極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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番外編5「料理対決 DEAD or ALIVE?」

ある日の放課後、今日もオカルト研究部の部室の扉が開かれる。

 

「ちわーす! 兵藤一誠、ただいま到着しました!」

 

「こんにちはー! アーシア・アルジェントも到着ですぅ!」

 

「リリアンヌ・ダルクことリリーちゃんもいまーす!」

 

元気に挨拶をした兵藤一誠、アーシア・アルジェント、リリアンヌ・ダルク。3人は珍しく揃って部室へとやってきたのだ。

 

「あら、ごきげんよう。イッセー、アーシア、リリー」

 

「遅かったじゃないか。何をぐずぐずしていたんだ?」

 

部室には我らが部長のリアス・グレモリーが上座について何かの雑誌を目に通していて、ソファーでは風花桜が副部長の姫島朱乃が淹れた紅茶をショートケーキと一緒に嗜んでいた。

 

「すみません、ちょっとホームルームが長引いて・・・」

 

「全くだわ。そもそも遅くなったのも、あのメガネザルがチンタラやってたせいよね。これだから男ってのは」

 

「あ、あははは・・・」

 

手を頭に当てながら苦笑するイッセーとは対照的に、リリアンヌは不機嫌な顔で愚痴を吐いている。その様子にアーシアも愛想笑いをし、リアスも苦笑していた。

 

するとイッセーは部長が目を通していた雑誌が気になった。

 

「部長、何読んでるんですか?」

 

「これ? これはね、悪魔の世界の雑誌よ。料理の本なの」

 

イッセーが問いかけるとリアスは雑誌の表紙を見せながら答える。

 

「へぇー。悪魔の世界にもこういう雑誌ってあるんですね」

 

「・・・オレは知ってた」

 

「ああ、アタシも知ってますよ」

 

サクラとリリアンヌの返答にイッセーとリアスが振り向く。

 

「えっ、サクラとリリーちゃん、見たことあるのか?」

 

「・・・組織は一応、冥界と繋がりがある。だからこういうものも、たまに配給されることもあるんだよ」

 

「聞いたことないわね、エデンが冥界と繋がりがあるなんて・・・」

 

「まああくまでも裏では繋がっているというわけですから、知らない人が多いのも無理はないんですわ」

 

リリアンヌが話すとサクラが彼女のほうに歩み寄って耳元で囁いた。

 

「わ、分かってるわよ・・・」

 

リリアンヌはサクラに睨まれている気がしたのか、言葉が少しビクついた。

 

「それで、どこまで話したっけ?」

 

サクラがソファに戻りながらリアスに視線を向け、脱線していた話を戻そうと口を開いた。

 

「ああ。悪魔の世界は人間界の影響をとても多く受けているわ。特にこういう大衆誌なんてこちらと大して変わらないわよ。料理の本だけじゃなくて、ファッション誌、専門誌もたくさんあるわ。ね? 朱乃」

 

「ふふ、そうですわね。私もこの手の雑誌を冥界から取り寄せていますわ。冥界の流行を知るのも人間界に住む悪魔にとっては大事なことですわよ」

 

朱乃の言葉に同じく部員の木場裕斗が続く。

 

「僕も冥界から武器の雑誌を取り寄せているよ、イッセーくん」

 

「ああ、あれはよかった。結構オレ好みの剣もたくさんあったしな。今度コレクションしてみようか」

 

裕斗の言葉にサクラが同調する。彼と同じクラスであるサクラも、一緒にその雑誌を見ていたことがあるのだ。

 

「木場とシキらしいな。俺も何か雑誌を取り寄せてみようかな・・・」

 

「変なのだったら燃やしてやるわよ。例えばエロ雑誌とか、グラビアとか」

 

そう考えるイッセーに、リリアンヌがジト目で言う。

 

「何を言うんだリリーちゃん! 男だったらそういうものを確かめられずにはいられないじゃないか!」

 

「自分の部屋の中に十分すぎるくらい隠し持ってるくせに、これ以上増やしてどうするっていうのよ!?」

 

「もちろん女性の女体を集める! 女の体には男にとっての夢と希望が詰まってるんだ!」

 

そこまで言うとリリアンヌは何かを悟ったかのように、イッセーの左肩に手を置く。

 

「・・・軽いわね、男の夢と希望って。もっとマシな夢を目指せないのかしらね・・・」

 

「グハッ! ひでぇ! 小猫ちゃんに言われたときとよりもダメージがでかい!!」

 

嘲笑というよりも哀れみに近い笑みでリリアンヌがそう言う。イッセーに言葉の槍が突き刺さる。

 

「・・・そもそも兵藤は悪魔文字が分かるのか?」

 

サクラがイッセーに一冊の雑誌を渡しながら言う。イッセーは受け取ると雑誌をパラパラとめくり始める。

 

冥界の雑誌は冥界に住む悪魔たちが読めるように悪魔文字で書かれている。これは今イッセーが受け取った料理の雑誌はもちろん、朱乃が取り寄せている雑誌や裕斗の武器の雑誌も同様である。

 

「えーっと・・・ああ、悪魔文字は全部覚えてないな・・・。だから雑誌に書かれている悪魔文字が分からないや・・・」

 

「・・・悪魔が悪魔文字を読めないのは笑いものにされてもおかしくないぞ」

 

「うっ。・・・そうだよな。けど、この料理雑誌に掲載されている料理はおいしそうだって分かるぜ」

 

