極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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番外編2「アクマのおしごと 後編」

「ふわぁ~」

 

・・・眠い。

 

私は今、寝床を探している。今の時間帯は私にとって退屈なものでしかない。寝るのに限る。

 

そもそもオッサンの語る英語なんかに興味は無い。聞いてると退屈でイライラしてウザい。それ以前に私はもう教科書は全て暗記している。受ける意味なんてないわけだ。

 

そんなことするくらいなら、小学校の算数ドリルや高校入試の英語の過去問でも解いてたほうが余程いい。

 

まあ、やらないけどな・・・私は眠いんだ・・・。頭なんか使いたくない。

 

どこか寝れる場所・・・音楽室、は今授業で使ってるし・・・屋上、は階段上るの疲れるし・・・。

 

このまま、廊下の隅にでも眠ってしまおうか・・・。

 

いや、邪魔されるな・・・。寝てる最中に話しかけられるのもウザいし。

 

・・・・・・そうだ。

 

保健室があったな。そこならベッドがあるはず・・・。よし、そこにしよう。

 

私は頭を搔きながら、保健室へと怠い足を運んだ。

 

たどり着いて保健室への扉を開けると中は真っ暗だ。誰もいないのか? 先生ですらも?

 

・・・まあいい。別に来ようが来まいが私には関係の無いことだ。

 

私は2つあるベッドのうちの手前にあるベッドのカーテンを開ける。そしてその上に体をダイブさせる。

 

白いシーツは肌触りがよくて、私の苛立っている気分を落ち着かせてくれる。

 

・・・ベッド最高。もう何もしたくないな。

 

私は下半身もふとんの中に入れて横になると、首のあたりにまでふとんで覆う。

 

薄い布団だけど、まあ寝るには申し分ないな。

 

・・・おっと、カーテンを閉めないと人影が鬱陶しいしな。

 

私はカーテンを閉めて再び横になる。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・つまらん。

 

1人は寂しいな。でも、誰かと一緒にいたいわけじゃない。

 

人間同士の付き合いなんて鬱陶しいだけだ。鬱陶しいだけ。

 

そんなことするくらいなら、お人形と話していたほうがずっといい。

 

姉さんやアイツらがいない私は、もう・・・。

 

私はそのまま眠りへと落ちていった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

俺――――兵藤一誠は今、体育の授業の真っ最中だ。

 

校庭のグラウンドでは女生徒たちが柔軟のストレッチを行っており、アーシアもそれに混ざっている。

 

俺はストレッチには参加せずに、悪友と共に女生徒たちを眺めているだけだ。

 

でも、それ以前に体が怠い。悪魔になったことで日の光を浴びているだけでも、体に突き刺すような感覚がある。

 

朝だってあまり起きれないんだ。昼の体育の授業だって外でやるんだからキツイに決まってるよな・・・。これが体育館だったらまだいけるかもしれないけど。

 

「ん~むむむぅぅ! 念を集中していれば、いつしかブルマがパンティーに見えてくるはず!」

 

「見えるぞ元浜! 俺にも見える! 紺色のブルマがいつしか白くぅぅぅ!」

 

俺の前では元浜と松田が女生徒たちを凝視しながら、相も変わらない最低な発言をしている。お前らは元気でいいぜ・・・。

 

今の俺にはその悪友2人の行動に便乗する気力は無い。そのくらい体調があまり芳しくなかった。

 

サクラはこういうときどうするんだろうな。この2人の顔を殴ってでも止めるんだろうか?・・・・・・うん、そうだな。そうするに違いないな。

 

俺はシキにだけはエロいことや妄想はしないと決めている。一応、アイツは俺の友人だからな。女であってもやましいことなんかできない。胸だけは格別なんだけどな、部長程ではないけど・・・。

 

って何でここで部長が出てくるんだ!? 今はサクラの話をしていたはずなのに! そりゃ確かにサクラのおっぱいも可愛いけど――――って何考えてるんだよ俺は!?

 

・・・・・・疲れてるから要らんことを考えてしまうんだろう。もう授業ふけて寝ちまおう。日差しもキツイし・・・。

 

俺は悪友2人を放置したまま、怠い体を動かしながら保健室へと赴いた。

 

扉を開けると部屋の中は真っ暗だ。先生は・・・いないみたいだな。

 

仕方がない、来るまでベッドに横になっていよう。

 

俺は手前のベッドのカーテンを開くが、そこでは誰かが横になっていた。

 

「ああ、すみません」

 

俺はカーテンを閉め直す。誰かは分からないけど、寝てるのに起こしたらマズイしな。

 

隣のベッドのカーテンを開くとそこには誰もいない。ここで少し横にならせてもらおう。

 

俺はカーテンを閉めると枕の上に頭を載せて、ベッドの上に仰向けになった。

 

今思うと契約、成功した試しがないなぁ。前にやったミルたんの時だって結局は破談しちまったし、部長の顔もまた困っていたような感じだったしな。

 

あの日、調子に乗った俺はサクラから制裁を受けて気絶した。復活した後に3人で『魔法少女ミルキースパイラル7 オルタナティブ』のアニメDVDを鑑賞していた。あれにサクラが見入っていたのにも驚いた。サクラって魔法少女が好きなのかな?

 

それはともかく最初はバカにして真面目に見ようと思わなかった俺だったが、魔法少女のくせに無駄に高いクオリティと泣けるシナリオに興奮して朝まで見てしまった。

 

それにしても、何で俺の契約者は変態ばかりなんだ・・・。たまには俺もお姉さんとかに呼ばれたい。

 

要らんことを考えているうちに眠りへと付いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・ん。

 

・・・あれ。俺って確か・・・・・・。

 

ええと、体育の授業が怠くて保健室に行ってて・・・。

 

ああ、そうだ。保健の先生待ってたら、いつのまにか寝ちゃったんだ。

 

目を開くと最初に見えたのは明かりの点いていない蛍光灯。薄暗いな・・・先生まだ来ていないのか?

 

顔を横に向けると次に見えたのは、雪のように白いおっぱいとストロベリーブロンドの紅い髪。

 

・・・・・・え?

 

疑問に思い視線を少し動かして確認するとその人は俺の知っている顔だった。

 

・・・・・・・・・。

 

「っ!? ぶ、部長!?」

 

思わず叫んでしまう俺。こ、これは一体、どういう状況でしょうか!?

 

・・・何で部長が俺と同じベッドの上に・・・しかもよく見たら全裸で・・・。

 

ああ・・・て、手が勝手にぃぃ・・・!

 

俺の右手が眠っている部長の豊満なおっぱいに吸い込まれそうになる。

 

よせ!! 止めるんだ、俺の右手ェ!! 仮にも部長のおっぱいを揉もうだなんて!!

 

ああでも、あと少し・・・! あともう少しで部長のおっぱいを・・・!

