流しながら言った。

 

冗談じゃない。2度とあんなものを着るものか・・・。

 

私はリアスの引き攣った顔を確認した後、紅茶を啜るとカップを乱暴にテーブルに置いて廊下へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

旧校舎の洗面台で私はペットボトルの水を頭から被っている。

 

あの莫迦が余計なことを思い出させて、頭が熱くなっているからだ。

 

透明な水が頭の髪を通り、肌に当たって気持ちいい。

 

頭の中の感情の炎が消えていくようだ。でも、まだ完全に消えてはいない。

 

どうしようか。いっそのこと『アレ』を出して、感情を消してしまおうか・・・。

 

・・・いや、やめておこう。アイツらにはまだ知られるわけにはいかないからな。

 

とにかく自分に言い聞かせておこう。自己暗示というヤツで。

 

大丈夫・・・大丈夫・・・。

 

私は冷静だ・・・私は冷静だ・・・。

 

感情に流されるな・・・いつでも冷静になれ・・・。

 

3.14159265359・・・。

 

3.14159265359・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

正直、意味があるのかどうかは分からない。自分でも莫迦らしいなと思えてくる。

 

でも、大分戻ってきたような気がする。感情を捨てた自分が。

 

・・・よし、今日も行くか。

 

私は濡れた髪を振るって滴を掃い、手で掻き上げると私を待っている兵藤の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

深夜。今日も兵藤の自転車が依頼者の元へと向かう。

 

私はいつものように兵藤の後ろに座っている。

 

コイツは魔法陣からワープすることができないので、私が闇の回廊を使うとまた何分もの時間を待たされることになってしまう。そうなるとイライラを募って仕方がないため、私は今回からは兵藤の自転車で依頼者の元に向かうことにした。

 

正直、誤解されそうで面倒臭いな・・・。

 

私は兵藤の彼氏というわけでもないし、相棒になった覚えもない。ただの友人で、今はサポート役なわけで。

 

兵藤の言っていた情報が正確なら、今回は森沢のアパートとは違い、学園から離れたマンションに依頼者がいるらしい。

 

兵藤がかなり飛ばしていても、マンションに着くまでは30分はかかった。

 

前の依頼者よりも待たしてしまっているから、今回の依頼者は怒ってないといいが・・・。

 

そして今、依頼者がいるという部屋のドアの前にいる。

 

「・・・次の依頼者はここか?」

 

「ああ。でも自転車漕いでから大分経ってるし、怒ってないといいけどな・・・」

 

・・・時間にうるさい人だったら怒ってるだろうな。例えばリリーみたいな。

 

呼び鈴を鳴らす兵藤。少しするとインターフォンから反応が返ってくる。

 

『あいてます。どうぞにょ』

 

それは野太い男性の声。

 

・・・ん? 『にょ』? よく考えてみるとこの声、どこかで聞いたことがあるぞ。

 

「っ!? 『にょ』? 『にょ』って言ったか?」

 

「・・・確かに語尾に『にょ』って言ったな」

 

動揺の声を上げる兵藤に、私はコクリと頷きながら応じる。どうかしたのか?

 

私はそう思っていると扉が開かれる。その人物の姿に何故か兵藤が口を開けたまま、体を震わせている。

 

「いらっしゃいにょ。ミルたんだにょ♪」

 

私には到底理解できない決めポーズを交わす、ゴスロリの服を着ている巨漢の男。

 

頭には猫耳を付けていて、私が興奮する圧倒的迫力、鍛え抜かれたような見事な肉体、どこぞの世紀末覇者のような風貌だ。

 

だが着ているゴスロリの服は体にピッチピチで服の上からでも筋肉を凝視できる。今にもボタンや袖口が弾き飛びそうな程だ。

 

・・・うん。そんな男は1人しかいないな。いや、そういえば仲間もいるって聞いたことがあるな。

 

「にょ――――!!」

 

兵藤がおかしな言葉の絶叫を上げて、その場に倒れ込む。本当にどうしたんだ?