イッセーは文字が分からないのでどういうものかは分からないが、第一印象的な感想だけは述べることはできる。

 

「・・・冥界料理には美味しいものがたくさんあります」

 

同じく部員でのリアスの眷属である搭城小猫が話しかける。

 

「小猫ちゃん、それ本当かい?」

 

「・・・はい。部長さんや朱乃さんが以前作ってくれましたが、すごく美味しかったです」

 

イッセーの言葉に、小猫がそう答える。

 

「あっ、それ僕も頂いたよ。すごく美味しかったよ」

 

「それ、アタシも頂きましたわ。すごく美味しかったですわ・・・」

 

裕斗とリリアンヌがそれぞれ言う。リリアンヌに至っては感想の後に「命がけだったけどね」とぼそりと呟いていた。

 

「マジかよ!? 小猫ちゃんやリリーちゃんはともかく、木場なんかに食べさせたんですか、部長!? いいないいなぁ!」

 

イッセーのどこか含みのある言い方に、木場が苦笑する。

 

「相変わらず手厳しいな、イッセーくんは・・・」

 

「・・・完全にお前に嫉妬してるよな、木場」

 

「裕斗くんが女にモテることに加えて、手料理まで食べさせてもらったのが羨ましいだけでしょ。冴えない男の考えることなんか嫌らしいわね」

 

「それを言うならサクラさんとリリーちゃんも結構人気があるって聞いたんだけど」

 

「冗談じゃない。男と女に言い寄られるなんて本気でウザい。ボロ雑巾のようにしてやりたいと思った」

 

「どうせこの学園の男どもは変態ばっかりなんでしょ。近寄りたくもないわ。ああ、裕斗くんはカテゴリーに入ってないからね」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

2人の歪んだモテ持論にどう反応していいか分からず、裕斗は苦笑するしかなかった。

 

「いつでも食べさせてあげるわよ。ねぇ? 朱乃」

 

「ええ。もちろんですわ。うふふ」

 

リアスと朱乃は笑顔で言った。

 

ここで雑誌に目を通していて蚊張の外だったアーシアが口を開く。

 

「そういえば・・・冥界料理ではありませんが、教会の料理にも裏メニュー的なものがあると、教会に属していたころに他のシスターから聞いたことがあります」

 

「教会の裏メニュー? へぇー、それは何だかすっごく興味があるな。アーシア、それどういうの?」

 

イッセーが興味深そうにアーシアに聞く。

 

「この雑誌に載っている冥界料理ほど豪勢なものではありませんが、教会独自のものでして、私も作り方だけで実際に作ったことはないんです。うぅ・・・すみません、イッセーさん」

 

「いいよいいよ、謝らなくて。アーシアの立場を考えれば仕方ないさ」

 

何も資料がないことに謝罪の言葉を述べるアーシアに、イッセーが気にしないといったように対応する。

 

「いやしかし、冥界にも教会にも独自の料理があるんだな。どっちも食べてみたいかも!」

 

(教会料理はやめておいたほうがいいと思うぞ・・・)

 

(教会料理はやめたほうがいいと思うわ・・・)

 

そう宣言するイッセーに、サクラとリリーはその様子を呆れたように見つめている。2人は教会料理がどんなものか十分知っている。そもそも悪魔とは敵対関係にあるものをどうして悪魔のために美味しく作ろうだなんて思うだろうか。

 

「うーん、そうね・・・」

 

イッセーの言葉に、リアスが顎に手を当てる。そしてリアスの頭の上に、思考の電球が光った。

 

「そうだわ!」

 

「あらあら部長。何か閃いたんですか?」

 

「ええ、朱乃。アーシア、料理対決をしましょう」

 

「えっ・・・りょ、料理対決、ですか?」

 

戸惑うアーシア。

 

「そうよ。私とアーシアで今から材料を集めて、料理の対決をするの。私は冥界の料理を作るわ。アーシアはその教会の裏メニューを作って頂戴」

 

リアスの言葉に、サクラとリリアンヌの2人はアーシアは作らないほうがいいんじゃないかなと思う。

 

「おぉ! ソイツは面白そうだ! アーシア、やってみなよ!」

 

「で、でも、私、裏メニューを聞いただけなので実際に作ったこともありませんし・・・とても部長さんに適うとは思いません・・・」

 

イッセーの後押しにも動揺するアーシア。そもそも教会で祭られているように扱われていたアーシアは料理なんか作ったことがないのである。

 

「いいのよ。作って食べてもらうだけでいいの。対決と言っても勝敗なんか関係ないわ。楽しめればそれでいいじゃない? そうね・・・小猫とリリーはアーシアの助手をお願いできない?」

 

「・・・了解です。アーシア先輩、よろしくお願いします」

 

「べ、別にいいですけど・・・アーシア、とりあえず話し合いから始めましょうか」

 

「えっ!? あ、はい! こちらこそ、よろしくお願いします・・・」

 

小猫は淡々と、リリアンヌは若干戸惑ったようにリアスに返答すると、2人はアーシアに視線を向けて言う。

 

「私の助手は朱乃。いいわね?」

 

「もちろんですわ。けれど私まで調理したら面白くありませんし、材料を切るぐらいしかお手伝いしませんわよ?」

 

「それで十分よ」

 

リアスは朱乃と対話した後に、イッセーと裕斗と式のほうを向く。

 

「アーシア、ちょっといいかしら・・・」

 

「えっ。リリーさん、どうしたんですか?」

 