 

と気付くと眠っていたはずの部長の目がぱっちりと開いていた。

 

「っ!? うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「あら、イッセー。ふぁぁぁぁ」

 

大声を上げる俺に対して、あくびをひとつする部長。

 

クソォ・・・あとちょっとで宝石のような部長のおっぱいを触れたのに、じゃなくて!!

 

危ねぇ・・・もう少しで危険な階段を上るところだった!!

 

「あ、あの、この状況は・・・?」

 

「ちょっと気怠くて仮眠をとろうかと思ったのよ。そしたら隣は先に誰かが寝ているし、その隣にはイッセーが寝ていて――――あっ、いけない」

 

部長は状況を説明していたときに、悪魔の翼が出ていたのに気づき翼をしまった。

 

要するに寝ていた俺のベッドに一緒に寝ていたってことだよな。なるほど。俺が少し寝ている間にそんなシチュエーションが展開していたのか!

 

「お邪魔だった?」

 

部長が俺の頬に手を添えながら言う。お邪魔!? とんでもありません!! 感服です!!

 

「いえ。でも、全裸で仮眠というのはいささか過激では?」

 

「私、裸じゃないと眠れないのよ」

 

部長が優しい顔で俺のことをマジマジと見てくる。

 

「イッセーは女の子の胸が好きなの?」

 

「はい! 大好きです!!」

 

俺は即答した。当然だろう。こんなところで嘘なんかつけるわけがない。俺はエロで動く1人の男子です!

 

すると小悪魔的な微笑を浮かべながら衝撃的な一言を口にする。

 

「私の胸、触ってみる?」

 

・・・何、だと・・・? おっぱいを触ってみる?・・・だと・・・?

 

そんな素晴らしい日本語がこの世に存在していたのか!? 俺の言われてみたいランキング上位に入るあの言葉を!!

 

その瞬間、俺のエロへの理性の鎖ははち切れた。

 

触りたい! 揉みたい! やっぱり男の夢でしょこれは!!

 

「お願いを聞いてくれたら触らせてあげてもいいわ」

 

「はい! 何なりと!!」

 

脳内がお花畑の俺は即答する。なんですか!? おっぱいを揉むためなら何でもしますよ!! 部長さま!! お姉さま!!

 

頭の中がすでにピンク色の俺に部長はにこやかな顔で言う。

 

「契約を一つ、取ってみなさい」

 

「はい! お安い御用です!!」

 

おっぱいのためなら契約の1つでもとってみせましょう!! まあ、今まで成功したことないけどな・・・。

 

「・・・んん・・ああぁ・・・うるさい・・・何だよ、人がせっかく気持ちよく寝てるのに・・・」

 

ふと背後、正確には隣のベッドから声が聞こえてきた。ってこの声、俺知ってるぞ。

 

背後のカーテンが開かれるとそこには男にも女にも顔立ちの人物が横になりながら不機嫌そうにこちらを見ていた。

 

「サクラ?」

 

「サ、サクラ!? お前、いつからそこに!?」

 

「さっきからここにいた。お前らが後から入ってきたんだろうが」

 

ということは俺の桃色の思考も聞かれてたり・・・。いや、それはないな、だってさっきまで寝てたわけだ。聞いているわけがないよな。

 

サクラは不満を漏らすかのように溜息を吐きながら言葉を続ける。

 

「・・・おかげで目が冴えた。うるさい授業すっぽかして、静かな昼寝場所を見つけたっていうのにどうしてくれるんだよ・・・台無しだ」

 

「ごめんなさい。この子ったら煩悩に忠実みたいで興奮しちゃってるみたいなの」

 

部長、その通りです! 俺は今、煩悩に溢れているんです!! おっぱいが揉みたくて仕方がないんです!

 

ってそうじゃなくて! 何、サクラに誤解を与えるようなことを言っているんですか!? 殺されちゃいますよ、俺!!

 

「へぇー、オレにはそんな態度も顔も見せたこと無いのになぁ・・・」

 

ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・。

 

え、な、何? なんかサクラさんから黒いオーラが垂れ流しになっているんですけど・・・?

 

不敵な笑みで見つめているだけなのに悪寒が体中を走ってくるんですけど!?

 

「サ、サクラ! これはその、違うぞ! 俺はやましいことをしたかったわけじゃなく――――」

 

「・・・全裸のリアス部長に抱かれて寝ていたお前が、やましいことをしたかったわけじゃなくて・・・何?」

 

体をこちらに向けて頭を腕に付き、笑みから不機嫌な顔に戻ったシキが低い声色を放つ。怖い!! 怖すぎる!!

 

っていうか、部長が全裸の時点でサクラにはどう見たってエロいことしているようにしか見えないじゃないか!! 言い訳しても説得力ないぞ!?

 

そう思っていてもサクラに殺されたくない生存本能なのか、俺は必死に言い訳をしてしまう。

 

「これはその・・・先輩と後輩の付き合いってヤツだ! 俺だって先輩と一緒に寝ることの一つぐらいあるんだよ!!」

 

付き合いで全裸になるとかありえないだろ!! 俺の馬鹿野郎め!! どっちかが裸でも両者裸でも同じじゃないか!!

 

「ふーん? 付き合いでお前は部長を全裸にするんだぁ・・・?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・。

 

黒いオーラが更に酷くなった!? マズイ、サクラがキレそうだ!!

 

っていうか、サクラ完全に誤解しているぞ!! 俺はまだ何もしていない!!

 

「違う!! 俺は別に部長を脱がしてなんかいない!! 変態でもない!! 起きたら目の前に全裸の部長がいて――――すみません、二度と言い訳しませんから、腰の短剣をしまってください」

 

後半から腰の剣に手が伸びているサクラを見て、思わずベッドとベッドの間で土下座して謝罪をしてしまう俺。見ている人には女王様に命乞いをする部下にしか見えないだろう。

 

・・・もう言ってることが無茶苦茶だもんな。サクラに恐怖しているせいかもしれない。

 

っていうかサクラは刃物を普通に校内で持ち込んでいるけど先生に怒られないのだろうか?

 

そう言えば、サクラに説教をした教師が病院送りになったという噂を聞いたような・・・。

 

・・・いや、この話はやめよう。正直言って縁起でもない。

 

女生徒たちが怒り狂って教師にあんなことやこんなことをしたわけじゃないもんな。うん。

 

「はぁ・・・もういい」

 

溜息を吐いたサクラが言う。その声には幾分呆れが含まれているような気がした。

 

「ところで――――」

 

体を起こしてベッドの上に座る形になったサクラが言う。

 

「部長、兵藤が今夜また契約に取りに行くらしいな」

 

「ええ、そうよ」

 

サクラが首を横に倒し、不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

「・・・俺も乗っていいか?」

 

えぇ!? サクラがまた付き合うの!?

