それは兵藤の家にお邪魔をしていたときの話。アーシアが私より兵藤のことを選び、彼の家にホームステイをすることになった後の話だ。
それ以前に何故、私が兵藤の家にいるかの説明をしなくてはならないだろう。
夜中、眠れずに退屈でいた私は珍しく星空の下を散歩に出かけた。すると偶然、ウサギのぬいぐるみを持ったリリーとバッタリ会ったのだ。
彼女に何をしているのか問いてみると彼女はアーシアの偵察をしに兵藤の家に向かうと答えた。またコイツがとんでもないことをやらかすのが、目に見えていたので私は一緒に兵藤の家に向かうことにした。
まあ、これはホームステイの祝いのようなものだ。引っ越しをすればそれなりのお中元はするべきだと私は思うし、リリーに着いて行くには絶好の口実であった。
兵藤とアーシアも、私とリリーが家を訪れたときには驚いていたが、快く中へと出迎えてくれた。主に窓から・・・だけどな。
このときにリリーが兵藤に不機嫌な顔つきをしていたが、まあいつものことなので気にしないことにした。
兵藤はこの日は珍しく悪魔家業はなく、休暇のように家でのんびりと過ごしていた。
彼の机の上に置いてあるのは雑誌。恐らくあの松なんとかから借りてきたものなのだろう。リアスとアーシアという女がいながら、どうしてこうもコイツは薄情なのだろうと思ってしまう。
部屋では特に会話が生まれることはなく、だからといって気まずいという空気でもなく、むしろ安定していた。私は腰に提げてある短剣を磨いていたし、リリーは棚の漫画に目を通していたし、兵藤は机の椅子に座って雑誌に目を通していた。
完全にお泊まり会だな。面白くもなんともない。
そんな中・・・・・・。
「いやいやいや~い。アタイ、アーシアってんです!」
「・・・は?」
「ん?」
アーシアがどこぞのヤンキーのような服装と座り方、そしてマスクをして自身の声と全く釣り合わないような台詞を言う。
きょとんとして目をパチパチとさせる私とリリー。兵藤も雑誌に目を通すのを止めて、アーシアのほうに視線を向けている。
「アーシア? どうしたんだ、その恰好?」
兵藤が雑誌を机に置いて、アーシアに問いかける。
「頭痛が酷くなって、とうとう頭でも湧いたのか?」
「ち、違います。えっと、あの、私、悪い女になろうと・・・」
お祈りのダメージが原因じゃないかと思いながら問う私に、マスクを外しながらアーシアが言う。
「悪い女?」
何で急にそんなことを・・・?
私と兵藤が疑問を抱く中、アーシアが手をモジモジさせながら説明する。
「は、はい。立派な悪魔らしく、清くなく正しくなく生きなければいけないと・・・昨夜一晩必死に思いつめて考えまして・・・」
・・・なるほど。そういうことか。要するに『悪』を追求していたのか。
別に悪魔になったからといって、『悪』になる必要はないと思うんだが・・・それに、アーシアの柄じゃないし・・・。
あまりにも真面目すぎる元・聖女に兵藤が苦笑の顔を浮かべていた。
「それで考えついたのが、ヤンキーってわけ? 何かマイナーすぎない?」
「そうでしょうか? 私はこの雑誌の格好をすれば悪い女になれるって書いてありまして・・・」
・・・『月刊ゲッペルズ』? 何だその雑誌は? 聞いたこともない。
するとリリーが雑誌を取り上げて、中身をパラパラと見る。そのうちの2ページをアーシアに見せる。
「アーシア、それは『ちょい悪オヤジ』といって、アンタのその格好とは全然違うわよ」
「ええぇ!? そうなんですか!? はうぅぅ・・・な、なんか損した気分です・・・」
リリーに指摘されて落ち込むアーシアを見て思ったことは、こんなに可愛いヤンキーは彼女だけだろうなということ。『悪』とは程遠いな。
でも、可愛さで相手を油断させる敵がいるものだから、別の意味で彼女は『悪』なのかもしれない。
「あのなアーシア、悪魔になったからといってわざわざそんなことしなくても・・・」
兵藤が苦笑交じりの顔で言う。コイツと一緒だなんて遺憾だが、同意見だ。何故に悪を目指す必要がある?