 

「・・・ミルたんじゃないか」

 

「おお! 我が同士、サーたん! 遊びに来たにょ?」

 

ちなみに『サーたん』はバイト先での私の呼称だ。ここで言うのはやめてほしい・・・。

 

ミルたんは私のバイトの知り合いで、一緒に働いている。というよりもミルたんは趣味でやっている喫茶店の店長をやっており、私は圧倒的な存在感に興味を持ち、その喫茶店でのバイトをするようになったのだ。いつのまにか仲良くなって、いつしか私を『サーたん』と呼ぶようになった。

 

私は最初は嫌だったが、まあバイト先で言われるぐらいなら問題ないと考え、呼ぶことを許している。それに付けられるのは、そんなに不愉快にはならない。

 

「コイツでは遊んでるけどな。それにしても、お前の家ってここだったのか」

 

「そうだにょ。ここならミルたんの店からも近いし、何よりも悪魔さんを召喚できるからお得だにょ!」

 

・・・ハハハハ! やっぱり面白いな、この純粋なる乙女は。

 

双眸から発せられる凄まじい殺気のようなもの、それとは正反対の無垢な輝きを放つ動物のような瞳。・・・私の好みだ。

 

「サ、サクラ。こ、この漢と知り合いなのか?」

 

「ああ。バイト先のな。ミルたんって言うんだ」

 

「ミ、ミルたん!? ミルたんって何だよ!? こんな姿でそんな呼び方、詐欺もいいところだぞ!?」

 

兵藤が信じられないといったような顔をする。呼び方なんてその人の勝手じゃないか。

 

・・・何よりも、ミルたんは女なんだから詐欺じゃない。

 

「おいおい、見た目で判断するなよ。どんな姿でも乙女は乙女だ。お前、遂に心まで腐ったんじゃないのか」

 

「いやいやいや、見た目で判断したくもなるわ! 筋骨隆々で今にも悪魔を殺せそうな風貌のどこが乙女なんだよ!? おまけに語尾に『にょ』って不可解な言動を発してんだぞ!?」

 

「それのどこがおかしいんだ? ごちゃごちゃうるさい男だな。お前の嫌いな風貌だからって意地悪を言うなよ」

 

「好きとか嫌いとか、そういう問題じゃねえだろ!! どっちにしたって俺には変態にしか見えねえよ!!」

 

「お前のほうが変態だろうが!! ・・・・・・もういいよ、お前の相手は面倒臭い」

 

「俺には目の前にいる依頼者のほうが面倒臭そうに見えるぞ・・・」

 

・・・ミルたんは女だろ。女が女ものの服を着るのは当然。

 

全く、失礼な男だ。セクハラをするなんて、この変態は・・・。

 

ちなみにこの会話はミルたんには聞こえていない。彼女はムキムキの体を逸らしながら、ボディビルディングをしている。うん、乙女だな。

 

兵藤があまりにもうるさいので、私は無視することにする。

 

「まあそれは置いておいて。ミルたん、お前がこの莫迦を呼んだのか?」

 

「そうだにょ。悪魔さんにお願いがあって呼んだんだにょ」

 

兵藤のほうに目線を向けながら問うと、ボディビルディングをしていたミルたんが肯定する。

 

ミルたんが一歩踏み出すたびにドスンと地響きを立てながら揺れる。

 

・・・乙女なのに凄いな。感心するぜ。

 

兵藤が狼狽えているが、私には到底理解できるものではなかった。

 

「ほら兵藤、さっさと願いを聞け。女の願いを叶えてこその男だろ?」

 

「だから女じゃないって!! いつまで勘違いしてんの!? お前の中の何が、コイツを女だと認識させてんだよ!?」

 

私はそう言いながら兵藤の背中を押すも、何故か振り返ってツッコんでくる。勘違いしているのはお前のほうだ。

 

だってツインテールをしているんだぞ。これが女じゃなくて何だって言うんだ。

 

「ミルたんを魔法少女にしてほしいにょ」

 

「異世界にでも転移してください」

 

ミルたんの願いをあっさりと即答する兵藤。前からコイツには期待していないけどな。

 

「それはもう試したにょ」

 

「試したのかよ!!」

 

ミルたんぐらいの乙女ならば異世界を駆け巡って何かを習得しそうだけどな。

 

地響きだけで下っ端の悪魔を怖がらせるくらいだ。きっと何か特別な力でも持っているんだろうな。

 

「悪魔さんッ!!」

 

ドスン!!