 

それは俺の悪魔家業に参加する波乱のような一言だった。

 

「ンガッ!?」

 

「・・・オレの昼寝を邪魔した罰だ」

 

サクラに顔を蹴られたのは、その直後だ。掠れたような声で呟く。大声出してたもんなぁ・・・俺。

 

短剣で斬り殺されるよりもマシだと思ったのは、俺の生存本能のせいかもしれないな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「ただいま到着しました!」

 

元気な声で返事をするアーシア。兵藤とアーシア、私とリリーは授業が終わるなり部室へと足を運んだ。

 

「あらあら、イッセーくんアーシアちゃんサクラさんリリーちゃん、早いですね。お茶、いかが?」

 

ニコニコとしている姫島が私たちを出迎えてくれた。

 

「もらいます!」

 

兵藤の返事を聞くなり姫島はポットのお湯を急須に注ぐ。どうやら私たち以外の面子は揃っていたようだ。

 

「・・・紅茶はあるか?」

 

「もちろん、ありますわよ」

 

「・・・頂こう」

 

「あっ、私もください」

 

私とリリーの返事を聞くと姫島がティーカップにお湯を注ぎ、ティーバッグを泳がせる。いい色をしているな、この紅茶は。

 

「やあ、小猫ちゃん」

 

「・・・どうも」

 

部屋の一角にいる小猫に兵藤が挨拶をする。無表情に返す小猫。

 

「小猫ちゃーん!」

 

「どわぁっ!?」

 

リリーが兵藤を突き飛ばして小猫に駆け寄り、懐から箱を取り出す。

 

「今日はチーズケーキを持ってきたの♪ 食べる?」

 

「・・・いただきます」

 

小猫はリリーの問いに即答する。余程甘いものが好きなんだな、小猫は。今度、私のバイト先も紹介してやろうかな。

 

「やあ、サクラさんにリリーさん」

 

私たちに手を上げて挨拶をしてくるイケメンがいた。さわやかフェイスで人気のある木場である。

 

私はその挨拶に無表情のままコクリと頷く。

 

「裕斗くん、ヤッホー!」

 

リリーは元気よく挨拶を交わす。・・・男嫌いじゃなかったっけ?

 

「やあ、イッセーくん」

 

「あー、はいはい」

 

木場の挨拶に兵藤は嫌そうな顔で適当な感じで手を振る。イケメンってそんなに悪いものなのか? 私には分からん。

 

その態度にしかめっ面を向けていたのはリリーだった。兵藤に歩み寄って平手打ちをかます。

 

「ブファッ!?」

 

何ともマヌケな声を上げて、兵藤が倒れ込む。そういえば、リリーは兵藤が嫌いだったんだっけな。

 

「な、何するの? リリーちゃん」

 

「フン! これだからブサ男は・・・」

 

叩かれた頬を抑えながら問いかける兵藤に、リリーは不機嫌な顔で忌々しそうに呟く。

 

「はいはい。全員そろったわね。それじゃ、お話でも始めましょうか」

 

兵藤とリリーのいざこざに苦笑しつつも、リアスは私たちのことを確認するなり告げた。私と部員たちはテーブルを囲むようにしてソファに座る。上座にはリアス。定例のオカルト研究部の会議が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

「私が監督役としてイッセーに付き添うわ」

 

夜まで続いた会議が兵藤が契約しにいく話になったときに、開口一番にリアスが発した。

 

兵藤はこれまでに悪魔の仕事で不甲斐ない結果を残してきている。いまだに契約を一つも結んでおらず、それどころか依頼者と遊んでいるだけ。私がフォローしていながら、何とも情けない限りだ。本当にコイツは何してんだろうな。悪魔の世界だったら笑い者もいいとこだと思うが・・・。

 

依頼者と仲良くなるのはいいことだとは思うが、それとこれとは話が別だ。友達付き合いとしてではなく、仕事して来ているのだから依頼者の願いを叶えて契約を取らなければ意味がない。リアスもそんな兵藤の成績に頭を悩ませているから、今回の発言に至ったのだろう。

 

「・・・下品な妄想禁止」

 

ふと小猫がジト目で無表情な一言を呟く。相手は無論、ここに嫌らしい顔をしている兵藤だろう。

 

どうせ上級悪魔になってハーレム王になって、一夫多妻を築こうと妄想しているんだろう。ハッ、まずありえないな。

 

「・・・何、鼻伸ばしてんのよ」

 

リリーもジト目で睨みながら言う。私も正直言って不愉快だったので、ジト目で睨んでいた。

 

「フフフ、嫌らしい笑顔をしていたよ」

 

木場が爽やかに言う。全くだ。本当に不明瞭でだらしのない顔をしていたぞ。

 

この一言に兵藤がキレた。

 

「うるせぇぇぇぇぇっ!! 木場ぁぁぁぁぁっ!! 俺はお前と違って妄想の中でしかモテないんだよ!! 脳内でしかエロいことができないんだよ!! 俺の妄想は俺のモンだ!! ちくしょう!! 俺だってイケメンに生まれたかった!! サクラみたいな女にチヤホヤされるような人間になりたかった!! リリーちゃんみたいな可愛い子に生まれたかったんだよぉぉぉ!! 地球上のイケメンなんかみんないなくなっちまえばいいんだ!! ハーレムを作る霊長類はみんな敵だぁぁぁ!!」

 

涙目になりながら怨恨を叫び散らす私の友人。別に木場はハーレムを作るほどのキザな男でもない気がするが・・・。

 

「ガハッ!?」

 

鈍い音と共に兵藤の脳天に何かが飛んでくる。これは・・・ティーカップか?

 

飛んできた方向を見てみると・・・やっぱりな。投げたのは不機嫌な顔をしているリリーだった。

 

「うるっさいわねッ!! 静かにしなさいよ、この山猿ッ!! ったく、性欲男ってどうしてこう変なことばっかり考えてるのかしら!! 死ねばいいのに!!」

 

忌々しそうに吐く金髪少女の叫び。それを言うなら動物を可愛がっているときのお前の顔も大して変わらないと思うぞ。

 

「うぅぅ、部長ぉ・・・」

 

「もう、泣かないの。それとリリーもあんまりイッセーをいじめないの」

 

脳天にぶつけられたティーカップがトドメとなったかどうかはしらないが、すすり泣く兵藤の頭をリアスが撫でる。

 

リアスに注意されたリリーが「フン」っと鼻を鳴らす。

 

「リリーさん、ティーカップ投げちゃダメですよぉ・・・」

 

「五月蠅いッ。やましいことを考える男なんかこの世から消えていなくなってしまえばいいのよ!!」

 

アーシアが宥めようとするも、リリーは両腕を振り上げながら不満を漏らす。

 

「イッセー、霊長類ってあなた、チンパンジーやゴリラまで敵視するつもりなの?」

 

「うぅぅ、俺もモテるんだったらデスメタル並みのイカしたドラミングしますよ・・・。何で人間はゴリラから進化しなかったんだ・・・」

 

何を悩んでいるのかは知らないが、結構滅茶苦茶なことを口走ってると思うぞ。

 

「ふざけんじゃないわよ、ゴリラから進化するなんて!! 筋肉もりもりの黒い胸毛猿になって胸を叩けってか!! ウホウホ唸るのもゴメンだっつーの!!」

 

「リリーさん・・・ツッコむところ違うと思いますよぉ・・・」

 

リリーも大分意味のわからないことを言っている。アーシアが困惑しているのが目に入らないのか?

