極悪な奴ら/THE EVIL HERO   作:早乙女

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今回から第二章スタートです!!



第2章 フェニックス・ブライド
第17話「朝の出来事」


 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

暗い森の中、1人の少女が走る。

 

髪先から、顎から、汗を流しながら。

 

着物姿で、ブーツを走らせながら。

 

顔に恐怖の表情を浮かべながら・・・。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

逃げなきゃ・・・逃げなきゃ・・・。

 

逃げなきゃ・・・逃げなきゃ・・・。

 

逃げなきゃ・・・殺される・・・。

 

少女はそんな思いを持ちながら、森の中を疾走する。

 

何度も躓きそうになったが、それでも体勢を立て直して走り続ける。

 

「ひっ!?」

 

森の広い所へと出たとき、少女は悲鳴を上げる。

 

彼女の視線に広がっていたのは、動かなくなった死体。体を貫かれた無残な死体。

 

自分の仲間が、友が、血だまりで凄惨な光景を作っていた。

 

少女はへたり込んでしまい、恐怖に体を震わせる。

 

「サクラ殿!!」

 

聞こえてくる女性の声。別の場所から現れた黒ポニーテールの少女が着物姿の少女に駆け寄る。

 

「早く逃げましょう! ここにいては危険です!」

 

「私が手を貸しますから、さあ早く!」

 

サクラと呼ばれた少女は手を伸ばす。すぐさま手を伸ばすと引っ張られて立ち上がり、一緒に走り出した。

 

しかし、彼女たちの脅威はすぐそばに立ち塞がっていた。

 

彼女たちの前を塞ぐ黒く大きな物体。それは異様で、悪寒と恐怖がした。

 

「サクラ殿、あなたはお逃げください」

 

「・・・えっ?」

 

そして立ち向かった彼女は動揺の隙を突かれ、複数の触手に巻きつかれてしまう。

 

ボロボロにされる彼女を、サクラは短剣を構えて助けに行こうとするが・・・。

 

「来てはダメです!」

 

その声に女性が穏やかな笑顔でサクラのほうを振り向く。

 

「私は・・・まだ、戦える・・・約束、守りますから・・・」

 

苦しげにそう言った彼女は腕を損傷させられ、投げ捨てられる。

 

サクラの眼前に、黒い触手は刃へと変形し彼女に迫る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体の肉に刺さる嫌な音が響く。しかし、それは彼女の体からではなかった。

 

それは自分を守ろうとした友人からだった。

 

腹に穴が空いたまま、そのままゆっくりと倒れ伏す友人。

 

「あ・・・ああ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

ドクン

 

 

 

 

 

 

ドクン

 

 

 

 

 

 

 

ドクン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迸る嘆きの絶叫。

 

それを機に彼女の体に紫色の亀裂が入り始める。

 

そして、体を黒いオーラが包み込み、異形の姿へと変化していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「!!? ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

跳び起きてしまうのではないかと思うほど、私の目が思いっきり見開かれる。

 

・・・・・・夢、か・・・。

 

怖い夢を見た・・・思い出したくもない夢を見た。

 

悪夢のせいで額にかなりの汗が浮かんでいる。拭っても拭いきれないほどだ。

 

首を動かして窓を見上げると欠けた月が見える。まだ夜中だ。

 

私は顔を曇らせる。何で今になってあんな夢を・・・?

 

しかも、あれは・・・あの夢は・・・昔の私の夢だ。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・っ・・・・・・・っ・・・。

 

私は嫌な出来事を思い出して首を横に振る。恐怖が甦り、シーツを握る手が強くなる。

 

やめよう。これ以上あの過去を振り返りたくない・・・。

 

そうなったら私は・・・壊れてしまうかもしれない・・・。

 

それに、何だか・・・胸が苦しい・・・・・・。

 

・・・ん? 苦しい・・・? 何で・・・?