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!! ごめんなさいッ!!」

 

地響きを立てるごとに悲鳴を上げる兵藤。思わず謝ってしまうその言動におかしさを覚えた。

 

ミルたんは手をもじもじさせながら口を開く。うん、乙女だな。

 

「ミルたんにファンタジーパワーをくださいにょ」

 

「いや、もうその姿で十分にファンタジーですから」

 

兵藤がまた『無理ですよ』的な言葉を言うとミルたんは両手で顔を覆う。

 

「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇん! ミルたん、魔法の力がほしいにょぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ちょっ、お、落ち着いて! ここで騒ぐのはご近所にあれだから!」

 

泣き始めたミルたんを諌めようとしている兵藤。・・・面倒なことになったな。

 

それにしても兵藤のヤツ。女を泣かせるとは最低だな。男の風上にもおけないな。

 

私は頭を搔いた後、目を瞑って軽く思考する。

 

・・・そうだ。あの方法だったら。

 

「ミルたん。お前を魔法少女にできるかもしれない」

 

「本当かにょ!?」

 

目を開いて声を掛けた私に、ミルたんの顔がパァーッと明るくなった。

 

「ああ」

 

「お、おいサクラ・・・そんなこと言って大丈夫なのかよ・・・?」

 

「オレには魔術師の仲間がいるからな。問題は無い。あとはミルたん次第だな」

 

「少しでも可能性があるならやってみたいにょ!」

 

ミルたんが私に迫ってきた。・・・近場で見るとすごい迫力だな。

 

「・・・分かったから、とりあえず中に入ろうか」

 

 

 

 

 

 

部屋では自分が魔力を使用するときに出現する魔法陣が描かれた布が敷かれている。

 

ここで私は懐から、先が丸い円に羽が付いていて、星形を囲っているステッキを取り出す。

 

「サクラ、何だよそれは?」

 

「見れば分かるだろ。玩具のステッキ」

 

私は可愛いものなどに興味は無い。可愛いものよりも、刃物のほうが欲しい。

 

「それでどうするんだよ?」

 

「まあ、見てろって」

 

私はそう応じると魔法陣の上にそのステッキを置く。そして腰に提げてある短剣を抜く。

 

「ミルたん。お互いの血をこの魔法陣の上に垂らすんだ」

 

私はミルたんにそう言って掌を軽く刃を触れさせて、手を傾けて魔法陣の上に血を垂らす。

 

・・・私の短剣って意外とスッパリ斬れるんだよな。

 

「わかったにょ」

 

ミルたんは承知すると私から短剣を受け取って、掌に刃を触れさせて血を垂らす。

 

・・・よし、材料は揃ったな。

 

「あとは私がこの魔法陣に『魔法少女になりたい』って願いを込めながら、魔力を吹き込んで起動させればいい」

 

私は両手を布の上にかざしながら、魔法陣を起動させる呪文を唱える。

 

・・・魔法少女になりたい・・・魔法少女になりたい・・・魔法少女になりたい・・・。

 

「魔法陣よ、血と願いを糧として、真なる力をここに現せ・・・」

 

私は魔法陣に触れて魔力を注ぎ込む。すると魔法陣が起動してステッキを光が包み込む。

 

光が晴れるとそのステッキは何も変わっていないように見える。

 

「よし。このステッキを使ってみろ」

 

私はそう言ってステッキをミルたんに差し出す。

 

「なあ、そのステッキ何も変わってないみたいなんだけど、本当に成功したのか?」

 

「それを今、確かめるんだろ。ミルたん、オレの言うとおりに呪文を唱えて振ってみろ」

 

「分かったにょ。早速始めるにょ!」

 

ミルたんはステッキを片手に構えのポーズを取る。何のポーズか分からないが、まあいいか。

 

ちなみに言うとこのステッキの魔力は永久に持続する。ミルたんが魔法少女になりたいと思っている限り。

 

「パラリンパラリン マジポップン パラリレパラリレ マージマジ って唱えてみろ」

 

「パラリンパラリン マジポップン パラリレパラリレ マージマジ にょ!!」

 

呪文を唱えるとミルたんの体が光り出す。あまりの輝かしさにイッセーが思わず目を瞑る。

 

しばらくして光が収まると私は少し驚き、兵藤は信じられないものを見るような目をしていた。

 

「あ、アンタ、ミルたんか?」

 

「そうだにょ。どうかしたのかにょ? 悪魔さん」

 

「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

どうやらこの『美少女』はミルたんらしい。

 

まさか、ここまで変わるとは・・・私も正直引いた。

 

あんなにムキムキだった筋肉はなく、すっかりスマートになり、体格も私たちと同じくらいだ。着ている服は変わっていないが、腹の筋肉はなくなっていてギチギチしていた服もサイズにピッタリになっている。厳つい風貌はすっかり美少女のようなきれいな顔になっており、あの面影が全くない。それにあの野太い声も可愛げのある声へと変わっている。