 

そのとき部室の床の巨大な魔法陣が青白く光り出す。これはこの町に住む誰かが、悪魔を召喚しようとしている証拠なのだ。

 

姫島が魔法陣のもとに歩み寄ると手をかざして調べ出した。ものの数秒ほど確認を取ると私たちに笑みを向ける。

 

「部長、イッセーくんでも解決できそうな願いみたいです」

 

「わかったわ。さて、イッセー、サクラ行くわよ」

 

私はコクリと頷くと魔法陣の転移場所を青い目で把握した後に、黒いゲートを展開する。

 

「・・・先に行ってる」

 

「ええ、わかったわ」

 

リアスからも了承を得ると私は黒いゲートへと歩み寄る。

 

「サクラさん、がんばってください!」

 

「サクラー、がんばってね!!」

 

私は2つの高い声に振り返ると笑みを浮かべ、そのまま黒いゲートへと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒いゲートが晴れた先はどこかの一室だった。部屋の構造から考えてどこかのアパートだろう。

 

横を見ればすでに兵藤とリアスがおり、どうやらほぼ同時に目的地にたどりついたようだ。

 

部屋を見渡してみると私が好きな刀――――もとい模造刀が鞘に収まったまま飾ってあり、城のポスターが壁のあちらこちらに貼り付けてある。『風林火山』と筆書きされた書が何とも印象的だった。まあ、とにかく戦国時代に関わるグッズが多かった。

 

その中でなんと言っても気になるのは、武将の鎧がいくつか飾ってあるということ。すごいな・・・これって「当世具足」という名前の鎧じゃないか。私は思わず感嘆してしまった。

 

部屋は少々薄暗かったが、提灯や行灯には火が付いている。

 

ここの依頼者は私と同じ趣向の人間なのだろうか。私も自分の部屋を好きでやっているが、結構昔のものを装飾したりもしているし。

 

「おわっ!」

 

兵藤が近くの鎧を見て声を出して驚いた。何で驚く必要があるんだ?

 

「うるさいぞ、兵藤」

 

「いや、だって、こんな鎧がいきなり目の前にあったら普通は驚くだろう?」

 

・・・確かに驚く。こんなものを持ってるなんてすごいな、という意味ではな。

 

まあ感心するのはここまでにしておいて・・・。

 

「ほら、早く依頼者の願いを聞け」

 

「いやあ、そんなこと言われても、どこに依頼者がいるんだ?」

 

今までは自分の正体を露わにして登場していた依頼者と会話をしていたせいか、兵藤はどこにいるのかが分からないのだろう。

 

でも私には分かった。一つだけ体温の高い鎧がすぐそこにあるからな。

 

「・・・いるじゃないか」

 

「どこにだよ?」

 

「ほら、あの人の顔があるかのような鎧」

 

「えっ?」

 

私が指をさしてやるとキョロキョロしていた兵藤の視線がその鎧の方へと向く。

 

「あ、あの・・・」

 

ガシャン

 

「うわっ!」

 

女の声と共に鎧が動き出す。体温を感じなければ何か仕掛けがあるんじゃないかと誤解してしまいそうな動きだ。

 

兵藤は思わず声を上げて驚く。どこからどう見ても肌を晒していないので鎧が歩いていると思ってしまうだろう。

 

「あ、悪魔の方ですか・・・」

 

顔面を覆うマスクから可愛らしい女の子の声が聞こえてくる。この人は女性なのか?

 

鎧の迫力なのか兵藤は後ろめたそうにしているような感じだ。

 

「は、はい。悪魔です」

 

兵藤は驚きを隠しながらもコクリと頷いた。私にはビビっているのがバレバレだけどな。

 

「ほ、本当に悪魔を呼び出してしまったんですね・・・私・・・」

 

「あ、あのう・・・失礼ですが、女性の方ですか?」

 

まあ莫迦には鎧姿では性別なんか分からないよな。私は声で分かったけど。

 

「ハイ、私スーザンって言います。日本の文化に憧れて来日した、留学生です」

 

留学生なのか・・・人ってのは何らかに染まるとこんなに破綻した部屋になってしまうんだな。

 

他にも例えば壁中に好きな人の写真を貼って・・・いや、なんでもない。

 

「え、えぇ・・・でも、その姿は・・・?」

 

私もそれは思った。普通なら素顔でご対面するのが筋というものではないだろうか。

 

それにしてもこの鎧、銃弾や剣さえも防ぐことができそうな見事な鎧だ。戦争になれば実用できそうなくらい。

 

「ご、ごめんなさい・・・深夜だと何かと物騒だから、ついこうやって鎧で身を固めてしまって・・・」

 

「それ、何か違うと思いますよ・・・」

 

モジモジしながら言うスーザンに対して、少々呆れ気味のツッコミを入れる兵藤。

 

私はその姿は嫌いじゃないけどな。敵は簡単に素顔を晒さないのが基本。そのための鎧だ。

 

ギラギラと光る鋭い眼光、プレッシャー・・・うん、私の好物だな。興奮してしまう。

 

「でもよかったです、優しい悪魔さんで・・・怖い悪魔さんだったら、この『鬼神丸国重』を抜かざるを得ないかとッ!」

 

シュパッ!!

 

「うわあぁぁぁ!? 抜いてる抜いてるぅ!!」

 

剣を構えから堂、そして鞘から抜き出した物騒な留学生。しかもレプリカではなく本物だ。思わず驚いたような大声を上げてしまう兵藤。

 

いきなり剣を抜き出すとは・・・やるな、この依頼者。思わず腰の短剣を構えてしまったよ・・・。

 

とりあえず落ち着いてもらわないと話にならないので、私は台所を借りて急須で湯飲みにお茶を注いで3人に出してやった。

 

「美味い!」

 

「はああ・・・こんなに美味しいお茶は始めてですぅ・・・うちのお茶葉でこんなに美味しいお茶を入れられるなんて・・・」

 

「本当、朱乃にも劣らないほどよ、サクラ」

 

以上は私の入れたお茶を飲んだ3人の感想だ。普通にお茶葉を湯引きしただけなのに、大袈裟すぎると思うが・・・。まあ、どうでもいいか。

 

ここで私は肘で兵藤のことを突く。眠いんだから、兵藤にはさっさと契約してもらわないとな。

 

「ああ。スーザンさん、あなたのお願いって・・・」

 

そう尋ねるとスーザンはクスンクスンと手で顔を覆って泣き出してしまった。鎧姿で泣くとか、シュールだな。

 

「私の通ってる大学まで、一緒にノートを取りに行ってください・・・」

 