リリアンヌがアーシアの手を引っ張って部屋の隅へと移動する。そして正面を向かせた後に、両肩に手を置きながらヒソヒソ声で話す。

 

「・・・裏メニューがどんなものか知ってるの?」

 

「は、はい・・・でも作ったことはないです・・・」

 

「アンタ、それが分かってて作る気なの?」

 

「そ、そういうわけじゃありませんけど・・・」

 

2人がヒソヒソ声で話している横で、リアスが口を開く。

 

「イッセーと裕斗とサクラは実食係ね。今から旧校舎の空き部屋をキッチンに作り替えましょう。ふふ、使い魔を出して料理対決の舞台作りよ」

 

リアスが笑みを浮かべながらそう言うと、ボンッという音と共に使い魔が出現する。

 

「あらあら。部長ったら、思いついたらすぐ行動なんですもの」

 

うふふと笑いながら朱乃が言う。部屋の隅でリアスの言葉を聞いていたリリアンヌが顔色を変えた。

 

「うーん、全員が食べるわけじゃないんだ・・・ふーん。・・・ソイツは面白そうね。ふふふ」

 

「リ、リリーさん、何の話をしているんですか?」

 

不敵な笑いをこぼすリリアンヌに、アーシアの表情が引き攣る。何か悪いことでも考えているような顔だ。

 

「何でもないわ。こっちの話よ。アーシア、その料理作ってみましょうか」

 

「ええ!? で、でも、リリーさん、作っちゃダメって・・・」

 

「いいのよ。アタシ、気が変わったわ。それに部長も作れって言ってるんでしょ? 主の期待には応えないとね」

 

「で、でもぉ・・・」

 

「? どうしたのよ?」

 

口ごもるアーシアに、リリアンヌが疑問符を浮かべる。

 

「俺と木場とサクラは味見役か。楽しみだなぁ・・・!」

 

「・・・何事も無ければいいんだけどね」

 

顔をキラキラとさせているイッセーに対して、裕斗は心配そうにしつつも苦笑していた。

 

「今回ばかりは幸運を祈るぞ、木場」

 

「うん・・・ありがとう、サクラさん・・・」

 

サクラが珍しく激励の言葉を述べる。この後にどうなるのかをまるで予測しているかのよう。

 

「お前もな、兵藤・・・」

 

「えっ、ど、どうしたんだよ、サクラ・・・?」

 

「・・・なんでもないよ」

 

イッセーにも一応言ってみたが、どうやらバカなこの少年には届かなかったようだ。サクラは無視することにした。

 

そしてアーシアとリリアンヌのほうは・・・・・・。

 

「はぁ!? 料理する姿をあの山猿に見られたくない!?」

 

「うぅぅ、た、大変なことになりました・・・リリーさん、どうしましょう!?」

 

「知らないわよ、そんなの! 何を言い出すのかと思えば! 大体、調理することの何を気にしてるっていうのよ!?」

 

すっかり狼狽しているアーシアに、リリアンヌが声を上げて問う。

 

「私、料理があまり得意じゃないんです・・・やったこともありませんし。もし料理が下手だって、イッセーさんに知られたら私、もう生きていけません・・・」

 

「大袈裟すぎんでしょうが、アンタは・・・」

 

泣きそうな声で言うアーシアに、リリアンヌが呆れたように呟く。

 

リリアンヌもアーシアがイッセーを好きなのは十分に理解している。陰で応援しつつもときどき妨害しているのはある意味嫉妬だったりする。自分もサクラに憧れているからこそ無様な姿は晒したくないし、置いて行かれたくもないからその気持ちは十分分かってるつもりである。

 

リリアンヌは「はぁ・・・」と溜息をついた後に口を開く。

 

「・・・分かったわ。アタシも小猫もサポートしてあげるから、ちゃんと料理を作りなさい」

 

「で、でも・・・」

 

「でももストもないの。アタシがレシピとやり方を教えればできるでしょ? 材料も調達してきてあげるから、胸を張って作りなさいよ」

 

普段はワガママを言うことの多いリリアンヌがしっかり説得をすると、泣きそうな顔をしていたアーシアが覚悟を決めたような顔になった。

 

「わ、分かりました。アーシア・アルジェント、がんばりますぅ!」

 

「その意気よ、アーシア♪」

 

アーシアの言葉に、リリアンヌも笑顔になる。

 

こうして唐突に決められたオカルト研究部の料理対決が始まろうとしていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コホン。そんなわけで、第一回オカ研女子部員料理対決を開催したいと思います!」

 

イッセーが元気に開催宣言をする。

 

「味見と実況は僕、木場裕斗と兵藤一誠くん――――」

 

「そして味見と解説はオレ、風花桜がお送りする・・・」

 

「えっ、実況も!?・・・まあ、いいや。ノリだよな、ノリ!」

 

裕斗とサクラの紹介にイッセーが驚くも、消極的な肯定をして前に向き直る。

 

「ええ、すでに両陣営ともに具材と調理器具は一通り、揃っています。女子部員はすでにエプロン姿に着替えて・・・って、何だか肌色の多いエプロン姿ではありませんか!?」

 

調理をするとはいえ、わざわざ水着姿になっている5人。普通に服からエプロンをすればよいだけの話だとは思うが、リアスたちは面白いからやっているのである。

 

この姿はイッセーのエロ精神を搔き出すには十分だった。

 

「ええ。何となく水着の上からエプロンを着てみたの。ねぇ、朱乃」

 

「ええ。サービスですわ」

 