 

私はミルたんに鏡で自分の姿を見せてあげた。

 

「おおぉぉぉ!! ミルたんの憧れの魔法少女になれたにょ!」

 

ミルたんは大いに感動していた。よく分からんが・・・まあいいか。

 

これがミルたんの思っている魔法少女なのか。・・・可愛さが更に増したな。

 

「サーたん! 今度、お礼にミルキー特性の魔法のドリンクを作ってあげるにょ! ミルキーになれたからいけるはずだにょ!」

 

「あ、ああ・・・楽しみにしてるよ・・・」

 

ミルたんが私の手を握りながら言う。私は思わず引いてしまった。

 

ミルたん・・・可愛いのは罪だぞ・・・。

 

・・・このことわざの使い方、間違っていないよな?

 

それにしても、魔法のドリンクか・・・一応、興味はあるが、嫌な予感しかしない・・・。

 

「おいサクラ。ちょっといいか?」

 

兵藤が急に私の腕を引っ張って、部屋の隅へと移動する。

 

さりげなくセクハラをしているコイツだが、ミルたんに知られたくないことでもあったのか?

 

「何だよ?」

 

「何だよ?じゃねえよ! 何なんだよ、あの美少女は!?」

 

「ミルたんだろ。それ以外何に見える」

 

「分かってるよ! そうじゃなくて、何であんなに姿が変わってんだよ!? さっきまで近寄りがたいムキムキの厳つい漢の娘がいたはずなのに、光ったと思えば全く別人の女が立ってるんですけど、どういうことだよ!?」

 

・・・だから別人じゃなくて、ミルたんだろ。そんなことも分からないのか。

 

まあ何はともあれ、私は説明してやることにした。面倒だけど・・・。

 

「ああそれはな、この薬を使ったからかな?」

 

私は懐から液体の入った一つの瓶を取り出す。ちなみにラベルは貼られていない。

 

「何だよ、それ?」

 

「確かアイツが言うには・・・『美少女転換薬』って言ってたかな?」

 

実を言えば、あの超がつくほどの変態野郎から取り上げたものだから、私も詳しくは知らん。

 

「美少女転換薬?」

 

「ああ。確か・・・どんなむさくて暑苦しいおっさんも、10代の美少女の姿へと変えてしまう凄い薬、だったかな?」

 

あくまでも凄い薬とはあの変態野郎の妄言としか思えない。ただの変態じゃないか。

 

「何、だと・・・? そんな素晴ら―――いや、とんでもない薬が存在していたとは!」

 

兵藤の顔が驚愕へと包まれる。更に面白い一言を言ってやる。

 

「私もその薬の効力が知りたかったからな。正直飲ませるのはマズかったから、魔法陣を描いてみたんだ。そしたら成功した」

 

「す、凄いな・・・・・・・」

 

「細かいことは気にしなくていいじゃないか。案外、お前好みの、特にあの胸とか。男にモテそうだぜ」

 

私は美少女になったミルたんを指さしながら言った。

 

「・・・確かに美少女のミルたんはいいかも――――って言いたいけど、さっきの姿がさっきなだけに、付き合うのが引けるっていうか・・・」

 

・・・面倒臭いヤツだな。姿という事実があればそれでいいじゃないか。

 

私は兵藤の前で瓶の中身を振るように左右に揺らす。

 

「・・・じゃあ、この薬はいらないな。処分してくる」

 

「そ、そんな処分だなんて!! 捨てるなんてもったいない! 是非とも俺にください!!」

 

手のひらを返したように懇願するこの男。ホントにどっちなんだよ?

 

「じゃあ、やるよ」

 

「よっしゃあぁぁぁぁぁ!! これであの悪友共を美少女にすれば・・・!」

 

・・・・・・・・。

 

・・・やっぱり兵藤は兵藤だな。

 

私は瓶を兵藤に手渡すと舞い上がる彼を横目に、ミルたんの元によって声を掛ける。

 

「なあミルたん。そのステッキ、両手で構えながらマージマジ、マジチャージって唱えてみろ」

 

「こうかにょ? マージマジ、マジチャージにょ!」

 

ミルたんが呪文を唱えるとステッキの先端に魔法力(?)が集まり始めた。

 

「えっ? 何? なんかステッキからヤバそうなものが集まってるんだけど?」

 

「ミルたんの魔法の力だろ。魔法少女になったんだから」

 

「そりゃ見れば分かるけど、何で俺のほうに向いてるわけ?」

 