「は?それだけ?」

 

「深夜の大学は怖いんですよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

私もそうは思ったが、兵藤がそんな理由?という感じで言うとスーザンががばっと涙顔で叫ぶ。まあ、実際はどんな顔してるのか分からないが。

 

うっうっとすすり泣いているスーザンに、兵藤は呆れたような顔でこう言った。

 

「あんたが一番怖いわ・・・」

 

「ふわぁ~」

 

私はただつまらなそうに、欠伸をしているだけだった。ホント・・・つまらない・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャンガシャンと鎧が音を立てて住宅街を徘徊する。

 

兵藤とリアスはスーザンの願いを聞き入れ、今現在、私と兵藤の2人でノートを忘れたという大学まで向かっている。

 

ちなみにリアスは部屋で待機中だ。監督者が依頼を遂行しては意味がないからな。

 

鎧姿が夜道を歩いているなんて怪奇現象でも起こっているんじゃないかと思うが、私はこの鎧姿の人物が落武者だったら余計に面白いかもしれないと思った。そうでなくても彼女は鎧姿で歩いているせいもあって闇夜の住人である悪魔よりも雰囲気が出ている。

 

リアスが「人間にしておくのがもったいない逸材ね」とか言っていたが、何の話だ?

 

兵藤は困ったような顔をして歩いていたが、私はむしろ感情があったら笑いたい。だって兵藤の依頼者が変人ばかりだからだ。ホントに災難だな。

 

スーザンは明日大学で使うノートを忘れてきてしまい、困っていたところに悪魔を呼び出すチラシが目に入り、悪魔を召喚してしまったらしい。

 

大した願いでもないので、兵藤は代価は要らないと判断したのだが、本人がどうしても払いたいというので部屋に飾ってあった城の模型をすでにもらっている。ちなみにすでに組み立ててあるものだ。

 

「うあぁぁぁぁぁっ!! うあぁぁ! うあぁぁぁぁぁっ!!」

 

突然スーザンが刀を抜き、悲鳴を上げながら振り回し始めた。明らかに空を斬っているが、怨霊でも見えたのだろうか・・・。

 

「うわっ、ちょっ、何スか!?」

 

「どうしたんだよ、キーキー喚いて」

 

「す、すみません・・・夜の街が怖くて・・・」

 

「だから怖いのはあんただって!!」

 

兵藤がツッコむが、うるさいのはいつものことなので気にしない。

 

それにしても、あの剣の太刀筋は凄いな。とても単に剣を持っている人とは思えないほどの腕の持ち主だ。

 

人間とは恐怖を感じると何かを振り回してしまう生き物なのだろう。兵藤も危うく斬られるところだったし、私も思わず腰の剣を構えてしまったぞ。

 

私は溜息を付いた後、怯えているスーザンに話しかける。

 

「スーザン、オレたちがついているんだから大丈夫だ。剣をしまえ」

 

「うぅ、ありがとうございますぅ・・・」

 

堂々と歩く鎧武者なんか傍から見ればどうかとは思うかもしれないが、私は気にしないな。むしろ面白いと思える。

 

というか本当に変人ばかりで大丈夫なのか、この街は?

 

とりあえず落ち着かせるためにスーザンと話をすることに決めた。

 

「なあスーザン、結構いい刀を持っているな」

 

「は、はい。これは『鬼神丸国重』と言いまして、私が大阪府へと修学旅行に行ったときに買ったものなんです」

 

「ふーん。でもその刀って本物だよな?」

 

「はい。最近、世の中物騒ですから・・・怖い人や悪い人に絡まれてしまったらこの『鬼神丸国重』をこんな風にスパッと――――」

 

ビュンッ!!

 

「うわぁっ!」

 

「あ、すみません・・・つい癖で・・・」

 

「もう、あんたわざとやってんだろ!?」

 

思わず刀を振って兵藤を斬り殺そうになるスーザン。私たちが両脇にいるのを察してくれよ・・・。

 

『鬼神丸国重』と言えば、あの有名な新撰組の1人である斎藤一が使ったとされる刀だったはず。そんな貴重なものが大阪府にあったということはこの依頼者はかなりの幸運に恵まれていたことが分かる。

 

というか刀ってのは警察署や教育委員会などに許可証を貰わないと持ち歩いてはいけないものではなかったか? それを平然と歩かせてくれるとは、本当にこの街の警備ってのはなってないな。

 

「なあスーザン、今度オレと剣技をしてみないか?」

 

「えぇ!? わ、私とですか・・・!?」

 

「サクラ、お前何言ってんだよ!?」

 

兵藤が何か咎めるようなことを言っているが、つまらない男はどうでもいい。

 

「で、でも私には・・・」

 

「お前のその剣裁きは結構なものと見た。一度手合せ願いたいな。それに――――」

 

「それに?」

 

「これはお前との交流でもあるからな。人ってのは戦いあって仲良くなるものだぜ」

 

「いやいや、戦いと交流ってのは何か違う気が・・・」

 

・・・ってどこかの本に書いてあったけな。正直信じてはいないけど・・・。

 

「・・・分かりました。今度よろしくお願いします!」

 

「スーザン! あんたもあんたで、簡単に了承しないでください!!」

 

兵藤の言葉は無視無視・・・。スーザンも少しは元気になったみたいだし、いいか。

 

私たちは気を取り直して再び歩き始めた。ふと兵藤が口を開く。

 

「それにしても、鎧なんか着込んで重くないんですか?」

 

ちなみに言っておくが、スーザンは女性だ。鎧を着て歩くのは相当な体力がいるはず。

 

「問題ないです。これでもヒマさえあれば鎧を着込んで運動しているので。もちろん、室内での運動ですけど。昔の武将は鎧を着て戦場を走り回ったんです。私もそのぐらいのことができないと・・・」

 

さすがは戦国マニア。そんな時代設定まで考慮しているとは。でも、一体何と競っているのかが全く理解できなかった。

 

鎧も着込んでいるということは運動神経も良いのだろう。成績も良かったりしてな。

 

そうこう話しているうちに彼女の通っている大学が見えてきた。どうやら目的地に到着したようだ。

 

「あ、ここが私の通う大学です・・・。ね? 雰囲気出てて怖いでしょう?」

 

その鎧でそんなことを言うのもどうかと思うが、はっきり言ってスーザンのほうが負けていないぞ。

 

深夜の大学に鎧武者がいるなんて、落武者が出たんじゃないかと思ってしまうな。まあ、弓矢や剣は刺さってないけど。

 

「さあ、入りましょう。ああ、怖い・・・」

 

「オレがついてるから安心しろよ。どこぞの変態が襲わなければな」

 

前半はスーザンの肩を叩きながら、後半は兵藤に視線を向けて言った。

 

「誰が襲うか!! 俺は鎧お化けに欲情する趣味はねえよ!!」

 

「鎧お化けじゃなくて、スーザンだろ」

 