「ありがとうございます! 眼福です!」

 

リアスと朱乃の水着エプロン姿にテンションが高くなるイッセー。木場の右でサクラがイッセーに向かってジト目を向けているのも露知らずに。

 

「うぅぅぅ、この格好、スースーしますぅ・・・」

 

「何で料理するのにアタシがこんな格好しなくちゃなんないのよ?」

 

アーシアとリリアンヌも水着エプロン姿になっているわけだが、肌が空気に晒される寒さに思わずエプロンを覆うアーシア。一方のリリアンヌはどこか不満そうな口調だった。

 

「・・・アーシア先輩、リリー先輩、エプロン似合ってます。それと水着も・・・」

 

そこに水着姿の小猫が金髪の少女2人に近寄って称賛する。

 

「小猫ちゃんもその水着、とても可愛いですよ・・・」

 

「あぁ~ん! 可愛いぃ~! 小猫ちゃんは何を着ても似合うねぇ~!! 今度、アタシの家でコスプレパーティーしようよ~!」

 

小猫の水着姿に気付いたアーシアがそう言う。リリアンヌは頬に手を当てて体を振りながら、若干興奮気味で言った。

 

「・・・スク水しか似合うのがないので」

 

小猫が無表情だが、若干照れ臭そうに言った。

 

「いいや最高だよ、小猫ちゃん!! アーシアとリリーちゃんも似合ってる!! 俺は女性の水着なら大抵OKを出せる!!」

 

立ち上がったイッセーが3人の少女の水着姿に興奮気味な感想を述べる。

 

「えい」

 

ヒュンッ!

 

「フンッ!」

 

ヒュンッ!

 

「どわぁっ! うおっ!?」

 

カツンッ ドスッ!

 

アーシアグループからそんなイッセーに2つの調理器具が飛んでくる。

 

反射神経の無いイッセーが何とか交わすと、1つは器具は金属音を立てて床に落ち、投げナイフのように投げられたもう1つは床にしっかりと突き刺さっている。

 

「・・・自重してください、スケベ先輩」

 

「今ので死ねばよかったのに・・・」

 

器具を投げた張本人である2人、小猫は淡々と注意をし、リリアンヌはまるでゴミ虫をみるような目で言った。

 

「くっ・・・だからってフライパンと包丁を投げることはないと思うんだ・・・。それにリリーちゃん、殺そうとするなんて何気に酷い・・・」

 

「フンッ」

 

イッセーのどこか悲しげな声にリリアンヌが鼻を鳴らしてそっぽを向くと、洗面台のほうに歩み寄り蛇口を捻って手を洗い始める。

 

「ふふ、僕も水着になろうかな」

 

「やったら殴るぞ、木場ぁ・・・!」

 

笑いながら言う裕斗に、隣のイッセーは怒りの顔でボキボキと手を鳴らした。

 

「別にいいじゃないか。木場も結構スク水、似合うと思うぞ」

 

更に木場とは別の隣の式が言う。

 

「サクラ、お前まで何言ってんだよ!? つーか、何で女子の中でお前だけ水着になっていない!?」

 

「・・・オレが何を着ようとオレの勝手だ」

 

「そこはせめて水着になれよ! 部長があんなにノリよくやってるっていうのにお前だけやらないって何だよ!?」

 

「・・・うるさい。お前の莫迦に一々付き合ってられるか」

 

「僕は冗談で言ったつもりだったんだけどな・・・」

 

イッセーとサクラの口論、というよりもイッセーの抗議の声をまるで相手にしていないサクラ。その間でまさか今の言葉を本気と捉えられたことに苦笑する裕斗。

 

今回のこの料理対決の舞台、それはリアスたちが会議などで使っているいつもの場所である部室なのだが、リアスたちの使い魔によっていつものテーブルや上座が取り払われ、家庭科室などで設置されているキッチンが2つある。そしてその奥には白いカバーが掛けられたテーブル、そして会議室にあるような椅子が設置されており、試食の3人はそこに座っているのだ。

 

「まあ気を取り直して調理開始といきましょうか。部長と朱乃さんが冥界の料理を調理、アーシアさんと小猫ちゃんとリリーさんのチームは教会の裏メニューを調理します」

 

「オカ研の仲良しが揃ったって感じだな」

 

イッセーの言葉を完全にスルーして、2人は実況と解説をする。

 

「・・・スタート」

 

ゴワアァァァァン!!

 

小猫の言葉の直後、リアスの使い魔が鳴らす銅鑼の音を合図に、両チームの調理が始まる。

 

「まずは冥界産の男爵マンドラゴラを切るわ。栄養満点で、生で食べても口当たりが最高よ」

 

そう言うとリアスは包丁で、『野菜のような形』をしている植物を包丁で切り分けていく。

 

「ちょっと。あの食材、人間の形してないか!?」

 

「・・・しかも顔が付いているな」

 

調理しているものが奇妙な形をしていることに気付いたイッセーが声を上げる。

 

「あれはマンドラゴラと言って、魔法の薬や錬金術などに使われる割とポピュラーな具材だよ」

 

「・・・文献では地面から引っこ抜いた際に、張り裂けんばかりの叫び声を上げて聞いたものは発狂して死ぬと言われているあの植物だな。でも動物などを使ってうまく引っこ抜ければ、媚薬や不老不死の薬にも使えると言われているから、かなりレアな材料の一つだな」

 

「しかも男爵マンドラゴラなんて高級食材を使うあたり、さすが部長と言うべきだね」

 