「そんなの決まってるじゃないか。・・・・・・・・・」

 

「何で何も言わねぇんだよ!?」

 

「・・・お前に言う必要があると思うのか?」

 

「俺とお前って親友だよな!?」

 

・・・いい加減うるさくなってきたな。マジでキレそうなんだけど。

 

「ミルたん、その魔法は敵がいることによって力を発揮する。見ろ、あそこにうるさくてちょうどいい的がいるぜ」

 

「ま、的って俺のことか!?」

 

「そうだ。それが、何?」

 

「何?じゃねえよ!! な、なあサクラ? 俺たちって、ホントに友達だよね!?」

 

ツッコミから哀願の声へと変わる。本気でウザい・・・。

 

「友人でも腹が立つこともある」

 

「そんなぁ! たかが薬を貰っただけなのに、何で駆除されなくちゃいけないんだよ!?」

 

・・・いい加減、往生しろ。後、察しろ。

 

「ミルたん、あの悪魔さんにステッキを向けてマージマジ、マジパワーって唱えてみろ。エロの化身に乗っ取られた彼を救ってやれ」

 

「エロの化身って何だよ!?」

 

・・・お前のことだよ。お前のその莫迦な頭を少しは矯正しろ。

 

「わかったにょ! 悪魔さん! 宿敵だけど、ミルたんがマジカルパワーで浄化してあげるにょ!」

 

「いや乗っ取られてないから!! 俺はこの通り正常だって!! ピンピンしてるから!! っていうか宿敵って何だよ!? 俺、いつのまにかそんな扱いされてんの!?」

 

「行くにょ! マージマジ、マジパワーにょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ステッキの先端に集まった光がエロの化身に向けて放射される。

 

「ちょっ、待っ、 ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

敵の断末魔のような叫びを上げながら、エロの化身は爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は全身から煙を出しながら倒れているエロの化身――――もとい兵藤に寄ってみる。

 

・・・・・・うん。浄化されたな、エロの化身は。

 

瓶の薬もミルたんが蒸発させてくれたし、この莫迦に悪用されることも無くなっただろう。

 

「ミルたん、やったな。エロの化身は浄化されたよ。これでもう、お前に教えることは何もない」

 

「サーたん! いえ、師匠! ありがとうございましたにょ!」

 

ミルたんが私に向かってお辞儀をする。ふむ、悪くはないな。

 

「これからも他人のために正義を貫いてくれ」

 

「はいにょ!」

 

ミルたんが元気に返事をする。

 

こうして悪は滅んだ。

 

でも、世界にはまた新たな悪が目覚めようとしている。恐怖と腹の立つ奴を生み出すために。

 

これからも正義のために愛のために戦え、ミルたん!!

 

がんばれ、ミルたん!! 負けるな、ミルたん!!

 

・・・・・・なんてな。

 

茶番はこのぐらいでいいか。

 

「さてと。ところでミルたん。その恰好は一体何なんだ?」

 

「魔法少女ミルキースパイラルだにょ」

 

・・・そんな、斬新な作品があるのか。世の中はくだらないものが多いな。

 

「何だ、それは?」

 

でも興味はあったので聞いてみた。するとミルたんは棚からDVDを取り出して持ってきた。

 

あの地響きのような動きはなく、ルンルンとした美少女の歩き方だった。

 

「これがミルキースパイラルにょ。魔法はここから始まったんだにょ」

 

パッケージを見ると『魔法少女ミルキースパイラル7 オルタナティブ』と書かれていた。

 

・・・さっきの名前とどう違うんだ? まあどうでもいいが。

 

「へぇー、面白そうじゃないか」

 

「良かったら、一緒にみるにょ!」

 

こうして私はミルたんと一緒にそのミルキースパイラルとやらを見ることになった。

 

・・・何か、忘れてるような気がするんだが。

 

まあ、いいか。どうせ怒られるのはそこの莫迦なんだし。

 

未だに伸びている兵藤は無視して、私の無駄に長い夜が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、アンケートにこんなことが書かれていたという。

 

『ついに念願の魔法少女になることができたにょ。

 

 サーたんとは今度一緒に魔獣狩りに行きたいにょ。

 

 あと悪魔さんにもまた会いたいにょ。

 

 楽しかったのでまた契約しましょうにょ。    』

 

 

その際にリアスにサーたんのことを聞かれたが、私は無視を決め込んだ。

 




今回はこれまで! アクマのおしごとはまだまだ続きますよ!
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