 

苦しいとはいっても別に心が苦しいわけじゃない。私は心なんか捨て去ったからな。持病を持っているわけでもないし、熱や風邪を引いているヤツの隣にいたわけでもない。

 

じゃあ何で苦しく感じたんだ・・・?

 

私は怪訝に思い、首を起こしてみる。すると・・・・・・。

 

「むにゃむにゃ・・・この山みたいなババロア、おいひいね~・・・」

 

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・何で私の胸の上に大福が載っているんだ?

 

私の視線に映ったのはウサギのような細い耳を持って、額に赤い宝玉のようなものを付けている白い珍獣。しかも、ソイツは今私の胸に抱き着いてすりすりをしている。毛が肌にさわ

 

さわしてウザい・・・。

 

どうりで苦しく感じるわけだ。コイツ、また寝ぼけて私の部屋に来たんだな。

 

モココは寝言を呟きながら私の胸をチロチロと舐める。微妙にくすぐったい。

 

まさか、嫌な夢を見たのもコイツが原因なんじゃないだろうな? 人間は現実で苦しいと感じているときに寝ると悪夢を見るっていうし・・・。

 

私はそう思うと何だかイライラしてきた。

 

その白い大福を掴むと体を起こして立ち上がり、それを窓のほうへと放り投げた。

 

ガシャアァァァァァァァァァン!!

 

「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

モココは悲鳴を上げて、満点の星の夜空へと飛んで行った。

 

全くアイツは・・・。最近、夢遊病にでもなっているんじゃないのかホントに・・・。

 

今度からはアイツの寝床に専用の砂トイレやお椀の水を常備した方がいいかもしれないな。だって使い魔兼相棒のくせに、知らない人が傍から見ればペットにしか見えないし。

 

あーあ、窓がまた割れてしまったな。棘付き鉄球のような形をした割れた跡が残っている。

 

・・・まあ、どうでもいいか。家には優秀な使用人もいるわけだからな。

 

さて、まだ遅いし、もう一眠りするとするか・・・。

 

私はそう思い、ベッドの上に横になった。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・眠れんな。

 

もしかしてあの嫌な悪夢を見せられたことが気にかかっているのだろうか・・・。

 

私が悪夢如きに怯えるなんて、組織に所属している私自身の恥だな。

 

でも・・・・・・っ。

 

・・・仕方がない。まだ2時半だけど、鍛錬を始めるか。運動をすれば少しはスカッとして眠れるようになるかもしれない。

 

私は起き上がると部屋のクローゼットを開けて巾着のような大きな袋から、1着の服とズボンを取り出す。

 

体育の時間はいつもサボっていたから大して着てはいなかったけど、一応便宜上買っておいたジャージだ。

 

・・・本当は着物がいいけど、もう寝汗でぐっしょり濡れてしまっている。だったらこっちのほうが幾分マシだ。仕方がない。

 

私は帯を解いて、着物を脱ぎ捨てる。そして下のズボンから右脚左脚と履いていき、次に上着に体を通して首を出した後、最後にファスナーを閉める。

 

よし、準備OKだな。日課の鍛錬の1つ、ランニングへと出かけるか。

 

私は自分の部屋を飛び出した後、玄関の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中の住宅街を飛び出し、走り出す私。

 

夜空を見上げると星が綺麗だった。どうしてそう思ったかは分からないが、とにかく綺麗だった。

 

そんな空の下で私はランニングをしている。普段は眠ってばかりいるのとは違って清々しく感じる。

 

いい汗をかいているせいか、夜風が当たって気持ちよく感じる。

 

・・・ランニングも悪くない。まあ眠っていることに比べれば負けるけど。

 

そのまま近くの公園あたりまで走り込んでいると・・・。

 

「サーーークーーーラーーー!」

 

どこからか高めの声が響き、そしてその声の主は私のほうへと近づいてきた。

 

そして私の顔の横から白い物体が飛び出してきた。目線を横に向けるとそれは先程、私の安眠を妨害したモココだった。

 