「知らねーよ! 俺の知ってるポピュラーとは明らかに違うよ! それに男爵って、男爵イモみたいなもんなんですか!? 生で絶対に食べたくないんですけど!?」

 

よくわかっていないイッセーに裕斗とサクラがそれぞれ解説をすると、イッセーが主にリアスに対してツッコミを入れる。

 

「ふふ、イッセーくんは精細だね」

 

「・・・神経質なだけだろ。こういうときだけ利口になるんだよな、コイツは」

 

「おや? アーシアさんのほうにも動きがあったようだよ」

 

裕斗の笑顔の一言とサクラの皮肉めいた言葉が入ったところで、アーシアチームのほうは・・・。

 

「えーっと、まずは鍋にこれを入れて」

 

「は、はい!」

 

リリアンヌがレシピ本というよりもメモ帳を見ながら、透明な液体の入った小瓶を渡すとアーシアがそのコルクを外して空の鍋へと注ぐ。

 

「・・・あの鍋に注いでるのは聖水だよな?」

 

「ダメじゃん!! 開始早々エライことになってるよ聖水って!! 俺たち悪魔にとって見れば毒みたいなもんじゃないか!! もうこの時点で猛毒料理を食べろってことになってますけど!?」

 

サクラの呟きにイッセーがテーブルをバンと叩きながら立ち上がって鋭いツッコミを入れる。

 

「そ、そんな! 私は猛毒なんて作るつもりはありません!」

 

「そうよ! 食う前から失礼な猿ね! そんなの試しに食べてみなきゃ分からないじゃない!」

 

「いやいや、食べる相手が悪魔の木場と俺だからって無茶ぶりじゃないのか、2人とも!?」

 

ムスっとした顔で、不機嫌そうな顔で抗議の声を上げるアーシアとリリアンヌ。もう何か裏があるとしか思えない行動にイッセーがツッコミを入れる。

 

「僕はリアス・グレモリーの『騎士』だ。いつだって死ぬ覚悟は持っているよ」

 

「こんなところで死地に赴く戦士の顔をするなぁ! いや、死地だけどさぁ!?」

 

「・・・2人とも、亡骸は拾ってやるからな。派手に散ってくれ」

 

「そしてお前はこれからの身を案じている俺たちの状況を何、他人事のように言ってんだよ!? お前が悪魔じゃないのはわかるけど、せめて労りの言葉ぐらいくれてもいいと思うんですけど!?」

 

そして今度は真剣な表情で言う裕斗と茶化すように言うサクラにツッコミを入れる。

 

「アーシア、あんなヤツほっといて調理を続けましょう。相手にするだけ時間の無駄よ」

 

「は、はい・・・」

 

素気ない言い草のリリアンヌにアーシアが不安そうな声を出す。

 

「それにアイツはアーシアの料理を楽しみにしてるんだから、残さず食べてくれるわよ。アイツは変態だけど・・・・・・」

 

「リリーさん・・・?」

 

リリアンヌの言葉が後半からブツブツ言っていて聞き取れず、怪訝そうな顔をするアーシア。

 

「な、なんでもない!! とにかくアイツを信じてあげなさいよ。そういうヤツだから」

 

「リリーさん・・・分かりました! 私はこのまま、裏メニューを作りますぅ!」

 

「マ、マジっすか・・・?」

 

リリアンヌの煽るような言葉に、アーシアが料理を続ける宣言をする。その言葉にイッセーが唖然とする。

 

しかしイッセーもその直後に覚悟を決めたのか真剣な表情になる。

 

「・・・分かりました! せめて、美味しくしてください! 不味くて死ぬのだけは嫌だぁー!」

 

「・・・部長のほうにも動きがあるようだが」

 

サクラがそう告げるとイッセーは視線をリアスの調理場のほうに向ける。

 

「部長、スープの下処理は済みましたわ」

 

ボコ、ボコボコ・・・。

 

朱乃がそう告げるスープが音を立てながら沸き立つ。音だけならば聞こえのよい感じなのだが、イッセーはその鍋の中を見て表情を引き攣らせた。

 

「ち、ちょっと! その鍋の中身、見たこともない色をしているんですが・・・!?」

 

「ええ。冥界産のコカトリスの骨から取り出したエキスよ。これがそのコカトリス、魔物なの」

 

さらっと言ってのけるリアスがコカトリスの体の肉をビニール手袋をはめている手で掴んでイッセーに見せる。

 

「トカゲやニワトリが合体した化け物じゃないですか! えっ、そのエキス!?」

 

元人間だったイッセーがとんでもない具材でダシを取っていることを聞いて驚愕する。

 

「コカトリスは見た者触れた者を石に変える危険な魔物なんだ」

 

「・・・ちなみに毒も持ってるぞ」

 

「毒じゃん!! こっちも毒料理じゃないか!! 何これ!? 第一回オカ研毒殺動画発表会の間違いじゃないの!? 魔物って! 魔物が具材って!! 冥界のポピュラーって俺の想像を遥かに越えたアドベンチャー状態になっているんですが!? 俺はてっきり、あの雑誌の見た目もよくて美味しいを想像していたんですけど!?」

 

驚くイッセーに畳み掛けるように裕斗とサクラが解説を入れる。アーシアと同じ料理を作らされていると思ったイッセーが長々しいツッコミを入れる。

 

その言葉にスープの具材の処理をしているリアスがイッセーのほうを向いてムスッとした顔をする。

 