「知ってるよ、っておい!! 人の話は最後まで聞け!!」

 

「うるさい」

 

お前は人じゃなくて、悪魔だろうが・・・。

 

兵藤の相手をしているのは時間の無駄なので、私たちは先に進めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

大学でノートを無事に回収して、スーザンの自室へと戻ってきた私たち。

 

「あ、ありがとうございました・・・」

 

どこかの役人のように正座をして頭を下げながらお礼を言うスーザン。ホントに真面目だな。

 

リアスも契約が終了したと判断して、部屋の床に帰還用の魔法陣を展開させてある。

 

「じゃあ、俺たちはこれで帰るから」

 

そう言う兵藤のことを満面の笑みを浮かべていた。まるで帰れることを喜んでいるかのようだが・・・。

 

そのまま兵藤の顔を見続けていると段々と嫌らしい顔つきになっていく。何か怪しいな・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・ふーん、そういうことか。まあ、兵藤らしい考えだな。

 

察した私は顎に手を当ててどうしようか考えた。スーザンのほうに視線を移すと彼女はまだ何か困っているような感じだった。

 

私はモジモジしているスーザンに声を掛ける。

 

「なあ、スーザン。他にも叶えてほしいことがあるんじゃないか?」

 

「えっ、サクラ!?」

 

「あ、あの・・・その・・・はい、そうです」

 

兵藤が驚いたような顔をしていたが、スーザンは照れ臭そうに答える。

 

「い、いやあ、それは困りますなぁ~。願いは一回にひとブッ!?」

 

「黙れ」

 

私は兵藤に裏拳を放つとリアスのほうに視線を向ける。

 

「部長、構わないよな?」

 

「ええ、構わないわよ」

 

「ちょっ、部長!?」

 

リアスはスーザンの元に歩み寄った。ああっと悲しみの声を漏らす兵藤を私は悪戯っぽい笑みを浮かべて見つめる。

 

そして泣きながら私に詰め寄ってきた。

 

「おいサクラぁ!! お前が余計なこと言うから俺のおっぱいが遠ざかっていくじゃねえかぁぁ!!」

 

悔しさのような歪ませた顔と涙を流しながらで私に抗議してくる兵藤。はっきり言って気持ち悪い。

 

「そんなの後で好きなだけ拝めばいいだろ。つーか、お前のその勤務態度にも問題あるよな」

 

ガシッ!!

 

「・・・がはっ!! サ、サクラ、何で首根っこを掴んで―――」

 

兵藤が苦しそうにしているが、関係ない。もうこれはお仕置きするしかないな。

 

私は兵藤の襟元を掴んで、リアスのほうを向く。

 

「部長、ちょっと待ってくれるか? この莫迦と話があるから」

 

「え、ええ、分かったわ」

 

リアスが多少強張った顔をしていたが、一体何だったんだろう? 私はそんなに黒いオーラを出していないと思うが。

 

まあ何はともあれ許可をもらったので、私は兵藤を部屋の隅へと引きずる。

 

「・・・正座しろ」

 

「な、何でだよ?」

 

「・・・足を斬られたいのか?」

 

「・・・わかりました」

 

兵藤は板の間の上に素直に正座する。痛いだろうと思うが、ギザギザの上よりもマシだろう。

 

私は腕を組みながら口を開く。

 

「仕事なめてるのか・・・?」

 

「いや、そういうわけでは・・・」

 

「困りますって何? 困ってるのはお前じゃなくてスーザンだろ・・・?」

 

「・・・はい、その通りです」

 

兵藤が引き攣った顔で私の質問に丁寧に答える。ああ、こういうことするの楽しい。

 

「悪魔の契約に上限なんてあったのか?」

 

「・・・ありません」

 

「だったらいいだろう。スーザンの願いを最後まで聞けよな?」

 

「で、でも俺の――――」

 

「でももストもあるか。仕事は最後までやれ。文字通り、首を切られたいのか・・・?」

 

「勘弁してください。ちゃんとやりますから」

 

「・・・よろしい。仕事に戻るぞ。部長じゃないけどご褒美は終わるまでお預けということで」

 

「・・・はい」

 

こうして説教を終えた私たちはスーザンのほうに戻った。

 

ハハハハ、愉快愉快。兵藤の企みを妨害して楽しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きな男性だと?」

 

「は、はい・・・」

 

私とリアスは正座をしながら、スーザンの依頼内容を聞いている。当の本人は乙女のように体をモジモジとさせている。

 

鎧を被っているので素顔は分からないのだが、その兜の顔の部分が赤く染まっているのが分かる。ホントにシュールで面白い鎧をしているな。

 

・・・ん? 兵藤はどうしたのか、って? そこで私たちに背を向けて体育座りをしたまま、啜り泣いているけど。それが、何?

 

すぐにエロいことを考える莫迦は放っておくに限る。はっきり言って同情の余地もない。

 

「奥手で想いを伝えられなくて・・・とても素敵な方なんです・・・」

 

一体どんな人なんだろうな? この鎧武者を好きになった男性って言うのは。

 

・・・想像できないな。まあどんな相手でも、私は驚かないけどな。どうでもいいし。

 

「うぅ・・・どうせ、髭モジャの戦国武将みたいな男だろぉ・・・?」

 

・・・・・・後ろの泣き声がうるさいな。

 

私はジト目を後ろにいる変態に向けるも、すぐさまスーザンのほうに向き直る。

 

「その人を好きにさせればいいの?」

 

「あ、いえ、できれば悪魔の力とかじゃなくて自分の力で好きになってほしいんです!」

 

要するに誘惑といった姑息な手を使わずに解決をしてみたいってことだよな? それはいいことだ。

 

これはランプの魔人でさえも叶えられない願い事だ。仮に悪魔ができるとしても、やったらやったで碌なことにならないだろう。

 

「なら俺たち必要ねえじゃん・・・」

 

・・・・・・この変態は少しでも口を閉じていられないのか・・・?

 

下僕には慈悲深いリアスもさすがに兵藤の拗ねたような態度にムッとして振り向いた。

 

腹の立った私も無言で立ち上がり、金属バットを取り出すと兵藤の背後へと歩み寄り・・・。

 

ドガッ!!

 

「ンガァァッ!?」

 

・・・脳天へと思いっきり振り下ろした。骨が折れた音がしたような気がするが、気にしない。

 

全く、この莫迦は依頼者に失礼だと思わないのか・・・?