「でもイッセーさんだって、女性の着替えを覗いたり、階段越しでスカートの中を見上げたり、学校にエッチな本を持っていたりと、日々悪の修業をしているじゃないですか」
アーシアに色々と指摘されて、兵藤がギクギクしながら冷や汗を搔き始める。
あれ・・・何だろう。何だか、イライラする・・・。
「いや、それは! そんな大袈裟なものじゃなくガハッ!?」
兵藤がアーシアに説明をしようとすると、彼の腹に蹴りが撃ち込まれた。
「アンタ、学校でいっつもそんなことしてるわけ!? 最っ低ね、このオス猿!」
「こそこそ隠れて嫌らしいことばかりしてるんだから、ゴキブリのほうがいいんじゃないか?」
グサッ!!
「ぐっ!?」
腹の痛みに加え、心の槍が突き刺さる。何だろう、何だかいい気分だ。
まあこいつの変態は今に始まったことでも、悪魔になってから始まったことでもない。
そんなことも分かっているはずなのに・・・。私は溜息を吐く。
「オレは何でこんな下衆の極みの友人なんかやってるんだろうな。学校にはもっといい男がいると思うんだがな」
グサッグサッ!!!!
「サクラ、違うわよ。下衆以下の極みよ。あの学校は女子が多いから浮かれてるのよ」
グサッグサッグサッ!!!!!!
「顔のいい男ばかり敵に回してるからモテないんじゃないの?」
「それどころか顔のいい男にアドバイスすらもらわないんだもんな。いつまでもエロさと嫌われ度が増すわけだな」
グサッグサッグサッ!!!!!!
「そういえばコイツの莫迦な悪友も、そんな思考を持ってたな」
「えーっと、エロ眼鏡とエロ坊主だっけ? アイツらも嫌われてるらしいわね。アタシは近寄りたくもないわ」
「類は友を呼ぶとか言うけど本当だな。見事に変態と常識人のグループが別れたわけだからな」
「あ、あの・・・サクラさん?・・・リリーさん?」
「青春を謳歌するとか言ってるけど、実際は青春の無駄遣いをしているってことになんで気付かないのかしら。ねぇ、バニーちゃん」
グサッグサッグサッグサッ!!!!!!!!
「大勢の女の中にいるからモテるとか、そんな浅ましい考えで学校に入ろうとするのは余程の勘違い野郎なんだな」
グサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッグサッ!!!!!!!!!!!!!!!!
「ゲハァッ!!!」
言葉の槍を次々と突き刺され、兵藤が机の上にうなだれる。ああ、すっきりした・・・。
「エロバカトリオはこの学校の悪い見本にしてやりたいわ」
「そんなことするより、服を全て剥ぎ取ってさらし者にすればいいんじゃないか? 数ある変態の象徴として」
「あっ、それいいかも・・・」
「もうやめてください! 2人とも! ストップストップぅ!」
ここでアーシアのツッコミが入ったぞ。私とリリーのサドトークは終了だな。
以上は嫌味たっぷり悪グチーズとサド度100%でお送りした。
「とまあ、こんな感じに相手を嬲るのも『悪』の極みって言うわよ、アーシア」
「そ、そんな・・・私には、難易度が高いです・・・」
「少しずつ『悪』の肥やしにしていけばいいんじゃないか? 言っていれば、だんだんと言うのに抵抗感が無くなると思うぜ?」
「そ、そんな酷いこと私には言えません!」
何だ、言えないのか・・・つまんない・・・。
「お力はありがたいですけれども、私はサクラさんたちの力を借りなくとも、がんばって悪い女になります!」
でも、まだ諦めてなかったのか。面倒臭い・・・。でも、面白い・・・。
「そもそもアーシアの言う悪い女って何なの?」
リリーがアーシアに問う。
「だからこの雑誌の――――」
「もうその雑誌はいいから!」
「ああ・・・」
リリーは雑誌を取り上げるとゴミ箱へと放り投げる。何か間違っているその雑誌ではどうにもならない。
「悪い女って何だと思う?」
「えっと・・・悪いことをする、女ですか?」
・・・答えになってないぞ、アーシア。そんなの猿でも分かる。
「悪いことって?」