「・・・何だ、ウサギもどきか」

 

「ウサギじゃなーい! もうサクラったら酷いよー! 窓から投げ飛ばすなんてー!」

 

・・・どうやらこのウサギもどきは怒っているようだが、私にとってはどうでもいい。

 

そもそも明るい声なので、本当に怒っているのかさえ分からない。

 

「・・・安眠妨害するお前が悪い」

 

「安眠妨害なんかしてないもん!」

 

「・・・お前がオレの胸に張り付いたせいで、変な夢を見た。これが安眠妨害じゃなくて何?」

 

「悪夢見たのはモココのせいじゃないもん! 例えそうだとしてもあんなことされる謂れはなーい!」

 

私の横を飛びながら、ぷりぷり怒るウサギもどき。いい加減うるさい声にイライラしてきた。

 

あーあ、せっかく清々しかったランニングがコイツのせいで台無しだ。

 

「はぷっ!?」

 

私は飛んでいるモココの脳天にチョップをした。床に叩きつけられて大福のようにペシャンコになった。

 

「・・・耳元で騒ぐな、うるさい。あと顔の近くで飛び回られるのも本気でウザい」

 

私は足踏みしながらモココに告げると、再び走り出した。

 

人の顔の周りを飛び回るハエ虫か、お前は。

 

「あーん、ちょっと待ってー!」

 

するとモココのトコトコという足音が近づいてきた。復活早いな・・・。

 

「とう!」

 

モココが掛け声と共に、走っている私の背中にくっついてきた。おい、重いんだが・・・。

 

その直後にジャージが引っ張られているような感じがするが、どうやらジャージを掴みながら私の背中をよじ登ってきているようだ。

 

そして体が軽くなったと思ったら、今度は頭の上に重みを感じた。どうやら飛んで私の天辺に到達したようだ。

 

「頭に乗るな、鬱陶しい」

 

「サクラ、さっきから冷たくない? モココのことを投げ飛ばしたりいきなり地面に叩きつけたりさぁ~」

 

「いつも通りだ。お前にオレの何が分かる?」

 

「性癖~♪」

 

「・・・・・・・・・」

 

・・・もう何も話すまい。っていうかコイツとは雑談なんかしたくない。

 

さっきから私の気持ちを逆撫でするようなことばかり言っている。ああ、イライラする・・・。

 

「あれ? 何で無言になっちゃったの? ねぇ、サクラってば~。もっと会話しようよ~」

 

「うるさい、騒ぐな。黙ってろ」

 

「そんなことは言っても、モココのお口はどんどん動いちゃうよ♪」

 

「もう、お前は鼻歌でも歌ってろ」

 

「うん、わかった~」

 

そう言ってホントに鼻歌を歌ってやがる。しかも何を歌ってんだが・・・。

 

まあ、うるさく騒がれるよりはいいけどな。

 

モココを頭の上に乗せながら、私は夜の街を走ることにした。

 

それにしてもこの街、住宅が多いな。ある意味、寂しいというか・・・。

 

そう思っているうちに繁華街の中へと突入していた。まだ、夜中なのでどの店も閉まっている。

 

そう言えばここでアイツとハンバーガーショップでハンバーガーを食べたり、近くのゲームセンターで遊んだりしたな。

 

あの時はアーシアもいたからいろいろと面白かったし・・・。

 

「ズンズンズンズン、ズンチャチャ! ズンチャチャ! ヘイ!」

 

・・・私の頭の上の大福め。鼻歌を歌ってろと言ったはずだよな。

 

モココの口ずさみにイライラしていると繁華街を抜けて、再び住宅街へと来ていた。

 

ここまで走っていれば、人に出会えるとでも思ったのだが、誰にも会っていない。警官1人さえも。

 

まあ別にいいか。人がいたって鬱陶しいだけだ。

 

「あぁ・・・もう飲めなグフォッ!?」

 

・・・ん? 誰か踏んだような・・・。

 