「失礼ね。下処理すれば石化はしないわ」

 

「石化って!? 肝心の毒は抜けないんですか、部長!?」

 

更に驚くイッセーに裕斗が肩に手を置く。

 

「イッセーくん、死ぬときは一緒だよ」

 

「死ぬんじゃねぇかぁぁぁぁ!! 嫌だよぉぉぉぉ!! 女体の素晴らしさを知り尽くす前に死にたくないよぉぉぉぉ!!」

 

同性愛と誤解されそうな裕斗の言葉に、イッセーが頭を抱えながら泣きそうな声を上げる。これから自分があんなとんでもない料理を食べさせられるなんて、たまったもんじゃない。しかも自分の大嫌いなイケメンと一緒に死ぬことになるなんて尚更、冗談じゃない。

 

その様子をサクラがゴミ虫を見るような目でイッセーを見つめていた。

 

「もう一回死んだほうがいいんじゃないのか。そうすればその莫迦な頭も少しは矯正するだろ」

 

「シキが冷たい・・・。俺がとんでも状況にこんなにも悩んでるって言うのに・・・!」

 

そんなイッセーの傷をサクラが抉るような言葉を放つ。

 

「ほら、僕たち一度死んで悪魔に転生しているしさ。大丈夫」

 

「やっぱり殴るぞ、お前・・・!」

 

何が大丈夫だと言うのか。裕斗のさらりとした発言に、イッセーが怒りを覚える。

 

「まあオレは石化も毒も利かないからいいけどな。慣れてるし」

 

「お前もいい加減、他人事みたいな発言をさらりと言うのはやめろ!!」

 

こちらも涼しい顔でさらりとした発言をするサクラに、イッセーが怒りの声を上げる。

 

「おーっと、アーシアさんのほうにも動きがあったよ」

 

「煮立った鍋に何かを入れようとしているな」

 

「スルーされた!? しかも2人に! 酷ぇ!!」

 

わざとらしい声を上げて裕斗が、いつも通り淡々としたサクラが視線を元に戻す。その行動にイッセーが軽くショックを受ける。

 

そんなアーシアチームの鍋の中は聖水が煮立っていた。

 

「鍋で煮立てた聖水にワインを入れて、聖餅粉と無醗酵のパンを千切って入れていきます。同時に塩・コショウもします」

 

アーシアが煮立った聖水にキッチン手袋をしながら、自身が言う具材を入れていく。手当たり次第に具材をぶち込んでいるように見えるが、リリアンヌの持ってきたメモレシピにはそう書かれているのだ。

 

「そうそうアーシア、手際が良くなってきたわね」

 

「い、いえ、そんなことはないですよ」

 

その様子を微笑ましく見つめるリリアンヌが言うと、アーシアが頬を赤らめた。

 

ここでイッセーが気になっていることをアーシアに言ってみる。

 

「ちなみに、その聖餅というのは?」

 

「はい。儀式で使う特別なパンのことです」

 

アーシアの言葉にサクラが続く。

 

「そのパンはキリストの体の一部だと信じて食べるのが教会の習わしというヤツらしい。まあ、オレには聖なる粉を練ってイースト菌で発行させたただのパンとしか思えないな」

 

サクラは後半から眉を寄せながら説明を入れた。まるで神や教会に恨みがましいことでも持っているかのようだ。

 

説明が終わると裕斗がイッセーのほうに視線を向けて言う。

 

「イッセーくん、ちなみに聖餅も僕ら悪魔にとってとても有害なんだ。ほらアーシアさんも直接持てないから、厚手のキッチン手袋を用意しているだろう?」

 

「若干悟ったような朗らかな笑顔で言うなぁ! やっぱりか! 聖水に煮出した聖なるパンを入れるってか! 死ぬ! 部長の料理も、アーシアの料理も食べたら俺は死ぬぅぅぅぅぅ!!」

 

裕斗の相も変わらない爽やかな笑顔に、イッセーは頭を抱えながら叫び声を上げた。

 

「・・・そろそろ完成ですね」

 

「・・・2人がどんな感想を述べるのか楽しみだな。むしろ体で美味しさを表現するかもな」

 

「サクラ、お前も試食班だったよな・・・?」

 

小猫とサクラがそれぞれ言うと、イッセーはサクラの聞き捨てならない発言にボソリとツッコむ。

 

こうしてアーシアと部長の料理は完成した。イッセー、裕斗、サクラの目の前に物凄い色の料理が並べられた。

 

並べられた料理を見て唾をのむイッセー。サクラだけは相変わらず無表情に料理を見つめている。

 

「こ、これは・・・」

 

今はリアスの班のの料理が置かれているのだが、どことなくおかしな色をしていて、まるで料理が下手糞な人が作ったような感じになっている。

 

「まずは私たちの冥界料理からよ。朱乃、説明をよろしくね」

 

「はい。『コカトリスのスープ グレモリー風』ですわ。それと『男爵マンドラゴラを中心としたサラダ』です」

 

「っ・・・スープがボコボコいってる・・・色もこれは・・・。でも臭いだけはいいんだよなぁ・・・。何この複雑な状態は・・・いっそ臭いもダメにしてくれたら清々しかったのに・・・!」

 

「まあ料理は見かけによらないって言うからな。食べてしまえば結果は分かるだろ」

 

イッセーとサクラが見た目の感想を述べる。お世辞にも見栄えがいいとはいえないイッセーと、そんなことはどうでもよさそうに言うサクラ。

 

「それでは召し上がれ。イッセー、裕斗、サクラ」

 

「! は、はい!」

 

「・・・頂こう」

 

(部長の手作りだ。断る理由はねえ! 行くぞ俺! 死ぬ気でいくぞ! 水着エプロンが見られただけで死んでもいい日じゃないか!!)