「きゃっ!?」
「!?」
・・・兵藤、いつのまに復活したのか。
椅子に座って私たちの間に入ってきた彼に、思わず私とリリーは驚いてしまった。さすがは体が頑丈なだけある。
アーシアは兵藤に問われるときょとんとした後に考え始める。
「えーっと・・・・・・ああ!」
どうやら何か思いついた様子。ではその方法を聞かせてもらおう。
「朝早くよその人の配達された牛乳を、飲んでしまうとか・・・」
・・・それはただの泥棒じゃないか。もっとグッとくるようなことを言おうぜ。
悪いことだけど、そんなのは悪い女でなくてもできる。
「靴箱の靴を入れ替えてしまうとか・・・」
・・・それはただの嫌がらせだろう。高校生がいい年してそんな腕白坊主みたいなことはどうなのだろうか。
「隣の人が落とした消しゴムを、無視、するとか・・・」
・・・それはもはや何もしていないから、悪いことの類には入らんだろう。見て見ぬふりという点では悪に当たるかもしれないが、そんなのをいちいち裁いていたらみんな罪人になってしまうだろうな。
いろいろと小物っぽい悪行を言うアーシアだが、元々優しい性格である彼女の『悪』の思考は限界が来ていた。
「ああぁぁ! 私ったら、なんて凶悪なことを思いついてしまうのでしょう!」
もっと他に探せばこれ以上の悪いことはあると思うがな・・・。
でも涙目で己の悪いことを悔いる彼女にそんなことは言えなかった。
「主よ、こんな私をお許しください・・・・アウッ!?」
お祈りを唱えたアーシアが、頭を抱えてうずくまる。悪魔である彼女はお祈りをするとダメージを受けてしまうのだ。
「何と言ったらいいか・・・」
「ホントに学習能力の無い子ね・・・」
その様子を兵藤は苦笑交じりに呟き、リリーはアーシアの莫迦な頭に呆れていた。
「悪魔だったら、もっと凶悪なことをしなくちゃダメだろ」
「凶悪なこと、ですか?」
「た、例えば・・・?」
私の言葉に兵藤とアーシアが怪訝そうに聞いてくる。よし、私の悪いことを聞け。
「見ず知らずの人を誘惑して堕落させるとか・・・」
「そんな・・・関係の無い人を巻き込むなんて・・・」
「・・・確かに文献の悪魔はそういうことをするみたいだけどさ・・・」
アーシアよ、悪い女になりたいんじゃないのか?
兵藤、莫迦なお前でもそんな本を読むんだな。その日は雪が降っただろうな・・・。
「気持ち良くなる葉っぱや薬を売りさばいて金を貰うとか・・・」
「気持ち良くなる葉っぱや薬って、何ですか?」
「それはね、むぐっ!?」
「うわぁーッ! リリーちゃん、それは口に出して言わなくていいから!! テレビ的にも教育的にも不謹慎です!」
「?」
兵藤が慌ててリリーの口を塞ぐ。一体、どうしたっていうんだ?
「ぷはぁ、触んないでよ!! この変態!!」
「はべしっ!!」
リリーは兵藤の手を振り解くと振り返って平手打ちをかました。
もうコイツらの漫才なんか見てたって茶番にしか見えないな。放っておこう。
「パスポートや証明書を偽造して、警官を出し抜いて通ってしまうとか・・・」
「えーっと、確か私のパスポートはちゃんと申請が通っていて・・・」
「ホントは偽造したヤツなんじゃないの?」
「えぇ!? で、でも、そういえばベリンダさんに唐突にパスポートを渡されたから、もしかして――――!?」
「落ち着け、アーシア! パスポートが本物じゃないなら、今ここにいるわけないだろ!!」
アーシアよ、リリー如きの言葉で何故にそこで自分がパスポートを捏造していると思うんだ?
「お前のパスポートはちゃんと正式に手続きされて作られたものだから大丈夫だよ。本人の個人情報も含めてな」
「そ、そうですか・・・そうですよね!! よかった・・・」
「いや・・・よくないところもあると思うんだが、さらりととんでもないことを言った気がするし・・・」
「まあ、こんなところかな。どうだ、悪魔らしいだろう?」
兵藤とアーシアが唖然としたような顔になる。恐ろしすぎて声も出せないのか?