 

金属バットが脳天に突き刺さったまま、うつぶせに倒れた兵藤を放置して、私はスーザンのほうへと戻ると話を続けた。

 

「じゃあ、直接その人に思いをぶつけてみたら?」

 

そう。私が今、やったみたいに。

 

「そうだな、スーザン。いっそのこと、その剣で想いをぶつけるのもアリかもしれないぜ?」

 

「・・・そのやり方じゃ打撃をぶつけているだけじゃないかしら?」

 

「そうか? 打撃でも想いさえ籠っていればいいと思うけどな」

 

「それでも、愛は伝わらないと思うわ・・・」

 

リアスが呆れたようにツッコミを入れてきたが、想いっていうのは籠っていればなんでも伝わるものじゃないのか? よく分からんな・・・。

 

「そ、そんな! そんなことできません! それにいきなりなんて絶対無理ですぅ!!」

 

スーザンが顔を恥ずかしそうに背けて、手を前へと振る。何を恥ずかしがっているのかが、全然分からないのだが。

 

「・・・じゃあ、手紙とかは?」

 

その提案を提示したのは私でもリアスでもなく、復活した兵藤だった。

 

「あ・・・手紙ですか?」

 

兵藤の提案にスーザンが手の動きを止める。リアスもうんうんと頷いていた。

 

なるほど手紙か・・・そういえば最近アイツに送ってないな・・・。

 

「そうね。ラブレターもいいと思うわ」

 

「!・・・Love letter・・・」

 

「文面で想いを伝えるのも素敵なことよ♪」

 

リアスが笑顔で言う。

 

「へぇー、兵藤にしてはまともなことを言うな」

 

「『しては』は余計だ!!」

 

私が冷やかすような口調で言うと、兵藤が怒る。ホントに面白いヤツ・・・。

 

「わ、分かりました。やってみます!」

 

そう言ったスーザンが部屋の一角から取り出したのは書道セットだ。

 

書初めに使うような長い用紙を下に敷くと、硯に墨汁を入れて炭でズリズリとする。

 

そして筆で硯の墨を付けて、書初め用紙に文を書き始める。

 

・・・私も幼いころによくやらされてたっけな。

 

「『然したる儀にてこれ無きの条、御心安かるべく候――』と。Yes」

 

「それじゃただの怪文書ですよ」

 

いちいち文句の多いこの男。それしか言えないのか・・・。

 

「別にいいじゃないか」

 

「・・・・・・」

 

私が言っても兵藤はどこか納得のできないような顔だった。ホントに面倒臭い男だ。

 

「大切なのは形じゃなくて気持ちなんだから」

 

「・・・その気持ちが正しく伝わるんだろうか?」

 

気持ちか・・・もう私には到底理解できるものではない・・・。そんなものは捨てたから。

 

・・・・・・・・・。

 

「そう、形じゃないの」

 

「?」

 

「形じゃ、ないのよ」

 

リアスが何かボソボソと呟きながら複雑そうな顔をしている。どうしたんだ?

 

「部長?」

 

兵藤も疑問の声を上げている。

 

「出来ました!」

 

スーザンの声に私たちは振り向くとそこには先に手紙を括り付けた矢を弓で引いている彼女の姿があった。

 

その姿は何とも勇ましい限りだった。・・・女性だけど。

 

「矢文って冗談でしょ!?」

 

確かにこんな形で手紙を送っているのはスーザンだけかもしれないな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

明後日、私たちはとある公園の一角にいる。

 

背後には何かの家紋を刺繍されている幕とのぼりが設置されており、その中央には鎧武者のスーザンが椅子に座っている。

 

ちなみにスーザンがどのようにラブレターを渡したのかは知らない。でもさすがに矢文で出すのはいろいろと問題があるとうるさい兵藤が指摘し、仕方ないので別の方法を一夜を共に過ごしたリアスと一緒に考えて何とか無事に渡すことができたのだ。

 

そしてその男性がスーザンに告白の返事をしたいとこの公園にやってくるという。スーザンは私たちにその行く末を見守ってほしいと頼まれて、今現在ここにいるわけだ。

 

好きな男性に会うだけだというのに、まるでこれから合戦や決闘を目的として待ち合わせをするかのような雰囲気を醸し出していた。

 

「お母さん、あれなーに?」

 

「こら、見ちゃいけません!」

 

公園にいる子供がお母さんに訪ねるも、お母さんは異様な何かを察したのかそそくさと去ってしまう。

 

・・・そうだ。こんなものを見るなんて将来的にも体の毒だぞ。

 

「いやはや、時代劇の収録かのう、婆さんや」

 

「ええ、きっとそうですよ、爺さんや」

 

どこぞの老夫婦は時代劇の撮影と勘違いをして、ベンチで私たちを見守っている。

 

・・・見たって面白くもなんともないと思うぞ。っていうか、ウザい。

 

「ねえ、あの和風美人、誰?」

 

「カッコいいよね~。話しかけてみる?」

 

そして本気でウザかったのはどこぞの女子高生2人が感嘆の声を漏らしていたこと。和風美人ってどうせ私のことだろう?

 

私が一睨みすると2人はビクッと震えた後にそそくさに去っていった。

 

「ああ、何なんだこれは・・・?」

 

兵藤は顔に手を当てたまま、呆れたような声を呟いている。

 

スーザンのほうに視線を向けると鎧が小刻みに震えている。顔は分からないが、緊張しているんだということは見ずとも分かる。

 

「来たみたいだわ」

 

リアスの視線を追うと、遠くから人影がこちらに近づいてくる。

 

ガシャンガシャンと鉄のすれる男。この音はスーザンも立てていたような・・・。

 

そして姿を現したのは西洋の甲冑を全身に纏った何かだった。

 

「ええぇぇ!?」

 

兵藤が驚きの声を上げる。私も少し驚いた。

 

右手には円錐のランスを持っていて、左手には西洋の盾を持っている。顔は全体を覆う鉄兜のせいで判別が不可能だ。

 

スーザンはこの人が好きになったのか・・・類は友を呼ぶというのはこういうことか。

 

「はっ! ああぁぁぁぁぁぁぁ!? 矢!!」

 

兵藤が何かに気付いて驚きの声が更に大きくなる。よく見れば鉄兜の脳天に矢が突き刺さっていた。

 

あのまま死んでいたらどんなに面白そうな・・・ゲフンゲフン・・・なんでもない。

 

「スーザン、矢! 突き刺さってるよ!!」

 

「はい、いろいろと考えたんですが、私には矢文以外の渡し方ができませんでした」

 

「手渡せよ!! 郵便でもいいじゃないか!! 他にも渡す方法なんかいろいろと考えつくだろうが!!」

 

兵藤がスーザンの足りない思考にツッコむ。私とリアスで渡す方法を一晩考えたのだが、恥ずかしがり屋のスーザンのせいで結局矢文になってしまった。

 

「立派なランスです・・・」

 

もしかして惚れたポイントっていうのはそこか? 確かに私も立派な剣や刃物に惚れることはあるが・・・。

 

「ちくしょう! 何で俺の依頼者はこうも変態ばっかりなんだ!?」

 

兵藤の絶叫が響き渡る。木場のいうとおり、兵藤は変人に好かれる体質があるんじゃないかと思う。当の本人が変態なだけにな。

 

そうこうしているうちに甲冑騎士が眼前に迫る。スーザンの本陣へとガシャンガシャンと入ってくる。

 