 

(たまにはこういう料理も悪くないのかもな・・・。せっかく作ってくれたんだし、食べてやるか)

 

それぞれの思惑を持ちながらも、2人は手と手を合わせる。

 

「いただきまぁーす!」

 

「・・・いただきます」

 

イッセーはギュッと目を瞑りながら男爵マンドラゴラのサラダを口に入れ、コカトリスのスープを啜る。

 

サクラは無表情で女性らしくゆっくりとサラダに手を付けて、コカトリスのスープをゆっくりと啜る。

 

「!!・・・美味しい」

 

「・・・美味しいな」

 

料理を食べたイッセーが目を見開く。サクラは相変わらず無表情のままだったが。

 

両方とも食べた2人だが、まずイッセーが味が一番伝わったスープのほうに注目する。

 

「濃厚だけどあっさりとした鳥の風味が口いっぱいに広がっていく・・・後味もしつこくなくてグイグイ飲める!」

 

次にサクラがサラダに関しての感想を述べる。

 

「こっちもシャキシャキとした歯ごたえがあって美味しいじゃないか」

 

「だよなぁ、サクラ!」

 

イッセーはサラダを頬張り、コカトリスの料理にがっつく。サクラは黙々と2つの料理を消化していく。

 

「部長! これめっちゃ美味しいです!」

 

「でしょう? 見た目なんか大したことないのよ」

 

「そうですね! 美味いよな、木場!」

 

リアスに賛同したイッセーが裕斗に言葉を投げかける。ところが、裕斗から返事が返ってこなかった。

 

視線を向けたイッセーの顔が驚愕に包まれる。

 

「って、うわあぁぁぁぁぁ!! 木場が、石化してるぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

叫び声の通り、裕斗の体が完全に石と化していたのだ。コカトリスのスープを2人と同じように啜っていた彼は、たった一口だけで石化してしまったのだ。

 

「・・・さっきから一言もしゃべってないと思ったら、もう食べていたのか。御膳の挨拶もしないで、意地汚いヤツだな」

 

「いや、指摘するのはそこじゃないだろ!」

 

意図でやっているのかどうかは知らないが、スープを上品に啜っているサクラの的外れな言動にイッセーがツッコむ。

 

「あらあら。美味しいスープなんですけど、たまに石化現象が起こってしまうんですのよねぇ」

 

「仕方ないわ朱乃。美味しいものには危険がつきものよ。裕斗は身を持ってそれをイッセーに教えてくれたの。サクラ、あなたは大丈夫なの?」

 

「・・・全然。コカトリスなんか何体も殺してるからな。オレにはそんなものは利かない」

 

リアスの言葉に、サクラがあっさりと応じながらスープを平らげ、残ったサラダに手をつける。

 

「そう。イッセー、よく見ておきなさい。これが冥界の料理よ」

 

「はい! 俺、人間界の料理だけで、充分だと感じました! ・・・つーか、石化するんですかぁ!? さっき石化だけはしないって言ってたのにぃ!!」

 

イッセーはこうして料理の危険性を学習した後、石化をすることだけに対して抗議の声を上げる。

 

「まあ、たまにはね♪」

 

「可愛いウィンクで誤魔化さないでください!! まあ、それで済まされちゃうんですよね!?」

 

もう裏があったとしか思えないリアスの悪戯っぽい言葉に、イッセーがツッコミを入れる。

 

「毎日食べさせてもらえばいいじゃないか。石化の耐性が上がるかもしれないぜ?」

 

「こんな料理で毎日石化するなんて、命がいくつあっても足りねえよ!! お前、本当は俺のこと嫌いなんだろ!?」

 

サラダを食べ終えたサクラが悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。他人事のような発言に、イッセーがツッコミを入れる。

 

「・・・気を取り直して、アーシア先輩の教会裏メニューをどうぞ」

 

「さあ、アーシア。2人に料理を出してあげて」

 

「あっ、はい! よろしくお願いしますぅ・・・」

 

小猫とリリアンヌの言葉に、アーシアが心配そうな声を漏らしつつ、イッセーとサクラの前に料理の乗った皿が置かれる。

 

「見た目は赤く輝いていて、綺麗だな・・・」

 

「?・・・これは」

 

イッセーが見た目の感想を述べているのに対し、サクラは料理を見て怪訝そうな表情を浮かべている。

 

「! ありがとうございますぅ! 始めて作ったんですけど、何とか形になりました」

 

イッセーの感想を聞いて、アーシアが嬉しそうな表情を浮かべる。

 

(アーシアが作ってくれたんだ。俺に拒否する権利なんかあるはずがない!)

 

(何でコイツら、こんなものを作っているんだ?)