しばらくするとアーシアの顔が俯いて、体をプルプルとさせる。
「そう・・・そうですか・・・。世界にはそんな酷くて悪い女がいるんですね・・・」
「いや、アーシア・・・それらは悪い女ってレベルの限度を超えて、犯罪者になっているような・・・」
そうかそうか、いい加減、自分には『悪』が似合わないと分かったか。
「私、やっぱり悪い女を目指します!」
・・・はあ? 何で?
「サクラさんの教えてくれた凶悪なこと、それは私がまだ悪魔になるには未熟であることを痛感したことの証・・・これも神が与えてくれた試練に違いありません!」
ちょっと待て、何でそういう考えに至る?
「もっともっと悪い女を極めて高みを目指します!そのために私、がんばって勉強します! 立派な悪魔になるために!」
まだ、やるのかよ・・・?
アーシアが片手でガッツポーズを決めながら、キリリとした顔になる。
悪魔と神は相容れないんだぞ・・・神の試練もへったくれもあるか。私、そういうの大嫌いだ。
私は似合わないことを諦めてほしかっただけなのに、どこをどう間違えたのだろうかを考えてしまうのだった。
兵藤がベッドの上で携帯ゲームをしていて、私とリリーは床に敷いた布団の上にいて、リリーはウサギのぬいぐるみの耳を弄っていて、私は兵藤の所持している漫画『ドラグ・ソボール』を読んでいる。
まあ単純に今日はお泊まりに来ているわけだが、アーシアの引っ越し祝い以外に特に卑猥な意味は無い。兵藤とこれ以上の関係なんか私にはあり得ないからな。
どうせ兵藤のプレイしているゲームは卑しいものなんだろうな。私はそう思っていると・・・。
「うっふ~ん」
『・・・は?』
あっ、3人の声がハモった。今まさに3人が同じことを思ったということだ。
その疑問符が付きそうな光景とは、アーシアが兵藤の横で突然、甘美のある声を出したからだ。私たちはアーシアのあまりにも場違いな声に振り向いた。
アーシアは露出度の高い服を着ており、ベッドの上でセクシーポーズをとっている。後ろ髪は縦ロールになっており、唇がいつもより赤いことからどうやら口紅を付けたようだ。
所謂夜の水商売の女の格好だが、正直言って全く似合ってない。そんな大人っぽくもないし・・・。
「・・・・・・」
なびかない様子の兵藤にアーシアはそのポーズのまま兵藤のほうに視線を向けると、襟を引っ張って胸元をチラッと見せつける。
「!! ちょっと良い・・ガハッ!?」
思わず嫌らしい顔をした兵藤の顔に、先程の雑誌が激突した。角ではなく表面に当たったから痛くはないと思うが・・・。
「何鼻伸ばしてんのよ!?」
雑誌を投げた張本人であるリリーが怒りの声を上げた。私も正直言って不愉快だったのでジト目になっていた。
「どーぉ? 私、じゃなくて。あたしの魅力でメロメロにしてあげちゃう。うふん」
膝立ちになって髪を掻き上げるセクシーポーズを取りながら言うアーシア。完全にお前の柄じゃないよな。
「・・・今度は何?」
「やっぱりどこかおかしいんじゃないのか?」
兵藤が戸惑いながら、私が茶化すように言うとアーシアは察しが悪いとでも言いたげなムッとした顔をする。
「うぅ・・・・・・し、失礼しますぅ!」
「うわっ! ちょっ、何!?」
アーシアが兵藤をベッドの上に押し倒す。突然の行動に動揺の声を上げる兵藤。
するとアーシアが首の後ろの部分を弄りはじめる。まさか、服を脱ぐつもりなのか?
「お、女の悪魔は、女性の魅力で男を誑し込むそうなんです・・・」
そう説明するアーシアの服が肌蹴て、小さな胸が露わになる。
「?」
「山猿のくせに山猿のくせに山猿のくせに山猿のくせに山猿のくせに・・・ブツブツブツブツ」
横を見れば隣にいるリリーが2人のやり取りを濁った目で眉を寄せながら、ブツブツと何かを言っている。
傍から見れば体育座りをしているとより一層近寄りがたく感じるほどの黒いオーラだ。
「はいぃぃ!? うわっ!?」
すっかり動揺の声を上げる兵藤の上に、アーシアが覆いかぶさる。そして兵藤の首筋に口づけを交わす。
ここまで来るとホントにカオスだな・・・。
「どうしちゃったんだよぉ・・・?」
戸惑いの声を上げる兵藤。するとアーシアが一冊の雑誌を見せる。
「この参考書通りにやってるんですけど・・・」
・・・『月刊gelmer』? またそんなくだらないものから知識を吸収したのか。しかも間違ってるし・・・。
雑誌のことを鵜呑みにしたところで何も得られるものはないと思うぞ。
ふと私の隣に黒いオーラが余計に高まったのを感じた。
「や~~ま~~ざ~~る~~?」
ゴゴゴゴゴゴ・・・
リリーがこの世のものとは思えないほどの間延びした声を上げる。
・・・何だ? リリーが何故か怒っているようだが・・・?