「サクラ、今何か声しなかった~?」

 

モココにも指摘されているということは誰かを踏んだということになるな。

 

でも何だろう。さっきまでイライラしていたのに、すっきり無くなってしまった。

 

「社会のゴミの声だろ」

 

「でも何か気になるよ~」

 

「気にするな。お前は鼻歌を歌っていればいいんだ」

 

「うん。そうしとく~」

 

モココはそう言うと鼻歌を歌っている。これは、エレンが好きな曲だよな。

 

そう言えばコイツ、最近はエレンの演奏を聞いたりしていると聞いている。それで覚えたのだろう。

 

・・・クラシックは私も嫌いではないな。ただ曲がどんなものかは理解できないけど。

 

そうして私の視界に街路樹に囲まれたベンチが見えてきた。その近くまで走っていく。

 

今何時だ? スマホの時計は・・・3時か。まだそんなに走っていないのか。

 

だったらまだ休憩はしなくていいな。このまま走り込んでいこう。

 

「サクラ、休憩しないの~?」

 

「まだそんなに走ってない」

 

「モココはもう大分走ってると思うけどな~」

 

「お前には関係ないだろ」

 

「相棒として関係ある~」

 

「・・・・・・・・・」

 

私は頭の上のウサギの言うことは無視して走ることにした。

 

「サクラ~無視は酷いとモココは思いま~す」

 

「うるさい」

 

「別にうるさくないも~ん。サクラが神経質なだけだも~ん!」

 

「・・・・・・・・・」

 

・・・本気でイライラするな、この大福は・・・!

 

私は頭の上の大福を手で掴むとそのまま池のほうに投げ飛ばした。

 

「うるさいんだよ! この大福!!」

 

「うわぁぁ~!」

 

叫びにすらなっていない悲鳴を上げて飛んでいく大福。そのまま風の速さで飛んでいき・・・。

 

「ガハアァァァァァ!?」

 

何故か古着を着てベンチで眠っている中年の腹部にぶつかった。多分、酔っ払いだろうな。

 

風速でぶつけられた中年が体勢を保てるはずもなく、背後の池に真っ逆さまに落ちた。

 

「あっ・・・」

 

あれは不味いな・・・。池に落ちて酔いも覚めただろう。いろいろと面倒なことに。

 

「わあぁぁぁ~!」

 

中年にぶつかった弾みでこちらに狙いすましたかのように返ってきたモココをうまくキャッチする。

 

「痛いぃ~。酷いよサクラ~」

 

痛みに呻いているモココ。お前の容体なんか知ったことか。そもそもお前は体が柔らかいんだから痛みなんか感じないだろうに。

 

おっと、こんなことをしている場合じゃなかったな。中年のほうを見てみればすでに池から上がっている様子だ。

 

私は中年の様子を伺いながらゆっくりと後ずさりしていく。

 

「サクラ、子供みたいだよ・・・」

 

「・・・うるさい、黙れ」

 

モココのツッコミを受け流して、私はそそくさとその場を離れていった。

 

ついカッとなってやったが、反省はしていない。

 

もう今日はこの街路樹のベンチ付近は走れないな。ルートを変えるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家をスタートにして、10周ぐらい走ってくると私は家に戻ってくる。

 

時刻は・・・スマホを見ると4時半か。気が付けば2時間も走っていたんだな。

 

クゥーン。

 

庭へと入ると家の番犬が私のほうへと歩み寄ってくる。

 

「よしよし」

 

私はその犬の頭を撫でてやる。こうしてみると可愛いんだけどな。

 

この犬は確か、ロシアンハウンドといって元々狩りのために使われた犬の一種だ。ノウサギやキツネなどを狩るために使われた犬である。

 

私は一旦、家へと入って台所でドッグフードの入った袋を持ち出す。

 

「ほらエサだぞ」

 

私は番犬専用のお皿にドッグフードを大量に入れて番犬に差し出す。番犬は腹が減っているのか獣のようにがっついた。

 

・・・それにしてもドッグフードって美味しいのか?