 

イッセーは食べる覚悟を決めているようだが、サクラはどこか疑問符を付けているばかりだった。

 

「行くぜ、アーシア!」

 

「はい! お願いします!」

 

「早速、一口・・・」

 

「おい、食べないほうが・・・」

 

サクラの制止も虚しく、イッセーはスプーンを手に取ると裏メニューの料理を口に入れる。

 

それをゴクンと飲み込んだ。次の瞬間・・・。

 

「ア、ガ・・・ガァッ」

 

イッセーは喉を抑えて苦しみだし、椅子から後ろに倒れてしまった。

 

「!? イッセーさん!? そ、そんな! しっかりしてください!!」

 

突然倒れたイッセーにアーシアが駆け寄り、体を揺さぶる。ところが、イッセーが起きる気配はない。

 

「・・・なあアーシア。このメニューの名前って何ていうんだっけ?」

 

「! は、はい、サクラさん! えーっと確か、『サタン・ララバイ』っていう料理だったかと・・・」

 

サクラに訪ねられたアーシアが慌ててリリアンヌのメモを見て答える。

 

「直訳すると『魔王の子守唄』ってことよね。つまり、魔王も眠るように死んでしまうって意味かしら」

 

リアスが言うと、そこに溜息を吐いたサクラがアーシアのほうを向いて告げる。

 

「・・・アーシア、これは料理じゃない。これは古典的な悪魔祓いが使う道具みたいなもので、人間から憑りついた悪魔を追い出すか祓うための食べ物なんだよ」

 

「サクラの言っていることが本当なら、魔王退治するためじゃなくても、普通の悪魔なら大変なことになるわね」

 

「そ、そんなぁ・・・・・・!」

 

サクラとリアスの言葉に、アーシアが絶望にも似た表情を浮かべるとそのまま腹を抱えて笑っているリリアンヌのほうに視線を向ける。

 

「リリーさん、知ってたんですか・・・?」

 

「ひーひー、まあね。まさかここまで威力を発揮するとは思わなかったんだけど・・・ぷふふふ!」

 

泣きそうな顔のアーシアとは対照的に、リリアンヌはさっきから腹を抱えて笑っていた。

 

本人はからかい半分のつもりだったのだが、サタン・ララバイが予想以上に効果を発揮して驚いていると同時に、恋敵の哀れな姿を見て笑いが止まらなかった。

 

「酷いです、リリーさん! 知ってたら私、作らなかったのにぃ!」

 

「何よアタシが悪いっていうの!? 大体、知らずにこのメニューのことを煽ったアンタが悪いんでしょ!? 人のせいにしないでよ!」

 

「そ、そんなぁぁぁ・・・!」

 

確かにメニューを紹介したのはアーシアだ。でも煽ったのは自分だというのにまるでアーシア1人が悪いというような言い方をするリリアンヌ。

 

このような態度にアーシアも普段からは考えられないくらいの抗議を見せ、同時にイッセーを心配する。

 

「あーあ、せっかく弁当を持ってきたっていうのに・・・これじゃ無駄になってしまったな」

 

サクラが倒れているイッセーのほうを見て、残念そうに言いながら弁当を取り出すとパカッと蓋を開ける。

 

「あら、サクラ。それは?」

 

「見れば分かるだろ。弁当だけど?」

 

リアスの疑問に、サクラがあっさりと応じる。

 

弁当の中身はおにぎりが10個ぐらい入っていて、更にハンバーグやエビフライ、そしてシーザーサラダが敷き詰められている。

 

「シキさんの手作りですか?」

 

「そう。この料理対決が始める前に裏方で作ってた。本当はコイツに冥界料理・教会料理と一緒に食べ比べてもらおうと思ったんだけど。この状態じゃ無理だな。部長、姫島先輩、捨てるのももったいないからたまには一緒に食べるか?」

 

サクラがそう言うとリアスも朱乃も微笑んで言った。

 

「ええ、頂くわ」

 

「サクラさんの料理も一度食べてみたかったですわ」

 

「・・・決まりだな。料理は愛情、だしな」

 

サクラも2人その言葉に微笑を浮かべた。

 

「イッセーさんしっかりしてください! イッセーさぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

「ああ・・・川の向こうに、死んだおじいちゃんの姿が・・・」

 

横では激しくイッセーの体を揺さりながら泣き叫ぶアーシアの姿が。しかし、揺さぶられている当の彼は焦点の合わない虚ろな瞳でうわごとのようにそう呟いていた。

 

そしてリリーは泣いているアーシアを見て、密かにスマホで組織の救護班に連絡を送った。

 

「・・・イッセー先輩、裕斗先輩、お疲れ様です」

 

小猫が2人の無残な姿に、手を合わせて合掌した。

 

「成仏してね・・・」

 

「・・・2人とも、死んでないからな」

 

リリアンヌも合掌しているが、どことなく黒い発言にサクラが淡々とツッコミを入れた。

 

こうしてイッセーと裕斗の体調は重症で、数日芳しくなかった。

 

リリアンヌはあまりにもふざけ過ぎたために、この後にサクラとエレンの長いお説教を食らうことになった。

 

後日、イッセーはこのような料理対決は第一回だけで終わらせて欲しいと願ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

リアス「次の料理は冥界のお菓子と教会のお菓子作りっていうのはどうかしら?」

 

 

サクラ「ほう。いいじゃないか。今度はオレも作っていいか?」

 

 

リアス「もちろんよ。あなたの弁当を頂いたけど、とても美味しかったもの」

 

 

リリー「アタシも作りたい! 人間界のお菓子でもいいですわよね?」

 

 

リアス「ええ。みんなで作るのもいいわね」

 

 

アーシア「あっ、そういえば。聖餅を使ったお菓子を聞いたような――――」

 

 

イッセー「もう勘弁してくださぁぁぁぁい!!」

 

 

もう人間界の料理以外には、こりごりのイッセーなのであった。

 




番外編は以上です!

次回から新たなる章へと移ります!
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