「ひぃぃぃっ!? ち、違うよ、リリーちゃん!! こ、これはグフォッ!?」
「アタシの名前を気安く呼ぶな! 変態!!」
激昂するリリーが濁った瞳のまま、寝たままの状態の兵藤の腹をドシドシと踏みつける。
何で怒ってるんだ? アーシアが首筋にキスしただけなのに・・・。
「リ、リリーさ――――きゃっ!?」
何か危なそうだったので、私はアーシアの腕を引っ張ってこちら側に避難させた。
すっかりアーシアと座りながら抱き合う形になってしまったわけだが、私は別に気にしないし、どうでもいい。
「死ね! 死ね! 死ね! この変態の権化め! アタシのアーシアに汚らわしいことを!!」
「グフッ! グハッ! ガハッ! ちょっ、やめガハァッ!?」
・・・別にアーシアは誰のものでもないだろ。この百合娘は・・・。
アーシアがリリーのほうに視線を向けると疑問の声を上げる。
「リ、リリーさん、どうしたんですか!?」
「さぁな。そこの莫迦がまた何かやらかしたんじゃないのか?」
本当はもっと見ていたいけど、このままじゃホントに殺しかねないな・・・。仕方がない。
私は未だに腹を踏み踏みしているリリーの背後に近寄って、彼女を羽交い絞めにして引き離す。
「いい加減にしておけ、全く・・・」
「離してサクラ! アーシアを誑かすこの男には死の鉄槌を!」
「・・・誑かそうとしているのはアーシアだろ」
「リリーさん、落ち着いてください! イッセーさんが本当に死んでしまいます!」
「離してよぉ! もぉぉぉぉぉ!!」
兵藤の小さな部屋にリリーの叫び声が響き渡る。
近所迷惑だぞ、全くコイツは・・・。
数分後、状況が落ち着いたところで先程の話を再開する。
兵藤とアーシアがベッドの上に座っていて、私とリリーは布団の上に座っている円囲みになっている。
リリーが先ほどから兵藤のことを睨みつけているが、面倒なので気にしないことにした。
「それで、誑し込むって何ですか?」
「そんなことも分からないのに使ってたの!?」
・・・全くだ。リリーに同意見。だから未だに日本語も覚えられないんだよ。
私は溜息を吐くとこの無知なシスターに教えてやる。
「・・・女が男を騙して自分の思い通りにすること」
「あぁ、そうなんですか。でもこの雑誌には――――」
「だからもうこの雑誌はいいんだってば!!」
「あ・・・」
リリーが声を上げてアーシアから雑誌を取り上げると、パラパラとめくってとあるページでアーシアに見せる。
「これは女性の小悪魔なファッションのこと! 誑し込む方法なんてどこにもないでしょ!?」
そう言ってリリーは雑誌を背後のゴミ箱へと放った。雑誌の情報などくだらん。
「うぅ・・・」
リリーに輸されて、落ち込むアーシア。
このままではアーシアが惨めな気がするな・・・どうしようか?