「・・・スーザン」

 

「は、はい!」

 

私がスーザンの肩を叩くと彼女も立ち上がり、甲冑騎士と対峙するような形となる。

 

鎧武者と甲冑騎士がお互いを見合っている時点でとても告白シーンとは思えない。客観的にいえば決闘シーンを見ているようにしか見えないだろう。

 

騎士はランスと盾を地面に落とすと、懐から何かを取り出す。スーザンが一晩考えて書いた手紙だ。

 

「・・・君の手紙、読ませてもらったよ」

 

「はい・・・」

 

モジモジしだす鎧武者。言っておくが、これでも乙女で女性だからな。

 

「・・・素敵な矢文だった。僕ともあろう者が、隙をとられて射抜かれるなんて・・・。大した弓矢だね」

 

言っている意味は分からなかったが、どうやら私はこのシチュエーションが好きなようだ。

 

「そ、そんな! 私はただ夢中で射抜くことしか考えていませんでした・・・堀井くん」

 

堀井くんというのはこの射抜かれた甲冑騎士の名前だろう。

 

「ああ、頭がどうにかなりそうだ・・・」

 

兵藤は額に手を当てながら困ったような顔をしている。普通の人から見ればおかしなシチュエーションに頭がついて行かないのだろう。

 

「もし、僕で良かったら、キミとお付き合いをしたいな・・・」

 

この台詞は紛れも無い告白の言葉・・・

 

「まあ!」

 

「ええぇぇ!?」

 

「ほう」

 

上の台詞はその言葉を聞いている三者三様の反応。一番驚いていたのは兵藤だろう。

 

堀井がスーザンの前に寄る。両手を握り合う2人。

 

「ほ、堀井くん・・・う、嬉しい・・・」

 

「スーザン!」

 

やさしく抱き合う2人。何故かこの光景に微笑ましくなってしまう。私が知る限り、今まで見た中で一番幸せだろう。

 

リアスは2人の光景を見て目を輝かせていた。彼女もこのような告白に憧れているのだろうか。

 

「この兜も素敵だ・・・」

 

「いいえ・・・堀井くんのこのアーマーも硬くてたくましい・・・」

 

何はともあれ、こうしてここに2人の鎧カップルが誕生した。

 

私が一つ気になっていたのは、スーザンの兜の後ろから出ているロールの髪が幼馴染と同じ金髪だったということであった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「絵に描いたようなお似合いのカップルね」

 

部室へと帰ってきたリアスの手にはカップルとなったスーザンと堀井の写っている写真がある。観覧車が写っているところを見るからに早速デートをしたのだろう。

 

「そ、そうっすね・・・ある意味・・・」

 

「・・・・・・」

 

兵藤が苦笑しながら答える。私は何も答えなかった。言葉にする必要もないからだ。

 

「ねえ、イッセー、サクラ」

 

「・・・ん?」

 

「あ、はい?」

 

「こうして好きな人と結ばれるってどう思う?」

 

そう聞いているリアスの顔はどこか寂しげだった。ホントに様子がおかしいぞ?

 

「どう思うって、幸せなんじゃないですか?」

 

「幸せ・・・そうよね・・・」

 

兵藤の答えにリアスが顔を曇らせる。ここで更に兵藤が言葉を続ける。

 

「っていうか、好きでもないのに付き合ったりするなんて、絶対にやったりしちゃいけないですよ!」

 

真剣な顔つきで兵藤が言う。兵藤は一度、できた彼女に裏切られているのだ。だからこそのこの言葉だろう。

 

「そんなこと、絶対・・・!」

 

拳をギュッと握りしめながら兵藤が呟く。体が震えているようにも見えた。

 

「・・・ありがとう、答えてくれて・・・」

 

リアスは笑みを浮かべていたが、それでも複雑そうな顔は消えていなかった。

 

「サクラ、あなたはどう思う?」

 

リアスが今度は私に話を振ってきた。私はしばらくリアスの顔を見ていたが、目を瞑って背を向けて答えた。

 

「・・・よく分からん」

 

「え?」

 

「だが結ばれるのはあの2人を見る限り、確かに幸せだと思う。でもそれは表面だけの話、他のことも考えてみろ。ソイツが浮気や二股をしていたり、カップルになる前にどっちかが本当は好きじゃなかったり、やがてだれてきて捨てるような恋になんて考えたらどう思う? 本気でソイツのことを好きなヤツにとっては胸が痛くなったり、苦しくなったり、悲しくなったりするんじゃないのか? それで恋で苦しくなるくらいなら普通に友人、先輩後輩の関係でいたほうがずっといい。少なくともオレには必要ない」

 

私の声も顔も暗くなった。

 

「でも・・・」

 

私は2人のほうを向いて答える。

 

「オレは、お前らの悲しい顔なんか見たくない・・・裏切ってほしくない、消えてほしくない、傷ついてほしくない・・・自分の中が何故かそう感じてるんだ」

 

「サクラ・・・?」

 

イライラするんだ。そういうウジウジしているヤツを見ると・・・。

 

兵藤とリアスが私のことを見て唖然とした表情を浮かべていた。

 

私はその二人を見てハッとした。

 

「いや、なんでもない。忘れてくれ」

 

・・・いけないな、私としたことが。感情を破裂させるなんて・・・組織の身でありながら。

 

「ところで兵藤」

 

「な、何だよ?」

 

「お前は部長に何か話があるんじゃないのか?」

 

「・・・あ、そうだった! 部長!!」

 

私はそのまま2人に背を向けて扉の方へと歩く。

 

「なに、イッセー?」

 

「えっと、その、例の約束の件ですが・・・」

 

「例の約束?」

 

「そ、その、お、お、おっぱいです・・・はっ!?」

 

兵藤の視線を感じるのだが・・・。

 

私は扉を開けると後ろを振り向いてみる。すると視線には兵藤が私のほうを引き攣った顔で見ているのが映った。

 

・・・ぶたれると思っているのか? だったらこう言っておこう。

 

「今日は不問にしといてやるよ。勝手にやってろ、変態」

 

すると兵藤の顔がパァーッと明るくなった。私に向かって頭を下げる。

 

「ありがとうございます!!」

 

「フン」

 

・・・まあリアスの許可もあるわけだしな。今回ぐらいは見逃してやるか。

 

私は兵藤の言葉を鼻で笑い飛ばすと視線をリアスのほうに向ける。

 

「今日はもう帰って寝る。また明日な」

 

「ええ、サクラ。また明日ね」

 

私は部室の扉を閉める。扉に疲れた体を背で預ける。

 

そうだ、違う。私はアイツらに執着しているわけじゃない。

 

私とアイツらは別に特別な関係というわけでもない。アイツらはただの暇つぶし。私の欲求を満たすためだけの存在にしか過ぎないのだから。

 

私はそう考えながら闇の回廊を開いた。

 




誤字や脱字があれば、指摘して欲しいです。よろしく、お願いします。
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