 

私は試しに皿に載せるついでにかっぱらったドッグフード1粒を口の中に入れてみる。

 

「っ・・・!」

 

思わず眉を顰める私。・・・苦い。

 

一体何でできてるんだ、この食べ物は?

 

「サクラ何やってるの? ドッグフードなんか食べて」

 

「・・・なんでもない」

 

動物はどうしてこんな固形食物が好きなのか、理解できないな。

 

「ねぇサクラ、イエヤスったら酷いんだよ~。ただ上空を飛んでただけなのに噛みつこうとしてきたんだから~」

 

イエヤス・・・そう言えばこの犬はそんな名前だったな。他にも実家にはノブナガだの、ヒデヨシなんて名前の犬もいたっけな。

 

「そんなことするわけないだろ。お前はこの家の獣だってことはコイツもわかってるんだからな」

 

「嘘だよぉ~! 絶対噛みつこうとしたもん!!」

 

モココが先程よりも大きな声で抗議の声を喚いた。

 

ワンワン!!

 

「ひぃ~!?」

 

イエヤスがモココに向かって吠え、それにビビって私の頭の後ろに隠れてきた。

 

っていうか、しがみつかれると頭が重いんだが・・・。

 

「ほら見てよ~。何もしてないのにすぐこうやって吠えるんだから!」

 

モココがプルプル震えながら私に訴えかけてくる。頭に振動が伝わってくる・・・。

 

「お前がキャンキャンうるさいからだろ」

 

ドッグフードを食べるイエヤスの体を触りながら言う。

 

「静かに飛んでるよぉ! なのに吠えてくるんだよ~!」

 

「ならお前とその耳障りな声が鬱陶しいんだよ」

 

「酷い~! 理不尽~! そこまで言う~!?」

 

嘆くモココ。声だけを聴いても嘆いているとはとても言えない代物だ。

 

まあ、どうでもいいけどな。っていうかコイツは意外と立ち直りも早かったりするし、気にするようなことでもない。

 

さて、学校までどうしていようかな・・・。っと思ったけど、今日は日曜日だった。学校は休日の日。

 

本当にどうしていようかな・・・?

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・よし、寝るか。

 

そう決心した私は踵を返して家の玄関へと歩む。

 

「うわぁ~ん! だから噛みつかないでってばぁ~!」

 

ワンワン!!

 

イエヤスの元気な吠える声とモコナの悲鳴が聞こえてくる。

 

「モココ、オレはこれから二度寝するんだ。ギャアギャア騒ぐなよ」

 

「そんなぁ~! っていうか、助けてよぉ~!」

 

そんなことを言っているが、私にはイエヤスとモココが鬼ごっこをして遊んでいるようにしか見えない。

 

「よかったじゃないか。イエヤスもお前と遊んでもらえて嬉しそうに駆け回ってるぞ」

 

「違う! 絶対違うよぉ~! うわぁ~!」

 

仲がいいことはいいことだ。私は思わず、口元に笑みを浮かべてしまう。

 

1匹1モココの邪魔をしちゃ悪いし、家の中に引っ込んで寝ていよう。

 

「おやすみ。仲良くな」

 

「うわぁ~ん! サクラの裏切り者~! 薄情者~! 人でなし~!」

 

モココのうるさい罵声を後ろで聞きながら、私はそのまま1匹1モココを放置して家の中へと入ろうとしたが、そこにひらひらと一枚の羽が落ちてきた。

 

・・・・・・・・・?

 

その羽は黒かったが、これは普通のカラスの羽ではない。臭いからしてカラスではあるが、カラスではない何かだ。

 

そういえば、さっきから誰かに見られているような・・・。

 

・・・・・・いや、気のせいかもしれない。走り過ぎて疲れているんだろう。

 

私はその羽を燃やした後、改めて家の中へと入った。

 

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