・・・そうだ。面白いことを思いついた・・・。面倒だけどやってやるか。
「おい、アーシア」
「は、はい」
「あんなので男を誑し込んだつもりだったのか?」
「え・・・・?」
「やるならもっと派手にいかないとダメだぜ。手本を見せてやるよ」
私はそう言ってアーシアの元に歩み寄る。
「サクラ、何する気だよ?」
おっと、その前に・・・。
「兵藤、邪魔だ」
「へ? あ、ああ・・・」
兵藤をベッドから下ろさないとないとな。そして入れ替わりに私が入る。
「サ、サクラさん・・・?」
「男って言うのはな、もっとエロくて、クチャクチャで、チュチュっとすれば――――」
「あ、あ・・・な、なんか寒気がします・・・」
私は言葉を紡ぎながら、ベッドの上のアーシアににじり寄る。アーシアが後ろへと後ずさるが、私は思いっきり寄りを進めて上に覆いかぶさって押し倒す。
「捕まえた・・・」
「ひぃ!? な、何をする気ですか!?」
「さあ、お楽しみはこれからだ」
私はそう言って体を震わせているアーシアの首筋を唇で噛む。そして吸いながら舌でチロチロと舐める。
「ひぃ! や、やめ、ひゃ・・あぁぁぁぁ・・」
アーシアが嬌声を上げる。呻きとは裏腹に彼女の頬はピンク色に染まっている。
「あぁ・・・あぁぁぁぁぁぁん! うぅ、ぁん・・・」
「ほらほら、もっといい声で鳴いて見せろよ・・・」
「サクラ、さ・・・や、め・・・あぁぁん!!」
「小鳥のような可愛い声を上げて、無垢なヤツめ」
「んあぁぁん! サクラ、さ・・・やめ・・くだ・・・ひやぁぁぁぁ!」
「お前って本当に感じやすい体をしているな。これで元シスターだなんて、生まれてくる場所を間違えたんじゃないのか?」
「あぁ・・ぁん・・・も、揉まないでくだ、さい・・・」
「何でだよ? こうすると胸が大きくなるっていうじゃないか」
「で、でも、あぁん!」
「今夜はたっぷりと可愛がってやるよ。精々いい声で鳴けよな」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――」
「うぅ・・・もう、主に顔向けができません・・・」
両手で手を覆って啜り泣きをしているアーシアを兵藤が宥めている。
ああ、すっきりした。こんなに清々しいのはいつぶりだろうな。
ふと兵藤が私のほうを見て眉を寄せてきた。
「サクラ! お前人の家でなんて羨ま・・・じゃなくて! 何をとんでもないことしてるんだよ!?」
「何でだよ? 悪い女ってのは他の女を犯すんじゃないのか?」
・・・てっきり他の女を犯して食べちゃうんだと思ったけどな。違うのか?
「だとしても場所を考えろよ! ここは俺の部屋だぞ!! ウッフンアハンなことをする場所じゃないの!!」
「・・・鼻を伸ばしてた嫌らしいヤツに言われても、説得力ないよ」
パシッ!
「痛ぇッ!?」
「アーシア、もう泣かないの」
リリーも歩み寄ってアーシアの頭を撫でる。その際に兵藤に頬に平手打ちを行っている。
「うぅ・・・やっぱり私には悪い女は向いてないんでしょうか・・・」
しょんぼりとするアーシア。すると頬をさすっていた兵藤が溜息をつくとアーシアの前に膝座りして両肩に手を置く。
「あのさアーシア」
「はい?」
「アーシアは、アーシアのままでいいんだよ。悪魔らしくなんて考えなくていい」
「えっ・・・?」
アーシアが少し驚いたような顔をする。更に兵藤が言葉を続ける。
「俺だってみんなだって、そのままのアーシアを仲間だって認めてんだからさ」
いつもの兵藤とは思えない優しい顔をしてアーシアに言う。コイツはこういうときだけ、いいところがあるんだよな・・・。
少しはその素顔を女生徒たちに見せてあげればいいのにな。まあ、もう遅いと思うけど。
「イ、イッセーさん・・・」
アーシアはしばらくきょとんとしていたが、すぐさま笑顔になって兵藤に抱き着く。
「ありがとうございますぅ! 私が間違ってました!」
嬉し泣きとも啜り泣きとも似つかない様子のアーシア。
「あ、あはは・・・」
兵藤は頬をポリポリと搔きながら、照れ臭そうに苦笑していた。
「ちょっと! アーシアに引っ付かないでよ!」
「だ、だから俺の意思じゃないって言ってんだろ!!」
また始まった・・・。いい加減にしろよな、この莫迦2人は。
「五月蠅いッ! もう、こうなったらアタシも・・・!」
「えっ、ちょっ、まっ、うわっ!?」
「きゃあ!?」
するとリリーは飛び込むようにしてアーシアの背中から抱き着く。兵藤とアーシアが押し飛ばされて、ベッドの上に横になる。
兵藤がアーシアに押し倒されたときと同じように仰向けになり、兵藤に抱き着いている状態のアーシアにのみ抱き着くようにリリーが上になっている。
「アーシアの温もりすりすり・・・ふふふ」
「リ、リリーさん・・・」
「リリーちゃんっ、重いってば!」
「失礼ね! これでもアンタよりは軽いわよ!」
・・・何だろう。何だか不愉快な気分だ。
3人は明らかに莫迦をしていると分かるのに、やっていない私だけ何でこんな不愉快な気分なのだろう。
「おいおい、オレは仲間はずれかよ。3人でイチャイチャしやがって。オレも混ぜろよ」
「えぇ!?」
そう宣言した私に、兵藤が首だけを起こして驚きの声を上げる。
何だよ・・・私が来たら不満なのかよ・・・。
「いいよ、サクラ。どうぞ、アタシの背中に飛び込んできて」
「ちょっと待ってって!! お前まで乗ったら俺が死ぬ!! 3人の美少女に潰されて俺がマジで死ぬ!!」
「それはそれでお前としては本望なんじゃないのか? それにお前は頑丈なんだから死にはしないだろ」
「ああ、それは確かに――――って違うだろ!! 肉体の前に精神が持たねえよ!! 俺、こう見えても結構少年のような純粋な精神の持ち主ですから!! いくら可愛い女の子でもおっぱいの大きな綺麗なお姉さんでも、潰されて死ぬのは嫌だぁぁぁッ!!」
私は兵藤の叫びを無視して、助走を付けようと背後へと下がる。
「じゃあ、行くぞ・・・」
「だから待てって!! ちょっ、やめて! 誰か、助けぐはぁぁ!?」
今私が飛び込んだことにより、3人の体重が一番下の兵藤にかかった。まあ、ここはどうでもいいな・・・。
私はアーシアとリリーの2人を背後から抱きしめる形になったわけだ。何か自分でも莫迦やってるんだと思うけど、いいか。今宵は気分いいし・・・。
・・・ん。確かに・・・温かいな・・・。
「アーシア」
「は、はい」
「これからも、一緒にいようね」
リリーがアーシアの耳元でボッソリと呟いた。
「はい・・・」
アーシアもこのままで少しの間を置いた後、穏やかな返事を返した。
こうして今宵も更けていった・・・・・・。
こんなことがあった翌日の放課後、この日も部活動の日。私と兵藤は今日も部活に来ていた。
アーシアを含めた他の眷属たちは契約を取りに行っているのでいない。リリーもエレンに呼ばれていていない。
嫌そうな顔をして、任務へと赴いていったリリーの姿が私の記憶の中にある。よって部室には、私と兵藤とリアスの3人だけというわけだ。
リアスはソファに寝ころびながら、テーブルに置かれたチェス版の駒を眺めている。
兵藤はリアスがいる向かい側のソファで塵取りで掃除をしており、私はその左端でいつものように目を瞑っている。
それにしても、アーシア・アルジェント。あの子は真面目すぎるな。すぐに雑誌の情報を鵜呑みにするし、悪魔だからといって悪い女になろうとする。
頭のねじがどこか一本抜けているんじゃないかというくらい、私には莫迦であると思うが、そこがまた可愛いところだ。
何というか、守ってあげたくなってしまう。そんな感じの不思議な少女だな。
あの子は面白い・・・からかいがいもあるしな。
「ねぇ、イッセー」
「はい、部長!」
リアスが兵藤に視線を向けずに呼び、兵藤が元気に返事をする。
・・・・・・そういえば。
私は兵藤を見て、ふと思ったこと、それは・・・。
「・・・キスマークぐらい、隠しなさい」
・・・兵藤の首筋に赤い唇の跡がついていたことだった。
確か、アーシアに首筋にキスされたんだっけな。その跡を今日になるまで付けているとは、恥ずかしい男だ・・・。
これが夫婦だったら、キャバクラで浮気した夫のように感じるだろう。
リアスに視線を向けられないまま注意されて、きょとんとしたような顔する兵藤。
・・・まさか、気付いてなかったのか。
じゃあ気付かないまま、その跡を付けたまま授業に出たということか? ホントに恥ずかしいな・・・。
「!!?」
昨日アーシアに口づけをされたことを思い出したように、兵藤は慌てて首筋の跡を両手で隠した。
・・・ああ、アーシアもある意味では、『悪い女』だったな。